ステータス画面

誘う声

<オープニング>

「鬼嫁め……人が汗水たらして働いてるってのに――」
 懐を弄り取り出した袋の軽さに、思わずため息を漏らす男。現実から目を逸らすかのように、振ってみたり握り締めて見たりするものの、貨幣同士の奏でる音すら満足に聞き取れない程である。
「俺みたいなのがあんな美人と結婚できた、って当時ははしゃいだもんだが……まさかここまでカカア天下になるとはなあ」
 思わず帰路へとついていた足を止め思いに耽る男。家で帰りを待つ妻の暴虐の数々が頭の中を過ぎっていく。
 ――月の小遣いは1ダルク。仲間と飲みに行くことも出来ない。
 ――朝は低血圧の妻の代わりに朝食の用意と、自分が出かけている間の分の妻の昼食の用意。
 ――家に帰れば1盛りの米と申し訳程度に添えられた野菜を掻き込み、疲れた体を引きずって妻への感謝のマッサージ。
 ――さらに嫉妬深くほんの少し他の女性に見とれただけで、生きているのが辛くなるようなお仕置きが。
「……帰りたく、ねえなあ」
 ほろりと一筋の涙が頬を伝う。しかし寄り道をしたくとも金はなし、遅くなれば妻の叱責が待っている。
 暗澹たる心持ちになったそのときであった。男の耳に、誘うような声が届いたのは。
 声のする方向に向かった男性を待ち構えていたのは、大人しそうな雰囲気の顔立ちの川に浸かっている上半身裸の少女。驚きを顕にする男性が、その少女の下半身が魚のような姿をしているのに気付いたとき、既にまともな意識は残されてはいなかった。

「ちょっと手の空いてるヤツはいるか? マスカレイドとは関係ないんだが、放ってもおけないのがあってな」
 自慢のリーゼントをかき上げながら、トンファーの群竜士・リー(cn0006)が酒場に居るエンドブレイカー達に声をかける。
「とあるピュアリィが仕事帰りの男性を攫って、塒にしている洞窟に閉じ込めちまったらしい。それを助けてやってくれ――と言うだけならまだ簡単なんだがな」
 腕を組み渋面を作るリー。どうやらただ救出するだけでは済まない話のようだ。
「男性の奥さんが中々帰ってこない男性に憤が――いや、心配して探しに出ちまっててな。聞き込みの結果なにやらそれらしき男性が、川伝いに歩いていったという話を聞いて、閉じ込めてる洞窟を突き止めたらしい。そして奥さんは、攫ったピュアリィとそれに魅了されて言いなりになっている男性を烈火のような勢いで糾弾しているんだ」
 しかもピュアリィの方はピュアリィの方で、自分の番になるべき相手を見つけたのに、それを奪おうとしている、と奥さんに敵意を抱き始めている、と説明するリー。
「このまま放っておけば、いつ頭に血が上ったピュアリィが奥さんに攻撃を仕掛けるか分からないからな……まずは奥さんの保護、次に男性の救助をしてもらうことになる」
 そう言ったリーがテーブルの下から取り出したのは、小さな古ぼけたハープであった。
「問題となっているピュアリィだが、上半身は少女の姿で下半身は魚、今は少し気が立っている。手には竪琴を持っていてこれを使って攻撃も出来るようだな。怒り狂う奥さんから男性を庇うように対峙していて、これ以上口論が続けばいつ奥さんを攻撃し始めてもおかしくないだろう。軽い受け答え程度の知能はあるらしいが、説得は難しいだろう」
 そして話し終えたリーは、集まっていたエンドブレイカー達の顔を見渡し、リーゼントさえなければ美形なのに、と残念に思わせる顔を笑みに変える。
「この事件、お前達なら無事に解決できると信じているよ」


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参加者
大鎌のデモニスタ・セヴェルス(c00064)
アイスレイピアの魔獣戦士・シャポリエ(c00974)
エアシューズの魔曲使い・ミミ(c02229)
竪琴の魔曲使い・ノアリィ(c03173)
竪琴の魔曲使い・エリシュカ(c03795)
太刀の狩猟者・アレート(c04031)
暗殺シューズのスカイランナー・アーシュラ(c04905)
ハルバードのスカイランナー・ミルシェリス(c07386)

<リプレイ>

●響く声
「この奥に奥さん達が……居るみたいですね」
 夫婦とピュアリィの居る洞窟に足を踏み入れるやいなや、太刀の狩猟者・アレート(c04031)の顔に思わず苦笑いが浮かぶ。そんなアレートの様子を不思議に思った仲間達であるが、疑問はすぐさま氷解することとなる。
『――の、浮気――っ! こんな泥棒――って言う――』
「この声って……」
「ほぼ間違いなく、奥さんの声だと思います」
 薄暗くぽっかりと口を開けた洞窟の奥から、共鳴するようにして聞こえてくる甲高い声。はっきりとは聞こえなくとも伝わってくる程の怒気に、これはすごい、と大鎌のデモニスタ・セヴェルス(c00064)は肩をすくめる。しかし他人事のようにしていられるのも今のうちだけであり、これからどう説得したものかと竪琴の魔曲使い・エリシュカ(c03795)は頭が痛い、と物憂げなため息をもらす。
「うーん……早く中を進んだ方がよさそうかな」
「ピュアリィがいつ奥さんを攻撃してもおかしくなさそうだもんね」
 ランタンを取り出し、先を急ごうとする竪琴の魔曲使い・ノアリィ(c03173)と暗殺シューズのスカイランナー・アーシュラ(c04905)。ピュアリィが奥さんに敵意を抱き始めているのならば、これ以上奥さんと対面させておくことが――それも怒声を放ち明らかな敵意をみせていると思われる奥さんと、である――拙いということは火を見るよりも明らかであった。
「皆さん、宜しければ使いませんか?」
 先ほどから洞窟の反響を調べていたエアシューズの魔曲使い・ミミ(c02229)が、松明を包んでいた布を仲間達に差し出してくる。どうやら音の響きそうな箇所に巻きつければ、出来るだけ音を立てずに進めるのではないか、ということらしい。
「そンじゃ、ありがたく使わせてもらおうかな」
 機嫌よくそして手際よく、靴へと布を巻きつけていくアイスレイピアの魔獣戦士・シャポリエ(c00974)。思わず鼻歌まで出そうになるが、そもそも布を巻きつけている理由はなんだったかを思い出し、慌てて寸でのところで止めようとしている辺りはご愛嬌である。
「さてさて、皆用意はいいっすか? なんだかあっちがヒートアップしてきてるんで、急いでいくっすよ!」
 奥さんの怒声に釣られてか、やや興奮気味に声を張り上げ仲間達を促すハルバードのスカイランナー・ミルシェリス(c07386)。直後に全員に口元に人差し指を立てたポーズで窘められるのもまた、ご愛嬌である。

●鬼嫁とピュアリィ
 洞窟の最奥で3つの影が対峙している。勿論その影とは、金切り声を上げる奥さんと威嚇するように唸り声を上げるピュアリィ、そしてその背後に呆けたように突っ立っている旦那さんである。
「ちょっと! ずっとぼーっとしてないで何か言ったらどうなの!? 何時までそんな女の――」
「まあまあ、少し落ち着いてください」
「……ん? 何よ、アンタ達」
 出来るだけ刺激しないように、とそっと奥さんに声をかけるセヴェルス。案の定というか、よっぽどイライラしているのか、黙っていればお淑やかな美人なのだろうと思える顔は怒りに染まり、鋭い眼光が闖入者であるセヴェルスを射抜く。そしてそれはピュアリィも同じようで、更なる闖入者の登場に、警戒心を顕にしている。そんな奥さんを宥めるように、シャポリエが手で落ち着くよう示しながら語りかける。
「ちょっと話を聞きつけてご助力に――っと、罵るだけじゃ腹の虫おさまらんでしょ。取り敢えず間に居る御邪魔虫退かしますンで――」
「ちょ、ちょっと! 何勝手に話を進めてるのよ! これは私達の問題なのよ!」
「奥さん、少し冷静になってください」
 シャポリエに噛み付こうとする奥さんに、アレートが相手側がピュアリィであり、その危険さを説いた上で静かに語る。
「いったん外に出て落ち着きましょう? 旦那さんは俺の仲間が助けますし、ピュアリィにも俺たちがお仕置きしますから、ね? 奥さんが傷ついたら旦那さんが悲しみます」
「う、うぅ……」
 不承不承、言っていること自体は理解できるものの、この場から引くのには納得できない、といった様子で小さく唸り声とも呻き声とも取れるような声を漏らす奥さん。そんな奥さんに、シャポリエが冗談を言う様に笑いながら言う。
「ま、貴女は俺等が引き摺りだした旦那をとことん殴ればいい。まずは引き摺り出すのが先決ってことで」
「……わ、わかったわよ」
 何とか折れてくれた奥さんを庇う様に囲いながら外へと出ようとする3人であるが、それに待ったをかけるのはピュアリィである。
 先ほどまで散々罵声を浴びせられ続けたピュアリィが、いい加減邪魔に思えてきていた煩い女を殺そうと思った矢先に現れたよくわからない3人。それはあろうことか、自分の邪魔をするように立ち塞がり、女を逃がそうとしているではないか。それは看過出来るものではない――一度敵と認識した相手を易々と逃がす程、このピュアリィは甘くはなかった。
「マテ、ニガサナ、イ――コロスッ!」
 怒りを顕にしたピュアリィが、竪琴を手に逃げ行く4人を追い始める。
「……わざわざ挑発する必要もなかったみたいね」
「というより、挑発する暇もなかったかも」
「え、えっと……早く追わないと!」
 本来女性陣がピュアリィを引き付けそして戦闘を担当する予定だったのだが、相当奥さんに対し頭にきていたらしいピュアリィは、奥さんが移動を始めると同時に付いていってしまったのだった。お陰でピュアリィに置いていかれる形となった女性陣は、苦笑を浮かべ頬をかくと、出口の外へと向かうのであった。

「う……あ……外、行かなきゃ――」
「おっ……とと、ここから先には行ってもらっちゃ困るっすよ」
 ノロノロとピュアリィの出て行った方向へ向かおうとする旦那さんを、引き止めるミルシェリス。しかしピュアリィに魅了されている旦那さんは、事前に傍にいるようにとでも言われていたのか、2人を無視するように外へと歩こうとする。
 だがミルシェリスとしても、ここで旦那さんに素直にピュアリィのところまで行かれてしまうと、折角引き離した意味がないというものである。仕方なく羽交い絞めにして止めるものの、微妙な抵抗を続け前に進もうとする。
「ちょっ、だ、旦那。落ち着くっすよ!」
 1人洞窟内で旦那さんと揉みあうミルシェリスの、どこか悲痛な声が響き渡った。

「よっ……と!」
「……ッ! グウッ!?」
 癖なのか大鎌の石突で踵を叩いたセヴェルスが、大振りに大鎌を振り回しピュアリィへと躍りかかる。肩から腰にかけて切り裂かれ、痛みに苦痛の声を上げ後退するピュアリィ。
「ちょっとだけ、痛い目にあってもらうよ」
 そこにアーシュラの放った衝撃波が殺到し、ピュアリィに更なる傷を与えていく。無事に攻撃が当たったことを確認したアーシェラは、道具袋から無造作にお菓子を掴み取ると、口の中へと放り込み幸せそうな顔を浮かべる。
 奥さんを追って外まで出てきたピュアリィであったが、既に戦闘態勢を整えていた男性陣と、後ろから追いかけてきた女性陣に挟み撃ちの構図となり、満足に攻撃もできない有様であった。それでも奥さん目掛けて竪琴を構えるものの――。
「おっと……そうはいきませんよ」
 前に進み出たアレートが、その聞くに堪えない音に顔を顰めつつも耐え切り、奥さんを守り通していた。そしてその仕返しというように、竪琴を構えたノアリィとエリシュカの2人が魔曲を奏で、ピュアリィの闘争心と警戒心を奪い去っていく。
 元々がさほど戦闘力のないピュアリィであったこともあってか、追いかけてきた時の威勢に反し、エンドブレイカー達が攻撃を加え始めて間も無くその動きが鈍くなりつつあった。
(「ごめんね……本当に、ごめんなさい……」)
 ピュアリィを攻撃を加えること自体に罪悪感を覚えているのか、内心で謝罪をしつつミミが魔曲を奏でる。魔曲の魅惑的なメロディがピュアリィを包み込んだその次の瞬間、ピュアリィは力なく、どこか呆けたような表情を浮かべ立ち尽くす。
「上手くいった、のかしら」
 竪琴の構えをとかずにそっとピュアリィに近づいていくノアリィ。しかし先ほどまで敵意を顕にしていたピュアリィは、特に攻撃の意思を見せることもなく突っ立っているだけであった。

「もう人里には近寄っちゃだめだからね」
 ピュアリィへと教え込むようにして言い聞かせるノアリィ。その言葉に頷いたピュアリィの頭を撫で川へと返すミミ。そのままピュアリィは振り返ることもなく、洞窟の奥へと消えていった。
「完全に倒してしまわなくてよかったんですか?」
「確かに今は魅了されてたから素直だった、っていうのもあると思うけど、大丈夫じゃないかな?」
 似たような事件が起きないだろうかと不安そうにするエリシュカだが、その不安をまた口いっぱいにお菓子を頬張っているアーシュラが否定する。
「ま、あれだけ痛い目見りャ懲り懲りってとこじゃないか?」
 しみじみとした口調で語るシャポリエ。実際にあれだけ酷い目にあったならば、正気に戻ったとしても人里に現れようという気は早々起きないだろう。

●アフターケア
「すいませんごめんなさい申し訳ありません――」
 魅力が解かれ正気に戻るやいなや、奥さんの足元で土下座のポーズで謝罪の言葉を並べ始める旦那さん。既にカカア天下は骨身に染み付いており、とにかく謝ろうの精神を彼は身につけていた。そんな旦那さんを詰りはしないものの、冷たく見下ろしている奥さん。
「旦那は魅了の力で誘われただけっす。許してあげてほしいっす」
「あなたは黙ってて」
「……はいっす」
 旦那さんを庇おうとしたミルシェリスであったが、ジロリという奥さんの一睨みですごすごと引き下がってしまう。そんなミルシェリスの姿に苦笑しながら、今度は私がと前に出るアレート。
「まあまあ、ピュアリィの歌で魅了されて言いなりになっていたのは不可抗力だったんですよね?」
「う……ああ、そうだが――」
「不可抗力でも、許せないものは許せないのよ!」
「夫婦は対になる存在です。あなたの都合を押しつけてばかりだと旦那さんは離れていってしまいますよ」
「なっ……そ、そんなことあるわけない――わ、よね」
 どうやら内心では思い当たる点もあるようで、エリシュカの鋭い言葉に動揺する奥さん。指折りで何往復もして数えているのは、もしかしてその思い当たる点の数なのだろうか。そんな奥さんに、そっとミミが耳元で囁く。
(「奥様、旦那様の事を心から愛してらっしゃるんですね、勇気を出して言葉に現してみられませんか?」)
(「――ッ!」)
 一気に茹で上がったように目を白黒とさせる奥さん。囁き故に本人同士しか内容はわからなかったものの、いいからいいから、というように煽っているミミを見るに、何かをけしかけたのだろう。
「ね、ねぇ」
「は、はいっ!」
「えっと、その……」
 見上げるような体勢で微動だにしない旦那さんを前に、なにやら顔を赤らめたりしながら言いづらそうにしている奥さん。やがて意を決したのか、半ばやけくそのように叫ぶ。
「わ、私から離れていったりなんてしないわよね!?」
「はっ、はいぃぃ!」
 奥さんの勢いに気圧されるように返答する旦那さん。構図としては微妙におかしい点もあるといえばあるが――。
「……なんか結局ノロケを見せられたというか――なんだかんだで奥さんも心配してたんじゃないっすか?」
「そこっ、煩いわよっ!」
「は、はいっ、すいませんっす!」
 顔中真っ赤にした奥さんに叱られ、思わず背筋を正して謝ってしまうミルシェリス。そんな彼は、この短期間ですっかり奥さんに頭が上がらなくなってしまっていた。
「心配する妻は居ても怒鳴り込みに来る妻は中々居ないよ。愛されてるね旦那」
 旦那さんの肩を軽く叩きフォローを入れるシャポリエ。笑顔で接しているものの、内心羨ましいな畜生! と羨望の妬みと溜息をついているのだった。
「安心できる場所なら帰りたくなる。きっと優しくした方が旦那さんは、もっと貴女を見てくれるんじゃないかな」
 これでも飲んで、後でゆっくりと話し合うといい、と持ってきていたワインを手渡すセヴェルス。
「さあさあ、皆帰ろう! イライラしたり悩んだりしてもね、どうしようもないんだよ。酒場でご飯をお腹いっぱい食べて仲直りしようよ!」
 お腹いっぱいになれば皆幸せだよ! とアーシュラが彼女らしい持論を話しながら、夫婦の背を押していく。
 こうして一組の夫婦を襲った事件の幕は下りた。今後2人が幸せに暮らせますように、そう願いながらエンドブレイカー達は帰路に着いたのだった。



マスター:新人 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/03/11
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冒険結果:成功!
  • 生死不明:
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