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アロガンの友人

<オープニング>


 アロガンは、町一番の傲慢な男だった。
 わりと裕福な家庭に生まれ、才色兼備で眉目秀麗。
 何をさせても頭一つ分飛びぬけた彼の才能は、彼が人の上に立つに見合う存在だと勘違いさせ、ますますアロガンを傲慢にさせていく。
 町の少年たちは彼に媚を売り逆らうことはない。自分たちから声をかけるだなんて恐れ多いと言わんばかりの様子にアロガンは満足していたのだが――たった1人、シャルルだけは違った。
 シャルルはアロガンの家の近所に住んでいる貧乏人だ。
 人一倍苦労人だが、人一倍ドン臭いために人々から馬鹿にされ続けている。
「あ、のろまのシャルルがいるぞー」
 シャルルは馬鹿にされて恥ずかしそうに顔をうつむかせていたが、すぐ目の前にアロガンがいることに気づいてぱぁっと表情を輝かせて駆け寄ってくる。
「アロガンくん、おはよう!」
「……」
 どうしてこいつはいつもいつも自分に懐くのか。
 自分に安易に声をかけることに苛立ちを覚えつつ、こんな奴を相手にしていると小物だと思われてしまうので、アロガンは何も言わずに歩き出す。その横に、シャルルもくっついていく。
「アロガンくんはかっこいいよねぇ」
「……」
「僕もアロガンくんみたいになりたいなぁ」
 なれるわけねぇだろ、と内心思いながら、アロガンは歩き続ける。

 自分よりも明らかに格下の人間が自分に馴れ馴れしくしてくるのがアロガンには腹立たしい。
 立場をわきまえろ、といつも思う。
 だがそうしているうちに、自分の周りには誰もいなくなっていることに気づいた。
「アロガンくんっ」
 ただひとり、シャルルを除いて。
 他の人々は自分を恐れて半歩下がり、遠慮がちに挨拶をしてくるだけだ。
 だから今までは苛立ちが強かったのだが、もしかしたら――と妙な気持ちが芽生え始めていることに気づいた。

 もしかしたら、こいつだけが自分をしっかりと見ていてくれるのかもしれない。
 こうして近づいてくることが、案外不快じゃないかもしれない。

 しかし同時に、心の中のもう1人の自分が声をかけてきていることに気づいてしまった。
『そんなわけねぇだろ? あいつは、お前のことを優しい男だと舐めているだけさ』
 そしてその声は日増しに強くなっていく。
『気にくわねぇな。俺に逆らう奴は蹴散らしてやろうぜ』
 ――違う。もっと、何か、別の感情があるはずなのに。
「なぁおい俺様よぉ。シャルルの奴に、立場っていうものを分からせてやろうぜ」

 そして深夜。
 アロガンはシャルルの家を訪れる。
「アロガンくんっ!」
 憧れのアロガンが家にやってきてくれたことに感動するシャルルに、アロガンはにっこりと笑みを向けて外に出てくるように行った。
「普段話したことなかったからさ、いい機会だから一緒に話でもしないか?」
 まったく疑心というものを見せないシャルルが家を出て、歩き出す。
 その無防備な背中を見て、アロガンはにやりと口元にいやらしい笑みを浮かべた。
 直後――その背中がアロガンによって切り刻まれ、シャルルは抵抗する素振りも見せずに前のめりに倒れこんだ。
 体中がシャルルの返り血で染め上げられているのを見て、アロガンは高笑いした。
「ひゃっはははははは! 見ろよアロガンっ! 気にくわねぇやつを殺してやったぜ! これでお前を見くびる奴は誰もいない! 満足だろ?」
 昂揚した気分を抑えきれずに笑い続けるアロガンのその頬には、一筋の涙が伝っていた。


「シャルルはアロガンのことを慕っていたんだろうな」
 他の人たちとは違い、自分をいじめることをしないアロガンに、何でもできるアロガンに尊敬していたに違いない。
 たとえアロガンが自分のことを見くびっていて相手にしてくれないと分かっていても、それでも彼のことを慕っていたのだろう。
「アロガンもそれに気づき始めていたのに……まったく、棘というのは憎らしい」
 エドアルドは悔しそうに言って、今回の事件についての説明を始めた。
「今回事件が起こったのはアクスヘイムのとある町。そこでアロガンは才能溢れる若者としてふんぞり返っているようだったけど」
 その慢心に、棘がつけ入ったようだ。
「マスカレイドはアロガンの意志を封印して勝手に事件を引き起こす。……アロガンは、ようやく何かにたどり着けそうだったのにな」
 戦闘する際はアロガンの意識は封印されてしまっているので、戦うのはマスカレイドとなる。だから遠慮はいらなさそうだ。
「相手は天誓騎士と同等の力を持っていて、なおかつ大剣を武器にしている。戦闘の経験はないみたいだけどな、才能ってやつか。戦闘能力は高そうだから、あんまり見くびらないほうがよさそうだよ」
 さらに配下として人間大の猫を5体召喚するようだ。
「すでに虎だな。可愛い猫だと思って油断するなよ。可愛いふりして近づいたら獰猛な本性をむき出しにして襲い掛かってくるぞ」
 一通りの説明を終了してから、エドアルドは髪の毛をくるくるといじって眉間にしわを寄せた。
「今回のマスカレイドのことなんだけど、どうやらマスカレイドになりきれていないみたいだ。だから、マスカレイドを倒すことができればアロガンを助けることができるかもしれない。でもねぇ……今の彼は自分と他人というものが分からなくなって精神的にブレブレで、それにつけいったようにマスカレイドになったもんだから、かなりショックを受けていると思うんだよね。そこらへん、フォローしてあげられないかな」
 できれば、彼に声をかけてあげてほしい、とエドアルドは言う。
「アロガンの元の性格もあんまり褒められたものじゃないけどさ、でも彼なりに何か考えに至りそうだったんだ。このまま放っておいたらまたいつもの傲慢なアロガンに戻ってしまう。だから、頼んだよ」
 そして、エドアルドは討伐に参加するエンドブレイカーたちを募った。


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参加者
緑の観測者・ゼロ(c00611)
瞬きし灰狼・リオン(c01076)
阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)
億千万の棘茨荊・エターナル(c05517)
平凡な村娘・ステイベリー(c06588)
澪引の幽隠・ユーリ(c07808)
紫雷・カコ(c11334)
ベイグラント・ショコラ(c23635)
フルムスアーラ・ユウ(c27076)
笑み曲ぐ極楽トンボ・ヤハウェ(c32137)

<リプレイ>


 深夜。
 人が寝静まった町で、エンドブレイカーたちは身を潜めてアロガンを待っていた。
 昼間のうちに町の下見を済ませ笑み曲ぐ極楽トンボ・ヤハウェ(c32137)の地図も頼りにしながら、こうしてアロガンの、シャルルの家へとの通り道を特定したのだ。
 潜伏するとき、家の外に人が集まっていることに気づいたシャルルが顔を出してきたのだが、エンドブレイカーだと名乗り、事情を説明して彼を家の中にいるように説得した。
 億千万の棘茨荊・エターナル(c05517)は念のためにシャルルの家の扉にゲートエンブレムを施し、十字を切った。
「ちょっと待っててねシャルル。アロガンも今頑張ってるから、だから君も祈ってて」
 身を潜めながら、瞬きし灰狼・リオン(c01076)は武器の刀身に額をつけてそっと瞳を閉じた。いつも行う儀式のようなものだ。自分ならできる、と。
 そして、静かにそのときを待つ。
 ベイグラント・ショコラ(c23635)は狩猟民族としてじっと息を殺し、その瞳で1人の青年がやってくるのを視認した。続いてバルカンソウルで周囲を観察していた澪引の幽隠・ユーリ(c07808)が戻ってくる。
「アロガンさん、ね」
 道に出ていた紫雷・カコ(c11334)に呼び止められた、アロガンは立ち止まり瞳孔を開いた。
 しかし声をかけてきたのが女性と分かると、すぐににっこりと笑みを返してきた。
「こんばんは。こんな夜分にどうしました?」
「アロガンの皮をかぶっても無駄だよ」
 緑の観測者・ゼロ(c00611)が不愉快そうに低い声を出すと、アロガンはやや間を空けてからにやりといやらしい笑みを浮かべた。
 次々と姿を現すエンドブレイカーたちを敵だと認識しているようだが、マスカレイドはずいぶんと余裕だ。
「で? こんな夜中に屈強な奴らがこの俺様によってたかって何の用? 俺忙しいんだけど」
「ずいぶんと横柄な態度ですね」
 阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)の言葉に、マスカレイドは目を丸く見開き、心底おかしいのか笑いをこらえきれないといった様子だ。
「そりゃあ、この町のアロガン様だからな。別に当然のことと思うが? むしろアロガン様は、貴様らみたいな雑魚が易々と話しかけてくることにご立腹のようだぜ?」
 とんとん、と自分の胸を叩いてアピールするマスカレイドに、ルーンは目を閉じて息をついた。
「確かに人の上に立てるほど優秀な人はいます、世の中は平等ではありませんし。人には向き不向きが有ります。しかし資質があっても性格が伴っていないとなるとそれは『残念な人』といわざるをえませんね……」
「――二度も庶民の戯言を許してやるほど気は長くねぇぞ?」
 マスカレイドがゆっくりと右手を上げる。同時に、猫が5体召喚され、暗闇に目を光らせてこちらを見た。
 エンドブレイカーたちは武器を構え、野太刀を構えたフルムスアーラ・ユウ(c27076)の髪の毛がざわざわと白く変色していく。
(「彼らの間に割って入ろうと言うのなら、其の悉くを潰させてもらう」)
「悪夢は、此処で断ち切る」
 直後、配下の猫が勢いよく地面を蹴って突撃してきた。


 猫が大口を開けてリオンに飛び掛る。
 しかし彼女は体を反転させてそれを回避すると、そのまま残像剣を繰り出した。
 高速攻撃は猫たちを一掃し、ギャンッ! という短い悲鳴が夜空に響く。
 体勢を立てなおし怒りを露にする猫に、天空から雷が降り注いだ。断末魔の叫びがその強力さを物語っている。
 ユーリの鳴神演舞に打ち抜かれた敵にエターナルが一足飛びで接近した。
「友情の邪魔をする猫たち……今宵の斧は血に飢えてるわ。遠慮なく血飛沫あげてデストロイされなさい♪」
 振り上げた斧が蹂躙するように猫を叩き斬る。凄まじい破壊力を持つクレセントアクスに敵の首は跳ね飛ばされ、叫び声を挙げたままに張り付いた表情をした首を、彼女はボールの要領で蹴り上げた。
 しかしそこへ、1匹の猫が襲い掛かる。
「っ」
 倒れこむように突撃してきた猫が、馬乗りになってその獰猛な爪を彼女に突き立てる。
 だが彼女を援護するようにルーンが撒き散らしたトラップが猫の動きを封じた。
 そして、ゼロが放ったトラバサミが次々と体に突き刺さり、猫が短い悲鳴を上げて絶命した。
 彼らが配下と戦闘を繰り返している一方で、平凡な村娘・ステイベリー(c06588)たちはマスカレイドの足止めをしていた。
 敵の弱点をしっかりと見極めて、ショコラがブーツで蹴り上げようと足を上げる。
「おっと! そういう乱暴はよくないんじゃないか、お嬢さん」
 急所を蹴り上げられそうになった足をアロガンが掴み防御する。ショコラは素早く足を抜いて一歩下がる。
 直後、彼女と入れ替わるように飛び出したユウが、接近して白く輝く薔薇の花弁を集約した野太刀を一閃した。
「いつまで、自分の気持ちから目を背けるつもり?」
 そんな台詞と共に放たれた攻撃は、薔薇の花弁を散らしながら敵の腹を切り裂く。
「ぐっ……!」
 そこへ猶予を与えないようにステイベリーが上空から盾に乗って飛来する。
 シールドプレスに押しつぶされたアロガンが血を吐く。
 アロガンはすぐに立ち上がってエンドブレイカーたちと距離を開ける。
「くそっ! 数が多いな。これじゃあシャルルのとこに行くのに時間がかかっちまう!」
「……貴方を、見てくれる人が居るのね」
 呟いたのはカコだ。
「あ?」
「その人は貴方の本当の言葉、貴方の心、貴方の優しさを知り、心から願ってるのよ」
「何ふざけたことぬかしてんだよ」
 そう言う敵に、カコが野太刀を大きく振り上げながら声をかける。
「……貴方の傍に居たいと、貴方と共に歩みたいと」
「っ」
 マスカレイドが胸を押さえて苦い顔をした。どうやら胸に突き刺さるものがあったらしい。
 カコのブレイドタイフーンが敵を巻き上げる。
 風に蹂躙されたアロガンは、抗うこともできずに地面に叩きつけられて苛立ちを隠せないようだった。


 猫がヤハウェに甘えるような声を出す。
 自分の体が痺れ、動きが鈍るのを感じながら、ヤハウェは「うーん」と唸っていた。
 大の猫好きの彼は、どうにかしてあのもふもふしたお腹を撫でられないかと画策しているのだ。
 だが今ここは戦場で相手は敵。
 申し訳ないと思いながら放たれた束縛する白銀の鎖は、しかし彼の感情とは裏腹に容赦なく猫に絡みつき動きを封じる。
 鎖に捕縛され完全に無力化しぱたりとその場に倒れこむ猫を見て、ヤハウェが近づく。
「よーしよしよし」
 そして、思う存分その毛並みを堪能したのだった。
 猫は残り2匹。鋭い牙をむき出しに威嚇しているがあちこちぼろぼろで、もはやエンドブレイカーたちの敵ではない。
 リオンの十字剣が猫の腹を斬り裂き血飛沫が舞う。
「さて、いきますよ」
 ユーリが戦闘中でも普段と変わらぬたおやかな様子で神鏡を猫へ向ける。
 直後、鋭い聖なる光が彼の袂を揺らしながら放たれ、猫を射抜いた。
「っっ!」
 声にならない悲鳴を上げて、猫がその場に倒れこむ。
 続いてルーンが後方からきりきり矢を引く。
 放たれた矢は敵の胸を射抜き、猫は戦意喪失したように攻撃をやめてその場にうずくまった。
 配下を一掃し、すぐにマスカレイドと戦う仲間の援護に向かおうとしたのだが――それと同時に仲間の短い悲鳴が響いた。
 敵の繰り出した縦横無尽の乱舞剣戟にずいぶんと負傷してしまったようだ。
 ヤハウェはすぐに魔鍵を天に掲げパラダイスブリンガーで回復を図る。
 芳しい香りと共に降り注ぐ陽光で仲間を援護し、再びアロガンの方を向く。
 彼は返り血を浴びて嬉しそうに笑っていた。
「どうよ、俺に逆らう奴はこうなるんだよ」
 悦に入っている彼に、ルーンが立ちはだかり鋭い眼光を向けた。
「人の上に立てる者というのは人を率いることが出来る者ということだ。今貴様には付いてきているものはいるのか!」
「っは、お前ら、この町の人間を見なかったのか?」
「――人生の先輩として一つだけ実体験を教えて置こう、孤独に生きたその先には何も無い空っぽさだけがあるだけだぞ」
 1人孤独に復讐に生きてきたルーンが、暗い瞳で敵を見据える。そのあまりにも色のない表情にマスカレイドもさすがに気を引き締めているようだった。
「話すだけ無駄だ。――もういい。俺はとっととシャルルのところへ行くんだ。俺に逆らい邪魔する奴は、殺す」
 苛立ったマスカレイドを見ながら、リオンはアロガンに向けて言葉をかけ続ける。
「シャルルが大切な人なのはアロガン自身ももう分かってるはず。どうか、大切な気持ちだから忘れないで思い出して」


 エターナルの爆殺斧十字が襲いかかるが、マスカレイドはそれを真正面から受け止め防御した。
 自信満々な様子に目を細めて、エターナルは彼の心に呼びかける。
「本当の君の事を見て信じて、そして最後まで残ってくれる人が本当の大切な友よ、それは掛け替えのない生涯の宝物。君の手はそれを掴めるはず、呼んであげて、友の名を、君の想いで」
 マスカレイドの口が「ぐっ」と何かをこらえたように歪んだ。
 徐々にエンドブレイカーたちの声がアロガンの心に届くようになっているようだ。
 なればこそ、マスカレイドが原因であんな観測結果を起こしてはならない、とゼロは弓を引いた。
 放たれたガトリングアローが敵の体を刺し貫いていく。
 そして彼と連携をとったショコラが一気に敵へと肉薄する。
 彼の足をすくって転ばせ、ブーツの厚い底で思いっきり腹を踏みつけた。
 攻撃に耐え切れずに血を吐く敵を見て、ショコラはたどたどしい口調で言葉を吐き捨てた。
「……どんなに強くても一人、では、この程度」
 誰も信じない、信じられない人間の強さなんてこんな程度と言う彼女を下から睨みつけ、マスカレイドは素早く立ち上がり、武器を構えた。その間、ほとんど時間はかかっていない。
 黄金の煌きが夜を照らし、そのまま玄人のような熟練された動きで剣を振り下ろされた。
 その攻撃を防ぎきれず、ショコラは腕を負傷する。
 だがすぐにユウが彼らの間に割り込むように飛び出す。
 力強く大地を踏み込んで、剣を振るう。
「本当に望んだものなんてのは、案外、すぐ傍に在るものだよ」
「俺はすべて手に入れている! だからいまさらそんなこと言われる筋合いねぇよな! なぁアロガンっ」
 マスカレイドが笑っている。
「出し惜しみはしない。悉く、此処で断ち切る!」
 正眼の構えから、切っ先を右後ろに下げつつ駆け出し、半ば跳びながら斬り付ける渾身の電刃衝が激しい火花を散らせながら敵を感電させる。
「ぐっあぁぁぁああああ!」
 たまらず悲鳴を上げた敵に、連続してステイベリーが攻撃を仕掛ける。
 シールドプレスに無残にも地面に這いつくばることを強制されたマスカレイドの顔に、苦悶と怒りが混ざった表情がにじむ。
 そこへ、カコが近づく。
「……人は、貴方を写す鏡のようなモノなのよ。他人を嫌えば、その分嫌われる。支えようと願えば他人は貴方を支え、愛すれば貴方を愛してくれるのよ」
「な、にを……!」
 途切れ途切れ言う声は力なく掠れている。
「変わりたい、と願うなら。失いたくない、と願うなら……仮面の悪意に負けてはダメ。抗うのよ」
「ふざけたこと! シャルルを失いたくない? いらねぇよあんな奴。シャルルは俺を馬鹿にしている気にくわねぇやつさ! シャルルは、シャルルはなぁ――」
 と、ここでマスカレイドの頬に一筋の涙が伝った。
 そして、今までの邪気に満ちた表情が消え、荒々しさのない声が洩れた。
「――シャルルはきっと、唯一俺のことを見てくれる奴なんだと思う……」
 それは紛れもないアロガンの言葉だ。
 カコはそれを目の前にニッ、と微笑んだ。
 だがすぐにマスカレイドが「てめぇアロガンっ!」と怒号を上げる。
 ――刹那、カコの気咬弾がマスカレイドを打ち抜いた。
 満身創痍になっていたマスカレイドはその攻撃で息絶えた。
 そして代わりに、泣きながらうずくまるアロガンだけが取り残された。


「君はこのままだとシャルル君を殺していたよ。だけど、その事に関して悪いのは棘だ。本当に悪いのは君が周りに抱いている意味のない優越感だよ」
 ヤハウェの言葉を受けて、アロガンは立ち上がる。
「俺は……何を考えていたんだろう」
 何かが抜け落ちたような表情のアロガンに、近づくのはユーリ。
「貴方にとって、シャルルさんは大切なお方ですか?」
 その言葉に逡巡してから、アロガンは「分からない」と応えた。
「でも……少なくとも、あいつは俺と向き合ってくれようとしていたんだと、思う」
「その思いを語ってください。力ではなく、言葉で」
 彼はきっと孤独だったのだ。だけど、今ならどうすればいいか分かっているはず。
 しかしシャルルに会っても何と言えばいいのか分からずに唇をかみ締めているアロガンに、リオンが声をかける。
「上手いこと言える人はホントに凄いよ。あたしもそういうこと言えたらいいなといつも思う。聞いて見て、思ったこと伝える。それが一番だと思う」
 以前のアロガンなら、「何を偉そうに」と激昂していたことだろう。だけど素直に頷く様子を見ても、やはり彼の中で少しずつ何かが変わり始めていることが分かる。
 そしてエターナルがシャルルの家のゲートエンブレムを解除した。
 すると外の様子が心配だったのか、シャルルが玄関にしゃがみこんでじっと待っていた。
 扉が開いたことで立ち上がったシャルルに、エターナルが微笑む。
「終わったよシャルル。アロガンのもとに行ってあげて。彼を本当に救えるのは君だけだから」
 彼女の言葉を聞いて、シャルルが慌てて飛び出す。そこには、すっかり覇気のなくなったアロガンが立っていた。
 シャルルは彼の様子に驚いた様子だったが、すぐに安心したように顔を綻ばせた。
「よかった、いつものアロガンくんだねぇ」
「――っ」
 そんな反応をされるとは思っていなかったアロガンが大きく目を見開く。
 しかし、すぐにそっと微笑した。
 もしかしたらシャルルはあまり深く考えていないのかもしれない。
 でも、彼がアロガンと真正面から向き合おうとしているのは真実だ。
 『ごめん』。そう言おうかと思ってアロガンは口を閉じた。シャルルがほしいのはそんな言葉じゃない。そして、自分が言うべきことも。
「……俺たち、普段話したことなかったからさ、いい機会だから一緒に話でもしないか?」
 シャルルの表情がぱぁっ、と明るくなった。
 そんな2人の様子を遠巻きに見つめながら、エンドブレイカーたちもまた顔を綻ばせていた。
 これからアロガンには色々なことが待ち受けているだろう。
 だけど、自分自身には負けないように。
 彼ならできるはずだ。
 シャルルと一緒に並んでいるアロガンの姿を見て、エンドブレイカーたちは思った。



マスター:高橋なつき 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2012/08/05
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  • ハートフル6 
冒険結果:成功!
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