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とってもきけんなみずうみのたび。

<オープニング>

●とってもきけんなみずうみのたび。
 夏の輝きすべてをあつめたみたいに、涯てなく広がる空は眩いほどの鮮やかな青に染まる。
 強く照りつける陽射しを受けとめる大地は何者にも遮られることなく広がって、遥か遠い彼方で天と交わる地平を見遣れば、鮮やかな蒼穹に湧き立つ輝くように白い雲が見えた。
 乾ききった赤褐色の荒野は世界の果てまで続くかに思われたけれど、辺境の大地の雄大さとその自然の懐の広さは都市国家の内部しか知らぬひとびとの想像を遥かに超える。辺境には豊かな森も峻険な山々もあれば、滔々と流れる大河も蒼穹の雫のごとき水を満々と湛えた湖もあるという。
「ああ良かった! それなら辺境の旅の間でもばっちり水遊びできるねガブたん!」
『ガブー!』
 紫煙群塔ラッドシティからの旅立ちを控えた青年は、辺境を渡った経験を持つ隊商の話を聴いて、にこーっと幸せそうに笑み崩れて傍らの大トカゲを撫でた。嬉しげに鳴いた大トカゲはがぶっと彼の腕を甘噛みする。
「何せガブたんは週に一回、半日は水遊びしないと働けないもんね! 湖があるなら勝ったも同然、これで無事辺境も越えられるよ!」
『ガブガブー!』
 青年が御機嫌で荷を積めばやっぱり御機嫌で彼の肩を甘噛みする大トカゲ。
 彼こそは成金で知られるサバーフ商会の三代目・アンバル三世。典型的な商家のぼんぼんだ。
 そして隣にいるのが週一度は半日水遊びさせないと仕事をしない彼の愛トカゲ・ガブたん。名前の由来はもちろんこの噛みグセだ。
「アホかお前。そんな面倒なヤツじゃなくて、もっと大人しくて躾の行き届いた大トカゲ連れてけよ」
「ええっ!? そんな、ガブたんと離ればなれになるなんて耐えられないよ!!」
 心優しき友の親切なツッコミに、アンバル三世は大いに戦慄した。
 何せ目的地たる水神祭都アクエリオまでは一週間以上の道程だという。そんな長い間ガブたんにがぶがぶしてもらえないなんて、きっとガブたん禁断症状が出てしまう! 僕だけじゃない、ガブたんだってそうに違いない!!
「ねー? ガブたん!」
『ガブー!』
 満面の笑みで振り返ったアンバル三世は、思いきり顔面をがぶがぶされた。
「ったく、しょーがねぇなお前。隊商の護衛はエンドブレイカーさん達が引き受けてくれるらしいから、ちゃんとお願いしてこいよ?」
「もちろんだよ! 道中だけじゃなくて、ガブたんが水遊びする湖にも危険がいっぱいだろうしね!」

 たとえば、ガブたんの愛らしさに嫉妬したダイノフロッグが襲いかかってきたり!
 水辺で楚々と咲き群れていたマントラップフラワーが突如ケタケタ笑いながら牙を剥いたり!
 湖畔にクラーリン帝国(総人口:五名)を築いているクラーリン達が、『そこの超プリティな大トカゲを帝国のアイドルにさせてもらうでゲソ!』って槍を手に突撃してきたりしちゃうかも!!

「きっとこんな危険が待ってる! 気がするんだ!!」
「……うん。お前アホだけど、俺お前のその妄想力は嫌いじゃないわ」
 こんなダメっこの護衛でも引き受けてくれるエンドブレイカーはいるのだろうか。
 心優しき友はアンバル三世の旅立ちを案じた。
 ――が。

●さきぶれ
「はいはいはーい! アンジュも、アンジュもガブたんとの旅につれてって……!!」
 光の速さで立候補したエンドブレイカーがいた。
 日々ディノスピリットを乗り回してぶいぶいいわせている扉の狩猟者・アンジュ(cn0037)。
 もし星霊術士だったら間違いなく星霊ジェナス呼びまくりだったアンジュ・ブローデア二十歳。
 がぶがぶ噛む動物が好き!
「んでも当然アンジュひとりじゃ無理だから、みんなもガブたんとの旅に行こうよ! 行こうよ!」
 陽に透かした蜂蜜色の瞳をきらきらさせて、アンジュは旅人の酒場で同行者を募った。その掌には何かやたら可愛らしい黄色い物体があるがその説明は後だ。

 要は、貴族領主シメオンが提唱した、水神祭都アクエリオとの交易を担う隊商の護衛募集である。遺跡から出土したラッドシティならではの品を積み、都市国家間の辺境を渡る隊商。彼らをあらゆる危険から護るのが護衛の任務だ。
 護衛対象は商人のアンバル三世と、彼が連れていく大トカゲ八頭。中でも最重要大トカゲは、彼の愛トカゲ・ガブたんである。
 道中で遭遇するだろう危険については、油断なく護衛を務める限り、みんなの腕なら回避するのも撃退するのも困難ではないはず、とアンジュは語った。この旅で一番の問題になるのは――。
「四日目の朝に到着予定の湖だと思うの!」
 週に一度、半日の水遊びを欠かさない愛トカゲ・ガブたんのため、依頼人アンバル三世はその湖で朝から夕方まで心置きなくガブたんと水遊びをする予定でいる。波打ち際で追いかけっこしてみたり、透きとおった水の中に潜って紫水晶みたいに煌く魚たちと戯れてみたり、湖畔に自生しているらしい瑞々しい桃や無花果をおなかいっぱい食べてみたり。
「んでも、辺境の湖だもの危険がないわけがない、っていうかいっぱい危険があると思うんだよ!」

 たとえば、水遊び中のガブたんに気の荒いバルーンフィッシュが突撃してきちゃうかも!
 隊商を狙うついでに湖畔で優雅にバカンスしちゃってる盗賊たちと鉢合わせしちゃうかも!!
 それか――波打ち際でラミアに誘惑されたアンバル三世さんが『捕まえてごらんなさ〜い』『ハハハ待てよこいつぅ〜』的なきゃっきゃうふふで拉致られちゃったらどうしよう!!!

 湖ではこんな危険が待ち受けている! 気がする!! きっと他にも色々わんさかと!!!
「辺境の湖ですごす朝から夕方まで、如何にしてアンバル三世さんとガブたん達を護りとおすか……。これが今回の旅最大の山場になると思うんだよ!!」
 ずびっとアンジュが断言した。
 逆に言えば、この山場を問題なくクリアできるほどの逸材ならば、危険な辺境越えの護衛も華麗に見事に成功させてしまえる! はず!!
「そうそう、アンバル三世さんがね『仰々しく護衛されてるとガブたんが寛げないので、皆さんもきゃっきゃうふふ楽しく遊びながら護衛してください! 護衛と書いてバカンスと読む、って感じで!!』って言ってたの。依頼人さんからの要請だもん、しょーがないよね?」
 遊びも護衛も全力投球で行こうね! と暁色の娘が無茶振りをした。

「んでね、アンバル三世さんが運ぶ交易品が――これなの!」
 何故かやたら誇らしげにアンジュが掌の黄色くてやたら可愛い物体を披露した。
 それは水にぷかぷか浮かぶアヒルちゃん人形だった。
 だが当然、ただのアヒルちゃんではない。
「何とねこのアヒルちゃん、ここに巧妙に隠されたネジを巻くと、水面でくるっと華麗にターンしたり目がきゅぴーんって光ったりするの! 名づけてアヒルちゃんDX!!」
 もちろんこれは古の叡智の結晶たる機械仕掛けによるものだ。
 水面で華麗な技を披露するアヒルちゃんDXは、きっと水神祭都で絶賛されるに違いない!
「んでもね、もしアクエリオに何かツテがあるひとがいるなら、アンバル三世さんに紹介してもらえるといいなぁって思うの。コネとかあればより有利な条件で取引できると思うもの」
 そして――紹介するなら、もちろん商品を知っておかねばならない。
「ってなわけでね、アンバル三世さんからもね『よければ湖でアヒルちゃんDXをお試しください』って言ってもらってるの!」
 これはもうめいっぱい遊んでがっつり護衛するしかないよね!
 拳を握って力説し、アンジュは嬉しげに笑みをほころばせた。
「あのね、そうやって無事に旅を終えられたら、また逢おうね」
 遊びも護衛も全力でやり通せたなら――幸せな気持ちで語り合える夏の思い出になるだろうから。


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参加者
菫埜・フィアールカ(c00443)
ラーラマーレの星霊建築家・カナタ(c01429)
ラピュセル・アルトリア(c02393)
万華響・ラヴィスローズ(c02647)
操獣鞭・リース(c02980)
翡翠四葉・シャルティナ(c05667)
ナクレの暈・フォシーユ(c23031)
翠の花冠・シャローム(c24664)
目指せ二代目サメ娘・ユースフィラ(c29293)

NPC:ちびっ子ディノ暴走族系狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●とってもきけんなみずうみのあさ。
「わかる、わかるのだぞ! 未知の都市への旅だからこそ一番大事な相棒と往きたいんだなっ!?」
「そうだよ、そうなんだよ! ああユースフィラさんならわかってくれる気がしてました……!!」
 乾ききった荒野を渡り、山を越え森を越えるうちに、目指せ二代目サメ娘・ユースフィラ(c29293)とアンバル三世は十年来の親友のごとくわかりあった。何しろ二人はずっと星霊ジェナスとガブたんに後頭部をがぶがぶされっぱなしだ。
 紫煙群塔からそんな旅を続けて四日目の朝。
 夏空みたいに真っ青な水面にきらきらと光が踊る湖が、彼らの前に姿を現した。
「ボクは一日一回は水の量を気にせずに水浴びかお風呂に入らないと働けないんよー!」
「ハハハ御冗談を! だったら旅の二日目にはダウンしてるじゃないですかー!」
 朝の光に輝く湖を前に感極まったラーラマーレの星霊建築家・カナタ(c01429)の言葉を大袈裟な冗談と受け取って、アンバル三世が暢気に笑う。
 辺境の自然は多様だが、なんといってもその大地自体が広大すぎる。この湖に関しては幸運にも事前情報があったわけだが、そのような幸運なしに贅沢な水浴びが可能な水場を『毎日』確保するなんて、辺境の旅では奇跡に等しい。
 楽しくも如何にも辺境らしい旅にカナタはへばり気味。けれどまだ倒れるわけにはいかない。彼には翡翠四葉・シャルティナ(c05667)の期待に応え、朝食のパンケーキを焼くという使命がある。
「骨付き肉みたいな形に焼いちゃうよ!」
「わあ、かっこいいのですよー! 白桃ジャム乗せて食べるです!」
 なお、辺境の旅に生卵を持ってくるのは現実的でなかったため、本日の朝食には誰かがどこぞの製菓市で調達してきたパンケーキミックスが使われている。
「いい匂い! わたしも御一緒させてくださいね」
 香ばしい匂いに頬を緩め、翠の花冠・シャローム(c24664)が早速手伝いを買って出た。が、ぽんとフライパンのパンケーキをひっくり返した瞬間、いきなり上空から急降下してきたオオワシが骨付き肉型パンケーキを引っさらう。
 朝食の危機に逸早く動いたのはラピュセル・アルトリア(c02393)、
「肉を狙うオオワシがいそうな気はしてましたが、骨付き肉型パンケーキが奪われるなんて!」
 朝食抜きのエンディングなんて、打ち破って見せます! と言わんばかりに彼女の大剣が唸れば、涼やかな湖の風を巻き込んだ竜巻がオオワシを直撃する。
「朝ごはん……奪還完了」
 澄んだ朝空に舞ったパンケーキを鞭でしゅるんと絡めとり、操獣鞭・リース(c02980)が瞳を細めた。
 菫埜・フィアールカ(c00443)の蜂蜜やシャルティナの白桃ジャム、甘い煌きでパンケーキを彩れば朝のひとときも幸せに彩られる。野生のフルーツや綺麗な花を見つけられれば素敵、と話も弾んで、片付けを終えれば早速行動を開始した。
 護衛と荷物番は交代制、何処へ行く時にも必ず複数名で行動すること。それがみんなのお約束だ。
 瑞々しい果物を求めて旅立ったのはナクレの暈・フォシーユ(c23031)とアルトリア、最初に出逢った桃の木ではサル達に襲われたけど、所詮アルトリアの竜巻やフォシーユの氷雪の嵐の敵ではない。問題はその次だった。
 ――甘い香りがする。
 先程収穫したばかりの桃とは異なる、胸にきゅんとくる甘い香り。
 誘われるままフォシーユは茂みへ分け入った。彼の聴覚はその奥の微かな音を捉えている。更に強まる香りに予感した。この奥にはきっと、キラーアッ……
「ポゥ!!」
 予感していたにも関わらず、リンゴの怪物と鉢合わせした彼は思わずエレガントな叫びを披露した。
 金彩と若緑の宝石煌く氷剣で瞬時に大地を凍らせ、キラーアップルと氷上の決戦に臨んだ少年が華麗なアクセルジャンプを決めた、その瞬間。お花探しに向かった面々も危険に遭遇していた。
「わあ、お花が咲き乱れてる……と思ったら、マントラップフラワーの群生地!?」
 透きとおった湖水の冷たさに大はしゃぎのガブたんやアンバル三世と一緒に、水飛沫跳ねあげつつ波打ち際で戯れていたフィアールカが心ならずも危険なお花を発見してしまう。
 不気味にケタケタ笑う巨大花達をきゃあきゃあ叫びつつ乙女達が迎撃。妾のミラちゃんもがぶがぶ大好き、と万華響・ラヴィスローズ(c02647)が召喚した星霊ジェナスの津波を受けて、フィアールカは一気に迸らせた魔法の霜でマントラップフラワーの氷中花を作りあげた。
 涼しげで素敵なのですよ〜と拍手した次の瞬間、シャルティナは危険な気配を察して湖を振り返る。青く澄んだ湖面が大きく盛り上がったかと思えば、
「来たですよ! きっと避暑に来たバルーンフィッシュさんです!!」
 水中から何匹ものまんまるな魚たちが突撃してきた。
「きゃー! 危ないラヴィスローズちゃん!」
 即座にラヴィスローズへ抱きつくちびっ子ディノ暴走族系狩猟者・アンジュ(cn0037)。
「ど、どうしたのじゃアンジュ殿!?」
「実はねアンジュ、誰かさんに『ラヴィスローズ殿をくれぐれも宜しく』ってお願いされたの!」
 ちなみに『バルーンフィッシュが出ると、皆きっと喜んで飛び込んで行きそうなので』とも言われた。ほのかに頬を染めつつ、少女は薔薇色の瞳をきらきらさせて危険に立ち向かう。
「シャルティナ殿、アンジュ殿、トリプルがぶがぶをお見舞いしましょ!」
「準備おっけーですよ! 行けるですかアンジュさん!?」
「ばっちり!」
 優美な白鮫達が空に湖に躍り、津波に乗った金の恐竜が駆け、トリプルがぶがぶあたっくが炸裂。
 ひとまず平穏を得た湖畔を見渡せば、ローズマリーやミントにオレガノが色とりどりの可憐な小花を咲かせ、花の大きさや色彩も多種多様な百合が辺り一面に咲き溢れていた。

●とってもきけんなみずうみのひる。
 空の色映す湖で嬉しげに水遊びをする大トカゲ達に気を配りつつ、シャロームはガブたんの身体を撫で撫でぺたぺた。冷たい湖水に濡れた膚はしっとりひんやり心地好い。アルトリアがそっと掌を差し出せば、その匂いを確かめたガブたんはちらりと彼女の顔を窺って、甘くかぷり。
 翠の瞳をまるくしたシャロームが、わぁ、と羨ましそうな声をあげれば、彼女の肩もかぷかぷかぷ。
「きゃー! がぶがぶされちゃった!」
「擽ったいですね……!」
 歓声をあげる少女達の傍にはアヒルちゃんDX。ぷかぷか浮かぶアヒルはきゅぴーんと瞳を光らせ、きゅるんっと愛らしく鋭いターンを披露した。
「これがラッドシティの実力……」
 古の叡智に感動したリースが僅かに瞳を瞠れば、視界の端に魚たちの煌き。
 追いかけようと誘えばアルトリアもシャロームも二つ返事、アンジュも迷わずディノの背から水面に飛び込んで、そしてガブたんまでついてきた。
「活き活きするアンジュを見ると、私も楽しくなる……よ」
「アンジュも動物と楽しそうにしてるおねえさま見るの好きー!」
 透明な水飛沫あげて水に潜れば、そこは明るく澄んだ青の世界。
 水面から射す光の森の中を生きた宝石みたいな魚達が自由気侭に泳ぎまわる。自身も魚になった心地で柔らかに身体を撓らせ、リースも水中世界を翔けた。
 湖底まで潜ったシャロームは黒銀色の砂の合間に綺麗な石を見つけて破顔する。綻んだ口元から零れた気泡がきらきら昇って行く様を瞳で追えば、水面へ浮かびあがっていくガブたんが見えた。
 ぷかりと湖面にガブたんの背が浮けば、何者かがそこへ泳ぎよっていく。
「島でち!」
「きっと宝島でち!」
「宝島は我々ちたちた団がもらったでち!」
 何処からか現われたちたちた団ことチッタニアン達がガブたんの背に上陸した!
 ――が。
「しゃーっはっはっはっはっはぁ! 来ると思ってたのだ、ちたちた団!」
 豪快な高笑いを響かせたユースフィラが湖面に投げた大剣に飛び乗って、大剣が起こした派手な波ごとざぶーんとチッタニアン達に突撃する。
 潜水していた面々が戻ってきた時にはもう彼らは撃退された後。だが敵襲はここからが本番だ。
「アンジュ! 面白そ、いや大変な事件だ! ガブさんが何かでっけぇイカ足食ってる!!」
「ほんとだもぐもぐしちゃってるー!?」
 天藍映す瞳の青年の言葉で娘が振り返った、その瞬間。
「ふはははは! この超プリティな大トカゲは我々クラーリン帝国(総人口:5名)が頂くでゲソ!」
 もぐもぐしてるガブたんの傍の湖中からざばぁとクラーリン達が現れた!
 既に足が一本足りないクラーリンが勝ち誇ったように宣言すれば、今度は反対側からざぶんと水柱あげて新手が現れる。
「げはははは! ならば俺達クラーリン王国はこの人間を頂くでゲソ!」
「僕なの!?」
 白いイカ足に腕を取られたアンバル三世が驚愕した。
「そういえば、屈強な紋章士さんが『クラーリン帝国の打倒を目論むクラーリン王国(総人口:5名)がアンバル三世を攫うかも』って……!」
「だいじょぶ、王国だろうが帝国だろうがぶっ飛ばすのみです!」
「ん……ガブたんもアンバル三世も……渡さない」
 魔道書を繰ったシャロームが強烈な力の奔流をぶっ放し、衝撃が起こした波濤を目眩ましにしたリースが激しい銃撃の連射で次々イカ達を蜂の巣にしていく。更にはアルトリアの竜巻が彼らの足をぐるんぐるんにしたが、国を挙げて襲ってくる彼ら(両国合計で総人口:10名)は数で押してくる。
 だが、湖畔から水面を氷結させて駆けつけたフォシーユの参戦で戦況は一変した。
「どんな危険も打ち破る。それがエンドブレイカーです!」
 彼のオーロラ纏って叫ぶのはアルトリア、凝らせた力を解放すれば、凄まじい暴風が帝国も王国も蹴散らしていく。勢いに乗った乙女達が息つく間もなく攻撃を叩き込み、フォシーユが吹雪を呼べば、夏の陽を受けきらきらと虹の光を散らした雪と氷が彼らを氷に閉じこめた。

●とってもきけんなみずうみのくれ。
 湖の中で冷やされたフルーツは、この季節とびきりの御馳走だ。
 居心地好い日陰を作るのはフォシーユが張った日除け布。やはり湖で冷やされた清涼感たっぷりのスペアミントティーも彼が淹れたもので、湖の風が吹き抜ける日陰で冷たいそれを飲めば、すうっと汗引く爽快感に夏の幸せを感じられた。
 朝に花を摘んだ乙女達は時にここで花冠を編み、時に湖で水遊びをし、夏の水辺を満喫する。
「……えい」
「きゃー!? シャロームさんー!?」
「わわ、反撃なのじゃよ!」
 こっそり忍び寄ったシャロームに首筋へ水をかけられたフィアールカが歓声をあげる。水飛沫を舞い散らせたラヴィスローズがふと見遣れば、湖畔の木立から小さなワニが飛び出してきた。
 妙にすばしっこいワニは一番弱そうな人物をしゅびっと取り囲む。
「この人間、肉持ってそうニャ!」
「おいお前、ジャンプしてみるニャ!」
「え、僕ですか!?」
 素直にアンバル三世がぴょんぴょん飛べば、肉ではなくアヒルちゃんDXがわらわら零れた。
「やっぱりニャ!」
「その鳥いただきニャー!」
 アヒルちゃんDXのピンチ!
「そういえばハンサムトラップヴァインさんが、『湖に寄った人をカツアゲするちびっ子ワニの暴走族がいるぞねって聞いたぞね』って……!」
「ぞねの人情報!? けどワニさんって『ニャ』ってしゃべるのじゃね?」
「ふふ。そのカラクリ、お姉さまにはお見通しだよ……」
 戦慄するアンジュとラヴィスローズの頭をぽふぽふ撫で、リースがワニではなく木立へと鞭を揮う。九尾に分かたれた鞭が茂みを打ち据えれば、
「ば、ばれたニャ!? うわああん野郎ども撤退だニャー!」
 慌てて飛び出してきたフェルプールが泣きながらワニと一緒に逃げていった。声をあてていたのもきっと彼女だ。ワニを飼ってるフェルプールが来るかも、と予感していたリースは達成感に浸った。
「ねえ、そろそろアヒルちゃんDXレースしようよ!」
「トーナメント戦とかどうでしょかっ?」
 零れたアヒルを拾い集めたカナタと、ちょっぴりへたっぴだけどたっぷり愛のこもった皆の似顔絵付トーナメント表を手にしたシャルティナの弾んだ声に、アンバル三世が首を傾げる。
「ダックレースって普通アヒル人形を川に流すんですよね? ここ湖だし、アヒルちゃんDXには推進力とかないんですけど、どんなレースになるんですか?」
「……あれ?」
 緊急会議の結果、次のように決定した。
 ガブたんを筆頭とする大トカゲ達八頭がじゃぶじゃぶ湖水を煽って流れを生み出す手作りレース。
 流れに乗ったアヒルちゃんDXたちはクラーリン入りの氷壁(フォシーユ作)が幾つも林立する難関の障害コースに挑む。一番遠くにあるクラーリン帝王(自称)の氷壁がゴールだ!
 青い波に乗りきゅぴーんと瞳を輝かせ、華麗なるターンで林立する氷壁を回避していくアヒル達。其々が応援するアヒルにはラヴィスローズのリボンが目印に巻かれて、誇らしげにリボンを靡かせた彼らの戦いは熱く盛り上がる。
「ああっ! ボクのアヒルちゃんDXがホワイトハーピーに!」
「きゃー! ランタンアンコウ……にそっくりな魚が私のアヒルちゃんを!」
 天空に舞い上がるアヒルちゃんDX!
 湖の渦に呑み込まれるアヒルちゃんDX!
 何やらスペクタクルなハプニングも続出した。アヒルを拉致ったハーピーはカナタの星霊ジェナスに見事撃墜され、アヒルを呑み込んだアンコウモドキは荘厳な氷壁(フィアールカ作)となってコースに追加される。
 頂上決戦は、アヒルの性能を確認していたリースと最も熱心に心を込めて声援を送るアルトリアの一騎打ち。結果は――。
「優勝おめでとうですよアルトリアさんー!」
「ありがとうございます……!」
 勝者の頭にシャルティナ達が編んだ一番大きな花冠が乗せられる。
 真珠色に輝く百合と桃色の小花咲き零れるオレガノの花冠が光の滴を散らした。
 もちろん花冠はそれだけではなくて、全員分の花冠を編んだ乙女達が皆に花の幸せを乗せていく。誕生日を迎えたラヴィスローズとアルトリアには、フィアールカから蝶型の水晶チャームもプレゼント。更にはシャロームが湖底から拾ってきた綺麗な石を皆の掌に乗せた。
 湖と同じ鮮やかな青に透きとおる石は、彼女と湖からの贈り物。
 そうして最後に、大きな贈り物がやってきた。
 甘やかなオレンジ色射し始めた空へ俄かに雨雲が湧き立ち、天の底が抜けたような夕立が降る。木陰で雨をやりすごした後に見えたものは。
 夏の黄昏の空と、雨の後に綺麗に凪いだ湖に架かる、七色の虹。
 この後の旅もきっとうまく行く。フォシーユはそんな予感を胸に抱いた。

 無事に辿りついた水神祭都で、ラヴィスローズは花砂糖屋へと向かう。
 ここで待っていてくれた誰かと合流し、懐かしい店主にアンバル三世を紹介した。
 花砂糖とアヒルちゃんDXの出逢いがどんな幸せを生み出すのかは――また、別の日の物語。



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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:9人
作成日:2012/08/12
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