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浜の真砂は尽きるとも、罵声は尽きまじ

<オープニング>

 空は青く、砂浜は白く。春の暖かな風が通りすぎる、この心地よい海岸で――。
 耳をつんざく、罵声が響いていた。
「ちょっとぉーっ! もう少し、やさしく運びなさいよっ」
「お前、立場わかってるか? オレたちの獲物なんだぜ?」
「何よ、顔近づけないでくれる? あたしだらしない人嫌いなの」
 籠に押し込まれた1人の人魚。その前後に張り出した棒を担いだ海賊たち。
 海賊たちは人魚から飛ばされる罵声に辟易している様子だ。救いを求めるように、後方に目を向ける。
 そこにいたのは、オレは知らんといった風に口笛を吹く1人の海賊。
「……アニキーっ。コイツ黙らせましょうぜ」
「ヤダね。むさいお前らと黙りこくって歩くなんて、考えただけで背筋が寒くならぁ」
「……来たときはそうだったじゃないですかい」
「忘れた」
「アニキーっ!?」
 シッシッ、とつれなくあしらわれて、再び人魚に目線を向ける。
「お前も俺らに文句言ってないで、アニキに言えよ!」
「……だってあの人怖いもん」
「俺らは怖くないってか!?」
「うん」
「うがーっ!」
 ――この騒がしい一行こそが、略奪から凱旋する海賊たちだったのである。

「とある人魚の村が、海賊に襲われます。そして、それ自体を防ぐには時間が足りない」
 あまり余裕がないのだろう。夢追いの星霊術士・リチャード(cn0043)は、酒場に集まったエンドブレイカーたちに、いきなり核心から切り出した。
「村に被害も出ますが、幸い死傷者はないようです。ただ、人魚が1人、掠われます。その事態への対処を行わなければなりません」
 つまり、海岸沿いを凱旋する海賊たちを襲撃し、撃退。ならびに連れ去られた人魚を救出して欲しい。それが依頼の内容だった。
 海賊たちは、基本的に人魚を害する意志はない。せっかくの戦利品なのだから、当たり前といえば、当たり前の話である。ただし、人質等の交渉材料にする可能性はあるだろう。
 海岸沿いはなだらかな砂浜が続いており、内陸側は森になっている。海賊たちは砂浜から森に変わる境界当りを進む。さほど警戒している様子はなく、煩く騒いでいるので居場所もわかりやすい。
 海賊たちの配置は、人魚が押し込められた籠を中心として、囲うような位置にいる。海賊のリーダーだけがただひとり、その集団から十歩程度離れて、後ろを歩いているようだ。戦闘となればおそらく、リーダーはまず人魚を押さえるために動くと予想される。
 そこまで告げたリチャードは、エンドブレイカーたちを見回して言った。
「海賊たちの蛮行を防げないのは悔しいですが、取り戻せるものは取り戻さなくてはね。大変な仕事ですが、よろしくお願いしますよ」
 そして最後に、微笑みとともに付け加える。
「そうそう、囚われた人魚くんですが……、囚われの姫君というには少々お転婆なようですね。ただ心細い思いはしているでしょうから、元気づけてあげるといいかもしれませんね」


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参加者
旅人・オニキス(c00211)
キングオブハート・ゼロハート(c00225)
黒の継承者・アスワド(c01232)
閃光の双龍・ジローラモ(c02795)
ついぞ想わぬ・アズハル(c06150)
悠久の羅針盤・シエリ(c11842)
豪腕姐御・イエラ(c17156)
蒼月の異薔薇・レンナ(c17483)
猫好きの巫覡・アイリス(c21895)
おちこぼれ巫女・ユキナ(c28019)

<リプレイ>

●待ち人来たりて
「……んもう、あなたたち、モテないでしょ!」
「オレ様傷ついた! アニキ、殴っていいっすよね!」
「お前が黙れ」
 潮風が運んできた喧噪に耳を傾ければ、目標の一団が近づいてきたのだと嫌でも気づくだろう。身を潜めた木々の狭間から、浜辺を覗いてみれば案の定、遠くに粗野な集団が見える。
(「人魚さんをさらう悪い海賊さん達に、お仕置き頑張るのですよ!」)
 おちこぼれ巫女・ユキナ(c28019)は小さな手を握りしめて、気合を入れた。人魚を助けるためには、タイミングが大事。もっともっと引き付けて、それから飛び出さないと。
 すぐ傍でともに息を潜めて待つ、黒の継承者・アスワド(c01232)は泰然とした姿勢を崩さない。海賊たちの様子を窺いながら、アクスヘイムへの久々の里帰りがこんな理由でと苦笑できるほどに。
(「それもまた、俺らしいのかもしれませんけど……」)
 アスワドはそう思いながら、そろそろだとハンドサインを仲間たちに示す。
 閃光の双龍・ジローラモ(c02795)には、相棒の横顔を見ただけで、彼が何を考えているかが読めた。
(「まあ、どうせならもうちっといい理由で来たかったが、しゃあねぇやな」)
 小さく鼻を鳴らして、太刀を小脇に引き付ける。それにどんな理由であれ、故郷にいることに変わりはない。

 やがて時が満ちたとき、エンドブレイカーたちは麗らかな午後に別れを告げて、森から抜け出した。狙いの海賊たちは、姿を無防備にさらけ出している。そのただ中へと、横手からの楔を入れるのだ!
 先頭を進むのは、豪腕姐御・イエラ(c17156)。蓬髪を振り乱し、一人離れて歩く海賊のリーダーの前へと身体を割り入れながら、
「お前がこの中で一番強い奴だろ? だったらあたいの相手はお前だぜ!」
 と大音声を響かせて、バトルガントレットから飛び出した分厚い刃を挨拶代わりに振り回す。
 奇襲を受けても、さすがにリーダーは落ち着いたもので、太刀を引き抜きながら、
「けっ、待ち伏せかよ。おい、ヌケサクども! 人魚を確保しとけよ!」
 と前方へ指示を飛ばした。けれども、イエラに続く、ついぞ想わぬ・アズハル(c06150)が、
「人魚より、自分自身を心配したらどうだ? 甘く見ないで欲しいな」
 とリーダーの視線を遮るように前に立ち、指揮を易々とは執らせまいと拳を突きつける。その中には、錬金術の媒介とするべく黄金の小塊が握り込まれているはずだ。

 時を同じくして、人魚を運ぶ海賊たちの周りにも戦いを仕掛ける複数の影があった。
 勢いよく飛び出した蒼月の異薔薇・レンナ(c17483)は、愛用の大鎌へ、
「今回も頑張ろう、蒼月」
 と呼びかけてから、頭上でクルクルと回す。はじめだけは緩やかに、すぐにその勢いを増して。
 身が引き締まる風切り音を耳に捉え、レンナは唇の両端を持ち上げて笑みを形作った。海賊たちの間抜け顔が目前に迫る。
 その横をユキナが放つ不可視の衝撃が通り過ぎて、敵へと先に着弾。レンナが暴風となって襲いかかる先触れとなった。遅れじと続くアスワドが、咲き誇る氷の華を美麗に描き出す。
 トドメとばかりに、ジローラモが野太い声で、
「なんだい、その雑魚くせぇツラさげて海賊ってか。そっちの奴らときた日にゃ、ビビって嬢ちゃんの後ろに隠れてんのかい?」
 などと挑発の言葉を投げかければ、海賊たちは鬱憤が溜まっていたこともあるのだろう、あっさりと激高し、
「突然現われて、なに言いたい放題言ってやがりますか」
「てめぇら殴って憂さ晴らしたる!」
 口々に喚きながら、剣や斧を抜き放った。
 それら一連の攻撃のバックグラウンドに、子守歌が秘めやかに響いている。耳を澄ませば、その曲を色づける苛立ち、そして嘲りの感情が窺えたことだろう。
(「ピュアリィはね、自由に生きている姿そのものがいいんだよ」)
 擬装用の小枝を投げ捨てて、悠久の羅針盤・シエリ(c11842)は木陰から歌い続けた。
(「このまま女神の横取り、じゃなくて助けなきゃね!」)
 隠し味に、よこしまな気持ちをひとつまみ加えて。

●救出、そして
 だが、この初撃は目隠しに過ぎない。あくまで本命は、人魚のニカの救出にある。
 いきり立つ海賊たちを仲間に任せ、自身は乱戦に巻き込まれぬようすり抜けて。キングオブハート・ゼロハート(c00225)をはじめとする3人は、一心に囚われのお転婆姫様の元に向かう。
 その姿に最初に気づいたのは、いきり立つ海賊ではなく、当の人魚本人だった。
「わわっ、助けに来てくれたの!?」
 口元に手を当てて、目を円くするニカへ、
「おう、安心しな、お前は俺が守るぜ」
 ゼロハートが親指で自分を指差し、少年のように笑う。そんな会話が交されている間に、使い込んだ剣を閃かせ、旅人・オニキス(c00211)が錠前を斬り飛ばした。
「良し、これで出られるだろ! 急いでくれ」
 それから扉を開き、戦場の空気を纏ったままに急かす。
 それだけのことをしていれば、さすがに海賊たちも気がつかないはずがない。見咎めた海賊が、
「あっ、なにしてやがる! ふざけんなよ」
 と、怒気で真っ赤に染まった顔で、ニカを取り戻しにかかった。節くれ立った手が、ニカの腕を掴もうと伸ばされていくが――、
「汚い手で、かわいい人魚さんに触れないで!」
 その手は、不機嫌な声を伴って一閃された扇で振り払われた。海賊とはまるで違う、扇を持つ華奢で白い手は、猫好きの巫覡・アイリス(c21895)のもの。
「人魚さん達に危害を加えた代償、払ってもらうの」
 まなじりをつり上げて、容赦はしないと宣告する。そのアイリスの小さな背中に護られて、ゼロハートが人魚を抱き上げた。
「ニカは俺が連れてく。変なとこに触っちまったらごめんよ」
 女同士だし勘弁してくれよなと、あっけらかんと笑い、海を目指して一直線に走り出す。
 オニキスは、ちらと横目で見送ってから、
「……さて、手前らの目論見はぶっ潰す!」
 刃を海賊たちに向けて、低い声をぶつけた。何人たりともゼロハートの後は追わせないと、わからせるために。

●払われる代償
 海賊たちは数は多いが、統率は取れていない。やはり、最初にリーダーを分断したのが十分に効いている。
「おい、人魚は何処にいった!?」
 今更の頃合いで、周囲を見回してニカの姿を求める海賊を真冬の嵐が包み込み、氷のうちに絡め取っていく。
「余所見している余裕はあげませんよ?」
 冷気を発した余韻を残す氷剣を片手に、アスワドが冷たく告げた。
 そして、凍える海賊はかすかに聞こえてきた子守歌の誘惑に負け、目を閉じる。シエリが歌う歌詞に耳を傾ければ、
「起きたらきっとムショの中♪」
 などというとんでもない内容だったのだが、そんなことをあずかり知らぬ海賊は平穏な表情で寝息を立てていた。

 人魚を逃がすため、海賊たちを押さえ込むことにエンドブレイカーたちは腐心し続けている。きっとすぐに、良い知らせが来ると信じて。
 オニキスが振り下ろした刃が、海賊の身体を深く斬り裂く。
「感じるぜ、手前の生命をよ」
 その刃越しに吸い取った命が、自らの傷を癒すのを感じとって、オニキスは凄絶な笑みを浮かべた。
 誰しもが傷ついている。
 そのとき、混戦のただ中の海賊たちを狙って、幾条もの光線が降りそそいだ。
 そして海賊の悲鳴と怒号が響く中に聞こえてくる、明るい声。
「ニカは海に逃がしてきたから、もう心配いらないぜ」
 それこそが待ちかねた、ゼロハートからの報告だった。海賊のリーダーは、
「……やってくれたな。存分に礼を返してやる」
 苦々しい表情で舌打ちをし、吐き捨てた。血走った瞳で太刀を構え、鋭い踏み込みから分身を伴う斬撃を放つ。
 リーダーを相手取っていたアズハルとイエラは、その一撃を正面から受けた。アズハルは苦悶に顔を歪めたが、イエラはむしろ嬉しそうに、
「ははっ、やるじゃねぇか。こっちからもお返しだ!」
 巨大化した魔獣の腕で、反撃に転じる。
 もちろん、仲間からの援護があってこその反撃だ。
「大丈夫ですか〜? みなさん、もうひと頑張りですよ」
 ユキナが拍子を取れば、清冽な鈴の音が広がる。すっと差し伸べた手は、指先にまで張り詰めた緊張感を纏って、いっそ神々しいほど。
 神楽巫女の舞は、混沌とした戦いの中にあっても、その清らかさを失わずに仲間の傷を癒していった。

 ひとり、またひとりと海賊の部下たちが倒れていく。
 エンドブレイカーたちは、次第に狙いの中心を海賊のリーダーへと移していった。
 魔獣の爪が、リーダーの胸に深く深く傷痕を穿つ。
「もうてめぇに逆転の目はないぜ、観念しな!」
 会心の手応えを感じ、ジローラモが唇を歪ませる。さらにゼロハートが呼び出した邪剣の群れで、リーダーを追い詰めていき――、
「うむ、終わりだな」
 最後はアズハルの黄金超の群れに囲まれて、マスカレイドはその虚ろな命を散らした。
 リーダーが崩れ落ちるのを目にした、まだ膝を折っていない海賊たちは、
「やべ」
「……アニキが倒れた。つまり、逃げても怒られねぇ!」
 蜘蛛の子を散らすように逃げようと試みた。だがそんな事を許してやる義理があろう筈がない。
「わわわ、逃げちゃダメですよ〜」
 慌てながらユキナが振りまくフォースボルトが、何故か的確に海賊を射貫く一方で、別の方向に逃げた海賊は、
「ハッ、逃がすかよ!」
「えっと、おぶつはしょうどくだー。……で、いいのかな?」
 正面を回り込んだオニキスに塞がれて、アイリスが呼び出したバルカンの神火で背中から炙られる。
 そうしてさほど間をおかずに、残された海賊たちも大人しくなった。
 レンナは大鎌を振って、塗れた血を払ってから、
「お疲れ様、蒼月」
 と、小さく告げる。リーダーの亡骸の傍らに立ったイエラは、両手の拳を打合わせ、
「いい喧嘩だったぜ!」
 と、彼女なりの言葉で、マスカレイドを弔っていた。

●感謝こそ尽きない
「終わったぁ?」
 打ち倒した海賊たちを縛り上げていると、海の方からニカの声が聞こえてきた。
 終わったよ、と答えて、シエリが波打ち際まで迎えに行く。シエリの瞳は飽くなき探求心を湛えていて、
「な、なに?」
 とニカが戸惑うほど。シエリはあまり気に止めない様子で、シエリの手を取り抱き上げて、
「やっぱお魚さんの匂いなのかな?」
 下半身に鼻を押しつけ匂いを嗅いだり、ぺたぺた触ってみたり。
「やめてってばぁ」
 それにはさすがにニカも嫌がって、海へと逃げ出した。
 そのへんにしとけよ、とジローラモがシエリをたしなめていると、
「海賊たちの仲間、じゃないよね?」
 戻ってきたニカが、ジローラモの顔を見て、恐る恐る声をかけてくる。
「……もちろん違う。あー、アスワド、任せた」
 哀愁漂う背中を見せた相棒に替わって、
「怖かったのなら、怖かったと言って良いんですよ? ここには、君を良く知る者は居ないのですし、ね……?」
 やさしくアスワドが話しかける。
「ありがと。でも、うん。だいじょうぶ」
 ニカはそれでも、そう言って笑った。強い子、なのだろう。
 他の仲間たちも、海賊を縛り終えて続々集まってきた。
「ぃよう、腹は減ってないか? あと一応、怪我はないか?」
「おなか減ってるなら、クッキーをあげるの。ボクが手作りしたんだけど、おいしんだよ?」
 精悍な笑みを浮かべたイエラが問えば、アイリスが、ちょっと待っててねと鞄の中を探る。
「何にせよ、無事で良かった。うむ」
 攫われるとは災難だったなとアズハルが労えば、
「こんな可愛い子を攫うとか、海賊のやつら、ろくでなしの癖に見る目だけはあるな」
 ゼロハートは、攫われたのも無理はないと、冗談めかして応じる。それから髪飾りを褒めてみたりと他愛ない会話を交しはじめた。荒い言葉遣いをしていても、ゼロハートの心配りは誰よりも女性らしい。
 ニカを中心に、和気藹々とした雰囲気を醸し出す皆のうしろで、ユキナはもじもじとしていた。人魚に会うのは初めてなのだ。是非とも記念に悪手をしたい。だから、
「あ、あの! ……握手、してもらえませんか?」
 人見知りをしてしまう自分に踏ん切りを付けて、ニカに話しかけた。緊張から言葉が上ずってしまい、ますます顔が紅くなる。
 でも、ニカが満面の笑みでこくりと頷いてくれたから。そして手を差し出してくれたから。
 そっとニカの手を握りしめて、ユキナもまた、最高の笑顔で応えたのだ。

 とくにニカの希望はなかったので、海賊たちは領主に突き出すことになった。
「折角ですからルルに逢いに行きませんか……?」
「おう、そうだな。折角来たんだ、会いに行ってみるかい」
 一仕事終えた開放感を味わいながら、アスワドとジローラモはせっかくアクスヘイムに来たのだからと、これからの予定の検討に余念がない。
 縄を打たれた海賊たちは、
「くそっ、オレら結局文句言われ損じゃんかよ」
「なー?」
 自分が何をしたかもわきまえず、愚痴を漏らしあっていた。レンナはそんな海賊たちに笑みを見せる。
 それはレンナのとっておきの笑顔だったはずなのに――、海賊たちは青白い顔でその口を閉じたのである。



マスター:Oh-No 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2012/05/05
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冒険結果:成功!
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