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波間のアズール

<オープニング>

●海からの侵略者
 目映い陽射しの下、さざなみが揺れる。
 寄せては返す波の音と共に、弾ける水飛沫はきらきらと輝く。何処までも遠く続く蒼海を見渡せる砂浜には、人魚たちの楽しげな声が響いていた。戦神海峡の端に位置する小さな人魚村には、今日も穏やかな幸せが満ちているはずだった。その平和を壊す、海賊達が現れるまでは――。
「やだよ、離して……!」
 砂浜を踏み荒らし、突如現れた男達は集落を見る間に蹂躙した。村を囲まれ、戦う力を奪われた人魚は男達にされるがまま、次々と荒縄で縛り上げられていく。
 人魚達も抵抗しなかったわけではない。だが、この場所に住んでいたのは元より争いを好まぬ平和的な者達だ。力で劣る彼女達が棘と仮面を宿す海賊達に適うはずもなかった。
「心配するな、これ以上の傷は付けない。大事な商品だからよ」
「しかし、上玉ばかりだな。売り払う前に俺達で愉しむってのも悪くはねェな」
 男達から淀んだ欲望に満ちた眼差しが向けられ、人魚達の瞳に怯えの色が浮かぶ。
 誰か助けて、と乞うように呟いても誰にも届かないことは知っている。それでも、彼女達は蒼の波間に祈り続けることしかできなかった。

●波間の向こう
「みんな、大変だよ。海峡の人魚さん達が海賊に襲われる終焉が視得たの」
 桜苺の星霊術士・アミナ(cn0004)は視た光景を語り、仲間達に事の次第を告げる。 
 襲われる村は数人のピュアリィが暮らす集落であり、そこに住む人魚はかつての海の冒険で友好な関係を築いた者達だ。今からすぐに向かえば、捕縛された人魚が運ばれてしまう前に海賊達と対峙することができる。
「海賊の数は全部で八人。そのうち二人がマスカレイドで、残りの配下六人は普通の人間だよ。でもでも、みんなすごーく悪い人だから思いっきり倒しちゃってね!」
 マスカレイドは『黒獣のヴェサ』と名乗る褐色肌の青年と『斬斧のラウノ』という大斧を担いだ大男。
 その名の通り、ヴェサは獣のように素早く立ち回り、ラウノは力任せに得物を振るう。配下達は仮面憑き達に比べれば力も無いが、二人の指示を受けて此方を撹乱しようとするので注意が必要だ。
 だが、皆が力を合わせれば勝てない相手ではない。
 アミナは浮かんだ心配を振りきり、仲間達に信頼の籠った眼差しを向ける。
「人魚さんには以前の海の冒険でたくさんお世話になったもの。だから、絶対に助けなきゃ」
 海賊達が何を企んで動いているかはわからないが、マスカレイドが引き起こす悲劇を打ち砕くことこそがエンドブレイカーとしての使命だ。
「それとね、終焉で視えた海の色がとっても綺麗だったんだ。もし無事に終わったら人魚さんと一緒にゆっくり海を眺めて来たらどうかな?」
 きっと、果てしない蒼の光景が見られるはずだから。
 その為にも頑張って、と淡い微笑みを浮かべたアミナは仲間達を戦いへと送り出した。


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参加者
鳥狩の・ナクレ(c00406)
深闇のシエル・フェンネル(c00463)
星に願いを・ネフェルティティ(c01000)
彩凛・ローズベル(c01524)
ブランクリーチ・クロフ(c05769)
緑風を抱く・ヘイゼル(c05936)
颯翔・ジル(c07758)
蜜契・エミリア(c12784)
蒼穹の降石・ジルフラウ(c14422)
春告げの魔女・シェリー(c22845)

<リプレイ>

●青の浜辺
 波の音と目映い陽射し、光を反射する砂粒。
 遥かな海は凪ぎ、鴎の声が空に響く。そこだけを切り取れば、それは普段と変わらぬ穏やかな光景だ。しかし波間にたゆたう人魚村は今、海賊達の襲撃によって制圧されたばかりだった。
「心配するな、これ以上の傷は付けない。大事な商品だからよ」
「しかし、上玉ばかりだな。売り払う前に俺達で愉しむってのも悪くはねェな」
 ざわつく気配を感じた蜜契・エミリア(c12784)が聞いたのは、終焉で視得たと伝え聞いたままの海賊達の会話。気配を窺うと、首領が配下達に人魚を縛りあげさせている様子が見えた。
 ――早く、助けなきゃ。
 逸る気持ちと緊張を抑え、春告げの魔女・シェリー(c22845)は共に駆ける仲間達と視線を交わし合った。人魚達を物としか思っていないであろう男の姿には嫌悪すら覚える。緑風を抱く・ヘイゼル(c05936)も意を決し、三人の娘達は海賊達の目前へと姿を現した。
「先を越されてしまったわね。この人魚村は私たちが目を付けていたのに」
 婀娜めいた声でエミリアが告げた言葉に、海賊達が訝しげな眼差しを返す。さながら海賊の三姉妹のように、賊を装った彼女達は、高値を出す好事家の伝手もあるので一枚噛ませてくれないかと交渉を持ちかけた。
「ね、人魚を此方にも回してくれない?」
「あァ? 突然現れて何を言ってやがる」
 だが、ヘイゼルの言葉に海賊の首領・ヴェサは警戒を強める。そうして、演技を行う三人に海賊達が気を取られている最中、貝殻の家に身を隠す颯翔・ジル(c07758)達は人魚を救出する隙を窺っていた。
 人魚達は縛り上げられており、配下達の背後に纏められている。
 注意は今、すべてシェリー達の方に向いていた。気付かれぬようにと息を殺し、ジルは家伝いに背後へと回り込んでゆく。海賊たちの位置関係から判断できたのは、秘密裏に人魚を逃がすのは不可能だということ。それならば、最善のタイミングで奇襲を仕掛ける他ない。
(「ぜってえ助け出す……行こうぜ、皆」)
 ジルの視線に頷き、仲間達は更に距離を詰める。依然、三人と海賊達の会話は続いているが、敵は人魚達を渡す心算はないという反発を持っているようだ。その空気はまさに一触即発。細心の注意を払い、ブランクリーチ・クロフ(c05769)は機を逃さぬようにと身構える。
「お頭、コイツら妙に怪しくないっすか?」
「俺達も同じ意見だ。どうにも同業者には見えねェし、ヤっちまうか?」
 配下達ですら疑いを持ち始め、海賊はエミリア達を囲うように動きはじめる。だが、そのタイミングこそがクロフ達、人魚救出班の待っていた隙だ。
「今です、行きましょう!」
 鳥狩の・ナクレ(c00406)の掛け声と共に、縛られた人魚の元に参じたのは七人。
 不意を突かれた海賊達が振り返ったときには、邪魔な配下を突き飛ばしたナクレ達が人魚を護るように立ち塞がっていた。混乱する人魚を背に庇い、深闇のシエル・フェンネル(c00463)は優しく声をかける。
「大丈夫、安心して。俺達はキミ達の事を助けに来たんだ」
「もう心配しないで良いのですよ。必ず、解放してさしあげますから」
 そこに星に願いを・ネフェルティティ(c01000)も加わり、海賊達を凛と睨みつけた。
 同時にシェリー達が武器を構えた事で、男達も状況を察したのだろう。奇しくもエンドブレイカー達に囲まれる形になった現状に舌打ちをする。
「通りで嘘臭ぇワケだ。何様の心算かは知らないが、邪魔者はぶっ潰すまでよ」
「てめぇら、まずは人魚を奪い返せ。俺達は、このアマ共をやる!」
 ラウノとヴェサが掛けた号令によって配下達が戦闘態勢を取った。
 蒼穹の降石・ジルフラウ(c14422)は咄嗟に身構えると、向かい来る配下の一人の刃を大剣で受け止める。そして大空の色を宿す彼女の瞳は、敵を貫くかのように向けられた。
「あんたの相手はこっちよ!」
 そのまま、お返しとばかりに振るわれたジルフラウの獣爪撃が敵を穿つ。
 彩凛・ローズベル(c01524)も亦、人魚に向かおうとする男の動きを察して前に回り込んだ。退治する相手は無粋な上に下衆。彼等はどうあっても救えない相手だろう、と諦めにも似た思いを抱き、彼女は冷やかに告げる。
「邪魔者には即刻退場頂こう」
 ローズベルの双眸が細められた刹那、薙がれた鞭が撓る。
 その猛る熱に呼応するかの如く、凪いでいた海に激しい風が吹き荒れはじめた。

●人魚と海賊
 捕縛されたまま、身動きのできぬ人魚を護ること。
 縄を解く時間がない今は、何よりそのことが最重要事項だ。クロフは砂を蹴りあげ、襲い来る配下へと狙いを定めた。人魚達は傷付き、意識が朦朧としている者も多い。ピュアリィとは云えど、理不尽に女性を痛め付けるなど男のやることではないはずだ。
「思い知らせてやるから覚悟しやがれ」
 さながら空を駆ける鳥のように、跳躍を重ねたクロフの一撃が敵を一気に巻き込む。
 か弱い人魚達を力で抑え込もうなんて、本当に最低。ジルフラウは蔑みの交じる眼差しを男達に送り、刃で以て風縛の陣を描いた。暴風の如く迸る衝撃は配下達を見る間に襲い、その威力を広げる。
 ――護りたい。ううん、護らなきゃ。
 今度こそ、と掌を握ったナクレは、無数の罠を砂浜に仕掛けてゆく。始動しはじめた罠の勢いはまるで彼女の思いに応えるかのように連鎖していった。
 そこに続いたジルも亦、仰け反る男達を強く睨みつけた。
 背後の人魚がこれ以上の不安を覚えることがないようにと、ジルは敵へと果敢に立ち向かう。
「空翔け嘗めんなよ!」
 言葉通り、天高く跳びあがったジルの蹴撃は配下の一人を見事に打ち倒した。だが、襲い来る敵は未だ多数健在。構え直したナクレは気を引き締め、ジルフラウと共に新たな標的へと狙いを定めた。
 一方、首領格の相手取る娘達は苦戦していた。
「ほらよ、っと! 痛みに泣き叫びやがれ!」
「甘く見ないで欲しいわね。誰が、そんなこと……!」
 ラウノの振るった斧がエミリアに虚無の力を与え、その身を傾がせる。しかし彼女は足元を強く踏み締めると、菩提樹の花枝を思わせる騎士槍を振るい返す。浄化の螺旋は乱れ突きとなり、激しい反撃が見舞われた。
 それでも、男は未だ揺らがない。ネフェルティティは不安げにエミリア達の様子を見つめるのだが、配下達が遮る形となっているので補助が行えなかった。ならば、配下の男を倒すのが先か。
「おねがいします、ヒュプノスちゃん」
 ネフェルティティが呼ぶ星霊羊は眠りの跳躍を重ね、男達をまどろみに誘ってゆく。
 乱戦状態の今、ヴェサを抑え続けるシェリーの身にも魔の手が迫る。振り下ろされる鋭い獣の爪撃は彼女の羽織っていたマントを斬り裂き、その身体に衝撃を与えた。痛みに声が零れそうになるのを堪え、少女は掃撃を打ち放つ。
「っと、中々の一撃だな。しかしお前等、もしかして正義の味方でも気取ってんのか?」
 ヴェサも相当の衝撃を受けたようだが、嘲笑の言葉を投げ掛ける。
「だったら、何ですか? 正義は悪に負けないって、お婆ちゃんが言っていました!」
 敵の手強さを肌で感じ取りながらも、シェリーは棍を構え続けた。
 そこにヘイゼルの仕掛けた罠の領域が発動し、ヴェサの動きが僅かに縛られる。まるでそれは、海賊達に覚えた怒りを映し出すかのように、同時に配下達の動きも制限していった。
「本当はさっきまで我慢していたの。貴方達のあまりの下劣さに、ね……!」
 凛と言い放ったヘイゼルの猛攻には頼もしさが感じられる。
 ローズベルは弱った配下に狙いを付け、同じ罠の領域を広げた。罠ばかり仕掛けやがって、と叫ぶ男達の声は聞こえぬ振りをして、解き放った罠は更なる衝撃と痛みを相手に与える。
「ねぇ海賊さん。そんなことしてると、女の子にもてないよー?」
 そしてフェンネルは敵へと皮肉めいた言葉を投げ、妖精のエトワールを舞わせる。ひらりと飛ぶ妖精が魔法の粉を敵へと振り掛けたとき――配下達は深いまどろみの淵へと落ちていった。

●獣と斧
 これで配下は残り半分。
 しかし、未だ気を抜いてはいけない。己を律したナクレは掌の上に風を呼び、仲間を癒すべく腕を掲げた。素足のまま、踏み締めた砂と水の大地はあたたかくて優しい。
「風よ、風よ――!」
 だからこそ、呼び起こした海原に歌う風が悲劇で染まらぬように。ナクレの施した癒しはラウノの一撃によって吹き飛ばされたエミリアを支える。
 その間、配下も徐々に弱りはじめていた。その気配を感じたのか、ヴェサが怒号を飛ばす。
「お前等、何してんだ! 良いか、掻き乱して隙を突け!」
 その指示通り、配下達はクロフに狙いを定めて襲い来る。受け止めるために構えた爪が剣で弾かれ、暴走の力が彼を襲う。しかし、敵の行動も既に後手だ。
「残念だったな。今頃狙ったって遅いぜ」
 跳躍したクロフは軽々と身を翻し、縛りを振り払う。そして彼は続けて繰り出される男達の一撃を見事に捌くと、そのまま回し蹴りを打ち放った。短い悲鳴が上がり、配下の一人が均衡を崩して倒れる。そこに機を見出し、ジルフラウとジルは頷きを交わしあった。
「覚悟してね、逃がさないから」
「お前等は男の風上にも置けねえ。往くぜ!」
 ジルフラウの起こした暴風は敵を縛り、ジルはその勢いに身を乗せて更なる跳躍を重ねる。そうして暴風が収まったとき、全ての配下はその場に力なく伏していた。

 戦いは続き、海辺に激しい剣戟が響き渡る。
 仮面憑き達は舌打ちをし、見る間に自分達を完全に囲い込んだエンドブレイカーを睨みつけた。しかしネフェルティティも負けじと眼差しを向け返し、竪琴を爪弾く。
「大人しくしてもらうのです」
「何、だと……力が……」
 ラウノへと襲い掛かる毒の残響音はその身を縛り、驚異的な斧の力を大きく削いでゆく。
 囲まれ、逃げることも出来ぬ状況。流石にヴェサも拙いと感じているのか、その攻撃は此方の体力を奪い取る目的の獣撃へと変化している。
 しかしローズベルはそれこそが好機だと感じた。遣わせた銀狗が突き立てる牙は鋭く、標的の力を奪い返していく。願うのは、此の地にいつも通りの穏やかな日常を取り戻すこと。
「届く限りの最良を。駆けろ、フェルゼ」
 強い思いを裡に抱いたローズベルは銀狗の名を呼び、更なる一撃を命じた。
 奪い取った力が奪い返され、ヴェサの体が大きく揺らぐ。その機会を逃すまいと駆け、ヘイゼルは己の中に溜めた力を解放した。眩い光を映し出した白銀の剣は容赦なく、血を流す海賊の体を更なる血の色に染めあげる。
「……ッ、なんて一撃だ。この、てめェ!」
 よろめいたヴェサが叫びをあげるが、その力が後わずかだという事は明白だ。今よ、と呼び掛けたヘイゼルの声に応え、シェリーは得物を振るいあげた。
 これで最後――。
 その悪行を全てを終わらせるべく、少女が狙いを定めたのは男に宿る仮面だ。
 金の髪を揺らし、薙がれたシェリーの棍は一瞬で仮面を砕く。
 それからヴェサが起き上がることはもう無く、彼に本当の終わりが訪れたのだと皆が理解したとき、激昂の声が辺りに響き渡った。
「お前等、よくもヴェサ達を。許さねえ!」
「へぇ、卑劣な海賊にも仲間を思う気持ちなんてあったんだ?」
 戦場に独り残され、わなわなと震えるラウノは怒りに満ちていた。だが、フェンネルは意に介すことなく、敢えて冷やかな反応を返す。激しい戦いの末、既にラウノ自身もかなりの体力を失っていた。それゆえに、彼の最後も近いだろう。
 フェンネルは妖精を己の身に宿すと、海賊へと駆ける。滑空からの妖精突きは敵の身を傾がせ、残る力を一気に削り取った。そして彼は、これでさよならだね、と小さく呟いて双眸を緩める。
 そこに続くのは、それまでずっと男を相手取っていたエミリアだ。
「全て終えましょう。この戦いも、あなたの生も」
 終幕を告げる言の葉と共に、業焔を纏った斬撃が薙ぎ払われる。ひといきに穿たれた一撃はそのまま、斬斧の男の終焉を彩った。そうして砕け散った仮面が消えてゆく中、エミリアは人魚に優しい眼差しを向ける。
 ――もう大丈夫よ、と。
 彼女の湛えた微笑みに心底安堵を覚えたのか、人魚達もまた、淡い笑みを返した。

●蒼の海辺
 白い砂浜から臨む青い海。空とはまた違う色を映す水面が、海風に揺れる。
「人魚さん達、怪我はないか?」
「だいじょぶ、もう終わったからな」
 クロフは人魚達の縄を解いて手当てを施し、ジル達も捕えた海賊達を海の領主に引き渡す手筈を整える。そうして仲間達は無事だった人魚達と共に、広がる水面を見つめていた。
「……とても、素敵なところね」
 寄せて引く波音が戦いの熱と心を静めてくれるように思え、ジルフラウは思いを馳せる。
 シェリーも同様に美しい海と砂浜に見惚れ、この景色と人魚を守れた満足感に、暫し浸った。そうして、彼女達にこの海の底はどうなっているのかという疑問が浮かぶ。
 ジルフラウが傍に居る人魚達に問うと、彼女達は嬉しげに海の話を語ってくれた。興味深くも楽しげな話にフェンネルも耳を傾け、暫しの賑やかな時間が訪れる。
「どこを見ても一面の蒼だね、すごいーっ!」
 そんな中、素足で波間を掛けるナクレは海の輝きにも負けない笑みを浮かべていた。はしゃぐ少女の姿に、ネフェルティティもくすくすと微笑ましげな表情を湛え、お菓子を取り出す。
「えへへ、これはラッドシティのおみやげなのです」
「ラッドシティ? それってなーに?」
 渡されたお菓子に人魚も興味津々らしく、ネフェルティティは海で見つけた貝殻を手にし、人魚達と共に過ごす時を満喫していた。きっと、これが平和というものだろう。
 ――この穏かな時をずっと守りたい。
 久しぶりに見た海が変わらずに在ることを尊く感じ、ヘイゼルは風になびく髪を押さえる。
 胸に満ちた思いをそっと抱き、ジルも水面が湛える蒼を改めて見渡し、思いきり伸びをした。
「ああ、アクスヘイムの風だ」
 感じる心地好さと懐かしさは、他のどんなものにも代えられない大切なもの。
 故郷の海を愛おしげに眺めたエミリアは、果てない蒼の向こうに懐かしい面影を垣間見た。私はあの頃から随分変わってしまったけれど、貴方が最後にくれた力で、守れたものがある。
 囁いた声は波音に交じり、泡沫に融け消えた。
 人魚と仲間が紡ぐ明るい声を聴きながら、ローズベルは波音に心が凪いでゆくことを感じる。
(「……果ては何処にあるのだろう」)
 不意に浮かんだ疑問にはきっと答えはない。けれど、それでも良かった。もしかしたら最初から、遠く続く水面に果てなど存在しないのかもしれない。そんな想いを感じさせてくれる程に、戦神海峡に広がる蒼は美しく思えたのだから――。
 願わくば、この刻がいつまでも続くように。
 たゆたう海の色は何処までも、果てしない青を映していた。



マスター:犬彦 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2012/04/29
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  • カッコいい12 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
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