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くり投げ

<オープニング>

 夏の暑さも徐々に和らぎ、秋風の涼風が山間を吹きぬける。味覚の秋とはよく言ったもので、緑から茶へと色を変えつつある山々には秋ならではの食材が数多く眠っている。
 そんな味覚の宝庫に、耳障りな胴間声が響く。
「親分、考えましたね! 人質を取って脅迫ですね!」
「おうともよ、そうすりゃ村の連中の金や食料は全て俺達のものよ!」
 いかにも『俺達山賊達です!』といった姿をした男達の前で、子供達は不思議そうに首を傾げている。山に栗を拾いにきた子供達は、目の前の男達が何者なのかをまだ理解していないようだ。
「さぁさぁ、お前らいい子だから大人しくしな。でないとちょっぴり怖い思いを――」
「ねーねー、おじさんたち山賊さんなの?」
「おうよ。だから無事に親元に帰りたけりゃ、俺達の言うことを」
 聞け、と山賊が凄みをきかせる。……しかし、後になって思えばそれがいけなかった。
「きゃー! 山賊さん怖いー!」
「あっちいけー!」
「おっ、おいお前ら静かに――いでぇっ!? こ、こら! 栗を投げるんじゃぎゃあぁぁっ!?」
「えいっ! えいっ!」
「や、やめ……お前ら、こいつらを何とかしろ!」
 落ちている栗を子供達は手当たり次第に投げつけ始める。それもイガに包まれたままの、当たればザックリと刺さりそうな物を。何とか近づこうとする山賊達であったが、次々に飛んでくる針の山に悲鳴を上げるのだった。
「怯むな、捕まえいでで尻にっ!? やめその栗でか……た、助けてー!?」
 
「ラッドシティの戦いで貴族領主が居なくなり、混乱している地域があることは知ってるよな?」
 集まったエンドブレイカー達に説明を始める魔獣戦士・ルディ(cn0018)。治めるものの居なくなった地域は、長老衆や老齢の貴族達がなんとか体裁を保つ程度には管理しているのだが、どうしても盗賊などの被害にまで手がまわらないのだという。
「今回行ってもらうエルピナ村もそんな場所だ。どうやら近くの山に子供達が栗拾いに行ったところを、山賊達に襲われちまうみてぇだな」
 その山賊達を退治すること、そして二度と同じような事件が起きぬよう、出来れば誰か周辺を統治して欲しいというのが今回の依頼なのだという。
「山に栗拾いに出かけたのは5人ぐらいの子供グループだな。親達は仕事で付き添いもなし。だからこそ狙われたわけだが」
 子供達は背中に栗を入れる籠を背負っており、その重みで走って逃げるのは難しいようだ。
「山賊達も5人だな。子供相手とはいえ、一応武装はしてきていたみたいだが……」
 そこまで説明したルディが、どう言ったものかというように頭をかく。悪漢が子供達を襲うという状況の他、いったいなんだというのか。
「子供達の抵抗が予想以上に激しくてな。手当たり次第に栗を山賊達に投げるもんで、山賊達は迂闊に手を出せずそれどころか逃げ回っているらしい」
「ええぇ……」
 子供達に栗を投げられ逃げ惑う山賊達。なんとも滑稽というかシュールな光景である。間抜けすぎて、思わずエンドブレイカー達からも気の抜けた声が漏れる。
「とはいえだ、投げるものもなくなりゃ山賊達に捕まるしかないわけでな。そうなる前に助けてやってくれ。栗投げてるところには間に合うはずだから」
 そう言いながらテーブル下からイガつきの栗を取り出すルディ。……何故このタイミングで。
「兎に角急いで助けに行ってやってくれ。あと希望者は地位にもつけるんでな、興味のあるヤツは覚えておくといいぜ。んじゃ、頑張れよ」
 話を終え、ルディは手元の栗を前に一息をつく。そしていざイガを剥こうとし――針を手にぶっ刺し絶叫するのまでを見届けたエンドブレイカー達は、哀れな中年に興味をなくしたように相談を始めるのだった。


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参加者
やわらかさわ・ディー(c00031)
ひよこ捜査官・ナハト(c00101)
月輪・ユキト(c01079)
阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)
想翼・ヨシノ(c04548)
鉄槌娘・エレナ(c12211)
悪名を厭わず名を求めず・オキザリス(c22438)
伝承と物語の探求者・チャンドラ(c26564)
傷と過去を抱える少女・アーリャ(c28852)
風の吹くまま気の向くまま・ラゼル(c32235)

<リプレイ>

●逃げ惑うのは
 山道を駆け降りるような速さで、10の人影が移動する。時折「ぎゃぁ!」といった悲鳴だとか、「ぐげっ!?」といった蛙の潰れたような声が響いており、その後ろを勇ましい子供達の声がついてまわる。
「ま、待て! 落ち着け!」
「それっ、それっ!」
「ああもうっ、落ち着けって言ってん――いでぇ!」
 逃げ回る山賊達は何度も子供達に向けて叫ぼうとするのだが、興奮した子供達には声は届きもしない。そんな光景を少し離れたところから眺めているのは、事件の収拾に来たエンドブレイカー達である。
「それにしても見事な栗投げ、いずれは優秀な錬金術士になるかもしれませんね」
「……そういうものか? あと頭に栗刺さってる」
 子供達の栗を投げる手腕を見た阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)が、しみじみと頷きながら呟く。一体それはどこの世界の錬金術士の話だろうか。アトリエでも構えた錬金術士は、そんなに棘のついたものを投げているのだというのか。
「うーん、なんというか。どっちを助けるべきか微妙に悩む光景だよなー」
 ルーンが頭に刺さった栗を引っこ抜いているのを横目で見ながら、やわらかさわ・ディー(c00031)は呆けた様子で頭を掻く。あくびをかみ殺し見やる先では、籠を運ぶ役と投げる役に分業した子供達が、半泣きの山賊達をどんどんと追い詰めていっている。
「当たると痛そうですねぇ。くふー」
「あんなトンチキな輩にはいい薬だ」
 振り返った瞬間まともに顔面へと栗が刺さった山賊の姿に、悪名を厭わず名を求めず・オキザリス(c22438)が堪えきれないというように噴出している。その隣では、腕を組んだ月輪・ユキト(c01079)がいい気味だというように冷たく言い捨てており、情けない姿を晒し続けている山賊達を内心せせら笑っていた。
「もう少しかな……今行った方がいいかな」
「まだです、まだ準備不足です。ほら、栗だってあんなに」
「でもでも、ヒーローみたいにバーンって!」
「そうそう、正義の味方は格好よく登場だよな!」
 今か、今か、とうずうずしている想翼・ヨシノ(c04548)とひよこ捜査官・ナハト(c00101)の2人を、鉄槌娘・エレナ(c12211)は宥めるようにして止める。「今行くと栗が当たっちゃいますよ?」という言葉もあってか、2人は渋々といった様子で引き下がるのだが、それでもいつでも飛び出していけるようにと準備をするのだった。
「しかし、すごいなーあの子達。……にしても、あんな間抜けな山賊がいるとはなぁ。どっちが襲う側なんだか」
「反撃されるのが予想外だったとはいえ、あの体たらくじゃどの道失敗していたのかもしれないな」
 風の吹くまま気の向くまま・ラゼル(c32235)と伝承と物語の探求者・チャンドラ(c26564)に共通している思いは、よくあれで今まで山賊としてやってこれたものだという、ある種の感嘆とも呼べるものであった。武装までしているにもかかわらず、子供達にすら押し負けている彼らは今まで一体どんな活動をしていたのだろうか……。
「山賊なぞ向いてないようにしか見えんのじゃ。……さて、そろそろ栗がなくなりそうじゃのぅ」
 傷と過去を抱える少女・アーリャ(c28852)の指差す先では、籠を運んでいた子供が栗が残り少なくなってきたのか、焦りと心細さを足したような表情を浮かべ始めている。そろそろ出番が近づいてきていることを察したエンドブレイカー達は、各々いつでも子供達を守れるような態勢をとるのであった。

●残念な大人
「ど、どうしよう。もう栗残ってないよ……」
「落ちてるのとかまだあるだろ! 兎に角投げられそうなものを探して――」
 武器がなくなりもめ始めた子供達の姿に気付いたのか、山賊達は顔を見合わせる。
「お、終わったのか……?」
「助かった……親分、俺達助かったんだ!」
「おうよっ! もう栗なんて飛んでこねぇんだ!」
「「ばんざーい! ばんざーい!」」
 子供そっちのけで抱き合い、涙を流しながらお互いの無事を喜び合う山賊達。それだけ栗の棘は痛かったのだろう……。そして涙を拭い子供達に向き直った山賊達は、仕切りなおすかのように吼え始める。
「おらおら、よくもさっきまでやってくれたな! ……痛かったじゃねえか!」
「こいつは、ちょーっぴりお仕置きしてやらねえとな!」
「く、来るなぁ! こっち来ないでよ!」
 反撃がなくなったとたん現金なものである。しかしこうなることも予想できていたのもあり、山賊達がにじり寄っていこうとする場に声が響く。
「勇敢な子供達よ! 危ないから、耳を塞いで、目を閉じて、しゃがめ!」
 ルーンの言葉通りに素直に従った子供達がしゃがむ中、山賊達に向けて複数の閃光手榴弾が投げ込まれる。棒立ちになっていた山賊達は、目も眩むような光と鼓膜が破れるのではないかと思うような音を直接食らうこととなり、総崩れとなって地面に伏せる。
「おー、効果覿面だー」
「それじゃあ、あまり痛くないように――やっぱり無理でした!」
 手榴弾の効果を確認しているディーの脇を抜け、ハンマーを振りかぶったエレナが突撃する。蹲った山賊の1人に振り落としたハンマーは、どの辺りがあまり痛くないのかと問いたいほどに美しく鋭い軌跡を描きながら、一撃で戦闘不能へと追い込んだのであった。
「子供たち! 助けに来たぞー!」
「ボクらが来たからには、もう大丈夫。とうっ!」
 子供と山賊の間に割り込むように、ナハトとヨシノが姿を現す。2人とも自分なりのヒーローをイメージした結果か、ナハトは神楽舞を舞い踊りながら、ヨシノは木の上から飛び降りての登場である。派手な登場が功を奏してか、子供達の視線は釘づけである。
「な、なんだテメェらは」
「悪人に名乗る名前なんてないっ! ヨシノ、俺はこの子達を避難させるから」
「山賊達はボクに任せて! いくよ!」
 子供達の手を引き避難を始めたナハトが遠ざかっていくのを背中越しに感じながら、ヨシノは空を飛ぶように跳ね上がり山賊達に攻撃を加えていく。微かにではあるが、遠くに逃げている子供達の方から歓声のようなものが聞こえるのが、宙を舞うヨシノを心地よくさせる。
「よう、住所不定無職のアホ共」
「ぐべっ……ぬぐぐ、住所不定無職で何が悪い!」
「いや、悪いだろう……」
 棍で手近な場所に居た山賊を殴りつけたユキトに、随分と開き直った山賊達の返答が飛ぶ。その言葉に何一つ後ろめたさを感じてない様子なのが色々と救えない。あまりにもあんまりな連中に、ユキトは頭が痛くなるのを感じながら棍を振るい続けるのだった。
 閃光手榴弾の衝撃からようやく立ち直りつつあった山賊達であったが、エンドブレイカー達の攻撃を受けきるのが精一杯なのか、手持ちの武器を盾にするようにしながらダメージを最小限にすることに努めていた。そこへ――。
「秋の味覚つながりということで、栗の次はキノコなんてどうです? 効きますよぉ」
「いやいや、どうせなら刺さるもの繋がりで毒針なんてどうだ?」
 毒々しいキノコを手にしたオキザリスと毒針を口に含んだラゼルの姿に、エンドブレイカーの前衛達に翻弄されていた山賊達の頬が引きつる。
「ま、待て! お前ら子供を助けに来たみたいだが、助けて欲しかったのはこっちのほうだぞ!?」
「いやほら……それは自業自得ってやつだろう?」
「そんな鬼気迫る表情で迫られても、むさい男には興味ないですよぉ」
「お、鬼だ! テメェらの血は何いぎゃー!?」
 何とか容赦してもらおうと近づいてきた山賊達に、容赦なく攻撃を加える2人。無様に悲鳴を上げながら地面を転がり逃げる山賊達の体を、突如飛来した白銀の鎖が絡めとリ捕縛する。
「おっと……予想より簡単に捕縛できてしまったか」
 もうちょっと抵抗でもされるかと思っていたチャンドラであったが、タイミングが良かったのもあってかあっさりと山賊達の捕縛に成功してしまう。鎖にぐるぐる巻きにされた山賊達は、必死にそこから抜け出そうとしているものの、鎖はびくともしないのであった。
 地面に転がった山賊達の前に、アーリャが進み出る。見下ろすその視線は、限りなく『可哀想で駄目な大人達』を見る目であった。
「……のう、出来れば哀れな御主等をこれ以上痛めつけたくないのじゃ。山賊など辞めぬか?」
「ふ、ふざけるな! 俺達だってプライドってもんが――あいたっ!?」
 一丁前に啖呵をきる山賊に、アーリャのサードアームが近くに転がる栗を拾い投げつける。
「……向いてないと思うんじゃが」
「うるせぇ! 俺達は誇り高――いた、いたっ、やめ……棘をそんなに押し付けないで!」
 無謀に虚勢を張り続ける山賊達に、サードアームが無慈悲に栗を押し付けていく。捕縛され逃げることさえ出来ない山賊達は、アーリャにされるがままに栗で蹂躙されていた。哀れである。
「わ、わかった! やめる! もう山賊なんてやめるからっ! だからもう栗はぁぁ!」
「……わかってもらえたようで何よりじゃ」
 アーリャの熱心な説得に折れた山賊達は、滝のような涙を流しながら山賊活動の休止を宣言したのだった。

●栗料理
 振り出しに戻ってしまった栗拾いを手伝い、捕縛した山賊達を村まで連行したエンドブレイカー達は、村人達に歓待され栗を使った料理が出て来るのを待っているところであった。
「よく頑張ったね、君達が頑張ったから私たちの救援が間に合ったんだよ」
 一緒に帰ってきた子供の頭を撫でながら、ルーンはそう言って褒める。褒められた子供は気恥ずかしそうにしながらも、どこか誇らしげに胸を張るのであった。
「蒸した栗に栗ご飯……楽しみだなー」
「台所からの香りだけでもお腹がすいてくるね」
 湯気とともに運ばれてくる、栗の甘みを乗せた香りにディーとユキトが頬を緩ませる。一緒に食卓を囲っている子供達も、段々と我慢できなくなってきたのかまだかまだかとはしゃぎ始めている。
「ねぇねぇ! 何であんなにすっごいジャンプできるの!?」
「格好よかったよ! 僕にもコツを教えてよ!」
「えへへ、それはね〜」
 子供達に随分となつかれたヨシノが、料理が出来るまでの間スカイランナーとしての心得や空を駆ける気持ちよさを語る。子供達はその一言一言に耳を傾け、目を輝かせながらもっともっと! とせがむのであった。
「栗ご飯が出来ましたよー」
「待ってました! いい匂いでお腹もぺこぺこですよぉ」
 よそってもらった茶碗を受け取り、オキザリスはウキウキとした様子でかき込み始める。ほのかに甘い栗がふんだんに混ぜ込まれた栗ご飯がよっぽど美味しかったのか、オキザリスは満面の笑みを浮かべながらすぐさまお代わりを要求するのだった。
「おっ、これは蒸し栗か?」
「母ちゃんの蒸し栗、美味いんだぜ!」
「そりゃ楽しみだ!」
 自慢げに手を差し出してくる子供から栗を受け取り、殻を剥き取るラゼル。すると中からは湯気を出しながら黄色い身がころりと抜け落ちてくる。それをそのまま口に含むと、ホクホクとした熱さと甘さが舌に伝わってくるのが心地よい。
「まだまだ沢山あるから、お代わりをしたい人も遠慮なく」
 盆の上に色々な栗料理を載せたチャンドラが、台所から顔を出す。調理の手伝いをしていたらしく、栗ご飯や蒸し栗だけでなく、きんとんなどといった甘味までその盆には載せられていた。これには甘いものが大好きな子供達が嬉しそうな声をあげる。
「……ほれ、お主らの分じゃ」
「喉に詰まらせないように、しっかり噛んで食べてくださいね」
「うう、すまねぇな……」
 アーリャとエレナが配膳するのは、子供達を襲おうとしていた山賊達であった。先の戦いで改心し山賊を辞めた5人は、村人達の情けとして一緒に食卓を囲むことを許されたのであった。
「こいつらも反省してるみたいだしさ、この村でさ、畑を耕して生活するとかダメかな?」
 村の統治者を希望しているナハトが、「暫くは俺がしっかり見張ってるから!」と頼み込むと、村人達もそれなら……と頷いてくれる。無事に懇願が通ったナハトは、無事に受け入れてもらえたことを喜ぶ山賊達を見ながら、脳内で算盤を叩き始める。
(「よーし、人手も確保できたし、栗販売ルートを開拓すれば!」)
 ……案外商魂逞しいナハトなのであった。
 こうして心行くまま栗料理を堪能した一同は、元気に手を振る子供達や頭を下げ見送る山賊達に手を振り返しながら帰路につく。情けない山賊達であったが、世の中にはあんな山賊も居るものなのだな、と変な感慨を胸に抱きながら。



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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2012/10/19
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