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東風馨るお店、ヴォストーク

   

<オープニング>

 節制の魔想紋章士・ヒヨリ(cn0139)が、照れたような笑みを浮かべながら酒場に入ってきた。
 そしてしばらくもじもじとしていたが、ようやく口を開く。
「えーと、店番をお願いされたお店が、とっても素敵なお店なので、宣伝に来ました……」
 普段から着物をまとっているヒヨリは、店のコンセプトにピッタリだからと、本来の店番の女性がバケーションに行っている間の代理を頼まれたらしい。
 その店の名前は『ヴォストーク』という。
「アマツカグラの服装に惚れこんだ方々が集まった、デザイナー集団……と言えば良いのでしょうか、ラッドシティの色んな職人さんが集まって作った会があるそうで……、そのメンバーの商品を扱っているお店だそうです……」
 メンバーの内訳は、仕立て屋をはじめ、アクセサリー職人や雑貨デザイナーなど多岐に渡るという。
 ただ、彼らは全員忙しく、店に立つことは出来ないため、ヒヨリに白羽の矢が立ったというわけだ。
「お店には、本格的な着物はもちろん、ちょっとアレンジした物もありました……。あと帯留め等の小物とか……着物の柄を利用した雑貨やアクセサリーなどもあって、居るだけでワクワクできるお店ですよ……?」
 アマツカグラっぽい小物なら何でも揃っていると言っても過言ではないとヒヨリは言う。
「着物のことなら、私も少々は分かりますし、これを機に着物デビューはいかがでしょうか……なーんて……えへ」
 ヒヨリは宣伝文句を言ったものの、恥ずかしくなったか、赤面して苦笑した。


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参加者
NPC:節制の魔想紋章士・ヒヨリ(cn0139)

<リプレイ>

●紫煙は東へたなびき
 ラッドシティの建物群の中で、少し異色を放つ木造と白い土壁の店、ヴォストーク。
 カラリと珍しい引き戸を開けて、出てきたのは無精髭の男性。
 黒い羅宇に、白金の雁首と吸口がついた煙管を手にしていて、紫黒の袋も持っている。
 ヴォストークで、東方の喫煙器具を買い求めたバトルガントレットの城塞騎士・ロム(c32526)は、多少ぎこちない手つきで、雁首を袋に入れた。
 袋には煙草の葉が入っている。それを煙管に詰め、火をつけ、吸口を口へ含んだ。
「……」
 ふうっと吹く煙は、ラッドシティの紫煙にまじり、空高く舞い上がって消えていった。

「ふーん……煙管にも彫刻ってされてるものなんだ」
 店を出ていったロムを見送った三節棍の赤い群竜士・アヤカ(c14761)は、彼が眺めていた棚に近づき、商品を見つめて頷く。
 自分も彫刻をする身、意匠などに興味がある。
「これは……鳥、かな?」
 煙管の棚の隣、銀細工の髪飾りの一つを取り上げ、アヤカはポツンと呟いた。商品の横の説明書きには、髪飾りのモチーフが鶴であり、長寿の鳥としておめでたいものであるとしたためられていた。
 その他にも色々なデザインがあり、ひとつひとつ意味が説明されている。
 アヤカは熱心に説明を読み、自分の創作の一助とすべく、商品の模様を脳に焼き付けていった。
 反対側の棚では、放浪者・カノン(c01644)が、黒くてツヤツヤした塗装が施された食器を手にとっている。
 それは、木製の椀で真っ黒な塗装に、金で満月、銀で月にかかる雲が描かれていた。
 同じデザインで箸や皿もある。
 それ以外にも、隣には布で作られたカバンや、厚くざっくりと漉かれた紙で出来ている便箋などなど……。
「着物や刀以外でも、アマツカグラを思わせるモノってたくさんあるんですね」
 カノンは感心したか、何度も頷いた。
 それぞれが熱心に商品を見るさまを、帳場から嬉しげに見ていた節制の魔想紋章士・ヒヨリ(cn0139)だが、ことりと台に物が置かれた音にハッと自分の仕事を思い出した。
「あわわ、いらっしゃいませ……!」
 あわてて顔を前へ上げると、黒を夜闇と見立て、雲と月が染め抜かれている小紋をまとう月に駆ける妖精騎士・ジョーガ(c23446)が佇んでいた。
「わぁ……! 素敵な付け下げですね……!」
 ヒヨリは目を輝かせ、賛辞を送った。ジョーガは面映そうに微笑み、言う。
「まずは気分から、と思って着て来ました。先日、浴衣をあつらえた方も多い様子……おそらくこのお店が一気に流行るかと思います」
「そうだといいですね……。店の方きっと喜ぶと思います……」
 と返しつつ、ヒヨリは商品の会計をすすめる。
 ジョーガが選んだのは傘だ。日除けのためのそれは、丈夫な白い紙で出来ていて、ぐるりと赤の縁取りが施されている。
「黒に白い傘……。そのお着物によく合うと思います……」
「こっちも?」
 とジョーガが包みからチラリと見せるのは、簡略化された兎が一面に散る赤い小紋だ。
「ええ、そちらにも……。ジョーガさんはお買い物上手ですね……」
 ヒヨリは大きく頷き、彼女のセンスを讃えた。

●東方に想う所在りて
「本当に良かったの?」
 幸翼・シャンパネラ(c12201)は気遣わしげに隣の恋人に尋ねる。
 シャンパネラの今日の服装は、着物のような襟袖に、ドレスのようなふわっとしたスカートを組み合わせたワンピース。
 この店に合わせてお洒落をしてみたのだ。
 だが、シャンパネラは不安だった。
 浴衣か着物でデートがしたいと言ってみたのは確かだが、彼はそういうアマツカグラを思わせるものは避けているように感じていた。だから、ダメで元々だったのに。
 意外にも恋人、黎明の愚者・リオ(c05636)は彼女の言葉に頷き、ついてきてくれたのだ。
「なんでだと思う?」
 リオは曖昧に微笑んで、シャンパネラを見下ろす。
 彼女の藍色の瞳はきょとりと不思議そう。
 リオはますます曖昧に微笑んだ。
 この店には東の香りが満ち満ちている。
 アマツカグラに関するものを避けていたのは事実だ。亡き兄を思い起こさせる。
 だが、今は違うのだ。
(「君がよく、着物を着るから……今は悲しい記憶より、愛しい思いのほうが強いんだ」)
 さすがに彼女にこんな恥ずかしい理由は言えない。リオはその代わりに、彼女の今日のお洒落を褒めた。
 シャンパネラはくすぐったげに笑って、リオの着物をみつくろいだす。
「うーん……やっぱり瞳に近い色が落ち着くかな」
 と手に取るものは明度の低い青から紫にかけての色。
 気恥ずかしそうなリオの肩に布をかけ、一生懸命彼にふさわしいものを探すシャンパネラ。
 穏やかで幸せな空気が二人を包む。

「えっ。せっかくなので着せてくれ?」
 素っ頓狂な声が予想外に店に響いた。自分の出した声に驚いて、口をとっさに押さえる阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)は、焦ったように目を彷徨わせた。
「せっかくの機会なので……」
 ルーンの眼前で、もふもふ刑事・プレノア(c03487)は上目遣いでじーっと彼を見つめている。
 彼女の頭上には、三匹の星霊がおとなしく積み重なっていた。
「いや、私はアマツカグラ出身なので、できますが……別の意味で難易度が高いですね……。いや、嬉しい嬉しくないなら嬉しいに決まっていますけど」
 おろおろとルーンが戸惑っている間に、プレノアはさっさと試着室へ入り、襦袢を身につけだした。
「んー。浴衣とは勝手が違いますー」
 襦袢なしに着ることが出来る浴衣ならプレノアも上手く着られるのだが、さすがにこれは難しいらしい。
 困ってプレノアはこっそりとヒヨリを呼んだ。
 ヒヨリはチョコチョコと小走りにやってきて、手早く彼女に襦袢をまとわせていく。
「コツとかあるんですかー?」
「そうですね……。紐はなるべく太くて平たいものを、腰骨のあたりで強く結ぶんです……そうすれば崩れません……」
「苦しくないです? 締めるのは慣れなくてー」
 プレノアが不安げに尋ねると、ヒヨリは朗らかに笑った。
「大丈夫……締める場所が骨の上なら苦しくないですよ……。さ、続きをどうぞ……?」
 ヒヨリは笑顔のまま、ルーンを呼んだ。
「明鏡止水、明鏡止水、煩悩退散、煩悩退散」
 ぶつぶつ言いながらルーンは試着室へ行き、プレノアへ着つけていく。
「さ、出来ました。普段は可愛い印象が強いですが、落ち着いた感じで綺麗ですよ。行動は大胆でしたけど」
 とルーンが言うと、プレノアは会心の笑みを浮かべた。

●東を香り君を尋ねて
「ぁー、まぁ暇だったし、セレが着物を着てるから、多分好きだと思って声をかけただけで。だ、だから変な気とか他意なんてないからな」
 あーうーと言い訳めいた言葉を重ねる男に、女はクスクス笑う。
「ふふ、心配しないで頂戴」
 彼女の綺麗なほほ笑みは、全てわかっていると包み込むもの。
 月鍵の契・セレティナ(c15834)は、久々に会った黒い獣・ヴェルム(c13267)に、話題を変えるべく近況を尋ねた。
 なぜこの場所にセレティナと来たかったかを説明することから解放されたヴェルムは、ようやく本調子を取り戻し、答える。
「俺はいつもどおりだな。気が向いたら、酒場に行くし」
「そう。私は季節に因んだ都市を巡っていたわ。どれも素敵で……」
 とセレティナは旅の思い出をヴェルムに語りながら、店の中を歩く。
 そして、そっと布地に手を当て、いたずらっぽくヴェルムに向き直ると
「私ね、新しい着物がほしいと思っていたの」
 見繕ってくれる? とねだってみると、ヴェルムは困ったように頭を掻いた。
「どれも同じに見えてしまう……どれがいいのか正直分からん」
 セレティナは、ふふっと笑った。
「じゃあ、ヴェルムに合う着物を探しましょうか。ね、これなんてどう?」
 彼女が数ある着物の中から選び出したのは、青みがかった黒。
 ヴェルムは慣れない着物に、戸惑いつつも、彼女が選んでくれるなら悪くないと思う。
 苔のような深い緑の着物も引き出して、どちらが合うかと悩みつつセレティナは呟く。
「私にはこれが性に合うみたい」
 静かな中にも楽しげな彼女に、ヴェルムはホッとして笑う。
「うん、誘ってよかった。今度はまた飲みに行くか?」
 セレティナは、やはり彼と一緒にいると楽しいと再確認しながら頷く。
「そうね、今度は飲みに。次は私からお誘いさせてね」

「ヴェー、見てごらん。この置物はなかなかユニークだよ」
 と、藍鉄の騎士・アズ(c24274)がそっと取り上げたのは白いネコの置物だ。
 片手を上げて、招いているようなポーズをとっている。
「ふぅん、商売繁盛の神様ってところなのかねえ?」
 説明書きを読んだヴェーこと絢爛の魚・エイシェンヴェール(c27983)が、アズの手の中を覗きこんで呟く。
「ヴェーの宿屋に置いてみるのはどうだろう?」
「なるほど、いいかもしれない。縁起のよさそうな構えだし、ふくよかでとてもかわいらしい」
 と言いつつも、一旦ネコの置物は、棚に戻された。
 次にアズが手にとったのは、かんざしだ。
 赤い椿の花がちょんと乗っているかんざしをアズは、エイシェンヴェールのピンクの髪にあてがう。
「どうかね? 君の美しい桃色の髪によく映えると思うんだ」
 真剣な口調に、エイシェンヴェールはどぎまぎと目を伏せ、恥ずかしそうに小さく返す。
「真顔でそう言われると照れるねえ……似合うかしら?」
「ああ。とても。……君に贈るよ」
「買ってくれるのかい?」
 とエイシェンヴェールがきょとんとしている間に、アズはさっさとヒヨリに精算を頼み、金を支払った。
「ありがとう!」
 うれしさを全面に出し、エイシェンヴェールは、照れくさげに戻ってきたアズに心から礼を述べる。
「じゃあ、アズにはこれを。良い運を授かるかもしれないよ?」
 エイシェンヴェールはいたずらっぽく笑いながら、先ほど棚に戻したネコの置物を取り上げ、アズの横に並べるように掲げた。

●遠き東方を感じて
 ヒヨリは真剣に布の山を見つめていた。
 彼女に着物を見立てて欲しいと、紅響の陽炎・ジル(c05123)が頼んだからだ。
「ジルさんは格好良いですから、なんでも似合うとは思いますが……」
 それでも最も似合う色を探したいと、ヒヨリは着物の山を睨んでいるのだ。
「かっこいいとかそんなー。いやー前から興味はあったんだけど着てみたくってさー。まぁ俺はいい男だから何着ても大体似合うけどね!」
 と矢継ぎ早に言葉を重ねるジルは、非常に照れているらしい。
「っと……こちらなんかいかがでしょう……!」
 ようやく意に沿うものがあったのか、満足そうにヒヨリは一着の着物を取り出した。
「単の着物です……。まだまだ暑いと思うので、凹凸のある生地で、こんな色はいかがでしょう……?」
 胡粉色の着物は織だけで模様が入っている。
「ジルさんの赤い髪には白が合うと思います……。こちらに、葡萄茶の帯を合わせましょう……」
「おお、いいねいいね!」
 ジルは大いに喜び、そして、次のお願いをする。
「あーのさー。実は彼女にも浴衣プレゼントしたいなー、とか思ってんだけど、一緒に選んで貰って良いかな?」
 ヒヨリは快諾し、ジルに彼女の印象や特徴を尋ねる。
「いつもは白い服が多いんだけど、濃い色似合うと思うんだよね。肌の白さが映えるっつーか……。あと、うなじ見たいのうなじ! 髪いつも下ろしてるからさ。髪飾りとかオススメない?」
 とどんどん出てくる要望に、ヒヨリは笑顔で頷き、次々と似合いそうなものを選んでいく。
(「人に似合うものを探して喜んでもらうって楽しいな……。このお仕事、結構好きかもしれへんわ……」)
 着物一式と小物を揃えながら、ヒヨリは楽しさを噛み締めるのであった。



マスター:あき缶 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:13人
作成日:2012/09/03
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冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
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