ステータス画面

緋色に萌ゆ

<オープニング>

 都市の下層に程近く。用事を済ませる途中で、その場を通り過ぎようとしていた男は、鼻先を掠めた香気にふと急ぐ足をとめた。辺りに人気は感じられないが……。
「花の匂い……薔薇か?」
 こんな時季外れに何処から……。
 辺りを見回すと、門扉は崩れ落ち、半ば廃墟とかした館があった。
 ふらふらと匂いに誘われるように、男が崩れた壁の穴から中に入りこむ。まず目に飛び込んできたのは深く艶やかな葉の緑。そして……色彩に満ちた鮮やかな薔薇の花。その中にあって尚一層馨しい花があった。否、それは薔薇と半ば同化した様な美しい女性の姿のピュアリィ。
 フォアローゼス……確かこの近辺でそう呼ばれていたか……。半ば残っていた意識も次第にどうでもよくなってくる。
 彼の目に移るのは、可憐に微笑む、薔薇の乙女の姿だけ。
 パキッ。
 求める様に差し出された両のかいなに応じようと、薔薇の園に進めた足の下で何かが乾いた音を立てて砕けた音も、彼を最後まで正気に戻すことは出来なかった。
 その蠱惑的な微笑を覆い尽くす狂喜的な仮面の存在に気づけずに……彼は茨の中に取り込まれていくのだった。

 フォアローゼスと呼ばれるピュアリィがマスカレイドとなって、男性を自らの糧と快楽の為に惨殺するエンディングを見てしまった。竪琴の魔曲使い・ミラ(cn0007)が、出来るだけ端的に知り得た情報を仲間達に伝える。
「彼が館に足を踏み入れるよりも早く、マスカレイドを退治してして下さい」
 マスカレイドのもととなったフォアローゼスと呼ばれるピュアリィは、その香りで獲物を呼び込み、自らの糧となす性質があるらしい。
 一カ所に定住する性質を持ち、余程の事がない限り移動することはない。
 相対した場合、髪に絡まる蔓を鞭のように、して攻撃してくるだろう。
 恐らく配下も出してくるであろう事は間違いない。
「4体より多いって言う事はないとおもうんですけど……」
 ミラの見たエンディングには、仮面に茨が絡みついた様な配下マスカレイドの姿が一瞬だけ映っていた。
「香りによる魅惑には十分に注意して下さいね」
 そこまでいうとミラは改めて、集まった面々の顔を見回した。
「私からは以上になりますが……皆さんならきっと大丈夫ですよね」
 必ず、マスカレイドを倒して来てくれると信じて待ってます。そういうと、ミラは旅人達を送り出すのであった。


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参加者
弓の狩猟者・ラリサ(c00265)
剣の魔法剣士・リュアン(c01105)
大鎌の星霊術士・ミィミア(c01305)
槍の魔獣戦士・リュウヤ(c03523)
大剣の魔獣戦士・ディロイ(c03655)
シールドスピアの群竜士・ノサダ(c04928)
太刀の群竜士・イーリン(c06461)
剣の城塞騎士・ティルフィ(c07199)

<リプレイ>

●廃墟の館
 其処の住まう人が絶えたのは何時の事だったのだろうか? 以前は整然と整備されていたのかもしれない。伸び放題に伸びた枝葉の落ちた木々が並ぶ通りも、件の建物も、そのすべてが枯れ果てたセピア調で、穴だらけの塀に生い茂る蔦の冬葉の赤だけが、鮮明に色を乗せていた。
 嘗ての繁栄を土台に、この国が出来ている事を、如実に感じさせる。そんな情景が目の前に広がっていた。何れ此処も迷い人や、数少ないもの好きすら訪れなくなり、やがて本当の廃墟『ダンジョン』に変わるのだろう。
 廃屋を前にした旅人達は、盛衰の流れを目にして何かを感じいった様に、瓦礫を見回した。薄暗い崩れた壁の奥から僅かに流れてくる風に孕まれた香りが、微かに鼻孔をくすぐった。
「近いのか……?」
 瓦礫で足の踏み場もない、この場に場違いなほど甘く瑞々しい咲き始めの薔薇の香り。何時までも嗅いでいたいと思わせるほどに至福なそれに、導かれる様に足を進めようとした。
「入口はあっちの様だ」
 ワイルドな顔立ちのシールドスピアの群竜士・ノサダ(c04928)がそのままふらふらと崩れた壁によじ登り、中に侵入しようとしていた大剣の魔獣戦士・ディロイ(c03655)を止めた。香りを吸い込まない様にと、口元と鼻に逆三角の覆面をして、ちょっと人相が悪くなっているが、気にしない。見た目より機能が重要なのだから。
「……っ!? あ………」
 館の正面から、時計回りに少し行くと自分の背丈の倍以上ある巨大な鎌を背負っていた大鎌の星霊術士・ミィミア(c01305)が、何かに躓いて乾いた地に手の平をついた。
「大丈………まじかよ………」
 ミィミアに手を差し出した太刀の群竜士・イーリン(c06461)が、落とした視線の先にあった物を目にして、思わず天を仰ぐ。
 白く、脆い、中には年月を経ているのか、とろりとした飴色がかかっている物もあるが、明らかにそれは生物の骨の数々。地に突き刺さる大腿骨に半ば崩れた頭蓋骨。予想の範囲内の事ではあったが、実際に目にすると吐き気がしてくる。この気持ちを一言で表現するならば、胸糞悪いに尽きる。
「獲物をおびき寄せては捕食か。けど、そんな事をいつまでもできると思ってもらっちゃ困るね」
 ギリッとイーリンは奥歯を噛みしめた。
「これ以上増やすわけにはいかないよ」
 被害者が来る前に、絶対仕留めるんだ! と、剣の城塞騎士・ティルフィ(c07199)も頷いた。
「フォアローゼスか……こっちの方に美女の気配がするぜ」
 美女好きのおれの勘がビンビン感じるぜっ。槍の魔獣戦士・リュウヤ(c03523)がびすっと館の端を指差した。リュウヤに言われるまでもなく、季節外れの緑が一番濃いのも、先ほどから漂う香気が漂ってくるのもそちらの方向からであった。
「……しっかりやりなさいよね。あんた達が頼りなんだから」
 弓の狩猟者・ラリサ(c00265)が剣の魔法剣士・リュアン(c01105)の袖をひっぱりこそっと囁いた。
「うん? もちろん全力を尽くすよ」
「べ、別に心配しているわけじゃないわよ?」
 ツンと顎をそらしたラリサの頬は微かに赤かったが、リュアンには気がつかれなかった。

●薔薇の館
 一歩足を踏み入れると、噎せ返る様な香気に包まれた。崩れた壁から浸食した薔薇が屋内に生茂っていた。
「よお! 楽しくやってるかクソども!」
 足癖悪くイーリンが既に崩れ落ちかけて辛うじて扉の形をしていたものを蹴り開けた。蹴り飛ばすと言った方がしっくりくるような、軽く腰の回転を入れた勢いを殺さない一撃に、扉だったものは砕けて飛び散った。
 シャーッ!? ともジューッ!と、聞こえ空虚な気配しか感じられなかった部屋に、殺気が満ちる。
「煌めく魂(こころ)は正義の証! 世界が待ってたニューヒーロー!」
 あははははは………とディロイが笑い声を響かせた。
「何処だ!?」
「あそこだ」
 ノサダが抜けた屋根の上を指差した。
「俺の名は大剣の魔獣戦士・ディロイ! ご期待通りに只今参上!!!!」
「………誰か期待してた……?」
 鎌を肩に預けたままのミィミアがかくんと、首をひねる。
「何とかと煙は高いところが好きっていうし」
「中には熱血したい人間がいても、それは個人の自由だ」
 ラリサとリュアンが不思議がる少女の両肩を叩いた。
「とぅっ!!」
 口上を言いきって気がすんだのか、ディロイは屋根から飛び降りた。ドスン、バキバキバキ………何とも言えない音を響かせて177.8cmの体が床に突き刺さった。どうやら床が古くなっていたらしい。
「ほら、ディロイいくぞ」
 遊んでないで、手伝えよ。いつの間にか8人は4体の配下マスカレイドに囲まれていた。おどけた面の下から伸びる蔦が鞭の様にしなり、唸りを上げて襲いかかる。
 リュウヤは床に突き刺さったディロイを引き抜きながら、己の槍を構えた。腰くらいの位置で仮面を揺らす配下マスカレイドの奥で、豊満な体を赤い花弁のドレスに身を包んだピュアリィの姿があった。
 凛とした姿が咲き始めの一輪の薔薇の様な、孤高の空気をまとう。
「うへへ……。はっ、いかんいかん。どれだけ美しくても、おれには魅了など効きはしない!!」
「………その通りだ」
 スリットから覗く白い太ももとか、胸元とかにチラチラと視線をやるノサダが顔を真っ赤にして背けた。
 マスカレイドの仮面で顔が隠れていてよかったかも。是以上、扇情的な姿を見去られたら困るのだ。だって……男には男の事情があるから。

●4つの薔薇と仮面の乙女
 ヒュイッ! ラリサ弓弦が鳴り。矢が放たれた。狙いは真正面で幽玄な物腰で佇むピュアリィ。その仮面の頬を傷つけ矢は背後の薄汚れた壁に突き刺さった。
 その音に臨戦態勢の体が反応した。
 飛び出したリュアンの剣戟が残像を生み、目の前の配下マスカレイドを突き出す勢いで、後方に大きく跳ねあげた。
「悲劇のエンディングはマスカレイドに堕ちた者にこそ相応しい……」
 エンディングを変える為に、微力を尽くさせてもらおう!
 人を騙して自分の餌にするのは随分と酷い事。
「……今からあなた達を狩ります…………それと……わたしは薔薇より百合のほうが好きですよ??」
 深く踏み込んだミィミアの大鎌が重い唸りを上げて、周囲の薔薇の花ごと切り裂く。
「……引き裂け、黒旋風!!」
 そのまま振りぬいた鎌を握ったまま組み合わず、駆け抜ける。無数の花弁と葉が、一瞬目くらましの様に舞い散った。
「ち……すばしっこいな」
 ぴょんぴょんとよける配下マスカレイドの動きに翻弄されながらも、渾身の攻撃を叩き込んでいく。

「待たせたな……いくぜっ!」
『ヒィィィィィッ!!』
 仲間達が配下マスカレイドをどかして辛うじて作った道を抜け、イーリンがフォアローゼスに迫る。近づけさせまいと、その体と同化した蔦が、縦横無尽に放たれた。余波で細かい裂傷が生まれる。
「引けないんだっ! 被害者が来る前に、絶対仕留めるんだ!!」
 ティルフィが背筋を伝う汗を感じながらも、身を低くして抜けられそうな場所を探す。
「……疾れッ!!」
 捻りを加えたノサダの槍の一撃が、周囲に広がった茨の鞭をからめ捕り、力任せに引く。
 それでも抑えきれなかった一部が踏み込もうとしていたイーリンとティルフィに群がる。肌を弾け、茨の刺がごっそりと肉をこそぎ取っていたのが感じられたが、そんな痛みなど気にしてはいられない。
 次の一撃が目の前にせまっていたからだ。
 ラリサも必死に弓を引き絞り、早打ちを試みる。
「はっはー、まだまだぁ! 僕を倒すには……足りないよ!」
 無理に笑顔を作って地についた剣を杖にゆっくりと立ち上がる。
「あたいも、まだまだだな……きな。次で決めてやるよ」
 ニッと笑う此方は実に楽しげで地に植えた狼の様に、凶暴な気配を孕んでいた。
 飛来する矢に足止めを食らったフォアローゼスも何度かの攻撃で動きが鈍くなってきて見えた。
「我が拳は竜の顎、我が一撃は竜の咆哮也!」
 ノサダが竜を帯びた拳を突き出す。
「てめぇの悪事もここまでだっ」
 阻もうとする茨の鞭の棘が、刺さり。血が流れるのも厭わず、ブチブチっと素手でちぎり切った、イーリンの拳も竜を帯びる。
「これで……さいごですっ!」
 二人のあけた茨の穴にティルフィの剣が突き刺さった。剣で胸を突かれ、大きくもがくようにフォアローゼスが手を伸ばす。苦悶に歪む顔が仮面の下から現れる。
 ――カツーン…………。
 割れた仮面が落ちる音だけがやけに大きく響いた。

●終焉の花園
 配下マスカレイドを相手していた仲間たちの方も、決着がつくところであった。
 常に二人一組で確実に相手をつぶしていく方法が功をそうし左程厳しい状況に追い込まれることはなかった。
 たった一つの事柄を別として。
「あーっ! フォアローゼスちゃんが………」
 地に倒れ込んだピュアリィの亡骸を見てリュウヤが愕然とした顔でへたり込む。
「フォアローゼスちゃんが………フォアローゼスちゃんが………俺のフォアローゼスちゃんが………」
 俺の? その言葉に必死でフォアローゼスを撃破することに成功した4人が顔を見合わせる。
「何かの拍子に、フォアローゼスの香りの魅了にかかったらしくて……」
 リュアンが苦笑する。
「………後半、役立たずでした」
 ミィミアがバッサリと一言で言いきる。邪魔しようとするし、真面目にやらないし……。
「……さてどうやって元に戻そう?」
 ここは女性陣のキスでいっぱつなんだけど……女性陣にも選ぶ権利がある。
「叩いてみる?」
「しゃーねーな。とりあえず引っ張って帰るか」
 このまま放置していくわけにもいかないし。
「お疲れさまでした!」
「……ふむ、いい修行になった」
 丁度近くにいたノサダを捕まえてハイタッチをして依頼完遂を喜ぶティルフィの様子をみて。ミィミアはくすりと小さくほほ笑んだ。
(「……世界が平和になあれ♪」)
 何時かマスカレイドが居ない世界を見てみたい。何時の日か棘(ソーン)が無くなる日が来る。そう信じて……。



マスター:青輝龍 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/03/12
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冒険結果:成功!
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