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闇に煌く銀の罪科

杖の星霊術士・アミナ

<闇に煌く銀の罪科>

■担当マスター:虎鉄


「うるせえ、俺に指図するんじゃねえ!」
 怒声と共に、床に酒瓶が転がる。その直後、何かを叩くような音が響いた。同時にうずくまる女がひとり。その場に、数瞬の沈黙が降りる。
「……俺はもう寝るからな。朝になるまで起こすんじゃねえぞ」
 女は、ふらふらとした足取りで寝床へと向かう男を眼で追い、そこで自分を見つめる視線に初めて気がついた。
「あ……ヨハン、起こしてしまったかしら?」
 女は柔和な笑みを浮かべると、勝手口に顔を出したその少年を抱きしめた。ヨハンは女の子供であり、先程の男はヨハンの父親であった。
「大丈夫よ、ヨハン。お父さんは今、少しイライラしているだけ。もうすぐ、いつものお父さんに戻ってくれるわ」
 そう言ってヨハンを抱きしめる彼女は、言葉のとおり夫を信じていた。仕事さえ上手くいけば、きっと元の子供好きな優しい夫に戻ってくれるのだと。
 だが、ヨハンの拳は堅く握られ、その眼差しには非難の色が強く浮かんでいた。視線の先には、父が眠る明かりの消えた部屋。ヨハンの心に、疑念に似た感情が噴き出した。
(「お母さん、叩かれて痛そうだった。お父さんは、どうしてお母さんを叩いたりするんだろう。お母さんのこと嫌いなのかな……」)
 次第に、思考の海におぼれる。心の中で誰かが囁いているかのように、父に対する疑念は大きくなる。既にヨハンの耳には、母の言葉も届いてはいない。
(「ボクが、お母さんを守らないと……!」)
 決意を帯びたヨハンの瞳に、台所の果物ナイフが映った。母を守るというその決意は、もはや父の生死を問わない。
 ヨハンは明日、父を殺すことに決めた。

「……っていう結末が見えてね」
 杖の星霊術士・アミナの言葉に、集まったエンドブレイカーの面々は沈痛な面持ちを隠せなかった。
 事件の概要を整理すると、こうなる。ある男が酒浸りの日々を送っており、妻に暴力を働いている。彼らにはヨハンという名の男の子がひとりいるのだが、大好きな母親に暴力を振るう父親に対する憎しみが、マスカレイドを呼んでしまうということであった。
「でもね、お母さんはお父さんをとても愛しているの。今は仕事が上手くいっていないけど、その内、立ち直ってくれるって信じてる。それに、暴力といっても、そんなに大したものじゃないみたい。普通の夫婦喧嘩レベルじゃないかな」
 暴力の程度といえば頬を張る程度で、それ以上のレベル、例えば拳で殴るといった行為には及んでいないという。
 あくまでも仕事のストレスで一時的に荒れているだけであり、元々夫婦仲は悪くない。
 とは言え、子供の眼には、それは母親を苦しめる絶対悪に映るのだろう。それだけに、その憎しみも決して小さくはない。
「お父さんの仕事は、ようやく上手くいき始めたところなの。けど、お母さんを叩いてしまったっていう負い目があるからか、なかなか素直になれないみたい。ヨハンくんを説得するなら、本当はお父さんもお母さんが大好きなんだって教えてあげるのが良いと思うよ」
 父にも確かに悪いところはある。しかし、それで子供が親を憎むのは悲しいことに違いない。そこに誤解があるのだとしたら、解いてあげるべきだろう。
「このままだと、ヨハンくんはマスカレイド化してお父さんを殺しちゃうの。でも、今ならまだ助けられるよ。ヨハンくんがマスカレイドになっちゃう前に説得できれば、マスカレイドは力を発揮できない、不完全な姿になるの。その状態でなら、ヨハン君を傷付けずにマスカレイドだけを滅ぼすことができるよ」
 ヨハンが凶行におよぶのは夜、父親が帰ってくる時間帯となる。それまでに彼を説得できれば、マスカレイドは不完全な姿で襲いかかってくるだろう。逆を言えば、説得が失敗するようであれば、それはヨハンを殺さなくてはならないということでもある。
「不完全な状態のマスカレイドは、そんなに強くはないよ。ヨハンくんが持ち出した果物ナイフを持ってるくらいで、特別な戦闘能力はなさそうかな。と言っても、少なくとも一対一で勝てる相手じゃないから、気を抜かないように気をつけて」
 マスカレイドが出現すると、ヨハンの意識は失われてしまう。マスカレイドを倒した後はヨハンへのフォローも必要だろう。そう伝えると、アミナは更にひとつ付け加えた。
「助けられたら、ヨハンくんに色々アドバイスしてあげると良いかもね。ヨハンくんが元の幸せな家庭に戻れるように、絶対成功させてね!」

●マスターより

 皆様初めまして。新人マスターの虎鉄(こてつ)と申します。
 まずはシナリオのオープニングをご覧いただき、誠にありがとう御座います。
 今後も精進させていただく所存で御座いますので、宜しくお願いいたします。

 ヨハン君は夜までの間、家でお母さんの手伝いをしています。夜になると、酒場から帰ってくるお父さんを迎え撃ちに出て行きますので、説得のタイミングとしては家、または家を出てからお父さんと鉢合わせるまでの間になるかと。
 また、ヨハン君はマスカレイドを認識できませんので、「マスカレイドに負けないで!」と言われても意味がわかりません。ご注意を。
 もし説得に失敗した場合は、完全なマスカレイドとの戦闘になります。その場合、ヨハン君を助けることは出来ませんし、死体が残りますので早期撤退が必要でしょう。
 それでは、皆様の「エンドブレイカー!」初プレイングをお待ちしております。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 弓の狩猟者・ツバメ(c00125)
●目的
父親の足どめ
カウンセリング

●準備
武器は不所持
前日に父親の酒場に来る時間を調べ酒場に来る時間の予想を立てる
身を隠しつつ酒場の出入りを見張れる場所を探す

●方針
相手は大人で物事の善悪は弁えてると思われる
基本的に聞き手になる

●行動
時間に余裕をもって酒場の入り口を見張り始める
父親が酒場に入るのを見届け自分も入店

少し離れ相手の目につかず観察できる席へ
酒とツマミを頼む
しばらく父親を観察

事業や嫁との関係で悩みや不安が深いと思われる
表情や動作からそれらが一際高まった時に酒瓶片手に声をかける
「よう、うかねぇ顔してるぜい。どーしたってんだい?」
「オレっちでよけりゃぁ話してくんなァ。ま、一杯やりねぇ」


嫁子供の話にならない場合は水を向ける

早く帰ろうとした場合は引き留める

嫁を殴打した話が出たら謝るよう仕向ける

普段の帰宅の時刻を回って、話が収まったら帰宅を促す


最後に父親の瞳を覗き込み、幸せなエンディングを覗きたい

● ハルバードの魔曲使い・クラウストロ(c02351)
■準備
ランタンを用意しよう。
戦闘中は、邪魔にナらぬ地面に置くとするか。

武器をユースに預けておこう。

■説得
ヨハンと接触するタイミングは家を出てしばらくしてから、人気の無い所を狙う。
「君の成そうとしている事、止めておいた方が良い。」
「成し遂げたとして、君の母も喜ばぬ。」
「何故ナらば、君の母は父の事を愛しているからだ。」
「父もまた、母の事を愛している筈だ。」
「でナければ、今も共に暮らしてはいまい。」
「だから、やめるんだ。」
「さぁ、分かったナらその物騒ナ物を早く捨てて、家に帰るんだ。」

■戦闘
説得後は急いでユースから武器を受け取ろう。
武器を受け取った後、名乗りを上げる。

戦場では、主に前衛で疾風突きで戦う。
自分よりも傷付いている者が狙われた場合、庇おう。

■戦闘後
説得失敗時:すぐに立ち去る。
説得成功時:ヨハンに
「父も、母も、君の事もとても愛している筈だ。」
「両親を信じろ。それが、幸せへの近道だ。」

● 剣のスカイランナー・レイジ(c02370)
●準備
明り(カンテラなど)武器は装備(鞘に納めてる)

●作戦
説得側を担当

ヨハンが家から少し離れた辺りで接触します
接触に成功したら説得します

●説得内容
本当は君はお父さんを殺したくはないんだろ
ただ昔のようなお母さんと仲が良かった頃に戻ってほしいだけじゃないのか
それに君がお父さんを殺してしまったらお母さんが悲しむんじゃないか
もし一人で抱え込んじゃうなら俺達も協力する
だから家族皆が悲しむことなんてやめようぜ

●戦闘
説得の成否に関わらず前衛を担当

スカイキャリバーを中心に常に動くような感じで攻撃します
なるべく一般人が接触しないように短期でケリをつけるようにしまう

●事後
ヨハンが無事ならどうやったらお父さんと仲直りできるか一緒に考えます
その際ヨハンの家族との楽しかった思い出なども聞きます
自分からのアドバイスは一緒に星を見ながら語り合うなどです

失敗した場合は後悔と懺悔の気持ちを抱き涙しつつ素早くその場を去ります

● 大鎌の魔法剣士・テオバルト(c02419)
■待機組
『姉さん(武器の名前)』は大きいですから、待機組に。
ヨハンくんが少しでも話しやすいようにと、武器の大きな私は控えています。
本当は私も言いたい事があったけれど、大人数の押しかけは不安にさせてしまうから。
ヨハンくん本人が気付いて考えを変えなければいけないんだもの。人数は不要よね。
「どうか貴方の行動では、誰も幸せにならないと気付いて…」
物陰で祈ってます。

■戦闘基本
前衛配置
攻撃は『黒旋風』の威力を確かめながらアビ中心に攻撃。
防御は『姉さん』を前方に伸ばし敵の接近を防ぐ。

■戦闘
「マスカレイドとの初戦闘、報告書に上げないとね」
『姉さん』を構えて戦闘態勢。最前衛と後衛の間(所謂中衛)に立ち、
戦闘開始したら1ターン毎に立ち位置を微妙に調整しつつ戦闘。

■助けられたら
最初の説得で言えなかった言葉を言います。
「どんなに判り合ってるつもりでもね、言わなきゃ判らない事が多いものなの」
微苦笑を浮かべながら。

● 大鎌のデモニスタ・ユース(c02781)
■前準備
夜で辺りが暗いだろうかランタンを持って行くし

■作戦
ヨハンと接触するタイミングは家を出てしばらくしてから、人気のない所を狙う
俺は説得中はクラウストロ兄さんの武器を預かって、隠れて待機、他に人が来ないように見張ってるし
それと隠れてるときはランタンの灯りを消しておく、隠れてることバレたら元も子もないし

■戦闘行動
まずはクラウストロ兄さんに武器を返して、そのまま後衛についてデモンフレイムで援護攻撃
もし、敵に接近された場合は、大鎌の黒旋風に切り替えて応戦

■戦闘後
・成功時
ヨハンと両親が仲直りできるようにアドバイスするし
というか、ヨハンはお父さんに説教でもしてやればいいし
まずは自分の言いたいことぶつけた方がスッキリすると思うし
・失敗時
マスカレイドを倒したら速やかに退散
ヨハンを助けられなかったのは悔しいけど……振り返っちゃいけない気がするし
この失敗を俺はしっかり背負って向き合っていかなきゃいけないし

● アイスレイピアの魔法剣士・イングリッド(c02950)
◆用意
作戦時間は夜になるので、明かりにカンテラを用意。
隠れてる時は消灯。

◆待機&周辺警戒
説得組や父親足止め組と分かれ、ヨハン少年の家から酒場に向かう途中の、人通りの少ない所に仲間と潜み待ち受け。

ヨハン少年が父を迎えに行く途中で説得する手筈。
その説得がスムーズに行くよう、邪魔が入らないよう警戒。

邪魔が入りそうなら、音を立てないよう明かりを持って向かい、
「この先で酔っぱらいが喧嘩してます。今連れが仲裁してますので、回り道を」
「酔っぱらいの喧嘩に巻き込まれても損ですよ」
と迂回を促します。

◆応戦
マスカレイドが出たら応戦。
私は前衛に立ち、残像剣で敵を牽制し後衛・少年に攻撃が向かわないよう立ち回り。
極力仲間と協力し、隙があれば氷結剣で敵を攻撃し、行動を阻害したいですね。

人の心に付け込む奴に、手加減などしない!

◆事後
もし少年を救えなかったら速やかに撤収。
救えたら、必要なら肩を貸して父を迎えに行こうか。

● 太刀の狩猟者・フェイ(c03258)
ん〜、難しい話だよね〜
まあ、暴力は絶対に悪いんだけどさ
でも、もうちょっとで良い方向に向かいそうなんだろ?
だったら、悲劇は止めないとね

自分はヨハンの説得役
家から多少離れた辺りに居て、声をかける
「やあ、こんばんは
こんな時間に、そんな物を持って何してるんだい?」
説得は以下のような感じ
「ん〜、確かにお父さんは悪い
それは間違いないね
でも、ナイフはいかんよ
君はお母さんを助けたいんだよね?
でも、そのために君がお父さんを殺したなんて知ったら、お母さんはどう思うだろう?
きっと絶望しちゃうんじゃないかな?」
「君のお父さんは、ちょっと仕事につまずいてるみたい
だから、ちょっとイライラしてるんだね
でも、最近は上手く行き始めてるらしいよ
だから、まずはちゃんとお父さんと話をしよう
そうすれば、解決できる事だから」

戦闘時は、後衛からファルコンスピリッツ
前衛が大ダメージを受けたら入れ替わる
それ以降は居合い切り

● 盾の星霊術士・カズ(c04900)
◆基本行動
・ヨハン君の【説得】を行います
・一様灯り(カンテラ)を持って行きます

◆説得時の行動
・まず、さりげなくヨハン君に近づいて「こんな夜中にどうしたの?」と言ってみます
・ヨハン君が【父親の事をどう思っているか】を言ってくれるように何とか誘導してみます
・父親の事が話に出てきたら「一度酔っていない時の父親と話をしてみるといいかも知れませんです」と促して見ます

・【もしヨハン君が父親を殺したい(又はそれに近い言い方)と言ってきた時】、「そんな事をしたらお母さんがすごく悲しみますよ」と促して見ます

◆戦闘時の行動
・戦闘開始と同時に【後方】へ下がります
・基本的に【回復支援】を主体に行います
・前衛のダメージの多い人を優先的に回復させます
・前衛の人がダメージを受け後方に下がったらタイミングを見てそちらも回復します

◆戦闘終了後
・【説得成功時】ヨハン君の様態を確認します
・【説得失敗時】即座にその場から撤退します

● 爪のデモニスタ・テオシス(c05025)
■ヨハン説得時
ヨハンくんの家からでかけるとき必ず通る道で、家から少し離れたところに待機。
向こうから見えない、でもマスカレイド化したときすぐ参戦できる近さの場所に身を隠します。
道の曲がり角とかだと、みんなで隠れられるかな…
説得する人たちと、ヨハンくんの様子に気をつけます。
人が通る道が近くにあるなら、知らない人が来ないようにそちらも注意。
だれか来そうなら、そっと行って「こっちはカベをなおしてて…通れないので」とたのみます。

■戦闘時
マスカレイド化して攻撃を受けたのがわかったら、すぐ参戦。
遠くからデモンフレイムで攻撃してダメージを与えつつ、
前衛の人へ集中できないよう、敵の気をちらします。

■戦闘後
ヨハンくんを助けたら…
お父さんをいつまでも足止めちゃダメなので、ツバメさんに声をかけに行きます。
ツバメさんがこちらにきたり、ヨハンくんを…助けられなければすぐ撤退。
そんなことにならないようにがんばらないと。

● 鞭の魔曲使い・ジル(c05123)
親殺しなんてダメだっつの
成功させようぜ!


◆準備
事前に灯りを持参


◆作戦
ヨハン説得側
見つけたら肩叩くとかで顔合わせて説得に入る

◆説得内容
父親がムカつくってのは解るけど、いきなり殺すってのは飛び過ぎじゃねーの?
母親だって優しい父親に戻るって言ってるんだろ?
だったらそれに協力してやれよ
死んじまったら戻るのを見ることすら出来なくなるし、今より更に母親悲しませるだけだぜ?

たぶん俺だけ父親が痛い目に合っても良いって考えだろうから、皆と意見違ってたら黙るか「そうそう」って皆に合わせる
アミナも言ってたしな


◆戦闘(共通)
ほぼ前衛
HPが減ってきたら後ろに下がる

魔曲より鞭メイン
攻撃よりも捕縛中心
「逃がしゃしねえよ!!」
余裕があれば誘惑魔曲でマヒ
「俺の曲、痺れちゃった?」


◆説得成功
「出やがったなマスカレイド!」

戦闘後
ヨハンに「もうあんな事考えるなよ」


◆説得失敗
戦闘後に速やかに退散
口には出さないけど自分を少しだけ責める

<リプレイ>

●歪んだ決意
 夜の闇に光る、家屋から漏れる灯り。その照り返しを微かに受けて、白く光るものが夜道を密かに動いていた。
 ヨハンはその光るもの――台所から持ち出したと思われる果物ナイフを手に、繁華街の方向へと向かっていた。その目的は、恐らくもうすぐ帰宅するであろう父親の殺害。
 『母を守る』というその気持ちは純粋で、賞賛にも値するものだろう。だが、その手段を『父の殺害』でしか表せないほどに、ヨハンの心は蝕まれていた。
 やがて、その足は雑木林へと差し掛かった。ここを抜ければ、繁華街の裏手へと出ることが出来る。人も滅多に通らず、殺害の現場としてはうってつけのはずだった。その林に、誰も潜んでいなければ。
「こんな夜中にどうしたの?」
 声をかけられ振り向けば、いつからそこにいたのだろうか、盾の星霊術士・カズ(c04900)が、ついさっきヨハンが歩いてきた道に立っていた。しかも、鞭の魔曲使い・ジル(c05123)がヨハンの肩に手をかけている。
「こんな時間に、そんな物を持って何してるんだい?」
 その後ろから、太刀の狩猟者・フェイ(c03258)が更に続く。その視線は、ヨハンの手に握られたナイフから離れることはない。ナイフを見咎められたことに気付き、ヨハンは慌ててナイフを背後に隠す。しかし、ヨハンの背後には既にハルバードの魔曲使い・クラウストロ(c02351)が回り込んでいた。
「君の成そうとしている事、止めておいた方が良い。成し遂げたとして、君の母も喜ばぬ」
 その言葉に、ヨハンの体がびくりと反応する。ヨハンの口から、つぶやくように言葉が漏れ出した。
「……お父さんがいると、お母さんが悲しむんだ。お父さんさえいなくなれば、お母さんは痛い思いしなくて済むんだ」
 自分のしようとしていることを見抜かれた衝撃と、それでも自分がしようとしていることが正しいと思う心とが葛藤を起こし、止め処なく言葉が流れ出す。その様子に、ジルは哀れみの視線を送った。
「父親がムカつくってのは解るけど、いきなり殺すってのは飛び過ぎじゃねーの?」
 ジル自身は父親も多少痛い目を見てもいいと思っているのだが、それでも親殺しが正しいとは思わない。元の優しい夫に戻ることを母親が信じているのなら、尚更だ。
「本当はお父さんに、昔のようなお母さんと仲が良かった頃に戻ってほしいだけじゃないのか?」
 剣のスカイランナー・レイジ(c02370)も、ヨハンが本当に望んでいることを確認するように声をかけた。ヨハンの表情がにわかに曇り、葛藤が更に強くなる。
「でも、お父さんはお母さんを……」
「それなら、一度酔っていない時の父親と話をしてみるといいかも知れませんです」
 そんなヨハンの葛藤を断ち切るかのように、カズの声がヨハンの言葉を遮った。その提案に、フェイも同意の声を上げる。
「そうだね。そうすれば、解決できる事だから」
 父と話し合う。そんな当たり前の考え方すらも出来なくなっていたヨハンにとって、それは目から鱗の提案だった。しかし、未だに燻る殺意が消えた訳ではない。
 その葛藤を完全に打ち砕いたのは、レイジの言葉だった。
「もし一人で抱え込んじゃうなら、俺達も協力する」
 思わず顔を上げたヨハンの目に飛び込んできたのは、レイジの言葉を受けて力強く微笑むエンドブレイカー達の姿。ただ独りで思い悩んでいたヨハンにとって、それは全てを変えるほどの勇気を与えるものだった。
 だが、異変は唐突に訪れる。
「あれ……なに、これ……?」
 ヨハンの心に差し込んだ光を覆うように、闇が膨らむ。やがて、ヨハンの意識は闇へと堕ちた。

●父の苦悩
 酒場の一角、やや乱暴に酒杯を煽る男がひとり。紛れもなく、ヨハンの父親だった。
 弓の狩猟者・ツバメ(c00125)は、ヨハンの父が酒場に入ると同時に同じ酒場へと足を踏み入れ、暫くの間観察していた。やがて、ヨハンの父が思いつめた様子になったことを見て取り、その隣へと酒瓶を片手に赴く。
「よう、うかねぇ顔してるぜい。どーしたってんだい?」
 見知らぬ男に声をかけられることは、酒場とは言えそうあるものではない。しかしこの男にとって、そんなことはどうでも良かった。その胸の内に抱える苦悩を晴らす術として、酒以外にも頼れるものには頼りたかったのだろう。ツバメの勧めるままに、思いのたけを吐き出すように語り始めた。
 仕事が上手くいかず、酒に逃げてきたこと。その苛立ちを妻にぶつけ、頬を叩いてしまったこと。まだ小さい息子が、自分に近寄らなくなったことなど、なまじ見知らぬ男だからこそ打ち明けられると言わんばかりに話し続ける。
「そうかぁ。イライラしちまうのは仕方ねぇが、叩いちまったのはまずかったなァ」
「ああ、俺もそれは反省してるんだ。だが、この期に及んでどう謝れってんだよ、なぁ?」
 暫く話し続け、大分打ち解けてきたのだろう。ヨハンの父は、自分からツバメに相談を持ちかけるようになっていた。その問いに、ツバメはシンプルに答える。
「素直に謝ってみちゃどうかねぇ」
 色々思い悩んで尻込みするよりは、素直に謝罪する。至ってシンプルで、それ故に勇気のいる行動でもある。だが、今はそれが必要なのだと。
「何も言わずに待っててくれるたぁ、良い嫁さんじゃねぇか。いつまでも泣かしといちゃいけねぇや」
 ヨハンの父が妻を本当に愛してることは、会話の端々で容易に見て取れた。後は踏ん切りをつけさえすれば、きっと素直に謝ることも出来るだろう。
 ヨハンの父は暫く思い悩んでいたようだが、やがて意を決したように真剣な眼差しを虚空へと向けた。話し込むうちに、いつのまにか酒を煽ることも忘れていたのか、酔いも醒め始めているようだ。
 その様子を見て、十分に時間を稼げたと判断したツバメがヨハンの父に声をかける。
「おっといけねぇ、長居させちまったな。そろそろ心配して子供さんが探しに来ちまうんじゃねぇかな?」
 だが、ヨハンの父は「まさかあいつが迎えに来るなんて……」と、そんなことがあるわけがない、と言いたげな表情を見せた。その様子に、ツバメは半ば諭すように言葉を紡ぐ。
「そうでもねぇさ」
 一呼吸置いて、真正面からヨハンの父を見据え、
「ガキってのは敏感で、両親が浮ついてるとすぐ解るもんだからよ」
 にやりと笑うと、ツバメはヨハンの父を帰路へと促した。

●救うべき心
 ヨハンに起きた異変は、エンドブレイカー達にも即座に見て取れた。次の瞬間には、近くの茂みに隠れていた大鎌の魔法剣士・テオバルト(c02419)と大鎌のデモニスタ・ユース(c02781)が飛び出す。
 ヨハンの瞳は光を失って虚ろになり、その顔の右半分を仮面が覆ってゆく。ナイフを握る右手は、まるで影のように黒く染まった。ぐるりとエンドブレイカー達を見やると、右手のナイフをくるりと回して、低く獣のような姿勢を取る。
「クラウストロ兄さん! 受け取るし!」
 ユースがクラウストロから預かっていたハルバードを投げ渡した。得物を受け取り一回転させ、クラウストロが吼える。
「我が名はクラウストロ! 不条理ナ終わりを刈る者だ!」
 その声に呼応するように、周囲の警戒に当たっていた爪のデモニスタ・テオシス(c05025)とアイスレイピアの魔法剣士・イングリッド(c02950)も駆けつける。それが、戦闘開始の合図となった。
 不完全ながらもマスカレイドと化したヨハンが跳ぶ。その鋭い刃が、テオバルトを襲った。
「つっ……完全に、意識を呑まれているようね」
 『姉さん』と名付けられた大鎌を前へと突き出し、ヨハンの接近を防ごうとするが、完全には防御し切れない。冷静にヨハンの様子を観察しながらも、テオバルトの頬を汗が伝う。ヨハンの動きは幼い少年とは思えぬほどに素早い。油断をすれば、次は更に手痛い一撃を食らうことになりかねないだろう。
 だが、エンドブレイカー達も反撃は忘れていない。
「悪魔の力は嫌いだけど、俺には必要だから使ってやるし!」
 ユースのダブついた服の袖から、黒炎が走る。更に、重ねるようにテオシスもデモンフレイムを放つ。ヨハンの小さな体躯を、黒い炎が覆った。その間に、カズの星霊スピカがテオバルトの傷を癒す。
 戦闘はエンドブレイカー達の優位で進んでいた。元より不完全なマスカレイドであるヨハンは、その力を十分に発揮できないでいる。そこへ、ジルの誘惑魔曲が響き渡った。ヨハンの身から、闘志や警戒心が奪われてゆく。
「俺の曲、痺れちゃった?」
 軽口を叩くジルとは対照的に、イングリッドは真剣な眼差しでマスカレイドと化したヨハンに相対する。ヨハンの『母を守りたい』という願いすらも利用するマスカレイドに、静かに怒りを抱きながら。
「人の心に付け込む奴に、手加減などしない!」
 イングリッドの姿が踏み込みと同時にブレ、残像を伴ってヨハンを打つ。誘惑魔曲で動きを封じられたヨハンには、残像剣を防ぐ術はない。幾重もの斬撃が、ヨハンの仮面へと集中する。
 それが決定打となった。微細なヒビが何本も仮面に走り、弾け飛ぶ。
 ヨハンの仮面が、音もなく虚空へと溶け消えた。

●在りし日への道標
「大丈夫、ちゃんと生きてますです」
 倒れこんだヨハンの容体を確認したカズの言葉に、その場にいた全員が安堵の吐息を漏らした。これでヨハンがマスカレイド化することは回避されたのだ。少しして、ヨハンはゆっくりとその眼を開けた。
「……あれ、ボクは……?」
「えっと……疲れてるんだと思う……慣れないことしたから……」
 まだ思考がぼんやりとしている様子のヨハンに、テオシスがうつむき加減でフォローを入れる。ヨハンも「そっか……」と、特に疑問には感じていないようだ。
 そんなヨハンの頭を、ジルが軽く小突いた。
「もうあんな事考えるなよ」
 一瞬、何を言われたのかわからないといった表情をしたヨハンだったが、その言葉の意味に気付いた途端、申し訳なさそうに下を向いてしまった。だが、テオバルトは苦笑を浮かべながら、諭すようにヨハンに伝える。
「どんなに判り合ってるつもりでもね、言わなきゃ判らない事が多いものなの」
 だから、まずはお父さんに自分の気持ちを伝えるべきなのだと。その言葉に、ヨハンは深く頷く。
「というか、ヨハンはお父さんに説教でもしてやればいいし」
 流石に説教は難しいかもしれないが、『まずは自分の言いたいことをぶつけた方がスッキリする』というユースの意見は、場を和ませつつもヨハンの心に染み渡る。
「両親を信じろ。それが、幸せへの近道だ」
 クラウストロもヨハンの幸せを願い、アドバイスを与える。両親とも、ヨハンを愛しているのだから。だからこそ、ヨハンも両親を信じ、愛すべきであると。
 そしてレイジは、ヨハンから家族との思い出を聞いていた。楽しかった頃の思い出が、その頃と同じように生きるための助けになればと。
「そろそろ……ツバメさんとお父さんを、呼んできますね」
 テオシスが父親の足止めをしているツバメを呼びに行こうと林の出口を見やると、そこには丁度ツバメと父親の姿が見え始めていた。
「それじゃ、僕達の仕事はここまでかな?」
 フェイの言葉に、エンドブレイカー達は頷き返す。ここから先は、ヨハンの頑張り次第になる。だが、心配することは何もないだろう。今のヨハンなら、きっと元の幸せな家庭に戻れると、全員が確信していた。
「お父さんとも仲良くな」
 去り際のレイジの言葉に、ヨハンは最高の笑顔で答えた。
 父の手を引き、まるでどこかに遊びに連れていってくれとせがむ子供のように、暖かく優しい我が家を目指しながら。
マスター:虎鉄 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/02/16
  • 得票数:
  • ハートフル12 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし