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【緑の塔主】戦火への誘い

これまでの話

<オープニング>

●深緑の主
「騒がしいな……客人、か……?」
 エンドブレイカー達の前で、巨木が大きく身を揺らす。
 否、それは巨木というよりはそれと一体化した、毛の長い猿のような姿のアサルトバグであった。
 あのアサルトバグこそ、この地に言い伝えられし伝説の存在――長老。
 緑の塔主がここを訪れた理由であり、沢山のお土産を持って会いに来た相手。
(「あれが、長老……!!」)
 その神秘的であり、禍々しくもある姿を見て、ポーシャは静かにその姿を見据えた。
「あのね、長老……お願いの内容を、変えに来たんだ」
「うむ、聞こう。どうした?」
 塔主はチラリとエンドブレイカー達の方向を見てから、おもむろに口を開く。
「今ね、緑の塔の領地以外にバグ達が迷い込んじゃって困ってるの。なんでか分かんないけど、勝手に出てって、迷子になっちゃってるみたい。それでバグ達にも、他の塔のトコに住んでる人達にもすごく、被害が出てるんだ」
「…………」
「バグ達が酷い殺され方することもあるし、その逆で、バグ達が人達に被害を出すこともあるんだ。だからね、しばらくの間だけで良いんだ。バグ達が間違って他の塔の領地に行かないように、みんなをこの森に置いといて欲しいんだけど……」
 リンガ達が守護アサルトバグを説得しようとした時に言った言葉を覚えていたのだろう。
 守護アサルトバグが混乱しないように、塔主は似た言い回しで長老に訴えかけた。
 塔主が考えた内容では無いにしろ、これらは全て事実である。嘘は、付いていない。
「何故だ?」
 しかし、長老は不思議そうに首を傾げてしまった。
「……え?」
「何故、我々が他の塔に遠慮せねばならぬ? バグ達が殺されるのは困るが、他の塔の領地の住民がどうなろうと、知らぬ」
 ああ、と塔主は声を漏らした。この深緑の主は、マギラントの後継者が決まったことを知らないのだと気付いたのである。
「銀の塔主……えっと、マギラント様の後継者に、直接頼まれたんだ。だから、言う事を聞かなきゃ、ダメなんだよ?」
 分かった? という塔主の言葉に、長老は再び首を傾げてみせた。
 ――ただならぬ程に嫌な予感が、エンドブレイカー達を支配していった。

●戦火への誘い
「ワシの見るところ、マギラントの後継者はおぬししかおらぬ。そのおぬしが、従者兵器を引いてしまえば、マギラントは、見えざる敵に敗北してしまうだろう」
 長老の口から紡がれたのは、誰もが恐れていた言葉であった。
 銀の塔主に対する、否定的な言葉。従者兵器を引くなという、隠された命令。
 この反応は予想していなかったのか、塔主は「え……」と驚愕の声を漏らす。
「でもねぇ、ルールで決まっちゃった事だし……」
(「よく言ったぞ……信じておるぞ、塔主よ……!」)
 エンドブレイカー側が今、下手に口を出すわけにはいかない。
 ガナッシュは祈るような気持ちで、二人のやり取りを見守っていた。
「そのルールとはなんぞや」
「え? その、えっと……」
 それでも、やはり納得がいかないらしい長老は、決して引かなかった。
「『勇者様に最も多く選ばれ、かつ生還率の高かった従者兵器を所有する塔主』というルールだよ」
「それを決めたのは誰だ?」
 ごくり、とルーンが息を飲む。明らかに、長老には引く気はない。
(「このままでは、いつ塔主が言い負かされてしまうか分かりません……!」)
「マギラント様の予言を踏まえてみんなで決めたんだよ」
「決めたのは皆なのだな。では、それを最初に言い出したのは誰だ?」
「えっと、銀の塔主……だよね。こういう難しいルールを言い出すのは、たいていそうだけど」
 そうだよね、と塔主はコンヴァラリアに確認する。
「間違いないな」
 コンヴァラリアは動揺が微かに見える表情で頷いた。長老は、まだ折れない。
「そのルールで勝利したのは誰だ?」
「それは、銀の塔主だけど……」
 嫌な予感がした――長老はどこか、勝ち誇った様子で塔主に問い掛ける。
「では、銀の塔主は、自分の提案したルールを使って、自分で勝利したわけだな」
(「駄目……!!」)
 それは、明らかな決定打だった。シュナイエンは慌てて塔主の顔色を伺った。
 幼い少女が、ここまで言われたのだ。もう、彼女の賢明な判断には期待できない。
「……? えーと、そうなるかな。そうだよね、そうなんだ!」
 ――恐れは、現実となってエンドブレイカー達に降りかかる。
 大事なことを忘れていた、と言わんばかりに塔主は長老を真剣な眼差しで見つめていた。
「塔主……!」
 ガナッシュが、嘘じゃろう? と声を漏らす。
 塔主に、その声は届かない。そして、長老は止まらなかった。
「ならば、すべきことは一つ。森のアサルトバグを集めて、討ってでるのだ。マギラントの後継者は緑の塔以外ありえないのだから!」
『オオオォオオオオォオオ――ッ!!!』
 長老の言葉に、宴会で盛り上がっていたアサルトバグ達は耳を覆いたくなる程の大歓声を上げた。
 楽しい宴会の陽気は、一瞬で戦への士気へと変わる。
 ざわざわ、と森の木々が揺れたような気がした。
「クックベリーよ、心配するでない。我々は、あるべき形で、あるべき使命を果たすまでなのだから」
 あるべき形で、あるべき使命を果たす――要は、戦いで後継者の地位を勝ち取る、という意味。
「嘘だろ……!? おい、それで良いのかよ!? 考え直せ!!」
 思わず、リンガは塔主に向かって声を荒らげたが、完全に長老の話に耳を傾けている彼女に、その言葉は届かなかった。
「今こそ、その姿を皆に見せる時だ。前に出なさい」
 長老の後ろから、やや大きなアサルトバグ達が姿を現す――その身に纏うは、光り輝く毛。
「彼らは伝説のアサルトバグである光のアサルトバグである。最強の彼らがいる限り、我々は必ず勝利するであろう」
『オオオォオオオオォオオオオオォ――ッ!!!』
 再び、大歓声が巻き起こる。アサルトバグ達の士気は、完全に高められていた。

「ど……どうしましょう……!?」
 シェリーは、目の前のメイガスを見上げ、声を震わせた。
「わかんない……これ、どう収集したらいいんだろう……!?」
 メイガスのコックピット越しに、シルフィーは一気に騒がしくなった森を見渡した。
 少し高い位置から彼女が見つめる森は、どうしようもなく盛り上がっていて。
 これだけの数のアサルトバグ達が、さらにあの伝説のアサルトバグ達が、銀の塔に攻め込んでしまったら――。
 奥歯を噛み締め、シェリーは仲間達を見回す。シルフィーもメイガスから顔を出し、大歓声に負けぬよう、叫んだ。
「このままでは、全面戦争は避けられません……! 何とか、何とか止めなければ……!!」
「そんなの、絶対に駄目! 私達が、絶対に止めなきゃ!!」


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参加者
空駆けるペンキ屋・ポーシャ(c01607)
阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)
マスター番長・ガナッシュ(c02203)
明るく楽しく元気娘・シルフィー(c08233)
月紅の雪彪・シュナイエン(c15238)
歩み続けるもの・リンガ(c16123)
春告げの魔女・シェリー(c22845)
群青渡る白翼の鷹・コンヴァラリア(c22980)

<リプレイ>

 森は、壮絶なまでの熱狂に包まれている。

 その様子を眺めていたエンドブレイカー達は静かに、その手を強く握り締めた。
 今、自分達に出来る事は、自分達がすべき事は、たった一つ。
 彼らは静かに顔を見合わせ、お互いの意志を確認し合った。
「……」
 大丈夫、皆の心は一つ。
 八人はおもむろに頷きアサルトバグ達を、緑の塔主を、そして長老を見据えた。

●真に望むもの
「待って下さいっ!!」
 出せる限りの声を振り絞り、空駆けるペンキ屋・ポーシャ(c01607)が叫ぶ。その声のあまりの大きさに、辺りはしんと静まり返った。
「『勇者と共に、この封印の地の攻略を果たしたものこそ、我が後継者となるだろう』という勇者マギラントの言葉、長老はそもそも知ってますか?」
「……?」
 ポーシャの問いに、長老は何のことだと首を傾げている。すかさず、「えっとね」と緑の塔主が説明を始めた。
「あのね、マギラント様が旅立つ前、言い残した言葉なんだ! でね、あそこにいる八人こそ、勇者様なの! あ、正しくは大勢いる勇者様の末裔の中の八人、かな? それで、あの人たちは、ボクがここまで来るお手伝いを……あ、あれ……」
 ――塔主は、ふと思い返した。そもそも、何故自分はここに来たのだろうか、と。
「ほう……つまりは、この地を訪れている勇者一行の中の八人、ということなのだな。それで、彼らが銀の塔を贔屓したと」
「違うよッ! 話を聞いて!!」
 塔主が再び飲まれてしまう前に、明るく楽しく元気娘・シルフィー(c08233)は声を張り上げ、塔主の元へと駆け寄った。
「『勇者様に最も多く選ばれ、かつ生還率の高かった従者兵器を所有する塔主』というルール……確かに、従者兵器の選択は私達だった」
 シルフィーの言葉に、塔主は静かに頷く。シルフィーはさらに、話を続けた。
「銀の塔主がルールを出したけど、最終的に従者兵器を選んだのは私達勇者。バグ達を信頼して、選んでくれた人も沢山いたでしょ? 銀の塔は関係ないよ」
 迷宮を攻略する為に、力を貸して欲しい。それは三人の塔主達が、勇者達に向けて告げた言葉。
 確かに、一番多くの勇者を集めたのは銀の塔であった。それでも、緑の塔が蔑ろにされた訳ではない――緑の塔にも、大勢の勇者が来てくれたのだ。
「そうだったよね、塔主様……いや、クックベリーちゃん?」
「あ……」
 シルフィーの問いに、塔主――クックベリーは、小さく声を漏らす。
「長老」
 その様子を横目で見つつ、阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)は長老に向き直った。
「そろそろ少し、解説が必要でしょう……私でよろしければ、説明致します」
 長老が静かに頷くのを見て、ルーンはポーシャが隣に並ぶのを確認しつつ、口を開いた。
「どうやら、勇者マギラントの残した言葉、『この地の攻略』を三人の塔主はかつて勇者達が見えざる敵を封じ込めた、迷宮の攻略であると考えられたようなのです。それで、彼女達は勇者である自分達に依頼してきました。その時の我々に協力してくれた存在、それが従者兵器達です」
「つまり、お主らには三塔のどこから依頼を受け、従者兵器を受け取るか……といった選択肢が与えられ、銀の塔を選んだということなのだろう? つまりあれか、イカサマか?」
 長老から、殺気らしいものを感じ取れる――それでも、ルーンは折れなかった。
「いまここに交渉に来ているものの多くはアサルトバグと共に封印迷宮に挑んだ者であって、銀の塔主からイカサマを頼まれたなどありえません」
「そうよね?」
 クックベリーの傍に近寄りつつ、月紅の雪彪・シュナイエン(c15238)は彼女に問い掛けた。クックベリーは、静かに頷く。
「うん。ちゃんと居たんだよ、緑の塔を応援してくれた勇者様も。みんな、アサルトバグと、仲良く迷宮に行ってくれたんだよ……!」
 春告げの魔女・シェリー(c22845)も、クックベリーの近くに駆け寄った。
「塔主さん。「他の塔の領民などどうなっても良い」等言われて納得されてましたが、そんなことはありません。マギラントの事を……マギラントの地に住む全ての人のことを考えるのが、統治者として必要なことじゃないでしょうか」
「……」
 クックベリーを諭すように、シェリーは優しく語り掛ける。信じやすい、ということは、それだけ純粋な心の持ち主なのだから、と……。
「もし真に塔主さんがマギラントを統治するに相応しい塔主だと言うのなら、緑の塔だけじゃなく全ての民のことを考えなければいけません」
 違いますか? とシェリーが問いかけると、クックベリーははっきりと、首を横に振ってみせた。
「それに、戦争になれば、アサルトバグさんたちも傷付いてしまいます。アサルトバグさんたちの命を守るためにも、今回こうして長老にお願いに来たんですから、それだと何も変わりません。可愛い子たちに血を流させるのは、塔主さんも悲しい……ですよね?」
「うん……悲しいよ、そんなの、いやなんだよ……」
 クックベリーの眉尻が少しずつ下がっていく。シェリーとシュナイエン、そしてシルフィーは、そんな彼女の顔色を伺いつつ、悟すように訴えかける。
「なら、あなたの決断で、アサルトバグさんを死なせるようなことはしないでください」
「本来の目的は、アサルトバグ達の命を守る為の行動だった筈よ。忘れては駄目」
「他の人達を排除して後継者になろうとするのはマギラント様達だって望んでないはず。銀の塔が同じ事をしても私達は全力で止めるよ……私達もここが平和であって欲しいから」
「……ッ」
 一体、自分はどちらを信じたら良いのか。
 辺りを見渡し始めたクックベリーの視線の先に、マスター番長・ガナッシュ(c02203)の姿が入った。
「あるべき形で、あるべき使命を果たすと言ったが、ならば何故今じゃ、やろうと思えばもっと前にも出来た筈じゃろ?」
 ガナッシュは、長老に質問を投げ掛けている最中であった。しかし、長老は何も答えない。彼女はそれでも、質問を続ける。
「銀の塔と戦ったとして、それでもし後継者の地位を勝ち取った場合、更には勇者の協力が得られたと仮定して見えざる敵も倒したその後は、このマギラントを一体どうする気じゃ? まだ他塔の住人や従者兵器達もおるじゃろうし」
 長老の反応を待っていたガナッシュであったが、ふと、自分を不安げに見つめているクックベリーの存在に気付いた。微かに震えているのが、この位置からも良く分かる。
 そんな彼女に大丈夫じゃ、と笑ってみせた後、ガナッシュはクックベリーの方を真っ直ぐに見つめ直した。
「わしは、何が何でもお主の味方じゃ。お主の考えに関しては、否定しようとは思わん。ただ、本当にそれが……戦争が正しい事なのか? お主は、それを望むのか?」
 ガナッシュの黒い瞳が、クックベリーの視線と交差する。それに、とガナッシュはどこか寂しそうに呟いた。
「戦争になったら銀の塔主、本当に死ぬかもしれんのう……、お主ホントに良いのか?」
「え……」
 天真爛漫なクックベリーとは対照的に、いつも無愛想な銀の塔主。それでも、そんな彼女でも、アサルトバグ達の事を全く考えていないわけではなかったのだ。
『何も、閉じ込めろとは言っていません。可哀想なのは同意します、彼らも、生きているのですから』
 あの時、彼女は確かにこう言った――彼女は、アサルトバグの事を思ってくれていた。他塔の事を、蔑ろになどしなかった。
 そんな彼女を、戦争という形で蹴落として良いのだろうか。そんな彼女を、簡単に死なせてしまっても良いのだろうか。
「やだ、やだ……やだよ! そんなの、絶対にいやなんだよ!!」
 まるで駄々っ子のように頭を振り、クックベリーは力強い瞳で長老を見据え、叫んだ。
「戦争なんてやめてよ!! ボクは……ボクは、そんなの……ッ! 絶対に許さないんだよッ!!」

●真の後継者
 森に響き渡ったのは、他でもない緑の塔主の、クックベリーの平和を願う叫び。
 戦争を拒む彼女の、長老の意見に対する拒絶の意志。
「なんと……」
 長老は驚きを隠せていなかった。そんな彼の前に、群青渡る白翼の鷹・コンヴァラリア(c22980)が立つ。その手の中には、皆で持ってきた土産物の数々もあった。
「焦る気持ちは分かるが……」
 コンヴァラリアはそう前置きした後、長老に鋭い眼差しを向け、口を開いた。
「銀に対する不当な憶測で公式宣言を撤回させ、後継者ならば当然統治する以上護り、尊重すべきマギラント三塔の民の命を著しく脅かす武力行使で簒奪を謀る長老の行為は、大きく緑の塔の信用を失墜させ後継者に相応しい事の証明を一番邪魔しているのではないか?」
 言葉を無くす長老を見たポーシャは、コンヴァラリアの言葉を引き継いで話し始めた。
「戦いで後継者の地位を勝ち取るなんてのは勇者マギラントの言葉をそもそも無視する行為であり、それをするとマギラントの誰からも後継者として否定される結果を招くだけに過ぎないです」
「……」
 それらは正当であり、否定の仕様がない言葉――しばしの沈黙の後、長老は再びエンドブレイカー達に問いかける。
「……では、お主らが『勇者』を名乗る由来はなんだ? 出任せでないのだとすれば、何か、理由があるのだろう?」
 勇者が乗っていた船、終焉に抗う勇士号を手に入れたから? 三塔主が提示してきた試練を突破したから? ――否、ここで答えるべきことは、そんなことではない。
「それは……」
 状況を見守っていた歩み続けるもの・リンガ(c16123)が、長老に語りかける。
「見えざる敵を本当の意味で葬る事が出来るのは、俺達勇者……エンドブレイカーとしての力を持つ者だけだからだ」
 エンドブレイカー。聞き慣れない言葉に長老、そしてクックベリーは不思議そうに八人を見た。
「マギラントの者が勇者と呼ぶ我々エンドブレイカーだけが見えざる敵を滅ぼせるのです」
 自分達の存在は、能力は、誰しもに簡単に理解されるようなものではない。ルーンは言葉を選びながら、長老達に説明し始めた。
「見えざる敵……我々はそれらをマスカレイド、と呼んでいます。あれは我々以外が倒しても、大本は滅せず、後に見えざる敵が再び現れます」
 思い当たる節があったのか、クックベリーは「もしかして」と小さく呟いた。
「マギラント様達には、エンドブレイカーの力が無かったんだね? だから、封印したの……?」
 正解ですよ、とポーシャはそんな彼女に微笑みかける。そして、エルフへイムの土産を手にしたルーンと共に長老への話を続けた。
「見えざる敵が倒されずに封印されるに留まったのは勇者でなくては倒せないからです。暴力による戦いで後継者の地位を掴み取っても、絶対に見えざる敵に勝つことは出来ません」
「このお土産の産地のエルフヘイムという都市国家でも、見えざる敵を滅ぼすことが出来なかったためにきびしい戒律を架し、体内に封印を行っていたのです」
 体内に、見えざる敵を封印した。その言葉にざわつき始めた長老達の事等、ルーンは気にしなかった。
「封印迷宮で一緒に戦ったアサルトバグ達にあえて「とどめを刺さないでくれ」とお願いしています。勇者以外でも滅ぼせるなら、わざわざ戦闘に制限をつける面倒なことはしません」
「……」
 長老は静かに、話を聞き続けている。指摘の瞬間を狙っているのかもしれないが、そんな事はどうでも良かった。
(「ここで戦争を起こせば、今までと同じ、マスカレイド共の望む展開だ。長老や塔主をマスカレイドに落とさないためにも、マギラントのためにも。ここは退けねぇ、しくじれねぇ」)
 リンガは拳を強く握り締めながら、かつての都市国家で起きた事を思い返す。自分達が今置かれている状況の重大さを、忘れぬ為に。
「見えざる敵は、マスカレイドは。戦争が起きることを狙って暗躍している。その時こそが、あいつらの最も勢力を拡大させられる土壌だからだ。俺達は幾つもの都市国家でそれを見てきた」
「何だと……? それでは、お主らは、我らが、見えざる敵の手の上で踊らされていると、そう言いたいのか!?」
「すみません……言い方は悪いですが、その考え方で間違いないでしょう」
 再び怒りを顕にした長老に対し、ご存知ないかもしれませんが、とポーシャは冷静に話を切り出した。
「今、また新たに見えざる敵がマギラントに現れています。今騒乱を起こしては敵の思う壺です」
 少し混乱してきたらしいクックベリーにも分かりやすいようにと、シルフィーは分かり易い言葉を選びながら話し始める。
「実は名産品集めで回った都市、全部見えざる敵に襲われてた所なんだ。私達が何とか止めたけれど……彼らは人の悪い感情に入り込んで支配するの」
 彼女の言葉は、長老にも確かに響いていた。シルフィーはもう一度、クックベリーに訴えかける。
「戦いや支配で悪い感情を増やすのは全部彼らの大好物。彼らに対抗する為にも、戦争なんて絶対ダメ!」
「うん、大丈夫なんだよ。勇者様が言いたいことも、ボクが言うべきことも……ちゃんと、わかってるんだよ」
 クックベリーの意志は、もう揺らがなかった。
「……。ねえ、長老。マギラント様だって、そんなこと望んでないと思うんだ……」
 だって、マギラント様はこの地を守る為に戦ったんだよ? と彼女は困ったように笑ってみせる。それに対し、長老は僅かな困惑を隠せない様子であった。
「塔主の良さは「生きている」者達を思い、命令でなく対価を払い「お願い」する事で相手の意思を尊重する生命への尊敬と愛情、そして生きる事を楽しみ分かち合う姿勢だと私は思う……それに、これはバグ達も判っている筈」
 コンヴァラリアは土産物を掲げながら長老に、他のアサルトバグ達に、そしてクックベリーに訴えかける。先程、クックベリーが守護アサルトバグとの戦いを終わらせた時のように。
「奪って得るは僅かだが、護れば未来の実りも絆も得れる。塔主もバグ達も率先し他塔の塔主や民を尊重し護れば良い。彼女達は貴方達を安心して後継者と受け入れ、沢山の笑顔や幸せや実りを共に分かち合うだろう!」
「え? え? ちょっと待って!」
 コンヴァラリアは、まるでクックベリーに未だ後継者の素質があるかのように表現してみせた。混乱するクックベリーに、彼女は表情を和らげてみせた。
「言いそびれてしまったが、大事な話だ。ほら、マギラントの言葉を思い出せ。後継者は一名のみとは何処にも無い……これは、三塔全ての塔主が後継者でも問題ないということだ」
「あ……!」
 くすり、とシュナイエンは赤い瞳を細め、穏やかな表情で笑う。
「三人で仲良く後継者っていう選択肢だってあるのよ? それを、他の塔主さんが受け入れるっていう保証は無いけれど……可能性が無いわけではないの」
 クックベリーが後継者になれるかもしれない。その事実に、アサルトバグ達が再びざわめき始める。それを沈め、リンガは叫んだ。
「さっきも言ったように、戦争を起こせば奴らの勢力を増大させ、思う壺にはまってしまう。最後には互いに滅ぼしあってマスカレイドの一人勝ちになってしまう! あくまで、一時的にそういった影響からアサルトバグを護り、奴らに対抗するためにも、矛を収め、森に集結して待っていて欲しい! これが、俺達の主張だ!!」
 しん、と辺りが静まり返った。皆が、長老の言葉を待っているのだ。
 彼を待つ為に流れた時間。それは刹那であったかもしれないし、かなりの時間であったかもしれない。
 長老は、深く考えた後――静かに、おもむろに口を開いた。
「お主らの話は分かった……良かろう」
 胸の前で手を組み、シェリーは驚きと喜びに笑みを零した。
「それなら……!」
「……。だが」
 長老の前に、彼の前に五体の光り輝くアサルトバグ達が並ぶ。
「勇者が正しいというならば、力を示せ」
 長老が、光のアサルトバグ達が、決闘を持ち掛けてきたのだ。
 歓喜の声を上げかけたエンドブレイカー達の表情が、一気に強ばる。
「決闘で勝った方が正しい。否、この決闘は、正しい方が勝つ」
 自分達は、試されているのだ。
 ならば、ここで負ける訳にはいかない――月の如く美しい刃を持った闘月を光のアサルトバグに突きつけ、リンガは再び叫んだ。
「正しい方が勝つというなら、俺達が勝ってみせる! それで、良いんだろう!?」
「そうだ。では、見せてみろ。お主達の力を!」
 長老が声を張り上げ、光のアサルトバグ達がエンドブレイカー達に襲い掛かる。
「皆、来るわよ!」
 クックベリーを後ろに下がらせながら、シュナイエンは腕に抱いた風響樹の弦に指を伸ばした。

●正しさの証明
 土煙の中に血の赤と、光のアサルトバグの体から散った輝きが舞い散る。
 鈍い打撃音が、矢が風を切る音が、麗しい音色が響く。森の木々は、ただただざわめいていた。
「く……っ」
 確かに、光のアサルトバグ達の能力は、通常のアサルトバグと比較すれば明らかに上。その力に若干ではあったが、苦戦はした。
 ――それでも。
「そろそろ、決めさせて頂きます!」
 地を蹴り、颯爽と駆け出したシェリーの足元には、ぐったりと地面に転がる四体の光のアサルトバグ。
 それに対し、エンドブレイカー達は多少の怪我こそ負っていたが、それでも、誰一人欠ける事なくそこに在り続けた。もはや、勝敗は明らかである。
「……」
 長老もクックベリーも、何も言わずに彼らの姿を見続けていた。これが正義であり、勇者と称えられし者達の力なのか、と……。
「行きますよ!!」
 棍を握り締めた手に、今一度強く力を込める。シェリーは足に力を込め、眼前で大きく棍を回転させた。
「ギッ!」
 描かれた弧に巻き込まれたバグは小さく鳴き、ゴロンゴロンと無抵抗に転がっていった――エンドブレイカー達が、勇者達が勝ったのだ。

「……。理由はわからないが、今は、動かない事が正しいようだ」
 どこか気が抜けたような様子で、倒れた光のアサルトバグ達を眺めながら、長老は息を付くように呟いた。
「良かった。分かってくれたみたいだな……」
「だが動かないのは『今』だけだ」
「なっ!?」
 強ばった表情を崩したリンガに対し、長老はハッキリとそう言い放つ。だが、彼の表情はもう、敵意や殺意等からはかけ離れたものとなっていた。
「アサルトバグの力が必要ならば、いつでも、声をかけるのだぞ」
 その時は必ず、お主らの力になってみせよう。
 長老の言葉に、クックベリーは嬉しそうに笑ってみせた。
 彼らに、エンドブレイカー達が必死に伝えようとした思いは、しっかりと届いていたのだ。
「ありがとうなんだよ、長老……」
 安堵と喜びから生まれた笑みを崩さぬまま、クックベリーは静かにそう言った。

●帰路
 エンドブレイカー達は少しだけその場に留まり、軽く話をしていた。先程は長老抜きで楽しんでしまったのだから、この方が良いだろう。
 少し気になっていた事があるのだけれど、とシュナイエンは長老に話し掛けた。
「長老。マギラントがカーニバルだった頃の話を聞いても良いかしら?」
「この土地は先祖代々、我々の森であり、カーニバルなどでは無い」
「あ、あら、そう……」
 何やら、自信ありげに断言されてしまった。ただ、よく考えてみれば、もう何百年もの月日が流れているのである。彼らからしてみれば、その結論が導かれるのだろう。
 しかも、『先祖代々』と言っている辺り、長老も代替わりしているという事が推測できた。
「……そうだわ。ねえ、守護アサルトバグさん」
 これ以上カーニバルの話をしても興味すら持って貰えないような気がする。シュナイエンは身に付けていた青いリボンを外し、守護アサルトバグに差し出した。
「これをどこかに処分して欲しいの」
 それは、迷宮で散ったアサルトバグに巻いていたリボンだった。不思議そうに首を傾げている守護アサルトバグの傍に、クックベリーが寄る。
「お願いなんだよ。どこかに埋めといてくれれば良いから。そうだね、出来るだけ良いところに埋めてあげて」
 守護アサルトバグはよく分かっていない様子であったが、クックベリー直々のお願いである。
「埋メル、分カッタ」
 シュナイエンからリボンを受け取り、彼は青々と茂る木々の中へと入っていった。

「さて、と……そろそろ帰ろっか? 銀の塔主、怒ってたらやだし……」
 それから、さらにしばらくの間のんびりとした後、クックベリーが思い出したように呟く。そうだな、とリンガが応えた。
「長老、世話になったな」
「……達者でな」
 警戒心も敵対心も無くなった長老の表情は、どこか優しげで、穏やかなものであった。
(「エンディングは、特に見えませんね……」)
 そんな長老の瞳を覗きつつ、ルーンはこっそりと安堵した。その間にも、仲間達とクックベリーは帰路に付いている。
「何やってるんだろ……?」
 不思議そうに首を傾げていたクックベリーであったが、しびれを切らしたらしい。思いっきり息を吸い込み、彼女は叫んだ。
「ほら! ルーンおじさん! 早く早くッ!!」
 花が開いたような、可愛らしい笑顔でクックベリーが叫ぶ。
 『おじさん』と言われたルーンは、あからさまにショックを受けた様子だった。
「えっ!? お、おじさん……ですか……」
「違うの……?」
「もう良いです……帰りましょうか」
 そんなルーンの様子に、誰もが笑顔になる。何故彼が落ち込んだのかはよく分かっていない様子であったが、クックベリーも楽しそうに笑っていた。
(「……ありがとう、なんだよ。勇者様」)
 失われずに済んだ、この地に生きる命達の平穏。
 森の木々は、悠々と吹く風に流され、爽やかな音を奏で続けていた。



マスター:桜音遥祈 紹介ページ
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いまいち
参加者:8人
作成日:2013/02/08
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