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【アマツカグラ調査隊】紡ぐ者を巡って

これまでの話

<オープニング>

●面会
 代官所の一角にある牢獄。
「キサメ院長……」
「イヨ、救貧院の方はどう? みんな風邪を引いたりしていないかしら?」
 刑務官に監視される中、面会室に通されたイヨ達を温和な表情の老婦人が迎えた。
 博覧強記を謳われた『紡ぐ者』の二つ名を持つ高名な巫女で、今は救貧院の院長であるキサメその人である。
「はい、大丈夫です。なんとかやっています。キサメ様こそお身体お変わりありませんか?」
「えぇ、大丈夫ですよ。ところでそちらの方は?」
 反対にキサメの体を心配するイヨに笑顔で応じたキサメは、イヨの後ろに控える見馴れない神楽巫女に視線を移す。
「はじめましてキサメ様。私は今救貧院でお世話になっております、スイエンと申します」
 応じた華節陽伯・スイエン(c25289)が恭しく頭を下げた。

 少し前、エンドブレイカー達がマスカレイドを撃破し救貧院に戻った翌日。
 いやがらせが無くなった事で余裕が出来た救貧院でキサメへの面会に行く事が決まり、イヨの他1人の巫女と共にスイエンが同行していた。
 多くの者が参加を希望したが、
「誰がマスカレイドか分らない状況ですし、面が割れるのは最小限にすべきではないでしょうか?」
 という双龍の代行者・アスワド(c01232)の意見を取り入れ、
「ならば同じ神楽巫女であるが故、フルトリが行くのが良いだろう」
 魁刃・ナガミ(c08545)がそう言ってフルトリ……スイエン・フルトリの方へ向き直った。

「キサメ様、投獄の理由をお教え頂けませんか?」
 スイエンの申し出に逡巡したキサメだったが、イヨともう1人の巫女の懇願する視線に負け、諦めた表情で口を開いた。
「実は貴方達に心配掛けまいと黙っていましたが、借金があるのです」
「えっ! いや、確かに貧乏は貧乏ですが、なんとかなっているのではなかったのですか?」
 キサメの言葉に絶句した後、言葉を絞り出すイヨ。
「毎月の事は心優しき方々の寄付や皆さんの頑張りでなんとかなっています。借金というのは救貧院を作った時のものなの」
 キサメが言うには、職を辞した時の慰労金で救貧院を建て始めたが、基本的にお人よしで他人の善意を信じるキサメは、途中でそのお金を持ち逃げされたとの事。それでも周りの善意に助けられ救貧院を作り上げたのだが、その時の借金が残っているのだという。
「皆さん返済は何時でもいいと言ってくれ殆ど返し終わったのだけど、最後の方が急に『借金の返済が滞っている』と代官所に訴えられ……でも、急にどうしてなのかしら……」
 キサメは悲しそうに眼を伏せた。
「あなた達に心配掛けまいと、昔の知り合いに援助の文を出しているのだけど、返事が無くて。私が居なくなり忙しくなってあなた達にも迷惑を掛け……」
「あ、それは」
 キサメに何か言い掛けたイヨの袖をスイエンが引く。
「イヨさん、イサメ様に無用の心配をお掛けするのは……。それでキサメ様、借金と言うのはあと幾ら位あるのですか?」
 此方を見ている刑務官がマスカレイドである可能性も否定出来ない状況で、迂闊な事は言わない方がいいと判断し、スイエンは機転を利かせて話を変えた。

●枢の断面
「全然払えない額じゃないけど……手持ちがね」
 戻って来たスイエンの話を聞いた楓・ラン(c15073)が、寂しそうに手を振る。
「荷物が流されてなければ、なんとかなったんですけど」
 借金の残額は本当に大した事なかった。とんがり帽子の森の人・フォレス(c07267)が言う様に、持ち込んだ品々を売り払えばなんとか工面できるレベルだったが、生憎とその品は既に手元に無い。
「ただいまだよ、あ、おかえり。院長さんどんな人だった?」
「おっ、帰って来てたのか。どうだった?」
 そこに情報収集に出ていた神刀巫姫・シーナ(c09793)、一刃の星・レイジ(c02370)が戻って来た。
「そっちはどうだったのだ?」
 ボロ布の様な外套を脱いで腰掛ける2人にフォイアロートドラッヘ・リリエッタ(c01975)が促すと、
「うん。なんか盗賊の討伐などを行っている『神火隊』ってのが活躍してるみたいだよ」
「あと、オレ達が流された下水道跡の所あるだろ? あそこの掃除人夫募集の立札が立っていたぜ」
 シーナとレイジが見聞きした事を仲間に伝える。
「下水道跡の掃除……であるか? なぜ急にそんな事をするのであろう?」
「なんか鉱山の方でバルバの襲撃が活発化してるとかで、生活領域付近で生息が確認されているバルバについて、積極的に討伐を行おうという事らしいね」
 狂嵐獅子・ミハエル(c10562)が目を細めると、レイジが皆に聞こえる様に答えた。
「掃除人夫と言ったよな? という事は金が出るんだな」
「あぁ、汚くて臭い作業だから日払いで弾んでくれるって話だ。その日一番頑張った奴にはボーナス出るってさ。話を聞いた親父さんも、10日も働けば1カ月は食えるって喜んでたぜ」
 咆哮する銀鷲・ナイアー(c15152)に答えるレイジが話すその賃金。
「……全員で働いてボーナスがあれば、1日で借金が返せるのではないでしょうか?」
 そう言ったアスワドに何人かが頷く。
「それに、脱出経路の確保にもなるだろう」
 腕を組むナガミの一言。
 そう、まだ気づかれてはいないだろうが、ならず者のマスカレイドを討伐した事で、マスカレイド側も異変に気付きつつある可能性は高い。なるべく早く情報を得て脱出する事も考えねばならなかった。

 借金の残額を代官所に渡せばキサメは解放されるらしい。
「借金が返済されないと代官所に訴えたのは、ゲンロクという人で、キキョウ屋という店を営んでいる様です」
「キキョウ屋だと」
 説明するスイエンに声を上げたミハエルがナイアーを見遣ると、皆の視線がナイアーに集まる。
 その視線を受け頷いたナイアーが口を開いた。
「この前のマスカレイドの拠点から持ち帰った書類の中に、キキョウ屋からの物がいくつかあり、フォレスの星霊が見つけた暗号表を使うと、それが指示書という事が分ったのだ」
「つまりいやがらせの黒幕はキキョウ屋のゲンロク」
 ナイアーに続いて口を開いたミハエルが断言する。解れた糸が1本に繋がった。

●幕間
「全員殺されていた……じゃと」
「へぇ。室内も荒らされており、物取りの仕業ではないかと」
 連絡がない事に不信を感じ、様子を探りに行かせた使用人からの報告に、ゲンロクは腕を組んで眼を閉じる。
(「盗賊如きにやられる様な奴らじゃねぇハズなんだが……」)
 マスカレイドの仮面を付けたならず者達の姿を思い浮かべ、ゲンロクは唸る。
「ゲンロク殿……」
 その傍らに片膝をついた忍装束の者が現れ、ゲンロクに何やら耳打ちすると、ゲンロクの目が見開かれた。
「旦那様?」
「あぁ、お前は仕事に戻っていいぞ」
 野良犬でも追い払う様な仕草で使用人を下がらせるゲンロク。使用人が下がった事を確認すると、バッっと忍装束の男に向き直る。
「巫女どもが面会に来たと」
「御意」
 確認するゲンロクに小さく首を縦に振る忍装束の男。
(「むうぅ。じっくりと貧民共に絶望を与える算段を整えるつもりだったが仕方ねぇ。何通か握り潰し損ねたし、キサメが解放される前に皆殺しにしちまうか……」)
 傍らの机の上にあるくしゃくしゃに潰された手紙……キサメが知り合いに援助を求めた物と思われる達筆で書かれたもの……をちらりと見たゲンロクは、
「よし、皆を呼び集めろ」
 忍装束の男にそう指示するのだった。


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参加者
双龍の代行者・アスワド(c01232)
フォイアロートドラッヘ・リリエッタ(c01975)
一刃の星・レイジ(c02370)
とんがり帽子の森の人・フォレス(c07267)
魁刃・ナガミ(c08545)
神刀巫姫・シーナ(c09793)
狂嵐獅子・ミハエル(c10562)
楓・ラン(c15073)
咆哮する銀鷲・ナイアー(c15152)
華節陽伯・スイエン(c25289)

<リプレイ>

●汚泥浚い
「鼻が曲がるというのはこういう臭いを言うのでしょうね。しかし清掃によってこの地が良い方向に向かうと考えれば、ぼやいてばかりもいられません」
 双龍の代行者・アスワド(c01232)がスコップで汚泥を掬い、籠に入れる。スコップにはとんがり帽子の森の人・フォレス(c07267)が、ブラウニーの絵を描いていた。
(「ごみを探して拾うふりをしながら流された荷物がないか探して」)
 そのフォレスは星霊達に命じ流された荷物を探そうとしていた。
「お前、星霊使いか?」
「あ、はい、若輩者ですが」
 星霊を飛ばすフォレスを見て現場監督官がそう問い掛け、フォレスはとんがり帽子を取ると笑顔で頭を下げた。
「ふむ……ならドローブラウニー使えるだろ? 皆の道具に書いてやってくれないか?」
「はい、喜んで」
 続く現場監督官の声に、恭しく頭を下げるフォレス。
「万が一ゴキブリ人が出て来たりした時も頼りにしてるぞ」
 頭を下げるフォレスの肩を叩くと、現場監督官は笑いながら踵を返す。
 皆の道具にブラウニーを書く事で作業効率が上がった事と、戦える者とアマツカグラの公職にある現場監督官に知られた事。これがどう転ぶかは未だ賽の目の彼方にあった。
「思ったより汚水が減らないな……」
 頬に泥を付けた魁刃・ナガミ(c08545)が沼全体を見遣る。水の流れを別に作る事を提案したナガミだったが、汚水をこれ以上広げたくない事と、下水道跡への口を塞いでいるゴミと泥さえ取り除けばそちらに流れて行く事から却下され、膝から下を汚水に浸し作業をしていた。
「おっとっと、どいてどいて危ないよ」
「ちょっとシーナ速いって、こけるわよ」
 そのナガミの後ろをもっこを担いだ神刀巫姫・シーナ(c09793)と楓・ラン(c15073)が駆けてゆく。荒くれ者の多い現場の中で女性である彼女達2人は、ちょっとしたアイドルの様になっており、軽作業に割り振られていた。
 因みにボーナスは、全体の作業効率向上に貢献したという事で、フォレスが貰う事なった。
「明日からのブラウニー描きはノーカウントだがな」
 現場監督官はそう言って笑い、フォレスにダルク金貨の入った袋を投げ寄越した。

「しっかり稼いで来てくれよ〜」
 そう言って作業に出る5人を見送った咆哮する銀鷲・ナイアー(c15152)は、華節陽伯・スイエン(c25289)と共に救貧院が見える位置で道行く人達を眺めていた。
「アマツカグラの街並みは変わっているなぁ」
「しかし、下層階が貧しいと言うのは何処も同じ様です」
 漆喰の壁の建物を見たナイアーが言うと、髪を纏めたスイエンが高みにそびえる太刀鳥居を見上げる。道行く人も華美な服装の者はあまり居ないが、スラムという程ではなく、質素に暮らしているという印象を受ける。
「こらこら引っ張ったら痛いだろう」
 一方救貧院の中では、鬣の如き長い銀髪を引っ張る子供たちに、狂嵐獅子・ミハエル(c10562)が優しそうな頬笑みを向けている。
「へぇー、ミハエルでもそんな顔するんだね」
 同じ様に子供達をあやす一刃の星・レイジ(c02370)が、いつもは険しい表情で尊大な態度のミハエルの変わり様に、ちゃかす様に口を開いた。
「……色々あったのだ」
 少し目を細めたミハエルが呟く。
 奴隷に身をやつした自分を拾ってくれた女武芸者。共に育てられた10人の愛児達。彼らが白き仮面を被り襲い掛かって来る様。思い出す……否、忘れた事など無い。その様が瞼の裏に浮かび上がり、ミハエルは僅かに身を震わせた。
「そっか、なんか悪い事言ったな」
 その様子で悟ったのか、レイジは頭を掻きながら謝ると、ミハエルも気にしていないという風に小さく首を横に振る。
「帰って来た様だ」
 途中スイエンと交代して敷地内の警戒に当たっていたフォイアロートドラッヘ・リリエッタ(c01975)の声に窓の外を見ると、汚泥処理に出ていた面々が、泥まみれになって帰って来るところだった。
「そのまま上げる訳にはいかんな。少し寒かろうが水で泥を落としてから、温泉に入ってもらおう」
 嘆息したリリエッタが、そう言って扉を開け外に出て行く。
 こうして初日の夜は暮れていったのだった。

●夜襲
 汚泥処理に出る面子を半数に減らした事で、働いているのに毎日の食費を出さない訳にもいかず、キサメを開放する資金を確保するのに暫く日数を要する事になる。
 そして一行の懸念が現実のものとなったのは、いくつか自分達の流された荷物が見つかり、明日にはキサメの借金分のお金が溜まると目算の立った3日目の夜。夜間の警備にあたっているのはナガミとシーナ。
「来たぞ、マクラーレン」
「ほえ?」
 ナガミの声に船を漕いでいたシーナが、間抜けな声を上げて目覚めた。予め対策をしていた事で、襲撃者達が母屋に着く前に発見できたのは僥倖だろう。
「直ぐに皆を起こしてくれ」
 細い目を更に細めたナガミが急かし、エンドブレイカー達は迎撃準備を整え、タイミングを合わせて外に出た。
「むっ」
「気付かれたか」
 先行する敵の忍者が僅かな狼狽を示し、後ろの武芸者達の元へ立ち戻る。
「ぬ、用心棒でも雇ったか? そんな金は無いハズなんじゃが……まぁよい、食詰めの浪人供だろう。さっさと蹴散らせ!」
 中央の槍を持つ老人……ゲンロクが哂いながら顎を扱く。その笑う目の奥の瞳は暗い闇に包まれており、その顔に白い仮面が浮かび上がると、バカにした調子で号令し掲げた槍を振り下ろした。
 武芸者達もボロを纏っただけのエンドブレイカー達を、鼻でせせら笑いながら太刀を抜く。
「やれやれ、悪い商人ときたら果ては悪代官か? 元はそこまで悪人でもなかった様だが、マスカレイドとあってはその蛮行、見過ごせん」
「油断してると痛い目に合うってね」
 長い赤髪を振り乱し一気に距離を詰めたリリエッタが振るうRasen Dracheが、油断している武芸者の体を斬り裂き、上から流星の如くカーチフを揺らし急降下したレイジの振るうInherit the Starsがその武芸者の首を刎ねた。
 ざわっとした空気が相手方に広がる中、
「好き勝手には、やらせません!」
 スイエンの放ったディスインデグレートのエネルギー球が、地面ごと1人の武芸者の鎧を削る。
「気をつけろ、なかなかの手練ぞ。……貴様ら何者だ!」
 余裕然に構えていたゲンロクが槍を構え、部下達に注意を喚起するが、
「俺達が何者であろうと、お前が知る必要はありません。知った所で、その情報をお前が持ち帰る事はないのですから」
「反応が遅いです!」
 アスワドの掲げたL'ala del dragone di argentoから吹雪が吹き荒れ、フォレスが突き付けたスネークロッドの杖頭から、眠りに誘い紫の雲が広がってフォレスの体が見えなくなる。
「……ここは通さんよ」
 その雲に紛れ、側背に回り込もうとして忍者は、不意に掛けられた声に跳び退こうとするが、それより早く刃が閃き、袈裟切りの斬撃を受け、血を滴らせて跳びずさる忍者をそのままナガミが追う。
「撃ちぬくよ!」
 その忍者の足をシーナの放った世界樹の弾丸が撃ち抜き、樹木化し鈍った足で逃げ切れぬと判断した忍者が木の葉竜巻を起こすが、そのまま突っ込んだナガミが、その体を斬り上げた。
「こいつ、狂戦士か!」
 ミハエルの一撃を受けた武芸者が、その顔をサードアームで掴まれ頭突きを喰らい、蹈鞴を踏みながら仮面の奥で呻く。
「させぬ……させぬ。この救貧院を我が楽土のようにさせぬ。我が身が野垂れ死のうとも断じて!」
 声と共に天を貫かんばかりの気の奔流が撒き上がり、武芸者に叩き付けられる。
 ミハエルは受ける傷をものともせず、武芸者が言う狂戦士の如く、縦横無尽に大戦斧を叩き付けていた。
「突出し過ぎよミハエル」
 そのミハエルに対し、魔鍵で楽園の門を開いて回復させながらランが叫ぶ。叫びながらもランは、こうなってはミハエルが言う事を聞かないであろう事、そしてミハエルが突っ込んだ影響で、敵陣が機能しなくなった事を見抜いていた。
「さぁ、動き出した黒幕仕留めさせてもらうぜ。もう1枚後ろに黒幕があるのかもしれながな」
 その混戦の中、星霊グランスティードを駆り分身する忍者達を突っ切ったナイアーが、今まさに雷撃槍を投じようとしていたゲンロクに肉薄する。
「キサメ殿を陥れたり救貧院への嫌がらせ。誰の差し金だ?」
「……そこまで知るか、貴様ら何者じゃ」
 ナイアーの斧剣「豪葉月」とゲンロクの槍が交差し、激しい金属音が響く。

 それから数合、相手が油断しこちらをなめて掛った事が大きかった。1人、また1人と武芸者が倒れ、麒麟のオーラを飛ばすゲンロクの顔に焦りが浮かぶ。
(「まずい……まずいぞ」)
 突っ込んだミハエルとナイアーに攻撃を集中しているが、シーナの飛ばす妖精とランが開く楽園の門、そしてスイエンの舞により彼らは倒れず、不屈の精神をもってその刃を振るい続けていた。
「逃げようとしています、逃がしてはいけません!」
 アスワドの声。ゲンロクの動きを注視していた彼は、せわしなく視線を動かすゲンロクの焦燥を見抜いて声を上げた。
「ちっ、退けっ退けぃ」
 まだ逃げると決めかねていたゲンロクであったが、思っていた事は確かであり、この一言で抗戦の意思が途切れ、舞い降るアスワドのレギオスの刃を掻い潜りながら逃げに掛る。
「逃がすか! この因果、全身全霊断ち切らせて貰う」
「背を見せるか、その仮面置いてゆくのだ!」
 リリエッタとミハエル。赤髪と白髪を振り乱した2人が、最後の武芸者と忍者1人に止めを刺す。
「キミ達の力を貸して!」
 妖精と一体化したシーナも、分身する忍者達を蹴散らしながらゲンロクに追い縋り、ゲンロクにチェイスを付けたランも、紅蓮の門を開き獄炎の奔流をもってその退路を阻む。
「お前だけは逃がす訳にはいかん」
「しつこいぞ!」
 追い付き得物を振り上げたナイアーだったが、振るわれた槍から出た麒麟の体当たりを喰らい、グランスティードの上から転げ落ちる。
「あと少し、ナイアーさん踏ん張って!」
「バルカン様、此度もよろしくお願いいたします」
 だが、直ぐにフォレスがナイアーに対して癒しの魔法円を描く間に、スイエンの喚んだバルカンが神火を纏って突撃し、脇腹を押えたゲンロクの足が止まる。その間に回り込んだのはナガミ。
「どけ、若造っ!」
 眦を吊り上げたゲンロクが鋭い突きを繰り出す。それを上体を捻って躱したナガミの頬が薄く切れ血が流れる。
「強い……が、衰えも見える。歳か? じいさん」
「ほざけっ!」
 更に突きを繰り出すゲンロクに今度は上体を逸らすナガミ。そのまま後ろへ跳ぶ様に仰向けで倒れるナガミの後ろからレイジ。レイジを視認したゲンロクが慌てて腕を戻そうとするが、その槍の柄をナガミが掴む。
「悪いが……負けられない理由が増えたんでな」
 弾丸の如く突っ込んだレイジの刃が、真っ直ぐゲンロクの胸板を貫いた。
「ば……ばかな……」
 両目を見開いたゲンロクがそれだけ呟くと、亀裂の入った仮面が砕け、ゆっくりと仰向けに倒れた。

●行方
「やはり忍者の骸は4体しかないのです」
「逃げられたか……」
 再度確認したスイエンが報告すると、ナイアーが悔しそうに拳を撃つ。
 分身を多用していた事もあり、忍者だけで10体以上は討ち取ったつもりだったが、優先攻撃目標としては一番後回しにしていた事もあり、どうやら1体に逃げられた様だった。ちょいちょいとナガミが皆を呼ぶ。
(「誰かエンドブレイカーと名乗ってないか? または仮面について言及していないか?」)
 顔を見合わせるエンドブレカー達、今までは何かと名乗ったりしていたが、そう言えば今回はその様な事を言っていない。
(「ならば腕利きの用心棒がいるという事になるかも知れんが、エンドブレイカーが居るとバレた訳ではない可能性が高い。まぁどちらにしろ時間的猶予はあまりないだろうが……」)
 ナガミが言うのに頷き、皆は額を突き合わせた円陣を解く。
 何人かが周囲を警戒し、フォレスがブラウニーを描いた道具で戦いの痕跡を消す中、アスワドがデモンリチュアルでゲンロクをはじめ襲撃者達の骸を消滅させる。
「他部隊の仲間たち、どうしてるかな。ナミネさん、大丈夫かしら」
 闇に浮かぶ太刀鳥居を見上げランが呟く。他の部隊は無事アマツカグラに潜入できたのだろうか? 連絡の取り様もなく、自分達も目の前の事で手一杯で探しにも行けない。
(「キサメさんに色々聞いて脱出しなければ……、みんなきっと無事よね」)
 ランはそう言って祈りを捧げた。

 翌日、スイエンとイヨはキサメの抱える借金分の金貨を手に代官所を訪れた。
 訴えのあった金額と合致する事から、直ぐにそれと引き換えにキサメ釈放は認められた。代官所の中にはキサメの高名を慕う人も多く、それ程不住はしていなかった様である。
(「代官所はマスカレイドに押さえられている訳ではないのかしら?」)
 スイエンは代官や刑務官など、働く人達の顔に一切仮面が無い事と、規律正しく犯罪者でない者に対する友好的な態度に、漠然とそんな風に感じていた。
「あぁ、キサメ院長……」
 解放されたキサメの手を押し抱き、言葉を詰まらせるイヨ。
「ずいぶん迷惑を掛けましたねイヨ。そしてスイエン」
 キサメは優しくイヨの頭を撫で、スイエンに向かって一礼する。
「はい、スイエンさんと仲間の方達が働いて今回の費用を……」
「まぁ、それはちゃんと皆さんに礼を言わねばなりませんね」
 イヨの説明に少しだけ目を見開いたキサメ。3人が救貧院に戻ると、
「キサメ様」
「院長殿」
「キサメ院長」
 他の巫女や救貧院の人達にもみくちゃにされるキサメ。その一人一人ににこやかな笑顔を返し対応するキサメだったが、部屋の端に控える一行を見て、少しだけ怪訝な表情を浮かべた。
「キサメ様、私の仲間達です」
 キサメに仲間を紹介するスイエン。
「この度は私の解放の為に尽力頂いたとの事、誠に感謝に堪えません」
 居住まいを正し、礼法に則って頭を下げるキサメ。その凛とした佇まいに慌てて頭を下げる一行。
「キサメちゃん、ちょっと聞きたい事があるんだけど……むが」
 馴れ馴れしく話しかけるシーナの口を、リリエッタとアスワドが慌て塞ぐと、少し笑ったキサメが、
「実は……」
「その前に……お前達は、アマツカグラの者ではありませんね? この歪んだ世界を破壊する力が見える……。だが、今はその時では無い。今はこの呪われたアマツカグラから離れなければならないでしょう。お前達が逃れる事が、希望を未来に繋ぐことになるでしょう」
 スイエンの言葉を遮り、キサメは全てを見透かす様な瞳を向けそう言い放った。
 リリエッタが唾を飲む音が静かな部屋に響く。
 『紡ぐ者』キサメ。彼女は何を知り、その口から何を紡ぐのだろうか?



マスター:刑部 紹介ページ
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いまいち
参加者:10人
作成日:2012/12/25
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