ステータス画面

見失った高見

<オープニング>

 ――最強であれ。
 その言葉の通り、彼は太刀を振るう。
 月明かりの下、広場に佇み待つのは武を持つ相手。
 求めるのは力。求めるのは流れる血。
 街を巡回していた屈強そうな警察は、男のおかしな雰囲気に気づいたのだろう。
 全身黒尽くめ。まだ暑い日々が続いているというのに、ロングコートに口元を隠すようなマフラーを巻き。
 いや、只者ではない気配と、血の香りかもしれない。
「ちょっと、よろしいいですか?」
 充分に警戒をし、彼は声をかける。
 男は目だけで振り返り、警察を見定めるように睨み付ける。
「……剣を取れ」
「何だって?」
 くぐもった声で更に殺気を強め、その指先は既に腰に納めし太刀に掛かっている。
 警察は、直感的に危険を察し警棒を構えた。
 次の瞬間、男は抜刀し、警察の首が軽快に飛んだ。
「弱すぎる……もっと、強い者を……」
 男は太刀を納め、再び広場で相手が現れるのを待つのであった。
 
 集まったエンドブレイカーの武器を確認しながら、黒猫の星霊術士・フリュニエ(cn0175)は説明する。
 マスカレイドになった男は、最強になるために、剣の鍛錬を常に続けている男であった。
 その心にあるのは強さだけ。強さ事が全てであった。
 だが、ある時友好試合をした相手に剣を折られ、男は敗北を味わった。
 それは、屈辱。耐え難い、挫折感のような気持ちが広がる。
 しかし、その考えが捻じ曲がっていく。
 男の心は、負けを認めなかった。あの試合は不正があった。負けるはずが無い。
 そんな思いに心が捕らわれ、最後には恥をかかせた相手を恨み、棘を手に入れてしまった。
 既に男は、試合で戦った相手を斬り。他に数人を斬っている。
 毎夜。男は月が出る頃、広場に現れ強そうな相手と死合いを望む。
 いきなり多人数などで囲みこめば、不正を感じ興醒めして逃げてしまうだろう。戦いが盛り上がれば気には止めないだろうが、注意が必要。
 男が戦いに飽きないような、獲物と戦法をぶつけることが大事だ。
 男の使う武器は太刀。近接戦闘を極めて好む。
 広場には巡回している警官がやってくるので、彼が巻き込まれないよう、そちらも気をつけてほしい。
「相手は一人だけど、放っておけば悲劇が増えちゃうからね。よろしく頼むね」
 フリュニエはお辞儀をして、一同を送り出した。


マスターからのコメントを見る
参加者
少女の原形・アリス(c02062)
魔曲使い・ノアリィ(c03173)
月影の預言者・クロノ(c03800)
ぴよたん刑事・キサラ(c05188)
月の旅人・ステラ(c19796)
あんこ熊王・ティータ(c33085)
可愛い子と楽しいことが好きな・オリヒメ(c33287)
灰色の旋風・アイゼ(c34897)

<リプレイ>

●夜更けて
 日暮れの広場は、まだまばらに人影があった。
 中央の噴水の回りには、帰りを急ぐ者。とくにあてもなく、適当に時間を潰している者。何となく顔なじみと集っている者。
 そんな様々な色を見せる中に、彼らも紛れていた。
 街の治安を守るため、見回りをしているのだろう。二人組みの警官が通り抜けていく。
「せっかくの巡回も、マスカレイド相手じゃ意味がない、ね」
 巻き込まれる警官かどうか分からないが、月の旅人・ステラ(c19796)は、心配そうに彼らを見送る。
「最強、ねぇ……最も強くなってどうするのでしょう?」
「何かを突きつめるっていいコトだとは思うんだ。そうしないと見えないコトってのもあると思うし。でもさ、お金と一緒で、強さって手段だと思うんだよね」
 理解できないといったようすで、少女の原形・アリス(c02062)は、ゆるやかに笑みを浮かべ、可愛い子と楽しいことが好きな・オリヒメ(c33287)が首を傾げた。
「高みを目指すって素敵だと思うんだよ。でも、その過程では、自分の否を認める事が大事なんだよね」
 広場の形状を見渡しながら、ぴよたん刑事・キサラ(c05188)は、身を隠せる位置を確認する。
「この人は、それができなかったんだね」
 キサラの言葉に同意しながら、魔曲使い・ノアリィ(c03173)は、メ〜ルヘン♪と仲間に挨拶する熊のような動きをする、あんこ熊王・ティータ(c33085)は微苦笑を浮かべ眺めた。
「最強を目指す。その気持ちはわからなくないな、自分もそういったところはあるし」
 相手の全てを肯定するわけではない。だが、最強という名はある一種の憧れのようなものでもあると、月影の預言者・クロノ(c03800)は自分の内にある気持ちを口にする。
「それでは、楽しむ事が出来なくなるではありませんか」
 逆に驚きを浮かべるのは、アリス。
 最強になってしまえば、もう上は居ないのだ。それでは戦いを楽しめないではないかと、彼女は思うのである。
 兎にも角にも。
「自信があるということは、強い人なんだろう……がんばらないと!」
 灰色の旋風・アイゼ(c34897)が見上げた月は、静かに昇っていくのであった。

●その男、一人
 煌々と月が輝き始める。
 一層深くなった夜の気配に、噴水を背にクロノは一人待っていた。
 力試しなどと言うと不謹慎かもしれないが、そういう場がある以上。邪魔をされたくないと感じてしまうのは、仕方の無いことだろう。
「……強さを求めて、憑かれたのは一つの方法かもしれないけれど、長生きしない方法だね」
 身を隠す木陰より、慎重にステラは辺りの様子を伺う。
 人影は一人。また一人と姿を消していく。
 もし先に潜むことが出来なければ、機を伺い、通りすがりの芸人のふりをしてノアリィは広場に入り込む予定だったが、その辺りの危惧は消えた。
 こうして木陰で黒いマントを羽織、オリヒメが展開してくれたステルスのお陰で、そう簡単には相手が来ても見つかることはないだろう。
「相手が調子に乗ってきたところで出番ですかね〜?」
 ベンチの下から様子を伺うティータは、どこか暢気な雰囲気を漂わせている。
 そんな中、ゆっくりと男が現れる。
 全身黒尽くめ。周囲の暑さなんて関係なく、ロングコートに口元を隠すようなマフラーを巻き。広場に静かに入ってくる。
 その腰に帯びるのは、立派な太刀。
(太刀を使うということは、アマツカグラ関係の人かな?)
 月明かりに照らされる男の姿に、キサラは目を凝らす。
 男はクロノを見つめ、嬉しそうに目を細める。
「珍しい……お前は戦う者か……」
 彼は彼の力量を認め、腰の太刀に手を伸ばす。
 棘は既に戦場を囲んでいる。そう簡単に一般人が入ってくることは無いだろう。
 闘志を向けられれば無視をすることなど、彼の辞書には無い。
 挨拶もそこそこに、大鎌の紅赤朱の刃と、マスカレイドの抜き放った白刃とが激しくぶつかりあう。
 互いの瞳がぶつかり合い、おそらく笑みを浮かべ合ったのだろう。強く押し合い、間合いを取り直し再び武器を構える。
「お前は、少しは楽しませてくれそうだな」
「純粋に、力勝負を楽しませてもらおうか!」
 互いに地を蹴り、大きく回転させながら一振り。返す刃が右から迫れば、柄で受け流し、弾きながらさらに一振り。
 刃が水を斬り、飛沫が散る。
 再び両者は離れ、クロノは呼吸を整えるように、大きく息を吸う。それ程激しく動いたつもりはないのに、一撃が重く想像以上に体力が持っていかれるようだ。
 全ての刃を防ぎ切れなったようで、クロノのコートは数箇所切り裂かれていた。対する男の方は見事に無傷。
 だが、ここで他に興味を逸らさせるわけにはいかない。大鎌を力の限り、胴を薙ぐように真横に振るった。
 力量差以外に不利があるとすれば、それは互いの間合いの差であろう。既に相手に踏み込ませてしまっている以上、追い詰められるのは時間の問題であろう。
 戦いの喧騒は、ずっと響いていた。
 だが通りがかった巡回中の警察は、広場の異常に気づかず、光を向けるだけで立ち去っていく。
 そんな些細な光など気にならないくらい、両者は戦いに夢中。
 何度か刃を打ち合い、大きく踏み込まれた先端が、頬に赤い筋をつける。
 後方へと大きく身体を傾け、
「何やら面白そうな事をやっておいでですわね? 私も混ぜてくださいな」
 機を見て飛び込んだのは別の大鎌の乱舞。そのドレスを翻し、金の髪を揺らしアリスが両者の間に飛び込む。
 大きく引き離した間に、さらにアイゼが飛び込み盾を掲げ光の結界を形成する。
「あら……。月明かりの下の決闘とは素敵ですこと。観戦させて頂いてもよろしくて?」
 悠然と攻撃の届く範囲にノアリィが現れ、四対一の戦場が出来上がった。

●強さの行方
 男は水平に太刀を滑らせる。
 さらに戦闘は激化し、既にエンドブレイカーは全員参戦していた。
 刃に潜りこみながら、キサラが放つのは残像を伴うランスの連続突き。
 盾の落下する勢いでアイゼは男の身体を沈めるが、地面を抉りながらも男は盾ごと彼の身体を投げ飛ばし、振るった刃は空間ごと斬り裂き、後方の木々の枝を落とした。
「多勢に無勢か……」
 俄かに逃亡の気配を漂わせた男を包むのは、破壊光線。
 放ったステラの背後には、そのマントと共に広がったデモンの翼が大きく広がり。うがつ瞳のように、再び無数の光が集まっていく。
 その光景すら彼の瞳には映っていない。彼は自動なのだ。唯一映すのは、全てを見守る月の輝きだけ。
 光線に貫かれても疾風に包まれても立ち上がる男の姿に、彼の周りには無数の刃が召喚されていた。
 ティータの曲調は代わり、熱き焔が沸き起こる。
「最強を諦めない心意気は褒められますが、棘を手にしてしまったのは褒められませんね〜♪」
 そのまま脱出経路を奪うように周りこみ、さらに曲を掻き鳴らす。
 クロノは棘の腕に大鎌を持たせ、逃さないように具現化したソーンの檻に捕らえようとする。
 僅かに入れた切れ目をこじ開け、飛び出した男を待ち受けるのは断罪の女神の紋章。
 否、アイゼの繰り出した拳が男の横っ面を殴りつけた。
「僕も強くなりたい、もっと高い場所を目指したい。だから今目の前にいるあなたを乗り越える!」
 オリヒメは扇を広げ舞う。扇の描く模様は、花に鳥にと鮮やかに咲き乱れ仲間を癒しその背を押す。
 ノアリィの放った魔力の弾は、男の身体に十字を描くように穿たれ輝く。
「相手が自分より強かった、って素直に認めて自分を鍛え直せば良かったのにね。強い人達はみんなそうして強くなっていくのよ」
 武人ではない彼女にとっては、別に最強でなくてもいい。望む力は、仲間の手助けが出来る程度の力があればいいと思うのだ。
「力こそ、全て……!」
 否定するように、彼の太刀が全てを薙ぎ払う。前線で戦っていた者達が一閃され後方へ押し戻される。
「大勢で群れるは、弱き者……! お前達は卑怯で弱い!」
 男は重なるダメージといつの間にか囲まれてしまった状況に、抗うかのように太刀を振るい退路を得ようとした。
「こう言ったお遊びに不正も何もないでしょう?あるのは楽しめるか否か。それで十分ですわ」
「さぁワンちゃん達、踊ってきなさい」
 まるで狩りを楽しむ獣のように、ゆるやかな笑みを浮かべ、アリスは付けられた傷から流れでた血液を猟犬の姿へと変貌させ向かわせる。
 さらに新しい血を求め、飛び掛り男を貪り喰らおうとする。
 ある一点に置いては、彼女と男は近いのかもしれない。引き裂かれたマフラーの下にあった男の首には消えることの深い傷が刻み込まれ、白い仮面と一緒に笑みを浮かべていた。
 その身に、ステラの無数の邪剣が突き刺さり、オリヒメの石化させる呪いの蛇影が男に喰らい付く。
「くくくくくく……」
 男は嗤う。その手も足も石と化し動かないのに。その眼前に白が広がり、銀が揺れる。振り下ろされる大鎌の刃を見つめ、その目を閉じることなく。
 クロノの手に鈍い肉を断つ感触と、仮面の砕ける音を残して男は倒れた。

●戦いの跡
 男の散り際、最強はクマだと誇示するようにティータが吼えていた姿は見えたのだろうか。
 分かたれた男の身体にステラは淡々と刻印を刻んでいく。全てが消えれば、ここで何があったのか誰も知ることは無い。
「これで、罪なく殺された人たちが報われればいいけどね」
 キサラは辺りを見回した。
 次の警官が巡回で来る時間まで、まだ余裕はある。余計な騒ぎになる前に、立ち去りたいのは心情というもの。
「純粋に強くなりたかったのかもしれないね」
「この戦いを一つの糧として……これからもがんばろう!」
 せめて次は棘なんかに頼らないようにと、オリヒメは願い。上を目指し続けるアイゼは自分の決意とするように戦いを振り返り、拳を握った。
 再び巡回に訪れた警察は、広場を眺め不思議そうに首を傾げた。
 そこには何も無く、大きな争いの傷跡だけが月に照らされて、静かに噴水の音だけが響くのであった。



マスター:凪未宇 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2013/09/29
  • 得票数:
  • カッコいい6 
  • せつない1 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。