ステータス画面

無縁だったはずのアナタ

<オープニング>

 あの日。
 私の店に、買い物に来てくれたアナタ。
 花を持つ私の手を、綺麗だと言ってくれたでしょ。
 それからずっと、アナタのことが頭から離れなくて。
 気になって、仕方なかったの。
「あの……」
 2度目の来店時には、私から話しかけることができた。
 アナタは笑顔で答えてくれて、すごくすごく嬉しかったのに。
 素敵な日々は、長くは続かなかった。
「こんにちは」
「あ、こんにち……ぇ……」
「今日も、お姉さんのおすすめで包んでくれるかな?」
「あ、はい……あの。その方は?」
「うん、許嫁だよ。いつも花を買う店を視てみたいって言うから、連れてきたんだ」
「いつも……って、あの花束は、彼女に?」
「そうだよ。いつもありがとうね」
「あ、いえ……」
 空色の瞳が、嬉しそうに細められる。
 2人で顔を向け合って、話したり笑ったり。
 私が花束をつくるあいだの、その雰囲気が羨ましかった。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
「ありがとうございました。またお越しください」
 本当は。
 私が、そこにいたかった。
 あの人がいなくなれば、私がそこに……アナタの隣にいられる?
「なに……仮面……私に、力をくれるの?」
 力が欲しい、アナタを手に入れられるだけの、力が。
 欲しい。
「そう。ありがとう」

「ということで、花屋の店主がマスカレイド化しちまったんだな。罪を犯す前に、倒してくれないか?」
 トンファーの群竜士・リー(cn0006)によれば、その女性の名はモモ。
 花言葉よろしく、恋愛には一途な性格らしい。
「事件は今夜。想い人の館を出て少し南へ往ったところにある公園が、犯行現場だ」
 外灯で明るく照らされており、広さも充分。
 ほかにも滑ったり登ったりする遊具があり、戦闘に役立つかも知れない。
「凶器は、彼女がいつも使っている鋏だ。そのなかでも特別大きなものを、その手に持っている」
 さらには、トラップヴァイン や弾丸鳳仙花に似た攻撃技も出してくる可能性がある。
 マヒや毒などのバッドステータスは、喰らうと厄介だ。
「花を扱うための手を、血で染めさせたくはない。どうかみんな、彼女の心を救ってくれ」
 立ち上がり、深々と頭を下げるリー。
 気持ちを同じくして、エンドブレイカー達は酒場をあとにした。


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参加者
多色のアスター・クィ(c03420)
ぴよたん刑事・キサラ(c05188)
灼断・トア(c12269)
主なき忠犬・ロベルティーネ(c14813)
レイディングディバイダー・ジェイナス(c15904)
ハッピーエンドの欠片を探して・エルリア(c22468)
水花の輪舞・リーアン(c22531)

<リプレイ>

●咲き損ねた花
 夜の公園は、それだけでなんとなく不気味である。
 がらんとした遊具達が、淋しそうに建っている。
 砂場にはスコップとバケツが転がり、いまにも動き出しそうだし。
 入り口にて、多色のアスター・クィ(c03420)はそんなことを感じていた。
「ぁ……」
 そして小さく声をあげると、指さした女性。
 足は地に付けたままで、キィキィとブランコを揺らしている。
「ごきげんよう、お花屋さん」
「お嬢さん。こんな夜更けに1人、どうしたんだい?」
 警戒されないように、まずは2人で近付いていった。
 主なき忠犬・ロベルティーネ(c14813)の呼びかけに、虚ろな視線が向けられる。
 その胸元に在る禍々しい仮面を、水花の輪舞・リーアン(c22531)は複雑な気持ちで視ていた。
「えぇ……人を、待っているのです」
「そうなんだ……けどその鋏は、花を美しく彩る為のもの。人を傷つけるものじゃあない、よ」
「うふふふ、綺麗な嫉妬のお花を咲かせたのね」
 無表情なままで発せられた、モモの小さな声。
 満足したように、リーアンもロベルティーネも微笑んだ。
「貴方達……知っている?」
 しかし2人の台詞を、モモは聞き流せない。
 キッと睨みつけて、立ち上がった。
 2人くらいなら、待ち人を迎える前にどうにでもできると思ったから。
「邪魔するなら、貴方達も消すわ」
「美しすぎて、わたしも嫉妬しそうよ。散り際もさぞかし綺麗なのでしょうね……うふふふ……」
「気持ちはわからないでもないけどなぁ……」
 しかし次の瞬間、モモは考えの甘さに気付かされる。
 笑いの影から、ハッピーエンドの欠片を探して・エルリア(c22468)が顔を出した。
「でも……」
 自身にも片想いの相手がいるため、確かに分かるのだ。
 恋をしているときの、刹那さだけは。
「でも好きならば、その人にとっての大切な人を、傷つけたいって思わないよね」
 胸を押さえて、エルリアは言い放った。
 モモへ、そして、自分へ、言いきかせるように。
「苦い恋の想い出として胸のうちにしまっておける方なら良かったんですが、本当に残念に思います」
 ブランコとモモを囲むように、どんどんと姿を現すエンドブレイカー達。
 灼断・トア(c12269)は、すでに『古びた魔鍵』を手にしている。
「だめだよ、あなたに彼女は殺させないの」
 クィが声をかけたのは、モモも鋏を構えようとしたから。
 許嫁さんはとっくの昔に逃がしちゃったよと、言葉を添えて。
「僕たちはエンドブレイカーだよ。相手になるよ!」
 モモを動揺させるには、充分すぎる事実だった。
 標的がいないことと、ぴよたん刑事・キサラ(c05188)達の正体と。
「悪いな、その業、紡がせてもらうぜ」
 レイディングディバイダー・ジェイナス(c15904)の一言が、開戦の合図。
 一気に、懐へと踏み込んだ。

●アナタに夢中だったから
 モモの反応が遅れた、その一瞬を逃さない。
「貴様の業を推し量れ!」
 駆けつつ、ジェイナスは『【七詩槍】アインザッツ』を突きだした。
 なるほどモモの身体は、マスカレイド化したことで硬くなっているらしい。
 復讐を遂げるまで生き延びるという、想いの顕われだろうか。
「何ともやり切れねえな。もっと早く見つかれば拒絶体……ってわけでもないんだろ? どっちにしろとめるしかねえ」
 だが、ジェイナスの攻撃も、決して負けてはいない。
 創りだされた幻影が、速さと威力を証明していた。
「くそっ……あの女さえっ、いなければっ!」
 予想外の出来事を受けての焦燥や不安が、言葉の端々から伝わってくる。
 モモの動揺を利用すべく、白髪の少女は地を蹴った。
「貴方の気持ちはわかったわ。でも貴方が見て欲しかった姿は、おめかしした貴方? それともその物騒なハサミを持った貴方かしら?」
 背後から接近して、細い両肩へと腕をかける。
 バトルトークの能力を発動させて、ロベルティーネが囁いた。
 振り払おうと薙ぐ大鋏は、ひたすら空を切るだけで。
「そんなのっ! 綺麗な私に決まっているじゃないっ! こうなったのも全部、あの女の所為よっ! 私がっ! アナタの隣にいるハズだったのっ!」
 エンドブレイカー達へとぶつかってくる、モモの必死の叫び。
 涙混じりの想いはとても強くて、重たくて。
「そう……けど、もういいでしょう?」
「よくなぃ……」
「いまの貴方を、彼に合わせることは出来ないわ」
 けどだからこそ、ここで止めないと、と皆も思う。
 モモの言葉を遮り、ロベルティーネはその首筋へと喰らいついた。
「いろいろとすっきりしない部分はあるけど、戦いが終わるまでは集中しないとね」
 真剣な眼差しを向けて、手裏剣を構えるキサラ。
 視線は合わずとも、救いたい気持ちが届くように、と。
「私も……その手を血で汚させたくないんだ」
 精一杯の力を籠めて、解き放った。
 咄嗟に差し入れた大鋏でも、流石に三連撃を弾くことはできない。
(「冷静になって考えて、みれば。許婚を殺害したら、想い出の1つである花屋へは、彼は二度と足を運ばなくなる、だろうに」)
 僕ならそうするのになぁ……と、独り頷くリーアン。
 自身も花が好きだからこそ、モモの行為を放ってはおけなかった。
「こんな仄かな恋心に、仮面は一体どんな甘言を囁いたんだろう、ね」
 胸の前で『†+ chacy tsvetka +†』をクロスさせると、思い切り突撃する。
「手が綺麗、と彼が言ったのは、本心なんだろう。君は、彼が、人が、喜んでくれるようにと心を込めて花を束ねた筈」
「あんな女のために、いままでっ! 花を選んでいたなんてっ!」
「だからこそ、彼は君に依頼した。君の心を、信じて。その、綺麗な手を。花を慈しむその手を、血で汚しては……いけない」
 既にモモは、冷静さなんて失っていた。
 それでももう一度、考え直して欲しかった。
 想い人の気持ちに、心を及ばせて欲しかった。
 綺麗と言われた、花に触れてきた手を、本当に、汚して欲しくなかった。
「あなたは、悪くないよ。ただ……ほんのちょっぴり魔が差しただけ。そう……だよね」
 リーアンと入れ替わり、クィが分身を創り出す。
 挟み込まれたモモは、大鋏を握り締めて双方を威嚇してきた。
「私達は、殺すことでしかあなたを助けられないの」
「あなたがマスカレイドになることを選んでしまったから……」
 左右から、現実を告げる哀しい声。
 できることなら……と、思わずにはいられない。
「いまあなたを殺すことで、他の人の命を助けることが出来るの。だから、私はその道を選ぶの」
 だがしかし、エンドブレイカーとしての正義を貫くために。
 決意も新たに、クィはモモを挟み撃った。
「一途すぎる想いは、歪んだときが怖いですねぇ」
 金色の大きな瞳をすっと細めて、右腕を前へと伸ばす。
 トアを囲むように、妖しく光る邪剣の群れが姿を現した。
「こんなことをすれば、いままで築いてきた彼からの信頼も失われてしまいますよ。いいんですか?」
「それはっ……」
「まぁ、今更ですが……」
 答えを待たずして、トアは邪剣を放つ。
 ここまで見事にマスカレイド化していれば、花屋の再開なんて不可能。
 なれば余計な情けなどかけない方が、モモのためだと思った。
「苦しかったよね。もう、終わりにしよう?」
 帽子の鍔に手をかけて、エルリアは問いかける。
 膝を折り、血を吐くその身を、羊毛が優しく包み込んだ。
「キミの分まで僕、がんばるからね」
 右手の『強打魔鍵』を頭上高く、鍵を閉めるように回すと同時に。
 ヒュプノスは消え、モモが大地へと倒れ込む。
 一筋の雫が、エルリアの頬に流れた。

●月下に想う
 エンドブレイカー達は、遺体とともに茂みへと身を潜める。
 時計を見遣れば、草木も眠るなんとやらな時刻。
 誰も来ないだろうが、それでも念には念を入れて、隠れることを選択した。
「では、往きますよ……」
 モモの身体に、トアが刻印を刻み込む。
 そうして全員で、1分間の黙祷。
(「私は……私はね、もっと小さかったときから、マスカレイドの仮面が見えていたの。それが何を意味するのか、知らないうちに識っていたのね」)
 祈りながらクィは、自分の過去へと想いを馳せていた。
(「だからなのかもしれないの。何度も恋をして、色んな別れが辛かったこともあるけれど、私はマスカレイドになることを選ばなかった……」)
 そしてきっと、ここにいるみんなも一緒だと、クィは思う。
 辛いことや苦しいことがあっても、心をしっかり保たなければならないと。
「……道を誤らなければ、彼女も誰かの隣で咲く『花』になっていたかもしれませんね」
 瞼を上げ、トアが口を開いたときには。
 死体は完全に、消滅していた。
「うぅ……」
「ビターな結末だったな。だがバッドじゃあない……それでいいさ」
 静かに涙を流すクィの頭を、ジェイナスがゆっくりと撫でていく。
 クィも言っていたじゃないかと、口の端を上げる。
 最悪じゃない。
 無意味でもない。
 だって、モモは罪を犯さずに済んだし、許嫁も救えたのだから。
「さて……戦闘の痕跡を消して、帰りましょう」
 すっかり、暗い雰囲気になってしまった。
 断ち切るように、ロベルティーネは呼びかける。
 『鉄屑』を、細身の箒へと持ち替えて。
「うん。僕に任せて!」
 エルリアも、明るく元気に筆とインクをとり出した。
 皆が持参していた掃除道具に、ブラウニーの絵を描いていく。
 穿たれた地面を埋めたり、飛び散った紅を拭きとったり。
(「傷心して、棘を手に入れてしまったのかな……」)
 そんな仲間を背に、入り口へと待機していたキサラ。
 『らぶ☆あっくす』を脇に置いて、警戒しながら思考を巡らせる。
(「マスカレイドになってしまったら、犯罪者より罪が重い。だって、倒さなければいけないんだから」)
 キサラは、最近のマスカレイド化傾向に、疑問と不審を抱いていた。
 自ら棘の力を欲する人が現れるなどと、まったく想定していなかったから。
「これ以上不幸な人を出さないために、原因を追及しないと!」
 ぼそっと、しかし熱い想いを胸に、拳を握る。
 これが、エンドブレイカーとしての自分に課せられた、次なる使命だと思った。
(「今回の出会いは、寂しい結末にはなったものの、心の成長の糧になっただろう……」)
 最終点検も終わり、異常なし。
 立ち去る間際、リーアンはブランコへと近付いた。
(「花が齎してくれた、その出会いを。君は恨む、だろうか」)
「手向けに……」
 モモの座っていた場所に、ゼラニウムの花を一輪。
 如何なる経験も、蓄積されて、自分という存在を形づくっていく。
 だから、モモとの出逢いも、大切にしたいと。
 眼を上げれば、月が静かに輝いていた。



マスター:織音夏景 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2013/04/29
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  • カッコいい2 
  • せつない6 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
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