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偽りの善

<オープニング>

●偽善者
 放置領域にほど近い、廃墟と人の住まう粗末な家が混在するようなスラムの片隅。
 飢えと病気に苦しみ座り込む老人が通りがかった若い女が声を掛ける。女がこのスラムには似つかわしくない清潔な衣類を身につけていたからだ。
 飢えを満たすにたらぬわずかな食料でも分けて貰えたらと思い、話しかける。
「お慈悲を、いただけませんか」
「ええ、かまいませんよ」
 力ない老人の懇願に、女はにっこりと優しく微笑んだ。荷物をさぐる彼女の様子を、まさに天使か何かのような風に見つめる老人が、その正体を死ぬまで気付かなかったのは、幸か不幸か。
「これでもう苦しむことはないわ」
 食料の代わりに女――アリーセが突き出したのはナイフ。目に止まらぬほど早い斬撃はあっという間に老人をなますと切り裂いた。
「これでまたひとり、私は人を救った」
 くすくすと笑い、仮面を消した彼女は帰路についた。

●偽善の破壊者
「アリーセという女は、時折スラムへ出掛け、助けを乞う住民を殺している。慈善活動と称してな」
 斧の城塞騎士・ヘーゼル(cn0021)が腕を組みエンドブレイカー達に向き合っている。
「彼女は周辺では『善意の人』として知られている。己の財も擲って、困っている人々を助ける人格者だと。それは嘘ではない――聴いた限り、彼女の行いは正しく、素晴らしいものだ」
 家族を失った子供があれば家に招き里親を捜し、食うに困ったものがあれば食料をわけあたえる。怪我をおったものは手当をしてやり、医者を紹介する。
 無論、彼女に出来ることはささやかな手助けのようなものだが、感謝の念を抱くものは少なくない。
 しかしそれはあくまで彼女の周辺での話、だ。
「彼女は夜な夜な離れたスラムまで出掛けては、助けを求めてきた浮浪者を殺害する――その理由は計りかねるが、彼女がそもそも慈善活動を行っているのは『親から引き継いだ』事が切っ掛けらしい。例え狭い世間での話であれど、慈善活動で知られた人格者の娘。更なる善行をと己で目標をさだめていたと」
 そしてそれは彼女にとって「楽な事」ではないらしい。そうでなければ、マスカレイドとなりスラムで殺戮を行うはずがない。
「アリーセは羽のように素早く動き、ナイフを操る。相手がそうと気付かぬ間に命を奪う。残された遺体はどれも無数に切り刻まれているのだが、苦しんだような様子はないのだという。なお、特徴として、事件は全て人目につかぬ路地で起こっている」
 またアリーセは時折紙で出来た鳥のイマージュを呼び出し、敵を切り裂かせる。更にそれは目くらましのような役目も兼ねており、彼女の逃走を助ける。
 其処まで説明を終えると、ヘーゼルは目を開く。
「アリーセの日常生活は全く普通――どころか、周辺の者にアリーセは崇拝されていると言っても良い。ヘタな動きをすれば、こちらに不利に働くだろう。彼女は夜ひっそりと出掛け、スラムで事件を起こす。その場まで追い、事件を起こす前に止めるのが無難だろう」
 言って、ヘーゼルは再び瞳を伏せた。
「彼女は秩序を乱すマスカレイドに成り果てた。日頃の善行がどうであれ、もうアリーセを救う事はできぬ。いつもの事ではあるが、アリーセを倒したあとは素早く撤収するように。下手を打てば他の事件も、お前達の起こした事にされてしまう」
 お前達の武運を祈っている、ヘーゼルはそう言ってエンドブレイカー達を送り出すのだった。


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参加者
弓の狩猟者・ルゥ(c00315)
太刀のスカイランナー・ハヤテ(c00810)
スズメ蜂・チエ(c00827)
碧蒼氷珠・ラグウェルト(c01406)
トンファーの群竜士・ゴスペル(c02749)
氷焔の魔女・ウルカ(c05243)
邪心の賛美歌・マリア(c05266)
赤錆腐朽の城塞騎士・ランカー(c11040)
盾の城塞騎士・キヨ(c11249)
狂月の復讐鬼・サク(c11538)

<リプレイ>

●慈善活動
 そこはスラムの中でも更に貧しいように見えた。
 実感として程度の差はよくわからぬものの、人々が纏う衣類、建ち並ぶは家と呼ぶべきか悩ましい廃墟。
 碧蒼氷珠・ラグウェルト(c01406)は表情には出さず戸惑う。
 いつも通りのしっかりした身なり。スラムの者達は彼をじろりと一瞥するものの、声をかけてくるようなことはなかった。恐らくは本人には無自覚の威圧感があり、近づきがたいのだろう。
「慣れないな……」
 調子が狂うと彼はそっと嘆息した。
 裾を引っ張られ、足下に立っている小さな子供に気付いた。痩せて汚れた少女とその後ろに隠れるようにくっついている少年。姉弟だろうか。明らかに飢えたその目に、彼は一瞬戸惑った。
「生憎食料の持ち合わせは無いな……。これで勝手に買え」
 ダルクを一枚ずつ二人に渡すと子供達は「ありがとう!」と元気よく叫んで駆けていった。

 スラム各所で行動するエンドブレイカー達もまた、スラムの住人や浮浪者を見かけると、金品を渡し、その場を去るように促していた。
「少し副収入があったのでお裾分けです。ちょっとで申し訳ないのですが、何か温かいものでも召し上がってください」
 可愛らしいボンボン付きの服を纏った盾の城塞騎士・キヨ(c11249)は微笑む。
 なけなしの金を浮浪者たちに渡すトンファーの群竜士・ゴスペル(c02749)は何となく泣きそうだ。
 そんな悲しみも押し殺し、あくまで酔っぱらって明るく振る舞うふりをする。
「昨日までは負け犬だった、明日負け犬に戻ってるかも知れん。だから少しでも良い事に使っておこうと思ってなあ、兄弟」
 賭博で稼いだという金を分け合いながら赤錆腐朽の城塞騎士・ランカー(c11040)が笑う。
 彼の姿は異彩という印象の一言に尽きたが、スラムの人々は何も言わなかった。
 ありがとうよ、兄弟――そんな言葉に見送られ、ランカーは己が役割のために闇に紛れた。

「最近来たばかりでここの地理には詳しくないので教えてくれないかぁ。そういやぁ、ここら辺で最近殺しが多いと聞いてるんだが、そこにはあまり近づきたくないので知っている限り教えてくれよ、なぁ」
 狂月の復讐鬼・サク(c11538)が浮浪者を装い、それらしき者へ問いかける。質問された浮浪者はやや置いてから「割と頻繁にそういう話を聞くのはスラムの西側だ」と教えてくれた。
「明日は我が身、気をつけな」
「そぉかい、ありがとよ」
 お礼に彼女はスラムのあちこちで施しをしてくれるものが来ていると教え、その場を去る。
 他の者が得た情報もほぼ同様。
 弓の狩猟者・ルゥ(c00315)が己の集めた情報と簡単に作った地図、仲間達の情報をまとめたものを見てもまた、西側に多く印がついた。
 ――西側、それはアリーセの住む街に一番近い方角だった。

●追跡と囮
 日も暮れ、辺りが薄暗くなった頃合い、彼らはアリーセの家の近くで潜んでいた。
 スズメ蜂・チエ(c00827)は闇に身を潜める。どうしても昼間見たスラムと比べてしまう。変な臭いも目を背けたくなるような光景も此処にはない。もっとも彼女はスラムのような環境に慣れていたから、それほど厭う気持ちもなかったが。
 太刀のスカイランナー・ハヤテ(c00810)は小さく溜息をついた。
 偽善者相手か、面倒くせえなと心の内で呟く。
 綺麗に片付いて花の並ぶ路地はアリーセ先導で行われた清掃の結果だと小耳に挟んだが、だからなんだとハヤテは思う。
 この辺りの情報を纏めたのは氷焔の魔女・ウルカ(c05243)だった。昼の間に家の配置やそこから導き出せるルート、隠れるのに最適の場所などを仲間達へ教えた。
 ――周囲の家の灯りが落ちた頃、アリーセは動き出した。
 姿を現した彼女はすっきりとしたシンプルなワンピース、小さなバッグを持つ、極々普通の若い女だった。時間を除けば、普通に外出するのと変わりはない。
 その背を追って、ゴスペルが動き出した。ハヤテ、チエと姿を隠しながら進む。
 彼らの更に後ろをルゥ、ラグウェルト、ウルカ、キヨが追う。
「どうにも慣れないな……」
 昼とは違い、ややスラム基準に服装を改めたラグウェルトは少し眉をひそめた。
 壁のように聳える星霊建築を抜け出し、建物がどんどんまばらになり、石畳が荒れていく。なるべく人目につかぬような道を選びスラムへ。アリーセは一度も振り向かぬ。
 いよいよスラムとわかる真っ暗な道の分岐で、一度だけアリーセは足を止めた。そして選んだ先――エンドブレイカー達はひっそりと頷きあった。

 マントに身を包む小さな姿があった。微かに震える様子は酷く頼りない。
 真っ白な髪と肌の、幼女と呼ぶべき年齢の子供は、年齢に不釣り合いなほど大人びた表情をしていた。
 アリーセと偶然視線が会う。目を伏せながら、
「毎日見せ物小屋で働かされて……ろくに食事も貰えない」
 邪心の賛美歌・マリア(c05266)は溜息をつく。
 己の傷んだコートにすがるよう身を包み、出来るだけ憐憫を誘うような仕草を試み。
「どうか……御慈悲をくれんかのぅ」
 再び見上げた先で、アリーセは微笑んでいた。
「ええ、可哀想なお嬢さん」
 鈍色の光で闇を映したナイフがバッグから取り出される。一瞬の事だが彼女たちならば視認できる。
 ひゅんと空を裂くよう斬りかかるアリーセの一撃をマリアは転がりながら躱し、ルゥが後方からポイズンニードルを放った。
 すぐにハヤテが飛び出し太刀を構え、背後からチエが屋根からアリーセの頭上に飛び降りスカイキャリバーを仕掛ける。
 ポイズンニードルをふわりと躱したアリーセは、地を蹴る一瞬で速度を変え、チエの攻撃もまた躱す。
 その横からゴスペルが体当たりするようにトンファーを繰る。
 ナイフとの応酬を幾度となく躱し、二人は距離を取る。
 闇から追うように放たれたデモンフレイムがアリーセの片腕に当たり、彼女は更に後ろに下がった。
「偽善者のマスカレイドねぇ……私の復讐相手だぁ! くくく、偽善者には地獄よりも辛い煉獄へ……ヒャハハ!」
「では壊し(守り)ますか。例え偽りにせよ、貴方に優しさがある今のうちに」
 大鎌を振り回しサクが狂気的に笑う横で、ランカーが葉巻を一気に灰に変え、錆びた兜の隙間から紫煙を排気した。

●救い
「キヨが、みんなの楯になるね!」
 ぽんぽんの可愛い飾りをつけた盾を振りかざし、キヨが先頭に立った。ディフェンスブレイドで守りを固めつつ、じりじりと距離を詰める。
 静かに佇むウルカが扇を手にアリーセへと冷静な視線を向けている。万が一にも退路を残してはいないだろうかと。
 同じ事を考えたアリーセはぐるりと周囲を見渡す。前方も後方も塞がれている。上空も――ハヤテやチエの動き、ルゥの弓を見て、容易く抜けられぬと判断する。
 ふわりと闇夜にも薄く光るように見える白い紙が何処からともなく現れ舞い上がる。それは鳥の形のイマージュ。
 前触れもなく羽ばたきだしたそれらはひゅんと音を立てて飛び交う。
「全く……邪魔くさい……蝿みたいじゃのぅ」
 煩わしそうに赤い瞳を向けるも、マリアは口元を笑みで歪める。
「……見てろ、わたしはしっかりやる、ぞ」
 ロザリオへと語りかけ、チエは敵を睨み上げた。口元に笑みを浮かべ、地を蹴る。
 居心地が悪そうな様子だったラグウェルトも、もうそれを忘れた様子だ。レイピアを構え倒すべき敵を見据える。
 ウルカのレギオスブレイドを切っ掛けに、エンドブレイカー達は次々に攻撃を仕掛けた。
 ファルコンがイマージュを捕らえるように真っ直ぐに飛ぶ。弓を構え、ルゥが次々と矢を射れば、それを背にチエが駆ける。
 青白い残像がイマージュ達の間に残る。軽すぎる宙に浮かんだ紙への手応えはいまいちだったが、それなら手数を増やすだけのこと。
「……来い、纏めて消してやる」
 ラグウェルトが冷ややかに告げた。はらはらと切り刻まれた紙が空へ巻き上げられた。

 ゴスペルとハヤテがアリーセへと真っ直ぐに駆ける。
 居合い斬りは鋭い一閃はアリーセには届かなかった。跳躍で宙に逃れた彼女はハヤテの背にナイフを突き立てる。トンファーが着地したアリーセを殴打する。そのままゴスペルが前に進もうとすると、イマージュが遮るように飛んできた。
 手で払いのけるようにすると、薄く赤い線が走る――切り裂かれた傷に舌打ちし、彼女は一度距離をとった。
「三度鳴らすと……家に帰れる……そんな唄をしっとるんじゃがの」
 マリアが踵を鳴らす。暗殺シューズは寂しげな無機質な音を立てる。
 しかしその符号はレギオスブレイドに繋がる。無数の刃がアリーセへと放たれた。イマージュが回り込む。
「マスカレイドの帰る家は……どこじゃと思う?」
 アリーセへの問いだが返事は無かった。彼女を庇い粉々に四散する白い紙は消えていった。

「慈善活動、わたしにしてみろ……!」
 爛々と目を輝かせ、チエは跳躍し鋭い蹴りを放つ。対するナイフの軌道は、彼女の首を狙っていた。
 攻撃後、体勢を崩したチエがアリーセから一撃を食らう。何度かの鋭い斬撃を堪えたが、やばい、と彼女は身を逸らす。
 横から駆けつけたキヨがアリーセを見据え、ディフェンスブレイドを仕掛けた。
(「私に出来ること、それはひたすら愚直に護りたいものを護ること」)
 まだ戦い慣れぬ彼女の想いを込めた一撃が、アリーセの腕を捕らえるも、深い傷には至らない。
 するりと退いたチエは息を整える。傷は負ったが、やはり戦いは楽しいと笑みを浮かべる。
 間隙与えずサクのレギオスブレイドがアリーセを襲う。虚無から現れた刃を全て躱す事はできず、彼女は転がった。サクの狂気的な笑い声は止まない。
 其処へ再びゴスペルがトンファーコンボを打ち込んだ。
 ゴスペルの猛打に押されて、アリーセはくるりと宙返りしながら一気に距離を取ろうとする。
「お嬢ちゃん、そっちは行き止まりさね」
 ウルカが語りかけながらレギオスブレイドを放ち、それを阻む。
 逃がしはしない。彼女の目はそう語る。
 入れ替わりに距離を詰めたのはハヤテ。太刀とナイフが交わり、無機質な音を立てる。
「……アンタは両親から引き継いだから仕方なくソレをやってたのかよ」
 ハヤテの声にはやるせないような怒りが滲む。驚くことに、アリーセは小さく返事をした。
「救うべき範囲は広すぎて、まるで底なし沼のようなもの」
 アリーセは淡々と告げる。彼女にとっての「善意」とは何処から何処までだったのだろう。
「あなたたちも本当の救いがなんなのか、わかっているでしょう?」
 笑いの形に歪む唇は、嘲り。
 ハヤテは微かに表情を歪める。
「……アンタは……」
 言葉を紡ごうとしたが怒りで巧く声にならなかった。
「死は平等な救いだと思わないかしら」
 揶揄するように再び言葉を紡ぐアリーセは本当は何を望んでいるのだろうか。
「お前らは私の家族をぉ……!」
 己の過去を重ね、サクは叫ぶ。彼女にとって善と呼ばれるもの、更に偽りとなれば憎い敵。
「……歪んで居るのぅ……昇天は確かに最高の……施しじゃが……」
「余計なお節介だ」
 にやりと嬉しそうにマリアが笑い、怒りを滲ませゴスペルが拳を繰る。
 アリーセのナイフで裂かれた傷が痛もうと、彼女は攻撃を止めなかった。
「彼らは苦しくても生きることを望んでいるんだろう? ならば、死は救いにはならない――決して、な」
 レイピアを繰りつつラグウェルトが冷ややかに告げる。だが皮肉な事だ。彼女への救いは死、なのは間違いない。
「困窮している人の命を奪うことは、慈善ではなく悪です!」
 キヨが盾を構えて叫ぶ。
「今日で仕舞いだ。ぶっ壊してやる」
 ハヤテが静かに太刀を水平にアリーセへと向け。そのまま一足、間合いを詰めて雷撃を纏った刃を振り下ろす。
「――臥龍、天醒!」
 袈裟斬りに裂かれた傷から血が噴き出し、アリーセは蹌踉けながら二、三歩下がった。ルゥの放った矢がその背後を襲う。
「悲しい、愚かなお嬢ちゃん。此処が棘に覆われなければあんたは今も善い人だったろうさ」
 咄嗟に避けたアリーセが目の前に来た――すかさずウルカが水流でアリーセを押し流す。
 彼女の血も身も、流水が絡め取る。視線は鋭く彼女を射貫いたまま。
「選ぶ時、戦う時に自分を欺き人を殺める道を選んだ。責任を取らなきゃならないのさ」
 それでも……戦いの終わりにルゥは弓を下ろしながら呟いた。
「それでも救われ、貴女に感謝していた人達が居たことを」
 覚えていて欲しい。

 倒れ込んだアリーセはもう戦う力は残されていない。そんな彼女の上に巨大な影が落ちた。
「さて。この仮面はもう、用済みですな?」
 錆びた声が掛かると同時に独特な形の武器を仮面に引っかけ、ぐっと力が込められる。
 断末魔がスラムの片隅に響く。
 最後に来たのは悪鬼か救いか。
 少なくとも彼女の定義ではそれを――救い、という。

●闇に咲く
「ヒャハハ!」
 最後におまけとばかりにデモンフレイムでその遺体を燃やしたサクだが、アリーセが燃え尽きるほどの炎ではない。だが彼女はその行為で満足したようだった。
 チエがロザリオを再び見つめ「……終わった、な」と呟く。
「己の心に嘘をつき続けて人でなくなってしまう位苦しんだんだから」
 小さく呟いてルゥがアリーセの胸にそっと花を添えた。彼の視線の湛える色は少し暖かった。
「引き上げるか、面倒な事になる前によ」
 太刀を鞘に納め、ハヤテが皆へと向き合い促す。横目でその遺体を一瞥し、複雑な心は自然と静まっていくだろうと思いながら。
「……アリーセ、生きていたのならそんな私に施しをくれただろうか」
 ゴスペルは唸った。思わず手探り、もう色々と失っている事に気付いて頭を振る。
「あの金は、彼らの大事な糧となったのだ。悔やむ必要は、無い」
 振り切るように宣言するも、いつもの習慣で彼女は地面を睨みつけるようにしている。
(「彼女の全てが偽善だったのでは無ければ良いな……」)
 ラグウェルトは思って、柄じゃないと背を向けた。
 楽しかったが何か違うと少しだけがっかりとするのはマリア――どうやらアリーセは彼女とは少し違うようだった。踵を小さく鳴らす。
「さあ、帰ろう!」
 明るく振り返ったキヨの盾の飾りが、ぽんと揺れた。

 暗がりとなった路地にひとり佇む女がいる。
「それにしてもこのマスカレイドの多さ。花に群がる虫の様じゃないか」
 ウルカが何かを嘲るように薄く微笑んだ。冷たい視線が街に向けられる。
 『棘』に力を与えられた者も今は物言わぬ死体。ランカーが瓦礫で隠したので殆どその姿は見えなくなってる。その胸に添えられた一輪の花だけがひっそりとその死を悼む。
 変わり果てたその姿を見ても哀れみはないが、これも被害者か。
「茎も根もあるそれを枯らすなら根から抜くのが一番さね」
 マントを掛け直し、真っ直ぐ視線を闇に向け、路地の向こうへと去っていった。



マスター:神崎無月 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/05/16
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