ステータス画面

【童のみる夢 〜枇杷の実なる頃〜】棗実る刻

これまでの話

<オープニング>

「皆さん、アマツカグラ沖海戦お疲れ様でした!」
 集まったエンドブレイカー達に、花守蜜蜂・スズ(c24300)はペコリと会釈した。
「皆さんのお陰で、アマツカグラはマスカレイドから解放されました! スズは本当に嬉しいです!」
 はきはきとした口調は軽やかに弾むよう。少女の笑顔は歳相応に伸びやかであったけれど……そんな明るく綻んだ表情はすぐに引き締められる。
「マスカレイドがいなくなって、万々歳ではあるのですが……現在のアマツカグラは、権力者、つまり政を行う存在が一斉に消えてしまった状態なんです」
 絶望に対する希望として、多少の権力は一般人にも移譲されていたが、この一部の権力者もマスカレイドの撤退時に粛清されてしまったという。そう簡単に、アマツカグラの復興は許さない――マスカレイドの最後の嫌がらせとも言えようか。
「つまり、完全な無政府状態なのです」
 アマツカグラは、各地で多数の問題を抱えている。領主不在の状態では長くもたない所も多い。
「例えば……人々を絶望させる為、村のすぐ近くにバルバの集落が作られていたり、強力なモンスターがわざと配置されていた所もありますし、盗賊団が討伐されず寧ろマスカレイドに保護されていた場合もあります」
 目立った外敵が無い町でも、ならず者や悪徳商人などが未だに暴利を貪り、人々を苦しめている――全ては棘を肥やす為。泡沫の希望と隣り合わせの絶望の中で、人々は生かされていた訳だ。
 そんな状況を、このまま見過ごせようか――否!
「皆さん、アマツカグラの復興にどうか力を貸して下さい!」

 ――そこは、子供ばかりが住まう村。生る実の里という名前が付いて、季節が1つ過ぎようとしている。上は17歳から下は6歳まで、様々な理由で孤児となった子供ばかりが50人程、協力し合って村を造り上げてきた。
 最年長の17歳は、狩人の子供であったイロハという少年と、小間物屋の娘であったミチルという少女の2人。自然と彼らが中心となっていたのだけど。
「なあ、トキワ。まだなのかよ」
「もうすぐだよ、黙って歩け」
 緑滴る村の裏山を歩く人影は、年頃の少年ばかりが数えて5つ。不満げな顔から噴出す汗を拭う1人に、トキワと呼ばれた少年は邪険に言い放つ。
「それより……ちゃんと約束は守れよ。とっておきの秘密を教えるんだから」
「へいへい、本当にあったらな」
「そうだそうだ。棗食い放題って聞いたから来たんだぞ」
 口々の少年らを見るトキワは、何処か馬鹿にしたような眼差しか。
「僕は嘘なんか言ってない。いいから、ついて来いよ」
(「だから、貧乏人は嫌いなんだ」)
 16歳のトキワは、それなりに裕福な村の出身。村長の1人息子として、何不自由なく暮らしてきた。自分も何れ村長となるものと、信じて疑わなかった――村がバルバによって壊滅するまでは。
 辛うじて生き残ったのは良いものの、あれよあれという間に集められた子供達と一緒に廃村を宛がわれ、今は生きる為に必死に働く毎日。
 それはまだ我慢できる。我慢できないのは……自分が1番でない事だ。
(「最年長だからって、貧乏狩人の息子が偉そうに」)
 イロハの事を考えれば、いつも腸が煮えくり返る。その傍らに、ミチルがいるとなれば尚更だ。
(「村長の息子だった僕の方が、もっと上手くできる。そうに決まってる!」)
 実際、イロハは小さな子供達にも好かれ、村の纏め役として信頼されている。その事実からは目を背け、トキワはずっと反旗を翻す刻を狙っていた。
 貧乏人を手なずけるなら、美味い物が1番だ。だから、夏の間中、裏山を歩き回って恵みの所在を知り尽くした。これから、果物が実る秋を迎える。まずは棗を手始めに、年かさの子供から抱き込めば、冬を迎える前に下克上は叶うだろう。
(「僕が1番になれば、ミチルだって、きっと……」)
「トキワ、まだ歩くのかよ」
「うるさいな。あの大岩を越えれば……」
 煩わしげに顔を顰めたトキワの表情が、ハッと強張る。山肌に迫り出した大岩を越えれば、お目当ての棗が鈴生りとなっている筈が――大岩の上にズラリと並ぶのは、槍や斧を構えた大狸の群れ。
「ムジナだ、逃げろ!」
 トキワの叫びに、それぞれ慌てて身を翻すも――忽ち、夏の緑を少年達の血が紅く染めた。

「マスカレイドが手っ取り早く棘を肥やす手段として、辺境の村などは定期的に滅ぼされていましたが……」
 困った表情で、スズは小さく溜息を吐く。
「基本的に、辺境は何処でも危険な処ですし、マスカレイドがいなくなっても、状況は余り変らないのです」
 意図的に、滅びの種が撒かれていたアマツカグラなら尚の事。子供ばかりが住まう生る実の里も例外ではない。
「村の裏山は色々と果物や山菜が採れるのですが、最近になって、この裏山にムジナの群が棲み付きました。今は山の恵みを食い散らかしているだけですが……折悪しく、棗を獲りに向かった少年達がムジナに見付かり殺されてしまいます」
 このままでは、村までも襲われ子供達は皆殺しとなるだろう。悲劇のエンディングは、壊さなくてはなるまい。
「ムジナは8体。槍と斧を持つのが半分ずついます。山肌に迫り出した大岩の上に陣取り、遠距離主体で攻撃してくるようですね」
 幸い、ムジナにマスカレイドはいない。大岩に取り付き切り込むのも悪くないが、いっそこちらも遠距離攻撃で撃ち落としていくのが早いだろうか。
「ただ、問題は……その大岩の位置が何処か判らないのです」
 大岩の近くに棗が鈴なりとなっているようだが、その場所を知るのはトキワという少年だけ。その日、トキワは秘密裏に少年を数人誘い、こっそりと裏山に向かうようだ。
「トキワくん達を尾行して、大岩までついて行くのが1番簡単と思います。ただ、ムジナは遠距離攻撃が主体なので、戦闘になった時に庇い切るのは難しいかもしれません」
 敵は8体、少年達は5人、そして、主だって動けるエンドブレイカーが8人となれば――考え込んだ表情のスズを、忍犬の小豆が気遣わしげに見上げている。
「後は、エンディングが起こる前日には生る実の里に到着出来ますから、トキワくんに接触して大岩の……棗が実る場所を聞き出すという手もありますね」
 尤も、『秘密裏』に棗を獲りに行こうとしたトキワが、そう簡単に教えるとも思えない。
「どうやら、トキワくんは村の纏め役のイロハくんに不満があるようで……策を弄して、イロハくんに成り代ろうとしているみたいです」
「……そんな事してる場合じゃないのに?」
「スズもそう思います」
 呆れ顔の未蕾の群竜士・ルピニ(cn0029)に、苦笑いして頷くスズ。
「いっそ、生る実の里周辺を『保護領』として治めてくれる方がいれば、話も早いかもしれませんけど」
 無政府状態の混乱を抑止する為、アマツカグラ沖海戦の勝利後、紅御所に入ったアマツカグラの代理者達は、ガイボン達の名前で布告を出している。
 『粛清された小領主達』の代わり、新たに派遣される領主の命に従うように、とも。
「エンドブレイカーの誰かが治める事になっても、『場所を教える代わりに、纏め役を自分にしろ!』とか言い出しそうだよね、そのおにーさん」
「まあ、今回はムジナの群さえ倒せばエンディングは壊せます。雨降って地固まるで、村が1つに纏まれば1番ですけどね!」
 このトキワという少年も、困った所はあっても目端も機転も利く点は有望な人材だ。幸い、時間はある。二心抱く彼と対話を試みるのも良いだろうか。
「やり方は色々あると思いますので、後は皆さんにお任せします。どうか、ムジナの群を退治して、生る実の里を助けて下さい!」
 問題が上手く片付けば、村の子供達もエンドブレイカーを領主として迎えるのに否やはないだろう。
 エンドブレイカー達を見回して、スズは最後にもう1度ペコリと頭を下げたのだった。


マスターからのコメントを見る
参加者
月の剣に導かれし騎士・ローゼリィ(c00261)
黒翼・パール(c05089)
己の道を探り続ける哲学者・エドワード(c06131)
ごめんあそばせ・ウルル(c08619)
柔颶・アイル(c11507)
ダンシングブレード・エリーシャ(c15180)
断刃の巫女・フミ(c31236)

NPC:未蕾の群竜士・ルピニ(cn0029)

<リプレイ>

●エンドブレイカー一座の再訪
 遠目にも目立つ標代わりの一本松――その周辺は、よく片付いていた。
「そんなに見違えるのか?」
「すっかり綺麗さっぱりです。頑張ってるみたいですねー」
 生る実の里は初めての己の道を探り続ける哲学者・エドワード(c06131)に、頷いてみせるダンシングブレード・エリーシャ(c15180)。かつて、そこで戦いがあった。当時はまだ瓦礫の撤去の最中で……光景の変化に、時の流れを実感する。
「あ、あんた達!」
 畑らしき一角を耕す少年は、見張りも兼ねているのか、団体さんの訪れにすぐ駆け寄ってきた。
「元気にしてたみたいね」
 相変わらず痩せていたけれど、血色は悪くない。村のリーダー格、イロハの様子に断刃の巫女・フミ(c31236)は狐面越しに表情を和ませる。長身のフミの後ろからひょこりと顔を出し、ごめんあそばせ・ウルル(c08619)もにこやかに。
「皆さんもお元気かしら?」
「ああ、何とかな……今日はどうしたんだ?」
「近くまで来たから寄ってみたのね♪」
 未蕾の群竜士・ルピニ(cn0029)の答えは屈託無い。『どさ回りの旅芸人一座』という言い訳は今回も。
「皆喜ぶよ」
 フミの狐面にしろ、ルピニの道化装束にしろ、黒翼・パール(c05089)のメイガスにしろ、印象的な『旅芸人一座』の事は子供達もよく覚えていたようだ。
「皆変わりないかい〜」
 一斉に上がる歓声に、思わず笑み零れる。早速、お面を一瞬で変える変面芸を披露する柔颶・アイル(c11507)。パールもドールワークを使って、メイガスによる人形操作――小さな道化人形が大きなカラクリの周りをくるくる回る。
「じゃあ、ルピニさんもご一緒にー」
 ルピニも誘い、エリーシャは両手にサードアームも使ってジャグリングセッション。一方、自身を模したミニドールとの漫才は、ドールワークを使う兼ね合いでテンポの悪さは否めなかったが、独特の間が却って笑いを誘う。
「わぁ、かわいい!」
「この妖精さんとも一緒に旅をして来たのよ」
 親しみ易い雰囲気も相まって、月の剣に導かれし騎士・ローゼリィ(c00261)と妖精の旅語りには、小さな女の子達が集まっている。
「……そう言えば」
 一頻り盛り上がったのを見計らい、弾き語りしていた三線を置いたウルルは、イロハ達に向き直る。
「ここへ来るまでに、何度かモンスターに鉢合わせましたの」
「モンスター?」
 怯えたのか、身を震わせてイロハに寄り添うミチル。
「ここを嗅ぎ付けられるとやばいな。襲われたらいちころだ」
「なら、私達で討伐しましょうかー? 今ならまだ裏山の食べ物を狙っている感じでしたし、心当たりさえ教えて貰えば」
 顔を顰めるイロハに、すかさずエリーシャが申し出る。
「もんすたーってなぁに?」
「コワーイ怪物の事だよ」
 聞き慣れぬ言葉に首を傾げる幼子に、狐面を着けたままのフミは、星霊バルカンと遊ばせながら優しく説明する。
「この村の近くで見掛けたのは、バルバの群れです。連中は食べ物を探してうろつくから……」
「果物とかなってそうな場所、知らない?」
 ローゼリィに続いて探りを入れるフミだが、幼子達は一応に頭を振る。危険な村の外に出ないよう、年長からよくよく言い聞かされているようだ。
「そりゃ、強いあんた達に任せられたら心強いけど……」
「あたし達も、村の外はまだよく知らないから……バルバがいそうな所も判らないわね」
 立場上村を離れられないイロハやミチルも、やはり詳しくなさそうだ。
「なら、裏山をよく知ってる人、こないだの枇杷みたいに美味しいのが生ってるとこ判る人、いないかな……?」
 パールにそう問われ、「ああ、それなら」とイロハは首を巡らせた。

●居丈高な少年
「トキワ!」
「……何だよ」
 声を掛けられたのは、真っ直ぐな黒髪をおかっぱにした少年。明らかに不機嫌な面持ちで振り返る。
「お前、よく山歩きしてたよな。今時分で何か美味い物がある場所、知らないか?」
(「やはり、彼か……」)
 大道芸の光景を眺めていたエドワードは先に気付いていた。仲間の芸に楽しげな子供達の中で、唯一、気の無い表情の少年を。ミチルがイロハに寄り添った時、いっそ険悪な眼差しで睨み付けていた事を。
「……知らない」
 言葉少なに顔を背けたトキワは、足早に去っていく。
「あいつぐらいなんだ、裏山に詳しいのって。ミチルに聞いてもらえば良かったかな……」
「よく判ってるんだなぁ、流石は最年長」
 アイルの褒め言葉に、イロハは照れ臭そうに頬を掻く。
「あいつは俺の事嫌いだけど、俺は別にそうじゃないし。誰かと上手くやっていこうとするなら、そいつの事知ろうとしないと取っ掛かりさえ見付からないからな」

「トキワくん、だよね。ちょっといい?」
 女性と言えど長身な上、狐面を被ったままのフミに声を掛けられて、少年は気圧されたように立ち止まった。
「……何?」
 それでも、精一杯強がる風の彼の周りに、エンドブレイカー達が集う。ローゼリィは名乗り出るのを待つつもりだったが、先刻の態度からしてそれも難いだろうという判断だ。
「ここの裏山が危険って事でなー。どうやら、バルバは棲みついたらしいんですな」
 温和な表情で口火を切るアイル。続いてローゼリィがはっきりと要請する。
「連中を退治したいので、果物とかが多くなっている所に案内して欲しいんです」
「何で、僕が。知らないって、言っただろ」
「この村で裏山に1番詳しいって聞いたのね」
 無愛想なままの少年にルピニが畳み掛ければ、メイガスから顔を出したパールもおずおずと口を開く。
「その……地図を描いてくれるなら、ボク達だけで何とかするよ。トキワさんも危なくないし」
「……」
 黙り込んだトキワの表情からして、頭の中で色々計算を巡らせているのだろう。
「頑なになる理由は知らぬが、俺達の力を借りずにバルバを倒す事が出来るのか?」
 何ならここで勝負しても良い――太刀を握るエドワードの言葉に、肩を竦めるトキワ。
「遠慮しとく。辺境を渡り歩くような人に勝てる訳ないって、判りきってるし」
 それでも、生意気な口調は変わりない。
「案内するなら、僕が自分でやるよ……足で集めてきた情報を地図にでもして、イロハとかに漏らされるなんて御免だし」
「そ、そんな事!」
 思わぬ揶揄に息を呑むパールを宥めて、メイガスアームをポンと叩くエリーシャ。
「まあ、案内してもらえれば助かりますー……怪物退治に協力すればお手柄ですよねー」
 のんびりした口調で、少年に潜む功名心を擽るのも忘れない。
「その言葉は、了承って事かな。だったら、明日にでもお願いしようか。戦いの時は隠れてていいからさ」
「……だが、村を出る時は常に万一に備えるのが鉄則。悪いが、危険領域でバルバを退治しながら俺達が守れる人数は精々1人だ」
「ええ。他の人を連れていくのは、モンスターがいなくなってからですわね」
「わかってる。そっちこそ、案内する場所、他の奴らには秘密だからね」
 でないと、教えない――念を押すフミのみならず、エドワードやウルルにもいっそ居丈高に言い放つトキワ。情報の通り、相当自尊心が高いようだ。
「……ぶん殴って良い?」
「まあまあ。ここは抑えて」
 ボソリと漏れたルピニの呟きに、アイルは思わず苦笑を浮かべた。

●棗の大岩攻防
 翌朝――約束通りにトキワの案内で、緑滴る細道を辿る。
「……この先。大岩を越えた所の棗が、丁度食べ頃なんだ」
「ばっちりいるのね。棗齧りながら、大岩の上に陣取ってる」
 まずは悲劇のエンディングを砕くのが先。ホークアイを使ったルピニの報せに、それぞれ武器を構えるエンドブレイカー達。
「ルピニさんは、トキワくんの護衛を」
「了解なのね」
 快い返事に笑みを浮かべるも、大岩を見上げるローゼリィの表情は一転して厳しくなる。
 ――――!
 晩夏の緑に響き渡る激情の旋律が、戦闘の開始を告げる。
「それじゃ、がんばっていきますよー」
 爆ぜる幻光に慌てふためくムジナ共を目指し、山肌を蹴るエリーシャ。その傍らに現れた分身共々、ソードハープで切り掛かる。
「さっさと片付けましょ!」
 トキワとルピニが安全な後方に下がったのを確認して、ウルルも激しく南風三線を掻き鳴らす。五光乱舞の中、エドワードが懲罰を執行する絶対車輪を繰り出せば、最初の1体は反撃の暇もなく轢き潰され足場の大岩に封じられた。
「敵ハ、全テ、殺戮」
 素顔を晒したフミの赤茶の双眸が剣呑に輝く。施された紅き呪言も禍々しいトンファーを軽々と旋回させ攻防一体で大岩へと斬り込めば、アイルの棍も又、ムジナの足を払わんと唸りを上げる。
「お仕事……始めます!」
 相次ぐ打撃に仰け反る2体目に、紫のメイガスの斬撃を刻まれる。狙い過たず、パールの氷結剣は大狸の氷像を作り上げた。
「オノレ!」
 速攻で2体仕留められたムジナも、一方的にやられるままではない。乗り込んできた輩を大岩より落とさんと、相次いで繰り出される斧の斬撃。
「うわっ!?」
 堪え切れず吹き飛ばされたアイルを槍が起こした竜巻が巻込み、フミの細身を貫いた一撃は稲妻を以てその身を縛る。更に追討ちを掛けた斧の気刃が、雪崩れ打って降り注いだ。
 ――――♪
 清浄なる歌声が緑陰に響く。2人への集中攻撃を見て取るや、ウルルの和魂之鎮歌はフミに、やや遅れてエドワードの審判の天秤はアイルに癒しを齎す。
「幾千の魔剣の舞曲、いきます!」
 その間にも、エリーシャが奏でる『Dancing Brade』の音色が邪剣の群れを喚べば、舞曲に重なるローゼリィの熱狂の調べが、ムジナ共を狂乱に陥れる。
 ザ――ッ!
 紫のメイガスより吹き荒れる季節外れの氷嵐は、ずんぐりした体躯より伸びる四肢を次々と凍らせた。
「こんな所で負けんっちゃ!」
 ムジナを薙ぎ倒すべく、再び大岩に取り付くアイル。迎え撃つムジナの槍がその身を貫かんとして――。
 ギィンッ!
 トキワという少年を、生る実の里を護りぬかんという意思が、審判の天秤に正しく量られた証――目には見えぬ加護が、大岩より湧き出る槍の刃を尽く弾く。
「ナ……」
 驚愕に円らな目を見開くムジナが最期に見たのは、煌く巨斧。
「消エロ」
 自らも光輝を纏い、フミのプリズムアックスは文字通りにムジナを粉砕した。

●これから
 ――終始、エンドブレイカーが優勢だった戦いは早々に決した。
「お疲れ様なのね」
 心配しなかった訳ではなかろうが、笑顔で仲間を労うルピニ。
「……やっぱり、強いんだね」
 横たわるムジナの骸を目の当たりにして、トキワは唖然と目を見開く。
「これが戦いだ」
 太刀を鞘に収め、エドワードは冷然と言い放つ。
「お前1人で、子供達に傷1つ付けず棗を持って帰る事が出来たか?」
 答えは、無い。かつてのマスカレイド襲撃の折にはその骸もデモンリチュアルで消され、子供達の目に触れる事はなかった。久々に直面した『死』は、少年の言葉を奪ったようだ。
「でも、トキワくんもよく頑張ったわ」
 その顔を覗き込み、ローゼリィは黒髪を撫でようと手を伸ばす。
「貴方の案内のお陰で、私達もバルバを倒せたんだから」
「子供扱いは止めてよ」
 漸くプイと顔を背けたトキワは、ムッとした声音だった。さして歳も変わらぬならば、却ってそのプライドを傷付けられたように感じた様子。
「あ……ごめんなさいね」
(「まあ、皆さん、色々思う所あるみたいですから……」)
 困惑の表情で謝るローゼリィ。そんなやり取りを、結果が上手くいけば良いなとエリーシャは見守っている。
「まあ、あれが例の棗ですのね」
 大岩を越えた先には、確かに鈴生りの棗が見える。
「お1人で探し当てた努力は本当に凄いと思うわ……でもどうして、これを秘密しようとしたの?」
「……あんた達に関係ないだろ」
 ウルルの問いに、トキワの返答はにべも無い。
「仲間に不満を持っているみたいね。特にイロハくんにかしら?」
 だが、ローゼリィに図星を指され、少年は拗ねたように唇を尖らせた。
「……何で、あんな奴が偉そうに。村長の息子だった僕の方が!」
「そうね、貴方のお父様を誇りに思う気持ちは大切よ。でも、今の貴方は、仲間と一緒に生る実の里を護らなくてはいけない」
 優しく、けれど、しっかり諭すローゼリィ。
「村長や纏め役は重要だけど、貴方には貴方にしかできない役目もあるのよ」
「トキワさんの村は、豊かだったのでしょうね」
 続いて、珍しく大人びた表情で口を開くウルル。
「でも、それは村長さんがご尽力なさっていたからこそではないかしら」
 民の為に矢面に立ち、時に命を危険に晒し、汚れ役を買って出る――人の上に立つ事は、けして楽しい事ばかりでない。
「イロハくん……勿論、ミチルちゃんも君を頼もしく思っとるんだけどな〜」
「そんな、嘘……」
「本人から聞いたっちゃ。君も誰にも頼らず生き延びてきた訳じゃないし、これからもずっとそうなんだよ」
 穏やかなアイルと対照的に、エドワードは手厳しい。
「己の利益のみを考える行動に『徳』などない。どうすれば人心を得られるか、よく考えよ」
「心から民の為にと動けば、自然と人はついてくるわ……皆さんに教えてあげましょ、あなたのとっておきの場所を」
 ウルルの言葉にも、トキワは何も言わなかったけれど。エンドブレイカー達の言葉は、多感な少年にどう響いたか。
(「うぅ……この事件の後も解決しなきゃいけない事が沢山ある気がするよぅ……」)
 トキワの態度を見れば、パールの心配もむべなるかな。だから、最後に声を掛けずにいられなかった。
「あのね……1番になるのに大事なのは、何処に生まれた、じゃないよ。皆の為にどう頑張るか、だから。こそこそ、誰かを蹴落とそう、なんてしないで、ね……」

「ねえ、『生る実の里の祭司』、やってもいいかなぁ?」
 一足先に村に戻ったフミは、バルバの一件の報告のついでのように、1つの希望を口にした。
「これでも神楽巫女だから……祭事の作法や知識も教えられるし」
 日常で狐面は手放せないけれど。今も背中によじ登ろうとしている幼子達は、全く気にしていないようだし。
「確か……キサラが神社の子供だったって」
「だったら、うちがいない時は任せられそうだね」
 イロハと顔を見合わせ笑み零れる。そんな少年の肩越しに、仲間とトキワの姿が見えた。
「お土産、あるのね!」
 彼らがてんこ盛りに抱えるのは――今や旬の棗の果実。
「よく決心したな」
「別に……」
 照れ隠しか、俯くトキワを見るエドワードの眼差しが初めて綻ぶ。
(「やはり、この地に建てよう」)
 かねてより棘の恐怖に晒されて来たアマツカグラ。生きる事に精一杯で、まともに学べている子供は少ないだろう。
 この生る実の里で、自らの手で生きる術を探す子供達に出会えたのも1つの縁ならば。
 立派に生きていく為の武術や学問を教示する学び舎の名は『想義塾』――未来の塾長は、初秋の実りに喜ぶ子供達を優しく見詰めていた。



マスター:柊透胡 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2013/09/18
  • 得票数:
  • ハートフル5 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。