<オープニング>
●3人の塔主たちからの依頼
「黒の塔、緑の塔、銀の塔、それぞれの塔主たちから連名で、討伐への協力依頼が来ています」
リチャードは人差し指を振りながら続ける。
「対象は勇者マギラントが封印した『見えざる敵』。この『見えざる敵』とは、マスカレイドで間違いないようです」
封印されているのは、広大な迷宮の内部だという。まずは迷宮を探索して封印された『見えざる敵』のもとにたどり着き、それから戦うことになるだろう。
そこで話しながら何か思いついたのか、リチャードは少々考え込むような姿を見せた。
「ふむ。しかし、こんな伝承が残っていると言うことは、勇者マギラントは『マスカレイドの存在を知っていた』、そして『封印することは出来たが滅ぼすことは出来なかった』ということなのでしょう。
こんな事例は前にもありましたね。そう、エルフヘイムのエルフたちです」
まぁ、考えていても仕方がない、とリチャードは話を元に戻し、
「ともあれ、『勇者と共に、この封印の地の攻略を果たしたものこそ、我が後継者となるだろう』なんて言葉を勇者マギラントは残しているらしくてね。3塔主たちの入れ込みようと言ったら、なかなかにたいしたものらしいですよ」
そういって苦笑する。
なにしろ、塔主たちは従者兵器を貸し出してくれると言うのだ。形としてはこうだ。
3つの塔のうち1つの塔を選び、そこの塔主から依頼を引き受ける。このときに塔に応じた従者兵器が4体貸し出される。この4体の従者兵器と、4人のエンドブレイカーたちで迷宮を攻略する。
「もちろん、従者兵器がマスカレイドを倒してしまっては滅ぼせませんから、その辺りは注意して下さい。また従者兵器は指示に従ってくれるようですが、頭はそれほど良くないので、単独行動などはさせず、目の届く範囲で運用するほうが無難でしょう」
そこまで説明したリチャードは、あとは皆さんにお任せ致します、といって激励の言葉を残し、去っていった。
まずは、どの塔に協力するかを決めなければならない。依頼を引き受けたエンドブレイカーたちは、頭を悩ませている。
●灼熱の迷宮で
依頼を引き受けたエンドブレイカーたちは、4体の従者兵器とともに迷宮の前にたどり着いた。
暑い。流れ落ちた汗を拭う。
迷宮に近づけば近づくほどに、気温は高くなった。迷宮自体が地熱に熱せられ、灼熱の状況にあるようだ。動植物の姿はほぼ見られず、岩肌が続く中に、ぽっかりと迷宮への入り口が開いている。
エンドブレイカーは手元の紙切れに目を落とした。それは塔主から受け取った地図、そして迷宮に関するわずかばかりの記述だ。数百年前より伝わった地図とあっては、どれほど信用できるものだろうか……。疑問はあるが、無いよりはましだろう。
記述によれば、迷宮探索に使えるのは12時間のみ。封印されたマスカレイドは8時間の経過で本来の力を取り戻し、さらに4時間後には封印された場所から移動する自由を得る。つまり、それ以上の時間を掛ければ、マスカレイドは封印から完全に解き放たれてしまうということだ。
また、より短い時間でマスカレイドの元までたどり着いたほうが有利ということでもある。可能であれば、の話だが。
有利な状態でならばマスカレイドから何某かの情報を得ることも出来るかもしれない。情報を頭から信じることは出来ないだろうが、それでも勇者マギラント時代に封印されたマスカレイドだ。その知識は重要な情報も含むと考えて間違いないだろう。記述を信じれば、この迷宮には、魔法剣士の少女が封じられているらしい。詳細は分からず、ただ『烈華』の異名だけが記されていた。
地図はマスカレイドが封印された場所までの、大まかな道行きを示している。道は一通りではなく、広大な空間と隘路で構成されており、広大な空間を避けて進むことも可能なようだ。どちらを進むのがいいかは、難しい。
情報としては他にも、事前に行われた簡単な調査の結果について記してあった。
あくまで迷宮の浅い区画の話でしかないが、それによると、トラップの類は一切確認されなかったらしい。かわりに、スケルトンやロックゴーレムといった存在が、多く確認されている。奴らは、見かけた人間の姿に対し、容赦なく襲いかかってきたそうだ。
マスカレイドであるならば倒しておきたいが、時間の制約もある。戦いを避けるべきかもしれないし、後背の脅威を避けるという意味で倒しておいたほうがいいかもしれない。これもまた、判断が難しい。
いずれにせよ、一貫した方針は決めておくべきだろう。
エンドブレイカーたちは、互いの顔を見つめて頷きあった。覚悟はすでに決めている。あとは最善を尽くすのみだ。
従者兵器を引き連れて、エンドブレイカーたちは口を開く巌の中へと歩みを進めた――。
【!重要!】
このシナリオの参加費用は「★1.5」となります。予約には、更に「+★0.5」が必要です。
また、このシナリオは『前後編』のシリーズシナリオです。後編に参加するには、改めて「★1.5」が必要ですが、後編のシナリオは『前編(このシナリオ)の参加者』しか参加できませんので、予約は必要ありません。
このシナリオでは『黒』『緑』『銀』のいずれかの塔と協力して、勇者マギラントが魔物を封じたという地底の巨大迷宮『封印の地』に挑みます。
どの塔と協力するかは、他の参加者と相談し、プレイングの一番最初に明記してください。もし参加者の意見がバラバラになった場合は、多数決でどの塔と協力するかを決定します(同数だった場合は、ランダムに決定します)。
黒の塔と協力する場合は『レッサーデモン』、緑の塔と協力する場合は『アサルトバグ』、銀の塔と協力する場合は『マシンフェアリー』が、それぞれ皆さんを支援します。支援してくれる従者兵器の数は『参加人数と同じ』(四人の場合は四体)です。従者兵器はエンドブレイカーの指示に従い、皆さんと一緒に戦いますので、自分の従者兵器にどう戦ってほしいか希望がある場合、プレイングに書いておきましょう(特になければ、エンドブレイカーの役に立てるように頑張ろうとします)。
それぞれの塔や従者兵器の特徴についての詳細は、以下を参照してください。
http://t-walker.jp/eb/html/world/1w04_polis.htm#006
シリーズシナリオの運営後、このシナリオは『更にボリュームアップした小説』化されて、株式会社パピレスが主催する『エンドブレイカー!リプレイコンテスト』にノミネートされる予定です。
このシナリオを元にした小説がコンテストで入選した場合、参加したお客様には、参加費用の一部キャッシュバックが行われます(トミーウォーカーより、該当シナリオの参加者に★を付与いたします)。
このシリーズの運営スケジュールは、以下を予定しています。
http://t-walker.jp/eb/html/notice/2012_upppi_scenacon.htm
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<リプレイ>
●迷宮の探索者
塔主たちの諍いなど、どうでもいいことだ。予言にも、興味はない。
ただ、この迷宮に何が眠っているかだけが気になった。
幻想を揺蕩う眠り姫・アリシア(c31077)が思い浮かべるのは、いつかの旅の日々だった。その頃に生業としていた、トレジャーハンターとしての記憶が迷宮を前にして呼び起こされたのだ。幼い彼女の事だから、それほど昔の話ではない。
アリシアは、あの頃そうしていたように入り口から中を探って安全を確かめた。
「入り口にはだれもいないの」
振り返って仲間たちに告げた後、さっさと迷宮のなかに入っていく。
「あ、待って!」
「やれやれ、ひとりで行くと危ないぜ」
「ほら、あなたたちも着いてきなさいな」
玲瓏の月・エルス(c00100)と、調べる者の代行者・ヴァン(c15390)がその後を追いかけた。人民と共に歩む者・ルア(c28515)は借り受けた従者兵器たちとともに、巌にぽっかりと開いた入り口をくぐる。
通り抜けた先は広めの空間になっていて、天然の岩肌がそのままの姿を見せていた。奥に目を凝らすと、1本の細い道が奥へと続いているのが、ほのかに赤く光っている岩壁のおかげで分かる。星霊術的ななにかの仕掛けだろうか。
赤く光っているからといっても、赤熱しているわけではないはずだ。そんな温度なら、そもそも立っていられるわけがない。
「完全な暗闇じゃないのはありがたいけど、光量は全く足りないわね」
ルアは手にしたランタンに火を点した。ランタンには遮光施され、必要十分な光量まで絞られている。
他の皆も、手際よく迷宮探索の準備を整え終えた。
「じゃあ、予定通り俺が先頭でいく。エルス、フォローを頼むよ」
「元気なうちに距離を稼いでおきたいね」
帽子に右手を乗せて、つばの下でニッと笑うヴァンと、控えめに気合を入れるエルス。
最奥には、封じられたマスカレイドが待ち構えているはずだ。それぞれの想いを胸に、4人は大きく一歩を踏み出した。
迷宮に潜む脅威と挨拶を交さないですむように気を張りながら、一方では、はぐれたのか1体でうろついていたロックゴーレムを遠慮無く叩きのめし、一行は順調に迷宮の道を進んでいる。
もっとも、先ほど2度目の短い休憩を入れたばかりで、まだまだ探索の行程は序盤でしかなかった。それなのに、一行の姿はどこか疲れて見える。
話には聞いていたから覚悟していたものの、みな迷宮の暑さに辟易しているのだった。
敵影は前方にいつ現われるとも知れず、油断は出来ない。ヴァンは警戒を怠らずにいたが、時折、脱いだ帽子でしきりに胸元を扇いでいた。最奥に隠されているだろう秘密にどれだけ恋い焦がれていても、暑いものは暑い。
けれど、それを言葉にするのは憚られて、ただ黙々と細い道を進む。他のものも一様に口数は少なく、静かな道中がしばらく続いていた。
最初にその沈黙を破ったのは、アリシアだった。
「……それにしても、本当に暑いの」
無意識の呟きだったのだろう。誰の反応を待つでもなく水筒の口を開け、僅かな水量を口に含み唇を湿らせた。
ルアも釣られてのか、思っていることを口にする。
「まるで岩盤浴にきたみたいだわ」
現状を端的に言い表しながら、額の汗をタオルで拭った。これで湿度が高ければサウナ状態になってしまうところだけれど、空気が乾いている分だけまだましだった。
そんなふたりのやり取りを聞いたエルスは、口元に手を当てて微笑んだ。
「ふふ、いいダイエットになりそうね」
そして、そんな軽い話題を振ってみる。
エルスも平気というわけではないはずだが、ずっと気丈に振舞っていた。それはまるで年長としての態度を、自分に律しているかのよう。
「そういうのは、興味ないの……」
しかし、アリシアは素っ気ない。ルアはその言葉を聞き咎め、
「あら、綺麗に見られるために努力するのは大事よ」
つんと顎を上げ、教え諭すように言う。エルスはルアを茶化すように、不意を打って声を掛けた。
「うん、ルアちゃんはとても綺麗だと思うわ」
「な、何を言うのよ!」
そんな会話を交す少女たちに、ヴァンは足を止めて振り返り、
「おいおい、お嬢ちゃんたちには必要ないんじゃないか? まだまだ育ち盛りだろ」
呆れたような調子で口を開く。けれどその実、安心もしていた。
この調子なら、最後まで大丈夫に違いないと。
●来襲
幾度目かの分かれ道。ヴァンとエルスは先行して危険を探っている。
ヴァンは完全に遮光したランタンの灯りを床に置く。それから岩陰から顔を突き出し、薄暗い道の先へと目を凝らした。
その背中に張り付くような格好で、エルスが潜めた声で問う。
「ヴァン様、様子はどうかしら?」
「どうやら敵はいないみたいだな。どれ、合図を、――ッ!?」
ヴァンは手にした合図のロープを引こうとしたところで、逆に向こう側からロープを引かれて驚く。決めている合図にはなかったが、これは何かあったかと、慌てて腰を浮かした。
ヴァンの落ち着かない仕草にエルスが怪訝な顔を向けた直後、洞穴に反響するルアの声が届く。
「――こっちにスケルトンが5体現われたわ! 早く戻ってきて!」
「待ってろ!」
「すぐに行くわ」
ヴァンはロープを投げ捨て、エルスは腰の氷剣を引き抜きながら駆け出した。
向こうにはレッサーデモンも居る。戦力的に問題はないはずだが――、だからといって急がない理由はない!
ルアはランタンに被せた遮光用の布をはぎ取って投げ捨てた。見つかってまで光量を絞る意味はなく、戦いにくいだけでしかない。
「レッサーデモン、前に出て食い止めなさいな」
そして命令を下しながら、ルアもまたハンマーを肩に背負い、剣を振りかぶったスケルトンに相対した。
命令を受けたレッサーデモンたちも慌ただしく動き始めている。その間から、小柄な人影が飛び出していく。
「……いい加減、歩くだけなのにうんざりしてたところなの。うっぷん、晴らさせてもらうの」
その人影は真紅に染まる巨大な大鎌を、頭上で振り回すアリシアだ。ランタンからの光に照らされて不気味に長い影を岩肌に背負うスケルトンへ、躊躇せずに襲いかかった。
空気を切り裂いて振るわれる刃が、スケルトンの黄ばんだ骨に迫る。
スケルトンは左腕を犠牲に大鎌を弾き、右手の剣を突き出してアリシアの胸元へ飛び込んだ。右手の剣が描く軌道は十文字、躱せずに鮮血が舞う。
遅れてレッサーデモンの1体が、スケルトンとアリシアの間合いをこじ開けるように入り込む。鋭利な剣の如く研ぎ澄まされたデモンの腕が縦横に振るわれ、骨をこすり上げる音が耳障りに響いた。
「その調子でどんどん真似しなさいな!」
ルアはデモンの活躍に歓声を上げながら、足先を軸にハンマーを振り回す。
それはまるで剣呑なバレエの回転のように。勢いのついたハンマーヘッドは、乾いた音を立てスケルトンの頭蓋骨を叩き潰した。
(「こんな場面で助けに入るなんて、まるで俺が冒険スペクタクルのヒーローみたいじゃねえか。あいつらがもっと色気のある年頃だったら、だがな!」)
ヴァンは全力で駆け戻りながらそんなことを考えて、皮肉げに唇を歪めた。
親子の関係であったとしても不思議はない年齢差だ。ヒーローとかを抜きにしても、無事に帰してやるのは大人の義務という奴だろう。そんなことを口に出したら、見くびるなと反発されそうだけれど。
ヴァンの前を走るエルスは、敵影を捉えたようだ。高らかな気合を上げると共に、その手にする氷剣が煌めくのが見えた。
「死者は死者らしく、静かに眠っているといいでしょう!」
凍てつく連撃が、大輪の雪花を咲かせてスケルトンを彩っていく。斬撃に押されて傾ぐ頭蓋骨の虚ろな眼窩と目があって、吸い込まれるような気分になった。
「落ちろッ」
ヴァンはその妄念を振り払うように氷剣を振るう。
そして咲き誇る二輪目の雪花。
艶やかな雪花の競演は、砕け散るスケルトンの全身とともに終りを告げた。
だがそんなことよりも問題は、
「アリシア、ルア、大丈夫か?!」
周囲を見渡しながら、仲間の姿を探し求める。
姿はすぐに見つかった。2人とも多少の怪我はしているが、問題はなさそうに見える。
「遅いの。エルスとヴァンが倒したので最後だったの」
アリシアがそんな憎まれ口を叩くぐらいなのだから。
「ごめんなさいね、そんなに慌てる程じゃなかったみたい」
「謝らないでね、ルアちゃん。何が起こるか判らないもの」
申し訳なさそうにするルアには、エルスが気にしないでと声を掛けていた。
●すこしばかりの休息
「デモンもお疲れさま」
「……」
レッサーデモンに慰労の言葉をかけて見たけれど、反応が返ってこないものだからエルスは不満げに唇を尖らせた。ならば、このまま好奇心を満たしてしまおうと、きょろきょろと左右を見渡す。
チャンス! 誰もこちらを見ていない。
この隙にエルスは、移ろいゆく影のように形の定まらないレッサーデモンの腕をそっと撫でてみた。手に伝わる感触は、しっとりと冷たい。
(「抱きついたら、ひんやりとして気持ちいいかも?」)
エルスの脳裏にふと閃いたその案はとても良さそうな気がしたけれど、見られてしまったたときの気恥ずかしさと天秤に掛けると……。
「うん、自重しましょう」
「エルス、どうしたの?」
「あっ、ルアちゃん。なんでもないわ」
独り言を漏らしているところをルアに見られてしまい、エルスは頬を染めた。
ルアは首を傾け、不思議そうな表情を浮かべただけでそれ以上は追求はせず、自分の用件を切り出した。
「そう? ところで、このまま休憩にするといいんじゃないかしら。ちょうど食事の予定もすぐよね」
「俺もそれでいいと思うぜ。幸い、この辺りは多少なりとも気温が低いみたいだしな」
2人に近づいてきたヴァンが横から同意する。
光量を絞られたランタンを囲って、4人の仲間たちは思い思いに短い休息を取っていた。
アリシアは用意の携帯食料を食べ終えてしまい、手持ち無沙汰な様子でチョーカーの赤黒い石を何とはなしに弄っている。
ふと横をみれば、エルスが一本に束ねた髪を解いて結び直していた。ぼんやりとその様子を眺めていると、エルスが膝の上に載せた、鞘から半ば引き抜いた氷剣が目に着いた。
「ふふ、冷気をお裾分けしましょうか?」
視線に気付いたエルスが優しく微笑む。アリシアは小さく首を横に振った。
「別にいいの。気になっただけなの……」
そして眠気を感じたアリシアは小さく欠伸をもらす。
「眠いなら寝てていいぜ。時間になったら起こしてやるからよ」
すかさず掛けられたヴァンの声に甘えて、アリシアは目を閉じた。
「ありがと、なの……」
するとすぐに、僅かばかりの微睡みへと落ちていった――。
●最奥、そして……
地図を信じれば、到達したこの辺りは迷宮の最奥まですぐの位置であり、残す距離は僅か。
ここまで潜り込んだ人間は、封印が為されて以来いないだろう。何かトラップでも仕掛けられているかも知れない。一行はより慎重に歩みを進める。
しばらく一本道が続いた。辿り着いた急な曲がり角で、ヴァンは先をのぞき見る。そして戻ってきた途端、帽子を深く被り直しながら、面倒なこったとため息をついた。
「やれやれ、見える範囲でもゴーレムが4体くらいはいたぜ」
「しかもマスカレイドばかり、あまり戦いたくはありませんね」
どのような状況か気になったのだろう。ヴァンと入れ替わって先をのぞき見たエルスが補足する。
「……で、どうするの?」
「分岐からだいぶ歩いてきたわよ。ここから戻るとけっこうなタイムロスになりそうだわ」
アリシアは無表情で単刀直入に問い、岩肌に背を預けていたルアは顔をしかめてみせる。
これまでルアたちは慎重に歩みを進め、敵と戦わなければならないような場面は極力避けてきた。結果として消耗は十分すぎるほど押さえられているものの、その一方で時間が掛かってしまったことは否めない。
ヴァンは懐から懐中時計を取りだして、経過時間を確かめる。
(「間もなく8時間。……ここで焦ってもしかたねえか」)
唇を曲げて鼻を鳴らしたヴァンの横から、背伸びしたアリシアが時計をのぞき込んだ。
「マスカレイドはすっかりお目覚めの時間なの。でもまだ4時間あるから、ゆっくりいくの。……それであってるの?」
「ええ、それでいいと思います。もうすぐ封印の場所まで辿り着くのだもの、無駄に戦いたくはないですし」
エルスがアリシアの茫洋とした瞳を真っ正面から受け止めて、頷く。
ルアはこれまで選んできた道を思い返した。広い場所は避け、隘路を選んできたその選択を。
広大な空間であれば敵を引き寄せてからすり抜けられたかも知れない。だが失敗して、逆に多数の敵と絶望的な戦いを強いられたかも知れない。
ただわかっているのは、もしもを考えても仕方ないということ。自分たちは最善の選択をしてきたと信じる。何よりルアが望むのは、無事にみんなで帰ることなのだから。
正直なところ、足はもうくたくただった。それでも疲れは見せない、見せたくない。だからあえて軽く言うのだ。
「そう、じゃあさっさといきましょ」
そして胸中で自分自身を叱咤しながら、ルアは背筋を伸ばして歩き出す。
引き返し選び直した道の先では敵影を見ることもなく、幸運にもすんなりと奥まで進むことができた。
「地図によれば、ここが封印された場所の前室になっているようね」
エルスはだいぶよれてきた地図から視線を上げて、正面に目を向けた。そこにあるのは、今までの岩肌そのままのものとは明らかに違う人工物の壁、そして扉。
「どうせマスカレイドが待ち構えてやがるんだろ? って、ありゃ」
引き抜いた氷剣を手に勇んで部屋へ踏み込んだヴァンは、がらんとした室内に間合いを外され肩をすくめた。
岩壁を利用して作られた部屋は、相変わらず薄暗い赤の光で満たされているが、光量が足りない。ヴァンとルアは手にしたランタンを持ち上げて、前方を照らし出す。するとそこに待ち構えていたのは、明らかに趣の違う両開きの扉だった。
扉はエンドブレイカーたちを誘うように、ひとりでにゆっくりと開いていく――。
扉からあふれ出る光は、薄暗い迷宮の中を進んできたエンドブレイカーたちにはあまりにも眩しい。
アリシアはとっさに持ち上げた腕のむこう、逆光のなかに小柄な姿の人影を見た。人影は髪をかき上げ、鈴を転がしたような可憐な声音をこぼす。
「あら、こんなところまで遠足にでも来たのかしら。それとも、お出迎えご苦労様って、労ってあげればいい? ……うふふ、ようこそ。歓迎するわ」
4人のエンドブレイカーたちと、迷宮に封じられたマスカレイドは、こうしてついに邂逅の時を迎えたのだ。
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参加者:4人
作成日:2012/12/18
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冒険結果:成功!
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