ステータス画面

風の通過点

<オープニング>

●風の通過点
 廻り続ける数多の歯車、不思議な光を明滅させる鋼の機械。鈍く艶めく石造りの空間のあちこちに息づく過去の叡智の先に、巨大な壁の上から澄んだ水が大量に流れ落ちて来る場所があった。
 大きな滝を思わせる水流の壁の側面にはこれまた大きな歯車が幾つも据えられていて、それぞれ噛み合いながらゆるゆると廻る。歯車たちの役目は動く階段だ。巨大な歯の部分にこの遺跡――『世界の瞳』の主を乗せて、流れ落ちる水流の上にある通路へと主を運ぶのが彼らの役目。
 だが――何故かこの時、巨大歯車たちは思いきり逆回転していた。それはもうぎゅんぎゅんと。
「きゃー!」
「きゃはは! 何これ何これ面白いー!!」
 冷たい水飛沫散る中、勢いよく逆回転する巨大歯車たちの上を大はしゃぎで跳び回っているのは、ほわほわピンクのうさぎ耳にうさぎの手足を持ったラビシャンたち。
 歯車が接する壁からはかごがこがこんと壁の一部がランダムに飛び出し侵入者を排除しようとするけれど、身のこなしの軽い彼女らにはそれすらも楽しい遊び相手だ。
 飛び出してくる仕掛けをもひょいひょいと駆けあがり、それなりに体力もあるのか、叩き落とされても好奇心いっぱいに瞳を輝かせ、思いきり逆回転する巨大歯車たちを駆けのぼる。そうして流れ落ちる水流の上へと至れば、そこにあるのはまるで広間のように大きな空間を持つ通路。
 左右の壁の上からは弧を描く水流が幾つも流れ落ち、通路の床一面が流れる水。
 水面には飛び石を繋げた路があるけれど、これもまた何故か、素早く駆け抜けなければ水の中に沈んでしまうという厄介な路になっていた。おまけに両側の壁からは人間の頭ほどありそうな歯車が手裏剣のごとく飛んでくる。これも侵入者を撃退する仕掛けのようだが――ここでもやはりラビシャンたちは、浮き沈みを繰り返す飛び石や手裏剣歯車相手に大はしゃぎ。
「きゃー! もっと! もっと遊ぼう!!」
「面白いね楽しいね! 私たちだけの遊び場にしようね!」
「さんせーい!!」
 飛び交う歯車さえも蹴りつけ楽しげに跳び回るラビシャンたちの数は実に数十。
 彼女らの遊び場と化した広大な通路の奥には祭壇めいた石の段が設えられており、その段の奥にある石壁には何やら複雑そうな機械装置が埋め込まれている。ラビシャンのものらしき大きな爪跡が刻まれたそれは、ばちばちと放電し、怪しげな赤い光を明滅させていた。
 
●さきぶれ
 大きな戦いを終えたあと、彼女の胸に残ったのは――曰く言いがたいもやもやとしたものだった。
 水に張った油膜がゆらゆら不思議な光彩を放つのにも似たそれから、個人的な想いや感傷めいたものを取り除いてみれば、根っこのところに残ったものは『まだ走り足りない』という気持ち。
 戦いを越えて辿りついた処は到達点ではなく、通過点。
 まだ進むべき路がある。この先にも路は繋がっている。
 そして――走り出すことなら、今すぐにだって出来るから。
「ね、もしまだ走り足りないって思うひとがいたら、どうかアンジュに力を貸して」
 同胞たちにそう願った扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)の向かう先は、古代遺跡『世界の瞳』。
 その一角に悪戯なラビシャンが住み着き、彼女らに傷をつけられ異常をきたした遺跡の制御装置が暴走しているのだとアンジュは語る。
 滝のような水流の傍の巨大歯車を駆けのぼり、沈む飛び石の通路を駆けぬけて。
「アンジュと一緒に――暴走してる制御装置を壊しに行こう?」
 
 正常な状態であれば動く階段のように上まで送ってくれる巨大歯車たち。それらは今や思いっきりぎゅんぎゅん逆回転し、侵入者排除のための仕掛けたる飛び出す壁も、世界の瞳の正当な主であるエンドブレイカーを判別できず誰彼構わず襲いかかってくる。
 巨大歯車を駆けのぼった先には床一面に水の流れる通路。主のための路である水面の飛び石も素早く駆け抜けなければ後ろからどんどん沈んでいく。そして侵入者を撃退するため飛んでくる手裏剣みたいな歯車も、やはり敵味方を識別できない状態となっている。
 それなりに鍛錬を積んだ者なら仕掛けをかわしつつ駆け抜けるのもそう難しくないのだが――。
「問題はね、巨大歯車を駆けのぼったり飛び石の通路を駆け抜けてる間にもね、ラビシャンたちがこっちに襲いかかってくるってとこなんだよ」
 遺跡に住み着いたラビシャンたちは好戦的で、その一角を独占したがっている。此方の姿を見れば問答無用で襲いかかってくるだろう。
 獣の力を宿す爪を揮い、スカイランナーのように身のこなしの軽い彼女らの数は三十にのぼる。
「あちこちに散らばってるからね、全員がいっぺんに襲いかかってくるってことはないと思うんだけど、ちぎっては投げちぎっては投げみたいな感じになると思うんだよ」
 いちいち倒していてはきりがないし、マスカレイドではないから必ずしも殺さねばならないわけでもない。そして足をとめるわけにはいかないから――襲ってくるラビシャンたちにはがつんと思いっきりお返ししつつ、遺跡の奥にある制御装置まで駆け抜けるのがベストだろう。
 此方の力を見せつけ、遺跡に悪戯すれば人間に痛い目に遭わされると解らせれば、ラビシャンらもこの遺跡に住むことを諦めるはずだ。
「ん〜、巨大歯車の下とか飛び石の通路の隅とかから援護射撃してもらえれば楽になるかもだから、手の空いてるひと見つけたら声かけてみるね」
 そうして辿りついた遺跡の奥、祭壇のようになった石段の奥にある狂った制御装置を叩き壊すのが自分たちの役割だ。
 
 世界の瞳には自動修復機能が備わっている。が、この制御装置のような稼動不良を起こしている場合にはそれが上手く作用しないことがあるらしい。一度破壊して完全に稼動を停止させることで、自動修復機能が正常に作用する状態になるというわけだ。
「暴走してるまま放っておくと大きな事故の原因にもなりかねないし、ラビシャンたちがもっと酷い悪戯するかもしれないからね、も、すぐにでも対処に行ったほうがいいんだよ」
 往くべき先へと進むため、思いきり駆けて駆けて駆け抜けて。
「そうしたら――あのね、また逢おうね」

 駆け抜けた通過点の先で、また。


マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
こんにちは、藍鳶カナンです。
まだ走り足りない、と感じている方に是非。
思いきり走って戦って楽しんで頂ければ幸いです。

◆当シナリオについて。
 制御装置にたどりつくまでは走りながらの戦いになるため、メイン参加者様は近接攻撃アビリティ推奨です。近接攻撃アビリティを使用しないメイン参加者様はとてもとても活躍しにくくなります。

 逆回転する巨大歯車を根性で駆け登ったり、飛び出してくる仕掛けや手裏剣みたいな歯車を「ぎゃー!?」とか叫びつつかわしたり、「落ちてたまるかー!」とか叫びつつ沈む飛び石を駆け抜けたりするようなプレイング・パフォーマンスがあると幸せになれる気がします。

※援護射撃はサポート参加者様にお任せください。

◆成功条件
・制御装置の破壊。
・ラビシャン達の排除。

※ラビシャンを殲滅する必要はありません。此方の力を見せつけ、「今度また遺跡で悪戯するならもっと痛い目にあわせるからな!」的な脅しをかけて追い払うだけでも大丈夫です。

◆リプレイ
 滝のように流れ落ちる水流の横、逆回転する巨大歯車を駆けのぼる場面からリプレイスタートの予定です。それより前の場面は描写されません。
 ラビシャンと戦い、侵入者撃退の飛び出す壁や手裏剣歯車をかわしながら、巨大歯車を駆けのぼり水面の飛び石を駆け抜けて、最奥にある制御装置を破壊するまでがリプレイのメインです。その後についてはほとんど描写する余裕はないと思われます。予め御了承ください。

◆敵
・ラビシャン×30
 マスカレイドではありません。
 すべての個体が『百獣爪』『空中殺法』を使います。
 好戦的でそれなりに体力もあるため、此方も全力でぶつかる必要があります。

◆サポート参加の方の推奨行動
 巨大歯車の下や飛び石の通路の隅から、遠距離アビリティでの援護射撃や回復などで支援して頂ければ幸いです。
(飛び石の通路の隅には浮き沈みしない足場がありますが、この足場から奥へ向かうことはできません))
 描写の有無はプレイング次第となります。

◆NPCアンジュ
 同行します。
 行動指示がありましたらプレイングで、アビ指定のみであれば相談テーブルでお声をかけて下さい。
 指示がなくともアンジュなりに頑張ります。
 特に指定がなければ、飛翔演舞・ディノスピリット・アスペンウインドで臨みます。

それでは、皆様の御参加をお待ちしております。
参加者
緋の暴君・ユリウス(c00471)
浚風・アオ(c01058)
ゆずスピ・カナタ(c01429)
ただ彼のための銀の剣・ヴァルイドゥヴァ(c01891)
ラピュセル・アルトリア(c02393)
漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)
花の詩・シャルロット(c06521)
天嶺戀花・マグノリア(c09731)
花咲風音・シャルロッテ(c13732)

NPC:扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●滝の通過点
 古の叡智が息づく遺跡、世界の瞳の奥へ向かった彼らの前に現れたのは、断崖絶壁の如く聳える巨大な壁の上から流れ落ちてくる大瀑布だ。
「鯉は滝を昇れば竜になると言うが……この水流を昇りきると何かになれるだろうか?」
「ええ、きっと飛びきりの風になれるわ!」
 目指す制御装置はこの滝の上から更に続く広大な通路の奥。漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)が瀑布を振り仰げば、花咲風音・シャルロッテ(c13732)が楽しげに声を弾ませた。
 滝上へ向かうために攻略すべきは瀑布の脇に据えつけられた大きな大きな巨大歯車群。盛大に逆回転中のそれに駆け寄って、ラピュセル・アルトリア(c02393)は迷わず大剣を突っ込んだ。
「皆さん、私が歯車を止めているうちに――って、ああっ!?」
「アルトリアちゃん!」
 が、力自慢の彼女もちょっとした家ほどもある巨大歯車複数が相手では分が悪い。ギュギギギ、と軋む不吉な音にゆずスピ・カナタ(c01429)が声をあげ、巨大歯車にへし折られる寸前でアルトリアが大剣を引き抜けば、再びぎゅいんと廻り出した勢いで連なる歯車のひとつが吹っ飛んだ。
「あー! 人間だ!!」
「ここは私達の遊び場なの! 人間は出てけー!!」
 巨大歯車が転がり落ちてくると同時、上方で遊んでいたラビシャンたちもが此方へ向かってくる。
「それでこそ遺跡の冒険ってもんさね!」
 この手の展開を期待していた緋の暴君・ユリウス(c00471)が嬉々として頭に被るのはフェドラ帽、腰には何時の間にか鞭まで装着されている。
「ユリウス殿、その出で立ちは――」
「伝統のお約束さね!」
 重い轟音を響かせバウンドし、唸りをあげてぶっ飛んできた巨大歯車を屈んで回避。続いて襲いかかってきたラビシャンをフルメタルナックルで殴り飛ばし、ユリウスは眼前でぎゅんぎゅん逆回転する馬鹿でかい歯車を駆け登る。
 伝説とか聖戦とかいう考古学者の冒険活劇が始まるのだろうか的な錯覚を覚えたリューウェンは、ならば派手に演出すべきかと小さく笑い、廻る歯車を背にして両手を身体の前で組み合わせた。
「アンジュ殿!」
「きゃーやりたいやりたい! アンジュ行きまーす!!」
 意図を察した扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)が思いきり助走をつけてくる。床を蹴った彼女の足が己の拳にかかった瞬間、リューウェンは組んだ両手を勢いよく振りあげた。彼の力に乗り、高々と宙に舞った娘が巨大歯車をひとつ飛び越える。
「わあ……! シャルも負けないんだよう。おいで、リンセル!!」
 歓声をあげた花の詩・シャルロット(c06521)の胸には淡く光り輝く妖精が飛び込んだ。透きとおる翅を背に顕した少女の視線の先には巨大歯車から飛びかかってくるラビシャンの姿、シャルロットは妖精の翅で飛翔するように歯車を駆け登り、銀の魔鍵で敵を斬り伏せる。
 流れ落ちる瀑布の水飛沫を浴び、吹き上げてくる風に押し上げられる心地で巨大な歯車を登って、飛び出してくる壁の間合いを読みつつ駆け抜ければ、連なる巨大歯車の先にぽっかり空いた谷間が見えてきた。先程歯車が吹っ飛んだ場所だ。
 落ちればただでは済まない歯車の谷、その先には好戦的なラビシャン達。けれどそれらを瞳にした浚風・アオ(c01058)は挑むように笑ってみせる。
「なぁアンジュ、何時だったかディノでどーんと狩りしたいっつってたよな!」
「言ったー! 行こうよ、一緒に!!」
 応えた娘は既に金色の恐竜の上、アオも輝く恐竜の背に身を躍らせれば、猛然と加速した恐竜が一気に谷を跳び越えた。
 恐竜達が対岸の敵を蹴散らす様に瞳を細め、ただ彼のための銀の剣・ヴァルイドゥヴァ(c01891)も歯車の谷を跳ぶ。――が、不意に飛び出してきた壁が着地寸前の足を払った。
「しまった!」
「掴まれ、ヴァルイドゥヴァ!」
 反射的に歯車を蹴ったアオが飛び出た壁に乗り手を伸ばせば、落下しながら少女が伸ばした棘の腕がその手に届く。不安定な体勢のふたりにラビシャンが目をつけたが、跳躍したその瞬間、連なる巨大歯車の遥か下から猛吹雪が叩きつけられた。
 蒼銀の刃で雪嵐を喚んでくれた淡金の髪の剣士に手を振って、ヴァルイドゥヴァが対岸へと渡る。
 襲いかかってくるラビシャンたちから主を護る盾になりながら、カナタを乗せた星霊ノソリンも敵へと突撃した勢いのまま歯車の谷を跳んだ。けれど。
「やっぱり!?」
『なぁ〜ん!』
 飛び出す壁に激突されたノソリンが落下し、ぽふんと掻き消える。
「ま、待って、置いてかないで〜!」
「大丈夫、ちゃんと待ってるよう!」
 壁にしがみついて難を逃れたカナタに、瑠璃の花鈴鳴らすシャルロットの魔鍵が差し伸べられた。
 行こう、みんなで。風になって翔け抜ける、その先へ。
「こうなったら実力行使よ!!」
「降りかかる火の粉は払わせてもらうのじゃ!」
 退いてちょうだいと訴えてもまったく聞く耳持たないラビシャンたちを春空の瞳で見据え、扇を翻したシャルロッテが吹き上げる神風に乗って駆け上がる。突然飛び出してきた壁を綺麗な側転でかわし、追い風とともに歯車を蹴った天嶺戀花・マグノリア(c09731)の手許で白鳥の琴が妖精を宿らせ唄う。妖精の音色を乗せた少女の脚が風を切り、真っ向から飛びかかってきた敵を叩き落とした。
「こいつらは抑えとくぜ!」
「行ってらっしゃいませ!」
 落下したラビシャンが跳ね起きた瞬間、桃色の髪の少年が高圧の重力を帯びた槌を叩きつける。翔け上がる皆の背に瞳を細め、空追う娘は鮮やかに吹き上げる風で生命の息吹を贈った。
 幾つもの歯車を登り、飛び出す壁をも跳び越えて、息を弾ませながら先を目指す。
 狼の如く飛びかかってきたラビシャンの爪を防いだのは希望の銘を抱くアルトリアの刃、大剣を突き上げるように突撃し、少女は滝の頂へと至った。眼前に広がるのは大きな通路。
「皆さん、走りましょう! 思いきり!」
 遺跡をあるべき姿に戻し――世界のどこかのひとの、夢と希望を守るために。

●水の通過点
 巨大な広間を思わせる大きな通路は遥か奥へと続き、両側の壁から弧を描いて幾つも流れ落ちる大量の水が床を満たす。飛び交う手裏剣歯車と問答無用で襲いかかってくるラビシャン達の中、浮き沈みを繰り返す飛び石の路を駆け抜ける。
「ここはあたいとアンジュのきゃっきゃうふふだいなまいつぶりを魅せつけるしかないさね!」
「ないよね!」
 殺到する敵を篭手に仕込まれた巨大な刃で薙ぎ払い、ユリウスが暁色の娘と手を取り合った途端、何処からともなくライフベリーがどかどか投げつけられた。勿論これは善意の回復支援だ。
 善意でぱらまかれた農園印のライフベリーをリューウェンもひとかじり。沈む路を水の上を滑るように駆け抜け、襲いかかってきたラビシャンに鮮烈な十字の剣閃を喰らわせる。
「リューウェンさん、右から!」
「承知した!」
 鋭いアルトリアの声が飛ぶと同時、風と水飛沫を裂いた漆黒の刃が飛来した手裏剣歯車を弾いた。歯車に続いて跳躍してきたラビシャンへはアルトリアの蒼き獅子が喰らいつく。
「貴方達では私達に敵いません! 怪我をしたくなかったら帰って下さい!!」
「や、やだもん!」
「まだ退く気がないなら……派手なの行くわよ!」
 騎士の一喝に僅かに怯みつつ、それでも再び飛びかかってきた敵を迎え撃ったのはシャルロッテ。颶風を纏った少女はアルメリア咲く魔鍵を閃かせ、華やかな虹を引く斬撃で水面にラビシャンを叩き落とした。瞬間、幾つもの歯車が飛んで来る。
「きゃー!?」
「そのまま走れ!」
 手近な敵を斬り伏せたヴァルイドゥヴァの両刃の大鎌から迸った衝撃波が手裏剣歯車を両断した。残る歯車は水面すれすれを低く跳ぶようにしてかわし、シャルロッテは扇で招いた風に乗って更なる先へと翔ける。
 遥か奥へと続く通路の先からは次々とラビシャンたちが現れ、敵意を剥きだしにして攻勢をかけて来た。けれど銀狼の鬣めいた髪を翻す戦士が爪牙の斧剣を揮い、大量に放った気の刃で何体もの敵を撃ち落とす。流れ落ちる水の奥で輝くのは紋章陣、名将の闘志と信念を表すそれが、駆ける者達へ力と癒しを注いだ。
「みんな、全力で走り抜けて!」
 激しい水の音に負けじと響き渡るのは鮮やかな赤が印象的な天誓騎士の声、心を鼓舞する激励に背を押される心地でカナタは足を緩めることなく殿を駆ける。追い縋ってくるラビシャンの爪に凝るは百獣の力、絵筆の杖でその力を奪い、カナタは迸る蜘蛛糸で敵を縛りあげた。
「今度悪戯したらもっとぐるぐる巻きにしちゃうからね!」
「そんなぁ!」
 繭に包まれ水に落ちたラビシャンが後方へ流されていく。
「シャルたちが回復しなくても大丈夫みたいだね!」
「ああ、それに――疾走は最大の防御なり、ってね!!」
 叶う限り癒し手を護れる配置を心がけてはいたが、それすら必要ないほどに同胞達の援護が厚い。戯れのように浮き沈みする飛び石に勢いよく飛び交う手裏剣歯車、遺跡の仕掛けをも楽しみながら、シャルロットは繰りだされたラビシャンの爪を掻い潜って駆け抜ける。
 派手に振り回した大鎌でラビシャンの爪を斬り払い、ヴァルイドゥヴァも迫る歯車を薙ぎ払う勢いで沈みゆく路を駆けた。足先でいきなり浮かび上がった飛び石に躓きかけたマグノリアはそのまま石を思いきり蹴って跳び、空中一回転で勢いを殺して奥の石に着地する。
「寧ろこの飛び石が一番の敵やもしれぬの……って、危ないアンジュ!」
「んきゃー!?」
 飛び石から跳んだ瞬間を狙われた暁色の娘がラビシャンの蹴りを喰らって宙に投げ出された。
 咄嗟に石を蹴ったユリウスが彼女を抱きかかえたが、今度は着地点めがけて歯車が飛んでくる。
「シャルにお任せなんだよ!」
 間一髪で滑り込んだのはシャルロット、ユリウスの頭を直撃するはずだった歯車は魔鍵に弾かれ、帽子を掠めて飛び去った。
「帽子がなければ危なかったさね」
「うん、帽子は世界を救うんだよう!」
 落ちたフェドラ帽をはっしと捕まえ、帽子大好きっこシャルロットは身を屈めたユリウスの頭に満面の笑みで帽子を乗せる。先程のラビシャンが飛びかかってきたが、うさぎ足が宙に舞った瞬間、通路の端から押し寄せた荒波がその全身を呑みこんだ。
「さあ今です!」
 星招く扇と羽織を翻して波を喚んだ男の声を背に、迷いなくリューウェンが速度をあげた。爆ぜる水飛沫の中を駆け、真横から迫り来る歯車を風切り音を頼りに見もせず叩き落とす。重なった金属音にちらりと視線を走らせれば、逆側でまったく同じように歯車を叩き落としたらしいアオの姿。
「楽しい――と感じるのは、不謹慎だろうか」
「いや、解る! それに皆だってアイツらだってすっげー楽しそうだぜ!」
 微かに口元を綻ばせた彼へ楽しげに口の端を擡げてみせ、アオは勢いのまま跳んだ。携えるのは雲嶺思わす波紋の太刀、遊び足りない子供みたいな顔をして行く手を塞ぐ敵へ突風よりも鋭い突きを喰らわせて、心のままに駆け抜ける。

●風の通過点
 遥か後方から飛び立った漆黒の鴉の群れがラビシャンたちを覆いつくす。幾重にもかさなる漆黒の翼の幕を突き抜ければ、広大な通路の最奥部が見えてきた。遺跡の仕掛けにもすっかり慣れ、敵の多くが此方に怖れをなして逃げ出し始めた今、最早足を緩める理由など何ひとつない。
「さあ、私達はどうあっても止まらんぞ! そこのけそこのけ疾風が通る!!」
「風の旅路を邪魔する者は、馬ならぬ拙に蹴られるのじゃ!」
 未だ根性を残したラビシャンたちが破れかぶれで向かって来るのを旋風成す弧の刃で弾き飛ばし、胸元を飾る猟犬のペンダントを風に躍らせたヴァルイドゥヴァが飛び石を駆ける。彼女の横合いから襲いかかった敵に鮮やかな一撃を喰らわせたのはマグノリア、妖精の力を乗せて奏でられる旋律に導かれ、花の衣を舞わせた少女の脚がラビシャンの横腹に痛打を叩き込んだ。
 飛び交う手裏剣歯車を蹴って跳躍した敵が遥か高みからマグノリアを狙うが、
「てりゃー!」
 小さな懲罰騎士が撃ちだした銀の捕縛具が空中のラビシャンを捕え、水面へと引きずり落とした。派手な水柱が飛沫を降らせる中、通路奥で怪しげな赤い光を明滅させる制御装置を目指して誰もが全力で駆け抜ける。
 いい風だ、と笑んだ長身の剣士が夜空色の戦装束を翻し、現れた分身達と衝撃波を迸らせた。
 水面を翔ける衝撃波が透きとおる水の波を立てていく。吹き渡る風と舞い散る水飛沫の爽快感に心が沸き立つのを止められない。ふと重なった互いの眼差しに同じ感覚を見、アオとシャルロッテは一斉に飛び石を蹴りつけた。水上を翔ける燕のごとく、海渡る春一番のごとく波間を翔け、衝撃波に打ち据えられたラビシャンたちに駄目押しの一撃を見舞う。
「これ以上ケガしたくなきゃ――ここから去れ!」
「まだ懲りないなら、もーっと痛くしちゃうから!」
「いやー! ごめんなさぁい!!」
 ほわほわうさぎ耳をぺたんと倒し、泣きべそかいたラビシャンたちが逃げだした。
 残るは制御装置に至る石段上の数体のみ。巨大な刃を顕したユリウスが自身の身体を軸に大きく刃を回転させて薙ぎ払う。手を繋いだままのアンジュもついでに振り回され、きゃーと歓声をあげつつ扇で招いた風に乗る。これがきゃっきゃうふふだいなまいつなんだね、と思いきり破顔して、カナタは力いっぱい飛び石から跳んだ。
「一緒に、連れてって!」
 風に軌跡を描く杖から迸った糸の煌きが大きく広がって、最後のラビシャンたちを絡めとった。
「さあみんな、減速不要、突撃だ!」
「うん、止めてあげなくちゃ!」
 狂える制御装置めがけてヴァルイドゥヴァが馳せる。頷いたシャルロットが魔鍵を振りかぶる。昂揚すべて力に変えたアオは、少女達の斬撃にかさね、白光渡る刃を制御装置へ突き入れた。
「ちょっと痛いけど、我慢して下さい!」
 爆ぜた火花にも怯まず、アルトリアが希望の刃を叩きつける。
 もやもやをぶつけちゃおうかのう、と晴れやかな笑顔でマグノリアが駆けた。旋風招く暁色の娘の追い風に背を押され、妖精宿る琴の音も翔ける。
 この都市を支える、多くの歯車が失われたけれど。
「だからこそ、あなたはしっかりしなさい!!」
 奔る音色に重ねて鮮烈な蹴りひとつ。――それで、狂える制御装置は完全に沈黙した。

 数瞬の静寂の後、周囲の壁や床が微かに振動し始めた。
「これはアレさよね、お約束の遺跡崩壊がきたってヤツさね!」
「いやユリウス殿、これは恐らく――」
 何故か嬉しげに声を弾ませたユリウスに、リューウェンが柔らかく微笑してみせる。
 広大な空間を見渡し、マグノリアが笑みを咲かせた。
「自動修復機能が働き始めたのじゃね……!」

 多少時間はかかるだろうが、世界の瞳の一部たるこの遺跡は必ずあるべき姿を取り戻す。
 そうしてひとつの通過点を越えて、風は更なる先へと進むのだ。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2012/04/10
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