ステータス画面

雪花葬送

<オープニング>

●冬花
 寒さに身を震わせていた季節が過ぎ去れば、人々は家を抜け出し仕事に精を出す。
 雪が積もっている間出来なかった、村の周辺の柵の補修。斜めに傾いた家の屋根の補修。そういえば最近、雨漏りがするんだ……そんな言葉が飛び交うも、人々はせっせと身体を動かす。
 ――春の恵みを見れば、この苦しい生活だって耐えられる。
「ほら、フキノトウよ」
 畑に顔を出した、小さな小さな新緑色。その姿を見て、女達は顔を見合わせ笑い合う。
「菜の花も咲いていたし、そろそろ食卓も豊かになりますかね」
 冬の保存食では無く、新鮮な野菜が食べられる事は素直に嬉しい。――そう、日々の小さな幸せ。その積み重ねこそが、彼等の『希望』である。
『あら……美しい緑』
 聞き慣れぬ声に女達が立ち上がり声のしたほうを見ると、美しい女が立っていた。
 くすりと微笑み、彼女が小首を傾げると黒檀の髪が零れ落ちる。頭を包む布も、着物も真っ白。――それだけで無く、彼女の手も純白だった。
『こういうのを見ていると……』
 涼やかでひんやりとした声が響く。美しい声色だけど、どこか恐怖に支配された心地になる。逃げなければいけない。そんな警告が頭に鳴り響くけれど、足が言うことを聞かない。
 ふう――。
 女が薔薇色の唇を少し尖らせると、急に冷たいものを感じた。

●春の希望
「マスカレイドによって、1つの村が滅ぼされる。これが今回の事件です」
 手に持つ扇を揺らすと、柔らかな風が起こる。漆黒の髪を揺らしつつ、ふう……と溜め息を零しながら扇の神楽巫女・ナミネは言葉を零した。
 事件が起きるのは、『セッカ村』と云う小さな村。なかなかに生活は苦しいようだが、村人達は前を向いて生活をしようと努力している。――だが、その真実。彼等はマスカレイドに殺される為に、この村に連れて来られた存在。この場に居る限り、既に死ぬ事が決定しているのだ。
「そのような事、許されません。人は、誰しも生きる事が出来る筈です」
 小さな唇をきゅっと締め、ナミネは語った。そんな彼女の言葉に、鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)も頷く。僅かに前髪で隠れた藍色の瞳は、真剣そのもの。
「で、その村を救いに行けば良いんだね」
「はい。どうかよろしくお願い致します……」
 深々と礼をするナミネに、ユリウスは頷き詳しい話を促した。

「現れるマスカレイドは全部で7体。全て、女のマスカレイドです」
 彼女達は長い漆黒の髪に、純白の着物を身に纏う。注目すべきは、両手が翼のようになっている事――すなわちピュアリィだ。既にギガンティアで見た者も、居るかもしれない。
 7体に個体差は無く、冷たい息を吹きかけたり、羽を使いこちらの守りを崩したり、その口から声を零して味方を回復する術を持つ。頭もそこそこ良い為、強敵だろう。
「ご注意ください。相手は戦う対象が格上だと分かると、直ぐに逃げ出してしまいます」
 逃げ出されたら最後。壊れた柵の多い村の中では、あっという間に外に逃げられるだろう。そうなってしまえば、再びこの村で同じような惨劇が起きる事は明白。
 ――だからと云って、手加減して勝てる相手では無い。
 いかに逃がさず、迅速に倒すかが重要な話になるだろう。
「……それだけじゃないよね?」
「はい。彼女達マスカレイドは、何故か植物を凍らせる事が好きなようです」
 雪解けもして、土と緑に溢れ始めたこの季節。彼女達にとっては、凍らせ放題と云う訳だ。
 故に、まず彼女達が近付くのは村の緑の多い場所――畑だ。
「畑は全部で3か所あります。それぞれ緑の量が違いますから、ご注意ください」
 1つ目の畑は村の中央。沢山の植物が生え、メインとなっている。その為此処に居る敵も多く、恐らく4体程居るだろう。足元が植物になる為、戦いにくいかもしれない。
 2つ目の畑は村の西側。此処まで着手はされていないらしく、ただ土がこんもりと盛られているだけ。故に敵は1体程。だが、何も気にしなくて良いので戦闘はしやすいだろう。
 3つ目の畑は村の南側。植物がそこそこ植えられている、1つ目と2つ目の間と言ったところだろう。敵の数は残る2体が此処に居る。戦いやすさも、中間だ。
 どこかで戦闘が始まれば、他のマスカレイド達も集まって来るだろう。――だが、道中植物を凍らせない、と云う保証は無い。場合によってはほとんどの植物を凍らせてから合流するだろう。
「その分相手が合流するのは遅れます。それを逆手にとっても良いですが……」
 出来れば、被害は最小限に。
 そう言いたげに、ナミネはきゅっと唇を結ぶ。勿論、最優先はマスカレイドの撃破と村人の無事。
 どうするかはエンドブレイカー達に一任すると、ナミネは語る。敵は植物を凍らせ終わるまでは、村人への攻撃は行わないようだ。今回の任務中、村人を気にする必要は無いだろう。

「今回現れるマスカレイドは、ただの野良マスカレイドです。アマツカグラを支配する層とは違います。けれど……どのような方法で、エンドブレイカーの情報が伝わるかは分かりません」
 知能が高いと云う事は、その情報が伝わる可能性も高いと云う事だ。故に、出来る限り逃がさずに全てを倒して来て欲しいと、ナミネは真剣な眼差しで語る。
「……お話が長くなりましたね。アマツカグラの為にも、どうかご協力お願いします」
「まあ、小さな事からコツコツと、かな」
 椅子に腰掛けていたユリウスが口を開いた後、集うエンドブレイカー達を見る。
「今回は僕もご一緒させて貰うよ。マスカレイドに支配された都市……放ってはおけないからね」
 ――これでお話は終わり。そう思ったのだが。
「そうです、セッカ村には小さいですけど温泉があるんです。無事に終わったら疲れを癒して下さい」
 その温泉は、本当に小さなもので足湯程度しか出来ないようだ。けれど、戦って疲れた体にはそれでも十分癒しをもたらす事が出来るかもしれない。アマツカグラの文化にも触れられる。
「今ならおそらく菖蒲を浮かべていますよ。魔を除ける……とのお話もあるようです」
 折角ですから、是非。ナミネは笑みを浮かべて語る。
 そんな彼女に、ユリウスは「気が向いたらね」と、いつも通りの様子で答えた。


マスターからのコメントを見る
参加者
夢現を彷徨う唄・クラスティーダ(c01510)
楓・ラン(c15073)
手折られた花・ジョシュア(c22256)
青二才・セト(c25288)
トンボーキマルシュ・ブラッドリー(c29224)
白雪に紛れし小花・ユーリ(c30911)
薔薇色の鎖・ルーセント(c31902)

NPC:鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)

<リプレイ>

●匣村の終焉
 華やかな街の外れの村と云っても、此処アマツカグラの都市は雰囲気が変わる。今まで触れてきた景色との違いに少し戸惑う者もいるけれど、エンドブレイカーの役割は変わらない。
「折角の幸せを壊させる訳には参りません」
 小さな村で。厳しいながらも僅かな幸せを糧として生きている。そんな村人を救いたい強い想いを、夢現を彷徨う唄・クラスティーダ(c01510)は抱き言葉を紡げば、薔薇色の鎖・ルーセント(c31902)が頷く。初めてのエンドブレイカーとしての仕事に少し緊張しながらも。
「そうですね、静かに暮らしている方々の命を奪うというのは許せませんね」
 風になびく緑の布地。1日1日の暮らしを大切にしている彼等を――その一心を口にした。
「植物を凍らせる相手……この村の作物を襲うこともですけど、これまで多くの自然を無意味に凍らせて失わせてきたかと思うと……個人的にもちょっと許せません」
 そんな彼等の言葉を耳にしつつ、白雪に紛れし小花・ユーリ(c30911)は風に泳ぐ白銀の髪を手で押さえながら口を開いた。彼女の澄んだ緑の瞳は真剣さが宿っている。それは自然を大切にしている彼女だからこその言葉だった。――愛するモノを傷付けられて、何かを感じない者はいないだろう。
 村の入り口に辿り着くと、そのまま彼女は手折られた花・ジョシュア(c22256)とトンボーキマルシュ・ブラッドリー(c29224)の側へと駆け寄った。
「ま、ぱっぱと片付けてそっちに合流してあげるから、間違っても仮面憑きより先に倒れたりしないでよ?」
 血色の瞳を細めて、ジョシュアは口元に笑みを浮かべた。――それは彼なりの信頼の言葉。彼の言葉に同意するように鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)は手を挙げ頷く。
 ――お互い頑張ろう。
 そう告げるように彼等は視線を交わすと、2班に分かれ村の中へと足を踏み入れる。
 5人の目指す場所は村の中央。数多の植物が並んでいるのが、遠目からでも分かる。寂れた村の中でも生命の息吹感じるその場は、少し異質な気もする。――だからこそ、最も村人に大切にされているのだろう。その様子を見て、青二才・セト(c25288)は深蒼色の瞳を悲しそうに細めた。
 その周りに舞う美しい女性――否。仮面が輝いている事がはっきりと分かる。
「ピュアリィも数の暴力ね」
 美しい白い羽を羽ばたかせ、黒檀の髪をなびかせる4体のピュアリィを見て、楓・ラン(c15073)は溜息を零した。少し浮かない表情をしているのは気のせいか――しかしそのまま、彼女は1体に向け見えない刻印を印す。異変を感じたのか、敵は一斉にこちらを見た。
「貴女方に村の皆様の幸せを壊す権利などありません。これ以上好きにさせませんよ」
 Arcobaleno porre fine allaの透き通る刃を光に照らしつつ、クラスティーダはピュアリィ達に言葉を放つ。――それと同時に彼の掌の石が煌めき、創造される黄金の蝶。
 その舞い踊る蝶が、戦の合図となった。

●舞い踊る鶴
 黄金の蝶が竜巻を起こせば、視界を奪われた敵は悲鳴を上げ真っ直ぐに此方を見る――いや、睨みつけると云う表現が適切だろう。愁いを帯びた瞳には、確かに憎悪の感情が宿っている。
 ぱらりとルーセントが魔道書を開くと、彼は手をかざし――。
「我が鎖で縛られし魔道書よ! その薔薇色の戒めの鎖を解き我にその力を見せたまえ!」
 紫色の眩い光が生み出されたかと思うと、その光は真っ直ぐに敵へと放たれる。
 ――自身の力不足を彼は気にしていた。けれどその力は、作戦と仲間との協力でいくらでも補えるものだ。だからこそ、全力でぶつかる。ルーセントはその信念を曲げず真剣な表情を浮かべる。
 続く攻撃にピュアリィ達は、溢れる自然への興味をすっかり失っている。目の前の敵を排除する。ただそれだけを思い睨みつけると、真っ直ぐルーセントとクラスティーダの元へ両腕を羽ばたかせ近寄る。ふう……口から零れるその吐息は凍て付くほどの冷たさ。身を拘束され、彼等は顔を歪めた。
 戦場の隅のほうに陣取ったセトは、そんな戦況を眺めつつ紫煙銃の銃口をピュアリィへと向ける。撃ち放った紫煙の弾丸は次々と敵に浴びせられ、続く攻撃にピュアリィは悲鳴を上げる。続きユリウスが敵に烙印を刻めば、両手の翼で頭を抱えるマスカレイド。
 乱れる戦場。すぐ傍にある畑を守りたい――その想いを宿し戦況を眺めるランは。
「動けない相手を護るのは難しいわね。農村の小さな希望ですもの、なんとかしないとだわ」
 小さな声でそう呟くと、墨色の髪をふわり揺らし。凍て付く嵐で1体にトドメを刺した。

 5人がマスカレイドと対峙している間――他班の3人は、南に位置する畑へと向かっていた。
「えっと……いました、あそこに」
 ユーリが指差した先には、乏しい作物の間を歩く美しい女性の姿。微かな植物へと視線をやれば、まだ被害は出ていないようだ。魔道書を持つ手に、きゅっと思わず力が入る。
「ねぇ……そんなの凍らせるより、俺らを凍らしてみなよ? そう簡単に凍ってやんないけどね?」
 握るガンナイフを敵へと向け、不敵に笑むブラッドリー。その声に反応して顔を上げるピュアリィに向けて、彼は数多の弾丸を撃ち放ち2体に傷を与える。その攻撃に反応を示す敵。此方を睨むと、一気に距離を詰め真っ直ぐブラッドリーを狙う。――だが、彼を庇うようにジョシュアが間に入った。
「君がこの子達を凍らせるなら……僕が君達を殺してもいいよね?」
 手に持つナイフを怪しげに煌めかせて。ジョシュアは不敵な笑みを浮かべる。
 彼だって花が好き。植物が好き。食べる為に育てられている作物も例外では無いのだ。そんな愛するモノを傷付けられて、彼はピュアリィ達には殺意しか宿せない。
 辺りを舞う妖精と共に素早く動けば、ナイフの刃が敵へと突き刺さり刃先に鮮血が流れる。一切の迷いも存在しない彼の攻撃――それは確かに致命的な傷になったが、今一歩足りていない。
「まずは……これです」
 すかさずユーリの放つ紫色の光線が、敵を貫いた。黒檀の髪を乱し、悲鳴を上げる相手。直ぐに癒しの声を放つが、その癒しを無意味にするようにブラッドリーの弾丸とジョシュアの妖精との合わせ技が敵を襲い、そのまま地に倒れ伏す。
 残る1体も早々に倒し、仲間と合流を――増援を気にしつつ、ユーリは次なる対象を見て魔道書のページを辿るように指先を添える。すると――。
 村の中央から真っ赤な花火が打ち上げられ、大きな音を立てる。
「あれは……敵は向こうに行ったみたいですね……急ぎましょう」
 それは事前に決めていた、仲間の合図。残る1つの畑に居る敵が中央班に合流していた場合は、花火を打ち上げると。その合図を得て、彼等は何も気にする必要が無くなった。
 きゅっと小さな唇を噛み締めて、ユーリは真っ直ぐに残る1体を見る。もう此方に増援が来る事は、仲間が全滅したと云う最悪な場合以外は無いだろう。ならば集中してこの1体を倒せば良い。
 改めて彼等は全力で、残る1体を打ち倒す為に死力を尽くし攻撃を再開した。

●天に上がる紅
 指先を天に伸ばすクラスティーダ。青空に咲き誇る真っ赤な花火が音を立てた事を確認すると、彼はくるりと向きを変え――新たに現れたピュアリィを一瞥する。
 どちらに合流するかは賭けだった部分がある。しかし、合流したからには全て倒す使命がある。
 なるべく作物の無い場所で――その意識の元、エンドブレイカーが立つのは畑の隅のほう。上手く誘導をすれば彼等の狙い通り作物に傷を付ける事は無いだろう。
 草木に魅了されていたピュアリィ達も、彼等に誘導されるように作物から遠ざかり近付いてくる。冷たい吐息が身を凍らせ、羽ばたく羽が守りを防いでいく。
 けれど彼等は冷静だった。ルーセントの紫光とユリウスの紫色の烙印が敵の理性を奪い、クラスティーダの創り出す黄金の蝶が強く輝けば、また新たな対象が冷静さを奪われる。――回復する術を持つ相手に、それは唯一出来る彼等の手段。役割を担う者皆が、何かを犠牲にし集中すればその効果を与えるのはさほど難しく無い。しかしそれは、相手の狙う対象が数多に渡ると云う面も持つ。
 自身に近付いてくるピュアリィに向かい、セトは少し距離を置くと凄まじい速度で弾丸を放つ。床に倒れ伏す1体の敵。直ぐにランは、次なる対象にチェイスを施す。
 ――1体増えたとしても、数では此方が優勢だ。そして戦ってみて、実力も此方が上だと彼等は悟った。……だからこそ、相手は何時逃げ出してもおかしくない状況。
 それを防ぐように、常にランとクラスティーダは敵の動きを見て回る。藍色と灰淡い瞳が油断無く動くが、理性を失った彼女達の動きは少し読めない。
 微笑みを浮かべたまま、ルーセントは捕縛具で相手を締め付ける。ランの生み出した光の剣が、一ヶ所に降り注ぐと共に悲痛の叫びが聞こえるが――それでも彼等は容赦などしない。
「残念でしたねぇ……これでお終いです」
 髪を振り乱す女に向かい、クラスティーダは威圧するような笑みを浮かべると、稲妻の闘気を篭めた槍を放ちその身を貫く。上がる雷光の眩い光。戦場に響き渡る悲鳴――すると。
「待たせた……あ!?」
 敵を挟み込むように現れる仲間。けれどジョシュアが声を上げる。――ユーリの助言により彼等は挟み撃ちをするように動いたのだが、それは少し遅かったか。いや、関係無かったのかもしれない。
 戦場に残ったピュアリィは2体。
 既に3体の仲間が倒されている。そこに3人もの援軍が現れて、逃げ出さないほうがおかしいだろう。何せ、倒された仲間は自身と同じほどの力を持っているのだから――。逃亡は、たかが相手の冷静さを奪う程度では防ぐ事は出来ないのだ。相手の身を封じる攻撃を過信してはならない。
「逃げるよ……!」
 慌ててセトが相手を追い、敵の懐から斬撃を浴びせる。ランとクラスティーダも退路を断つように動きはしたが――彼等には、移動後に放つ攻撃の術が無い。攻撃をされながらの撤退と、ただ塞がれた道を撤退する事。その違いは、考えれば分かるだろう。
 するりと横を抜ける2体のピュアリィ。視界の隅に黒檀の髪が流れ、純白の羽が零れ落ちる。合流班がやっと仲間と同じ戦線に立つが、既に敵は陣形からは抜けた後。
「直ぐに追うわ!」
「危険だから、止めたほうが良い」
 真剣な瞳で敵の逃亡した方角を見つめるラン。彼女が施したチェイスを辿れば追跡は可能だけれど――そんな彼女をユリウスは止めた。此処はマスカレイドに支配された都市、アマツカグラ。敵が逃亡した先には、どんな危険が待っているかは分からない。もしかしたら、強大な敵が待っているかもしれない。更に多くの大軍が潜んでいる可能性も有るのだ。
 その場合、既に1度戦闘を終え、僅かでも疲労している彼等では太刀打ち出来ないだろう。事前の情報が無い中に飛び込んて行くことが、どれだけ危険か――。
 きゅっと唇を噛み締めて、ランは静かに敵が逃亡した方向を眺める。
 ひらり、ひらり――零れ落ちた白い羽根を拾い上げ、セトは俯きつつじっとそれを見つめた。

●寂寞の村
 緑の無い地に倒れ伏せる、3体のピュアリィ。黒檀の長い髪を、美しい純白の着物を地に投げ放ち、土に汚れた姿は少し痛々しささえ感じる。けれど、エンドブレイカー達の胸に宿るのは――。
「えっと……ごめんなさい」
 申し訳なさそうにユーリは謝るが、これは合流班のせいでは無い。彼等の戦闘の作戦に問題は無かったのだ。全てを一斉に相手せず2班に分かれる……これも、1つの作戦。
 では何がいけなかったのか?
 考えを巡らせれば、やはりそれは『逃亡阻止』の一言に尽きる。
 全員が、敵の逃亡を防ごうと考えていたか? 考えていた者も、それに対する手段を考えていたか? また、中央班に近接で攻撃を行う者がいなかったのも原因だろう。
 逃げない相手ならば、何の問題も無く今回の事件は解決しただろう。しかし、事前に得ていた情報に対応しきれていなかった事は確か。それはやはり、彼等の作戦に穴があった事は否めない。
 重い溜め息を零す彼等の耳に、人の足跡が聞こえる。
「あの……」
 掛けられる声に、彼等は顔を上げた。模様に乏しい着物に身を包んだ男女……彼等は、このセッカ村の住民なのだろう。申し訳無さで、エンドブレイカー達の顔に影が浮かぶ。けれど――。
「ありがとうございました」
 彼等は一斉に、深いお辞儀をして感謝を述べた。その言葉に驚き、思わず瞳を見開くラン。そのまま灰淡の瞳を足元の畑へとやる――村で一番作物の多いその畑は。
「ピュアリィが現れたにも関わらず村人に被害も無く、作物も無事だったのは皆さんのお陰です」
 穏やかに微笑む女性が告げる通り、足元の畑に被害は無い。そう言えば、と。別の畑で戦っていたブラッドリーも被害はほとんど無かった気がすると言葉を零す。
 畑の被害が無かった事。それは確実にエンドブレイカー達の力だ。作物に注意を与えずに攻撃をし、被害が少ないようにと2班に分かれた。残る1体が居た場は作物も無かった為、被害は道中の雑草のみと最小限で済んだようだ。この功績は、誇るべき事だろう。
 けれど素直に喜べないのは、やはり敵を逃してしまった負い目があるからか。
「また来ないといいですけど」
 ランは瞳を伏せつつ語る。今後この村がどうなるかは分からない。――いや、現状のアマツカグラの状況を考えると、それは難しい願いなのかもしれない。
 とりあえずは、直ぐに起こる終焉を防げただけでも良かったのかもしれない。セトは笑みを浮かべる村人を眺め、瞳を細める。今日死んでしまったかもしれない彼等。そんな彼等が、生きているだけで幸運だと、視えない明日にも希望があると。そう想う日がくるのだろうか――。
 何も無い村だけれど、何かお礼を。そんな温かい言葉を掛けられ、エンドブレイカー達は少し戸惑う。多くの村人に囲まれた中、そっとユーリは敵の逃げて行った方向を眺める。
(「今回のもきっと一時のこと、ですよね……同じようなことが起こる前に、何とか出来ればいいのですけど……)」
 春を通り過ぎ、初夏の気配を感じるようになった風。しかし、僅かに陽が落ちた中吹く風は、まだ冷たさを感じる。――風に泳ぐ髪を押さえながら、彼女は先ほどの冷気を扱う敵を思い出していた。
 ――小さなこの村の未来。それがどうなるか……それはまだ、分からない。



マスター:公塚杏 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2013/05/11
  • 得票数:
  • カッコいい2 
  • せつない8 
冒険結果:失敗…
  • 生死不明:
  • なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。