ステータス画面

キッカケさがし

<オープニング>


 びちゃり。
 石造りのプールの縁に濡れた大きな手が張り付く。
「――っ……はぁ」
 続き水面に文字通り顔を出したのは、深い皺が幾重にも刻まれた白髪の老骨。ぎりぎりまで息をつめていたのだろう、飛沫を散らして大きく開いた口から勢いよく空気を肺へと送り込む。
 ずるり、濡れ鼠になった重い身体を渾身の力で押し上げ、男は担いでいたリュックを脇に放ると乾いた石畳に仰向けに引っくり返った。
「ワシも……老いたな」
 ひとつ、ふたつ、と男は節くれだった指を折って数える。まずは抜ける床、次いで降り注ぐ槍に、狭い廊下を転がる大岩。いずれも定番のトラップ、難なく、というわけではないがそれなりに躱して進んで来れたのだが。
「まさかスライムが降ってくるとは思わなんだ……」
 それはおそらく、意図して『造られた』ものではなかったのだろう。故に、勘が働かなかった――今となっては虚しい言い訳だけれど。
 遺跡探索は常に危険と隣り合わせ、一瞬の気の緩みが命取り。
「それもまぁ、水場が近いという証拠だったんだろうがな」
 クツリと喉の奥を鳴らし自嘲を嗤った男は、寝そべったまま水滴らせる髪をかき上げた。スライムに塞がれた視界、取り除こうと足掻くうちに頭上から滝のように水が流れ込んで来ていて。ねっとりと張り付くものを引き剥がす頃には退路は断たれ、イチかバチかで身を滑り込ませた横穴を泳ぎ切れたのは幸運だった。
「だが、これでようやく」
 老いた男は目を伏せる。
 長年の経験が告げるのは、ここに目指す宝があるということ。それが具体的に何なのかは分からない、けれど『在る』ことは分かるのだ。人生の殆どをトレジャーハントに費やして来た者だけが持ち得る野生の能力。
「……引退出来る」
 けじめをつける為のヤマだった。選んだのは、未知の遺跡。長年連れ添った妻をそろそろ安心させるにはとびきりの土産が必要だと、難題と分かっていながら挑んだと自分の歴史を準えるように呟いた男は、淡く笑んで俯せる。
 そして勢いよく身を起こし瞼を押し開く――が、しかし。
「――っ!」
 期待に満ちたグレーの瞳が見開かれる。
 その眼が最期に見たのは、自分の頭目掛けて巨大な斧を振り上げるスケルトンの姿だった。


「男ってさぁ、何かと切欠を必要としたがるよねぇ」
 かくいう自分も男だけどさ、と蒼撃の星霊術士・エルシェ(cn0074)はケラリと笑う。
「そして冒険が大好きってのも、幾つになっても変わらない」
 アクエリオの地下にある広大な地底湖の水位が少しずつ下がり出し、水底に眠っていた古代遺跡が探索可能になっていて、それ目当てのトレジャーハンターが集まって来ているというのは既に知られた話。
「またアクエリオに来られるようになったら、オレも冒険してみたいなって思ってたんだよね」
 古代の邪悪な星霊建築によって生み出された、ゴーレム達や、危険な罠を命懸けで掻い潜るのはまさに浪漫! と嘯いた男は、自分に集まった視線を感じたのかコホンと一つ咳払いをすると、もちろんそれだけじゃないよ、と姿勢を正す。
「レディン・ケーシー、70歳。十代の頃からトレジャーハンターとして生きて来た男」
 ベテラン中のベテランとも言える彼が、遺跡の中で望まぬ最期を迎える瞬間を灰の瞳にエルシェは視たのだと言う。
 命の危険がある事は承知の上で遺跡に挑む猛者たち。なまじっかなことじゃ引かないし、諦めもしない。その姿勢は勇ましく美しいと思う。
「彼は引き際を探してるみたいなんだよ」
 老いた男は、自分に限界を感じたのだろう。愛する妻と穏やかな余生を過ごしたいと思いながら、終止符を打つ切欠を求めている。何もなしに辞められないのは、男としての矜持か意地か、はたまた冒険を希求して止まぬ心ゆえか。
「もしかすると遺跡の中で命を終えるのは、レディンにとっては本望なのかもしれない。けれど、彼が奥さんとの幸せなこれからを望んでるのも真実だと思うから……オレはここで彼を終わらせたくないんだ」
 余計なお節介かもね、と小さく笑い、でもそれがエンドブレイカーの性分だから仕方ないよね、と金の髪の男は気障ったらしく肩を聳やかす。
「ともかくだよ。レディンは命の危険があると分かって遺跡探索に挑むトレジャーハンター、しかも超ベテランの。だから危険だよって引き留めても耳も貸してくれないと思う」
 彼の足を止める唯一の手段はは、先んじて遺跡を制覇し宝を手に入れ、それを彼に知らしめること。
「まぁ、彼にしたら屈辱あーんど悔しくてキー! って気分かもしれないけど。死んでしまうより、ずっと良いとオレは思う」
 狙った獲物を奪われた事が彼の引退の引き金になるのか、それとも更なる冒険意欲を掻き立てるのかは、まだ分からない。でも、確実に分かっている結末を阻止すれば、新たな未来も拓けるだろうから。
「そういうわけで、誰かオレと一緒に宝探しに行かないかい?」
 キラリと光る男の目端。
 人命救助が第一なのか、それとも宝探しが本命なのか分からぬけれど、両方が一度に出来るのならば、まさに一石二鳥。
「あー、途中でずぶ濡れになる可能性があるから着替えも必要かなぁ? だけど荷物多いと抜けられない道とかありそうだしなぁ……転がる岩はどうやって回避してたっけ?」
 ぶつぶつと呟きながら既に心は冒険に旅立っているエルシェを眺めていれば、自然と心は浮き立ち始めるのだった。


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参加者
駆け出し鍛工・ナッツ(c00948)
森の妖精・ホリー(c02029)
至天狼・ユスト(c02236)
紫蝶・ルーンミリカ(c05152)
傾陽・イゼ(c06233)
花翔の風・テロス(c07527)
天嶺戀花・マグノリア(c09731)
風鳥の狩猟者・イツキ(c13562)
太陽の探求者・カルサイト(c13626)

NPC:蒼撃の星霊術士・エルシェ(cn0074)

<リプレイ>


「床、槍、大岩とか言ってなかったっすかっ!?」
「いや、そこはお爺さんの回想シーン的呟きだしっ、オレも詳しく憶えてないしっ」
 ズドズドズドッと頭上から降り注ぐのは、決して『濡れて行こうか』なんて洒落こみたくない鋼の雨。それに追いかけられながら駆け出し鍛工・ナッツ(c00948)の悲鳴じみた問いへ、足は必死に動かしながらエルシェは「ごめーん」と呑気に答える。
 二人並ぶのが精一杯の細い一直線の廊下。カンテラの灯に大きく揺れてひた走る人影は、十とオマケの二。
「――! 先にっ」
「ンな事、出来るわけないだろっ」
 列の最後方、純白に翻る袖を運悪く槍と壁に縫い止められた紫蝶・ルーンミリカ(c05152)の言葉を遮り、急速反転した至天狼・ユスト(c02236)はナッツに目配せする。
「気合のこもってねえ飛び道具なんぞ効かねえな!」
「その通りっす」
 紫蝶の乙女を庇う位置に素早く駆け込んだ二人の武芸者が仁王立って解き放つ裂帛の気合――が、しかし残念ながら微妙に風力不足。
「こうなれば予定通りなのじゃ!」
「うん、予定通り☆」
「ホント、予定通りだねー……うううううっ」
 巻き起こった風を貫き奔る槍の嵐に、天嶺戀花・マグノリア(c09731)はエルシェの腕を取り、取られたエルシェは空いてる方の手で風鳥の狩猟者・イツキ(c13562)をむんずと掴む。そのままマグノリアがぐるんと体を捻れば、円の一番外側に位置する八重歯が眩しい青年はあっという間に矢面ならぬ槍面最前線。
「がんばれー」
「ファイトだ、イツキ!」
「言ってるなら手伝ってよっ」
 背後からの無責任応援団のエールに、我武者羅に斧を振るって無数の槍と相対すイツキは率直に嘆く。斧の柄を握る手に響く重い手応えは冗談抜きで半端ない。
「泣き言とは情けないのじゃ――ふふ、負けないの!」
 ふわり、イツキと肩を並べ――身長は随分足りないけれど――ピンクの髪を舞わせたのはマグノリア。文字通り、華麗な蹴りでカカカカッ、と鋼の側面を器用に弾く。
「最初から自分で……」
「まずは人を盾にする事に意義があるのじゃ!」
 呆然、唖然。思わず零れた呟きに、呵呵とした笑いが木霊した。


 トレジャーハンター、レディン・ケーシーに先んじて訪れた遺跡は、緩いカーブの下り坂が延々と続いていた。
「念の為、頼んだぜ」
 随行する双子の弟にマッピングを託した太陽の探求者・カルサイト(c13626)は、楽しんでるか? とエルシェの顔を覗きこむ。
「まー、慣れてる君ら程じゃないかもだけど」
「何言ってる。眠れる秘法、行く手を阻む罠。浪漫の塊じゃないか」
 結局、最終的に槍迎撃に借り出され肩で息するエルシェの背中を軽く張って傾陽・イゼ(c06233)は、レディンが辞められないのも頷けるとカラリと笑う。だが、そんな男の顔は、次いで響いた森の妖精・ホリー(c02029)の愛らしい声にどよんと曇る。
「イゼのうさぎさん、かわいいの。さーちゃんとお揃い〜」
 ぽてぽてぽて。
 一行の最前列を行くのはウサギのヌイグルミと、ホリーの大好きな友達の妖精。
「あのお人形はイゼさんの骨董コレクションの一つ?」
 傾いた酒場の常連だったルーンミリカの紫瞳に興味深く見つめられ、イゼは口の端を上げて視線を逃す。四十路目前の男に妖精との並走が似合うぷりてぃウサギの取り合わせが、どれくらいシュールなものかなんて百も承知。女たちの邪気無き称賛のこそばゆさったらない。
 と、不意に。
 操り主の心理を察したように、ウサギが転んだ。
「細かい段差でもあるのか?」
 目を凝らしながらカルサイトが仲間たちに静止を促す。
「さーちゃん」
 ホリーに呼ばれ、薄水色の乙女がコンコンとウサギの周囲を叩いてみるがこれと言った変化はない。
「重さとか、関係あるんでしょうか?」
 繊細な容貌とは裏腹な大胆さで花翔の風・テロス(c07527)は周囲の壁をペタペタ撫でながら首を傾げた――その時。
 カチッ
 ガコンッ
 分かり易い音の連鎖の直後、イゼのウサギが突然床に口を開けた奈落へ飲まれる。
「……お前の犠牲は無駄に――っひょ!」
「!!」
 ガコンガコンガコンッ!
 抜けた床石は一枚だけではなかった。断続的に落ち、まずはウサギの冥福(?)を祈っていたイゼを巻き込む。
「イゼ……うわっ、っす!」
「せめてお前だけはっ!」
 背後へ飛び退りながらロープを投じたナッツの着地地点が崩れかけているのを見止め、ユストは第三の腕を差し伸べる。が、自身の足元も危うい。
「危ないっす、逃げてっすよ!!」
「あー……盛り上がってるトコ、申し訳ないが」
「!?」
 繰り広げられる男たちの熱い友情劇。だがしかし、それは最初に落ちたイゼの声によって遮られた。
「ここ、深さ2mもないぜ?」
「……」
 未だガコガコ鳴ってはいるが、よく見れば穴の底は直ぐ近く。あはーと笑ったクロービス、くるりと反転からの「えいっ☆」攻撃でエルシェを突き落す。勿論、落ちた男に怪我など一つもない。
「ふふ、楽しいね〜」
 しつこく響く崩落音に、ルーンミリカの笑い声がふわふわっと同居した。


 ゴッガガガガガッずん。
 迫り来る大岩は、そのものの迫力も凄いが聴覚への刺激も半端ない。
「どこだ!?」
「えっとえっと、確か……」
 カルサイトの問いに、エルシェは走りながら周囲を見る。欠けた壁、割れた石畳、生した苔の形が記憶を揺さぶる。
「ここだっ!」
「………」
「………」
「おひとり様用だしっ!」
 見付けた窪みは、人一人が隠れてやり過ごすのにジャストフィットサイズ=グループでのご利用はご遠慮頂いております状態。
 こうなれば、と足を止め身を翻した男達が素早く得物を構え――るよりなお速く。
「突っ込むよ!」
「はぁぁっ、なのじゃっ」
 ディノススピリットに騎乗して、文字通りテロスが突撃した。さらにはマグノリアも妖精の力を宿した鳴琴を振り翳していて。
 男性陣の矜持を道連れに大岩は見事砕ける。
「二人とも素敵」
「お姉ちゃんたち、かっこいいー……、……いきゃ!?」
 ルーンミリカと共に拍手喝さいを送っていたホリーの春色の瞳が見開かれ、彼女の全身を走った怖気と同調するように帽子のリボンが戦慄く。
「虫っ!?」
 最初に叫んだのは誰だったか。ともかく、破壊された大岩の中から、家庭の台所でよく見かける彼奴に良く似た虫が無数に這い出したのだ。
「波状の策か。ここを作ったヤツ、考えてるじゃないか」
「しゃあねえ、ここは任せて先に行け!」
 興味深げなカルサイトはさて置いて。黄色い悲鳴を上げて逃げ惑うレディたちをかき分けて、ユストがかっこよく虫たちに立ち向かう。
「えと、ホリー泣かないっ……別の意味で泣きたいけどっ」
「あなたの勇姿は忘れないっす……!」
 見る間に足元から虫に侵食されていくユストの姿に、この時ばかりは、と皆、涙を飲んで走り出す。
「グッドラック! 目印にバナナの皮を置いて行くわ」
「――は、へっ?」
「後で会いましょう〜!!」
 行く先を示す為に――多分――自分が置いたバナナの皮に、予定調和ちっくにユストが足を取られ、結果、虫たちに何処かへ運ばれて行く姿をテロスは未来を信じる――しつこいようだが、きっと多分――良い笑顔で見送る。
「……南無」
 イゼ、消え行く男の勇姿に心の底から両手を合わせた。
 君の犠牲は忘れない、永遠に。


「本当に、いっぱいだった、ね」
 ナッツに背負われ、未だくっついてるスライムをイゼに剥ぎ取ってもらいながら、ホリーはほわほわと数瞬前を回想する。
 ぼたぼたっと降って来たスライムの群れ。幼い少女は胸まで、小柄なルーンミリカも腰まで埋もれかけるその量に、一同はまたしても一人の生贄を残し窮地を脱した。
「にしても、女の子って凄いねぇ」
 主に道を拓いたのが暴走馬車ならぬ猪突ディノスだったことをしみじみイツキが零せば、何のことかとしらを切ってテロスは軽やかスキップ。
「ところで、エルシェを置いて来たのは失敗じゃったかの?」
 アレで一応道案内役だった男を思い出したマグノリアだったが、それも三秒経てばすっかり記憶の彼方。
 彼等彼女等が今進むのは上へ上へと続く螺旋階段。水責めの仕掛けが発動するより早くスライム楽園を突破したせいで、レディンの辿った経路と異なるゾーンへ突入したんじゃないか、というのはカルサイトの判断。
 そして注意深く歩み続ける事、十数分。目の前に開けたのは巨大な空間。おそらく遺跡の外観サイズとほぼ同等と思われるその部屋は、上がって来た階段出口付近と、中央部に組まれた丸い足場以外は水で満たされている。
「ひょっとしてアレじゃないっすか!」
 びしっ、とナッツの指先が示すのは、中央部の足場のど真ん中に分かり易く鎮座する宝箱。ぱっと顔を輝かせた14歳の少年、仲間の同意を得ようと振り返り……固まった。
「な、な、何してるっすか!」
 何を思ったのか、マグノリアが急に脱ぎ出したのだ。いや、確かに中央部へ渡るには泳ぐしかないが。でもでも、年頃の乙女が人前でなんてっ――と思いきや。
「今、しょぼーんってしたじゃろ」
「し、してないっす!」
 マグノリア、しっかり下に水着を着込んでいた。そんな淑女の影で縮こまるホリーにイツキが気付いたのは、大家族の長男坊らしい目端の利き具合のせいだろう。もじもじと足を交差させる様に戸惑いを見て取れば、下がり気味の目尻が更に下がる。
「捕まっていいよ?」
「……! ありがとう、なの」
 泳ぎを得手としない子供が大きな青年の申し出に顔を綻ばせた、その瞬間。
「待たせたなっ!」
 ガコンッ、と中央部の床石が一枚跳ね上がり、そこから顔を出したのはユスト。と、同時に、宝箱の周囲の床がゴンゴンゴンゴンッと4枚ほど勢い良く空へと飛んだ。
「なるほど、あっちの足場に異変が起きたらスケルトンが現れる仕組みになってんのか」
 そういや似たような罠があったとこもあったなぁ、とカルサイトは弟と頷き合う。何もないと思った所から敵が現れる、これも定番のお約束。
「なるほどなぁ、まさに遺跡からの挑戦状ってヤツか――って納得してる場合じゃない! 急げ!!」
 事態を把握出来ぬまま、4体のスケルトンに囲まれる男の姿に、イゼは気儘に遊ぶ髪を両手で後ろに流し水の中へとダイヴした。


「頑張って!」
 ルーンミリカの蝶の如き清き舞。男たちがザブザブ泳ぐ中、戦場を視認する女たちは遠距離から集中砲火を浴びるユストを援護する。
「おぅ、俺は何度だって立ってみせるっ」
「なんだか、ゾンビだらけに、思えなくもない、よ」
「どっちもどっちじゃな」
 骨と何度でも立ち上がる男の共演。放った妖精の矢が描く軌跡を追いながらぽつりと呟いたホリーに激しく同意して、マグノリアはあまり結びたくない想いを心の隅にそっとしまって友情の旋律を奏でる。
「でも、ユストさんの装備、防刃素材みたいで良かったですね。あわや大惨事です」
 しつこいようだが、とても可憐な容姿のテロス。けれど中身は悪戯の天才。クレヨン画的想像で描く無残な光景――とどのつまり、斧の攻撃で衣服がびりびりになった誰かの姿――をユストが知ってしまえば、彼女が番えたライフエナジーがスケルトンに与えるよりも多大な心理的ダメージに襲われたに違いない。
 そうこうしている間に、無事に泳ぎ着いた男達が戦列に加わる。
 カルサイトの断罪の女神の紋章を宿らせた拳が骨を砕き、イツキの斧が肉のない腕が振るうそれを弾き返し、しなやかな動作で背後を取ったイゼのナイフが頸椎を飛ばす。
 哀れかな、一人の老人を死に至らしめるはずだった宝の番人は、歴戦の猛者であるエンドブレイカー9人の前では頑是なき幼子に等しく。
「これで終わりっすー!」
 ナッツが薙いだ神火を宿す仄赤い刃の一閃に、元より命なきモノたちは、ただの骨へと帰した。

 そして皆で囲む、何やら不思議な文字が刻まれている宝箱。開けて大丈夫かな? との呟きに、泳いでなお全身にスライムの断片を残したままようやく合流した男が「平気じゃない?」と応えを返す。
「へぇ、俺的には罠の匂いぷんぷんだったけど、やっぱり読めると違うもんだな」
 カルサイトに褒められて、エルシェは早速宝箱を開けにかかるユストを横目に爽やかに笑む。
「いや、ただの勘」
 っちゅっどーん。
 仕掛けられていた爆薬に、今日一番冒険を楽しんだ男が放物線を描いて吹き飛んだ。落下先は、もちろんクッション代わりの水の中。
「南無南無」
 イゼに倣って、全員で合掌。君の勇姿は確かに心に刻んだ、ありがとう。


 ようやく辿り着いた遺跡。だが入り口に手をかけるより先に、中から聞こえた声に驚く。出て来たのは年端も行かぬ子供から中年の男までと色とりどりな面々で、気が付けばトレジャーハンターと見抜かれ囲まれていた。
 一番ずたぼろの男は、ワシの事を知っていたらしく、何やら訳知り顔で冒険は終わらない、引き継がれて行くもんだとか説いてくる。
 どうやらこやつ等、今日という日を区切りにしようとしている事を見抜いたらしい。
 弟子入りしたいと言い出した長身のオレンジ頭の青年は、今までのワシの経験を若人に話して聞かせ後進を育成してみるのなんてどう? と首を傾げ、一番同じ匂いがする太陽色の瞳をした青年は、ワシより先に宝に辿り着けた事に礼を言う。
「悪いなとかは言わねぇ。俺等若造はあんた達先輩の築いた道に倣って進んで来た――だから有難う」
 その声に、胸が不思議に痛んだ。それはきっと寂寥と歓喜がないまぜになったセンチメンタル。
 ふと見れば赤毛の少年が、どこか申し訳なさそうな感じで見つめていた。きっと宝を先に手にした事を申し訳なく思っているのだろう。ひょっとしたら譲ろうとさえ考えているのかもしれない。
「ありがとうな」
 気持ちは嬉しいが、それでは意味がないのだと告げる代わりに頭を撫でれば、一番小さな少女に、お疲れ様と労われた。
 そうか。
 もう、素直にお疲れ様で良いのかもしれない。
「おいおい、爺さんにはまだやる事あるんだろ? お宝を獲るよりも女のご機嫌取る方が難しいんだからよ」
「そうじゃよ、奥様いるのじゃろ? 待たせる色男ばっかりやってないで、一緒に何かやってみれば良いと思うのじゃ」
 少しばかり感傷に浸りかけたのを見破ったのか、最年長の男に軽く茶化され、古めかしい口調の少女に揶揄られて、妻の顔が浮かぶ。
 と、気配を感じて視線を落せば、足元にバナナの皮。置いた少女と目が合えば、孫とよく似た悪戯っ子の笑みが光る。
 あぁ、そうだ。
 悪くない、妻と共に、孫のような子らを新たなトレジャーハンターとして育成する日々も。
「あのね、こうして皆と一緒の冒険の思い出が私の何よりの宝物なの」
 踝まで届く白金の髪をサラリと揺らす子供のような女の笑顔に、ワシは同じ色の微笑を返した。
 彼らとの出会い。それはワシにとってキッカケとなる一頁。



マスター:七凪臣 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2012/06/20
  • 得票数:
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  • ハートフル3 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
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