ステータス画面

血染めトロップフェン

<オープニング>

●真紅の薬
「ダメ、こんなんじゃダメ……!」
 机の上に乱雑に置かれた紙束や瓶を勢いよく机の外へと腕で押す。――机の境界線を越えた紙束がばさばさと音を立て、響き渡るいくつかの甲高い音はインク瓶の壊れる音だろう。
「これじゃあ彼を救う事なんて……! 妙薬、そうよ薬があれば……!」
 両手で頭を覆い俯く彼女。癖のある飴色の髪を勢いよくかきむしりつつ、ダメだダメだ……ただそれだけを呟き続けている。
 貧困街に位置するこの場で、いくら治療薬を求めたところで手に入るわけが無い。――困っていたとしても、結局はお金が必要になって来るのだから。実際治療を頼みはしたが、お金が無いからと断られた。そう、ラッドシティは平和になったと言っても、まだまだ差の激しい世界。
 私だって、娘を養わなければいけない。そう言って医者は、隣に佇む子の頭を撫でていた。
 そんなものは分かっている。分かってるが――それでも、愛しい人の為に何か出来ずにはいられない。落ちた紙束を拾い上げ、読みなれない文字をぐっと視線を凝らして読む。
「……! これなら、私でも手に入るかも!」
 きゅっと手近にあったナイフを手に取り彼女は立ち上がる。――対象はやはり、彼の治療を断った医者。あの子供からだろうか。
 不気味に笑みを浮かべる彼女からは正気さが消えている。あるのは……真白に輝く仮面。
「そうよ、私では達成出来ない。だけど、この力があればきっと、きっと……!」

 ――若い子の生血が、万病の薬になるって。
 ――そんな、古い書物のただの伝承。

●鮮血の最期
「好きな人を救う為。本物か分からない情報を信じて、人を殺しに行く女性」
 それが今回の話だと、鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)は簡潔に述べた。
 彼女の名前はフェリシー。音は真面目だけれど、思い込みが激しかったり、色々と溜めこんでしまうタイプのようだ。今回の件は、恋人の死について1人で考えて最終的に至った手段。
「人の生血。それが万病の妙薬になる――そんな嘘のような伝承を、彼女は信じているようでね」
 その生血を手に入れる為に、マスカレイドとなり誰かを殺しに行こうとしているらしい。
 幸い、まだ被害者は出ていない。ならば今ここで、悲劇を止めるべきだろう。
 そう、止めなければ――1人、また1人と。被害が拡大していく可能性があるのだから。

 事件が起きるのはラッドシティの貧困街。時刻は夜だ。
「狙う対象は子供。だから、ギリギリ子供たちがいる時刻……くらいになるね」
 今回狙われている相手は、運良くというか悪くというか。家の前で1人遊んでいるようだ。そこに近付き声を掛け、路地裏へと連れ込んでしまおう――フェリシーはそう考えているらしい。
「彼女が向かう途中に、路を防げるような場所は無し。……と云う事は」
 被害者の代わりに囮になり、彼女の導く路地裏へと向かうしかないだろう。
 彼女にとっての第一目標は一応いるが、他に対象がいるのならそちらへターゲットを変えるだろう。若い子、のカテゴリーがどこまでかは謎だが、恐らく12歳くらいまで。
「……その囮、誰もいないようなら僕がやるよ」
 静かに、淡々と――いつもと変わらぬ口調で、ユリウスは呟いた。雰囲気は少し大人びているところはあるが、身長的にも問題は無いだろう。そう判断し、自ら役を買って出る。
 それはつまり、彼も今回の事件には同行する事を意味していた。
 囮役が上手くフェリシーの足止めをし、路地裏へと導かれていけばあとはその後を付けて人がいない事を確認し、戦闘を行うだけ。
 相手は配下などは呼び出さない、たったの1人。ナイフを所持し、投げつけたり激しく出血させたり、超高速な斬撃を繰り出してくる。長引けば些か不利になる可能性はあるが、さほど戸惑う相手では無いだろう。本人の力も、エンドブレイカーが合わさってしまえば大した事無い。
 ――故に、どのような言葉を掛け。何を思うか。それが今回の事件の重要な事だ。
「まあ、彼女を救う事は。出来ないんだけどね……」
 ――どんな言葉を掛けたところで、彼女をマスカレイドの力から解放する事は出来ない。それは彼女自身の歪んた心が、求めてしまった力なのだから。
「まあ、とりあえず以上かな。君達にとって難しい話では無い筈だよ」
 だからこそ、悲劇の前の終焉を――そう言いたげに、ユリウスは藍色の瞳を伏せた。

 ――盃に零れる鮮血の雫。
 ――それが本当に薬のなるのかは……不明。


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参加者
わんぱく戦士・コンラッド(c00353)
アマキツネの・カケル(c05038)
花春風・シャルロッテ(c13732)
手折られた花・ジョシュア(c22256)
春告げの唄・アルヴィ(c32493)
鎖夜蝶・キト(c34274)
奇跡の花の戦士・アイリス(c34883)

NPC:鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)

<リプレイ>

●命の薬
 段々と薄れゆく陽射し――夜の帳と共に、辺りに人気は無くなっていく。
 影となる道に潜みながら、アマキツネの・カケル(c05038)は心に想う。愛する人を救う術が無い事に、どれほどの絶望が心を覆ったか。救いを求めた心の隙を、棘に魅入られた事の哀れさを。
 そんな事を考えつつも、月色の瞳を細めた。
「愛する人を助けたい……、か。そう思うのは当然だと思うよ」
「素敵だと思う。でも、その為に他人の命を犠牲にするなんて、単なるエゴイズムだね」
 手折られた花・ジョシュア(c22256)の言葉に、奇跡の花の戦士・アイリス(c34883)は頷きつつ真剣に答えた。そう――手段がねじ曲がったからこそ、止めなくてはならない。
 ジョシュアは漆黒の片髪で覆われぬ血色の瞳を瞼で隠し――。
(「……ああ困ったな、こういうのって苦手だよ、僕。調子が狂って仕方ないな」)
 心を覆う、もやもやとした『何か』を感じていた。
「しっ、現れた」
 様子を窺っていた鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)が零せば、一斉に皆身構え路地の様子に神経を集中させる。――先に回り込む案もあったのだが、その路地が特定出来ねばそれは無駄足になる危険性がある。ならば、後を追うのが得策だろう。
「……届けば良い」
 何を祈ったのか。
 癖のある飴色の少女の姿を一目見て、鎖夜蝶・キト(c34274)は呟いた。

 ゆらり――どこか気だるげに歩く少女の足元に、転がる黄緑色のボール。それに気付き彼女が足を止めれば、駆けてくる少年の姿が見えた。
「あっ、ボール……すみませんっ」
 無邪気に笑う少年は、帽子がよく似合って可愛らしかった。ボールを拾い上げ、彼女は微笑む。
「はい、どうぞ。随分と元気なのね」
「ありがとうございます! えへへ、元気だけが取り柄です!」
 萌黄色の瞳を細め、笑う頬は僅かに桃色に染まる。柔らかそうな肌。大きな瞳。細い髪。
 ――それは、小さな子供の証。
「……ねえ、元気なら。お姉さんの事、助けてくれない?」
 ふわりと微笑む少女。少年はもちろんです、と頷いた。

 少年――春告げの唄・アルヴィ(c32493)は見事に囮に成功したようで、そのまま少女に導かれるまま道を歩む。奥へ奥へ――人のいない闇の中へと。
「行きましょう!」
 ミルクティブラウンの髪を泳がせて、花春風・シャルロッテ(c13732)が真っ先に駆け出した。

●鮮血の命
 カツン、カツン――夜道に靴音を響かせて、2人の小さな人影が揺れる。
 アルヴィの右手に感じる熱。それは人の温もりだ。――さほど身長の変わらぬ少女の横顔、その悲しみを帯びた天鵞絨の瞳にきゅっと胸が締め付けられる。
「さて、この辺りなら大丈夫かしら」
 どこか落ち着いた声色が響き渡る。
 ドロースピカにより映し出された星の瞬く下。微かな灯りが届くこの場は、路の行き止まり。
 片手に伝わる温もりが微かな痛みに変わり、ぐいっと勢いよく引かれれば、その反動でアルヴィは1人行き止まりへと放り出される。後ろは壁。目の前には――微笑む少女の姿。
「私はフェリシー。……君にはね」
 す、と彼女の身が近付く。揺らめく飴色。仄かに薫る花の香り。
 少年は、身の危険を感じ身体を横にずらした。寸でのところで、何かをかわした事に気付く。
「死んで欲しいの。あの人の為に」
 少し瞳を見開き驚いた様子を見せても尚、彼女は微笑む。アルヴィは魔鍵を手に握り、きゅっと暗闇の中目を凝らし、少女を捉えた。――その瞬間、少女の背後に忍び一撃を与える人影が。
「天狗のカケル、只今推参」
 闇に紛れるのは彼にとっては極自然の事。紛れ、斬撃を放ち、目標を討ち取る。その通りに、彼は少女の腕に傷を与えると、握るムーンブレイド忍刀・コウモリ丸を構えた。
「その仮面砕かせてもらう。覚悟!」
 月色の瞳が少女を捉えれば、わんぱく戦士・コンラッド(c00353)が次いで紅の布をはためかせ紅の暴君は回転させながら少女へと近付き、その切っ先を勢いよく振るう。
 目の前には7人の武器を構える人々。背後には討ち取るべき人。
 ――こちらにとっては幸か不幸か。人気の無い路地裏で、少女を挟み込む形へとなった。
「……私が傷付いても、君と君だけは。何が何でも」
 きりり。唇を噛み締めながら、少女はアルヴィとユリウスへと視線を送り、ナイフを握る手を強める。そんな彼女の様子を見て、溺れる者は藁をも掴む――そう祖母が言っていた事をコンラッドは思い出していた。
 一気に駆け出す彼女が狙うのは――当然ながらアルヴィだった。素早い斬撃を受け彼は一歩後ずさるが、負けじと自身の周囲を回転する魔鍵でその身を狙う。
(「大切な人に生きてて欲しい……僕だってそう思います」)
 けれどそれは相手が望んでこそだと、少年は想いながら攻撃に苦しむフェリシーを見つめる。――不意に彼女の悲鳴が上がったかと思うと、背後から忍び寄るジョシュアの刃が深く深く、彼女の背後に突き刺さっていた。意識を逸らすように、彼は動き笑みを零す。
 彼の援護を見届けた後、シャルロッテはステンドグラスの煌めく銀色の魔鍵、游花音を握る。その鍵を少女の動きに合わせ動く影へと放れば――揺らめくリボンと共に、少女の影を捕らえた。
 不意に訪れる眩い光。喰らう竜の弾丸を放った後、アイリスが仲間へと微笑みかけた。
「目くらましは任せてね。皆のサポートを頑張るから」
 ――経験が少ない劣等感。けれどそれを感じさせないように、微笑みながら緩く波打つ赤茶の髪を揺らし彼女は紡ぐ。この瞬間、出来る事を精一杯。それは素晴らしい事だ。
 その力を受け、ユリウスの創り出した紫の巨大なソーンの檻が勢いよく少女を押し潰せば、キトの召喚した冬の嵐が一気に路地裏へと広がる。
 その身を凍結させられても、尚ナイフを振るう少女――それは誰が見ても、狂気に見える。
(「想い人にこうさせてしまったなら。それはきっと、どちらも悲しい」)
 冷静な表情を崩さずに、けれど微かに眉をしかめ。キトは今の少女の様子を、そう想った。
 ――たった1人の大切な人。その存在は、希望でもあり足枷でもある。

●天鵞絨へ――
「ねぇ……君は彼の意思を聞いた?」
 月明かりに刃を煌めかせ、ジョシュアは目の前の少女に語り掛ける。その声に天鵞絨の瞳を見開きつつ、勢いよくナイフを振るったが、ジョシュアの刃に受け止められる。きりりと唇を噛み締め、きっと目の前の青年を睨みつけ――。
「ずっと私と生きられたら、そう確かに彼は言っていたわ……!」
 そう、彼女は零す。そんな彼女の姿を見て、ジョシュアは病気だった双子の妹の為、踏み外してしまった過去を思い出し、血色の瞳を細めた。
 その表情は普段と何ら変わらない。――けれど、彼の心には色々な想いが渦巻いていた。
 彼女に語り掛ける言葉を……そう想い口を開きかけた時、背後から声が聞こえる。
「ねえ、フェリシーさん。あなたが愛している人は、他人を犠牲にして生きる事を望む人なの?」
 柔らかく澄んだ声で語るのはシャルロッテ。きゅっと銀色の鍵を抱き締めて、青空の瞳に微かに涙を滲ませながら――彼女は真剣に語る。彼女達の年齢差、境遇。それが昔好きだった彼と、あまりにも近しいから。彼女はついつい、フェリシーに自分を重ねてしまう。病魔に冒された彼。何も出来ない自分。そんな悲しい過去を思い出し、唇を強く噛む。
「思い出して下さい。あなたの知っている彼の顔を、言葉を」
 ――何を望んでいたのか。何を愛していたのか。
 あなたなら知っているはず……幼いアルヴィに語られ、少女の手が止まる。ナイフを握る手を小さく振るわせながら、その柔らかな頬を涙が伝う。
 少年は尚も語る。僕ならば、大好きな人が幸せであれるよう。本当に望む事をしたい。
「……あなたも、同じじゃないですか?」
 振りかざされるナイフの一撃が、彼の柔らかな頬をかすり一筋の血が零れる。それでも強い眼差しで見つめ返され、フェリシーの手の震えは更に増した。
「フェリシー、あなたは幸せですか」
 彼女の身を鎖で拘束しつつ、キトが問い掛ければ彼女は振り返り彼を睨む。
「……大切な人が死にそうなのに、幸せな人なんて存在するの?」
 震える声で返す少女。年の変わらぬ彼女の言葉を聞いて、キトは鮮やかな瞳を閉じ口を開く。
「……ジルベールは、あなたの方法で命を永らえて、幸せでしょうか」
 他人の犠牲のうえの命だと知り、本当に幸せになれるのか。そのような人なのか。
 先ほどから問い掛けられていた言葉の真意に気付き、フェリシーははっとその動きを止める。そんな彼女の様子に微かに微笑むと、キトは呟く。――失えない程大切な人を得られたあなたは、幸福だと思う。そしてそれは、彼もそうだと。
「綺麗な瞳のあなたに愛された彼は、幸せだった」
 そう言葉を零すと、彼は瞳を開き、そのピンクの瞳で彼女の涙滲む天鵞絨の瞳を見つめた。
 ぽたり、ぽたり――美しい瞳から零れる雫は止まる事は無い。けれど彼女は首を振る。その言葉を拒絶し、振り払うように――けれど想いが、伝わるように。そうシャルロッテは願い口を開く。
「そう、あなたがどれだけ彼を想っているか、そして行動しているか彼はきっと知っている」
 藁にもすがりたかった自身の想いが蘇り、つい口調も強くなる。悩むフェリシーの姿は、当時の自分と重なって見える――けれど大きく違う事、それはシャルロッテは既にエンドブレイカーだった事。もしも違えば、自分も彼女のように棘に蝕まれたかもしれない。
 だから、放っておけない。
「自分のために手を汚すのを、彼は悲しむわ。だからお願い、もう……止めて」
 想いを込め、きゅっと両手を祈るように握り。彼女は願いを口にした。
 困惑したように首を振るいつつも、棘に覆われた彼女はナイフを振るう。もう誰を狙うか――そんな事も考えられない様子で。ただ目の前に立つコンラッドへとナイフを投げた。
 その刃を受けつつも、痛々しい彼女の様子を見て彼は思う。『若い子の生血が万病の薬』になると書き残した者への怒りを。そして、その記述を信じてしまった彼女への嘆きを。
 悩み、迷い、行動を起こす彼女に掛ける言葉、それは難しい。けれど棘に捕われた彼女の最後は決まっている――コンラッドがハルバードで突撃すれば、続きアイリスが竜の弾丸を放った。
 三日月のような刃を煌めかせカケルが月剣を振るえば、ふわりと鼻をくすぐる待宵草の香り。その香りを残し、彼女の死角から攻撃をしつつ、彼は想いを伝える。
 愛する人の死への旅路を見守るしかない事は、さぞ辛いだろう。絶望から世を恨む事も最もだ。そんな当たり前の心持ちを棘に狂わされた事――それは素直に可哀想だと思う。
「お前も棘の犠牲者だ。もはや戻れぬ身になれば消滅を以て救おう」
 ――そう、それしか彼女の救いは無いのだ。
 はっきりとカケルの口から告げられた、エンドブレイカーの使命。隣で語る彼の言葉に耳を傾け、ジョシュアは微笑んだ。
「これって結局、君が暴走して勝手にやってることだよね。これは単なる君の自己満足」
 感情的な想いを隠すように、ついつい辛辣な言葉を零してしまう。――けれどそれは真意なのだ。痛い事を言われ、少女は更に強く唇を噛み……つう、と血が伝った。
 そんな彼女の姿を見つつも、過去を振り払うように彼は続ける。涼しい顔のまま――。
「しかも人の生血なんて。それこそ、彼の意思を踏み躙る……赦されないことだ」
 だからもう、終わりにしよう。
 その呟きと共に、ジョシュアは彼女の死点を突く一撃を贈る。
 ぐらりと傾く彼女の身体に駆け寄ると、狙うように振り下ろされるナイフをキトは受け止めた。――刃に恐れる事無く受け止めた為、彼の細い手には血が伝い、ぽたりぽたりと零れる。
 刃にも、手にも。そして地に零れる鮮血。けれど彼はその痛みを気にする事無く、美しいと語った彼女の瞳を静かに見つめ口を開いた。
「こんなものは、薬じゃない。ただの、痛みの塊です」
 ――零れる少女の息は、真意が伝わった証だろうか。けれど、既に満身創痍の彼女からは強い言葉は返ってこなかった。シャルロッテが白き星霊、綺羅を呼び、ユリウスのソーンが彼女を囲う。アイリスの放つ竜の弾丸が彼女を貫けば――目の前の彼等を見て、少女は口を開く。
「エンドブレイカー……彼の命も救えないで、何が英雄よ……」
 涙を零しながら語る少女。
 その最期の言葉は、棘に捕われてしまった彼女にとって、精一杯の強がりなのかもしれない。
 けれど――重い重い、言葉だった。

●華の願い
 倒れる少女の身体。癖のある飴色の髪は地に投げ出され、土と血により汚れている。美しかった天鵞絨色の瞳に、命の色が宿る事はもう二度と無いのだろう。
「任務完了だ」
 カチンとなる刀を納める音。口元のマフラーを下ろしつつ、冷静にカケルは零した。
 倒れる少女を静かに見下ろした後、シャルロッテはユリウスを見る。
「ユリウスくん、お願い出来る?」
 頷くと、少年は瞳を閉じマスカレイドだったその身を薔薇に変える。――道端に咲く1輪の薔薇は、狂おしい程の赤。まるで彼女の望んだ、鮮血のような色をしていた。
 その薔薇の花を見て、シャルロッテとアルヴィは静かに祈る。
(「どうか空で、想いは幸せでありますよう。あなたの想いは、私が抱いていく」)
 自身に姿を重ねたシャルロッテは、彼女の想いを抱き。
「伝承が本当だったなら……僕は、あげても良かったんです」
 偽りの伝承故に狙われたアルヴィは、自身の頬の血を拭いながらそんな事を零した。――生きて救えなかった辛さは胸に宿るけれど、それでも笑みを零した。彼女を、赦す笑みを。
 そんな年下の様子を見つつ、カケルは想う――ジルベールが、フェリシーが姿を消した悲しみを背負って旅立つことになるという、現実を。
「棘は恋人同士の最期の時まで奪ったのだな」
 人ならば、その心に闇を抱く事もあるだろう。けれどその闇は晴れて未来へ向き合うと、そう彼は信じている。だからこそ、彼は今は亡き少女へと語り掛ける。
「フェリシー、お前に咎はない。心の闇に付け入る棘が全ての原因だ」
 だから、いつか必ず棘を滅ぼそう。その誓いを込めて手を合わせれば、同じく棘を滅ぼす信念を抱くユリウスも、彼の隣りで手を合わせた。――棘への想いは、それぞれだけれど。
 そんな重い空気を持つ仲間を見て、コンラッドは少し居心地悪そうにする。やるせない気分を抱えつつも、帰るかと口にすればアイリスが頷き、座る仲間達も立ち上がった。
 路地を歩きながら、描かれる星空を見上げキトは想う。
 華になって、飛んで――最期に彼へ届けば良い、と。
「いってらっしゃい、彼の元へ」
 彼が死ぬ事が避けられるのなら、待っていてあげるといい。
 それが唯一の、彼女の幸せであると――そう願って。



マスター:公塚杏 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2013/09/04
  • 得票数:
  • カッコいい3 
  • せつない7 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
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