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【アマツカグラ調査隊】神隠しが原の果て

これまでの話

<オープニング>

●神隠しが原にて
 調査船を島影に停泊させ、暫くぶりに大地を踏みしめれば、安堵が湧き上がる。だがそれは風に晒された灯火のように一瞬に立ち消えて、代わりに宿るのは不安にも似た心地だ。
「……」
 アマツカグラを故郷とする者たち。とりわけ、神火が滅び行く中を逃れてきたナミネの胸中は一層複雑であろうか。苦しげに瞳を一度伏せた彼女だったが、直ぐに面を上げ、凛とした眼差しで神隠しが原を見つめた。
 大丈夫か、と誰かが問えば、ナミネが薄く微笑して頷いた。
「……逃れて来た全員が、神隠しに遭った訳ではありませんでした。勇士号で皆さんに助けて頂いた人たちが、避難民の全てではありません。一緒に、こちらの海岸を目指して逃げて来た民の中で……もしかすると、逃げ延びた人がいれば、まだこの神隠しが原にいるかもしれません」
 探したい? けして口にはしなかった彼女の意図を汲む言葉には、先よりも確かな首肯が返ってくる。彼女の願いを出来るだけ汲んでやりたい。それはエンドブレイカーたちの共通の想いだ。
「行こう。少しでも、多くの者を助けられるように」
 彼女の願いの成就と、避難民の無事を願い、彼らはアマツカグラの大地を踏みしめ、捜索を行いながらの移動を開始した。
 重く垂れ込める鈍色の天蓋の下に、広がるのは平野、といって相違ないが、谷や丘陵地帯、小規模の木々が生い茂る林、人の背丈ほどもある草が密集する草原、時に顔を覗かせるごつごつとした岩肌。身を隠せそうな場所は多い。それらを捜索しながらの進軍は、存外時間がかかっていた。
「……とすると、見通しの悪い場所を選んで来るだろうな」
 ナミネたちともはぐれてしまったのだ。避難民にとって、生き長らえる為には、少しでも脅威となる存在から身を隠すより他ない。棘霞の魔物、そして、仲間たちが変じてしまった魔物たちに遭遇してしまえば――もはや避難民に生きる術は無いだろう。
 そして、その予想は見事に的中した。
「……っ、はっ、はぁ……」
 岩陰に身を潜ませた青年は、殺しきれない程に息を荒らげていた。足音が通り過ぎてゆく。何とかやり過ごしたか、と、大きく息を吐きながら天を仰げば、にたり、と笑う仮面の男と遭遇した。
「逃げられると思ったカァ?」
 じりじりと獲物を追い詰める愉悦に口元を歪ませた男が、劔を振り上げた。
「ひ……っ」
 息を飲み、青年が双眸を伏せて身を竦める。――だが、予想していた痛苦はいつまで経っても訪れなかった、
「大丈夫ですか!?」
 聞こえてきた声は――覚えのある声だ。青年が瞳を開けて声のする方向へと視線をやれば、敬愛する巫女と、そして彼女を守るように寄り添う一団がこちらへと向かって来る。
「神火よ……!」
 感極まったように瞳に涙を滲ませて、青年が太刀鳥居があっただろう方角へ、祈りを捧げた。
 
「お怪我はありませんか?」
 仮面の男を撃破したエンドブレイカーが問えば、青年は深く、何度も頷いた。
「助けて頂いてありがとうございました。……神隠しに遭った人以外は、ほぼ全滅です。ですが、棘霞の魔物は執拗に、まるで……我々を根絶やしにせんとばかりに、追いかけて……きて」
 憔悴しきった青年の表情に、ナミネもそのかんばせに苦悶の色を浮かべる。
「私たちは、棘霞の魔物とともに神隠しに遭い、勇士号に辿り着きました。ですが……その事情を知らない者から見れば、私たち避難民がどこかに逃げ遂せた上、追っ手の配下も戻ってこない……そう見えるのでしょう」
 マスカレイドたちも、この現状を訝り、避難民の残党と、そして逃げ遂せた者の手掛かりを求めて、神隠しが原を捜索していると見て間違いないだろう。――だとすれば、このままでは、逃げそびれた避難民はおろか、エンドブレイカーたちとて発見される可能性は否めない。万一発見されれば、そして、その報告がアマツカグラに報告でもされようものなら、今後の調査は難しくなるだろう。ともすれば、命さえ賭さねばならぬ程に。
「……だけど、此処はまだアマツカグラからは遠いよね」
「であれば――」
 エンドブレイカーたちが顔を見合わせる。
 ――アマツカグラへと報告される前にマスカレイドの追跡部隊を全滅させれば、エンドブレイカーたちの上陸を知られるのは、まだ先の話となる。
「……皆さん、お力を……貸して、頂けませんか」
 ナミネの要請に、エンドブレイカーたちが頷いた。

●偵察部隊
 相談の結果、エンドブレイカーたちは三部隊に分かれて行動することになった。
 敵を誘き寄せる『囮部隊』。
 機を見て指揮官を狙う『急襲部隊』。
 そして仕上げに――『偵察部隊』が必要だという皆の意見にナミネが頷いた。
「『霊峰天舞アマツカグラ』の偵察と、逃亡する敵の退路遮断を兼ねる部隊ですね」
 まず、都市のマスカレイドに気づかれない範囲で偵察を行う。
 内部の様子が全く掴めていない状態で都市に潜入するのは、あまりに危険だ。そのため、今回は都市の外部から都市内部の様子を探ることになる。
 都市のマスカレイドは何をしているのか、そして最悪を想定し、都市から神隠しが原に向けてマスカレイドの増援がないかを確認する。
 偵察の成果次第では次以降の作戦に有効な情報が掴めるかもしれない。

「偵察を終えたら、都市に向けて逃亡してくる棘霞の魔物――マスカレイドを待ち構えてください。もしアマツカグラ側に動きがあれば大変ですから、その間も、どうぞ背後には気をつけて……」
 他部隊の行動次第で、偵察部隊が対応する敵の数は増減する。
 多くの敵が逃亡に成功すれば当部隊の負担は増えるが、他部隊に敵を委ねるあまり大きな負担を掛けることのないよう、大局を見た判断が必要になるだろう。

「魔物たちがアマツカグラに逃げるのは間違いありません。ですが、どのルートを通って移動するかまでは、そのときになるまでわかりません……。神隠しが原には獣道が無数にありますし、都市内部と違って、大通りのようなものもありませんから……」
 マスカレイドの撃ち漏らしを防ぐためには、偵察部隊の中でもさらに三手ほどに分かれて行動する必要がありそうだ。道なき道を通る敵もいるだろうから、敵の逃亡経路を把握しやすい位置を考慮して待ち構えると、敵を捕捉し易くなるに違いなかった。
 だが、どの道を、何人の敵が選ぶかもわからない。
 当然、待ち伏せた三手のうち、どこかに敵戦力が偏る危険性も高い。そのため、あらかじめ合流場所に目星をつけておき、逃走経路が判明した敵を捕捉し次第、偵察部隊の仲間と合流するように敵を誘導しながら、戦闘に臨む工夫が必要になってくる。
「逃亡するつもりの相手を惹きつけながら移動するのは、とても大変なことだと思います。けれど、もし棘霞の魔物の逃亡を許すことになれば、アマツカグラにこちらの状況が伝わってしまいます……」
 こちらの情報が都市の敵に伝われば、次回以降の先手を取ることが難しくなってしまう。
 可能な限り、敵の逃亡を許してはいけない。
 偵察部隊は偵察のみならず、この奇襲作戦の最終防衛線となるのだ!
 また、偵察部隊の戦闘が長引けば、戦闘を終えた他部隊が援護に来てくれる可能性もあるが、それも全体の作戦次第になるだろう。
「どうかご無事でお戻りください」
 私も頑張ります、と囮部隊に参加するナミネは健気に微笑むのだった。

●幕間
「まだ見つからんのかっ!」
 爪を噛んでいた指揮官らしき武芸者が、傍らの配下に怒鳴る。
「はっ、なにせ手掛かりもなく、部隊を分けて虱潰しで調べておりますれば、今暫し……」
 片手を地面について畏まった配下が、頭を垂れ報告する。
「不満か? お前らもボヤく暇があったら、一緒に探してきたらどうだ? そんなに帰りたいなら、俺が首だけ連れて帰ってやるぞ?」
 指揮官はアマツカグラに戻れない不満を囁き合っていた配下に、十文字槍の穂先を突き付ける。
「いえナガヨシ様。私達は決して不満など……」
 穂先を突き付けられた配下が、冷や汗を垂らしながら答える。
「チッ、まぁいい。何か分ったら全員集めて一気に方をつけるぞ。原因が分りゃアマツカグラに帰れる」
 ナガヨシと呼ばれた指揮官は、槍を納めてギロリと睨むと、言い放ってまた爪を噛み始めた。
「ハッ!」
(「見つけてくるまで帰って来んなって言われてるのは、お前だけじゃねーか」)
 畏まって敬礼する配下の武芸者達の内数人は、心の中でナガヨシに対し舌を出すのだった。


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参加者
一刃の星・レイジ(c02370)
彩雲の巫女・ミスズ(c05739)
とんがり帽子の森の人・フォレス(c07267)
碧空の渡り鳥・ソウヤ(c17258)
華節陽伯・スイエン(c25289)
穢死檻の巫女・シュプリムント(c25576)
静かなる暴風・ミアン(c25632)
待雪草・スズクサ(c25719)
人生謳歌・ウィード(c30524)
喜び夜駆け回る・サツキ(c31518)

<リプレイ>

●霊峰天舞アマツカグラ
 巫女より伝え聞いた高台の一角に、痩身の少女が立っていた。
 静かなる暴風・ミアン(c25632)の位置に霊峰ほどの高さはなく、都市の全景を視界に収めることは叶わないが、それでも最低限の偵察には充分だ。真紅の瞳が見つめる先は、霊峰アマツを中心に広がる『霊峰天舞アマツカグラ』――巨大な打刀と脇差を頂く都市国家。独自の発展を遂げた文化は朱塗りの橋など東方風の星霊建築からも窺える。
 だが、何よりも目を奪うものは、
「……咲いてるな」
 都市を覆い尽くさんばかりに茨を伸ばした、毒々しい薔薇の異様。
 人生謳歌・ウィード(c30524)の呟きにミアンも頷く。薔薇は開花しているが、辺りに戦闘の気配はない。既にエリクシルの出現後だろう。神火の有無までは察しようもないが、巫女ナミネならば感じ取れるかもしれない。
 突発的な事態にも対応できるよう、一刃の星・レイジ(c02370)は偵察担当の仲間から離れすぎない位置に留まる。視界の端に必ず味方の姿を映すよう意識を割き、何らかの痕跡を発見できないかと空色の眼差しを彷徨わせた。
 あれが故郷かとアマツカグラを展望した喜び夜駆け回る・サツキ(c31518)は、咲き誇る薔薇の姿に複雑な心地になるも、すぐに決意を新たにした。
 今は己の役割を全うしたい。
 少女は紫苑の瞳を閉じ、聴覚に集中した。
「何も聞こえない……」
 鼓膜を震わすものは吹き抜ける風と草の擦れる音くらい。近隣に音源はないようだ。遠く離れた都市内から彼女の耳に届く音もない。
 が、都市に接近しすぎて敵に発見されては堪らない。外套を羽織る待雪草・スズクサ(c25719)も仕様がないと頷き、彼女らは距離を保った偵察を続ける。都市周辺にも舗装された道はない。都市外壁までは手入れも行き届かないのか荒れた印象も受ける。建築が破損した箇所はないが、外周部の階層にある住居は廃墟と化しているようだ。スズクサが鷹の眼差しを得て確かめると、都市外に敵影はない代わり、都市の外壁上をマスカレイドが見回りしていた。
 無防備に高所から身を晒せば発見された可能性もあるが、土と草を塗した布を被り、物陰に隠れたウィードらに敵が気づいた様子はない。市民の姿は見えず、都市に出入りする人影もないが、都市内には複数のマスカレイド――戦闘部隊も駐屯しているようだ。
 要所には物見櫓も存在し、警戒が滲んでいる。
「奴らもぴりぴりしてるなら、まだ、望みはあるな」
 焦茶の眼を緩め、男は笑った。
 棘に包まれた都を見て沈まないと言えば嘘になるが、唯の失意は何も変えない。悲愴な現実なら突っぱねて、笑って、乗り越えてやる。
 幸いにして神隠しが原からアマツカグラまでの間に砦の類は存在しない。都市の外周部に関所らしきものを確認したミアンは、都市の現状に思うものがあれど表情には出さず、口を噤んだまま淡々と偵察を切り上げた。

●果てに至る道
 同刻。
 偵察部隊の半数は互いが見える距離を保ちながら、慎重に最終防衛ラインの選定を行っていた。
 決して敵の突破を許せない線のみならず、待ち伏せ箇所も見繕おうと頭を捻る。
「敵が通りそうなルートは……?」
 これは次に繋がる大切な役割だ。黒猫の星霊を従えた彩雲の巫女・ミスズ(c05739)は使命感を胸に、周辺の警戒にも気を配りながら頑張って考える。敵を捕捉しやすい位置なら高台が良いだろうか、それでは敵にも発見されやすくなるだろうか。
「可能な限り、他班の様子を窺えるような配置にしたいですね」
 友たる星霊に探索指示を飛ばしながら、とんがり帽子の森の人・フォレス(c07267)も最終防衛線に適した場所を探し求めていた。
 広大な神隠しが原には道なき道が多すぎる。舗装された通りがなく、獣道ならば無数にあり、単に草原を突っ切ればそこも道になる。全ての逃走経路を抑えることは不可能に近いが、最低限、切り立った岩場など移動に厄介な場所は逃走経路から除外できるだろうか。
 闇雲に探し続けても、何が正解かわからないまま時間は過ぎただろう。
 そんなとき、碧空の渡り鳥・ソウヤ(c17258)の言葉が一筋の光明となった。
「敵部隊と都市の位置関係から考えると、この辺りは抑えておいたほうが良さそうですね」
 味方の囮部隊が騒ぎを起こす箇所、そして敵の首領たるナガヨシのいる箇所からアマツカグラに至る道程を考えれば、広大な草原の一部分に待ち伏せ場所を絞り込むことができる。彼の閃きは基本であり基盤であり、この作戦を支える上で欠かせない要素になった。
 華節陽伯・スイエン(c25289)は近く遠い空に心を馳せる。船に残した青年には決して姿を現さず、隠れ続けるよう言い含めたが完全には心配が拭い切れない。故郷の現状を知りたい想いもある。だが、草原を歩む今が故郷を救うきざはしになると信じていた。
 僅かな獣道も見逃さぬよう、彼女は連れた黒猫の星霊に敬意を払い、探索の助力を乞う。そして剥き出しの土に獣ではなく人の足跡を発見し、数名は行きにこの辺りを通ったに違いないと確信した。意外な抜け道があるから油断はできませんね、と旅慣れた足取りで草を掻き分けながらソウヤも頷く。
 同じく黒猫の星霊を従えた穢死檻の巫女・シュプリムント(c25576)が提案する。
「最終防衛線は、各班の待機地点からアマツカグラに至る最短ルートの交点付近かな?」
 他に意見もなく皆が彼女の言葉に賛同した。が、待機場所候補から都市までの最短距離を紙に図解していたスイエンが何かに気付いて声を上げる。最短距離が交わるのは都市だ。岩場などの通り難い箇所を避けた最短距離を考えても、かなり都市に近くなる。
「んぅ、プリムはどっちかって言うと……」
 シュプリムントも敵に発見される危険を冒す気はなく、ちょっと焦りながら言い添えた。
 最終防衛線は都市に向かう道程の途中、かつ都市からある程度の距離を置き、かつ各々の待機場所から移動に掛かる手間が同じくらいの場所を選定することになる。
 都市偵察から仲間が戻ったら、互いの得た情報を伝え合い、倒すべき敵の到来を待とう。

●空に映る影
 上空を飛翔する白い翼。
 注意を払わずにいたなら、大地に差した影にも気づけず見逃していたかもしれない。
 アマツカグラに向けて飛ぶ鶴女の腹に術式を込めた手裏剣が突き刺さり、激しい爆音が引き起こすあまりの衝撃に女の悲鳴が掻き消える。偵察時と同じく慎重に己が身を隠匿していたミアンが、狙い定めたその好機を得たのだ。
 事態を察した鶴女――手裏剣を受けて大きく負傷した1体と、ほぼ無傷の4体は、瞳に強い敵意を浮かべてC班の目前に降り立った。
「矢面に立つのは男の役目さ!」
 ウィードは朱珠を咥えた龍が絡む棍を構え、敵の往く手を阻むように立ち塞がる。
「いい格好、させてもらうぜ!」
 髪に編み込む虹糸が靡き、容赦のない回転掃撃に2体を巻き込む。続け様にシュプリムントが黒き旋風と化して大鎌を振るう。
「みーんなココでお終いだよぉ♪」
 防御姿勢からの斬り上げにまた新たな血の華が咲く。
「……って、やだー!」
 見れば草原を越えて武芸者マスカレイドが4人、こちらに向かっている。
 数の不利は承知の上だが、さすがに多すぎる。C班の3人は目配せすると、事前に決めた通り、最終防衛線へ敵を誘い込むようにじりじりと撤退を開始した。

 C班が目視した武芸者4人のうち1人は鶴女らの援護に向かい、うち3人は戦場を迂回するように都市を目指した移動を続け、その行く手をB班のエンドブレイカーに阻まれた。
「おっと――」
 レイジは地を蹴って跳躍し、敵を迎え入れる。
「どこに逃げるってんだ!?」
 天星の加護を受けた衣を翻し、青年は風に乗った。高速の旋回から生み出された後方回転蹴りを複数の武芸者へ向けて叩き込む。
「そう簡単に行くと思いますか?」
 なるべく敵を逃がさないようにしよう、という心構えはレイジもフォレスも同じもの。
 緑を身に纏う星霊術士は蛇を象る杖を翳し、眠りを齎す桃色の雲を生み出した。雲はフォレスの姿を覆い隠しながら、微睡みの煙を辺りに振り撒く。容易には突破できぬと見た武芸者らは懐から無数の武器を取り出し、ソウヤとレイジを目掛け擲った。痛みに目が眩めど退けはしない。眼前の全てを倒そうという心意気が冴えた漆黒の眼差しから滲む。ソウヤが振るう太刀は狙い定めたマスカレイドを纏めて斬り上げ、豪快にねじ伏せた。
「――絶対に逃がさない!」
 家族の安否が気懸かりでも今はひたすらに前を向く。
 スイエンは敵との距離を測りながら、既に手傷を負った武芸者を狙い、物体を消滅させる力を持った球を作り出した。彼女の攻撃は敵の防具を削り、体勢を崩させると腹の肉までごそりと削ぎ取る。できるだけ早くにC班の援護を行うため最終防衛線に向かうなら、眼前の敵を倒し切るより、敵を誘導して合流場所を目指すほうが早いだろう。
 B班は刃を交えながら、最終防衛線まで武芸者らを誘い込んでいく。

 A班の3人は直感的に仲間からの警報を感じ取った。
 互いの位置が把握できるよう離れ過ぎない待機場所を選んでいたため、首を巡らせれば戦闘を始めているC班とB班の姿が見える。彼らは最終防衛線で合流すべく動き出したようだ。
「このまま敵が来ないようであれば、援護に移りましょう」
 ミスズの言葉にスズクサとサツキも頷いた。
 他の敵影有無を確認後に合流、とシュプリムントも言っていた。他部隊から偵察部隊が委ねられる敵数の予測はなく、C班とB班が交戦する敵で全てという確信もない。
 直後、警戒を怠らずにいたミスズが小さく掠れた悲鳴を洩らす。
 広い草原の彼方をアマツカグラに向けて走る影が、ふたつ。他班から離れない待機場所を選んだ弊害か、それらの影に最も近いA班でさえ、遠い。
 今から追い縋って都市に至る前に追いつけるかどうか。
 だが、諦めるわけにはいかない。3人は立ち上がると必死の追走を開始した。

●最終防衛線を越えて
 骨が折れそうだ、とレイジは微かに呟いた。
 最終防衛線にて合流に成功したC班、B班は9体の敵を相手取っていた。甘い吐息を断ち割るように接敵し、彼は最も傷の深い鶴女を蹴り倒す。肉が裂け、骨の砕ける音が響き、彼女の身が崩れ落ちる間に、フォレスが蓄えた集中を解き放ち、癒しの魔法円を描き出す。重ねられた大治癒の呪文は深々と刻まれていた傷の痛みを緩めてくれる。
 時に、守りの手薄な方角からあえて突破を許し、時に、圧されたそぶりで後退し、偵察部隊は巧みに敵を集め終えていた。敵らも虚を突かれたようだが、味方が増えたのはこちらも同じとばかりに攻勢は激しさを増す。
 幾度も刃を交えれば戦いを通して相手の考えも浮き彫りになる。太刀筋から焦りと苛立ちを感じ取った武芸者目掛け、ソウヤは押し潰すような重撃を加えた。敵もまた彼が胸中にて思うものは敵の首領であり、実力に対する侮りはなくとも、眼前に転がるマスカレイドは単なる捨て駒だろうと認識していることを感じ取り、また苛立ちの色を深くする。

 小高い丘を越え、岩場を抜け、ついにA班は逃亡者を射程に捕らえる。
 ここまで近づけば敵は忍者だとその容貌からも認識できた。サツキは逃げる敵に対して足を止め、練達の間合いを取ることを選ぶ。振るわれた太刀は空間ごと切り裂いて、遠間からの斬撃を与えた。無防備な背に一撃を受けた忍者たちは邪魔者の出現を察知したが、足を止めず逃亡に専念した。
「あら、どこ行きはるん?」
 逃さぬとばかりに声を張り、緋寒桜の裾を翻して草原を駆け抜けたスズクサは、棘を纏いて巨顎化した腕を振り抜いた。禍々しい棘の顎門は活力を奪う牙を突き立てる。
 間を置かず、動じる気配を見せた忍者をミスズが強襲した。檜扇の舞が生み出す神風に身を任せて突撃し、スズクサのもとに追い風を招いて次なる攻め手を繋ぐ。少女の優しげな瞳は苦悩を映したが、可憐な唇がはっきりと告げた。
「行かせるわけにはいかないんです……!」
 忍者は逡巡の後、足を止めた。
 たった3人。
 都に敵を連れ帰れば如何な誹りを受けるだろう。たった3人を倒して『敵』の報告に戻れば、敗者から英雄になれる。
 命を削る激戦が幕を開けた。

 鶴女の広げた翼から放たれた羽根が、無数の矢と化して雨の如く戦場に降り注ぎ、同時に踏み込んだ武芸者たちの攻撃が味方の前衛に叩き込まれた。
「舞を、奉納致します」
 スイエンが披露する清らかな神楽により、最も傷が深いソウヤに向け、彼女の身を削ることなく治癒が注がれる。心に留めた優先順の通り、武芸者に肉薄したシュプリムントは、えへへー、と蕩けるような笑みを浮かべた。仲間が集えば心強い。充分に状況を整えてから彼女が転じた反撃は、やはり頭上で操る大鎌を振り下ろしてから強烈に斬り上げる旋風の一撃。
 大変な任務だと肌で感じるほど、少し先の未来のために頑張ろうと思えてくる。
 逆手の刃が特徴的な『白き弾丸』の名を冠する銃を両手に提げ、ミアンは後方より敵の制圧を狙う援護射撃を行った。射撃の反動で、結い髪と黒十字架を括る月影のリボンが風にはためく。
 懐から取り出した鎌剣に真紅の軽装鎧ごと貫かれたウィードは、しかし怯まず棍を構え、得物を振り回す軌跡で障壁を作り出す。甘い吐息を受けて思うように動かない腕の痺れさえ静の心で打ち払うと、ミアンの作り出した機を生かして回転棍撃を繰り出して敵を見据えた。
 追い詰められた獣は何をするかわからない。油断なく、仕舞いまで終わらせよう。
 彼らの連携を前に、抗う敵の数はひとつふたつと減り始めていた。

 戦場を手裏剣と血飛沫が飛び交う。
 忍者らはまず前衛に出た少女らの懐に飛び込み、死角からの斬撃を繰り出す。特にミスズが戦場で唯一、癒しの術を持っていると察知された後は、彼女にばかり攻撃が集中した。味方を支えるために我が身を削れば、自然、己が傷も深くなる。
 遅れて辿り着いたサツキが稲妻の闘気を篭めた太刀を振るい、ひとりの忍者を斬り伏せるが、直前にミスズへ放たれた手裏剣まで止めることはできない。血を流しながら孔雀の羽根が風雅な檜扇を携え、少女は雷雲を招来すべく舞い続ける。
 轟く雷鳴に感情を昂ぶらせた忍者の刃は疲弊したミスズを貫き、そして彼女の手から扇が落ちた。
 双方ひとり削れて血肉を削る激戦は続く。
 勝敗の兆しを察した忍者は、せめて道連れに、と叫んで決死の突撃を仕掛けてきた。避けることも防ぐこともできず、胸元に深々と沈んだ刃を見下ろし、スズクサは密やかに囁く。
「わたしのなかで、お休み、ください」
 唇から血が零れた。紫紺に煌めく棘が膨れ、忍者を呑み込み串刺しにする。絶叫する忍者をサツキが仕留め、幸いにも都市の敵に察されぬ間に戦闘は終わった。

 都市まで誰も逃さず、偵察部隊は任務を完遂したのだった。



マスター:愛染りんご 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2012/11/14
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