ステータス画面

胡蝶が見る夢

<オープニング>

 美しい軽装の振袖に身を包み、アラシは部下に攫わせてきた青年を組み伏せ、満足そうに笑みを浮かべた。
「そう、怯えるな」
 誰も居ないあばら家で囁かれた声は、低い。
 アラシは男。立派な公家の男であり、マスカレイドである。
 この日は、ほんの少し息抜きをするために、好みの青年を攫わせて来たに過ぎない。
「やめろ!」
 帯を解くアラシの手から逃れようと青年はもがくが、両手は頭の上で柱に縛られ身動きがとれない。
 素肌を撫でるアラシの手は女性のようですべらかだが、青年は別に男に興味があるわけでもなければ、見ず知らずの相手に身体を許すつもりもない。
「慣れれば、直ぐに快楽に溺れるさ」
 怪しく耳に息を吹きかけるよう囁き、アラシの指は青年を翻弄しようとする。
「変態! 触るな気持ち悪い!!」
 青年のその言葉がタブーであった。アラシの爪は鋭く伸び、青年の心の臓を貫いていた。
「新たな公家の情報を手に入れました」
 番傘を片手に、花守蜜蜂・スズ(c24300)は、エンドブレイカー達を見渡した。
 相手はこの地の内政を納めるマスカレイドの一人。滅多に外に出ないが、退屈を埋めに今回はお忍びで出てきたようだ。
 ただ問題なのは、彼の好み。
 アラシは女性の姿をし、男が好きである。
 街中から好みの男を部下に攫わせ、ゆっくりと隠れ宿で味わう。それが、彼の密かな趣味。
 今回部下が攫う男は、夕方の路地を歩いているとこを狙われる。暴れられないよう、眠り薬を嗅がせ捕らえ、念のため縄で両手を縛る。
 そうやって二、三人の男を捕らえると彼らは男を抱え、隠れ宿へと運んでいくようだ。
 隠れ宿は、街外れにあることは確かだが。正確な位置までは分からない。だが、それは同時に他の者が来ないような場所でもある。
 普段であれば周囲に大勢の部下がいて近づくことも困難だが、この時はたったの四人しか連れていない。
 彼を討ち取るには、絶好の機会というわけだ。
 アラシは、襲撃などが起こっても積極的に関わる気がなく、相手にできる男がいれば、そちらに集中しているだろう。だが彼の気に障ることを言えば、直ぐに攻撃してくる。
 毒を持った爪を持ち、雷と桜を呼ぶ舞を扱う。戦闘慣れしてないとはいえ、そこそこの強さがあるので気をつけたほうがいいだろう。
 部下四人は、アラシが楽しんでいる間は、建物の外で出入り口を見張っており。野太刀を振るい攻撃してくる。
 当然、中で戦闘がはじまれば彼らは駆けつけアラシを守ろうとするだろう。
 騒ぎを大きくしたり、必要以上に時間を掛けすぎれば、他のマスカレイドが異変に気づき集まってくる可能性があるので注意が必要だ。
 状況が悪くなった場合は、見切りを付けて撤退する事も念頭に入れておいたほうがいいだろう。
 エンドブレイカーが敵の手におち、この拠点の場所が露見するような事があれば、アマツカグラへの足がかりを失ってしまう危険もある。
「ここで倒すことも大事ですが、全員無事に戻ってきてください」
 祈るような気持ちで、スズは一同を送り出した。


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参加者
わんぱく戦士・コンラッド(c00353)
猛毒の射手・ショーティ(c01093)
阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)
銀牙狼・アルジェン(c02363)
ブラックラック・バラノラ(c13473)
清き純白・スーリス(c28034)
灘の鬼将・マサヨシ(c32163)
世界が嫉妬するほど美しい・リーナ(c32966)

<リプレイ>

●夕闇に染まりて
 その小さなあばら屋は、粗末ながらも中は整えられ新しい畳が敷かれていた。
「さて、お前はどんな艶姿を見せてくれるのだろうな」
 緩やかな笑みを浮かべ、アラシはうっとりと灘の鬼将・マサヨシ(c32163)のたくましい胸板に触れる。
 その声が低くなければ、アラシは美女といっても問題のない容姿を誇っていた。
 とはいえ彼は既にその正体を知っている。
 思わず引きつりそうになる表情を抑え、毅然と振る舞い。柱に後ろ手に縛られた、ブラックラック・バラノラ(c13473)は、仲間に場所を知らせようと、彼らにだけ届くアラームをあげ続けた。

 時を遡ること、数刻前。
 血のように赤く、朱に染まる道を一人の青年が早足で帰路に向っていた。
「あの……この先に行かれるつもりでしょうか?」
 逃げてきたような雰囲気を纏い、清き純白・スーリス(c28034)は青年に話しかけた。普段の彼女とは違い、街に馴染んだ目立たない服を身に着けている。
「それでしたら止めた方がいいかと。怖い人が争っているのです」
 突然の言葉に、青年は胡散臭そうな顔で彼女を見返したが、近道が出来ない程度の問題。厄介事に巻き込まれるよりはマシだと別の道へと。
「不思議なものですね……棘霞に支配されない世界は夢見たものなのに……今は怖ろしく禍々しい」
 物陰で様子を伺っていた銀牙狼・アルジェン(c02363)は、立ち去る青年の背と、その先に広がる街の様子を眺め淋しそうに言葉を紡ぐ。
「結局、此処は過去のアマツカグラ……僕達が生きて生活したあの場所とは、違うのでしょうか……」
 事前にこの辺りの路地と街を調べてきた分、その心中は複雑なものでいっぱいだ。
「物思いにふけるのもいいけど、まずは相手さんの根城を掴まないとな!」
 屋根の上から路地の方を伺っていた、わんぱく戦士・コンラッド(c00353)が、頑張ろうと笑みを見せ、再びその視界を路地の方に合わせなおした。
 囮の二人が路地を歩く様子を、近くの物陰からマスクを装着した猛毒の射手・ショーティ(c01093)と、阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)が見守っている。
「うふふ……イイ趣味してますね。衛生兵として気持ち悪くて、凄くイヤよ……」
「昔住んでいた場所が、こんな状況になっているというのは見るに忍びないですね。今も 昔も、偉い立場にいる人の悪事と言うのは耐えなかったのでしょうけど……」
 密かに冷笑を浮かべるショーティに対して、ルーンの表情はどこか悲しげである。
 そして、反対側では、世界が嫉妬するほど美しい・リーナ(c32966)が、囮の周囲を伺っていた。
 程なくして囮の二人をアラシの部下が襲撃し、攫っていくのであった。

●彼の好きな彼
 軽々と大人の男を抱え、アラシの部下達は街路を屋根の上をと駆け抜けていく。
 囮となってくれた仲間にチェイスを着けていたが、それも時間切れ。ショーティとルーンは後方の仲間を振り返った。
 スーリスが手綱を取るグランスティードの背より、ホークアイで追っていたコンラッドも首を小さく横に振った。
 部下たちは、住居が密集する一角に降りてしまったのだ。曲がり角も多く見通しは悪い。これでは、ホークアイで姿を追うことは不可能だ。
 アルジェンが事前に調べた地図を開き、見失った場所を洗い出すと一同は急ぎ駆けつけた。到着するなり、救援の声が聞こえないかリーナは耳を澄ましたが、まだ声は上がっていないようだ。
「……ありました! この先に!?」
 道の片隅に転がっていた色石をルーンが拾い上げる。
 地図では、その先は住居が点々とまばらに立ち、雑木林や畑が広がっている。密むには格好の場所が広がっていた。
 一方、囮の二人はあばら家に連れ込まれ、柱に後ろ手に縛られていた。
「お目覚めかしら?」
 既にマサヨシは、奥歯に仕込んだ気付け薬を噛み潰したことで気がついていたがパラノラと同じように、気付いたばかりのように振る舞う。
 ゆるりと笑みを浮かべ、アラシは二人を上から下までじっくり眺めた。
「あのう……何故、僕らはこのような状況になっているのでしょうか?」
 怖々とパラノラが見上げると、近くに顔を寄せそっと彼の頬をなぞる。何も知らなければ、女性と間違えたかもしれないが、彼は男。鳥肌が、ぞわっとたった。
 それを悟られないよう戸惑い混じりの笑みを浮かべ、仲間へアラームを発する。
「なかなか、いい顔をしているじゃないか?」
「いやいや、自分達はノーマルなのでご遠慮したいかなって……そうゆう事はそっち系のお店でしてくださいよ。無理矢理いくない」
 迫るアラシを怒らせないよう出来る限り言葉を選び、そっと視線を逸らす。
 だがアラシは、先ほどから気になっていたのだろう。恋でもするかのように、熱い視線をマサヨシに向けている。
 彼はアラシの好み、そのまま。ほんの少し鋭さのある目も、筋骨のバランスの取れた体格も彼の好みである。しかも美丈夫とくれば、言うこと無いだろう。
「やや、そのお召し物。貴公は、やんごとなきお方とお見受け致す!」
 攫った張本人とは思っていないかのように、羨望のまなざしで声を掛け助けを求めると、気を良くしたのかアラシは彼の縄を解き始めた。
 やたらと手や指に触れてくるが、ここは我慢だとマサヨシは自分に言い聞かせ、アラシの振る舞いに耐える。そして彼の指先は、縄を解いた腕から、鎖骨をなぞり胸元へと伸ばされる。
 パラノラは先ほど密かにマサヨシから受け取った剃刀で、縄を斬りつつ早く見つけてくれと切に願った。
 もうこれ以上は、色々と操が危ないと我慢の限界までアラシが迫ったところで、爆音が響く。
 そしてアルジェンのアラームが二人に到着を告げたのを合図に、アラシの身体を吹っ飛ばすようにして二人はその状態から脱し、隠し持っていた武器を広げた。

●二つの戦い
 吹き飛ばされた部下はゆっくりと立ち上がり、太刀を抜き放つ。
 英雄騎士の幻影を纏い、飛び出したアルジェンの拳が部下を地面に沈め後方より、彼が離脱すると、後方より無数の矢が降り注ぐ。
 ショーティの放った矢は黄色き毒の効果を、ルーンのライフエナジーを込めた矢は部下達のハートを射抜き魅了しようと。
「毒には毒をというだろう」
「上司に従うのは部下の務めだろうが、上司の過ちを諌めるのも部下の役目だ」
 ガスマスクの付いたヘルメットの下からショーティは鋭く見つめ、ルーンは厳しい口調で彼らを糾弾する。
「我らは身も心も全て、アラシ様に捧げている。貴様らのような穢らわしい輩は、一人たりとも通さん!!」
 アラシは彼らの全て。彼らの守るべき、まさに御主人様というわけだ。
 振り下ろされた太刀をハルバードの紅の暴君で受け止め、コンラッドは表情をしかめる。
「男が好きな男のマスカレイド……しかも女装趣味持ち……しかも部下も同類……ま、オレは対象外みたいだし……」
 だが気づいてしまう。ハルバードの向こう刃越しに向けてくる相手の視線が、好意を持った異性に向けるものになっていることに。
「俺はアラシ様より、少年のほうが好きだ!」
「キメェ!!」
 そんなカミングアウトは聞きたくなかった。コンラッドは、思いっきり相手を蹴り飛ばし、身の丈以上あるハルバードを頭上で振り回しながら突撃する。
 一撃目より勢いがあるように見えるのは、きっと気のせいではないだろう。
 その時、中から地面を揺らすような強烈な振動が響く。それがミリオンスタンプの衝撃によるものだと、誰もが直ぐに気が付いた。
 気が付いた部下の一人が、あばら家の中に駆け込もうと向きを変える。
「一かけ、二かけ、三かけて……仕掛けて殺して日が暮れて。この世はつらいことばかり……それで今日はどこのマスカレイドを殺ってくれと?」
 彼女決まりの口上と共に現れたのはリーナ。彼女の拳には断罪の紋章が浮かびあがり、そのまま部下の腹部へと。
「滅刺(メイス)!」
 グランスティードで乱戦の真っ只中に飛び込み、スーリスは太陽の光を内包した闇を灼く一撃を、振り下ろした。
 あばら家の中でも、戦いは既に始まっている。
「ちぇすとぉっ!!」
 三度、マサヨシのハンマー、黒砕破が振り下ろされる。
 サードアームを使い、残っていた縄も剃刀で素早く切断し、拘束は早々に解いていた。
 ヒラリ、ヒラリとアラシは楽しむように舞い、器用に致命傷にならない程度に攻撃を受け流し、笑みを浮かべる。
 彼の機転で家宝の鎧は渡さぬと抵抗し、鍵付鎧の下に折りたたんだ武器を隠せたのが幸いだった。
「個人の趣味や性癖に口出しするつもりも興味もないが、それのはけ口にされるつもりは無い!」
 相手に休む間を与えぬようにと、無数の矢をパラノラは連射する。だが、アラシも雷を呼び起こし、易々とは攻撃を通さない。
 好みというのもあるのだろうが、アラシの狙いはマサヨシに集中していた。
 彼を狙って接近しては、わざと身体ではなく服を裂くように爪を伸ばし。たくましい身体に、細くついた傷を見てぞくぞくしている。
 ゆっくり回っていく毒で彼が倒れぬようにと、パラノラは癒しの風を呼び回復を行うが、そう長く持つわけではない。このままでは、マサヨシより先に力が尽きる可能性だってある。
 早く着てくれと、祈るようにパラノラは再び癒しの風で毒を浄化した。
 あばら家の中は消耗戦状態。
 遂に風が途絶え、マサヨシは膝をつく。屈強な男とはいえ、毒と彼の執拗な攻撃は耐え切れるものではなかったのだ。
「どうだ。今から私のモノになれば、その毒も癒し……快楽を与えてやろう」
 十分な攻撃を受けているにも関わらず、アラシはゆるりと笑みを浮かべる。
 つられるようにマサヨシも笑みを浮かべ、言う。
「さっきの言葉は方便じゃ。年増の変態男にクネクネされてものう」
 その言葉は十分にアラシの気分を損ねたようで、容赦ない攻撃が襲い掛かる。だがここが堪え時だと、心の眼を強く開き、その瞬間をまった。
(「早く入口の敵を倒し、救援に……」)
 相手の粘り強さにスーリスは焦りを浮かべ、負けるわけにはいかないとリーナは正義の心を量る天秤を召喚し、後押しをするように。
「今、モーレツに熱血してる!」
 その貫く愛情に応えるよう、鬨の声をあげコンラッドは戸ごと最後の部下をぶった斬った。
 破壊した戸から中に突入し、彼らは間のあたりにする。
 アラシの毒の爪がマサヨシの腹を貫き、背から生えているのを……!

●日は落ちて
 すぐさま、ショーティの矢がアラシを貫き、一気に距離をつめたアルジェンの、火柱を伴う強烈な斬撃がその腕を斬り落とす。
「貴様のような奴は、駆除だな」
「お待たせしました」
 ルーンは癒しの風を呼びだし、囮となった二人を回復する。
 パラノラはかなり疲弊していたが、まだ両の足で立ちアラシに弓を向け。
 アラシの消耗も激しく、美しい着物は破れボロボロ。化粧も崩れかけている。
「オレ達の瞳に留まったからにゃ、キッチリ張り倒してやるぜ!」
「私は本来ハートクエイクアローが一番得意だがアラシは間違っても魅了したくないから使わん」
 突撃していったコンラッドの後ろから、そう宣言しルーンは腕を足をと射抜き動きを封じ。
「爪刀(ソード)!」
 掛け声と共に、リーナのスライディングキックが決まり、アラシは倒れる。
「ふふふ……女に倒されるなんて、私も焼きがまわったわね。だが、これで終わりと思うな。既に我々は動き出しているのだ……!」
 最後のあがきと高く笑い声を上げながら扇を舞わせ、雷鳴を呼び起こし抵抗し、そして動かなくなった。
 彼の胸には深々と刺さった毒の針。
 動かなくなったアラシを見つめ、パラノラは短く息をはいた。
「眠れ、安らかに」
 そう、ささやかな祈りを捧げて。
「無事でよかった。手当てしましょうか?」
 その後は、ショーティが傷ついた仲間の応急処置を、手持ちの物で簡単に行っていく。自称衛生兵とはいえ治療の知識はある。
 アラシや部下たちの遺体をあばら家の中に隠しながら、アルジェンは静かに目を伏せ、冥福を祈った。
 思ったより時間を掛けてしまったこともあり、既に日は落ちており一同は、闇に隠れるように撤収して行く。
 彼らはなんとか無事に脱することは出来た。
 だが最後にアラシが笑ったように、既にその存在に向け着々と公家達の手が伸び始めていたのであった。



マスター:凪未宇 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2013/06/22
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  • カッコいい7 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
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