ステータス画面

月下狂爛〜紅かがりの忍

<オープニング>

●散華
「――それ、じゃあてめぇら、そこに並んでみろや」
 寂れた花街から少し離れた平原に陣幕を引いて――男が命じた。
 恫喝するような男の声に、怯えた顔をしながらも、女たちは抵抗する事も出来ず――男の配下に引かれ、男へ侍るように並べさせられる。
 並んだ女の数は20。年齢も、やや薹が立っていると言ってしまって良いだろう。
「け……っ、大した女はいねぇな。そりゃあ花街も寂れる訳だ」
 けたけたと嘲笑を浮かべて、男は徳利の中に満たした酒をぐい、と煽る。
「……おい、そこの」
「は、はい……?」
 男が呼んだのは、女たちの中でも一番若い女だ。容貌も悪くない。舐めるような視線を送りながら、男は女を手招きする。
「何、手酌させてんだ。注げよ」
 ほれ、と徳利を女に押しつけ、自身は盃を女の眼前へと差し出した。
「はい……す、すみません……!」
 何度も頭を下げて詫びながら、女は徳利に白くしなやかな指を添えた。盃へと流し込む手が、恐怖に震える。
 故に、手元が狂ってしまうのは自明であった。
「あ……!」
 女の手から落ちた徳利が、男の盃へとごつりとぶつかり。双方から酒が零れて、男の着物を濡らしてゆく。
「このアマ……!! 酒も満足に注げねぇとは、使えねぇ……!!」
 男の口元が、眉間が、米神が、怒りに染まり歪んでゆく。
「も、申し訳ありません、申し訳ありません……!!」
 その貌を蒼褪めさせて、女は幾度も頭を下げる。
 だが。
「そんな使えねぇ女、生かしとく価値も無ぇ。……そもそも、殺せって言われてんだからよ」
 低い男の声が響いた。
 その言葉の意味を、女は認識する暇も無く――ざくり。心臓を貫かれ、その生命は一瞬にして散らされた。
「きゃあああああああっ!!」
 女たちの悲鳴が、寂れた花街に響き渡る。
 耳を塞いで瞳を細めて、煩わしげに女たちを睨みつけて――男は呟いた。
「……けっ。やっぱあの方には及ぶべくも無ぇな……下品だ。これじゃ月も汚れちまうぜ……」
 思い浮かべるのは、此度の指令を彼に与えた公家の姿。気品に満ち溢れたその姿、声。目の前の女たちとは比ぶべくもない。 
 溜息を一つ零して、男は厳つい野太刀を振り上げる。
 惨劇の、第二幕の始まりであった。

「……粗野な暴れ駒が」
 平原に張られた陣幕の後方、打ち棄てられた廃屋の最上層から、厳つい野太刀を振り上げた男を見下ろす冷ややかな瞳。
「まあいい。お前が暴れれば暴れるほど、供物は疾くやってこよう」
 闇に紛れる黒装束のなか、手首を縁取る紅布が目立つ戦籠手を見つめ、忍びは笑う。
「さて、彼奴らは何処より来、また何処へと帰るのか……」
 それさえ知ることができれば、眼下で暴れる男の命などどうでもいい。
 ただ、自分が求めるのは――此度の指令を彼女に与えた公家の声音だけ。
「あの方のためなら……」
 何だってする。
 ――仮面の下で陶然と呟いたその声には、隠せぬ艶がにじんでいた。

●掣肘
「住民をマスカレイドが虐殺する、という事件が発生しています――アマツカグラの各地で」
 そう話を切り出した、花守蜜蜂・スズ(c24300)の赤い瞳にさす影は濃い。
「本当に悪趣味な話ですが、より効率的に絶望を増やすために、じわじわと住民をいたぶってきたのでしょうね。それなのにこうした事件が多発しているのは……エンドブレイカーをおびき出すのが目的のようです」
 そして首謀者は、エンドブレイカー達の襲撃をかいくぐり、生き延びた公家マスカレイド。それもあって、敵はエンドブレイカー達の襲撃を警戒しているため、奇襲攻撃などは行えない。
「それだけではなく、虐殺が行われている場所の近くには、マスカレイドの忍び達が潜んでいます。彼らの目的はおそらく――スズ達エンドブレイカーの動向を報告して、『世界の瞳と繋がる扉の場所』を割り出すことです」
 その目的を果たしさえできれば子細は構わない、そんな忍び達の暗躍は、エンドブレイカーにとって脅威でしかない。
「対処する方法は、二つです」
 虐殺を放置するか――正面から戦って虐殺を止めると同時に、マスカレイドの忍び達も撃破するか。
「とは言っても、今のこの状況が此方の失策により生じた状況なら、虐殺される人々を見捨てるわけにはいきません。だから……」
 スズの表情に浮かぶのは、今この場からの挽回を祈るつよい想い。
「マスカレイドによる虐殺を止め、さらに、こちらの動向をうかがっている忍び達も倒してください」
 困難な仕事ですが、よろしくお願いします――そう告げ、スズは深々と仲間達に頭を下げていた。

「皆さんには、忍び達の完全撃破をお願いします」
 ぺこりと頭を下げ、スズは再び口を開く。
「忍び達は積み重なった廃墟の最上階から、虐殺の様子を眺めています――闇と同化するように布を被せ、身を隠しながら」
 そこは病んだ女達を隔離する建物の名残とも、匪賊の巣とも言われていた場所。近づこうとする者などなく、身を潜めて戦況を眺めるにはうってつけだ。
「階段が残っているので、最上階までは容易に辿り着けます。けれども戦いの舞台は崩れた屋根の上、足場はけして良くありません」
 スズは仲間達を見回し、話を続ける。
「忍びは七人、全員が女性ですが、けしてあなどってはいけません。
 頭領のヤチヨは忍者のアビリティの他にも、バトルガントレットを使います。そこに縁取りの紅布をつけているというのは、見とがめられぬ間に標的を倒せる自信の表れだと思うんです。
 彼女に率いられている六人も太刀を得物に、連携して攻撃をしてきます。
 それでも彼女達との戦いは短時間で決着をつけて、すぐに引き上げてください。あまり時間を掛けすぎると、他のマスカレイドが救援に来てしまいます」
 そこまで話してから、スズは真剣な表情をエンドブレイカー達へと向ける。
「虐殺を阻止する側と、忍び達を撃破する側、どちらが失敗しても作戦は失敗になってしまいます。
 特に、忍び達を相手取る皆さんはここで失敗してしまうと、アマツカグラでの拠点の存在が敵にばれてしまいかねません」
 そうなってしまえば、この地を救うことまでも叶わぬ夢と成り果てる――
「どうか、アマツカグラのために……この二つの戦い、絶対に成功させてください」
 思いを込めてぺこり、と頭を下げていたスズに合わせ、彼女の肩に乗る忍犬の小豆も神妙な面持ちで一礼していた。


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参加者
影縫い・ヒョウカ(c00401)
山猫・リョウアン(c00918)
阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)
アマツカグラを巡る探偵・ティルナ(c03037)
薔薇の牆・アナム(c06804)
三節棍の赤い群竜士・アヤカ(c14761)
爆笑する筋肉魔人・オルトラ(c24254)
黙っていればお嬢様・クラリッサ(c34521)

<リプレイ>

●闇昧
 ――湿気を含んだ初夏の風が、額ににじむ冷や汗をさらって吹き過ぎていく。
「ったく、とんだポロ階段だぜ」
 せっかく慎重に足を踏み入れたはずの階段に、ぽっかり空いていた穴。それをまじまじ見つめ、黙っていればお嬢様・クラリッサ(c34521)がぼやく。
「こんなトコを、よくも登っていきやがってまあ」
「それだけ、敵は手練れの忍び、ってことなのだろうね」
 階の先を見上げていた、薔薇の牆・アナム(c06804)の面持ちが真剣なそれへと変わる。
「油断や迷いを見せたら負けだ。けど――文字通り、足許には気をつけてね」
 仲間達へとそう声をかけていた彼の足許で、山猫・リョウアン(c00918)は黙々と身を動かし、階上を目指す――まるで、山猫が獲物を追い詰めるように。
「それにしても、ここは一体、元は何だったのかしらね」 
 できるだけ静かに階段を上ろうとしつつも、腐った手すりが木っ端となって落ちる様を見、アマツカグラを巡る探偵・ティルナ(c03037)が眼鏡の奥で目を細める。
 重なったまま朽ちているこの廃墟は、花街で病みついた女達を隔離するためのものとも、あるいは匪賊の巣であったとも言われているが――明確な来歴は杳として知れない。
 けれど。
「敵がどれだけ強いのか……」
 楽しみよね、と、三節棍の赤い群竜士・アヤカ(c14761)が笑むと、
「ふむ。そのためにも――ここからあと十段先は、右端を行った方が良さそうだな!」
 ホークアイでより確かな道筋を探り出していた、爆笑する筋肉魔人・オルトラ(c24254)が両腕の筋肉を誇示すポーズを決めていた。
 この階段の辿り着く先で、忍び達は何を思い、階下を注視しているのだろうか。
 ――アマツカグラにやってきたエンドブレイカー達の動向、そしてその拠点を探り出すために、何の罪もない女性達を殺めるという酸鼻な筋書きまで用意して。
 そんなことを思いながら、先を急ぐ仲間達のただなかで、
「……こんな、月が綺麗な夜ですのに」
 皓々と輝く月を黒く大きな布の奥から見遣り、影縫い・ヒョウカ(c00401)は呟く。
「月明かりに、すべてさらされてしまう前に……忍びは闇に、返してさしあげましょうです」
 その声へとめいめいに返されたうなずきの気配は、夜の内でも確かに感じとれる。その一事を何よりも心強く感じながら、彼らはそろりと屋根へと歩を踏み入れていた。
 黒く敷かれた瓦の波目は所々で途切れ、踏み抜けば階下まで落ちそうにすら見える。
「どこにいるんだ……こんなところでこっちが奇襲されるんじゃあ、かなわん」
 闇へと目を凝らしていた、クラリッサの言が終わるより前に、
「――そこだ!」
 黒い外套の下で、阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)が強弓をつがえると――弓弦が軋む音に、闇と瓦に身を紛らわせていた六つの影がうごめいていた。
「貴様等も、彼奴らの同類か?」
 しかし、その奥に控えるヤチヨは彼らに背を見せたままの姿勢で、そう問いかけてくる。
「そうだと言ったら……どうする?」
 眼鏡を外しながら、つとめて冷徹な声で答えたティルナへと、
「容赦はせん」
 ヤチヨが振り向きざまに戦籠手を横に払えば、手首を彩る紅布が風になびく。
 彼らへと向き直るマスカレイドの仮面、そしてはためく紅と冷ややかな声こそが――開戦の合図。

●層累
「――やれやれ、忍び監視をするものが、奇襲を受けていては世話はないというのに」
 ルーンの強弓から放たれた銀が夜闇をはしり、身構えた忍びの瞳を貫くが、
「ちっ!」
 目を押さえてうずくまる同輩に舌打ちしつつ、別の一人が太刀で斬りつけてくる。だが、アナムはその攻撃を無視し――目を押さえたままの忍びをナイトランスで突いていた。
「我々相手ならいざ知らず、力なき民を犠牲にするとは。それが貴方達の矜恃なら、全力で潰して差し上げましょうです」
 ナイトランスのおびただしい残像が闇へと消えるその前に、ヒョウカのムーンブレイドが一閃する。斬り裂かれた空間から撃ち出された、明るすぎる月の魔力を正面から受け、仕事一つできぬ内に散る忍び。
 それでも、ヤチヨは動じた気配ひとつ見せず、
「その台詞は、この下で暴れる粗野な駒にでも吐け」
 ついでに倒してくれるなら、鬱陶しくなくて良い――と言外に告げながら、俊敏な足さばきで黒瓦を馳せ、オルトラを巨大な影魔神の拳で撃ち据える。
「バァッーハッハッハァッ!」
 だが、それがどうした! と夜空に響く笑い声の覚めやらぬ間に、竜の弾丸が新たに駆け寄る忍びの肩先へと咬みついていた。
 一人の忍びに攻撃の手を集中させて倒し、敵の勢いを削ぐ。まず初手は、その策が奏功した。
 忍び達の総身から殺意がこぼれだしたのも、眼前の敵には本気で相対せねばという気概と危機感の表れだ。
 そんな忍びの耳元で、ヤチヨが一言、何かを囁く。
「……承知」
 脇に回った忍びが太刀を繰り出す、そうと見て構えていた前衛を後目に――彼女は後衛めがけて忍犬を仕向けるが、
「全てを、撃ち砕く!」
 アヤカは早々に配下が一人倒れたのをしおに、ヤチヨを抑えようと駆け出していた。
「させるか」
 縦に斬りかかる彼女の得物は、ヤチヨを庇った別の忍びを斬り裂いていたが、すぐさま敵に懐に潜り込まれ、返す刀を振るわれてしまう。そこから間髪入れず、後方に退いた忍びが振るった太刀は、空間ごとクラリッサの頬を裂いていたが、
「これでも喰らいやがれ! Burst!」
 彼女は自分を攻撃した忍びではなく、仲間が深傷を負わせた忍びへと照準を合わせ、援護射撃でとどめを刺す。
 六人の忍びの内、三人まで削ったら、あとは一対一で――身構えたリョウアンは刀を突きつけてきた忍びを、これ幸いと回し蹴りで迎え撃てば、
「胴が空いているぞ」
 ここの瓦は大丈夫、と足で確認すると同時に、フレイムソードを構えたティルナが繰り出す烈火突き。
「なるほど……貴様等を野に置くは危険だな」
 忍び達を押さえようと、前線に展開するエンドブレイカー達が動いた――ほんのわずかな隙を縫うように、戦籠手から太く短い矢が射出されると、後背に控えるルーンを射抜く。
「その程度の矢で、易々と倒せるなどと思われるのは心外だ」
 しかし彼は、腕に刺さる矢を無造作に抜き取ると、再び弓弦をぎり、と引き絞っていた。
 マスカレイド打破のために動くこちらの情報を知られてはならぬと、ヤチヨ率いる忍び達と刃を交わすエンドブレイカー達。
 だが、早期の決着を狙う彼らへと――忍び達は間断なく、揺さぶりをかけてきていた。

●砥柱
「さっきから、僕の後ろに目が行くなんて余裕だね……そんな娘はこの槍で串刺しだよ?」
 忍犬をけしかける忍びから仲間を庇うようにアナムは立ち、ナイトランスを回転させる。乱れ突きにされた忍びはその一撃で後ずさるが、彼の首筋を狙って別の刃が襲いかかる。
 それでも、これ以上は後衛を攻撃させないよ、と告げるように立つ、頼もしい仲間をオルトラはちら、と見、
「龍気顕現……覚悟はいいか!」
 ヤチヨの足を止めてやる、と左腕に絡めた「竜」の気を叩き込んでいた。
 それを見て、四人の忍びがヤチヨのもとへと足早に向かう。
「……させません!」
 狙いはヤチヨを押さえる二人の包囲、そう見て取ったヒョウカはすぐに駆けつけ、忍びへとムーンスラッシュで斬り裂くと、
「大丈夫だよ。私は……負けない!」
 アヤカはヤチヨへと、その魂を奪うような突きを放ちざま、仲間へと向け微笑む。
 だが、その肩がただ一度、大きく上下したのをクラリッサは目にすると、
「……ったく、まだまだそこでぶっ倒れるにゃ早いぜ」
 頭をかきかき、癒しの拳を放つ。
 あと一人、ヤチヨ配下の忍びを倒したら、後衛からの援護を背に敵を一気に叩く――その目算は、わずかにずれた攻撃の手合わせが瑕瑾となり、じりじりとエンドブレイカー達の体力を奪いはじめている。
 だが、その微細な瑕疵が、決定的な綻びになってしまう前に。
 戦いの方針は、敵の嫌がることをするもの――と、リョウアンが忍びに爪を突きたてていた。それでもなお、彼へと高速で斬りかかり、死地を脱しようとした忍びへと、
「駄目押し、受け取ってもらう!」
 二振りの剣を月輝く天へと投げてから、ティルナは再び断罪ナックルを忍びへと叩き込む。その拳を正面から受け、虚脱した敵に目を伏せていた彼女だが――戻ってきた剣をさらりと手にし、敵を挑発する。
「癒しの風よ、旋律となり我が戦友の傷を癒せ」
 ルーンが呼び寄せていた癒しの風が戦場を吹き過ぎていったあと、
「……あの方の禍根とならぬよう、貴様等はここで潰す!」
 ヤチヨが作り出した自らの分身は、詰め寄ろうとしたアヤカにぴたりと抱きつくなり爆発する。
「そんなことでたじろぐなんて、思わないでね」
 残像をまとったナイトランスを繰り出し、ヤチヨとその傍らの忍び目がけて突進していたアナムに続き、
「打撃は疾駆るって知ってるか!」
 自分達を囲い込もうとする忍びを散らそうと、オルトラが気咬弾を放つ。
 手首を紅く彩る布をはためかせ、戦籠手を胸の前で構えたヤチヨへと、
「主のために戦うこと、それしかあなたは考えてみたいだね。だけど」
 純粋な闘志を乗せ、アヤカは十字剣で斬りかかる。それを見たヒョウカはふ、と息をつき――体力をいちばん削られた忍びへと照準を合わせ、月光煌星砲を放っていた。
「オラオラ!踊れ踊れ!」
 ガンナイフの照準を仲間と合わせ、引き金を引くクラリッサ。その射撃に身を削られた忍びへと、リョウアンの爪が襲いかかる。山猫が蹂躙した痕とも見える裂け傷から、注入していたオーラに爆砕された敵には見向きもせず、彼は敵へと得物をかざしていた。

●砕花
(「あと少し、だけど……!」)
 太刀を振るい殺気を飛ばしてきた敵を、ティルナはフレイムソードで退ける。
 だが、その額にはじわりと、焦燥の汗がにじんでいた。
 忍び達の気勢と体力を、ずいぶんと削いだようにも見えるが――エンドブレイカー達もまた、呵責ない攻撃に構わず、一体の敵を倒すことに注力し続けたこともあり、相応に体力を削り尽くされようとしていた。
「逃がしはしない――非道の限りを尽くし、外道に堕ちた報いを受けるがいい」
 忌々しげにエンドブレイカー達を睨みつけたヤチヨの、戦籠手を嵌めた腕をルーンが破壊しようとする。
 しかし、そんな彼の背を――遠い間合いから、忍びが放った斬撃が深々とえぐっていた。そのまま俯せに倒れたきりのルーンを見、アナムはヤチヨを押さえる二人への加勢ではなく、忍びへのランスゲイザーで反撃する。
 足裏から、そのまま昇りゆく気槍に貫かれた忍びが事切れるのを目にし、
「バーッハッハッハァッ!」
 心置きなく押さえに回れると、オルトラは天龍降臨拳をヤチヨへと叩きつけていた。
「その凶手、あの方にまで向けさせてなるものか……この命と引き替えにしても!」
 血しぶくほどのはげしい想いを、口にしていたヤチヨへと、
「退かないなら、その想いごとあなたを撃ち砕く! ――これで、とどめーっ!」
 残るすべての力を振り絞り、アヤカは肉厚の刃を豪快に横に払っていた――が。
 刃を受けたヤチヨは己の影を巨大な魔神と変化させ、アヤカを何度も踏みつけにする。その足が離れてもなお起き上がる気配のない彼女を、ヤチヨが満足そうに見下ろした、その時だった。
「悪いな、俺らはあんたら全員、生かして帰す気はさらっさらないんだ」
 駆け寄ったクラリッサのガンナイフが、突きたてられていたのは。
「小娘が!」
 残った忍びが太刀を振るい、空間ごと彼女を断とうとした。
 しかしここで、他の敵に気を取られたのが運の尽き、と、リョウアンの二段蹴りが忍びとヤチヨに浴びせられると、
「さあ、断罪の時間だ」
 ティルナはすかさず断罪ナックルを忍びへと叩き込み、戦意と怨念を彼女から奪い去っていた。
「今度は僕の番だ――勝とう、必ず!」
 心ならずとも膝をついた仲間の分もとアナムが気合を込め、螺旋を描くナイトランスでヤチヨの腹を突くが、
「散れッ!」
 敵は全て射抜くとばかりに、戦籠手から発射されていたボウガンの連撃。
「大丈夫。寂しくないよう、貴方の主人も近い内に冥府へと送ってさし上げますから」
 ヒョウカが撃ち出した月の魔力は、ヤチヨを正面から包み込む。その眩しい光が、闇に消えていくより前に、オルトラがヤチヨの身体を掴み、力任せに投げ落としていた。
「……っ、ああ……っ!」
 粉砕された仮面の下から現れた、女の唇が震え――今際の時に、囁こうとしたのは主の名だろうか。ほんの先刻まで戦籠手を彩っていた紅布が血に浸るさまと、事切れた忍び達を照らす月明かりは、痛いほどに眩しく感じる。
「ものすごく、静かだけど――あちらもきっと、勝っているよね」
 静まりかえった夜のなか、アナムがぽつりと呟くと、敵影の有無を見定めていたリョウアンは屋根から立ち去っていた。
 それをしおに、傷ついた仲間を抱きかかえ、念には念をと四方に散開する戦友を見送り、
「……このような良い月の夜を、死臭で汚したくはないのですが」
 ヒョウカはつかの間目を閉じ――灯りのともる花街を遠目に見遣ると、その場をつ、と離れていた。



マスター:内海涼来 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2013/07/07
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