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遺跡島攻略戦:その手の択ぶもの

<オープニング>

●船出の刻
「もう耳に入っているかしら。海賊が拠点にしている『遺跡島』への偵察に向かっていた人たちが、沢山の情報を持ち帰ってくれたの」
 酒場に現れた吹風の狩猟者・ジスン(cn0046)は偵察隊の功績を讃え、分かり易く描かれた島周辺の海図の写しを円卓の上に広げた。
 彼らが無事に戻ったことで、この地図を始めとする島の攻略に必要な情報は潤沢に集まっている。人魚海岸の戦いで拿捕した海賊船も、多数のエンドブレイカーたちが乗り込む為に充分な数が揃い、整備が着々と進められているようだ。
「ここが力の揮い時ね。海賊たちを倒し、私達の手で島を攻略しましょう。捕えられたままの人魚やエンドブレイカーたちを取り戻す、絶好の機会だわ。貴方たちの力を貸して」

 情報はあれど、攻略は一筋縄ではいかない。ジスンは作戦の手順を順序立てて説明していった。
「島の周辺は岩場の多い浅瀬ばかりみたいね。こちらは大所帯になるし、素早く島へ入り込む為には遺跡島の入り江から上陸することになるわ。
 先の戦いでかなりの海賊船を奪い取れたから、入り江に停泊している海賊船は殆どいないそうだけど……敵がいない訳じゃない」 
 入り江に建てられた倉庫群に、巨獣の荒野から連れてこられたと思われる巨獣マスカレイドたちが数体、確認されているらしい。
「そのまま放っておけば、移動に使った海賊船を壊されて退路を断たれかねない。それに、確認はされてないようだけど、入り江の中には水棲の巨獣マスカレイドが存在する可能性もあるっていう。本隊と分かれて巨獣たちを叩くのも、大事な役目になるわ」
 これを果たせば、次の段階に進むことができる。
「上手く上陸を果たしたら、次は砦の攻略ね。入り江から遺跡に向かう道に、海賊が守る要塞があるようなの。ここを叩く」
 海賊から得た情報に拠れば、この砦の首領格は妙齢の女海賊。筋骨隆々のバルバだけを愛することから、『バルバの女王様』と呼ばれているらしい。嗜好をとやかくは言わないわ、とジスンは困ったような笑みを向けた。
 統率する彼女は勿論のこと、同じ嗜好を持つ男女の海賊たち、彼らに寵愛される筋骨隆々のバルバたちも猛者揃い。この場所に戦力を残して遺跡に向かうのは、あまりにも危険だ。
「砦に全ての戦力で関わっている暇はないの。この先の遺跡に巣食う海賊たちに、迎撃準備や逃走の時間を与えてしまうことにもなる。
 難しい戦いになると思うけど、砦の攻略に充分な戦力が揃えば、後続の皆は急いで遺跡に向かうことができる筈。腕の見せ所ね」
 そして、最速で遺跡への道を突き進む最後の段階。
「遺跡の中の様子は、偵察隊の報告の確認をお願いするわ。海賊の駆逐、遺跡の確保、黒い機械柱の中に安置されている謎の船の確保……それに勿論、人魚たちや仲間の救出に向かうこともできる。やるべき事が多くて大変だけど、皆でよく話し合って、貴方たちの最善を選び取って」
 地下遺跡といえど、遺跡内に使途不明の船があるということは、どこかで海に繋がっている可能性もある。海賊たちが万が一にも逃走しないよう、手を回すことも必要かもしれない。
 一通りを語り終え、ジスンはさぁ、と笑顔で仲間たちを促した。
「私が伝えられるのはここまで。貴方たちが必要と感じたなら、遺跡以外の場所に向かっても構わないと思うわ。何が必要で何が出来るのか、自分たちで決めるのはとても難しいけれど」
 そうして選び取った戦いは、道筋を定められた戦いに勝つよりももっと、心を湧き立たせるだろう。確信を込めて頷き、狩猟者は祈りの動作に目を伏せた。
「貴方たちに委ねたわ。最高の土産話を宜しくね――武運を天に祈ってる」


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参加者
藍棘・フィル(c00044)
奏燿花・ルィン(c01263)
宵待月・キサ(c01964)
剣の魔女・ジーン(c04547)
黒鳳・ヴァレリー(c04916)
緑風を抱く・ヘイゼル(c05936)
忘却と追憶・ローラ(c06566)
オーバー・ヒィト(c06785)
白詰の庭・プティパ(c13983)
夜鶯・フォル(c15910)

<リプレイ>


 遺跡の中を駆け抜けながら、オーバー・ヒィト(c06785)後ろに流れていく光景に目を見張った。
 そこが海賊たちの防衛線だったのだろう。大勢のバルバ――そしてマスカレイドの仮面を纏う研究者じみた海賊と、量産型ゴルバック。敵がひしめいていた激戦区に今立っている者は既に、自分たちと同じエンドブレイカーばかりだ。
 仲間と共に先を目指す少年の手は、微かに震えていた。海賊は怖いけれど、これは武者震い。自分に言い聞かせ、鞄の中の大切なぬいぐるみに布越しに触れる。
(「みんなと一緒なら怖くない、もん……行くよ、ギル」)
 少年を優しい眼差しで見守りつつ、緑風を抱く・ヘイゼル(c05936)も駆ける。自分たちの部隊が先を目指せるのは、防衛線を破ってくれた仲間あってのこと。その想いが、声になって迸る。
「ありがとう、必ず目的を果たして来るから……!」
 その目的が何になるかはまだ分からない。未知に挑む心は好奇と勇気に満ちて、畏怖の入り込む隙はなかった。輝く瞳を切り開かれた通路へと向ける。
 彼らは既に、報告に聞いた場所よりもさらに奥へ踏み込んでいた。広く古びた通路の左右には、幾つもの小部屋や脇道が意味ありげに並んでいる。
「よし、探索だ。何か面白いもんが見つかるといいんだがな」
 蹴りの一つで吹き飛びそうな扉の傍らに、奏燿花・ルィン(c01263)が身を寄せる。その隣に滑り込んだ藍棘・フィル(c00044)は息を潜め、やがて首を振った。聞き澄ました耳が、この部屋に潜む命の気配がないことを教えてくれる。
 扉の先にめぼしいものがないことを確かめ、彼らはまた次の扉へ動いていく。見ると、広い通路のそこここに、同じように探索する別部隊の仲間の姿がある。頼もしく応援の眼差しを送りつつ、白詰の庭・プティパ(c13983)は探索の済んだ別の部屋の扉に、剣で印を刻みつけた。
「それらしいもんは見つからんなぁ……あれだけ戦力を割いて守っとったにしては、何も無さすぎて不気味や」
 頭を掻く黒鳳・ヴァレリー(c04916)に、ヘイゼルも首を傾げる。
「海へ繋がる通路ももっと下かな。この辺りじゃ仲間の声しか聞こえないね」
「そうだな。もっと奥に向かってみる、か……」
 背後に連ねた光の足跡を時折振り返りつつ、丁寧に描き込んでいた地図から夜鶯・フォル(c15910)が顔を上げると、優しくも強いヘイゼルの微笑みに会う。思わず眩しげに目を細め、フォルは行こう、と促した。強く、静かに。
 海賊たちの根城。絶対に来ようとは思わなかった筈の場所に立っている。仲間の背を追っているつもりで、次第に並ぶ一歩を踏み出し始めていることにはまだ気付かない。
「おや。あの扉はいかにも何かありそうじゃない?」
 剣の魔女・ジーン(c04547)が通路の果てを指差した。古く大きな扉を前に、別部隊の仲間たちも集まり足を止めている。
「何か気配は感じられますか?」
 潜めた声は淑やかだが、忘却と追憶・ローラ(c06566)はその実興味津々だ。仲間たちが小さく首を振る。
 革袋の酒を景気づけにちびりと煽り、ジーンは開かれる扉の先を見つめる。ここへ至るまでに見かけた大きく雄々しい巨獣のような、心湧き立たせる存在が居ないものか。
 集う者たちの思惑の前に、姿を現したのは三本の巨大な水晶の柱。そして、
「――ゴルバックタイプでは防げなかったようだな」
 突如彼らの行く手を遮る、銀の髪のエルフ――マスカレイドだった。


 身構えるエンドブレイカーたちを前に、研究者風のマスカレイドは端正な顔を歪め傲慢に笑う。
「だが、この遺跡の秘密があれば、お前達など敵では無い!」
 翻った白衣の後ろで、水晶柱が傾いだように見えた。
 ――いや、見えたのではない。傾いだのだ。
 声に突き動かされたように、柱がこちらに向かって動いてくるではないか。澄んだ藍の瞳を見開き、フィルが息を呑む。
 一歩、また一歩迫る水晶の中に、ここから出してと訴えるように向けられた掌、きらきら跳ねる剥がれた鱗の光――柱に一体ずつ閉じ込められているのは、紛れもない人魚だった。
(「なんて酷いことっ……!」)
 怖れとは違う震えがヒィトを襲う。エルフの得意げな哄笑が響き渡った。
「このゴーレムは、人魚の人魚の力を動力に通常のゴーレムの三倍の出力をっ!」
「てめぇは、もう喋るな」
 黒の野獣・レジェロ(c04702)が振り下ろした斧剣の一閃が、御託を遮る。オーラの刃が言葉ごとエルフを切り刻む間に、黒い剣の担い手・イグニス(c00889)が間合いを詰め、
「先に進むのに、お前は邪魔だ」
 黒刃の剣を覆った光の翼、舞い散る羽がエルフを襲い、薙ぎ払う。その光輝から目を逸らさず、ジーンは剣を構えた。重い鎧などなきもののように敵の懐へ飛び込んでいく。
「こんな研究をしているなんて。遺跡を悪用するなんて、許さない――」
 剣筋に酔いはない。横薙ぎの一閃を凌いだエルフの胸に振り下ろした剣が、マスカレイドの命を奪いきる。
 だが、終わりは遠い。主を失っても、水晶ゴーレムたちは止まっていないのだ。じりじりと縮まる距離に、
「左のゴーレムは私達が!」
 玲瓏の月・エルス(c00100)が請け合い、彼女の部隊が動き出す。
「こっちのは、パドゥたちに任せて、ですよ!」
 ゼピュロスの風・パドゥセス(c14987)たちは右手のゴーレムに狙いを定めた。――残るは真直ぐにこちらへ迫り来る、中央の一体のみ。
「私達はこいつね。……行きましょう!」
 ヘイゼルの声が、開戦の狼煙。――こうして、それぞれの択んだ戦いへの道は分かたれたのだ。


「その偽りの輝き、打ち消して差し上げましょう」
 銀蝶の舞う黒表紙を、細い指先が繰る。棘を餌にローラが喚び出した鴉たちが一斉に飛び立った。輝きを覆い隠す黒の隙間から覗いた人魚の表情に、心が痛む。
(「紳士的な海賊なら、友人になれるかも知れないと思いましたのに……こんな心無いことを」)
 少しでも早く苦しみから解き放ちたい。思いを映した鴉の爪が、水晶柱を無遠慮に掻き毟る。その間に、後衛を後ろに擁したヴァレリーたちは素早く前へ出ると、盾の如く半円に展開した。
 海賊相手の戦いで舐めた苦汁は今も忘れない。目の前の邪悪な存在も、その海賊たちが全てを欲しい侭にする為に生み出したというのなら、容赦する理由はなかった。
「借りは返したが、利子分届けてやるよってな……!」
 纏った残像に力を貰い、ヴァレリーは突撃する。呪詛を刻んだ手応えでは足らず、何度でも――鮮やかな騎士槍の技は、水晶柱を果敢に貫き奔る。
 翻る紅の衣を潜り、白い髪が波を描いた。小柄な体に騎士道を詰め込み、プティパは白き獣の腕を広げる。抱き竦め握り潰すには足りぬほど敵は大きいが、巨腕を叩きつけた衝撃は敵の守りを僅かに緩めたようだ。
「奪われた分以上にしっかり返して貰うから。……覚悟して!」
 赤縁の眼鏡の向こうに、細めた金の眼差しが光る。月灯の残滓を塗したかのような巨大な鍵を手に、宵待月・キサ(c01964)は、夥しく流れ出る自身の血が獣を形作る様を見つめていた。
 自分が血を代償に強さを得たように、失わずに得られるものは少ない。ならばお前も、
「得る前に、まずは失ってくれないか。――手伝いは、してやろう」
 賊への嫌悪は胸の裡に留め、淡々と術を紡ぐ。猟犬たちは恐れ知らずに固き水晶の体へも挑みかかり、踏み躙ろうとする。
 それでも攻撃の痕跡を捉えれば、微かな舌打ちが漏れた。ダメージを受けていない筈はないのに、水晶の体には僅かな曇りすら見えない。
「! 何か来るぞ……!」
 ルィンが光輪を撃ち出すよりも僅か速く、水晶柱が振動を放つ。直後、突如として足元から透き通る尖柱が次々に突き立った。
「きゃああっ!」
「つ……っ、やってくれる……!」
 ヴァレリーたちのみならず、後衛の仲間たちすら鮮血に染め、水晶の槍地獄は幻のように掻き消える。消えない痛みに眇めた眼で、ルィンは狙いを定めた。紫煙銃から撃ち出した光輪は鮮やかに宙を舞い、連なる斬撃を刻みつける。
 仲間たちの消耗を見るや、フォルは光の軌跡を空に描いた。紋章が示すまま、癒しの力は味方を抱き込み、痺れや痛みを拭い去っていく。友人から齎された力に立ち上がったヘイゼルは、それでも痛ましげな表情を緩めない。
 ――技が放たれたその時、悶え苦しむ人魚の顔を見てしまった。
「こんな……人魚さん方を生贄に動かす存在なんて、間違ってる!」
 抜き身の剣が閃光を放ち、輝く光の翼に姿を変えていく。思いに突き動かされるように剣を振うヘイゼルを援護する、ヒィトの早撃ち連射。続くフィルは、その細い腕から竜の吐息をも思わす灼熱の弾を次々と撃ち放った。風穴を開けることは叶わなくとも、敵を択ぶ力をゴーレムから奪い取ることには成功する。しかし。
「ぜ、全然堪えてないみたい……?」
 傷一つ見当たらない敵に、ヒィトの眼差しが不安げに揺れた。まだまだや、とヴァレリーは猛く笑う。
 見せかけには騙されない。否、たとえ本当に堪えていないのだとしても。
 二度と同じ轍は踏まないという決意。そして同じ道を択んだ者同士、通う思いも感じているから、
「わいは大丈夫やて信じてる。――最後までよろし頼むな、皆」


「ギアスが、振り切られた……」
 フォルの呟きに、心なし悔しげな色が滲む。
 敵の攻撃の威力に、回復に専心せざるを得なかったフォルが三度目にして漸く放った封印儀式。魔法文字のリボンが封じた筈の範囲攻撃が今、ゴーレムが放った水晶の鎖によって破られてしまったのだ。
 相変わらず水晶の体に外傷は見えない。それに引き換え、幾度となく地中から貫かれた味方に傷を負っていない者は一人もいなかった。未知の敵と戦うというのは、こうも厳しいものかと実感する。
「可愛げねぇな、本当は結構ガタが来てるんじゃないのか……!?」
 流石に悪態も吐きたくなろうというものだ。言葉と共にルィンが光輪を投げつけると、
 ――ピシ……ッ!
 それまでなかった音が戦場に響いた。光の輪が駆けた跡に目を凝らすと、囚われた人魚の傍にうっすらと亀裂が見える。小さいけれど、確かに。
「はは、いい読みや、ルィン!」
 ヴァレリーはすかさず踏み込み、高速回転する騎士槍を真正面から柱にぶつける。
「きゃ、……ありがとっ」
 鎖から解放されたプティパはころりと転がり受け身を取ると、血に染まった足も気に掛けず、素早く地を蹴り飛び掛かった。
 危地には助けてくれる手がある。一人で戦っている訳じゃない。それが、プティパを何よりも強く勇敢にする力。
「もし道が択べるのならば、私は誰もが笑顔で進めるものにしたい。――そこの人魚さんもよ!」
 白き獣腕の一薙ぎで、体力を奪い取られたゴーレムの輝きが微かに褪せる。返して貰うって言ったでしょう、と少女は笑った。
「さ、もうひと頑張りしましょ!」
 共に択び、集った力がそれに応える。
「助けてね、フォル!」
「――、ああ」
 ヘイゼルの手を取る代わりに、心を手向けるフォル。剣を翳し駆けるヘイゼルは、まるで背中から羽根が生やしたようだ。傷だらけの体で眩い斬撃を放つ友人へ届くように、フォルはもう一度紋章を描く。
「……我、開くは施療院の門。其は等しく、愛を与えん――」
 眩い光輝を放った癒しの紋は、初めて出会った酒場で響きと色に縁を結んだ少女へも力を届けた。
(「……ありがとう」)
 唇と眼差しだけで静かな感謝と笑みを示し、フィルは再び鮮烈な炎を腕に燈らせる。炎塊は小さな体を吹き飛ばすかの勢いで爆ぜ、氷の花めいたフィルの頬に熱が宿る。
「……これが私の、最善っ」
 戦いの中にも娘たちの心の交歓の気配を感じて、キサは焦がれるような正体不明の惑いに微かに揺らぐ。それでも、択び取ったものを見失いはしない。
 何一つ失わず、奪うことでのみ満ち足りる者。目の前にあるのは、その欲望の結晶だ。
 打ち砕けと一言命じれば、血の猛獣たちは鋭い爪を翳し躍りかかっていく。突き立てた爪から今度こそ、細やかな亀裂が広がっていくのが見えた。幼いヒィトには、同じ技を使うキサの凛とした佇いが眩しい。
(「……僕にもやれる、かな」)
 大丈夫と言い聞かせる度に、震えは鎮まっていく。右手は敵へ、左手は鞄の中の友へ。成し遂げたい気持ちが零れた血に力を与える。
「行け……っ!」
 躍りかかる猟犬たちに、少年は胸を撫で下ろす。横目にふと笑ったジーンは、見収めとばかりに水晶のゴーレムをつくづくと眺めた。
「大きいことはいいことだ……けど残念、あんたじゃ巨獣には敵わないなぁ」
 強靭な体を持つ強敵を前にしても、ジーンの声音は緩く、太刀筋だけが冴え渡る。
 弾かれるばかりだった水晶の壁に、剣先が突き刺さる。その先から流れ込む水晶ゴーレムの力は、敵の真正面に足を据え続けた彼女に力を取り戻させていく。
 ――そして、これが最後。
 放たれた水晶の鎖に締めつられながら、ローラは苦しげに微笑んだ。
「貴方の姿は……とても、美しかったです。これで終わりだなんて残念ですが……私の名に於いて、心に刻んでおきます」
 どこからともなく現れた鴉たちの声が空間を埋めていく。鋭い爪が振り下ろされる度、ゴーレムの体は細かな亀裂で鈍く淡く曇っていく。
 一羽が空へ翔け上がる。高みから振り下ろした爪が柱の天辺を貫いた瞬間――、
 ――……パァン!
 高く澄んだ音を最期に残し、邪悪なる傀儡は砕け散った。

 きっと心は覚えている、とローラは思う。
 輝き降り注ぐ破片も、中から崩れ落ちた人魚を抱き留めた温もりも。書物で知り、実際に出会うことで知った海賊の残虐さに落胆したことも――全て。
「……これが俺たちのすべきことだ」
 キサが輝きを見上げる。
 確かめるような呟きは、崩れ去る水晶の音色の中に静かに溶けて消えていった。


 ――三体の水晶ゴーレムが無事に倒された後。
 ローラの膝を枕に眠り続ける人魚を、フィルは心配そうに覗き込んだ。
「……人魚さん、私たちに攻撃するのを抗ってるように見えたの」
「……そう、だな。……だとしたら。彼女が抗ってくれていたお陰で、なんとか倒すことができたのかもしれない」
 頷くフォルに、ねぇ、とヒィトが問い掛ける。
「海賊たちが大事にしてる船って、何なんだろ……? 人魚の生贄以外に動かす方法、無いのかな」
 空とか飛べたら楽しそう、という子供らしい感想に、ルィンが笑う。
「そうだなぁ……ま、これから明らかになるんじゃないか?」
 他の場所を攻略している仲間たちからも、新しい情報が齎されるかもしれない。あれこれと想像を巡らせるヒィト。その傍らで、
「……ン、……貴方タチ、ハ……?」
「あ、目が覚めた? 皆! 人魚さんが目を覚ましたよ!」
 ヘイゼルの声が明るく響き渡る。
 一人の人魚の命――そしてこの先の可能性。択んだ手に掴んだものをそのままに、彼らは凱旋する。



マスター:五月町 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2012/08/15
  • 得票数:
  • カッコいい11 
  • ハートフル1 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
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