ステータス画面

時詠みと水瓶の交差

<オープニング>

●時の交差
 10体の大トカゲを連れ、大きな数々の荷物を運び出す人影。
「おい、そっち終わったか?」
「この荷物で最後だ」
 大きな荷物はそれなりの重量だろう。しかし荷物を積まれる大トカゲはじっとして、その重さなど気にしていないように見える。それが当然の事のように、商人達も次々と荷物を乗せていく。
 中に詰め込まれているのは、ラッドシティ特有の懐中時計や歯車と言った遺跡から出土された物。
「ほら、アンタ達! とろとろするんじゃないよ!」
 大きな荷物を大トカゲに積み終え、真っ赤な髪の女性――カミラが声を張り上げる。彼等は彼女の声に返事を返すと、慌てて作業の手を早めた。
「……アクエリオか」
 強い眼差しを浮かべたカミラの口元が緩む。この旅路の先には、どんな事が待っているのだろう。

●水溢るる都市に向け
「ラッドシティの綻びは、未だに色々と残っているようだね」
 ふと、鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)はそう呟いた。ラッドシティの事件から1年ほど経ったが、やはり様々な問題が生じている。――だが、それがきっかけでラッドシティの文化は外にまで広がっている。商人達の手によって、外へと運び込まれているからだ。
「今回の話もその商人達の協力の件。復興の為にも、君達に手伝って貰いたい」
 ――アクエリオへの道程は長く険しい。大トカゲと共に荷物を運ぶ商人達だけでは、その道程を越える事は難しいだろう。どんな危険が待ち受けているかは分からない為、護衛が必要だ。
 そこで、優秀な衛兵であるエンドブレイカー達に声が掛かった。エンドブレイカー達ならばアクエリオでの口利きも出来る為、この役割に最適と判断されたようだ。
「僕だけでは、アクエリオの事はどうにもならないからね」
 アクエリオは加護により守られていた――その為、ユリウスはアクエリオの内部の事は分からない。口利きと云う点に置いて、他の者に頼らざるを得ないのだ。勿論、彼1人で戦いに勝利出来るとは限らない為、その点でも仲間は必要なのだが。
 悪いけどよろしく、と。彼は言葉を添えた。

 アクエリオへの道程は、大体1週間ほど。深い森を抜け、険しい山を登って行くことになる。
 森では獣やバルバの襲撃や、盗賊が現れる可能性も考えられる。彼等も自身の身を守るだけならば難しくは無いが、大トカゲと荷物があってはそれも難しい。
 山道ではうっかり足を滑らさないよう気を付ける事が必要だろう。1週間となっては天候も分からない為、危険が生じる恐れがある。また、大トカゲがバランスを崩した際は貴重な商品が壊れてしまう恐れもある。そう云った点でも、山道には注意が必要かもしれない。
「僕は旅に慣れているけれど、いつ何が起こるかは分からない。十分な注意が必要だ」
 1人で旅を続けていたユリウスはそう語る。自然に左右される道程は、確かに困難だ。――しかし、沢山の仲間達と共ならば大丈夫だろう。その事を彼は知らないのだが。
 戦闘や野営の際、商人達はこちらの指示に従ってくれる。食料や野営の道具等の必要な物は十分積んでいるらしいので、我々は旅路とその後に重点を置けば大丈夫だ。
「とりあえず旅が成功すれば良いけど、余裕があればアクエリオでの販売方法も考えて、アドバイスをして貰えると助かるらしいよ。ついでに、アクエリオの話もね」
 上手く商談が進めば、ラッドシティの復興に大きな助けとなるだろう。事前の情報収集は、エンドブレイカー達からしか得られないのだから。
 アクエリオの魅力をたっぷりと語るのも良い。長い長い道程、語る時間は存分にあるのだから。――ユリウス自身もアクエリオは初めてなので、注意する点などがあれば教えて欲しいと語る。

 折角の長い道程。旅そのものを楽しむのが良いだろう。
 普段は見る事の出来ない景色や仲間達とのひと時は、掛け替えの無い物になるだろうから。


マスターからのコメントを見る
参加者
月の剣に導かれし騎士・ローゼリィ(c00261)
蒼穹の箭・ルシエラ(c07486)
皎漣・コヒーレント(c12616)
紡ぐゆびさき・リラ(c14504)
右胸の虜囚・グリーフ(c15373)
彩獄カルナヴァル・エル(c22537)
烟霄・セティ(c29380)

NPC:鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)

<リプレイ>

●希望を詰めて
 都市から一歩出れば、そこは自然に溢れた世界。
 世界の瞳に勇士号――移動の手段を手に入れたエンドブレイカーにとって、都市間の徒歩移動と云うのは久々の話。しかし、人の手の入らない自然は徒歩ならではの魅力。
 振り返れば、ラッドシティの象徴である大きな時計が目に映る。
 新たな力、メイガスを手に入れた烟霄・セティ(c29380)は自然と表情が緩む。アクエリオからラッドシティへ……その旅路を再び辿る事に対して、自然と心が弾むから。けれどこれは任務だと思い直し、首を振り気を引き締める。――しかし、鎧の中の彼の様子を見て取れる者は誰もいない。
 トカゲに積まれた荷物がカタカタと立てる音に耳を澄ませ、紡ぐゆびさき・リラ(c14504)は楽しそうに笑う。この積荷に託された想いがどれだけ大切か……それが音から伝わるよう。
(「最後まで必ず守ってみせる」)
 誓うように胸の前で小さな手を握ると、傍を歩いていた鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)と視線が合い彼女は微笑む。その様子に気付いたユリウスは軽く会釈を返した。
 彼等とは反対側を歩く月の剣に導かれし騎士・ローゼリィ(c00261)は響く足音に。
(「旅芸人の一座と旅をしていたのはどれくらい昔かしら?」)
 ふと、そんな昔の事を懐かしむ。過去の記憶が鮮やかに甦れば、この旅への期待も高まるもの。
 一歩先を行く蒼穹の箭・ルシエラ(c07486)は、澄んだ青緑の瞳で警戒深く辺りを伺う。
「触らせていただいてもいいですか?」
 横でのそのそ歩く大トカゲをじっと見つめた後で、彩獄カルナヴァル・エル(c22537)は操るカミラに向けて尋ねた。驚かせない程度にねと笑う彼女に頷いて、彼はそっと大トカゲに触れる。
 頑張ろう、そんな事を語り掛けているかのように優しく優しく。そんなエルの仕草に、カミラは嬉しそうに笑う。外に詳しくない彼が旅の話を聞きたいと語れば、喜んで口を開いた。そんな彼等の会話に耳を傾けつつ、右胸の虜囚・グリーフ(c15373)は背後の気配を探る。
「ん? ルシエラ、花びら」
 微笑み、皎漣・コヒーレント(c12616)がそっと手を伸ばす。彼女の肩にひらり1枚、薄紅色の花びらを見つけたから。――これは春を告げる花だろうか。満開になっている頃かもしれない。
「あ、あちらからです! ね。少しだけ寄り道しませんか」
 ひらひら零れる花びらを掌で受け止めると、リラは踊るようにくるりと回り仲間を振り返った。
 こういった自然の発見も旅の醍醐味。少しくらいの寄り道ならば、旅に影響は無いだろう。
 ――笛の音は、一先ず鳴り響く事はなさそうだ。

●夜の語り部
 辺りが闇に包まれ夜が近付けば、旅を続ける事は危険を意味する。
 一行は先に目星をつけていた付近に到着すると、火を起こし野営の準備を行う。火の番や辺りの警戒は、勿論商人達も手伝うと名乗り上げてくれた。誰か1人に負担を強いる事はいけない。
 さらさらと付近を流れる川で、水分を補給する大トカゲ達。水辺で助かるよ、と。カミラは大トカゲを撫でながら笑った。――それは事前に皆で話し合い、より良い場所を考えたからの成果。
 ご飯を食べ終え、交代で彼等は眠りにつく。
 パチパチと燃える火の音が響く。昼は賑やかだった森の中は、僅かに音は聞こえるが静かなもの。
「クッキーと紅茶を用意したの。一緒にどうかしら?」
 荷物の隙間に忍ばせた物を、ローゼリィが手に取り尋ねる。ならばとメイガスから降りていたセティも、焼き菓子とコーヒーを振る舞った。
 エルとグリーフは2人で上着を被り寒さを凌ぐ。温かなカップを受け取り、暖を取るようそっと両手で包み込んだ。ふー……息を水面に吹きかければ、湯気がふわりと舞う。
「アクエリオ、実はそう詳しくないのですよね」
 紅茶を一口含んだ後、グリーフがぽつりと言葉を零す。
「アクエリオにはゴンドラがあります。私のゴンドラもありますよ」
 第一の特徴であるゴンドラを挙げるローゼリィ。その言葉に、ユリウスはへえ……と呟いた。
「商売が上手くいけばいいけどねえ」
 そんな事を言うけれど、カミラはからからと笑い心配する素振りは見せない。そんな彼女に向けて、セティは真剣な眼差しで口を開いた。
「商売のコツは分かりませんが。仕事や品への想い添えれば心動く筈」
 ――人々の想いは、都市が移り変わっても変わらないものだから。
 そのセティの言葉に、カミラはそうだね……とだけ呟き優しげな笑みを浮かべた。
 そのままセティは、カミラに旅の話を尋ねる。
「ラッドシティの文化を、他の都市にも広められたら嬉しいだろう」
 その為ならば、旅路すらも楽しく感じる。――交易品や仕事への想い。物の歴史や人の想いに触れる事が好きな彼の質問に、彼女は嬉しそうに答えてくれた。
 そんな彼等の様子を眺めつつ、上着の下でグリーフは小さな小さな声を零す。
「……旅立ちの時は、一人にしてごめんなさい。今度は離れなくて済むよう、行き先を選んだのです」
 すぐ傍で聞こえる声に、エルは瞳を瞬いた後気にしなくても良かったと。
「でも、嬉しいです。ありがとう」
 その心遣いは素直に嬉しいと。外は慣れないけれど、同じものを見れて良かったと心から想う。
 緑と銀の瞳が交差し、2人の間に少し柔らかな空気が流れる。
「……おなかすいた」
 唐突に口から漏れたグリーフの言葉に、エルの頬が僅かに緩んだ気がした。セティの焼き菓子に手を伸ばせば、疲労回復に良いからとローゼリィが氷砂糖を差し出してくれた。
 パキン――クッキーの砕ける音が響いたのは、誰のものだったのだろう。

●5体の刺客
 途中休憩を挟みつつ、深い森を突き進む。
 一瞬迷う事もあるけれど、地図を見つつ彼等はお互いに確認を取り道を選んだ。各々が仲間を、そして商人達を気遣いつつ歩く為、間に流れる空気はとても和やかだ。
「――!」
 先頭を歩くルシエラが異変を感じ身構える。ガサガサと茂みが動き、音を響かせている。
 敵か、動物か……その判断は音だけでは出来ず、一気に仲間達の間に緊迫した空気が流れた。
 パキリ! 枝の折れる音――それはとても大きな音だと思えば、現れたのは巨大な毒蛇だった。
「敵だ!」
 いち早く弓を構えルシエラが叫べば、コヒーレントが合図の笛を1回鳴らす。
 ピー……!
 その音を聞き、各々迎撃の準備をする。商人達の様子をセティは気にしたが、訓練された彼等は冷静なものだった。大トカゲも、パニックで逃げ出すような事は無さそうだ。
 現れたのは前方に3体。これなら、さほど苦労せずに迎撃出来るだろう。そう皆は思った。ならば早々に終わらせようとローゼリィが熱狂的な音を紡げば――。
「後ろからも……」
 常に警戒をしていたグリーフが、突然声を上げたかと思えば後方を駆けた。城壁のオーラを纏いつつ突進をする彼の目標――それは背後から現れた毒蛇へと見事に決まる。
「囲まれましたね」
 直ぐに斧を振るったオーラで追撃をしつつ、エルが呟く。勿論この事態を彼等が想定していなかった訳では無い。幸い敵はそれほど強くは無さそうだ。ならば――。
「大丈夫です」
 穏やかな笑みを浮かべたまま、リラは魔道書に手を添え衝撃波を撃ち出す。そのまま毒蛇は声にならない叫び声を上げ地に倒れた。心強い仲間と共ならば……彼女の言葉に、皆も力強く頷いた。
 商人達を庇うように立ち塞ぎ、セティは刃を持つ影を生み出すと新たな対象を狙い一気に引き裂く。追い打ちを掛けるようユリウスの伸びた鞭が敵を縛り上げ、ルシエラの矢が敵を射抜いた。
 ドサリ、ドサリ――。
 的確な彼等の攻撃により、敵は次々と倒れ痙攣するように長い身体を動かす。
「後方、1体倒しました!」
 グリーフが大きな声を上げ連絡をとれば、現状の敵の数も把握出来るもの。既に2体を倒した前方と合わせれば、残る敵は2体――鋭い牙を煌めかせ飛びかかる毒蛇。その対象が大トカゲである事に気付いたリラは、慌てて間に入り庇うように腕を広げた。
「くっ……!」
 鋭い牙が彼女の細い腕にしっかりと食い込み、毒を帯びた牙の痛みがじわりじわりと身体を襲う。顔をしかめる彼女の様子を見て、慌ててコヒーレントは治癒の紋章を描く。淡い緑の光がリラの身を包んだかと思えば、一瞬で彼女の身体を巡っていた毒が払われた。
「大丈夫、リラ?」
「ええ。コヒーさま、ありがとうございます」
 穏やかな視線を交わし合えば、2人は信頼の笑みを浮かべる。
 彼等の横を抜けるルシエラの無数の矢。ローゼリィの歌声が戦場に一気に響き渡れば、2体の毒蛇が苦痛に身をよじらせる。最後の1撃を――そう思いつつセティは刃の影を作る。纏う力の鎧によりその表情は仲間からは見えないが、彼の深い藍の瞳は真っ直ぐに敵を狙う。
 爆ぜるように影が毒蛇を切り裂いていく。同時に響き渡る悲痛の叫びは、後方からも――。
 セティの攻撃とほぼ同時。エルの巨大化した魔獣の腕が、後方の毒蛇を握り潰していた。
 息を整えるように呼吸をするエンドブレイカー達。転がる5体の巨大蛇の姿を見下ろし、まだ辺りにいないかとセティは辺りを捜索する。
 一瞬の出来事に、静かに観戦していた商人達は感嘆の溜息を零した。

●星の囁き
 長い旅路となれば、天候に恵まれ続けるとは限らない。
 深い森の危険を抜けた先に待つ、険しい山道。運の悪い事に、雨が降る中の道程となった。大荷物を抱えたトカゲを気にしながら、エンドブレイカー達は道を進む。
 ゴツゴツとした岩の足元は歩き難いけれど、靴にまで気を配って準備をしたエンドブレイカー達は、多少注意して歩めば大丈夫だろう。故に不安は商人達。
「お疲れではありませんか? 休憩しましょうか?」
「水辺……はないですよね」
 リラが気を配り声を掛ければ、落ち着ける場所をとグリーフが辺りを伺う。こんな岩肌の途中に、落ち着ける場所はあるのだろうか。雨に阻まれ視界が上手く利かない。
「大丈夫です、進みましょう」
 常に心配をしてくれるエンドブレイカー達に感謝を伝え、商人の少年が微笑んだ。
 一歩一歩確かめ進んでいる為、進みは遅い。――だがそのおかげで荷物が落ちる様子は無い。
 しとしとと降り注ぐ雨音が耳に届く。
 この山さえ乗り越えれば――。

 山の頂上に辿り着いた頃には、すっかり日が暮れていた。
 途中で雨は上がり視界は通るようになったが、足元が濡れていて歩き難い事に変わりなかった。
 普段の倍以上気を付けて歩いた為、皆々はどっと疲れが出たらしい。見張りの者を除き、今はひと時の安息をとっている頃だろう。雨の影響か湿気を含んだ空気が流れるが、空は澄んでいる。
「つい堅く考えてしまうのは悪い癖だな」
 寝静まった仲間達の寝息を聞きながら、コヒーレントは笑いつつ語る。色々な事態に備える事は良い事だよ、と。ユリウスは口を開いた。その会話に、カミラも頼もしいよと笑う。
 温かな紅茶とコーヒーをルシエラが配り、リラがガレットとジャムを配る。
 炎の揺らめきの側で、彼等は暖を取る。――身体と心の両方に。
「マスカレイド関係無く皆と過ごすのはどう?」
 ハニーティーに口付け、ルシエラはユリウスを見た。コーヒーの入ったカップを両手で覆ったまま、彼はたまにはこんな時間も良いかも、と冷静に語る。
「アクエリオの話だったよね。アクエリオは運河が巡ってるんだよ」
「それでゴンドラが?」
 身体を覆う白いファーに包まりながらコヒーレントが語れば、ユリウスは以前聞いたゴンドラの話を思い出す。それで移動するとリラは微笑みながら続けた。
「このガレットも、アクエリオで見つけたお店のものなの」
 是非ジャムを付けて食べてみてと、彼女は勧める。ユリウスは従うように控え目にジャムを付け口に含めば、自然なジャムの甘さとほんのり塩気を含んだ生地が、サクリと口に広がる。
「……うん、美味しい」
 頷き言葉を零す彼の様子に、リラは嬉しそうに微笑む。
「宝物眠る遺跡があったり、お茶目なアクエリオさまや皆も陽気で優しいですし……アクエリオはとてもいい街、だと思う」
 街並みを思い出しているのだろう。幸運の瞳を瞼で隠しつつ、リラは楽しそうに語る。美しいあの都市の話は、語れば尽きない。そんな彼女の様子にくすくすと笑い声を零しつつ。
「美味しい処も多いから一緒に行かない?」
 コヒーレントは遊びに誘う。1口ガレットをかじると、ユリウスはお勧めがあるならと呟いた。
 そんな彼等を、溜まった水溜りに触れつつルシエラは眺めた。この言葉も、空気も、全てが想い出へと積み重なる。柔らかく微笑み、紅茶の香りを胸いっぱいに吸い込む。
 ふわり――湯気が辺りを漂い、そのまま視界を上に向ければ。
「ほら、夜空が綺麗だよ」
 コヒーレントが指差す先は、満天の星空。それは星霊建築では無い、本物の星空だ。
 瞬く星々を眺め、少しくらい夜更かしをしても……と彼等は笑い声を零し合う。
「よろしければこの間行った星屑の回廊のお話をしましょうか」
 星に包まれた遺跡の事を思い出し、リラは涼やかな声で言葉を続ける。
 彼女の囁き声のような声に耳を傾けつつ、ルシエラは星を見上げては大切な人を思い返していた。星空を見て思い出すのは、決まってその人だから。
 寂しく無い訳では無い。けれど、約束があるから穏やかに待っていられる――きゅっと両手を握る。
 思わず笑みを零せば、仲間達の会話がまだ耳に届いてきた。

●水瓶
 険しい山を下れば、もう目的地である水の都市は目の前。
 あともう少し――そんな声掛けを行いつつ、適度に休憩を入れ彼等は道を歩んだ。商人やトカゲ達ともかなり打ち解け、信頼し合い、この旅路は楽しいものだったと。そう言えるだろう。
 けれどそれも、あと僅かで終わり。
「ほら、あれがアクエリオの水瓶だよ」
 前方を指差し、コヒーレントはユリウスに語り掛ける。まだ距離はあるけれど、確かに水瓶が確認出来た。水瓶から零れる水はなんとなく――だが、その象徴を見たユリウスの瞳は見開かれる。
「へえ……あれが噂の」
 努めて冷静を装ってはいるけれど、彼の瞳は輝いているように見える。年上揃いの仲間達は、彼のそんな様子に気付きこっそりと笑みを交わし合う。
「又、逢えれば良いな」
 そっと大トカゲに乗る商人達を見つめ、ルシエラが言葉を零す。気が早いよとカミラは笑ってみせたけれど、その想いは商人達も同じだから。
「……そうだね、アンタ達のように頼りになる人とは、また何か縁があると良いね」
 瞳を細め、珍しい穏やかな笑みを彼女は浮かべた。商談に対する心得に、アクエリオの情報はいくつか手に入れた。あとは彼等の腕の見せ所だろう。
「別れは寂しいけれど、またどこかで」
 鎧の中で、セティは静かに呟く。
 ふわりと吹く春の風。花々の香りに紛れて、水の香りが混ざっていたのは気のせいだろうか。



マスター:公塚杏 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2013/04/04
  • 得票数:
  • ハートフル7 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。