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花翔ける虹の泡珠

<オープニング>

●花翔ける
 眩い陽射しを明るい黄緑に透かすのは、楓に似た葉をたっぷり茂らせたプラタナスの梢。
 遥か高みに広がる星霊建築の天を目指すかのようにまっすぐそびえる樹々は幾つも幾つも寄り添って、透きとおった深い緑の影とペリドットのきらめきにも似た木漏れ日踊る森を作りだしていた。
 森の中をぐるりめぐるように敷かれた煉瓦の道は、スリンク・スタンクの村へと続く道。
 初夏の木漏れ日揺れる煉瓦の道沿いには可愛らしい純白のポピーが咲き溢れ、けれど盛りの時期を越えたポピーたちは流れる風にふわりふわりと雪のような花弁を舞わせていく。
 甘やかなシナモン色した煉瓦の道が始まる森の入口につどうのは、足元を覆うふさふさとした毛が特徴的な大型馬をつないだ幾つもの馬車たちだ。涼やかな緑の香りと陽の匂いを抱いた風が森から吹き始めれば、ふわりふわりと流れてくる真白な花吹雪の奥を目指して馬車たちが走りだす。
 軽快な速度で煉瓦の道を駆ける幌なしの馬車に乗れば、全身に感じられるのは清涼な初夏の風と鮮やかに模様を変えていく木漏れ日の光と影、そして眩いくらいに白いポピーの花吹雪。
 思わず顔を綻ばせずにはいられない爽快な感触を満喫したならば、手元にあるものを取るといい。
 馬車に備えられているのは透きとおる硝子瓶に揺れる石鹸水や、葦のストロー、細い針金をくるりとねじったまぁるい輪。淡い淡い虹を溶かした石鹸水に葦のストローや針金の輪をつけて、そっと息を吹き込み風にかざせば、流れる虹を抱いたしゃぼんだまが幾つも幾つも溢れだす。
 春の終わりとともに風と旅立つ花を、数多の色彩を抱いた虹色の泡珠で送りだそう。
 花翔ける森に虹の泡珠が踊る、スリンク・スタンクの虹送り。

●花翔ける虹の泡珠
 流れる風そのものがきらめき始める初夏、都市国家中層、北寄りにあるスリンク・スタンクの村に、一年のうちでもっとも素朴で、もっとも楽しい祭の季節がやってくる。
「何かねもうね、初夏の木漏れ日と森の風の中を駆けてくとね、純白のポピーの花吹雪と前の馬車のひとたちが飛ばしたしゃぼんだまがね前からふわぁって来るの。も、それだけですっごい幸せ〜」
 陽に透かした蜂蜜めいた金色の瞳を輝かせ、扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)が酒場に居合わせたエンドブレイカーたちに『スリンク・スタンクの虹送り』と呼ばれる祭の情景を語る。
 明るい木漏れ日と鮮やかな緑の影揺れるプラタナスの森を駆け、爽やかな風や弾むような馬車の揺れを感じ、真白なポピーの花吹雪に虹の泡珠をいっぱい飛ばす。
「も、ほんとにそれだけなんだけどね、なんでアンジュこんなにうきうきするんだろ」
 幸せそうに声を弾ませた娘は、良かったら一緒しない? とエンドブレイカーたちに誘いを向けた。
 流れる風に旅立つ花々と虹の泡珠が、きっと日頃の忙しなさに縛られた心を解き放ってくれるから。

 虹色のしゃぼんだまが沢山飛べば飛ぶほど楽しいし、大型馬が牽く馬車は何台も用意されている。
「別にみんな一緒でなくてもいいから、好きな馬車に適当に乗ってね沢山しゃぼんだま飛ばそうね」
 初夏の陽気に汗ばんだなら、馬車に用意されている冷たいチェリーソーダをグラスに一杯。
 深い柘榴色にきらめくソーダは甘味と酸味と炭酸の刺激が素敵な幸せの味、そして石鹸水にそっと数滴落としたなら、ほんのり明るいルビー色のしゃぼんだまを作ることだって夢じゃない。
 たとえば露草の花水を使ってみるとか、大きな桶とフラフープなんかで誰より大きなしゃぼんだまを目指してみても面白い。たとえぱちんと弾けてしまっても、その分みんなの笑い声が楽しく弾けてくれるはず。
「それでねあのね、村のひとが『このひとになら任せてもいい』って思ってくれたなら、自分でね馬車を駆ることもできるの。誰でも任せてもらえるわけじゃないけど、やってみたいひとは挑戦してみて」
 鮮麗な光のかけらを踊らせる森、甘やかなシナモン色の煉瓦に優しく軽快に響く蹄鉄の音。
 涼やかな風に流れる真白なポピーの花吹雪に淡い虹を抱いたしゃぼんだま。
「ほんとにねほんとにねそれだけのお祭りなの。飲み物はチェリーソーダだけだし自分で食べ物飲み物を持ってったりもできない。何より風の薫りが心地いいとこだもん、煙草もご法度」
 だからそれでも絶対に楽しめると思えるひとだけ、一緒に行こう?
 笑みを綻ばせた彼女はそう紡ぎ、瞳を緩めて言葉を続けた。
「あのね、また逢おうね」
 初夏は木漏れ日と緑の影が一番綺麗な季節だと思うから。
 いつかこの光と影が過ぎ去っても――きらめきの思い出を語り合える相手がいれば、きっと幸せ。


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参加者
NPC:扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●虹色花風
 流れる風そのものが眩い光を孕み、風にさざめく若葉は瑞々しい光の粒子を纏って、透きとおった木漏れ日をきらきらと零す。鮮やかで軽やかな梢の影が揺れるのは、甘やかなシナモン色の煉瓦を敷きつめた森の道。森の入口には幾つもの馬車とそれを牽く馬たちがつどい、花の風を待っていた。
 居並ぶのは足元をふさふさとした毛に覆われた、堂々たる大型馬。
「何だおまえ可愛いな……!」
 確り自分の姿を見せるよう正面から向き合い挨拶すれば、込めた心が伝わったのか馬は氷砂糖をねだるような気軽さで顔をすりよせてきた。破顔してケイは明るい白の鼻面を思いきり撫でてやる。
 泡珠の浪漫を追うのもいいけれど、叶うなら最上の特等席に浪漫を求めたいところ。
「アンジュ、一緒にお世話しないかい」
「わ、するする〜!」
 澄んだ瞳をした馬の顔を拭いてやりつつユリウスが呼べば、扇の狩猟者・アンジュ(cn0037)が声を弾ませ駆けてきた。宜しく頼むさねと語りかければ馬の耳が機嫌よく揺れたから、きっと言葉は通じているはずと顔を見合わせ笑いあう。丁寧にブラシをかければ、黒い毛並みが艶々と輝いた。
 特徴と呼べるほどの馬好き気質は相手にも伝わるもの。気遣いつつ優しく話しかければ馬はぴんと耳を立て、ハルネスに興味を示してみせた。髪を束ねるリボンを引っぱられたけど気にしない。
「特等席、乗ってみる?」
「うん! 綺麗なしゃぼんだま見せたげるね」
 任せてもらえた馬車の上から声をかければ、瞳を輝かせたアンジュが硝子のカラフェを抱いてひらりと御者台の隣に飛び乗った。馬車を任されたのは馬自身から信頼を得た三人だ。ケイとユリウスも其々仲良くなった馬の手綱を握る。
 森の香を抱く風に純白の花弁が混ざり始めれば、馬車は次々に煉瓦の道へと駆け出した。
「うわぁ、ドリー見てみて。ホントの花吹雪なんておにーさん初めて見たよー」
「わあああ……!」
 明るい橄欖石の色に透きとおる木漏れ日の中、真白なポピーの花弁が吹きつけてくる。溢れるように舞いあがるのは虹色煌くしゃぼんだま、満面の笑みでナチェスティティが声をあげれば、ドロシーも幸せいっぱいに笑みを咲かせて感嘆の声をあげる。
 爽やかな甘酸っぱさで喉を潤し、チェリーソーダを石鹸水に落とせばストローの先から生まれるのは明るいルビー色の泡の珠。小さなそれを幾つも飛ばせば白い花吹雪に色を添える気分でレムネスの心も浮き立った。流れる森の景色と爽快な風に舞う花吹雪に宝石色の泡珠が踊る様は華やかで、綺麗ねとルーウェンがうっとり溜息を洩らす。それはまるで、手に掴めない夢のよう。
 楽しい旅立ちに胸弾ませて、馬車の後部に腰かけたエルスは花吹雪の中に大きな泡の珠ひとつをふんわり飛ばす。珠が高く昇れば、それを覆うようにして誰かの飛ばした小さなしゃぼんだまの群れがアーチを生みだした。きゃあと声をあげた少女がぱたぱたと足を揺らす。瞳を緩めたカーンは長い竹筒に再び息を吹き込んで、眩い木漏れ日をプリズムみたいに散らす泡珠のアーチを作りだした。
 花と虹の泡珠のアーチを潜り抜け、馬車は軽快に駆けていく。
 流れる木漏れ日は閉じた目蓋にも感じられた。初夏の風は戯れるように髪を肌を撫で、煉瓦の道を駆ける馬車の振動は手に足に全身に伝わってくる。幸せを胸いっぱいに吸い込んで、せーので瞳を開いてみれば――。
 鮮やかに踊る光の中、真白な花吹雪と皆で飛ばした虹の泡珠が大きな渦を描きだした。
 わぁと明るい声があがるのは、空で孵った虹の卵からふわり薔薇の香りが広がったから。仕掛けはセンティフォリアに咲く薔薇のエッセンスよとマデリーンが片目を瞑ってみせれば、満面に笑みを咲かせたワンダが再び胸いっぱいに初夏の風を吸い込んだ。
「今年の夏の香り、いつもより幸せな気がするの」
「幸せの笑顔が弾けるくらいに、な」
 俺も幸せよと軽く笑ってミカは淡い虹を含んだ水に命を吹き込む心地で葦を吹く。小さな虹と幸せの卵が溢れだせば、シンクレアが作りだした大きな泡珠とくるくる踊るように回って遥か高い梢の上まで飛んでいく。弾けた泡からは薔薇の香りが零れて風に流れて。
 羽ばたこうとする頭の鳩を抑え、悪くない、と少年は微かに口元を綻ばせた。

●虹色泡珠
 透明な虹色の膜から透かし見るのは初夏の森に流れる純白の花吹雪。
 明るく弾けるフィアールカの掛け声に併せて息を吹き込めば、ユユの針金からはほんのり薔薇色に染まる虹の泡珠が風に踊る。フィアールカの針金から溢れだすのは淡い菫の虹を抱くしゃぼんだま。
 花の色と香を抱いた泡珠は清涼な風に乗り、光溢れる世界を何処までも翔けていく。
 石鹸水を含ませた葦を咥え、夢を乗せる心地でそうっと息を吹き込んで。
 溢れだした泡珠を抱いた風は虹の麓まで夢を運んでくれるのじゃよ、とラヴィスローズが幸せそうに笑うから、へらりと笑み崩れながら言われたとおりにマンジもそうっと葦を吹く。ふわり膨らんだ大きな泡珠がぱちんと弾ければ、虹のかけらがきらきら零れ、二人の間にも笑みが咲いた。
 泡が弾けた分だけ、きっと、幸せ。
「……これ実はただの水だったりしねぇか?」
 巧く泡珠が作れないのに業を煮やしたマウリは、ちょっぴり飲んでみた石鹸水で盛大に咽せた。
 傷は浅いよしっかり〜と彼の背を擦り硝子のカラフェから注いだソーダを渡したアンジュは、あくまで優しくがコツかなぁ、とふんわり葦を吹いてみせる。幾つも生まれた小さな泡珠が風と花と流れゆく様に瞳を細め、カルーアも見様見真似でそうっと葦に息を吹き込んだ。
 流れる泡珠はほんのり木漏れ日の色。果実の香り溢れるソーダを落として明るいルビー色の泡珠を飛ばしてみれば、眩い宝石色の虹がプラタナスの梢にきらめきの橋をかけた。
「ねえアンジュ、こういうのを幸せっていうんだよね?」
「言うのかな、言うよねきっと……!」
 嬉しげにユウが声をあげれば楽しげにアンジュが笑う。
 煉瓦に響く蹄鉄の音は軽やかなリズムを刻み、回る車輪の音は賑やかな歌を唄う。
 馬には慣れていたつもりだったけれど、どう接すればいいのか咄嗟には思いつかなかった。残念、と呟きロゼリアは、心地好い馬車の振れに身を委ねる。馬車を牽いて駆ける大型馬と併走するのはどう考えても危険だったから、レティシアは馬車から飛び降りるのを諦めた。
 梢の合間からきらきら降る木漏れ日に、泡珠の虹を描きだす。
 甘酸っぱい風味と心地好い炭酸の刺激は初夏の幸せ。
 喉に滑らせた冷たいチェリーソーダを石鹸水に落とせば薔薇の色、針金の輪を潜らせたルシエルは馬車から身を乗り出して、流れる花弁を捕まえルビー色にきらめく泡珠を作りだした。
 純白の花を捕らえた淡い薔薇色の泡珠はまるで不思議な細工物。素直な感嘆の声をあげるラツの様子に笑みを零し、一緒に飛んでいけるような心地さえ覚えてノクチュアは泡珠の流れを追う。きらりと紅の光渡る泡の向こうに見えた娘に手を振って、いつになくはしゃいだ様子で石鹸水を手にするフェイランに誘われるまま細い葦を手に取った。
 溢れだした虹の泡珠は伸びやかな花の風に乗り、優しくも鮮やかな光と影の中に踊る。
「見て見て、フェイ! 凄く綺麗!」
「……凄いわ。本当に別世界のようね」
 弾けるようなラツの声に、少女は眩しげに瞳を細めた。
 虹のたもとには宝物が眠る。
 そんな御話があったけれど、今日は虹が弾けたところに宝物。
 泡珠が弾けるたびに皆の笑顔が弾ける様が楽しくて、ハルはそのたび張りきって幾つもの泡珠で虹を生みだした。泡は弾けて消えてしまうけど、これだけ笑顔が咲くならきっと泡も冥利に尽きる。
 ――あとは、オレが覚えていてあげるから。

●虹色旅風
 流れる虹を張った針金の輪に白の花弁を捕まえて、ふわり大きな泡に閉じ込め風に飛ばす。
 虹の珠がくるりと回れば、中の花弁も七色映してふわふわ踊る。泡珠に入って知らないところまで飛んで行けたらきっと素敵。ゆらゆら風任せの旅に思い馳せ、ミューは柔らかに笑んで問いかけた。
「アンジュだったら……どんな場所へ行ってみたい?」
「暁の空のね、果てにあるところ……かな」
 清涼な風に流れるように明るい木漏れ日の光と影がめまぐるしく模様を変えていく。前方からふわり溢れくる泡珠の風に包まれたカノープスは瞳を輝かせ、負けじと楽しげにストローを吹いた。
「ねえ、セシル! 今のすごく綺麗に連なって飛んでいったわ」
「ふふ。姫君のご機嫌も宜しい様で何より」
 少女のようにはしゃぐ彼女の様子に目元を和ませ、セシルも風に舞う泡珠の姿を追う。
 柘榴の色に煌くチェリーソーダを落とし、淡く色づく石鹸水で泡珠を作れば明るいルビー色の虹。
 ラディアタさんの瞳と同じ色とティタが嬉しげに声を弾ませたから、ラディアタは驚いたように紅玉の瞳を瞠る。きらきらしてとっても綺麗と笑う少女の頭を撫で、ティタの優しい瞳の方が綺麗と呟いた。
「ジャンヌ殿、敵将に教えを請う恥を忍んでお頼み致します」
「そんなに畏まらなくても……!」
 突然三つ指ついたチヅルの様子に慌てつつ、巧く泡珠が作れないという彼女にジャンヌは、慌てずゆっくり吹いてとコツを教授する。コツを掴んだなら二人並んで、どちらが遠く飛ばせるかで勝負。
「……きゃー!?」
「っと、危ない」
 馬車から思いきり身を乗り出したラフィニアが落ちそうになったのを、間一髪でジンが支えた。瞬きしつつも楽しげに笑って、少女は細かく裂いた麦藁のストローで小さな泡珠をたっぷり風に飛ばす。
 虹色の泡が光の帯を生む様に、ジゼルがよーし私も、と腕まくりをすれば、掌に雪のような花弁を受けとめていたベンジャミンがくつくつと肩を揺らす。笑ってなんかないさと何かを噛み殺す彼にむむむと眉を寄せ、ジゼルは明るいルビー色の虹を抱いたしゃぼんだまをふんわり解き放つ。
 瞳を緩めたベンジャミンも泡珠を飛ばしたから、ジンも一緒になって泡珠を作りだした。
 幸せに彩られた泡に包まれるような、優しい、優しいひととき。
「とっておき、一緒に見ない?」
「わ……!」
 秘密めかして囁くイリューシアの手には空色の虹を張った針金の輪。
 暁に蒼天に星空の色まで抱いて揺れる虹。胸の奥の気持ちをそっと吹き込めば、虹は空色の泡となって舞いあがる。弾けたならきっとと小さく紡がれた言葉に、アンジュは笑みを零して頷いた。
 瞳と同じ色に煌くソーダは甘酸っぱい果実の風味、思わず細めた瞳の前を、淡いラベンダーの虹を抱く泡珠がふんわりよぎる。長い指がそっと伸ばされる様に小さく笑んで、お主の手など届かぬ処へ往くよとシユが予言した。途端に流れた風に攫われ、虹の珠は梢の彼方。
 当たれば佳い事が在ると自慢げに語るから、エアハルトは笑みを洩らしつつ彼女に返す。
「佳い事まで飛んでったら、どーしてくれる」
「……仕方ない、佳い事在ったら、お主にもお裾分けしてやろうな」
 淡い虹のきらめきが呼び覚ます、澄んだ憧憬。

●虹色夢珠
 零れる光はきらめく橄欖石のかけら。
 眩しさに瞳を細めれば夏の気配が感じられ、浮き立つ心地でネウは口元を綻ばせた。
 願いを込めて息を吹き込めば、葦の先からは幾つも泡珠が溢れだす。風にくるりと回れば淡い虹の輝き流れ、珠はふわりと彼方へ飛んでいく。どうか虹のはじまりまで、飛んでいきますように。
 砂糖でしゃぼんだまが長持ちすると聞いたから、チェリーソーダを落とせばきっと。
 楽しげに笑みを零してユーレティアが淡い薔薇色に石鹸水を染めるから、流れる森の景色を眺めていたエルナンドも彼女の姿に瞳を緩めて笑う。こんな日くらいは童心に返ったってきっといい。
「折角だから、私も飛ばそうか」
「では、競争ですよ」
 紡げば珍しく彼女が無邪気に笑ったから、彼も破顔して虹の泡珠を風に乗せた。
 舞い踊る白の花弁を虹で送れば、輝ける夏がやってくる。
 過ぎゆく季節を虹の珠で送る虹送り。
「……これって愛だよなぁ」
「何か言った〜?」
 感慨と共にキリエが呟けば大きなしゃぼんだまを飛ばしたティアルに瞳を覗き込まれたから、跳ねる鼓動を抑えて何でもないと首を振った。鮮やかな柘榴色に透きとおるソーダを硝子杯に満たし、また来ようと約束を紡いで杯を鳴らす。
 鮮やかな七色に染めわけた石鹸水を前にエプラスは思案顔。
「……欲張り過ぎでしょうかね?」
「遊びの時くらいはね欲張りでいいと思う〜」
 首を捻る彼女に微笑んで、アンジュは他にも七色の泡珠を飛ばしたいってひとたちがいるのと誘いを向けた。皆で真白な花のキャンバスに虹を描けるなら、と彼女も顔を綻ばせる。
 馬車の外にかざされたフラフープから生まれるのは、超特大のしゃぼんだま。
 一瞬浮かんだそれはすぐに弾けたけれど、皆と一緒に思いきり笑って、ナハトは詰めた席に二人の客を迎え入れた。アオの手元に揃うのも七色の石鹸水、けれど使った草花の違いでエプラスのものとは少し色が違う。草花の色って深いねと呟くアンジュに頷いて、彼は皆で七色を飛ばそうと楽しげに声を弾ませた。
 合わせれば八人になったけれど、うちは透明なしゃぼんだま飛ばしたかったんやとサリシェスが告白する。七色に混じって透明な泡珠が踊れば、きっと更に華やかな彩りになるはずだ。
「折角だから虹の並びどおりにしてみようよ!」
 風の心地好さに心弾ませ、迷わず緑色の石鹸水を選び取ったズィーが提案すれば、皆も其々色を選び取っていそいそと位置を変えた。甘酸っぱいチェリーの赤を手にしたゼルディアは、隣で揺れる橙色の石鹸水を覗き込む。
「アンジュさんはどんな虹をとばすの?」
「すごくね、欲張りな虹」
 針金の輪とストローで生み出されるのは二重の泡珠。
 ならばわしもとネモは両手で作った円い輪を石鹸水に浸した。淡い藍に揺れる虹を風にかざせば、流れる風に誘われた虹の珠が身体の中から零れだす心地。
 皆でしゃぼんだまを飛ばせば、七色と透明な珠が鮮麗にきらめく虹の軌跡を描きだした。
 眩い光の滴に瞳を細め、アオは初夏の色彩を心にとめる。
 きっと、忘れない。
 純白の花々と虹色の泡珠は、幾度も出逢いそのたびに風の中で円舞曲を踊る。
 散華に泡沫、儚いもの同士が出逢って弾ける刹那の逢瀬は胸に淡い何かを呼ぶ。けれどその瞬間に降るきらめきはロータスの心を震わせた。
 花も泡もきっとこの刹那を歓んでいると信じて、彼は再び泡珠を飛ばす。
 木漏れ日弾む中に白の舞姫が踊るから、ユゼリアも笑みを零して虹色の泡珠を送りだす。
 旅立つ春と見送る夏がひとたび手を取りくるりと回る。
 心浮き立つそんな別れの挨拶が愛しくて、いつか旅立つ日にはこんな風にとの憧憬を胸に抱いた。
 口遊む唄は軽やかに華やかに、旅路への祝福を乗せて。
 再びめぐりくる日に期待を抱いて、今は虹の色で花々を送りだした。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:58人
作成日:2010/06/25
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  • えっち1 
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