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【彩喰いの森】絞め殺しの蔓:暁の樹海

これまでの話

<オープニング>

●宵の響き
 ツリーハウスの隙間から微かに洩れる灯りが、夜の帳が落ちたエルフヘイムの森にぼんやりと浮かび上がる。都市国家の中心部に比べて随分と静謐な日中は、陽が落ちてしまえば、動物たちも寝静まって更に無音の世界となった。
 天へと伸びる鬱蒼と茂る樹木へと太い蔓を絡ませながら、其れらは先に見える朧げな灯をただ目指す。蔓が枝に巻き付き、蔦が接触するたび、軋む幹と擦れ合う葉の音が深い森の静寂を裂く。大木を呑みこむように無数の蔓を蠢かせながら、其れらはエルフ達が住まう村へとゆっくりと距離を詰めていった。
 やがて、緑葉の天蓋の間から淡い朝陽が注がれ始めた。明けてゆく森から這い出るように、太い蔓を蠢かす巨大な植物が姿を見せる。
 朝支度に追われ始めるエルフ達が住まう村へ其れらが辿り着くまで――もう暫く。

●暁の樹海
 視界いっぱいに広がる森の濃緑と空の澄んだ蒼が懐かしい。『世界の瞳』を通じて一瞬にして戻って来た都市国家の景色に、天つ風の狩猟者・ナターリア(cn0011)は、遺跡の便利さに改めて驚いて瞳を瞬かせていた。そして同様にエルフヘイムへ足を運んで来るエンドブレイカー達の姿に気付くと、酒場の隅へと招き、ここ最近噂されていた事件の続報を告げ始めた。
「この都市国家の森の一部が枯死し始めているという事件……もう御存知でしょうか」
 ――もしかしたら、皆さんの中には実際にその原因について調査に行かれた方がいらっしゃるかもしれませんね。
 もしそうならば、非常に心強いことだと彼女は付け加えて微笑んだ。
 樹木が枯渇している原因の解明に向かったエンドブレイカー達によって、巨大な蔓植物が関わっていることが判明したのだ。しかし彼らが感じ取っていた通り、樹木を枯らしているその蔓植物は1体だけでは無かったらしい。
「今度の標的は、其れらが潜んでいる森の近くにある村のエルフ達となるようなのです」
 やや表情を曇らせて、ナターリアが続ける。幸い、彼女がこれから告げる情報はもう少し先に起こる未来のこと。視えた終焉によれば、報告書にあったような蔓植物の巨獣が触手のように蔓を自在に操って、村のエルフ達を次々と絞め殺してゆくのだという。
 これが現実となってしまう前に止めることが、今回のエンドブレイカー達の役割となる。

 問題の蔓植物は、大樹の幹へ簡単に巻き付く程にかなり巨大であること。本体の中心であると思われる塊の部分から触手に似た無数の長く太い蔓を生やしており、木々に絡みついて移動したり、狙う対象をきつく絞め付けたりすること。脈動する蔓は時に、生命の源も奪い取ること。――想像しただけでも気味の悪い存在について話し、ナターリアは小さく身震いした。
「その蔓植物は深夜のうちに森を移動し、明け方、エルフの村に辿り着きます」
 羊皮紙に描かれた簡素な地図へ、彼女は村の位置を記す。吊り橋で繋がれたツリーハウスが幾つも集まっているその村で生活しているエルフ達は少なくない。
「その日の朝、森へ向かおうとした一人のエルフが突然襲われるのが始まりです。それを合図とするかのように、ツリーハウスから出て来たエルフ達が次々と絞め殺されてしまいます」
 その蔓植物が現れるとされる村の南側を示し、彼女は真剣な表情でエンドブレイカーへと告げた。
 夜が明ける前、村の外でエンドブレイカー側から相手へ仕掛けるのも不可能ではない。けれども薄暗い上に森の景色に紛れやすい蔓植物であるため、戦うに必ず優位に立てるとは言い難い状況だ。エルフ達が蔓植物に襲われる前に、彼らには其れらがやってくる方向とは逆側に避難してもらった上で、村で迎え撃つ作戦の方が戦況は把握し易いかもしれない。エンドブレイカーであることや、樹木を枯渇させていた存在が差し迫っていることを伝えれば、エルフ達は素直に言葉を受け入れてくれるだろう。
「どの手段を選択するかは、向かう皆さんにお任せします」
 ただし、どちらにせよ大木に絡み付く巨大な蔓植物を相手にするため、樹木の枝や吊り橋の上での戦闘を強いられることには間違いない。
 情報屋たちが視るに、その蔓植物はマスカレイドでは無いようだ。数多く確認されている其れらが発生している理由や完全に殲滅する方法も懸念事項であるに違いはないが。
「まずは村に迫っている終焉の破壊が先、ですよね」
 向かう皆さんに御武運がありますよう――。信頼の色を滲ませた瞳にエンドブレイカー達を映して優しく微笑み、彼女は話を締め括った。


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参加者
大団円の・ラズネル(c00050)
緑風を抱く・ヘイゼル(c05936)
彩歌・ノア(c10055)
やさし葉の森の・シレラ(c11722)
白竜戯・リュリュー(c15061)
星降る紋謡・ラルフ(c15924)
夏ノ雪・メルカ(c18841)
炭酸飲料・ソーダ(c19602)
花祀・ティナ(c25766)
烟霄・セティ(c29380)

<リプレイ>

●宵に隠れて
 高く昇っていた陽も傾きかけ、エルフヘイムの森は初夏の熱を孕んだ湿り気のある空気に満ちていた。葉の天蓋を仰げば茜色の空に覆われているとも見間違う時間の頃、森を駆けたエンドブレイカー達は蔓植物に襲われる情報のある村へと辿り着いた。
「火急の用件があるんです」
 呼吸を整えた、星降る紋謡・ラルフ(c15924)が吊橋を渡る一人のエルフの姿を見つけて声を掛けた。自分達がエンドブレイカーであることを明かせば、やや驚きを含んだ眼差しを向けられたものの、村長への取次ぎを願ったラルフの真剣な表情を目にすると、すぐに案内された。
「森の木を枯らしていた原因だった蔓植物の巨獣が、今度は村を狙っているの!」
 自分達エンドブレイカーが村を訪れた事情を伝える、夏ノ雪・メルカ(c18841)に続いて、彩歌・ノア(c10055)が、陽が落ちるまでには巨獣がやってくる村の南側とは逆の北側へ、村人達の避難が必要であることを告げた。
「巨獣は明日の明け方には村を襲ってきす。危険を避ける為にも夕方以降は一ヶ所に避難し、夜間の移動は避けてください」
「――確かに、状況を聞くに村の一大事ではあるが」
 村に迫ってきている危機を説明する、烟霄・セティ(c29380)達の内容に村長はやや難色を示した。前日から避難することになると、村のエルフ達に窮屈な場所で一夜を明かさせることになり、無理を強いてしまうからだ。時間帯と方向が事前に分かるのならば、その巨獣が村に辿り着く前に撃退できないものか。もしくは、その近辺の住人か森へ向かおうとするエルフ達だけに安全な場所へ逃れてもらうことは出来ないものか、と。
「皆さんには不自由を強いて不安な思いをさせてしまうことになり、申し訳ありませんが……」
「安全の上に安全を重ねての手段です。皆さんに傷ひとつ付けさせませんので、ご安心を」
 同胞達の穏やかな生活を一時でも乱すことを詫びるセティの言葉に、大団円の・ラズネル(c00050)が付け加える。そしてラルフは、エンドブレイカーが巨獣を退治することを約束した。危険が迫ることを知った上での前日からの長時間に渡る避難は当然、精神的負担を掛けてしまうことはエンドブレイカー達も解っていた。そんな彼らが添える言葉に村長は耳を傾け、理解を示した。
「頼りにしておりますぞ。エンドブレイカー殿」
 そうして村長とエンドブレイカー達の呼び掛けにより、村のエルフ達は一斉に、安全とされる村の北側のツリーハウスへと移動を開始した。都合良くその方向に全員が入ることのできる広さの家屋はないものの、数棟を使ってエルフ達は身を隠している。
「わたしたちが必ず皆さんの村を護ってみせますのですよ」
 突然の事態に怯えて泣き出しそうになる子供達に、やさし葉の森の・シレラ(c11722)が声を掛けるも、それだけでは不安を拭いきれない。そこへ、メルカが菓子を差し出して彼らの気を紛らわした。
「大丈夫。怖くないから――」
 食料など翌朝までの必要な荷物の運搬は、炭酸飲料・ソーダ(c19602)らが手を貸し、一通り避難が終わると、エンドブレイカー達は巨獣を迎え撃つための場所の選定を始めた。避難途中のエルフ達に対し、緑風を抱く・ヘイゼル(c05936)は、被害が出ても比較的問題が無さそうな場所や戦闘が容易な広い場所を尋ねていた。けれども実際に生活している側からすれば、居住地域には被害が出ても許容できる場所など無いに等しい。広い場所であれば、村の中央広場か、森へ続く村の出入り口程度しかないということだった。勿論、村の外――森の中であれば、直接生活に大きな影響は出ない為、ある程度なら、という話は僅かにあったが。
「出来る限り広く、かつ、敵に突破され難い場所が良いのですが……」
 羊皮紙にラルフが描いた村内の簡素な地図を眺め、ラズネルが呟く。やってくる方向が判明している以上、敵の進路上で戦い易い場所を選択したいところでもある。
「やっぱり村の南側……森へ抜ける吊橋のあたりが一番良いと思うの」
 一頻り南側を見回っていた、花祀・ティナ(c25766)が自身の目で、足で確認して見出した結論を持ち帰ってきた。森へ向かおうとしたエルフが襲われる情報であるのだから、其処ならば確実に例の蔓植物はやって来る筈だ。
「確かに、森への入口でもあるし、足場にしたい枝もしっかりしているだろうしな」
 同様に周辺を吟味していた、白竜戯・リュリュー(c15061)の意見も加わり、一同は村と森を繋ぐ吊橋の方面へと戦闘場所を選択した。
 其の位置に辿り着いた頃には、先に見える森はすっかり夜の気配を纏っていた。

●暁の樹海
 この深い夜の森の中、其れらは今、どの辺りを這っているのだろうか。
 ノアとラルフが耳を澄まして森の音を探るけれども、無音の世界に聴覚を包み込まれる。葉の擦れ合う音や樹の軋む音を求めれば、何か聞こえた気がしないでもない。けれどもこの時間帯に森へ入っても、闇雲という言葉通りだ。自分達が控える場所まで接近してくるのを、じっと待った。
 そうして更けた夜が、徐々に黎明の刻へと近付いてゆく。視界確保のために置いていたランタンの灯が周囲の照度に馴染み始める頃、
「――居たね」
「ああ!」
 森に紛れて、疎らな蔦葉を付けた蔓が蠢く。鷹の目を宿して森を凝視していたヘイゼルが零した呟きに、同様に視線を向けていたリュリューが頷いて応じた。どの程度で辿り着きそうか判明しただけでも、心構えが違う――。急いで接近を知らせると、エンドブレイカー達はすぐさま迎撃態勢を整えた。
「此処まで来れる?」
 蠢く蔓植物へ自らの存在を見せつけるようにして、ティナが軽やかに枝へと跳ねる。視界はやや仄暗いものの夜程には決して悪くない。追うようにして徐々に距離を詰めてくる其れらの触手は、今はもう付近の樹木を絞め付ける様子は見られなかった。
 樹木だけでなく、今度は人を襲っちゃうのね――。
 眉を潜めたティナの表情は、瞬いた後、撃破に向ける強い意志を宿したものへと変わる。
「全力で、ぶっ潰しに行くか」
 流石に村を襲うとなれば、悠長なことは言っていられない。誘導されて接近してくる蔓植物までの距離を見定めて、吊橋の上からソーダが大きく振り被って茸を投げ付けた。蠢く太い蔓へと接触して弾けたそれは幻覚性のある煙を散らし、蔓先の感覚を惑わせる。追随するリュリューがツリー周辺の板上を強く叩きつければ、震動が重なり衝撃波となって巨大な蔓を揺るがした。
 その悍ましい姿は、既に一度目にしてはいるが慣れる筈もない。けれども、何度現れようが返り討ちにしてみせるとヘイゼルは灰色の瞳を細め、仕掛けの撒菱を強く投げ付けて蔓たちの外皮へ喰い込ませた。併せて展開した網は蔓植物の進攻を更に怯ませる。
「村の皆さんには、指――いや、触手一本触れさせませんよ」
 距離を取った吊橋の上で巨獣の動きを眺め、窘めるように告げたラズネルが愛用のアイスレイピアで宙を斬った。急速に森を冷やす吹雪が訪れて蔓を凍て付かせれば、
「メイヴ、惑わしの粉を……なのです!」
 傍らの妖精の名を呼んでシレラが指した方向へ、一筋の青白い光が突き進む。完全に明けきっていない暁色の森を舞い、蔓植物たちの上方から青く煌く粉を振り蒔いて眠気を誘った。けれども其れを振り払うかのように身を震わせた巨獣が太い蔓を振り回して、前に立つソーダの身を縛り上げる。足元が浮き、息を詰める彼の傍ら、別の方向からはティナとヘイゼルが狙われた。跳び退いて避けようにも強かな蔓先の動きの方が幾分早く、電流が走るかのような刺激が肌を伝う。
「流石に、強いのね」
 以前遭遇した1体だけとは格が違う。目前で繰り広げられる蔓植物の反撃に唇を噛んだメルカが、複数への攻撃を封じるべく金色の蝶を創り出して、掌から飛び立たせる。惑わせる蝶に重なるように、魔道書を開いたラルフが遣わす蛇影も頁から抜け出して蔓へと纏わり付いてゆく。
「まさか復讐しに来るとは思わなかった」
 正に少しばかり前、彼らは同類の巨獣を撃破したばかりだ。頭良いんだね、とノアが落とした言葉は皮肉でしかない。藍色の扇を宙で薙げば揺れる飾りと彼が謡い紡ぐ魔曲に応じるようにして、森を疾駆する幻獣の群が幾本かの太い蔓を喰い千切った。それでもなお、移動しようとする巨獣をセティは一瞥した。やがて彼が仕掛けた位置を這った蔓が、鋼のトラバサミに捕らわれる様が藍色の瞳の端に映る。
 ――森に加えて人の命まで貪る輩など、このまま放っておける訳がない。

●蔓の乱舞
 足場は限られ、対峙する相手の数は以前の時よりも増加している。それを理解した上でリュリューは常に渾身の力を石鎚に込めて太い蔓へと叩き付けた。巨躯と弾力のある感触ではどれ程までに体力を持っているのかは想像しきれないが、それでも肉薄した巨獣は確実に動きを鈍らせていた。
「あと一息。数を減らさないと身が持たない!」
 額を伝う汗を拭って叫ぶ。前線を担う以上、無傷とはいかず、それは全員が同様の状況だった。それでも背に終焉から救う村があるからこそ、ソーダは吊橋を駆け、巨大な剣で蠢く蔓を断ち切ってゆく。ノアが喉を震わせて謡い響かせた音色は蔓植物らの護りを砕き、彼と視線を交わしたティナが高く跳び上がった。
「任せて! ひとつ、落すよ」
 金属で模られた翼で飾る銃剣の切っ先が迷いなく巨獣へと降り掛かる。深く沈んだ刃は蔓の根元まで到達し、残る蔓先がざわりと跳ねると、引き抜いた箇所からは濁った液体が噴出した。宣言通りに樹木から剥がれて地へと落下する其れをも足場にして、落ちた物体を視界に入れることなく彼女は次なる標的へと急降下した。
 蔓からの攻撃の手が減少した隙にシレラの妖精がリュリューとソーダの元へと飛び立った。ぐるりと周囲を廻って輪の軌跡を創り上げ、注がれる癒しは疲弊する身を奮い立たせる。この気味悪くうねる蔓は、どこで発生しているのか――。その元凶を突き止めて解決しなければ、同じことが繰り返されてしまうと危惧するのは、シレラだけの杞憂ではない。
 目にすれば目にする程、見せつけられる脈動する蔓植物の不気味さにラルフは眉を顰めた。巨獣がこの村を襲う切っ掛けが何かあったのだろうか――最近この村で、何か異変がなかったか避難途中の村のエルフ達に尋ね聞いたけれども、それらしき心当たりは見当たらなかった。
 ならば、村に迫る理不尽な終焉を終焉させるのみ。
 ラルフが魔道書を捲ると、森へと圧し返すかのような強い力の衝撃波で蔓植物の巨躯が歪む。分岐して森を廻った力の源は、傍のセティを包んで彼の力となる。
 森へ微かに射し込み始めた昇り掛けの朝陽に反射した銀色の一筋は、枝へ飛び乗り接敵したヘイゼルによる剣捌きによるもの。確実に一体ずつ仕留めるために向かう対象を重ね、より強力な一刺しを見舞わせる。剣を伝って戻る活力は疲弊した身には微々たるものだが、それでも仲間の前に立つからには有難い恩恵に変わりない。
 この場所で見まえた、今はもう2体となった存在を見据え、ラズネルは凍える冬の嵐を再び呼び寄せた。彼だけでないエンドブレイカー達が重ねた数々の攻撃は、蔓先が生み出す特殊な能力を封じていった。しかし、残された手も決して生易しいものではなかった。
 二度、三度とヘイゼルの両腕を強く打ち据える蔓先は、彼女の残る体力を急速に奪ってゆく。体を左右になぶられながらも、耐えてみせると樹木の幹に背を預けて首を振る彼女へ、咄嗟にソーダは生命の果実を贈り、セティが穏やかな風を吹き渡らせる。開放する力に呼応した風は齎す癒しを強めて周辺をも包み込み、感じる心地良さに、彼女は零した笑みに感謝をのせた。
「この広大なエルフヘイムの森に、こんなものが結構な数も存在しているということなの?」
 呟くように問うたメルカの求める答えは、旅人の酒場で耳にした終焉情報が物語っていた。こんな巨大な蔓植物が偶発的に増殖する筈がないと感じ取りながらも、未だ根源は掴めていない。
 今出来ることは掃討のみだと、掌から乱れ飛んでゆく蝶を、ただ見送る。

●ひとつの終止符
 おいで、と誘い出すように。優しい声音でノアが謡い始めた曲は蔓植物の動きを一際鈍らせる。紡ぎあげるのは、其れが抱える復讐心ごと優しく眠らせるために彼が選び取った言の葉。抗う余力すら失って重力のままに地へと吸い寄られた巨大な塊の醜い最期は、目にするまでもなく。
 最後の1体へと向かうエンドブレイカー達の攻め手に、容赦はない。
 冷気を帯びたレイピアが創り上げた氷上を滑走し、その切っ先で蔓の厚い外皮を穿ったラズネルに続いて、セティが向かわせた銀のコヨーテが獲物を求め吊橋を疾駆した。深く喰らい付いた牙の痛みから逃れるかのように振り上がった蔓を、リュリューが石鎚で弾く。残された蔓植物の生命力は、その手応えを感じるに底に近い。そろそろ観念しろ、との僅かな苛立ちを籠めて彼が生じさせた震動波は、衰退しつつある巨獣をよもや樹木から引き剥がす程。
「雑草を刈る作業は得意だぜ――農夫だけに」
 なんてな、と煙草を咥える口端を揶揄するように上げ、ソーダは吊橋を蹴って蔓本体付近の枝へと飛び移った。片手で柄を掴み、大剣を軽々と担ぎあげる表情は愉しさに満ちる。幾本も蔓を断絶させてゆく刃が生み出す風圧は周囲の緑葉を揺らし、擦れ合う音に紛れてヘイゼルが間合いを詰めた。
 万一逃走された時の標となるようにティナが貼り付けた透明な印は、活躍する場はなさそうだった。狂ったように人型を狙う巨獣は退くことを知らない。
 それでこそ、躊躇する必要なく刃を突き付けることが出来る。
 探り当てるように切っ先で蔓を斬り分け、ヘイゼルは巨獣の核を破壊するように天から垂直に剣を付き下ろした。やがて急速に萎えた植物の生命は尽き、脈動を止めた。

 幾度かレイピアを払って鞘に収めたラズネルが、村の方向へ視線を向ける。無事に事態が収束したことを伝えに行くのだという彼に、子供達を気にかけていたシレラも続く。
 森を枯らし、エルフを襲う。蔓型の巨獣のその行動に何か隠された目的があるのか――。ラルフは考えを巡らせて遠い天蓋を仰いだ。同じ疑義を抱いて其れらがやって来た方向を遠視するセティの隣で、リュリューがくわ、と瞳を見開いて叫んだ。
「さあ、生態調査だ!」
 対峙している時から巨獣の存在が気になって仕方が無かった。死骸に乗っかり、全てを見せろと言わんばかりに彼は刃物を突き刺してゆく。
 迫っていた終焉を砕いて、ひとつの戦いは終わった。けれども、未だ掴めないままの真相にメルカの表情は釈然としない。
 エンドブレイカーに任せて欲しいと持ち帰ったからには、必ず解決させなければ――。
 決意を胸に秘め、新しい朝色に染まった森の姿を視界に映した。



マスター:沙良ハルト 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2012/06/05
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  • カッコいい14 
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