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あたまをからにするのです

<オープニング>

「殺すなら殺せ! 俺は死んでも、海賊のドレイなんかにゃならないぞ!」
 縛り上げられた木こりの青年が、やけくそじみた声で喚き、黒い毛をした羊のピュアリィ、クラウディアたちは顔を見合わせる。彼女たちは、森で作業をしている木こりを襲い、眠らせてアジトの洞窟に連れてきたのだが、眠らせたままでは奴隷にできない。しかし、誘惑したわけではないので、起こせば当然ながら反抗される。
「ころしはしないのです。せっかくつかまえたどれいですから。でも、ころさなくても、おとなしくさせることはできるのです」
 そういうと、黒毛のクラウディアは、いちばん小柄な一体に告げる。
「メア、うたえないおまえが、やくにたつところをみせるのです」
「はい、おねえさま」
 うなずくと、メアと呼ばれた小柄な黒毛クラウディアは、どこからともなく魔道書を取り出して開く。
「このじゅもんで、おまえのあたまをからにするのです。アムネジア・レイ!」
「うわーっ!」
 メアの指先から放たれた光線を浴び、反抗していた木こりは気を失って倒れる。そして間もなく意識を取り戻した青年は、うってかわっておびえた表情で呻く。
「ここ……どこだ……おれ……おまえ……わからない……」
「わからなくてもいいのです。おまえは、めいれいどおりにうごくどれいなのですから」
 黒毛クラウディアは冷ややかに告げ、そして他の木こりたちを見やる。
「おまえたちも、あたまをからにしてもらいたいですか? えんりょはいらないのですよ」
「う……」
 縛られた木こりたちは、表情をこわばらせて呻く。彼らを冷ややかに見下す黒毛クラウディアたちの腰には、木こりたちには見えない白い仮面が貼りついていた。

「黒毛のクラウディアが、木こりを眠らせてさらっていく光景を見た。しかも奴らは、反抗的な虜を、呪文で記憶喪失にして屈伏させるんだ。放ってはおけない」
 アクスヘイムの貴族領主で、世界の瞳の代理人のピエールが、蒼ざめた表情で告げる。
「以前、フローレンスが、奴らは凶暴なバルバより恐ろしいように思えると言っていたが……まったく、その通りだ。見ているだけで、背筋が寒くなる」
 本当に、もう、かなわないよ、と、ピエールは深く溜息をつく。
「とはいえ、自分で立ち向かうわけでもなく、その恐ろしい奴らを命懸けで倒してくれと君たちに頼んでいるのだから、弱音など吐いていられる場合ではないな」
 自分に言い聞かせるように言葉を継ぐと、ピエールは黒毛クラウディアの海賊団について説明する。
「奴らは全部で五体。全員が仮面持ちだ。四体は、人を眠らせる歌を歌う。強靱な木こりを一発で昏睡させる、恐ろしい歌い手だ。一体だけ、歌わない小柄な奴がいるが、こいつは魔道書を持っていて呪文を使う。私が見た呪文はアムネジアレイだが、他にも使うかもしれない。アジトは洞窟の中だが、それほど込み入った構造ではない。というか、入ったらすぐに行き止まりで、そこに敵と、虜にされた木こりが揃っている、という状況だな」
 アジトの場所はわかっている、と、ピエールは簡単な地図を描きはじめる。
「さらわれた木こりは五人。それ以外に、置き去りにされて山の中で無防備に寝ている者はいないようだから、そこは心配しなくていい。心配するとすれば、敵が虜を利用するかどうかだが……これは何とも言えないな」
 見た限りでは、せっかくさらってきた者を殺すことはないようだが、劣勢になればどう動くかわからない、と、ピエールは唸る。
「できれば木こりたちも助けてほしいが……君たちの身が危なくなるようなら、無理にとは言わない。どうか、恐ろしいピュアリィたちを撃退してくれ!」


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参加者
茨十字ノ黒キ鬼・シャルシィリオ(c01478)
銀月・アルジェン(c02363)
マッドティーパーティ・セイロン(c02416)
運命の慟哭・シン(c04331)
夜風・サスケ(c13730)
蒼穹の・エストレイア(c18166)
紅蓮猫の焔巫女・サラ(c27143)
流離う茨・ミァン(c29014)
花蝶守の黒狗・アキ(c31129)
白嵐の騎士・ウインザー(c31995)

<リプレイ>

●突入、そして強襲
「……まだ、起こしてない。羊同士で、ぼそぼそしゃべってるだけだ」
 ヒアノイズを用意してきた花蝶守の黒狗・アキ(c31129)が、マスカレイドのアジトとなっている洞窟の様子を窺い、一同に告げる。
「ならば、早急に突入ですね」
 銀月・アルジェン(c02363)が言葉少なく応じ、真っ先に洞窟へ飛び込む。続いて、紅蓮猫の焔巫女・サラ(c27143)流離う茨・ミァン(c29014)運命の慟哭・シン(c04331)が走り込み、アキ、マッドティーパーティ・セイロン(c02416)茨十字ノ黒キ鬼・シャルシィリオ(c01478)白嵐の騎士・ウインザー(c31995)蒼穹の・エストレイア(c18166)、そしてしんがりに夜風・サスケ(c13730)が続く。
「て、てきしゅう?」
「そんな……なぜですか?」
 完全に虚を突かれて呆然と立ちすくむ、黒毛のクラウディアたち。その中の、最も小柄で、見た目、最も無害そうな一体に向け、アルジェンは容赦なくグロリアスファントムを叩きつける。
「きゃー!」
「メア!」
 バトルトークで本音を吐く時を別にすれば、常に無表情で淡々と話す黒毛クラウディアマスカレイドが、珍しく悲鳴をあげ、珍しく愕然とした声を出す。
「なぜ、メアを……」
「アタシたちを、外見で誤魔化すことはできないわ。この子が、いちばん危険なのでしょう?」
 敢えて答えながら、ミァンが猛然と大鎌を振るう。メアの黒毛が散り、血が噴き出す。
「た、たすけて、おねえさま……」
「いま、ねむらせます。ひつじがいっぴき、ひつじがにひき、ひつじがさんびき……」
 四体のマスカレイドが、一斉に羊数え歌……恐るべき威力の睡眠歌を、アルジェンに放つ。二体分は防御したものの、二体分をまともに受け、アルジェンはよろめく。
 しかし、その間にシンが飛び込み、傷ついたメアを必殺のギガスグラップルで捉える。魔獣化した巨腕で、ぎりぎりと力任せに締めあげられ、魔術に長じた恐るべきマスカレイドは、その力を発揮できないまま、仮面を割られて息絶える。
「く……あ……」
「メア!」
「お前さんたちとは、前にもやりあったことがあるが、仲間を倒されて、そんなに泡を食うところは初めて見たな」
 小柄な黒毛クラウディアの潰れた遺体を、そっと床に下ろしながら、アキが尋ねる。
「それほど、こいつは特別だったのかい?」
「メアは……かいぞくの、おきにいりなのです……いえ、おきにいりだったのです」
 いつもの無表情、淡々とした口調に戻り、マスカレイドは応じる。
「うたがうたえなくても……じゅもんがつかえるものは、めずらしい、きちょうだ、つかえると。ふつうならころされるしくじりをしても、メアだけはころされないのです。そして、メアをたいせつにしていれば、わたしたちもころされない……」
 そう言って、マスカレイドは小さく首を横に振る。 
「でも、もうおわりです。メアをしなせてしまったら、たとえなんにんどれいをつれかえろうと、わたしたちはゆるされない」
「そうか。だが、どっちに転んでも、お前さんたちに、この男たちを連れていかせるわけにはいかねぇ」
 言葉の端に憐みをにじませながらも、アキはきっぱりと告げる。あいにく、バトルトークを忘れてきたので、突っ込んだ本音の対話はできないが、この状況でトークを入れても、痛切な嘆きを叩きつけられるだけだろう。正直、メアを潰した時、バトルトークを忘れていてよかった、と、思わず内心呟いてしまったのは内緒である。
 そしてセイロンが、四体のマスカレイドのうち、最も端にいる者に、ジャッジメントセイバーで斬りつける。続いてシャルシィリオが、殺戮衝動を解放する。
「可哀そうになぁ……たとえ勝って帰っても、粛清されちまう運命か。だったら、せめて最後は、俺と思い切り死合おうぜ。今生の名残に、ブチ撒けて、刻んで、楽しんで!」
 にんまりと笑って、シャルシィリオは告げる。
「あんたたち、本当に可愛いぜ。小悪魔ぽくってさ。そのちびっ子も、凄い力持ってるのに、使えないまま死んじゃうなんて、ダメすぎて、もう、信じられないぐらい可愛い。できることなら、俺が斬り裂きたかったよ」
「ちょ、ちょっと、あの、シャルシィリオさん……?」
 何か直観的に不安を感じたらしく、シャルシィリオの横に出ようとしたエストレイアが、少々怯えた声を出す。しかし、当然ながらシャルシィリオは、既に瞳孔を開き、血に酔ったような表情になっていて答えない。とりあえず、見なかったことにいたしますわ、と、エストレイアは気を取り直してマスカレイドに向かう。
「と、とりあえず、悪い羊はこらしめますわ。ええいっ!」
 轟音とともに、エストレイアはガントレットブレイドを振るう。続いてサスケが、十字剣で斬りつける。
(「もしも、俺たちに倒されなかったら……こいつらには、もっと悲惨な死が待っている。現時点では、そういうことだな」)
 無言で剣を振るいながら、サスケは思う。
(「エンドブレイカーは定められた運命を変えられる……しかし、こいつらに死以外の運命はない。ならば、素早く済ませてやるさ」)
 それを救いと称するのは、傲慢の極みだろうが、と、サスケは言葉に出さずに呟く。
 そして、つい先日、現在のサスケと似た思いを抱いたアルジェンは、むしろ殲滅の修羅と化すのが己の務めとばかりに、猛然とレイドバスターを放つ。
「貴方達を遣わした悪魔は……海賊は、何処に居るのですか?」
 最も傷の深いマスカレイドを火達磨にして倒し、アルジェンは冷徹と称してもよさそうな口調で尋ねる。
「言えませんか? それは、裏切りとみなされますか? しかし、仮面を被る前の者が居たら、助けに行けるかもしれない。こんな事を繰り返す海賊を、倒せるかもしれない。だから、敢えて問うのです」
 答えは期待できずとも、少しでも助けられる者が居る可能性があるのなら、と、アルジェンはマスカレイドたちを見据える。
 すると一体のクラウディアが、淡々と答える。
「かいぞくは、うみにいます。うみのなかの、しまにいるのです。しまから、ふねにのって、あちこちへいきます」
「……ありがとう」
 答えてくれるのですか、と、アルジェンは、むしろ哀しみを深くした表情で呟く。メアを殺し、貴方達の破滅を運命づけた僕たちのことを、恨んではいないのですか。それは、感情を殺されているからでしょうか。それとも、僕らが仲間を解放してくれるかもしれないと、一縷でも期待をしているのでしょうか。
 そして、後衛に立ち位置を定めたサラが、神楽舞を舞ってアルジェンの傷を癒やす。
「神火に依りて諸々の穢れを払い清めたまえ……ニャ!」
 アルジェンさん、傷が深いのに自分を回復しないのは危ないニャ、と、サラは案じ顔で呟く。むろん、回復すればGUTの上限が下がってしまうのだが、アルジェンが自分の傷を顧みずに攻撃に出た理由は、そういうものではないように、サラには思えた。
 続いて、ミァンが大鎌を振るい、シンがウィンターコールを放つ。
(「どうやれば、どこまで記憶喪失が出来るのか、聞いてみたかったけど……そんな余裕なかったな」)
 言葉には出さずに呟き、シンは骸と化したメアを見やった。

●砕かれた終焉
「ひつじがいっぴき、ひつじがにひき、ひつじがさんびき……」 
 三体になったマスカレイドは、まるで義務を果たすかのように淡々と、アルジェンに羊数え歌を放つ。一体の歌は防御したが、二体分の攻撃を受けてしまう。サラさんの癒やしがなかったら、危ないところだった、と、アルジェンは首を左右に振って眠気を払う。
(「彼女たちにとって、感情……思考と、義務遂行……戦闘は、まったく別のものなのでしょうね……」)
 こんな哀しい戦いを、長々と続けさせるわけにはいかない。たとえこちらも倒れる結果になっても、やはり迅速に終わらせなければ、と、アルジェンは厳しい表情で呟く。
 そしてアキが、ギガスグラップルで一体の仮面を砕く。
(「ああ、終わらせるさ……早いところ、な」)
 言葉には出さずに、アキは呟く。それが、今、できる最善の、そして唯一の行動だ。
 一方セイロンは、ごく淡々と、かつ峻烈にジャッジメントセイバーで攻撃する。こんな局面で、深く考えても動きが鈍るだけ、さっさと片づけてお茶にしましょう、というのが彼の信条だ。
 そしてシャルシィリオが、待ちかねたとばかりに飛び出し、ナイフを振るって斬りつける。一見、血に酔って衝動的に攻撃しているようだが、よく見ると、集中攻撃を受けているアルジェンをかばう位置に出ている。
「黒に赤って組み合わせ、俺と同じだな」
 血みどろのマスカレイドに向かい、炎・氷・雷の三属性の斬撃を放ち、シャルシィリオは嬉しそうに笑う。
「お揃いになって、キャッキャ騒ごうぜ。折角女同士なんだから、さ」
「……おまえは、たたかうのが、たのしいのですか?」
 斬りつけられたマスカレイドが、淡々と尋ね、シャルシィリオは即答する。
「ああ、楽しいさ。楽しくないことは、俺はやらないんだ」
「……うらやましい」
 表情は変わらないが、声に微妙な感情を覗かせ、血みどろのクラウディアは呟く。
「わたしは、わたしたちは、うたうのも、たたかうのも、こわいだけで、たのしくない……メアは、まほうをつかうのはたのしいといっていましたが」
「そうか」
 そりゃ気の毒だな、と、シャルシィリオは軽く肩をすくめる。
 そしてウインザーが、胸を張って叫ぶ。
「さあ、マスカレイド、覚悟しろ! 木こりさんたち、俺達が来たからには、もう大丈夫だよ!」
「……それ、言うなら、もう少し早く言うべきじゃなかったかな?」
 マスカレイドはもう劣勢だし、木こりさんたちは寝てるし、と、シンが小首をかしげながら突っ込むが、ウインザーは聞いちゃいない。なんせ、エンドブレイカーで天誓騎士とはいえ、まだまだ経験不足の年齢六歳の坊や、空気を読めといっても、それは無理だ。
 しかし、次の瞬間、マスカレイドにライトニングプリズンを放ったウインザーは、まるで自分が攻撃されたかのように、大きくのけぞる。
「な、なんだよ! 悪いのは、お前たちじゃないか! マスカレイドなのに、なんでそんなに怯えてるんだ! これじゃまるで……」
「自分たちが弱い者いじめをしているような気がしてしまう、か?」
 やれやれ、バトルトークでクラウディアの本音をぶつけられたな、と、アキが小さく溜息をついて振り返る。
「そうだな。覚えておくといい。マスカレイドでも、酷い悪事をしていても、実は他人に強要されてるとか、腹が減っていただけとか、本人には全然悪気がないことがあるんだ」
 柄にもなくエラソーなことを言ってるな、と自覚しつつ、アキは震える少年騎士に告げる。
「だが、相手がマスカレイドで、俺たちがエンドブレイカーである以上、許すわけにも、逃がすわけにもいかねぇ。どんな思いをぶつけられようと、揺るがず倒すのが、俺たちの務めだ」
「う……」
 涙目になって、ウインザーはアキと、自分が攻撃したマスカレイドを、交互に見やる。
 一方エストレイアは、委細構わずガントレットブレイドを振るう。
(「……誰が何をどうしようと、私は私の為すべきことを為すのみですわ」)
 反省も悔恨も、必要ならば後ですればよいこと、戦闘中に持つべきは強い遂行の意志、と、少女は表情を引き締めて呟く。
 そしてサスケも、内心の思いはともあれ、少なくとも外見上は無言、無表情で敵を斬る。稲妻の闘気を篭めた太刀で両断され、更に一体のマスカレイドが仮面を砕かれて倒れる。
「のこるは、わたしひとりですね」
 血みどろのマスカレイドが、淡々と呟く。
「ころされるのは、こわいけれど……こんなことが、ずっとつづけられるはずもないのです。どうか、おわらせてください」
「……望み通りに」
 呟いて、アルジェンがレイドバスターを放つ。強烈な火炎の斬撃を受け、マスカレイドは仮面を砕かれて倒れる。
 そしてミァンが、小さく溜息をついて告げた。
「彼女たちの遺骸は、アタシが薔薇に変えるわ……それでいいでしょう?」
「お願いします」
 アルジェンが深々と頭を下げて応じ、ミァンはメアを手始めに、マスカレイドたちの遺骸を薔薇に変えていく。生じた薔薇は、漆黒に近い濃い紫の蔓薔薇で、一つ一つの花そのものは小さいが、いくつも花をつける小さな茂みとなった。
「……綺麗なもんだな」
 一体化して洞窟の片側を埋める、マスカレイド五体分の蔓薔薇の茂みを見て、アキが小さく呟く。
 一方、サスケは洞窟を出て煙草に火をつけるが、一服だけして、後は立ち上る煙を見やる。
「救われなかったあいつらが、許されてもいいじゃねぇか……なんて、な」
 呟くサスケの背中に、洞窟の中からシャルシィリオが遠慮会釈のない声をかける。
「おい、何やってんだ? 寝てる木こりを村まで運ぶぞ。手伝え!」
「マスカレイドに寝かされた人は、目覚めのミントティーを淹れてあげても起きないんですね。はじめて知りました」
 あははー、というセイロンの笑い声に、サスケは小さく溜息をつくと、煙草を線香のように地面に立て、洞窟に戻る。
 後は、煙だけが空に昇っていった。



マスター:秋津透 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2012/07/21
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