ステータス画面

鬼の太刀

<オープニング>

 この街の武術道場の跡目を継ぐ筈だと思っていた男、カナタにとって師の言葉は信じがたいものだった。
「次の師範はミナタとする」
「そんなバカな! 何故です!」
 そう聞いた途端にカナタは激昂し、師に詰め寄り訂正を願ったが聞き入れてもらえず、それでも食い下がると師は、
「ならば」
 とミナタとの決闘を許した。
 ここで打ち負かして力を見せれば! そう意気込み臨んだが結果は格下だと軽んじていたミナタの前に手も足も出ずに実力を見せ付けられる。
「わかったか。自身を省みることが出来ぬお前では……」
 そんな師範の言葉も耳に入ることはなく、
「何か不正があったんだ! そうじゃなきゃ、俺が……俺が負けるはずがない!」
 カナタはそう騒ぎ立てな試合のやり直してほしいと食い下がったが受け入れられることはない。
「クソがあああああ!」
 それに憤懣し背を向けたミナタへと襲いかかったが不意打ちにもかかわらず一太刀とてミナタへ届くことはなく、返り討ちにあってしまった。
 それが原因で破門された。
 こんなはずはない。何で俺よりも遥かに劣る奴等にあんな見下されるなんて……。
 その時だった。師の言葉を思い出したのは。それがカナタが人であった最後の瞬間になった。

 修練を終え、家路についたミナタの前に一つの影が立ちはだかった。
「何者だ!」
 追い剥ぎか強盗と見たミナタは持ち合わせていた木刀へ手をかける。少し実力を見せつければすぐに諦めるだろう。そんな計算もあっての行動だ。
 しかし、相手の予想外の行動に驚く他ない。こともあろうか真剣を投げて寄越したのだ。
「何の……真似だ?」
 自分が太刀を抜いて斬りかかれば相手の生命を奪ってしまうかもしれない。正当防衛だとしてもできることならそれはしたくなかった。自分が学んでいる剣とは違うものだったから。
「試合のやり直しと行こうじゃないか。新師範殿」
「あなたは……!」
 暗がりから出てきたのは破門された兄弟子であるカナタ。しかし、纏う気配はとても人のものとは思えず、思わず後ずさりしてしまう。
「来ないのか? ならばこっちから行くぞ!」
 カナタの抜刀に引けぬと悟ったミナタも抜き放ち、対峙する。その時ミナタは心のどこかで思ってしまった。
 僕はここで死ぬかもしれない――と。
「最高だ……これなら……」
 ラッドシティの路地裏で斬殺したミナタを見下ろしながらカナタはつぶやく。手には血に塗れた太刀が不気味に光り、紅を滴らせる。
「やはり俺が最強だ。これで俺が……!」
 いくら自分の実力を示そうとも既に人の身ではない彼の願いが叶うはずもない。だからこそ、だろうか。その目には未だに憤懣の炎は消えることなく渦巻く。
 己を貶めた者達全てに復讐するために。
 
「と、言うのが儂が見ました終焉でございますじゃ」
 酒場に集まったエンドブレイカー達へハンクス長老は頭を垂れる。
「では、儂が知り得たものだけになりますが、ご説明したいと思います」
 マスカレイドと化したカナタの獲物は太刀になります。
 居合いもさることながら、その太刀筋は空間まで断ち切るほどの威力だ。だが、まだ秘剣を持ち合わせているようでございます。
 現れる時間帯は夕方の人通りが少ない路地裏。道場から出てくる新師範のミナタの後をつけ一人になった所で襲うようですじゃ。
 一人ですので囲んでしまえばそう脅威ではなくなるでしょう。
 一頻り話し終えるとエンドブレイカー達へ視線を向ける。
「人がこのようにマスカレイド化すると住民に知れてしまえば、成り得そうな者達を粛清し始める可能性がございます。ですので出来る限り穏便に事を納めていただきたいのです」
 ハンクス長老は再び頭を垂れるだけだった。


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参加者
数学屋・キッド(c02698)
天空故色・チセ(c03338)
ぴよたん刑事・キサラ(c05188)
風を射る・タージ(c10569)
瑠璃の烈槍・シキミ(c23537)
天愚の巨刃・ディアス(c32903)
可愛い子と楽しいことが好きな・オリヒメ(c33287)
剣心一如・スイン(c34350)

<リプレイ>

●影は濃く
 とある剣術道場の入り口を見渡せる暗がりから、様子を伺う影が八つあった。
「稽古が終わったようだね」
 数学屋・キッド(c02698)の声に全員が風を射る・タージ(c10569)の作った近辺の路地裏の地図から顔をあげる。
 視線の先には道場の門から出て来る門下生の姿。一団はどの人も袴姿で、出ると道場へ向かって一礼し立ち去っていく。
「あの道場に通う者達はきちんと礼儀を弁えているようだ。前師範や新師範となったミナタの指導の賜物だろう」
 家路につく門下生達を見る瑠璃の烈槍・シキミ(c23537)はどことなく嬉しそうだ。しかしそんなシキミとは反対に天空故色・チセ(c03338)の顔は沈んでいた。
「でもカナタさんは力を求めてしまったんですね……」
 師範になれなかった。格下と軽んじていた相手に手も足も出ずに打ち負かされた。そんな事実を突き付けられれば今まで創り上げた自信は一瞬で打ち砕かれるだろう。その衝撃は計り知れない。
「だからといってマスカレイドの力を欲するのは間違っていると思うんだよ。エンドブレイカーだから言えることかもしれないけど……」
 ぴよたん刑事・キサラ(c05188)の言うことは最もだった。力を求めるのは人間の性なのだろう。『求めるな』と言う方がどだい無理がある。しかし、己の内側に求める力ならいざ知らず、外に、悪に求めるのは論外と言うべきだろう。
「どちらにしろ奴は手を出すべきじゃないモノに身を委ねたんだ。絶つしかないだろう」
 天愚の巨刃・ディアス(c32903)はそう言いながらも武芸者ゆえの笑みを浮かべる。これもまた性なのだろう。
 門下生が全員帰ったようで、門の前は静かになる。しばらくすると、門下生とは違う色の道着を纏った男が門をくぐりその姿を表した。ミナタだ。
 ミナタは門下生と同じように道場の方へ向き直ると一礼し、門扉を閉ざして施錠すると再び一礼し立ち去る。
 すかさずキサラがチェイスを発動、背中に印をつける。そして気付かれないよう十分に距離を取りつつミナタの追跡を開始した。
 路地裏には血のように紅い陽の光が注ぎ、影を生み出す。その影には何かが居るのではないかと勘ぐらせる程、濃い。
 ミナタを追いかけて行くに連れ少しづつ人気の無い方へ、無い方へと進んでいく。こちらとしてはこの上なく都合が良かったが、ほぼ完全に人気が無い所まで来た途端に振り返りエンドブレイカー達へ詰め寄った。
「先程から僕をつけ回しているようですが何か御用ですか」
 そう聞く声には不信と、いざとなれば叩き伏せる気迫が受け取れる。どう答えたものか……言葉を詰まらせていると、
「ほう……新師範様がお帰りの時には護衛が付くようになられたんですな」
 皮肉を含んだ声が通ると影がひとつ現れる。その纏う雰囲気が人ではないと証明していた。この影がカナタであると見て間違い無いだろう。
「まあ、いい。肩慣らしには丁度いいだろう。まずこいつらを片付けてからミナタ。貴様の番だ」
 そう言い放つと、太刀の柄へ手を添えた。

●染まった強さ
「その声……まさかあなたは」
 思い当たる人物に行き当たったミナタはその真偽を確かめるために近づこうとするのをタージと剣心一如・スイン(c34350)が立ち塞がり止める。
「行かせてください! 僕は確かめないといけないんです!」
「それは出来ない。あの男は倒さないといけないんだ」
 それでもミナタは、
「しかし……」
 と喰い下がる。だが、何があっても近づかせる訳にはいかない。
「駄目。ここから動かないで。私はまだ修行中だけど、皆の腕は確かよ。任せておいて」
 そうスインが言うと、まだまだ納得をしていないようだったが言葉に従い引き下がる。完璧に安全とは言いがたいが彼の身を案じながら戦える相手ではないようだ。
「さて、話は終わったか?」
 余裕たっぷりに待ち構えるカナタへ向き直り、体制を整える。
「ああ。私怨で人を襲おうと殺意にまみれていようと、同じ太刀使い。敬意を表して、魔導書は使わないで戦うよ」
「それは自惚れがすぎるんじゃないか?」
 キッドの宣誓にカナタが答えた瞬間、一陣の風が駆ける。その中に鍔鳴りが聞こえた時にはカナタの姿は消えて可愛い子と楽しいことが好きな・オリヒメ(c33287)、タージ、スインは一刀のもとに斬り伏せられ、そのままとどめを刺そうと迫る!
「我が名はシキミ! 瑠璃の烈槍、仁を以って推して参る――!」
 三人への追撃を阻むように割って入ったシキミが名乗りを上げ、瑠璃色の閃光を幾条にも見える程の速さで槍を繰り出す。
「おおおおおおッ!」
 それを追うようにディアスの天衝斬馬刀が振り下ろされる。その重い一撃を捌ききれずによろけた所へ、起き上がったタージが紫色の結晶体を投射した。
(「情けなどないな……やっていることは外道と変わりない」)
 その声は頭の中一杯に響き渡りカナタの精神を犯し蝕む。そこへ唸りを上げたキサラのFreeWindが貫く!
「ぐおおおおおッ……」
 効いている。今なら!
「『ガルトゥース』!」
 チセの封印儀式が始まり、術式が展開されカナタを絡め取り、それを押しこむようにスインの剣閃が疾走る。
「さあ、これで終わりだよ!」
 オリヒメが放った螺旋を描く呪詛がカナタから感情を奪う。このまま封印できる。そう確信した。しかし……
「まあ、このぐらいはやってくれないとな」
 封印式に捕らわれているにも関わらず、カナタは不敵な笑みを浮かべると、気とでも呼べばいいだろうか、カナタから強烈な圧力を持った気迫が膨れ上がったと思うと封印式を破壊し、呪詛を払いのける。
「さてやられっぱなしってのも癪だからな……まずはお前だ!」
 纏う気迫は鬼へと姿を変える。そしてカナタが太刀を振りかざす動きに追従しその鬼も太刀を振り上げ頂点へ達したと同時に一気にタージへ叩き落とす!

●染まらない思い
「く……」
 一撃は深くタージを斬りつける。だが、意識を乱すことなく集中しダメージをコントロール。迎撃の構えをとる。
「チッ……何で死なねぇんだよ! 俺が弱いみてえじゃねぇか!」
 そう憤るカナタにシキミの声の刃が投げかけられる。
「そんなに己の虚栄心が大事か。見栄や勝ち負けだけでしか見えないのか」
「勝たなきゃ意味が無いだろう!? それ以外に何の価値がある!?」
 その言葉にシキミは歯を食いしばる。最早、言葉も思いですら届く事は無いのだろう。ならば……武をもって示す他ない。
 その力みが出てしまった。
「遅せぇっ!」
 瑠璃色の閃光は尽く阻まれ一閃足りともカナタへ届かない。
 その穴を埋めるようキサラが間合いを詰める。
「人生、上手く行かないことの方が多いんだよ。なのに自分の失敗や否を他人に押し付けて、それも上手く行かないからって他人を殺めようなんて……」
「知ったこっちゃねぇ! 強けりゃイイんだよ!」
「もう……遅いね」
 悲しそうに呟いたキサラとは裏腹に螺旋は回転を上げ、カナタを穿つ!
「この程度何だってんだ! 俺は最強だ!」
 まだ衰えることがない気迫に気圧されそうではあったが、どこか実力を伴わない気がしてならなず、吐かれる言葉が全て虚勢に聞こえる。
「確かに強いわね……でも、それは『誰』の強さ?」
 問と共にスインの太刀が迫り、鍔迫り合いになるがカナタからの答えは、無い。
「手っ取り早く強くなろうだなんてムシが良すぎるのよ」
 軸をずらしカナタの太刀を滑らせ回避。出来た隙に刃を滑らせるが浅い。それを見越していたキッドが追撃。深く入った一撃はカナタも想定外だったのだろう、膝を落とす。
 そこで再びチセが封印儀式を、オリヒメが呪詛光線を展開。今度は封印するためではなく、倒すために。
(「倒すしかないんですよね……」)
 その同情が結界に一瞬だけ綻びを生じてしまった。それに乗じ封印式を抜け出し猛る。
「俺が……最強になった俺が! この……程度で!!」
 その猛りは剣撃となり空間を絶ちディアスを襲う!
「いいね! ならば俺も答えるまで! 『わが秘剣破れるか!』」
 ディアスの気迫がカナタのように鬼と化しディアスを包む。だが、その鬼はカナタの纏ったドス黒いものとは違い光に溢れる。
「はあああああ!」
 気迫を友とし振り下ろされた天衝斬馬刀が防御を打ち破り、カナタを袈裟に切り裂く。
「こんな……こんな、こんな、こんなことで……! 俺が……!」
 タージが創り上げた紫の結晶体が頭蓋へ打ち込まれ、カナタは仰向けに倒れた。その口からは未だ、
「おれが……おれが……」
 と自身の敗北を信じ切れない声が漏れる。
「強さを求める方向が間違いだったんだ……慰めにするつもりはないが、夢見たまま逝くがいい……」
 そう言い放たれるとカナタは事切れた。

●正しい資質
 日が落ち切った路地裏に街灯の明かりが降り始めた。影はより一層濃くなり、家々から漏れる明かりが寂しく揺れる。
「カナタさん……何で……」
 自分を殺そうと企てていた相手に向かってミナタは涙を零した。涙が零れるにつれてどこか張り詰めた雰囲気が無くなっていくミナタは、どこにでもいる普通の青年に見える。
「とてもいい兄弟子だったんだね。そうでなければこんなに悲しくないよね」
 そっとキサラが声をかけると、当然行き着くだろう事を聞く。
「僕がいけなかったんでしょうか……僕が師範になったから……」
「彼は強さを求めるあまりに踏み込んではいけない所に身を預けてしまった。それをあなたが気に病むことはない」
 キッドは揺れるミナタの肩へ手をやる。しかし、震えは止まりそうもない。
「辛いかもしれんが、今回のことは忘れるか、心の奥底に留めておいてほしい」
「そうだね。彼の……カナタの様に自分の腕に驕らない誠実な人に育ててあげて下さいね」
 タージとオリヒメの願いにミナタは一言、
「はい」
 と、答えた。そう答えられるならば彼は良い師範として後進を導けるだろう。そして彼は振り返ることなく、しっかりとした足取りに決意を滲ませて去っていった。
 それを待ってからチセがデモンリチュアルを遺体へ施す。
「あたしは、あんたと違って自分の力を信じてるわ。今は弱く、未熟でも……いつか、必ず超えていく」
 スインの呟きは、遺体と共に消えて無くなった。



マスター:Riese 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2013/06/25
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  • せつない2 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
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