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銀の塔主の行方:海鳴りの域

<オープニング>

●海狼と棘
 来る日も来る日も海の底に潜り、海鉱石を拾い集める毎日。
 集めた石は近くの陸上に運ばされ、仕分けさせられ、質の悪いものが多ければ再び海底まで探しに向かわされる。もちろん、分け前などは何もない。
 奴隷として扱き使われる日々の中、シーヴォルフル達は思う。
 誇り高き海の狼たる我々がこのような仕打ちを受けているのは、はるか過去に自分達の祖先を壊滅にまで追い込んだ『勇者』の所為だ。奴等さえいなければ、大魔女の罰を受け、隷属民として虐げられることなどなかった、と。

 そんな希望も何もない毎日。――だが、あるとき。
 『支配者』がシーヴォルフルに召集をかけた。それは鉱石拾いについての言及などではなく、勇者の船が近付いているという旨の連絡である。
「勇者に復讐したければ、力を与えてやろう。往け、あの船を海域に入れてはならぬ」
 その言葉を聞いたシーヴォルフル達は歓喜し、棘の力を受け入れた。
 そして、仮面を宿した海狼は海を往く。
 航海を続ける勇士号を、そこに乗る『勇者の末裔』ごと葬る為に――。

●自爆の獣
 青を湛える海上から遠い海鳴りが聞こえはじめていた。
「大変だよ、みんな! 勇士号に向かってシーバルバさん達が突撃しようと動いているみたい!」
 終焉に抗う勇士号の内部。桜苺の星霊術士・アミナ(cn0004)は、船の警戒装置が此方に向かってくる幾つものシーバルバの姿を感知したのだと告げる。
 現在、船は銀の塔主を追って北へと航行中だ。
 その行く手を塞ぐように海に適応したマスカレイドバルバの群が次々と近付いてきているらしい。
「このままだと海岸線の辺りから上陸されてしまうの。それにね、シーバルバさん達は特殊な処理がされているような雰囲気で、自爆して勇士号を壊そうとしているんだ」
 そんなの酷いよね、とアミナは瞳を伏せる。
 それゆえにシーバルバは水際で食い止めなければならない。敵が上陸した場所で迎え撃ち、撃退すれば船は守れる。だが、海以外の方向に逃走されて敵を見失った場合、自爆されて勇士号は甚大な被害を受けることになるだろう。

 そうして、アミナは集った者に勇士号を記したの簡易地図を示してみせる。
「自爆なんてさせないためにも、みんなに行って欲しいのはこの場所だよ。わたしの見立てでは、この水際にシーヴォルフルさんが八体上陸してくるはずなの」
 上陸直後に戦いを仕掛ければ、流石のマスカレイドバルバも応戦せざるを得ない。
 敵は鋭い爪を振るい、尾ひれで薙ぐような攻撃を行ってくる。実力としてはエンドブレイカーの方が優れてはいるが、相手は曲がりなりにもマスカレイドだ。そのうえヴォルフルは積年の恨みを募らせているらしく、戦意はかなり高い。
「上手く戦いに引き付けられないと、自爆行動を優先しちゃうかもしれないね」
 だから気をつけて、とアミナは仲間を見渡す。
 おそらく、強襲が起こるという事はこの海域はマスカレイドの支配地なのだろう。何とも危険な展開だが、この流れは逆に言えば、この先に『マスカレイドの根拠地がある』という証である。
「ここを突破して、銀の塔主さん……サイリスちゃんを追いかける事は相手にとっても都合の悪いことなんだろうね。でもでも、わたし達は諦めたりなんてしないよ。ね!」
 敵の根拠地に近付く以上、これからも危険が続くと予想できる。
 だが、自分達は塔主を救う為に船を走らせているのだ。そのためにも先ずは、勇士号を襲うマスカレイドバルバを撃退しなければならない。
「応援してるよ。それにわたしは知ってるもん。みんななら絶対に絶対、大丈夫だって!」
 そして、アミナは真剣な眼差しを向けると仲間達を送り出した。


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参加者
ニュクスの柩・アルト(c00651)
幽宴の昏・ネマ(c01067)
毒芹の粮・ラグランジュ(c02051)
護風翠剣・カイル(c03406)
ブランクリーチ・クロフ(c05769)
太刀影・マキシム(c08141)
樹氷の華・コルネリア(c12931)
鴬花の導・ロレッタ(c18045)

<リプレイ>

●海と獣
 遠く聞こえ始めた海鳴りに雑じり、獣の咆哮が響く。
 怨嗟の唸り声を発するそれらは海から勇士号へと上陸し、積年の恨みを晴らすべく動き出した。
 だが、この船の上で好き勝手などさせはしない。毒芹の粮・ラグランジュ(c02051)は敵を確認すると、全ての影を見渡して強く告げる。
「来たな、仮面憑き共。俺達を素通りするのかい?」
 星霊ノソリンに跨った彼は大鎌を肩に掛け悠然と迎え撃った。相手は見るからに勇者を憎んでいる様子だが、ラグランジュにとっては知った事ではなく、仮面は全て滅ぼすのみ。
「貴様等ガ勇者の末裔か」
「憎い、憎いぞ――!」
 海狼が返した低い唸り声には敵意が交じっていた。
 おそらくは彼等も憎き相手を前にして戦いを望んでいる。そう感じた樹氷の華・コルネリア(c12931)は花紫の髪を緩やかにかきあげ、凛然とした言の葉を向ける。
「弱いから負けた。それを相手の所為にするの? ……とんだ矜持ね」
 何より先んじて動いたコルネリアは瞬時に生み出した風の翼で己の身を加速させ、弾丸の如くヴォルフルへと肉薄した。先手を取られた事に敵が怯む中、ニュクスの柩・アルト(c00651)は金薔薇意匠の銃剣を強く握った。その傍らには鴬花の導・ロレッタ(c18045)が控えており、彼と共に敵を見据えている。
「船を爆発なんてされたらたまったものではないね。阻止するためにも此処は頑張ろうか」
「ええ、仮面が哂うならば――終りを捧げよう」
 毒に似る棘へ浸り、誇りが歪まずに居られるのか。
 猛る狼へと凛と花彩の眸を差し向けたロレッタが自らの血液を狗へと変じさせた。それと同時にアルトが悪魔の翼を広げ、魔力を浸食融合させる。血狗と翼の魔力が解き放たれる中、護風翠剣・カイル(c03406)も前へと駆けた。
「ほら、勇者のお出ましだぜ、こっち来いよ!」
 狙うのは目前の海狼。走り抜けながら、旋風を巻き起こしたカイルは挑発と同時に舞うかの如き旋槍撃を見舞う。本当ならばこのような挑発は苦手であった。顔には出さず、ごめん、と胸中で呟いた彼は咎める良心を抑えて更なる一撃を敵へと振るう。
 反面、敵を逃がさぬよう言葉を投げ掛ける事を由とする仲間もいた。
「く、生意気なニンゲンどもだ!」
「逆恨みも良い所だね。けど、来るなら相手してあげようか。祖先と違う所を見せてみなよ」
 金の眸を眇め、幽宴の昏・ネマ(c01067)は活き活きと敵を扇動する。緩められた口元は実に楽しげに吊り上げられ、少年はデモンの力を具現化させた。そして、ネマの袖口から禍々しく広がる翼の奔流は一気に三体の敵の体力を削る。
 しかし、敵も黙ってはいなかった。太刀影・マキシム(c08141)を狙った個体が鋭い爪をを振り上げ、その身を引き裂いた。響く痛みに堪え、青年は円月の構えを取る。
「なかなかだな。だが、此方とて!」
 刃を斬り返したマキシムは反撃代わりの半月斬を見舞い返した。このような妨害があるということは、この海の先が正解の道筋に続いているのだろう。ならば、船を引き返す選択はあり得ない。確固たる意志を持ち、マキシムは地面を強く踏み締めた。
 ラグランジュが黒旋風を見舞う最中、コルネリアは自分達が組んだ陣から敵が擦り抜けやしないかと気を張る。同様にブランクリーチ・クロフ(c05769)も獣からの尻尾撃を受け止めて耐えていた。
 衝撃が身を貫こうとも、彼は嘲笑を浮かべて首を掻き切る仕草で敵を挑発した。
「御先祖の轍を踏みに来たのか。嘗ての苦汁をまた味わわせてやるよ」
 伝承に由れば、バルバとは遥か過去の時代から人と敵対してきた存在らしい。彼等の勇者に対する恨みが何処まで募っているかは解らない。だが、此方にも譲れないものがあった。クロフは片目を眇めると、自らが背にした勇士号の動きを肌で感じる。
 刹那、獣の咆哮が響き――戦いは或る種の熱を帯びていった。

●怨嗟の叫
 海狼達から爪が振るわれ、雄々しい尾が仲間達を穿つ。
 鬼気迫る形相でエンドブレイカー達に向かって来るバルバの勢いは相当なものだった。
「待っていて、直ぐに癒すから」
 ロレッタは傷付いた仲間を支えるべく、薔薇色の魔鍵を掲げて虹の円環を描く。陽光へと変わった魔力はマキシムやコルネリアをやさしい彩で包み込んだ。
 仲間を支えながらも、ロレッタが思うのは獣達の事。
 縛る支配者が気になるが、此方を葬る為に自身が爆ぜる事は知っての行動なのだろうか。ただ痛ましく、哀しい。裡にそっと思いを仕舞い込んだ彼女の感情を感じ取り、アルトも口許を緩く噛み締めた。しかし、相対する敵に容赦などできない。
「……血の牙を」
 血狗の群を呼び起こしたアルトは海狼を指先で指し示す。命を受けた猟犬達は疾駆し、粘血の雨となってヴォルフル達を血色に汚した。刹那ほどの一瞬、アルトとカイルは視線を交わしあう。
 その眼差しだけで敵の防御が崩れた隙を即座に感じ取り、青年は一気に畳みかけようと狙った。
「悪いが決めさせて貰うぜ」
 鉾槍を頭上で大きく回転させたカイルは弱ったヴォルフルへと刃を振り下ろす。次の瞬間、其処に宿った仮面がひび割れた。カイルの一撃によって一体の敵が力を失った事を確認し、ラグランジュは別の敵に狙いを定める。
 数多の敵から襲い来る爪撃を無骨な大鎌で振り払い、彼は防御を固めた。
「ほらほら。俺達を倒せねえようじゃ、先に進めねえぞ!」
「小癪な。我らの苦しみの分、貴様らを八つ裂きにしてくれるわ!」
 激昂したヴォルフルが牙を剥き出し、更なる爪の一閃をラグランジュへと見舞った。ノソリンが心配気な声をあげる中、彼は痛みを堪えて大鎌を斬りあげる。その間にも敵が集中攻撃を仕掛けようと動きはじめた。
 その事に気付いたクロフが地を蹴り、ネマは自らの肌に切り傷を作る。
「犬には犬。いや、走狗かな。存分にじゃれ合おうか」
 滴った血液へと魔力を注いだネマは生意気めいた視線を投げ掛け、海狼を犬だと愚弄した。その物言いに何匹かの眉間に皺が寄り、怒り交じりの唸り声が響く。紅き群れが敵へと向かう中、相手もまたネマに狙いを定めてきた。
 だが――その射線を遮ったのは上空からの蹴撃を見舞ったクロフの影。
「怒りで我を忘れて周りを見てなかったか?」
 口の端に笑みを乗せ、クロフは襲い来た海狼達に次々と鋭い断撃を喰らわせてゆく。ネマが引き付け、クロフが隙を狙う。一瞬で成立した連携はヴォルフル達を翻弄していた。
 そして、彼らの攻撃によって一気に二体の敵が伏す。
 ロレッタはその間にも仲間の負傷具合を確かめ、しかと支えていた。その際、感じたのは敵はこの手で倒せば爆発しないということ。そして、ヴォルフル達は己の身体が爆弾へと変えられている事を知らない、という事実だった。
「おのれ、勇者ドモがァ!」
 咆哮をあげた敵を冷静に見据え、コルネリアは銃刃から影の腕を具現化して狙いを付けた。相手は勇者勇者と煩いほどだが、生憎とて自分達にはその記憶など無ければ、それらしい思いも無い。
 だけど、とコルネリアは影を増幅させた。
「わたくしは命を捨てるような誇りは持ち合わせていないし、命を掛けられない程脆くは無いわ」
 連影の刃が海狼を包み、その体力を寸前まで削り取った。
 今ですわ、とコルネリアが合図を送ったことにマキシムが応え、止めを狙うべく黒の刃を向ける。
 敵は背水の陣。“死ぬ気”で来る相手。ならば己も相応の気力を以て戦おう。
「俺達は退かない。お前達を倒して――進む」
 真円を描く刃は呻くヴォルフルを斬り裂き、最期を与えた。これで後は四体だとマキシムは更に気を引き締めて残る敵に向き直る。散らせた血を受けたその刃は、其れが冠する名前の如く、夜の雨を思わせる鈍い光を放っていた。

●憾みと誇り
 味方が半分に減ったことで海狼達も流石に焦りを感じはじめる。
「これほどまでとは……止むをえぬ。急ぐゾ!」
 おそらく、敵は船の奥へと向かえとでも命じられているのだろう。ヴォルフルはエンドブレイカーを倒すことを諦めて包囲網を抜けようとする動きを見せた。だが、それを許してはいけない。
 カイルはクロフ達と頷き合い、其々が海狼の前にすぐさま立ち塞がった。
「わざわざ出向いてやったんだぜ。無視して行くことないだろ」
 そのまま鉾槍で突風を起こし、相手を威圧したカイルは逃がすまいと深緑の瞳に強い意志を滲ませる。忌々しげに喉を鳴らした海狼は彼を引き裂こうと爪を振り上げた。きっと、相手は怒りを抑えて冷静になりかけている。
 しかし、ネマはそんな輩の神経を逆撫でする方法をよく識っていた。
「逃走するの? そうだね。つまらない個々のプライドより、主人に尻尾振る方が確かに大事だ。走狗を買い被って悪かったよ」
 ね、と再び具現化した血狗に話しかけたネマはくすりと笑う。その態度は実に皮肉気であり、獣達の誇りを傷付けるのに的確なものだった。必死に怒りを堪えるヴォルフル達だが、逆立った毛が彼らの心境を表している。
 ラグランジュは更に包囲を狭め、彼等が決して逃げ出せぬように位置取りを行った。
「勇者に負けたから仮面の奴隷だぁ? 恨む相手を間違えてんぞ!」
 その際、投げ掛けるのは敵を否定する言葉。先程から幾度も振るわれている尻尾撃に対抗するように、ノソリンの手綱を繰ったラグランジュは尻尾の一撃を敵に見舞わせる。途端にヴォルフル達の連携が崩れ、衝撃に一体が崩れ落ちた。
 アルトは其処にトドメの機を見出し、猟犬の軍団を遣わせる。
「爆ぜる前に散ると良い。その命ごと、ね」
 すべてを喰らい尽くすが如く、地を疾った血狗達は主の命じるがままにヴォルフルを噛み砕いた。一瞬だけ瞳を伏せ、その最期を見送ったアルトは跳ねて頬に付いた血を指先で拭う。
 彼はその際、愛しい人が傷付かぬように守る事も忘れない。
 大丈夫、とアルトに柔らかな眼差しを返したロレッタは自分も何かがあれば彼を護ろうと心の奥で決意する。しかし、戦局は既に此方へと傾きつつあった。
 鍵に躍る真白のリボンを揺らし、芳しき香りと陽光で仲間を癒してゆくロレッタは思う。
(彼等から受ける憾みも憤りも、痛くはない。凡て溢さず擁こう)
 ――唯、これ以上は命も心も戯れに穢されぬように。
 自らが捨て駒で在ることを知らず、仮面の支配に侵された海狼達に終わりを告げる為。
 凛と敵を瞳に映す仲間の思いを肌で感じ取り、マキシムも敵へと静かな思いを馳せた。逃亡して何処かで爆発されるならば、この場で引導を渡すべきだ。
「勇者の末裔、討ち取れるものならやってみろ」
 マキシムが敢えて挑発を続けるのは、彼等が木端微塵に爆散するよりも、戦って死す方が名誉だと信じた故。牙が迫る中、彼が黒の刃で斬気を放出させる。それと同時にラグランジュが旋風を巻き起こし、ネマも破壊の魔光を解き放った。
 クロフは弱った一体に標的を取り、宙へと跳躍する。
 実のところ、彼等の根の深い憤りを嗤う気なんて微塵もなかった。唯、このように命を使うのは勿体ないのではないかと憐憫を覚えるほどだ。
「ま、詮ない感傷は怪我の元かねぇ。お互い譲れないものがあるなら誇りを持って仕合おうや」
 確然と告げたクロフが蹴撃を打ち込んだ瞬間、また一体が戦う力を失う。
 残りは後二体。カイルはじりじりと敵を追い詰め、アルト達も包囲網を狭めた。もう勝てぬと感じた獣達だったが、恨みを強く持つ彼等は牙を剥き続ける。
「赦さぬぞ勇者ァ! なれば貴様らの一匹だけでも食い殺すのみダ!」
 形振り構わず向かって来たヴォルフルを悲しげな瞳で見遣り、コルネリアは蔦花の銃を握った。結局、怨嗟からの復讐など何も有意義なものを生み出さない。だが、獣達は最早、過去から続く辛苦の道を貫く他ないのだ。
 哀れに思う気持ちを振り払ったコルネリアは、それならば真正面から向き合うだけだと心する。
「仕方ないわ。馬鹿な復讐劇に付き合ってあげる」
 襲い掛かった牙を身体で受け止めながら、コルネリアは銃刃を振るい返した。身体を捻って繰り出した回転斬撃は一瞬のうちに敵を斬り裂き、その命を奪い取る。
 もう誰も、何も壊させない。この船――勇士号に集う仲間は何よりも大切な物なのだから。

●海鳴りは遠く
 最後の一匹となっても尚、敵は抵抗し続けた。
 命尽きるまで戦い、朽ち果てる獣は潔くも思える。しかし、その心根が負の感情に染まったままであるならば完膚なきまでに打ちのめすだけ。ラグランジュは改めて星霊を繰ると、最後に向けて大鎌を振るいあげた。
「俺のノソリン、良い目をしてるだろう? 貴様等は濁りきってるぜ!」
「ぐ……おのれ勇者め、ガ……」
 ラグランジュからの鋭い一閃を受けて揺らぐヴォルフル。その隙を突いたネマは傍らに己のデモンの分身体を創り出して旋棍を構える。同時に地面を蹴り、接敵したネマは容赦の無い一撃を繰り出し、視線で合図を送った。
 マキシムが刃で敵の脚を潰し、アルトが血狗で後押しをする。その最中、機を掴み取ったクロフも最後の一撃を与えるべく跳躍する。狙うのは唯一点、獣の最期。
「恨みを晴らせないままで悪いね。――棘に侵されたその生、鎖させて貰うぜ」
 そして、クロフが刹那の内に放った蹴りは見事に標的を貫いた。
 仮面が真二つに割れ、地面に落ちて乾いた音を立てる。宛ら、その音色が終止符だったかのように、響いていた海鳴りが止んでいった。

 死した獣達から視線を外し、マキシムは唯冥福を願う。
「勇者を恨むことは認めても良い。だが、棘の力を借りたのは許せなかった」
 何処か悲しげな呟きは漣に紛れて消えた。静けさの中、ラグランジュはノソリンから降り、よく頑張ったとその背を撫ぜてやる。カイルも戦いの幕が下りた事にほっと安堵を覚えた後、海狼の亡骸を不憫そうに見下ろした。
「こいつらも、大元のマスカレイドに良い様に使われてただけなんだよな」
 マギラント以外にも何か黒幕がいるのだろうか。カイルが思案を巡らせると、ロレッタが彼の傷を癒す為に魔鍵を翳す。随分と怪我をしたみたいじゃないか、とアルトが悪友の奮闘をからかい交じりに褒め、ロレッタも仲間達それぞれに労いの言葉をかけていった。
「この子達の命は捨て駒だったのかな……」
「爆ぜて消えるよりは佳かった筈だよ」
 哀悼に瞳を伏せたロレッタの肩を抱き、アルトは緩やかに首を振る。コルネリアもそうに違いないと頷き、海狼を見つめてぽつりと零した。
「これで彼等の復讐劇は終わったのね」
 それを聞いていたクロフも独り言めいた呟きを落とし、幽かな漣に耳を澄ませる。
「俺達にとっては始まりなんだろうな。この先には絶対に何かがある」
「次は大物でも来ますかね」
 仲間達の言葉に同意したネマは樹に背を預け、海の彼方へと視線を遣った。
 様々な思いを乗せた船は北へ――銀の塔主の行方を追い、海の向こうを目指して進んでゆく。



マスター:犬彦 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2013/04/12
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