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折れた劔

<オープニング>

●主を喪った狂犬はただひとり
「どうしてだよ……」
 夕闇に、青年の問いが落ちる。その顔は、血に汚れていた。腕も傷があるのか、ぱた、ぱたと夕暮れの街に血が落ちる。
「なぁ、此処で合流つったの、お前だろ? あのガキ、ちゃんと逃げてたぜ? ……なぁ、おい、俺が来んのが遅いからって、なんだよ、先に、休んだってのか……?」
 青年は下を見る。膝をつくことは、何故か出来なかった。足下には、崩れ落ちた主の姿。狂犬と呼ばれた青年を拾い、己の劔だと、守護者だと笑って言った少女騎士のーー骸があった。
 腕は折れ、頬は腫れ、狂犬の誇りでもあった主の赤く美しい髪が血と泥に濡れている。
「俺はお前の劔だろ、なぁ……使う人間がいねぇと、どうしようもねぇじゃねぇか」
 夕闇に、落ちるのは少女騎士を守る為に戦えなかった悔恨か、喪った悲しみか。
 なぁ、なぁ、と声は二つ落ち、ゆるりと狂犬は辺りを見渡した。人の姿は無い。ただ乱れた足跡だけが残り、折れた剣に狂犬は1つ解を得る。
「てめぇを、傷つけた奴等ぶん殴らねぇと、先に全部ぶっ殺さねぇとな。そしたらお前だって、ちゃんと目、覚まして言うだろ? なぁ、遅れんじゃねぇって、さあ」
 涙が落ちた。狂犬と呼ばれた青年の両眼から涙が落ちる。
「ぶん殴ってやるよ、てめぇの敵、全部、全部、全部全部全部……!」
 最後の涙が落ちた時、狂犬の体は刺に包まれた。
「マスカレイド……はは、マスカレイドだろうが、なんだろうが……! この力で、あいつらをぶっ殺してやる!」
 
 人気の無い路地裏を、男が這っていた。大通りから離れたこの道を選んだのは、今回の仕事の相方が殺されたという話を聞いたからだった。女1人、逃がした挙げ句に馬鹿を踏んだと、そう思いながらも男が人気の少ない道を選んだのは殺された相方が慎重な男だったからだ。
「あいつが死んで、ブツは全部俺のもんだってのに……くそ!……っぁ、くそ、くそ、くそ……!」
 だが、選んだ裏路地で男は這っていた。足は折れている。それでも、必死に逃げるのは後ろから追って来る者がいるからだ。
「なぁ、逃げてんのかよ? わざわざ、ばっかみたいに話しながらよぉ?」
 鋼鉄の片腕を引きずりながら現れた青年は、逃げる男に鋼鉄の片腕を叩き付けた。
「ぐぁあああ!」
「は! もうぐっちゃぐちゃじゃねぇか!」
 路地裏に人気は無く、男に悲鳴はただ空に響くだけだ。嬲るように蹴り、笑う青年に悪徳商人は懇願する。
「も、やめ……許してくれ」
「は、悪党が何言ってんだよ。あいつも言ってただろう? 悪党だって……そう、そうだよ、あいつに手出したの、お前だろ?」
「あいつ って……なんだ、まさか、あん時の騎士のアマ……や、お嬢さんの……ぐぁああ!」
「黙れってんだよ、ゲスが」
 曽て狂犬と男は、鋼鉄の拳を悪徳商人の体に振り下ろす。何度も、何度もそうして、事切れた男を一瞥して彷徨うように視線を空に向けた。

●折れた劔
「ラッドシティで、事件が起きたんだ。大切な人を喪って、復讐を誓った人がマスカレイドになった」
 二つ夜のデモニスタ・ニヤ(cn0185)はエンドブレイカー達の顔を見ると、最初にそう言った。
「マスカレイドになってしまったのは、自警団って言うよりは、護衛みたいのやってた冒険者の人。相棒で、自分を拾ってくれた主の少女騎士を殺されてしまったんだ」
 当時、二人はある悪徳商人達から、少女を守ろうとしていたらしい。
「詳しいことは……ごめん、分かんねぇ。でも、少女がっつーよりはなんかヤバい仕事してる人達で、少女はそれを見ちゃったらしくて……で、守ろうとした二人のうち、囮になった騎士さんの方が死んでしまった」
 1つ、ニヤは息を吸い、集まったエンドブレイカー達を見た。
「1人、生き残った人、ヴィルダっていう男の人は絶望と悲しみの中、復讐を誓って……自分で、殺すって決めて、刺に飲まれた。マスカレイドになったんだ」
 ヴィルダは既に、悪徳商人を一人、殺してしまっているのだとニヤは言った。
「でも、次の人までには間に合うんだ。…… 止めよう、もう終わりだって言おう。この人の復讐も、戦いももう終わりだって」
 復讐を遂げた所で、彼は悪党を捜してその力をふるい続けるかもしれない。
「これ以上、この人に殺させちゃいけないんだ」
 だから、みんなに手を貸して欲しい。
 そう言って、ニヤは真っ直ぐにエンドブレイカー達を見た。


 次に狙われるのは、リンツという名の悪徳商人だ。相方が殺された事に危機感を覚え、路地裏を抜けて自分達が使っている倉庫に向かっている。
「リンツは倉庫に向かう途中、路地裏でヴェルダに襲撃されんだ。路地裏のどの辺りで襲撃されるか、正確な所は分かんないんだけど……倉庫側ってのは確か。路地裏は人気が無くて、叫んでも騒いでも人が来る様子は無いぜ」
 路地裏で戦う事もできるだろうが、マスカレイド・ヴェルダと戦うこともできるだろうがその場合、悪徳商人・リンツが逃げる可能性がある。
「逃げる先については、倉庫の可能性が高い。ってのも、エンディングでヴェルダに殺されそうになってる時も、リンツは倉庫に商品を取りに行こうとしてた。相方がいなくなったから、全部自分のだーっていうあれでね」
 その辺り、悪徳商人さんって頭くるくる回るよねー、と言って、ニヤは顔を上げる。
「リンツが逃げれば、勿論ヴェルダはそっちを追っちまう。いっそ、倉庫内を戦場にするってのも手だと思う。倉庫は結構広くて、ちょこちょこ床が抜けて、草が生えてる以外は結構足下問題は無さそうだぜ」
 ヴェルダの目的は、復讐を果たすことだ。そこを上手く使えば、誘導する事も出来るだろう。
「使うって……言うのもなって感じだけど、あの人にこれ以上、殺させちゃいけない気もするんだ。ヴェルダの片腕は銀色のバトルガンレットと同化してる。攻撃は素早くて、ブーストナックル、ボウガンシュートを使ってくるよ」
 配下のマスカレイドの姿はない、とニヤは言った。
「あと、リンツは相方が死んでから狙われてるとは思ってるみたいで、普通に護衛ですって行くと信じてもらえないと思う。オレ達が今から言って……辿り着くのは、リンツが路地裏に入ったくらいかな。事前にあれこれやってると、先にヴェルダの方が着いちゃいそうだから、その辺り、考えつつ作戦を練って欲しい」
 たぶん、こういうの考えるのみんなの方が上手っぽいし、とそこまで言って、ニヤはエンドブレイカー達を見た。
「長い話、聞いてくれてありがとな。……で、止めに行こう。終わりにさせにいこう。帰る所が無くなって、迷子になる気持ち、オレにも分かるけど……オレ達はエンドブレイカーだから」
 マスカレイドとなってしまった彼を『終わり』にさせることができるから。
「行こう」
 そう言って、ニヤは真っ直ぐにエンドブレイカー達を見た。


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参加者
黄金騎士・ハインツ(c00736)
山猫・リョウアン(c00918)
深淵なる薄氷・ミケ(c07900)
銀雷閃・ツルギ(c08167)
爍星・ジェン(c10838)
灼撃の・リョウ(c11025)
人民と共に歩む者・ルア(c28515)

NPC:二つ夜のデモニスタ・ニヤ(cn0185)

<リプレイ>

●夕闇に這い
 路地裏から、這うような音がした。近づいて来るその音に、爍星・ジェン(c10838)が視線を上げる。そこに見えてきたのは、悪徳商人・リンツの姿だった。
「あいつが死んで、ブツは全部俺のもんだってのに……」
 そう吐き捨てるリンツに、予定通り山猫・リョウアン(c00918)は声をかける。
「何かお困りのようですね、私で良ければお手伝いしましょうか? 礼なら感謝の気持ちを頂ければそれで十分ですよ」
「礼、だと……」
 零すリンツに、リョウアンは同類を匂わせる様に言葉を選ぶ。
「感謝の気持ち次第では、何も見なかったし、誰にも会わなかったと言う事になるかも知れないですね」
 その一言で、納得したようにリンツは笑った。
「金だろう! はっいくらでも払ってやる! だからあの化け物を殺してくれ!」
 通路の奥を指差すリンツに、交渉成立だとリョウアンは静かに告げた。守護の印を商人につけて灼撃の・リョウ(c11025)が担ぎ上げたその時――声がした。
「あぁ? 何やってんだ?」
 こいつだとリンツが声を上げる。路地裏から姿を見せたのは鋼鉄の片腕を引きずる男――狂犬・ヴェルダは担がれたリンツと接触班を見ると「待てよ」と低く言う。
「勝手に連れてくんじゃねぇよ!」
 そいつは、と叫ぶ声と同時に鋼鉄の腕から撃出された矢がリンツを狙う。一撃をリョウが弾き、行くぞ、と彼の声を合図に、接触班は走り出す。移動用にリョウアンが用意しようとした大蜥蜴は通路を通れずに断念したが、この距離ならば問題は無い。目指す場所は倉庫だ。そこが、8人が選んだ戦場だった。

●折れた劔
 その頃、倉庫では深淵なる薄氷・ミケ(c07900)によって最後の窓の施錠が終わっていた。扉は積み上げてあった荷箱で隠した。これで、入り口の扉以外、全ての出入り口を封じた事になる。少し倉庫内は暗くなったが事前にジェンから受け取った照明もあるから、問題は無い。
 一頻りの準備を終え、ミケは聴覚を研ぎ澄ます。遠くの音を聞き取る術は、容易に近づいて来る足音を拾い上げた。
「そろそろか」
 その言葉に、開いたままの扉の近く、身を隠していた人民と共に歩む者・ルア(c28515)は息を吸う。
(「マスカレイドは許せないけど、悪徳商人も許せないわね」)
 でも、と少女は、赤茶の瞳に意思を灯す。
 私情より先に、ルアはマスカレイドの撃退に全力を尽くす事にしたのだ。息を殺し、物陰に身を潜めた彼女の髪を夕闇の風が撫でて行く。
(「来る」)
 ざわめきを胸に、銀雷閃・ツルギ(c08167)はそう思った。
 こちらに向かって来る足音に、それを追う音。そして待て、という声。あれはヴェルダのものだ。
(「劔にとって正しき持ち手に使われるのは至高。奴はそれに準じ主の仇に応報するのもまた正しい」)
 だからこれは、とツルギは思った。単純な立場の違いでしかないのだと。
(「ならばあたしにできる事は……奴という劔が穢れぬまま主の元へと往くのを助け、その応報を引き継ぐ事だけだ」)
 足音が近づく。路地裏からこちらに向かって来る仲間がヴェルダと共に倉庫に入った所で、身を隠していたエンドブレイカー達は一気に倉庫に飛び込み、扉近くに陣取っていたミケが扉をひいた。
 ガシャン、という音と共に倉庫内が暗くなる。施錠された窓から差し込む夕陽が倉庫の中に線を描く。
「あぁ?」
 最初に声を上げたのはヴェルダだった。次いで、床に下ろされたリンツが息を飲んだ。
「な、何をしてるんだ! な、ここは……!」
 俺の、と零すリンツに、二つ夜のデモニスタ・ニヤ(cn0185)が唇を引き結ぶ。思う所があるのだろう。ジェンは顔の傷には触れずに撫でた。
「ガンナイフと声、存分に響かせような」
「……うん」
 体温に我に返ったのか、金の瞳は瞬き、頷く。
 エンドブレイカー達は静かに、扉を背に立った。リンツの護衛にはジェンが立てば、おい、と不機嫌を露にしたヴェルダが声を上げる。
「てめぇらそこどけよ。そいつぶっ殺せねぇだろ」
 ヴェルダの殺気が膨れ上がっていく。
 目の前で閉められた扉。この状況にあっても、ヴェルダが見るのはリンツのみだ。
(「マスターを喪ったガーディアンとは、悲惨な奴だ。まぁ……マスターを見つけることも出来ない、私の方がより悲惨なのかもしれないが、な。フッ……」)
 巨大化した腕が床を叩くのを黄金騎士・ハインツ(c00736)は見る。ガーディアンとしての身を思いながら、ハインツは騎士槍を手にする。
 眼前、少女騎士の守護者であり、劔であった彼は刺と怒りに身を染めて叫んだ。
「どけって言ってんだろうがぁあ!」
 叫ぶ狂犬にハインツは騎士の一礼をする。
「……道半ばで倒れた一人の騎士に代わって、私が示してやろう――正義と善なる、我等の騎士道を!」
 ルアは真っ直ぐにヴェルダを見て、言った。
「もう、殺すのはおしまいにして!」
 願いを込めたルアの言葉が、戦いの始まりを告げていた。

●狂犬ヴェルダ
「どけぇえ!」
 怒号と共に、鋼鉄の拳が矢を撃出した。六連の射撃は、距離を詰めようとするツルギとミケを射抜く。
 だが、2人は肩に刺さった矢をそのままに太刀を抜く。抜刀と共に矢が抜け落ち、た、と駆けるミケは落ちる血を見送りながら、ヴェルダに斬りかかる。
 円月の構えから、一気に薙ぐ。ヴェルダの肩口が避け、飛散った紅にミケは楽しそうに口を開いた。
「ふふ、強そうだねキミ……いいね、私はそういう奴と戦うのが好きなんだ」
「っち、退けってんだろうが!」
 怒声と共に、ヴェルダの腕が振るわれる。溢れる敵意を肌に感じながらミケはふふ、と口許を緩めた。
(「最近、人間と戦えて楽しいんだ。キミも私の楽しみの一つとして消えていくのかな……」)
 退け、と一際大きなヴェルダの声と共に、ハインツは召喚した星霊グランスティード、ヘッツァーに騎乗する。騎士の愛馬は蹄を蹴立て、暴れる様に腕を振るうヴェルダに突撃する。
 ぐ、と呻く声と共に、ハインツは射る様な視線と出会う。退けと零す狂犬の目指す先は、復讐の相手リンツのみだ。
「どけぇえ!」
 横に身を振り、前衛を突破しようとする狂犬の前に、リョウは飛び込む。身を前に倒し、真紅の棍を振り下ろす。
「ヴェルダ! リンツは厳正に裁かれるよう約束する! だから、お前の知っている事を教えてくれ!」
 一撃は、ギン、という音と共に防がれた。高い位置で火花が散り、衝撃がリョウの腕に返る。
「はっそいつを連れてったのはてめぇらじゃねぇか!」
 ぶん、と暴れる様に腕を振るうヴェルダの拳が風を生む。髪を揺らし、一瞬、火花の熱がリョウの頬を焼いた。
「邪魔するんじゃねぇ!」
 声は、否定のように響く。だがリョウは揺らぎを感じていた。こちらの言葉に動揺したような、揺らぎ。一撃と共に感じたヴェルダの悔しさと、怒りに混ざり感じ取れた彼の揺らぎ。
(「なら……」)
 声をかけるだけだ。何度でも。
 リョウは曽て、この都市で強盗に家族を皆殺しにされ、復讐の為にマスカレイドとなった少年を倒す依頼を受けた事があった。 現場に仇がいたが、当時の現場は無法地帯で裁けず、マスカレイドでは無いと言うだけで強盗は実質放置。
(「あの時の憤りや悔しさや無力感を俺は忘れない。少女騎士の様に正しい人が殺されて、殺人犯がのうのうと生き延びるエンディングなど認めない。必ず厳正な裁きをリンツに与える!」)
 それが俺がヴェルダにしてやれる只一つの事。
 一度、距離を取ったヴェルダが地面を蹴る。跳躍か、撹乱か。身を前に倒し、加速する狂犬にリョウアンが拳を突き出し、一撃を放つ。
 竜の弾丸だ。
 援護を受け、ジェンは弧を描く剣を手に月光のカーテンを広げる。
 柔らかな光の下、ヴェルダが呻き、足を止める。その間に入り込む様にツルギは距離を止める。ニヤから援護の銃撃を受け取り、鯉口を切る。
 不思議なものだが、来ざるを得なかった。
(「劔としての本懐を尽くすならば……そのまま持ち手のもとに送るのが流儀……か。……その応報を遂げさせてやりたかったが……な」)
 邪魔をするなという声を聞きながら、ツルギは呟く。
「ならば……あたしなりの方法を使わせてもらおう」と。
 身を低め、太刀を抜く。接近に気がついたヴェルダが弾かれた様に顔を上げる。
「っち、次から次へと……!」
「さて……名乗っておこうか……それも正式に……あたしの名は禰宜劔……名に劔を刻まれた者よ」
 刀身に手を添え、ツルギは吼えた。
「少しばかり……あたしと遊んでもらおうかっ!」
 炎を纏う鋭い突きが、ヴェルダの体に沈む。ぐ、と息を詰めた狂犬が、苛立った様に声を上げた。
「どけって、言ってんだろ、てめぇらぁあ!」
 暴れ、抜け出そうとするヴェルダに「行かせない」とルアは叫んだ。投げつけたワッパが狂犬の体を捉え、引きずり回すようにして倒す。
 制約は1つ刻んだ、とルアは睨むヴェルダを真っ直ぐ見る。舌打ちと共に起き上がったヴェルダの瞳が鈍く光っていた。

●残照
 転がる音と立ち上がる音。打ち合いの果てに火花が散り、傷を受けながらも一刀を叩き込んだツルギが叫ぶ。
「お前が追う輩はこいつで最後なのか? お前の持ち手を殺したのはこいつで最後なのか??」
「最後だからぶっ壊すんだよ!」
 返される言葉と同時に、鋼鉄の腕がツルギを撃つ。ぐ、と息を詰めながら、それでも踏みとどまった彼女の視界に、距離を詰める仲間の姿が見える。鋼鉄の拳は振り下ろしてしまえば、防御に動くまでの時間がかかる。た、とミケは距離を詰める。巨大化した片腕で強かにヴェルダを撃った。
「少女騎士の名は? 逃した少女の行方は? 答えて死んでね?」
「んなこと、てめぇらに言った所で……!」
「ヴェルダ! お前の知っていることを教えてくれ!」
 続くリョウの棍が光と共にヴェルダを打つ。懇篤の籠った言葉に、ヴェルダの気配が変わる。バトルトークによって、伝わって来ていた怒りの中、僅かな希望をリョウアンは感じ取る。
 振るう拳は変わらず、血を吐き出し、商人を睨む目は変わらずにーーだが、ヴェルダは言った。
 ガキの名前なんか知るか、と。
「ヴィラんとこの娘だろ。あのじじいに殴られてぶっ殺される前に、俺がそいつを殺すんだよ……!」
 俺が、とヴェルダは叫ぶ。
 それはエンドブレイカー達への返事だった。
 始まりの事件の情報。逃した少女の居場所と、彼のただ一人の主の名前。
「リアナを殺した、そいつを!」
 どけ、とヴェルダが叫ぶ。傷を受け、マヒと制約を受けたヴェルダの攻撃は最初ほど強力では無いが――今だ、一人でこちらを相手にするだけの力はあった。怒号と共に、走り出そうとする狂犬にハインツは突撃を見せる。
 逡巡も後悔も何もない、正々堂々とした騎士の突撃。
 かつての彼のマスターだった騎士が見せていたような一撃を、ハインツはヴェルダに向けた。
 合わせる様にセヴェルスの援護を受けたニヤの銃撃が響き、突撃と銃撃が交叉する。距離を取る様に一度、地面を蹴った彼を視界に、ハインツはニヤに言った。
「世界には、数多くの痛みと喪失がある。そういうもの、だ。生きていくこと、というのは……そんなに、甘くない。フッ……」
「生きていく、こと……」
 なぞる様に呟き、前を見たニヤの視界で桜吹雪が舞った。リンツに辿り着こうと、駆けるヴェルダを捉えるルアの正義の嵐だ。悪心を浄化する風を纏いながら、ルアは傾ぐヴェルダを見る。マヒにギアス、その上ダメージも相当負っている筈だ。だが、ヴェルダはまだ動く。リンツを目指して、前衛を突破しようとする。こちらとて、無傷では無い。前衛を主体に、それぞれ傷は受けていた。
 接近の打ち合いで、殴られた傷を癒す様にツルギの喚びだした水晶群と、ジェンの呼んだ炎鳥が光を運ぶ。
 愛馬と共にハインツが突撃し、二度、三度と撃ち合った果てに一撃を砕いたヴェルダにミケとルアの連撃が届く
「折れた劔に用は無い……牙を剥いて向かってきて」
「ぐっ邪魔、すんなぁああ!」
 続くリョウアンの一撃を受けながらも突破しようとする狂犬に、ジェンは月光のカーテンを編む。
(「復讐をと誓った彼を、それを遂げている俺が止めようとするのは……おかしな事だが」)
「止めさせてもらうよ。君の騎士の命を奪った一人はもう殺しただろう」
 それでわかったはずだ、とジェンは言う。
 得られるものは何も無くて、だだ彼女がいない。もういないと繰り返し沁み込むだけなのを。
「終わりにしようヴェルダ」
 光が、ヴェルダを浸蝕する。飛び込んで来たリョウの一撃が、ヴェルダを打ち砕く。
「ぐ、ぁああ!」
 ぴしり、と仮面の割れる音がした。
「彼女は、何処にいる? 誰にも奪えない彼女が現れるまで呼び続けろ」
 剣戟の狭間、逢えるよ、とジェンは言った。
「他には何もいらないはずだ」
「あ……」
 狂犬の手が伸びる。何も無い筈のそこに、手を伸ばし、あぁとヴェルダは笑った。
「なんだ……んだよ、んなとこに、いた……」
 マスカレイドの仮面が砕け散る。力の抜けた体を抱きとめたリョウの腕は血と、狂犬の流した涙で濡れていた。

 戦いは、エンドブレイカー達の勝利で終わった。己の無事を悟り喜ぶ商人が「そいつの言った事は」と言いかけたそこに、ルアは告げた。
「今すぐに犯した罪を自供して」
「な……」
 息を飲むリンツの瞳が、パッションを使い情に訴える様に説得するルアに揺らぐ。
(「とにかく、リンツさんは真人間に立ち直ってほしいの」)
 そのためにも、犯罪課に引き渡して、ちゃんと罰を受けてもらうことを、ルアは薦める。
(「その結果が死刑に値する場合であってもね」)
「今後も悪徳を重ねるなら、似たような目に会うと思うわ」
 言い切ったルアに、目を見開いたリンツが、自棄になったように口を開いた。
「く……くそ、そうだよ俺がやったんだ! でも俺だけない。あいつだってそうだ、この倉庫だって……」
 男は喋る。己の所行の全てを。彼の言う商売の全てを。
 リンツの自白。それに加えて戦いの最中、ヴェルダが教えてくれた情報もある。これだけあれば、リンツを裁く事ができるだろう。
「……悪事を行うリスクは、十分に分かったか? 次は、誰もいない。誰も助けてくれない。ただ、独りで倒れるだけだ、ぞ。フッ……」
 ひ、とリンツが息を飲む。言葉を止めた男にツルギは言った。
「あの騎士の相棒は奴だけではない。……他にも劔はある。……お前は……死ぬ寸前まで奴らに狙われ続けるだろう。死ぬ寸前まで殺される恐怖に怯え苦しむ。それは直接的な死よりも深い苦しみ……かもな」
「は、犯罪課に行く……! なんでも喋る!」
 彼の自白の全てを記録すると、エンドブレイカー達は夕焼けと共に倉庫を発つ。
 全てを終えた後に、ジェンはヴェルダを少女騎士と共に埋葬した。風の吹く地には、戦いを終えた狂犬と彼の主が眠っている。



マスター:秋月諒 紹介ページ
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参加者:7人
作成日:2013/09/05
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