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ギルバニアを討て:散る者と散らぬ者

<オープニング>

●彼の者へ
 どこかいつもとは違うざわめきの中で、杖の星霊術士・コルルは逡巡するように口ごもる。一度息をついて顔を上げ、そして目の前に居並ぶエンドブレイカー達を、ゆっくりと見渡した。
「ジャグランツ討伐隊の作戦が大成功を収めた話は、皆さん知っての事と思います。結果としてジャグランツ軍に大打撃を与える事ができ……それを受けて、とうとうジャグランツ王が姿を現した事も」
 ジャグランツ王・ギルバニア。そして王が率いる精鋭ジャグランツマスカレイド達、それらの出現によって成功を収めたばかりのジャグランツ討伐隊は壊滅した。討伐隊は勝利と敗北を同時に味わい、しかしこれはもう一つの事実を表す。
 王が姿を現した。つまりは王を討つ、これ以上ないまでの好機。
「王が前線に現れた事自体が、王自ら手を下さなければならないほどジャグランツ軍が追いつめられている証拠です、他にも部隊が結成されるでしょう。王を倒し、ジャグランツによる一連の事件を解決するため、皆さんの力を貸して下さい」
 ジャグランツ軍は今、戦力を大きく削られ混乱のただ中にある。少人数が部隊として行動し、ジャグランツ軍の網をかいくぐれば、撤退するジャグランツ王に追いつける。誰か一人がジャグランツ王の首を獲れば作戦は成功だ。
 王を討つ為……まずは、王の撤退路を発見し追跡する必要がある。的確に情報を集め、得た情報を他の部隊に伝える方法を工夫していけば、王の撤退路を見つける事も難しくは無いだろう。
 留意すべきはジャグランツ軍の残党。討伐隊によって大打撃を受け混乱中とはいえ見付かれば必ず戦闘になる、その戦力は侮れない。それらのジャグランツに見付からないような行動も求められるだろう。見付かってしまった場合にどうするのかが他の部隊に影響を及ぼす事もあるかもしれない。
 そして避けられない戦いが二つ。一つ目はギルバニアを守るジャグランツマスカレイドの精鋭達との戦闘だ。精鋭達が王を守っている状態では、王を討つには無理がある。
「全体の最終的な目的は、ギルバニアの撃破です。そのために他の部隊も動いています、なにもギルバニアを倒す為に自分から精鋭の中に突き進んでいって、危険な状況を引き起こす必要はありません。他の部隊の誰かがギルバニアを倒す事を信じて、王から精鋭達を引き離すと言う作戦も重要かもしれません」
 それらを突破し、最後に待ち構えるのは、ジャグランツの王・ギルバニアとの戦闘。
 だが事の全てが上手く運んだとしても、勝てるかどうかは分からない。『王』と相対してどのように戦うのか、それが重要になる。
 そこまでを淡々と説明し終え、コルルは口をつぐむ。視線を落として、至極言いにくそうに杖を握った。
「……すごく、難しい事を要求しています。成功するかも、無事に帰って来れるかも全く分かりません。ですから、充分な心構えができている人だけ、万全に準備を整えて、王の討伐に向かって下さい」
 撤退を考える暇はない。どのようにして王を倒すのか、その為に何をするべきなのか。それだけを考えていなければ、それこそジャグランツの王を倒す事など不可能になってしまう。
「この作戦は、どう展開していくのか、皆さんがどこでどのような敵と遭遇するのかも分からない、複雑で不透明なものです。それでも決意と覚悟のある人は、どうか『王』を倒して、ちゃんと帰って来て下さい。……お願いします」
 言って、そして少年は深く深く、頭を下げた。


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参加者
遊悠月・ルゥ(c00315)
氷の闘志・エリック(c00544)
奔走する塞・エルンスト(c03127)
槍使い・キーリ(c03133)
焔嵐・エルシリア(c03242)
風迅・マオ(c03751)
大剣の城塞騎士・クロミア(c04585)
キャリアー・ジョニー(c05203)
記憶無き魔法剣士・シン(c05961)
城塞騎士見習い・ニック(c08383)

<リプレイ>

●その道を
 戦いの音が聞こえる。近くは無い、むしろ遠い。だが文字通り生死を賭けた戦いの音は、今となってはあちこちから小さく響いている。それはいくらもしないうちに自分達にも振りかかるだろう死闘の音だ。
 他の部隊が出撃を始めて、既に幾つもの部隊を見送っている。遊悠月・ルゥ(c00315)は、それを思って僅かに苦い表情を浮かべた。
「漁父の利と言うか、鳶に油揚げ的な作戦はどうかとも思うけど……」
 できる限り万全の状態で『王』に挑む為に組み立てた作戦。見ようによっては他の部隊を盾にして進むようなものだが、戦いは既にそこから始まっている。後は自分の力を出し切るだけと、彼は深く息を吸い込み、顔を上げた。
 生成されたロープが崩れかけた廃墟の屋根近くに付着したのを確認し、風迅・マオ(c03751)は強く引っ張り強度を確認する。頷き、そしてルゥにそれを差し出した。
「気をつけて下さいね、相手からも見えてるかもしれません」
「ありがとう。見てくるね」
 差し出されたそれを受け取り、ルゥはそれを伝って廃屋の屋根へと登っていく。ホークアイで周囲の状況、そして王の場所とその向かうと思しき場所を探し出す為、ある程度高い場所から戦場を見渡した方が良いだろうと言う判断だ。ルゥが敵を捜している間も、他のメンバーは周囲を警戒し、別の部隊が残した目印がないかと注意深く周囲を見渡している。大剣の城塞騎士・クロミア(c04585)は、事前に用意しておいた、周囲の風景に紛れるような迷彩柄の外套を被り安全な経路を探していた。その彼が不意に視線を上げ、その先に現れたのは同じような外套を被った槍使い・キーリ(c03133)。
「どうだった?」
「ダメね、あちこち残党兵がうろついてるわ。別部隊の目印は、幾つか見つけたけど……近くを一通り見た感じじゃ、大回りなルートしか無い」
「ジャグランツも、ジャグランツマスカレイドも、ギルバニアも、一カ所で纏まっていたり動かずに留まっていたりはしないでしょうし……難しいですね」
 城塞騎士見習い・ニック(c08383)が言って、やはりそろいの外套を被ったエンドブレイカー達は思案する。できるだけ敵との遭遇、交戦は避けたい。焔嵐・エルシリア(c03242)がどうしようかと道の奥へ視線を向けると同時に、廃屋の上で声が上がった。
「いたよ、ギルバニアだ!」
 ルゥのその言葉に彼らは眼を見開く。キャリアー・ジョニー(c05203)がノープを伝ってルゥの隣に立ち、短く問い掛けた。
「どこだい?」
「向こう、ここからだと右側の方」
 ルゥはホークアイでギルバニアを見据えながら、その方向を指し示す。ジョニーはその周囲の状況を確かめようと更に高い位置に登り、眼を凝らした。
「……所々で、別部隊が戦っているみたいだ。もしかしたら道すがらのジャグランツを引きつけてくれるかもしれない」
 そう言ってはみるが、確認できたのはせいぜい周囲で戦闘が起こっているかどうか、その程度。建物が邪魔で見えない場所もある、そこにジャグランツ達がいるかもしれない。
「……安全なルートをこまめに確認しつつ、進みましょう。ここで悩んでいても埒があかない」
 奔走する塞・エルンスト(c03127)の言ったそれにその場のエンドブレイカー達は頷き返した。先行して近距離のルート確認をするため、先に走り出したキーリがするりと路地に消えるのを見送り、エルンストは自身の手を見下ろす。出発の直前に切れてしまった、髪を纏めていた布。今は予備を巻いているが、これが示すのは……
「……いや、この戦いを断ち切ると考えましょう」
 言って、足を踏み出した。油断なく、周囲に眼を光らせながら、慎重にギルバニアへと至る道を進んでいく。

●一寸先は闇
 王の居場所は分かった。ならばそこから向かうと思われる場所を予測して、先回りは出来ないか。
 ルゥが言ったそれに頷き返したエンドブレイカー達は、素早く廃都を駆け抜けていく。キーリが先行して敵の有無を確かめ、ルゥのホークアイで戦場の全体の状況をこまめに確認する。敵が近くにいるのならそれを避け、避けられないのなら隠れてやり過ごす。
 徹底した隠密行動が功を奏したのか、残党のジャグランツやジャグランツマスカレイドに発見される事はなく、果たして彼らはギルバニアの行軍路を予測しそこに辿り着く事に成功した。その最中にも別の部隊が戦う音、ジャグランツの咆哮が遠くから聞こえてくる。氷の闘志・エリック(c00544)は表情を引き締め、掌を握り締めた。
「覚悟なら何時でも出来てる。このチャンス、絶対に逃しはしない」
 それは、オラクルとしてエンドブレイカーの力を授かってから一度も変わる事のない心。彼の言葉を聞いた記憶無き魔法剣士・シン(c05961)は、我知らずのうちに太刀の柄を握った。ようやく見出した戦う意味、その為に今ここにいる。その為に戦うのだと、自分に語りかけるかのように。
 エルシリアも緊迫した空気を感じ取り、強張った身体から力を抜くようにゆっくりと息をついた。
「怖くないかって聞かれると、よくわからないんだけどね……」
「安心しろ、これだけの面子が揃ってるんだ。倒せない敵なんていやしねぇ」
 一人呟いたそれが耳に入ったのか、クロミアは力強く言ってみせた。それに笑みを浮かべて、暗い考えを振り切るようにエルシリアは顔を上げる。今戦いの場に必要ない、余計な事を考える贅沢は全部終わってから味わう事にしようと、隙無く周囲に視線を巡らせる。
「……見えた」
 不意にジョニーが声を上げる。ホークアイでギルバニアを追っていたルゥもそれを切り上げ、改めて視線を向ける。視認できる位置に敵が到達した。
 だが。
「……進路が……?」
 廃墟の上に立ち、彼等の視線の先に目を向けたエルンストが言う。計ったように姿を現したキーリが仲間達の視線を受け、フードの奥で眉根を寄せて背後を見やった。
「まずいわね……ギルバニアが道を逸れたわ」
 その言葉にとっさにルゥを見上げれば、彼も苦い顔で頷いてみせる。どうすると問い掛けるかのような僅かな沈黙、口を開いたのはマオ。
「行きましょう、目標は『王』……ギルバニアです」
 その言葉には全員が頷き返す。そして再び慎重に慎重を重ね、『王』を追う。
 ……しかし全てが全て、上手く行く筈も無く。
 咆哮が聞こえた時には、遅かった。仮面を浮かび上がらせた巨躯が道を塞ぐ。ジャグランツマスカレイド、王の姿が見えないうちから立ち塞がったそれは、エンドブレイカー達を見据えて再び雄叫びを上げた。
 こんな所で、と誰かが低く言う。その場にいるだけでも敵の数は八、マスカレイドと化し並のジャグランツよりも強化されたそれを相手にしきれるのか。浮かんだその思考を振り切るように、彼らは一斉に武器を抜いた。
 対峙する敵は違えど、そこにある想いは変わらない。王を狙えないのなら、先を行く仲間の為。
「さぁ、派手に暴れましょうか」
 エルシリアの声が静かに落ちる。

●緋より出る
 凄まじい勢いで敵に殺到する邪剣の群れを見、一番に動いたのはキーリ。先頭のジャグランツマスカレイドの懐に飛び込み深く刃を沈めて、そして高く振り上げられたクロミアの大剣が立て続けに襲いかかる。
 ジャグランツはそれらの攻撃を受け、しかし巨躯を揺るがす事も無く手にした斧をただ無造作に振り下ろし薙ぎ払う。その衝撃にクロミア、ニックが巻き込まれ簡単に吹き飛んだ。
「っ、この……!」
 瞬時にルゥが毒針を飛ばし、細く鋭いそれが突き刺ったそのジャグランツにシンが躍りかかる。斬撃は残像を伴い三体に傷を刻み付け、エルンストが更に深く踏み込みハルバードによる重い一撃を喰らわせた。だがそこに襲いかかる、長大な刀身。
 赤いものが滴り、エルンストが低く呻く。視線を上げて仮面を睨みつけ、そこに浮かび上がった感覚。ただのマスカレイドでは、ない。恐らくはジャグランツマスカレイドの中でも、精鋭の。
「親衛隊、でしょうか……まだまだ! ここからですっ!」
 言ったマオが駆ける。空いてしまった前衛の穴を埋めるように躍り出て足元の瓦礫を足場に跳躍、強かに蹴り上げるとジャグランツの一体がぐらりと揺れ、それでも倒れはしない。入れ替わり立ち替わり意趣返しとばかりに襲いかかる斧や大剣の肉厚な刃は、前に立つエルンストやシン、ジョニーに大きく紅い線を刻み付け、打ち据える。
 ニックは吹き飛ばされ地面に叩き付けられた衝撃をやり過ごし、立ち上がると同時に地面を蹴った。すぐさま前線へと飛び出しディフェンスブレイドを放って、間髪入れずエリックが放った残像剣が幾つもの斬撃を放ち、それでようやく仮面が一つ、音も無く割れて崩れる。
 だが安堵する間もなくマスカレイドの斧が襲いかかり、大剣が振るわれる。それを受け止め攻撃の手を重ねて、しかし時間の経過と共にエンドブレイカー達の疲労は眼に見えて明らかだった。再び振り上げられた刃をすんでのところで避けて、ジョニーは息を詰め剣を握る。放った十字の剣はジャグランツの巨体を揺らしはしたが決定打にはならず、仕返しとばかりに薙ぐ大剣に体勢を崩し、地面を転がった。
 前衛達がそうやって今日制定に後退させられているのを見て、エルシリアが得物を手にジャグランツの真正面へと進み出る。長い柄と刃の重さを生かし大きく旋回する鎌は複数の敵をその間合いに巻き込み、斬り裂く。不意に視界が翳り、見上げるよりも早く感じたのは衝撃。
「エルシリア、キーリ!」
 ルゥの悲鳴にも近い声。吹き飛ばされた二人の内より敵に近い場所に投げ出され、長槍をとっさに構えたキーリが体勢を整えるよりも早く、ジャグランツは振り上げた重い刃を、ただ振り下ろした。
 紅い血が散り、声にならない声が上がる。唐突なそれに動けないままの九人に、ジャグランツマスカレイドは唸り声を上げながら迫る。ズン……、と響く足音に、シンが太刀の柄を握り締めた。
「砕けろーーッ!」
 空中を駆け、眼前の巨躯を貫き駆け抜けた雷光が爆ぜる。それに我を取り戻したマオが、顔を歪めて、それでもジャグランツに迫りその巨躯を蹴り上げ回し蹴りを放つ。
 ニックが後方から放った癒しの拳が体中に走る激痛を和らげるのを感じながら、クロミアは大剣を構える。回復の手が足りないなどと言っている暇は、無かった。
「はああああ!!」
 放った渾身の刃はマスカレイドの仮面を砕き、巨躯が地面を揺るがし倒れる。残り六体と脳裏に呟きが落ちたと同時に、視界が白く染まった。
 クロミア、と誰かが叫ぶ。瓦礫の転がる地面に強かに身体を打ち付けた彼は応えず、代わりとばかりに音も無く血が流れ出す。エリックは顔を歪めて素早くその場に視線を巡らせる。敵はジャグランツマスカレイドが六体、対してこちらは疲労が明らかなエンドブレイカーが八人。負った傷を癒す手段も、時間とともに消耗しほとんど残されておらず、……戦い続けても、不利な状況である事には変わりなかった。このままでは戦力を削られる一方、勝ち目は、無い。
「……退こう」
「でも!」
 ジョニーの言葉に、ニックが声を上げる。視線の先には、ジャグランツも既に眼もくれない二つの影。エルンストもそれに視線を向けて、しかし言った。
「このまま戦っても誰かが倒れる……仲間を、信じましょう」
 ルゥが弦を引く。空高く放たれたそれが降り注ぐのを見るよりも早く無く、彼らは走り出した。

●争いと戦いの跡
 撤退は、結果的には半ばまで成功した。
 半ばまで。完全な形にはならなかった。安全な場所、残党のジャグランツと遭遇する心配も無い場所まで駆け抜けた時には、その場に立っているのは五人に減っていたのだ。
 まず、エルンストが、背後から迫ったマスカレイドの攻撃に耐えきれず倒れた。入り組んだ道を走り抜け、廃墟の隙間をすり抜けても、ジャグランツ達を撒くには足らなかったのだ。シンとマオもまた、投擲された斧や襲いかかった大剣に足を止められ、五人はジャグランツ達が足を止めたその隙に逃げるのが精一杯だった。
 その場にいるのは、ルゥ、エリック、エルシリア、ジョニー、ニックの五人。なんとか安全な場所に辿り着いたとはいえ、彼らもまた体中に深い傷を負い、体力もぎりぎりまで削られ、既に他人の傷を癒す為の気力も残ってはいない。
 廃墟の崩れかけた壁に背を預け、エルシリアは人工の空を見上げた。同じように座り込んだエリックが、強く、手を握り締める。ジョニーやルゥも、ニックも何も言わず、傷に呻く事もしなかった。

 ギルバニアは、エンドブレイカーによって討ち取られた。作戦は成功。
 その報を六人が耳にした時、他の部隊の助けを借り、帰還したのは二人。
 槍使い・キーリ、大剣の城塞騎士・クロミア、記憶無き魔法剣士・シンの生死は、確認の出来ないまま。作戦は、全ての幕を閉じた。



マスター:陽雪 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/06/17
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