ステータス画面

沈む泥の罠

<オープニング>

 ずぶりずぶりと、もがけばもがくほど、足掻けば足掻いただけ、身体が沈んでいく。
 それはもう逃げることの叶わない、底無しの沼。
 ハンターの視界の先では、同じように這い上がろうと足掻いている仲間が、無情にも石像が振り下ろす石の槌によって沈められていく。
 また一人。彼の仲間が沈められた。
 また一人。
 石像は決められた作業であるかのように、振り下ろしていく。
 そして、彼の上に影が降り注ぐ。
 自由に動かせる首だけで見上げ、悲しそうに笑みを浮かべた彼の瞳に振り振り下ろされる石鎚が映った。
 
 アクエリオ地底湖の水位が下がったことで、大量の遺跡が発見され、多くのトレジャーハンターが挑んでいる。
「そこにお宝があるから行かねばならない。トレジャーハンターって大変だよね。ボクにはそんなガッツはないから尊敬しちゃうよ」
 椅子に座りなおすと、扇の星霊術士・フリュニエ(cn0175)は、広げた扇を揺らした。
 冒険や遺跡に、危険はつきもの。分かってはいるが、事前に命を落とすと分かっている人を放っておくわけにもいかない。
「巻き込まれるのは、お宝を取りに来た兄弟。弟が迂闊にも、罠を作動させてしまったようだね」
 命の危険があっても宝探しに挑むのがトレジャーハンター。なので、ただ説得しただけでは諦めないだろう。彼らを諦めさせるには、先回りして宝を手に入れるしかない。既に目的とする宝がなければ、彼らもこの遺跡から手を引くことだろう。
 遺跡は長い水路が無数に走っており、その流れを辿っていけばいい。ただ、通路の途中には落盤で埋まっている場所が二箇所ほどあり、塞いでいる。小柄な者や、細身の体型なら隙間を通り抜けれるが、それ以外の者は少し時間が掛かるかもしれないが岩をどけたり掘る工夫が必要かもしれない。
 宝のある場所は通路を抜けた先にある大きな空洞、水路は見当たらない代わりに深い泥沼が広がっており、細い足場が縦にはしっている。
 沼は深く踏み込んでしまえば、一人で抜け出すことは出来ない。また、それぞれの足場には大きな石鎚を持った石像が待機しており、足場に重みが掛かると動き出すようだ。
 お宝は、この足場を渡った先で待ち構える一回り大きな騎士像が守っている。
 後は、泥の中に沈んでいる死体が、通り抜けようとする者の足を捕まえて引きずり込もうと狙っている。
「えっと、そういうわけだからお宝は、騎士像を倒した人のものになるかな。どんな宝物になるかは手に入れてからのお楽しみ。ちょっとした、冒険の記念になると思うよ!」
 探索が終わったら、後から来る兄弟にお宝を手に入れたことを伝えるのを忘れないようにとつけたして、フリュニエはエンドブレイカー達を見送った。


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参加者
荒野の山羊使い・セヴェルス(c00064)
猛る烈風・アヤセ(c01136)
阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)
星を探す娘・ナージャ(c02152)
行かずウィドウ・ユーミィ(c03017)
真理の探究者・ルーシー(c03833)
アスルフロイライン・ティスカ(c10332)
武豪ドラドの継承者・ガル(c26044)

<リプレイ>

●泥土の鍾乳洞
 まだ水溜まりや泥土の残る洞窟内は、滑りやすくジメジメとしていた。
 荒野の山羊使い・セヴェルス(c00064)と阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)の掲げた灯りによって、通路が照らしだされる。
「面倒くさい作りだねえ。沼が途中にあるのは最初から、なのかな。偶発的にできたものとは考え辛いしねえ。まあ、さっさと悲劇の種はつぶしてしまおうか」
「そうですね。落盤を考えるとのんびりするわけにはいかないでしょう」
 そんなことを呟きながら、二人は先に立って歩く。
「むむ、宝探しに来る仲良し兄弟さん達が危ないのです!! 一緒にいつまでも夢を追って行って欲しいですよ。絶対、助けるのです」
 猛る烈風・アヤセ(c01136)は、そう自分と魂の半身とも言える双子の弟を、彼らに重ね拳を握った。
「どっちも頑張らなきゃね。浪漫を求める快賊としてはすっごく楽しみだね」
 照明がわりと召喚したバルカンを眺め、星を探す娘・ナージャ(c02152)が笑うと、武豪ドラドの継承者・ガル(c26044)の尻尾が同意するように大きく揺れる。
「また宝探しに挑戦、だよ。今度はお宝をゲットできるように、頑張るよ」
 どちらも気合十分だ。
 一方、アスルフロイライン・ティスカ(c10332)は、臭いを少し気にしているのか、軽く口元から鼻の辺りを押さえながら歩いていた。
「沼かー。沼ってーと湿地とか密林とか連想するけど地下水道、なぁ。お宝以外にも誰かの落し物とか流されてたりしてな」
「普通の沼地なら落ちても笑いが取れて結果オーライなんですけどねぇ、流石に底無しはネ……」
 答えながら、行かずウィドウ・ユーミィ(c03017)が苦笑を浮かべ。
「とりあえず堅実にいきましょう。落盤の状態も実際に目にしないと分かりませんし」
 真理の探究者・ルーシー(c03833)が微笑んだ。
 一同は足元に注意を払いつつ進んでいると、程なくして落盤に塞がれた場所に到着した。
「僕なら通れるね」
 隙間の大きさを確認し、ナージャが潜り込む。ほんの少しだけ、身体のおうとつが窮屈そうだったが問題ない。彼女が通り抜けた後に続き、小柄な女子達は先に向こう側へ抜け、抜けられそうだったが撤去作業の効率を考えて、アヤセとユーミィが残った。
 そして、セヴェルスが大きなシャベルを落盤の土砂に突刺し、ルーンはつるはしを振り上げた。
 通り抜けた向こう側でも撤去作業が始まる。手で持てる岩はそのまま運び、それが叶わない大きなものはガルが骨棍棒を振るうように、破壊していく。
 多少、服は汚れたが両側から作業したのが良かったのだろう。大柄の男性でも通れるだけの広さを確保することが出来た。
 もう一箇所の落盤も、同じように突破し後はお宝を目指すのみ。
 辿っていた水路の流れがだんだんと異物を含み、濁った色へ、泥のようなものへと変わっていった。

●沼地の死者
 開けた空洞に入った瞬間、楽しそうに揺れていたガルの尻尾が真っ直ぐに伸び、警戒を示した。さながら本能的な感というものだろうか、この場に滞ってる嫌な気配を感じ取ったのだろう。
「なんかこう……アクア、沢山呼んで全部水に流したくなるなぁ。特に沼」
 ティスカは淀みきった水を眺め、ぼやく。
 あきらかに異物が流れ込んだと思われる泥土の沼は、当然底も見えるわけもなく。流れが運び込んだと思われる植物が、芽を伸ばし始めていた。
「こういう罠は、つい全てを起動させたくなってしまうのですが……しない方がいいですよね」
 苦笑を浮かべながら、ルーシーは事前に話し合っていた布陣を確認した。
 奥に見えるのは騎士の像。沼に踏み込まず、向こう側に渡れる道は五本。その全てに一体ずつ石像が鎮座している。
「動き出す石像もネタがばれていたらあまり意味が無いですね……」
 ものは試しとばかりに、ルーンは弓をつがえ射った。石像に矢は届いたが、まったく反応も無い。ただの石の石像に当てただけとなったようだ。
「ふむ、動き出さないと破壊できないとは……作動前だと何かしら罠を維持するしかけが存在するのですかね?」
「そうかもしれないですね」
 同じように作動させず壊せないかと思案していたユーミィが、彼女のほうも駄目であったと首を横に振った。
 彼らは真ん中とその隣の通路を選び、半分にパーティーをわけ進むことにした。
 ガルとナージャが、その足を通路におろすと石像が動き出した。
 沼の中から、青白い人型のエネルギーが現れ、石像に乗り移る。そして石像は武器を構え、己の領域に踏み込んできたものを見つめるように振り返った。
「行くよ! 石像だろうと斬ってみせる!」
「先手はとらせません」
 言うが早いか二人が飛び出す。
 ナージャのフレイムソード・KISS OF FIREが炎の軌跡を残し一閃し、アヤセの竜を帯びた蹴りの猛攻が石像に叩き込まれた。
 勢いに押されてか、石像は後ろへと大きく倒れこむ。
 振り切った刃を戻そうとナージャが、強く踏みしめた瞬間、ねっとりとした嫌な感触が彼女の足を掴む。
「!?」
 予期していたとはいえ、気持ちのいいものではない。ましてや年頃の女の子にとっては、トラウマにも成りかねない、そんな冷たくてねっとりとした手を伸ばしてきた死者は、ボロボロになった身体をほんの少し泥中から覗かせ嬉しそうに笑い一気に引きずり込む。
 靴の底が、軽く泥に触れた瞬間横から飛び込んできた血色の猟犬の群れが、死者の腕にくらいつき泥の中へと押し戻す。
「この死者はどういう存在なんだろうね? 宝を隠した者のなれの果てか……」
 手の甲につきたてたナイフをものともせず、セヴェルスが傷ついてない方の手でナージャの身体を支える。
「お宝は二の次」
 自分まで通路に踏み込み引きずり込まれないよう気をつけ、泥と死肉で巨大化させた拳を振り下ろそうとしている死者に向って、ティスカはスノウレイピアの先端を向け振りかざす。
「沼地を雪に変えましょうー!」
 その声に導かれるままに花のように舞った雪が、泥沼ごと死者の腕を凍らせていく。おそらく泥の中に沈んでいる足も凍り付いているであろう。
 これでこの死者は、ほぼ無効化されたも同然。次の攻撃へと四人が向き直ったときだった。ゆっくりと、反対側から忍び寄っていたもう一体の死者が、容赦なくアヤセの両足を掴み一気に引きずり込んだ。
 別の方に注意が向いていたというのもある。アヤセは落ちると理解した瞬間、ブリージングで呼吸を確保できるように身構え、マスタームーブを発動させた。
 こちらの死者は、引きずり込んだことで満足したようで、再び泥の中に姿を消している。
 ティスカはあまり通路に踏み込まないようにしながら、彼女に手を伸ばす。
「お、重い……! 誰か手伝ってー!」
 マスタームーブのおかげで幾分か楽ではあったが、そこはまとわり付く泥の中、セヴェルスが最終的には手をかし引き上げることとなった。
 一方、もう片方のパーティーは、ほんの僅かに出遅れることとなった。
 ガルが颯爽と前に進み出て、先ほどまで感情豊かに揺れていた赤毛の狼のような魔獣の尻尾で牽制するように石像を攻撃していく。
「でーすとろーい! でーすとろーい!!」
 猛攻を繰り出す彼女の身体には、引きずり込まれたとき即座に助けられるようにと細糸が結ばれ、ルーンがその反対側を掴み矢を放つ。
「ガル、注意を怠るな」
「援護します」
「騎士像とお宝を早い者勝ち、というのも面白かったのですが」
 ユーミィによって呼び出された針で武装された妖精達が襲い掛かり、ルーシーが発生させた太陽の如き強力な熱線が石像を包み込む。
 そこで、気がついた。前衛二人に石像を抑えてもらい、途中で出現するであろう死者を倒す作戦だったはず。だが、今の前に出ているのはガルのみ。今、ここで死者が現れれば彼女が危ない。
 ルーシーは焦り、次の支援をと構えた。
 だが、不幸中の幸いとはこのこと。一体の死者は向こうで凍りつき、もう一体はアヤセを引きずり込んでいた。
 今のうちに、一気に一同は石像に向けて攻撃を放った。

●宝の騎士
 泥まみれになったアヤセ、ユーミィ、ガルは、気持ち悪そうに泥を払った。
 一体の死者は直に倒せたのだが、もう一体が性質が悪く引きずり込み潜るを繰り返し、エンドブレイカー達の攻撃から逃げ続け三人が引きずりこまれた。
「仮に生前イケメンだったとしてもお断りだー!?」
 そう必死に抵抗したユーミィの反応が気に入ったのか、彼女は地味に三回も引きずり込まれることになった。おかげでその綺麗な髪も服も泥まみれ、しかも気持ち悪い死者の手の感触がまだ足に残っているという最悪な状況だ。
 とどめとばかりに召喚した妖精の数がいつもより多く、死者に叩き込んだその乱舞に若干の恨みがこもっているように感じたのは気のせいではないかもしれない。
 既に騎士像は動き始め、戦闘が始まっていた。
 ナージャはクリエイトウイングで翼をつくり出し、力を貯めていく。既に石像との戦いで受けた仲間達の傷は、ルーンがアスペンウィンドゥで呼び起こした風で癒してある。
 セヴェルスは騎士像の死角に潜りこむと、下から突き上げるように人であれば心臓である場所に、ナイフを付きたてた。彼の全身で押し込まれ、その刃が沈み込む。人であれば即死であろう、正確で無駄のない動きだ。
 風のように激しくも鋭く、しなやかな身のこなしから振るわれたアヤセの鬼爪が空間ごと騎士像を切り裂こうとすれば、騎士像はその固めた守りからカウンターのように大剣を振り下ろした。
 アヤセは攻撃もだが、攻撃を避ける身のこなしも軽やか。それも十分に身体が鍛えられているからだろう。
 もう一振りと上段に構えられた騎士像は、そのままの姿勢で動きを固めた。その武器を縛るのはルーンのハンティングストリングス。
「そういつまでも自由にはさせない」
 ルーン笑みを浮かべ、縛る糸を締め上げた。
 その身動きの取れない隙を狙い、妖精と同化したユーミィの滑空斬りが空いていた騎士像の腕を切り落とし、ティスカの太刀から繰り出す斬空閃の一薙ぎがその胴に深い亀裂を刻む。
「ぶれいくー!」
 さらに巨獣の骨棍棒を地面に向ってガルが振り下ろす。生じた衝撃波は、捲りあげた大地の土砂ごと騎士像を襲った。
 グラリと崩れかけた騎士像の背後に、一瞬宝箱が垣間見えた。
 だが騎士はまだ取れるわけにはいかないと、再び守りを固め細糸を力任せに引きちぎると、大剣を構えた。
 騎士像と戦う間に、石像が動くのではないかとセヴェルスは危惧していたが、どうやらその心配は杞憂だったようだ。戦いに専念できると坦々とナイフを振るい続け、ティスカの召喚した冬の嵐によって既に騎士像の足は地面から自由に動かなくなっていた。
 ガルがテイルデストロイで薙ぎ払い、凍りついた騎士像の片足が粉砕する。
 騎士像は大剣で薙ぎ払おうとするが、もうその動きはバランスすら取れていない。
「私の前で苦しんだり力尽きるなどさせませんわ」
 淡く優しく、展開されたルーシーの癒しの魔方円が仲間達を癒し、その背を押す。
 前に勇ましく踏み出したナージャの背には氷の翼、その手には炎の剣。
「準備はできた、とっておきを見せるよ!」
 気合も十分に叫び、彼女の振り下ろした剣は火柱をあげ騎士像を叩き斬った。
 縦に両断された騎士像は、完全に制御を失い崩れ落ちる。
 炎の熱気で一気に蒸発した雪や氷が、シャワーのように舞い散り、辺りが光の煌きに包まれた。

●後を濁さず
 お宝は騎士像を倒したナージャのものとなった。
「何が出るかなっと……」
 満面の笑みで宝箱を彼女が開けると、出てきたのは星霊シルフが描かれたゴーグルだった。横から覗き込むように見ていたティスカも興味津々である。
「これどんな能力があるんやろか?」
「使ってみれば、分かるよ」
 祝福するように声を掛けた、ガルだがその尻尾は心なしかしょんぼりしているようだ。今度こそと意気込んでいたのだから仕方ない。
「また、次があります」
 そんな彼女の様子に気付いたのか、励ますようにルーンが微笑みかけた。
「さて、通らなかった路の石像を順々に潰して後顧の憂いを断とうか」
 和やかな雰囲気の中、残る三体の石像を見つめ、セルヴェスがナイフを抜く。
「後々に誰かが危険に巻き込まれる可能性もありますから、入って来られない様に天井を崩して塞いでしませんか?」
 穏やかに微笑みつつもルーシーの言葉は中々過激であった。
 どうせ濁った水。このまま放っていても、また誰かを飲み込むだけ。エンドブレイカー達は残りの石像を破壊するため武器を手に取った。
 その後、脱出時に遭遇した兄弟は、ナージャが得意気に装着しているゴーグルを見せ付けられ、大きく落胆し、諦めたようだ。
 端正な顔立ちから零れる溜息に、ユーミィがそっと歩み寄り微笑みかける。
「私というトレジャーをハントしませんか!」
 兄弟の表情に浮かんだのは戸惑い。
 どこか間違ったユーミィのアプローチの結果は、彼女のみぞ知る。



マスター:凪未宇 紹介ページ
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いまいち
参加者:8人
作成日:2013/03/11
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