ステータス画面

職人の本末転倒

<オープニング>

 下町の片隅にクローニュ玩具店はあった。
 間口は狭いが、奥に長い造りをしており、店を訪れた子供達は宝が隠された洞窟に入るような気分になったものである。
 その日玩具店を訪れたヴェル少年もその一人だ。彼の場合、ほとんど毎日店を訪れ、陳列棚に並ぶおもちゃを眺めたり、店の裏にある工房で主人のクローニュが商品を作るのを見学したりもしている。
 店に入ったヴェルは、いつものように陳列棚を見回した。
 本物そっくりの城塞の模型は、窓から覗く大広間のタペストリーまで精巧に再現されている。その隣に置かれた剣を帯びた騎士は、全身の関節によりどんなポーズを取ることも出来た。道化師の人形は一度振り子を動かせば、一時間は大玉の上で踊りを踊ってくれる。
 一方その反対側の棚には、驚くほど細かいレースが縫い込まれたドレスを着た少女の人形が、ふかふかの毛皮を持つクマのぬいぐるみと、実物をそのまま小さくしたようなテーブルについてお茶会をしていた。
 ワクワクする気分に顔をほころばせ、ヴェルは店の奥を見る。
 クローニュはいない。
 実のところ、今日は玩具店の休日だった。そういう時、クローニュはいつも工房にいて、今日はヴェルに新作を見せてくれると言う約束だったのである。
 ヴェルは一度店を出ると、隣の店との間にある細い路地に入った。店の奥にある扉からも工房には行けるが、そちらを使うとクローニュの住居を通ることになるので、ヴェルは遠慮していた。
 路地を抜けると、まず倉庫に出る。扉には鍵がかかっていない。ヴェルが来ると知っているクローニュが開けてくれていたのだろう。
 倉庫に入り、完成品やおもちゃの材料が置かれた広い空間を通ると、工房に着いた。
「やあ、ヴェル。よく来てくれたね」
 少年を見て、作業台のそばにいたクローニュが微笑む。
「早速だが、これを見てくれ」
 クローニュが作業台を示した。
 そこには大人の身体よりさらに大柄な鎧武者の人形が置かれている。ヴェルが詳しい話を聞こうとするより先に、クローニュが作業台で何か操作した。鎧武者が独りでに立ち上がる。
「最初に種明かしをすると、これは僕が一から作ったわけじゃないんだ。遺跡で発掘されたものを修復したんだよ。どうやら、これの作成法はずっと昔に失われてしまったらしい」
「そ、そうなんだ。でもすごいよ、クローニュ! いつもの絡繰り仕掛けもすごいけど、これ、本物の騎士と戦っても勝てそうだよ!」
「ふふ……。実は僕は昔、トレジャーハンターみたいのことをしたことがあって、遺跡の中でこういうのと戦ったことがあるんだ。その時、自分でも同じようなものを作ってみたいと思ったのさ」
「じゃあ、クローニュは夢をかなえたんだね」
「いや、さっきも言ったけど、これは元からあった物を修復しただけだ。本物にはまだまだ遠いよ。……それでヴェル、頼みがあるんだけどね」
「何? 何でも協力するよ!」
「いろいろ調べてみたんだけど、この手のゴーレムを作るにはある重要な材料が必要なんだ」
「それを手に入れればいいんだね。でも、それは何なの?」
 ヴェルが聞き返した時、突然鎧武者が動いた。鈍重そうな見た目に反した敏捷な動きで少年の身体を掴む。
 クローニュの目が怪しく光った。
「その材料はね、ヴェル。人間の生贄なんだ」



「子供に夢を与えるのが、おもちゃ屋の本分だと思うんだが……」
 大剣の城塞騎士・ルド(cn0117)はため息をついた。
「そのおもちゃ屋――どっちかと言うと職人だ――が、マスカレイドになったようだ。店によく出入りしている少年が殺されようとしている。それを阻止してくれ」
 ルドは気を取り直すように一度咳払いをし、事件の説明を始めた。
「このマスカレイドはクローニュと言う職人で、どうやらゴーレムを作ろうとしているようだ。技術は確かで、遺跡で発見されたゴーレムの残骸を修復するのには成功しているようだ。それで今度は自力で作ろうとして、少年を材料にしようとしているんだ」
 事件現場はクローニュの工房で、そこにゴーレムが1機、倉庫の方にも2機が置かれている。それぞれ矢の射出機構が組み込まれ、格闘能力もあるそうだ。また、クローニュ自身も錬金術士としての能力があるらしい。
「問題を一つ挙げるなら、現場の工房の狭さだろうな。作業台に工具棚、おもちゃの材料なんかで足の踏み場もないような場所だ。作業台に載っても、5人が入るのが精いっぱいと言うところだろう。扉でつながってる倉庫の方は十分な広さがあるんだがな……。それから工房には裏通りに通じる扉があるが、こっちは内側から鍵がかかっている」
 ルドは店の周囲の簡単な地図をテーブルに広げた。
「それに、被害者の少年だ。彼はクローニュのことを完全に信用している。クローニュは街では腕の良い職人で通っているからな。自分が襲われるまでは、こっちの言い分を信用しないだろう。ことが済んでからの口止めも、クローニュの本性を知らない限り難しいだろうし」
 さらにルドは塔主達やメイガス騎士団にエンドブレイカーの情報が流れる危険にも気をつけるように言った。
「本当に棘って奴は些細な心の隙間につけ込んで来る……。だからと言って、戦うのを諦めるってのもエンドブレイカーには出来ない相談だ。頑張ってくれ」
 ルドはエンドブレイカー達を見回し、頭を下げた。


マスター:灰色表紙 紹介ページ
 どうも、灰色表紙です。
 3機のゴーレムは『バトルガントレット』の『ボウガンシュート』の射撃戦機能と、『フルメタルナックル』、『城塞騎士』の『グロリアスファントム』に相当する格闘能力を持ちます。クローニュは『錬金術士』で、『バイオレットエグザリオ』、『脈動する大地の拳』、『暴食の使徒クラビウス』を使用します。

 工房に入るには店の表側の路地を通り、倉庫を抜けるか、裏口の扉を使うしかありません。裏口には工房の中から鍵がかかっています。路地は人一人通る幅があります。
 倉庫内は薄暗く、工房内は十分な明かりがあります。
 また、ゴーレムのうち、2機は倉庫内に置かれています。倉庫は戦場として障害になるようなものはありません。いろいろ置かれていますが、整理されています。逆に工房の中にはゴーレムやクローニュ、ヴェルも含めて5人しか入れません。

 戦場到着のタイミングは、ヴェルが店を訪れた時を想定しています。

 では、ご武運を。
参加者
剣の群竜士・マコト(c00561)
紫翅廻飛・クロロ(c08777)
サイレントファントム・ルティナ(c11676)
灰色の翼・ニーナ(c12571)
地狂星・メランザ(c26024)
兄想い・エリナ(c26549)
春告げの唄・アルヴィ(c32493)
白面金色ノ妖狐・キュウビ(c33197)

<リプレイ>

●おもちゃ箱の中
「あー……あかんあかん、終わってからにせんとあかんな……」
 ランタンの明かりが漏れないように覆いを調整した白面金色ノ妖狐・キュウビ(c33197)が、ポケットから取り出した煙草を元の場所に戻した。
 倉庫の薄明かりの中、人形や模型、その他様々な玩具が棚の上にきちんと置かれている。
 色のない奇妙な影がずらりと並んでいる光景は、一種、夢のようであった……あるいは悪夢かもしれないが。
 少なくともサイレントファントム・ルティナ(c11676)とっては、倉庫の持ち主がマスカレイドである以上、ここは悪夢の場所だった。
 だが、玩具店の倉庫……それも優れた技を持つ職人の作品が並ぶ場所は、やはり心躍る場所でもあるようだ。
「子供にとっては宝の山だぜ、この倉庫」
 剣の群竜士・マコト(c00561)が木箱の陰から顔を覗かせた。
「何だか分かンねぇものもあるけどよ」
 紫翅廻飛・クロロ(c08777)も倉庫を見回し、歯車とバネの前衛芸術をつつく。
「このエッジの処理やモールドの彫り方……! こ、これはとても良くできていますね。すばらしい細工ですわっ……とと」
 兄想い・エリナ(c26549)も鎧をまとった騎士の人形を手にとって歓声を上げ、慌てて声を抑えた。
「だが、優れた職人であったのは過去の話だ。遺物にすがり、子供を犠牲にするようでは、もう職人とは呼べまい」
 地狂星・メランザ(c26024)はそう言うと、持ち込んだ袋の状態を確かめる。袋は内側からもぞもぞと動いていた。
 この倉庫の持ち主である玩具店の主人にして職人のクローニュは、子供を生贄にしてゴーレムを作ろうとしている。一行はそれを阻止し、マスカレイドであるクローニュを倒すために、彼の倉庫に忍び込んでいた。
 ルティナは倉庫につながる工房の物音に耳を澄ませる。クローニュは今そこで作業中のはずだ。
 一方、ちょうどその時、店舗の方では灰色の翼・ニーナ(c12571)と、春告げの唄・アルヴィ(c32493)が犠牲者の少年、ヴェルに接触していた。
「色々ありますわねー♪ 何か買います?」
「あ、じゃあ、これはどうかな? この人形の騎士の鎧は、外して組み替えると馬の形になるんだ。そっちのガントレットもいいよ。いろんな隠し武器がついてるんだ。もちろん、おもちゃだけどさ」
「詳しいんだね、ヴェル!」
「うん、この店にはよく来てるから。クローニュは本当に凄いんだぜ」
 親子連れと言う触れ込みのニーナとアルヴィに、ヴェル少年は誇らしげに商品を説明してくれた。クローニュを信じ切っている様子に、ニーナはわずかに顔を曇らせる。
「そうだ、今日はクローニュが新作を見せてくれるんだ。アルヴィもどう?」
「本当!? ありがとう!」
「じゃ、こっちだ」
 ヴェルがアルヴィを店の奥へと連れて行く。ニーナも続いた。
 3人が倉庫に入った時、
「あ、ネズミ!」
 足元を黒い影が走り抜け、ヴェルが声を上げた。
「クローニュ、大変だ、ネズミが出た!」
「何だって? まずいな……」
 奥の工房から男の声がして、扉が開く。
「ちゃんと掃除はしてるんだがな。おや、ヴェル。その人達は?」
 作業服姿の男が倉庫に入って来た。
「クローニュ、お客さんだよ。この人達にも新作を見せてあげてよ」
 ヴェルが言い、クローニュは笑顔で頷く。
「ああ、歓迎するよ。心から」
 そろそろ頃合いだとニーナは思った。倉庫に隠れている仲間達もそう思ったのだろう。メランザの合図がニーナとアルヴィに届き、木箱や棚の陰からマコト達が姿を見せる。
「思ったより上手くいったな」
 メランザが言った。先ほどのネズミはクローニュを倉庫の方に誘い出すためにメランザが放ったものなのだ。
「えっと、あれ? なに?」
 困惑するヴェルを庇う様にニーナは前に出た。

●狂える職人
 キュウビはランタンの覆いを開き、倉庫内を照らした。クロロも同じようにランタンを点ける。
 クローニュは工房への扉を背にして、自身を取り囲む者達を無言で見回した。
「悪ぃが、悪趣味な人形制作はここまでだ。ゴーレムも、テメェの野望も、ここでぶっ壊す」
 マコトが宣言し、
「……人間を材料にする、ね。あなた達らしい狂った考えだね」
 ルティナも弓を構える。
「おい、アンタ達は泥棒なのか!?」
 ヴェルが叫ぶ。が……。
「ふ、ふふふ……」
 クローニュが顔に手をやり笑い出す。
「何者か知らないが、全てばれてるわけだ。ま、材料が増えて何よりだよ」
 手を下ろしたクローニュの顔は仮面に覆われていた。
「ク、クローニュ、どういう事……?」
「ヴェル、ありがとうな。僕の夢を助けてくれて。新作の材料には生贄が必要なんだけど、うん、大人の女性の方が都合はいいもんな」
 クローニュがニーナに顔を向ける。
(「自分から正体を明かしてくれたのは都合がいいんやけど……ひでぇ顔をしとるんやろな」)
 クローニュの表情は仮面の下でキュウビには見えないが、恐怖と混乱に歪んだヴェルの顔を見ればだいたい想像はつく。
 と、再びメランザの警報が届いた。
 同時にクローニュが扉の前から横にどく。工房の作業台に置かれた鎧武者が立ち上がり、倉庫内でも木箱が内側から吹き飛んだ。
「実動実験だな」
 クローニュが言い、出現した3機のゴーレムは敏捷な動きでクローニュと一行の間に割り込んで来る。
「……その血塗られた手で作る夢など悪夢でしかない。貴様には最早、夢を語る資格は無い」
 メランザが静かに告げた。
「みんな、こいつから壊すぜ!」
 マコトが左の機体に向かう。
「なら、私はこれの足止めだな」
「ワシはこっちの相手をしまひょか」
 メランザが中央の機体を見やり、キュウビも右の機体に向き直った。
「弱点っぽいのは……見えねぇな」
 舌打ちしたクロロの手が翻り、描かれた紋章から黒甲冑の兵士達が現れる。
 が、ゴーレムの動きも速かった。英雄の幻影が展開され、装甲に覆われた拳を突き出して来る。キュウビは間一髪避けたが、マコトとメランザは重い一撃に顔をしかめた。
「こら慎重に行かんと……」
 キュウビは棍を身体の前で回転させて防御を固めた。
「全く、大昔の連中は厄介なもの遺してくれたぜ」
 マコトは突き返すように拳を叩き込み、反動で跳んでメランザの相手も蹴る。エリナもムーンブレイドを抜き、マコトの向かった機体に月光の封印結界を張った。
「今のうちです!」
「そうですわね。さあ、こちらに」
 ニーナが茫然としたままのヴェルの手を握り、アルヴィとともに倉庫を出て行く。閉ざされた扉が向こう側からニーナによって封印された。ゴーレムがそちらを向くが、
「……心を壊す、破滅の矢……受けてみろ……」
 ルティナの矢が胸部装甲を撃ち抜いた。さらに矢は空中で分裂し、メランザの相手も貫く。一瞬動きが止まったゴーレムに向かってメランザが距離を詰めた。低い姿勢からゴーレムの拳の下を潜り抜け、両手を矢に貫かれた胸に当てる。
 ガアンッ!
 爆発的に気が炸裂し、鎧武者が後ずさった。装甲が内側から裂けている。
「……クソ、壊すなよ」
 クローニュの奥歯を鳴らし、紫色の結晶をメランザに投げつけた。メランザの目が焦点を失い、がくりと脱力する。
 同時にゴーレム達も動いた。クロロの黒の兵達が陣を組み、ゴーレムを包む幻影を消したが、ゴーレムはそのまま重い拳を突き出して来る。
「ぐっ……」
 今度はキュウビも避けられなかった。たった一撃で身体がバラバラになったような衝撃を受ける。
「……治すから、じっとしてて」
 すかさずルティナが生命エネルギーを活性化する矢でキュウビを射抜き、かろうじて持ち堪えたが、危険な状況は続いている。
(「もうちょっと優しゅう手当てしてもらいたいもんやな……」)
 キュウビは無理矢理笑みをひねり出した。

●ゴーレム
 クローニュの紫の結晶は強力な意識妨害効果を持っていた。こちらが戦況認識を出来なくなった所を狙ってゴーレムが拳を振るってくる。集中攻撃を受ける形になったマコトにクロロが施療院の紋章を使うが、焼け石に水だった。
 マコトの身体がゴーレムの拳の直撃を受けて宙を舞う。棚に叩きつけられたマコトはすぐに立ち直り、その反動のままゴーレムに突進して抜き放った剣をゴーレムの腕に打ちつけた。エリナも拳に断罪の女神の紋章を浮かべて殴りかかるが……頑丈な装甲にどちらもあまり手応えがない。
「ちっ、悔しいですがとても良いお仕事ですわね。わたくしの鎧も作っていただきたいくらいです」
 エリナがぼやく。
 メランザは仲間達の様子を見た。ルティナがマコトに治癒の矢を使い、キュウビは棍でゴーレムの攻撃をさばき続けているが、また一撃を受ければ倒されてしまいそうだ。メランザ自身も消耗が激しい。
 一方でゴーレムの方は両腕の装甲の下から矢の発射管を出し、無数の矢を撒き散らしており、クローニュもまだ無傷だ。
(「ニーナ達を呼ぶしかないな」)
 そう判断し、メランザは警報を発した。
 そうこうするうちにも敵の攻撃は続き、マコトが剣を掲げて強化部品を召喚し、エリナは月の結界をゴーレムに放つ。ルティナは治癒の矢を使う余裕が無くなったのか攻撃に転じ、メランザも不可視の衝撃波を放った。
 しかし、ゴーレムは装甲に亀裂が入っているものの、動きに変化がない。
「思ったより耐久力があるな……。もう少し中枢を解析してみるか」
 クローニュはすっかり余裕を見せている。
 と、その時、店舗への扉が開いた。
「ヴェル、キミは隠れてて!」
 アルヴィの声がし、
「乱入上等ですわよッ!」
 ニーナが倉庫に飛び込んで来る。すぐにアルヴィも入って来て、仲間達の惨状に目を見開くと行軍歌を歌い始めた。クロロも施療院の紋章を使い、メランザの傷を癒してくれた。
「俺のコルリの紋章はこれで最後だ! アルヴィ、後は頼むぜ!」
 アルヴィは頷いて歌い続ける。
 この瞬間、戦いの流れが変わった。
 治癒が間に合い、紙一重でマコトとキュウビがゴーレムの攻撃に耐えきったのだ。
 ニーナが英雄の幻影をまとい、突撃の勢いを乗せた拳をゴーレムの装甲に叩き込む。衝撃にゴーレムが体勢を崩した。
「まあニーナ様、相変わらず良いパンチですこと。わたくしも負けていられませんわ」
 エリナがムーンブレイドを頭上に掲げる。月の結界が光を放ち、ゴーレムの身体が倉庫の床の中に沈んで行った。
 クローニュの顔色が変わる。
「ああ、よくも! なら、お前らの身体で新しい機体を作ってやる!」
 ゴーレムが主の意志に応え、矢を掃射してメランザとキュウビを針鼠にした。
「吹き飛べ、クズ鉄野郎!」
 そこに横合いからマコトが蹴りを放つ。ゴーレムの首の装甲の隙間に一撃が決まり、頭部がへし折れた。
「覚悟なさい、クローニュ!」
 後ろに向かって倒れて行くゴーレムを跳び越え、ニーナがクローニュに間合いを詰める。
 その様子にメランザは最後のゴーレムを見た。ルティナの狙いすました射撃が胸部装甲を貫き、メランザも続けざまに虚空の刃を放つ。実に24発もの刃が命中し、ゴーレムがバラバラになった。わずかにゴーレムからエネルギーが流れ込み、メランザの体力が戻る。
 一瞬、気が緩んだ。
「危ない、メランザさん!」
 アルヴィが戦歌を中断して叫ぶ。
 クローニュが呼び出した巨大な口の生命体がメランザの身体を飲み込んだ。

●後継者
 アルヴィの行軍歌が続いている。歌い続けているせいか、アルヴィはもうフラフラだ。クラビウスに噛まれたメランザもゴーレムから奪い取った活力がなければ倒れていたところで、後衛の仲間達も援護の余裕はもうない。
 だが、ゴーレムが全滅した時点で雌雄は決していた。
「手こずらせてくれたもンだな……!」
 クロロの黒の兵士達がクローニュを包囲し、そこにマコトが絡みつくような回し蹴りを叩き込む。ニーナのアックスソードが翻り、クローニュが悲鳴を上げた。
「待てっ! 僕はただ夢を叶えたいだけなんだ!」
 叫び声を上げながら床に手をかざし、巨大な拳を作り出す。狙いも何もない攻撃がルティナを捉え、その身体を殴り倒した。
 だが、ルティナは眉ひとつ動かさず静かに告げる。
「……さようなら、お前の狂った欲望は……永遠に、果たされない」
 放たれた矢がクローニュの胸に突き立つ。
 すかさずクローニュの兵士が動き、破城鎚での突進を受けたクローニュの身体は工房の壁にめり込み崩れ落ちた。
「お、終わりました……」
 アルヴィがかき鳴らしていたロックギターを下ろす。
 前衛に立っていたマコト、キュウビ、メランザは重傷で、ルティナ、クロロ、アルヴィも癒しの力を使い過ぎて疲労が限界に来ていた。
 それでもアルヴィが仲間達の手当てを始め、キュウビも包帯を取り出しその手伝いを始める。
「さあて、ゴーレムの仕業に見えるようにせんとなあ」
 キュウビは工房に倒れ伏すクローニュを見る。死体は破城鎚がとどめになったため、ちょうどゴーレムの拳にやれたように見えた。
「都合よく……って言っていいのか判んねぇけどな」
 マコトが苦笑する。
「でも、私達がここに来た痕跡は消さないといけませんわね」
 ニーナがそう言って、作業中人が入って来ないようにまた扉を封印した。
「これ、ヴェルから見りゃ、俺らの方がよっぽど悪党に見えるンだろーなー」
 クロロがぽつりと言う。
 確かに、ヴェルのフォローをする必要があった。
 作業を終え、一行が店舗に入ろうすると、扉に張り付くようにしていたヴェルが転びそうになった。
「クローニュはどうなったのっ!?」
「クローニュは……」
 必死の表情のヴェルに、エリナが答える。
「彼は腕の良い職人でしたが、誘惑に負け危険な研究に踏み込んでしまいました。そのためゴーレムが暴走する事故になったのです。良い職人だった彼の名誉のためにも、この事はご内密にしていただきたいのです」
 少年を落ち着かせるように、ゆっくりと語りかける。
「ゴーレムの暴走って……」
「……少年、君が見たものが事実だ。解釈について我々が及ぶべきところではない」
 納得していないのか、恐怖と困惑で顔を歪める少年の肩にメランザが手を置いた。
「……再生は破壊からしか生まれない。私は君が彼の遺志を継げれば、と思う。君にはそれが出来るはずだからな」
「遺志を継ぐって……」
 ヴェルが倉庫に転がるゴーレムの残骸を見た。
「いや、あれではなく、こっちだ」
 メランザは少年を店の方に向かせる。
 そこにはたくさんの玩具が子供達を待っていた。
「……うん」
 決意の表情でヴェルが頷く。
 ルティナが事件の話を他言しないように言い、一行は少年とともに店を出た。去って行く少年の背中には目標を見つけた男の意志が感じられた。
 キュウビが待ちかねたように煙草を取り出す。
「おつかれさん、一本どないや? イケる口やろ?」
 クロロに差し出し、キュウビも自分の煙草に火を点けた。



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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2013/01/14
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  • カッコいい7 
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