ステータス画面

温かな香りに誘われて

<オープニング>

「クコノミもうやだ……オナカすいた」
「ミズばっかりもあきちゃった。あま〜いミツほしい」
「どっかに、あったかそーなオトコ、コロがってないかな」
 常盤緑の木々も多いとは言え、冬の森は何処か閑散と寒々しい。5人もいればさして心細さもなかったが、群れからはぐれて数日経つ。適当に歩き回ったから、今は森の何処にいるのやら、見当も付かない。
 大木の下に寝そべる影は、真冬の只中、寒空の下で肌も露な乙女ばかり。尤も、その手足は寧ろがっちりとした獣のそれ。胸元や腰周りを黒々とした毛皮が覆い、まるっこい獣耳や尻尾まで備えている。
 ベアゼリィ、と呼ばれる熊のピュアリィだ。本来なら、皮膚を保護する蜂蜜を全身に塗りたくっている筈だが、今の彼女らの肌は乾いてしまっている。
「このママだと、おハダにもワルい。こんなにカッサカサ……」
 うんざりと、自らのお肌……それでも、まださして荒れているようには見えなかったが――を撫でさする最年長らしきベアゼリィの顔が、ハッと上げられる。
「ハチミツのニオイ!」
「ホントだ!!」
 俄然目を爛々と輝かせ、しきりと匂いを嗅ぎ回るベアゼリィ達。
「きっとあっち!」
 我先に駆け出す。まずは蜂蜜を補充して、お肌つやつや、お腹も一杯にして。もし男がいたら久々に遊べばいいし、女なら腹いせにでも殺してやろう――愉しげにほくそ笑む彼女達の行く手には、小ぢんまりとした丸太小屋の煙突から長閑に煙が立ち上っていた。

「まさか、ギガンティア帰りにエンディングを視るとは思ってもみなかったので……少し驚きました。馴れるまで、ちょっと時間が掛かりそうですね」
 ひょろりと背の高いエルフの青年の周りを、クルリと青白い妖精が舞う。眼鏡越しに鉛の双眸を細め、銀鍵の妖精騎士・クラビス(cn0176)は集まって貰ったエンドブレイカー達を見回した。
「アクスヘイムの下層に大きな森がありまして……どうやら、熊のピュアリィの群れが生息しているようです。ベアゼリィと呼ぶそうですね。現状、群れ自体に危険はなさそうですが……群れからはぐれてしまった何体かが、森の外れまで迷い出てしまいましてね」
 そうして、迷子のベアゼリィ達は森の外れの丸太小屋を襲うという。
「元は打ち捨てられていた小屋ですが、間が悪い事に、年明けから若い夫婦が暮らし始めています。旦那さんのヤフさんはバーテンダーで、奥さんのアイナさんは薬師。何でも、身体にも好いホットカクテルを研究中だそうで……ベアゼリィ達は、その匂いを嗅ぎつけて来たのでしょう」
 森の際に建つ丸太小屋からは、村も近い。ピュアリィが人里に出れば――良からぬ事態となるのは予測できよう。
「皆さん、破壊のみが齎される終焉を、一緒に壊して戴けませんか?」
 若夫婦の丸太小屋の近くで待ち構えれば、ベアゼリィ達は必ず現れる。森は非常に広いので、こちらから探しに行くより確実だろう。木々生い茂る森の中でも、丸太小屋の周囲なら足場にも武器の取り回しにも困る事はなさそうだ。
「迷子のベアゼリィは5体。マスカレイドではありませんが、力も強いので油断しない方が良いでしょう。三大欲求で頭が一杯のようですから、取り敢えず殴り倒す方向で」
 サラリと物騒を言ってのけて、クラビスは鷹揚に笑みを浮かべる。
「まあ、その後の事は、皆さん次第でしょうけれど……そのまま引導を渡してやるのも、情けの1つだと思います」
 首尾よく終焉を破壊出来れば――若夫婦の新居に立ち寄るのも悪くない。
「終焉が視えた時に、ヤフさんと少しお話をしまして。身重の奥さんはアルコールが飲めないので、カクテルの試飲がちょっと大変だとか仰っていました」
 ホットカクテルの試飲を申し出れば喜ばれるだろうし、アイデアを提供しても良いだろう。特に蜂蜜やミード(蜂蜜酒)を使ったカクテルを試行錯誤しているようだ。
「勿論、未成年の方はお酒は駄目ですけど、ノンアルコールのホットドリンクも作って戴けそうですから」
 マスカレイドと関わりはなくとも、悲劇のエンディングはけして見過ごせないのがエンドブレイカーならば――最後まで穏やかな表情のまま、クラビスは宜しくお願いしますとエンドブレイカー達に会釈したのだった。


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参加者
夢幻より覚めし黒翼・パール(c05089)
飄飄蒼空・キドー(c05202)
ごめんあそばせ・ウルル(c08619)
紫翅廻飛・クロロ(c08777)
レイディングディバイダー・ジェイナス(c15904)
凶夢の悪魔憑き・ロイ(c22673)
星詠み・ラピス(c32255)

NPC:銀鍵の妖精騎士・クラビス(cn0176)

<リプレイ>

●深窓の森の外れで待つ
「先日は突然お声掛けして失礼しました」
「あんたは確か……」
 エンドブレイカーにも増えつつあるエルフだが、アクスヘイムではまだ珍しいだろうか。突然の訪問者を迎えたバーテンダーと薬師の夫婦は、銀鍵の妖精騎士・クラビス(cn0176)の事も覚えていた様子。
「実は、この辺りにベアゼリィが出没する事が判りまして。今日はその排除に伺った次第です」
「お外が騒がしくなってしまいますけれど、お家の中にいらして下さいませ」
「ああ、それで」
 クラビスに続き、口を開くごめんあそばせ・ウルル(c08619)。2人の肩越しに見えるエンドブレイカー達を怪訝そうに見詰めていた夫婦は、納得顔で頷く。
「判りました。皆さんもお気を付けて」
「ソッチは、くれぐれも外に出ねぇようにな」
 最後に念を押し、踵を返す紫翅廻飛・クロロ(c08777)。もしクラビスが言葉に詰まるようなら助け舟でもと考えていたが……些か神経質そうな面に反して、人と話すのは苦ではないようだ。
(「ま、情報屋だしな」)
 そうして、夫婦の丸太小屋から心持ち離れた位置で、ベアゼリィの出現を待ち構えるエンドブレイカー達。
「これだけ甘い香りがしてるなら、確かにベアゼリィも寄って来るだろうな」
 凶夢の悪魔憑き・ロイ(c22673)の言う通り、冬の森に甘やかな香りが馥郁と。
「誘惑ですよね、コレ……ちょっと、ベアゼリィ達の気持ちが判ったかもしれないです」
「むぅ……やっぱり熊さんだから、蜂蜜とか好きなのかなぁ……?」
「確かに、色が綺麗で栄養もあって甘くて幸せになりますよね」
 ぼんやりとした夢幻より覚めし黒翼・パール(c05089)の呟きに、無垢な笑みを浮かべる星詠み・ラピス(c32255)。
「美肌効果とかは判りませんけど、女の子ってそういうのに敏感そう……」
「ベアゼリィの場合は、寧ろ死活問題ですけどね」
 クラビスが静かに口を挟む。特殊な菌類が苦手なベアゼリィは、皮膚の保護の為に蜂蜜を全身に塗る。迷子のベアゼリィ達が、蜂蜜確保に焦るのも頷けるか。
「でも、しっかりお仕事しないと、だね」
「はい。悪事は駄目って教えなくちゃ」
 おっとりとしたやり取りから一転、パールとラピスは決意の表情で頷き合う。
「まあ、悪い子にゃお仕置きだな。丸太小屋には近付かせねえぜ」
 レイディングディバイダー・ジェイナス(c15904)の不敵な宣言に、飄飄蒼空・キドー(c05202)も飄々と笑む。その間も、ホークアイの索敵に余念はない。
「流石にトドメまでは刺さねぇ方針だけど、全力で相手しないとな」
 クロロの本音としては、ベアゼリィなんてほっといてさっさとカクテルを飲みたい所。とは言え、働いた後の一杯は格別だろうし。
「適当に痛めつけて追っ払うンだよな? 最初から襲うつもりでいた訳じゃねぇンだし」
 そんな彼の確認に否やはなく。予め蜂蜜や食糧、毛布も用意している。最後は穏便に収まればそれに越した事はない。
「……皆、優しいんだな」
 零れ落ちた呟きは、妖精騎士の青年から。思わず長身を見上げたウルルだが、クラビスの横顔に皮肉の色はない。思った事がそのまま口をついた、そんな風情か。
「優しい?」
「ピュアリィは愛らしい姿も多いですが……人間を襲う時点で、私にとってバルバや巨獣と変わりありませんから」
 つまり排除対象でしかないという事。ウルルに返る言葉は丁寧だが、眼鏡越しの鉛の眼差しは何処か鋭い。
「それに、男なら弄んで女なら腹いせに殺そうとか考える連中です。可哀想な迷子、とは思えないですね」
「……何だか闘志が湧いてきたわ」
 半眼になったウルルの言葉に、クラビスはクスリと笑んだようだった。

●迷子のベアゼリィ
「来たぜ」
 最初に気付いたのは、やはりキドー。群竜士の鷹の目は、木立の間に見え隠れする熊娘達を確実に捉えた。
「やったー!!」
 身構える暇があればこそ、次々と現れたベアゼリィの歓声が響き渡る。一応に飴色の巻毛と栗色の瞳で、顔立ちも何処か似通っている。熊の手足はごついながらモコモコとして、ちんまりと丸い熊耳がピコリと揺れた。
「オトコ! オトコいっぱい!」
 パールやウルルが目に入ってないのは、幸か不幸か。姦しくハイタッチして大喜びのベアゼリィ達。
「あそぼ! あそぶよー!」
「ねぇねぇ、ハチミツはー?」
「そんなのアトアト! アタシはソッチのカワイイコがいい!」
「え……」
 舌なめずりせんばかりの目つきに、思わず身を強張らせるラピス。一途に想い続ける少女がいる少年がピュアリィの色香に惑う事はないけれど、身の危険はひしひしと。
「じゃあ、アタイは――」
「あら、殿方ばかりと言わず、わたしとも遊んで頂戴な!」
 戦いの火蓋は、ウルルの声と共に切って落とされる。『月渓水仙』と銘された月刃が放つ月光煌星砲が、容赦なくベアゼリィ達のど真ん中を撃ち抜く。
 続いて、愛槍を構えるジェイナスが一気に肉薄。見た目はさて置き、17歳の少年に肌も露なピュアリィは目に毒――。
「キャァッ!」
 どころか、手負いを襲うミラージュランスは遠慮の欠片もなかった。一重に、弟をオトコと思わぬ10人もの姉の薫陶の賜物である。
(「あいつら、俺の前でも平然と脱ぎやがったからな……ウルル辺りに知られたら、何言われるか判ったもんじゃないけど」)
 目深に帽子を被り直したくなるのを堪え、ナイトランスを握り直すジェイナス。
「いくら美人でもピュアリィに興味ないよ」
 いっそオトナの余裕で肩を竦めたロイの周囲に邪剣が現れる。レギオスブレイドの乱舞がザクザクと切り裂けば、相次いで悲鳴が上がった。
「なんでイジワルするのー!」
「今です!」
 毛皮を朱に染め、エンドブレイカーを睨むベアゼリィ。だが、今度は怯まず紫煙銃を向けたラピスの援護射撃を受け、飛び出したキドーの拳と蹴打が唸りを上げる。
「痛い目見る前に群れに帰るんだな」
 こいつはもう遅いけど――サウザンドアーツを真っ向から浴び、1体目が崩れ落ちる。
「じゃねぇと、手加減無用で攻撃続行するぜ」
 不敵な言葉に顔を見合わせるベアゼリィ達だが、すぐに淫蕩な笑みを浮かべる。
「おにーさん、もっとイイことしよ?」
 科を作り、妖艶な流し目をくれる2体。一瞬、気が逸れた隙を突き、残り2体が相次いで襲い掛かる。噛みつかんばかりの口付けはキドーに、締め上げ砕かんばかりの抱擁はジェイナスに。
「セクシーアピールなら私のレディも負けませんよ」
 男を篭絡せんとする仕草に、すかさずエンドブレイカーも反撃する。クラビスの合図で妖精が愛らしくベアゼリィの気を引けば、一息に踏み込んだクロロの掃撃棍が多を巻き込んで毛皮に包まれた足を狩る。
「なんだか……なぁ」
 面倒そうに目を眇めるクロロ。一方で、パールは困惑の表情でアイスレイピアを構える。
(「殺してしまったり、致命傷とかにならないように……」)
 内心で気遣うパールだが、その一撃は鋭い。もんどりうった1体を切り裂いた氷刃の冷気は、忽ちその裸体を覆い付くし凍り付かせた。

●甘い香りに誘われて
「ど、どうしよ……」
「ニゲる?」
 仲間の氷像に、流石に動揺するベアゼリィ達。
「でも、ハチミツが……」
 だが、1番食い気がありそうな最年少の呟きに、ハッと2体の目の色が変わる。彼女らの肌は寒気に晒され乾いている。蜂蜜がベアゼリィの死活問題なら尚の事、周辺に漂う甘い香りは誘惑そのものだ。
「仕方ありませんわね……」
 改めて身構えたベアゼリィ達の様子に溜息を吐き、ウルルはムーンブレイドを一閃する。
「空腹は辛いでしょうけれど、他所様の生活を壊していい理由にはならないと思いますわ」
 連続して割いた空間より迸る月の魔力が、次々と裸体を打つ。
「去るもの追わず、なんだけどね」
 月の祝福を受けたロイの長身が黄金を纏う。仕込み杖が叩いた地面に治癒の呪紋が描かれ、ジェイナスとキドーに気力を注いだ。
「さんきゅ」
 グッドタイミングの回復に、笑み零れるジェイナス。構え直そうとしたナイトランスを更に引き寄せ、ミラージュランスを敢行する。残像伴う突撃に堪え切れず、3体目が膝を折った。
「なるほど……勉強になります」
 ベアゼリィも後2体――ギアスを被ったキドーの爪が、幻惑めいた動きで閃く。その一撃は的確によりダメージ深い方を抉り、ラピスは感心したように頷いた。集中攻撃で確実に数を減らす作戦はオーソドックスであるが、経験浅い少年にとって実戦は大いなる学びの場だ。
「さっさと倒れとけ」
 ラピスからバレットレインを浴びせられながらも、尚も誘惑の仕草を止めぬベアゼリィ達に、叩き込まれるクロロの棍『侘助』は容赦なく。堪え切れず4体目が昏倒すれば、クラビスの妖精に抱きつかれた最後の1体は、パールの血潮より湧き出でた猟犬の軍団になす術なく蹂躙されたのだった。

「手荒な事して、ごめんね」
 丸太小屋に殆ど近付けぬまま、あっという間にのされたベアゼリィ達に、ラピスは小さく謝罪した。やむを得ず殴り倒す事になってしまったが、その事を謝るのは大事なように思えたから。
「でも、欲しい物を無理矢理奪うのは駄目だよ」
 そうして、すっかり大人しくなった熊娘達に簡単な応急処置を施し、言い聞かせる。
「ま、この辺に近付かねぇようにな」
「もしこのまま騒ぎが大きくなったら……本格的に討伐部隊とかが来て、大変な事になっちゃうかも、だよ……?」
 一言言い置いてさっさと丸太小屋へ向かうクロロに続き、パールは優しく言い含める。
「だな、こっち来ても強い人間がいるだけだし」
 ジェイナスの言葉に震え上がるベアゼリィ達。その点はしっかりと実感したようだ。
「これやるから、大人しく森へ帰りな……次はないぞ」
 すかさず蜂蜜の大瓶を差し出すロイ。飴と鞭の使い分けに抜かりはなく、邪剣をちらつかせるのも忘れない。
「これに懲りたら、森の群れに戻る事に専念して下さいな。人里には行かない事! 約束出来るなら、毛布をあげても良くってよ」
 尤も、早速蜂蜜を身体に塗り始めたベアゼリィ達は毛布に興味は示さなかったけれど。元々、森に暮らす彼女らには必要ないのだろう。
「もし人里で会ったら……そうね、熊鍋って美味しいのかしらね〜?」
「!!」
 だが、ダメ押しの脅し文句は覿面。慌てて蜂蜜瓶を抱え、こけつまろびつ森の奥へと逃げていくベアゼリィ達を見送り、キドーは苦笑を浮かべる。
「相変わらずきっついなぁ、ウルルちゃん」
「あら、食文化の発展には様々な挑戦があってこそなのよ、ナマコ然り」
 澄まし顔の小柄な少女は、大きく胸を張って言い返した。

●一仕事の後は
「お疲れ様でした」
 クラビスは、穏やかな笑みを浮かべていた。仲間がベアゼリィを言い含めている間に、一足先に夫婦に事情を報告していたようだ。
「ベアゼリィはこの小屋を狙っていたんですね……皆さんのお陰で助かりました」
「どうぞこちらに。せめてものお礼です。温まってお帰り下さい」
 感謝を口々に、夫婦はエンドブレイカー達を差し招く。暖炉の前では、既にクロロがグラスを傾けていた。
「いい匂いがするね」
「ああ、こいつはかなり甘いケドな」
 クロロの一杯は、杏酒のお湯割りに蜂蜜がたっぷりと。兎に角甘いのがイイ激甘党の一杯なので、通常なら蜂蜜は風味付けに垂らす程度で良さそうだ。
「けど、後味はすっきりしてる方が好きかな。無難に柑橘類とかイインじゃね?」
 という訳で、2杯目はホットレモネードにジンを加えて。クロロの至福の表情に、大人達も次々と暖炉の前へ。
「オレはもう少し甘くなくてもいいかな」
 ロイのリクエストに頷き、ヤフは「折角ですから」とバーテンダーの手技を披露する。マグカップを2つ用意して、ブランデーのお湯割りに蜂蜜を注ぐ。徐に酒盃に火を点けると両手に持ったマグカップに交互に移し替えて見せた。
「わぁ……」
 炎が勢い良く流れ移る光景に目を輝かせ、早速スケッチブックを開くパール。思い出は少しでも多く残していきたいから――色鉛筆を探る少女のテーブルに、奥さんのアイナがカルダモンパウダーを振り入れたホットミルクを乗せる。
「ブルーブレーザー、だっけ?」
「元ネタは。個人的にですが、ウイスキーと砂糖より、こちらの方が美味しいと思っています」
 確かにパフォーマンスも味わいも愉しいが、流石に家で簡単に楽しめるとは言い難いか。それで、色々と試飲しつつ、お手軽なカクテルレシピを教えて貰うロイ。酒に強いと、こんな時便利だ。
「そういや、クラビス君は飲める方なん?」
「人並みに、でしょうか。酒場の雰囲気は好きですよ」
 ホットミードを受け取りながらキドーが尋ねれば、クラビスはにこやかに目を細める。手にしているカクテルは、ホットバタードラム……のバター抜き。角砂糖の代わりに蜂蜜を垂らし、マドラー代わりにシナモンスティックを使っているので、優しい甘さとスパイスの風味が楽しいとか。
「カクテルって、自分じゃあんま作らねぇんだよな〜。グリューワインとか好きなんだが、蜂蜜酒も甘くていいな」
 レモンの砂糖漬けを加えてもう一杯。夫婦とカクテルに合う肴談義をしながら、エルフの青年と酒を酌み交わすキドー。
「キドーお兄さま、お酒って一体どんな感じなんですの?」
「そだな〜。何が良いかって改めて問われっと……難しいな。勿論、味も重要だけど、酔っ払うのが好きなんだ」
 心置きなくカクテルを愉しむキドーを横目に、ウルルは羨ましそうな溜息1つ。
「ああっ、早く大人になりたいわ!」
「ま、オトナになったら解るわ。そん時ゃ、ウルルちゃんも一緒に飲もうな」
「今回は、ノンアルコールでお作りしますよ。何が宜しいですか?」
「じゃあ、甘くて後味すっきり、なんてものはないかしら」
「澄まし顔で言ってるけど、こいつ16歳だからな」
 大人びた言葉尻を捉え、混ぜっ返すジェイナス。
「あら……ごめんなさいね、もっと小さい方かと」
 ビックリ眼のアイナに、少年はこれ見よがしに肩を竦める。
「後味すっきりとか、ませてるように見えても16歳じゃ普通の意見だろ」
「この人だって、この前17になったばかりなんですのよ。見かけによらず」
「だから、酒は飲んでないだろ」
 ウルルも負けてないが、ジェイナスのカップの中身は確かに柚子蜂蜜のお湯割りだ。
「俺は疲れが取れ易いのが欲しいな。これにジンジャーとか入れてみたらどうだろ?」
「おじさんみたいですわね」
「大きな世話だ、誰かのお陰で気苦労が絶えないんだよ」
 旅団が一緒という2人の盛大なじゃれ合いに、ラピスも思わずクスクス。生姜の絞り汁と蜂蜜を垂らしたホットミルクを飲めば、体の芯からほっこり温まる。仕事の後の一杯は格別と実感する。
「僕、お料理は出来ないけど……食べたり、飲んだりするのは好きです」
 後学の為にと、ヤフからカクテルの逸話を聞き入るラピス。アイナ特製の蜂蜜キャンディの甘さが、心地好く身体に染み渡った。



マスター:柊透胡 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2013/02/04
  • 得票数:
  • ハートフル5 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
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