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アクスヘイム崩壊:ロメスの死

<オープニング>

●ロメスは死ぬ気でいたのである。
 ロメスの妹夫婦、さらにその子である姪。『ご近所さん』かつ友人でもある村人たち。加えて行商人が数人。これははじめて会ったばかりで、格別深い付き合いがあったわけではない。
 しかし、ロメスはこれらの人々のために死ぬつもりであった。ロメスは突然の危機に関して誰よりも深く感知していたのだ。
 その危機は一体のジャグランンツの姿を取ってロメスの前に現れた。

 ちょうど行商人の妻となった妹とその夫が、娘をひとめ会わせようとロメスの村に立ち寄った日であった。行商人仲間も急ぐ旅ではないのか、村の歓待を機嫌よく受けていた。
 そのうち、村のひとりが、宴の開かれている原っぱから木々の生い茂る山際に目をやり、いぶかしげにこう呟いた。
「ありゃあ、なんだ?」
 ロメスも見た。
 それを見たとき、ロメスは自分の未来に、死以外に何もないのがありありと見える心地がした。
(「これは、死ぬな」)
(「しかし、俺には、他にどうしようもない。兄らしいことなんて、今までろくにしてやれずにいた。いやらしい偽善だと後に言われるかもしれぬ。
 だが、何もせず見ているよりずっと良い」)
 ロメスは一同の、まだ笑みが残る顔を見回し、腹の底から大声を出した。
「逃げろ!!」
 ジャグランツだ、否、化け物だ。そう言ってロメスは行商人らの大トカゲの背に人々を追い立てた。大トカゲの数は限られている。全員を乗せるには、ほんの少し足りない。そのほんの少しは、ロメスが残ることで解決できそうだった。
「頼む」
 ロメスの言葉は短い。
 妹が何かを叫んでいたかもしれない。友人は全て心得たように手綱をとり、何人もの命を乗せた大トカゲを駆けさせた。
 ロメスは庭先に転がっていた古い鍋のふたを手にした。武器を、と振り向いた時、ロメスは自分が大きな影の中にいることに気が付いた。
 あれほど遠くにいるように思えたジャグランツは、間近でみると冗談のように大きい。そして異形だった。
 背丈は成人の3倍近く。豹頭はふたつあった。片方は下半分、もう片方は上半分しかない頭。
 下半分に残された口はまさに裂けたように大きく、やすりで尖らせたように鋭い。
 目鼻のある上半分はにゅるりと伸びて、まるで蛇か、あるいは鞭のようにうねり、空中でしなる音を立てていた。
 ロメスは逃げた。
 最初に飛来した上半分の頭部の殴打を、ロメスは幸運によって、盾代わりの鍋のふたによって免れた。
 二度目に迫った下半分のあぎとを、村の傍にある渓流へと続く斜面へ滑り込むことによって避けた。
 三度目の攻撃は、これは川の中に沈んだロメスをジャグランツが打ち損じたことによって無きものとなった。
 そして突然の冷水に身体が追いつかず、ロメスの心臓はそこで動きを止めたのだった。

 がつん、と固いものがぶつかる音がした。
 だが誰もその音の源を探しはしなかった。
 酒場には音とよく似た固い顔が並んでいる。誰かが床を強く蹴ったのかもしれないし、武器を下ろした際に金属がこすれあったのかもしれない。
 物々しい空気を一息吸って、シザリオンは卓に集った面々に向かって唇を開いた。
「……エルフヘイムからアクスヘイムに向かった調査隊から緊急連絡が入った。
 アクスヘイムは崩壊した、らしい。それも勇者ガンダッタ、アクスヘイム建国の張本人の手によってだ」
 事実は苦く、口調もそれに準じるものになった。
「調査隊の活躍で、代理者のフローレンスは救出。世界の瞳の扉の場所も制圧して、再び移動できるようにはなった。けど状況はかなり酷い、たぶん……」
 勇者ガンダッタが撤退した後も、アクスヘイムには多数のマスカレイドが残留し、都市国家崩壊によって被害をこうむった一般市民を狩り出すべく、あちこちで蠢動しているという。
 悲鳴、苦鳴、怨嗟。
 畑に種をまくように。マスカレイド達は自分たちの好みにあうそれら絶望の種を振り撒く。悲劇を増やし、より強いソーンを手に入れようとしているのだろう。
「せっかく一度は平和になったアクスヘイムを、また同じ惨禍が襲ってる。正直、腹が立つ。……腹立つけどやることは前と一緒だ」
 アクスヘイムの民を、人々をマスカレイドの脅威から救えるのはエンドブレイカーだけ。
 これも変わらぬ真実だった。
 こたびの敵はジャグランツ。マスカレイド。
 伸びる上半分の頭は遠くからでも届き、複数を攻撃できる。
 歯を打ち鳴らす下半分の頭はものすごい力でこちらの肉を齧りとりにくる。
 場所はとある村。住人はひとりを除きからくも逃げ出した後だ。
 原っぱから残りのひとりが逃げ出し、渓流に続く斜面を滑り、小川へと落ちる。その小川の中で男は亡くなるのだが、救出が間に合えば命の助かる目も出てくるだろう。
 人の死は、その人の生と釣り合ったものになるという。それならば今回のこの男の死は、釣り合っているようで――その実まったく釣り合っていない。
 その男を知る者ならば、きっとこう言うだろう。
「親族の幼子らに『もう、しょうがないお爺ちゃんなんだから』と文句を言われる日々の中、道端に落ちていた果物の皮に滑って転んで、当たり所が悪くて死ぬくらいが丁度いい」と。
 ならば……。
 このエンディングは、打ち壊してやるほかあるまい。


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参加者
泥濘の輪郭・アンブローズ(c00259)
白狼紅盾・ライナス(c03263)
常夜の歌姫・ヤト(c04397)
耳かき捜査官・フート(c04482)
鉢特摩の武芸者・ヤナギ(c05699)
キマエラ・ティイ(c05937)
ごめんあそばせ・ウルル(c08619)
見習い衛犬・エキュー(c10551)

<リプレイ>

●視認
 のどかな村であった。
 牧歌的、といっても差し支えない。人生の終わりをここで迎えたいと、多くの人がぼんやりと思い描くような、そんな村だった。
 全力で疾走するエンドブレイカーらの耳を風がなぶる。目に映る風景は、緑や青が溶けた絵の具のように尾を引いている。
 そうしてようやく、彼らの目的地が視線の先に現れる。
 まだ遠景の、手の届かぬ場所。そこで蠢く『敵』……不完全な双頭のジャグランツマスカレイドは、洗い立てのシーツを汚す黒々とした染みのように、この村には不似合いだった。
 『敵』の前方には、転がるように逃げる男の背がわずかに見えた。その背はこの村そのもののように無防備だった。
 キマエラ・ティイ(c05937)は思い切り地面を蹴った。
(「死なせねェ」)
 かつてその男と縁あったという泥濘の輪郭・アンブローズ(c00259)や鉢特摩の武芸者・ヤナギ(c05699)、それにごめんあそばせ・ウルル(c08619)らから伝え聞くところによると、彼は他人のために自らを省みず行動する男だという。
 そのような男だからこそ今日、他人を逃して自分は死ぬつもりなのだろう。
(「死んでもいいから後悔しない生き方を選ぶ、か……嫌いじゃないね」)
「オレも同じだから――」
 先頭を切って走っているが、接敵にはまだ足りない。ティイは棘を具現化させ、敵へと射出する。大量の棘が敵の背に突き立った。
 しかし刺し貫かれた敵は、全く動きを止めない。痛みの片鱗も窺えない。
「人の留守中に、大層迷惑なお客様だこと!」
 憤激の表情も可愛らしく、ウルルは神鏡を召喚する。狙いは先ほどのティイと同じく、ロメスへの攻撃の拡散防止。
 まばゆい浄光が敵へ向けられ……しかし察したように敵は身をかわして光を避けた。
「まっ!」
 失礼な、と言いたげにウルルの頬が朱に染まる。
「とにかく、とっととあのデカブツをぶっ倒すぞ!」
 耳かき捜査官・フート(c04482)は足を止めず捕縛具を振り回した。ワッパーは相手の動きを封じることに長けた武器だ。早めに相手の動きを封じないことには、ロメスの救助もままならない。
 遠心力も乗せて、フートはワッパーを投擲する。
 ダメージは通らなかったものの、立て続けの遠方からの攻撃に、敵はこちらを向いても良かったはずだった。
 しかし敵は構わず前方に――ロメスの沈んだ小川の方に身体を向けた。

●接敵
「!」
 見習い衛犬・エキュー(c10551)は夢中で駆けた。
 その男ロメスは無鉄砲な男だ、と噂に聞いたことはあった。しかし今回のこれは、覚悟の上で死を選んだに等しい。
「そんな人、死なせられない」
 敵に身をさらす。その勢いを認めてか、敵もその顔の一方を、長くのびた首の上にある上半分だけの顔を捻じ曲げてエキューを見た。
 その視界に、ヤナギもまた盾として、囮として己の身体を滑り込ませた。
「ここで亡くすには……惜しい男だからね、彼は」
 ヤナギの声は笑みさえ含んでいる。
 敵への囲みを完成させるべく常夜の歌姫・ヤト(c04397)がその脇に走り寄る。
「ここからは私達が相手をしてあげる」
 ヤトが見上げる敵は、知能も意思もない、ただの破壊衝動の塊だった。
(「心まで化け物なら、殺めるのを躊躇う必要もないわね」)
 覚悟を決めた3人に敵は何を思ったのだろう?
 言葉も発さずに、上半分の顔は大きくたわむ。次の攻撃の準備動作だろうか。 
 エキューは救助に赴く2人へ呼びかけた。
「こっちは任せて……!」
 エキューの声に背を押され、アンブローズと白狼紅盾・ライナス(c03263)は敵の間合いを、敵など意に介することなく走り抜けた。
 すぐそばに存在する不穏な気配を、激発の予感を肌に感じながら、2人は小川へと猛然と迫った。さきほど水音を立ててロメスが水没したあたりを目で追う。
「ったく……こんな死に場所はロメスには似合わんな」
 もちろん、ロメスのみならずアクスヘイムの住人の誰にとっても似合わない。
「やるべきことをやったから死ぬ、というのにはちょっと早いようですね」
 走りながら、ライナスは素早く己の身体にロープを巻きつけた。支えになりそうな樹木は小川の近辺には存在しない。見晴らしが良く、岸からも水没したロメスを探しやすいが、それは敵に対してこちらの姿が丸見えだということでもある。
 気休めかもしれなかったが、ライナスは背後に盾をがっしと地面に突き立てた。
「! あれだ!」
 アンブローズはぶくぶくと奇妙にリズミカルに浮き上がってくる気泡と、その奥に横たわる人影を発見する。発見と小川へ飛び込むのとは同時だ。
 ざばん!と水を切る音が響く。別に特別な音でもないその水音が、どのように敵の琴線に触れたのか。
 敵は小川へ向け一歩踏み出そうとし――。
「――させねェ!」
 その行く手に、豪速のティイが回り込んでいた。「すぱっ」、と小気味よい音が響く。
 敵の胸元を、ティイの指先が切り裂いていた。否、間合いを詰め、纏う棘ごと体当たりをしたと言った方が正しい。
 ティイの一撃は金色の獣の如く速く、敵の体表に血の色を咲かせる初撃となった。
「・・・」
 無言の敵は上半分だけの顔の目を動かして、自分の周囲を取り囲むエンドブレイカーらを見た。既に攻撃態勢にあるエキュー、ヤナギ、ヤトと、今自分に手傷を負わせたティイ。さらに駆けつけつつあるフートとウルルの姿も。
「・・・・」
 ぶん!
 突然、敵の首が振られた。
 狙いはヤナギとティイ、それに盾の影に隠れたライナス。だがその打擲は大きく空振った。予定していた目標を直前に変えたため、重心を乱したのかもしれなかった。
 ヤナギは身を低くする。自分の役割はわかっていた。
(「攻撃はこちらで引き受ける。特に……ロメスと救助に向かった2人に攻撃の手が及ばないように……ね」)
 囲みの輪からの突出を避けつつ敵ににじり寄る。
「突き崩せると……思うなよ?」
 仕込み杖からの一閃。鞘ばしる音は密やかに、宿した神火は轟、と激しく音を立てて敵の皮膚を薙いだ。
 囲みを途切れさせぬようエキューが続く。
 敵の異形の首は長く自由自在に動く。先程の攻撃がライナスに届くのだから、ロメスに届くこともあるだろう。
(「この、顔を、制約しなくちゃ……!」)
 エキューは川と敵との間に割り込むように跳躍した。
 小柄な彼と敵との身長差は大人と赤子ほどもあった。それを一蹴りで無にして、エキューは敵の上半分の顔から伸びる頸部に取りついた。大きく口を開け、深々と噛み付く。その牙は虎のそれと化していた。 
「・・・・!!」
 振り払った敵の頸部にはエキューの牙の刻印がくっきりと残っていた。
「さあ、大人しくなさいな」
 歌うように告げるヤトの右手には銀の大鎌、左手には金の槍。
 あえて相手の標的になるように、舞うように近づいて……ヤトは敵の巨躯に槍の穂先を向けた。連続の突きは金色の星のように流れ迸しる。
 穂先を遮ろうと前に伸ばした敵の腕を、鋼の光が捕えた。
 フートの繰るワッパーだ。ワッパーから伸びる綱がぴんと張られ、そこから敵の息遣いが生々しく伝わってくる。フートはわずかに眉をしかめた。
 こちらの攻撃を受けた筈なのに……一向に衰えた気配がないのだ。
(「このデカブツ、倒すにはちっと手間が掛かりそうだぜ!」)
 ぐん!と引かれた拍子にワッパーが外れる。フートは川をちらりと見やった。今まさにロメスの救助が行われようとしている。
「ロメスさんに手出しはさせませんのよ!」
 囲みの輪のやや後方からウルルの声が飛ぶ。より危険度を低めるべくウルルが選び召喚したのは冬の嵐。
 冷気が敵の周囲を覆う。白い霜が四肢に降りて始めていた。
「・・・グルゥゥゥルゥゥ!」
 大きく身体の自由を減じた敵は、初めて叫び声のようなものをあげた。

●救助
『・・・グルゥゥゥルゥゥ!』
 川中のアンブローズもその叫びを聞いていた。だからといってやることは変わらない。不自然で弱弱しい動きのロメスを背後から抱え、水面を目指す。
「ぷはっ!」
 大きく空気を吸い込んだ目の前には、岸辺のライナスが投げ込んだロープが丁度良い具合に流れてきていた。アンブローズがそれをむんずと掴んだのを確認し、ライナスはロープを思い切り引き上げる。アンブローズも水を蹴る足に力を込める。双方の長年にわたって鍛え上げられてきた筋肉が目に見えて隆起した。
「っし、魅せるぜ三十路タッグの華麗な連携!」
 最期の一蹴りで、ロメスとアンブローズは小川から躍り出る。ロープを引きあげながらライナスは叫んでいた。
「ファイトー!!」
「いっぱ……ゴホ、ウオッホン!」
 アンブローズは思わずむせた。
 引き上げたロメスは、地面に両手をつき、大きく肩で息をしていた。うっすら開いた瞼は、こちらが何者なのか認識したようで、幾度かまばたきした。
「よし。逃げられるか?」
「……なんとか……君は確か正義の……」
「それは後でいい、逃げろ。全力じゃなく程々に」
「! それでは君たちが……」
「大丈夫です」
 ライナスは盾を地面から抜き取り、頷いて見せる。
「三十路ですが、まだまだ負けないつもりです」
 そういう意味合いではなかっただろうが、どのような共感がロメスとの間に通じたものか、「そうか……すまぬ、恩に着る!」と言ってロメスはよたよたとその場から離れていく。
 そのようにして、無事ロメスの救助が叶ったのを背後の一同も知った。
 エキューの口から安堵の溜息と苦笑が漏れた。
「三十路タッグ、頼もしいよね」
「ロメスさん、急いで避難し……あ、ゆっくりでいいの、決して走らず急いで歩いて避難して!」
 ロメスの心臓を心配するあまり、ウルルは難しい注文をつけていた。 

●流血
「さあ、後やることはひとつだな」
 救助を果たし、アンブローズは不敵な笑みで敵を出迎えた。仲間たちの包囲の輪は、陣形は完成されている。
「ピエールの行方を聞きたいところだが……」
「『代理者』の一人が何処に連れて行かれたか、知ってる?」
 アンブローズとエキューの問いには、予想通りに何の答えも返ってこない。応えず、ただ本能のままにこちらに向かってくる。
 敵は首にエキューの牙を受け、腕と脚をウルルによって凍りつかせられている。しかし一見して敵の威勢が弱まったふうは無かった。痛みも恐れも、感じる脳があるのかも、2つに分かれた顔からは窺えない。
 そして下半分の顔にぽかりと開いた口で、歯列で、こちらの身を削ぎに掛かる!
「っ!」
 針か刃のような噛みがライナスを襲う。とっさに避けきれはしなかったが、幸いに傷は浅い。敵の脚が凍っていたからこそのことだろう。
「まともに食らえば危ないですね」
「……殺す以外興味はなさそうか。俺みたいなのにはお誂え向きの相手だな!」
 アンブローズの虎と化した鋭い牙が、敵の肉を立て続けに穿つ。
 よろめいた先には。
「そこ『も』私の間合いだ」
 ヤナギの『鳴杖』が、大文字を敵の胴に刻む。
 また、新たな血の花が咲く。
 ――その血の花を踏み、敵は大きく口を開けた。狙いは、ヤナギ。
 2種の赤が宙に散った。

●宣告
 激しく傷を負い、負わせながら続いた戦いは、予想したより遥かに短時間で終着を迎えることになる。
 戦いの趨勢はどこで決したのか。戦っている最中にも一同は気付いていた。
 まずは、エキューの牙で上半分の顔の自由が封じられた時。
 そして次に、ウルルの喚んだ冬の嵐で、四肢の動きが鈍らされた時だ。
 ロメスの為にしたことは、結果的に一同を大きく利することになったのだ。
「さあ、貴方にふさわしい地獄に送ってあげるわ!」
 ヤトの銀の大鎌は、緩やかに振られたように見えながら、深い場所に傷を与えた。肉体ではなく、精神に。存在すらあやしまれたが、敵にも確かに精神はあったのだろう。
 深手の傷に、敵は片膝をついた。8人掛かりの猛攻で満身創痍だ。一同が受けた傷も相当に深いものだったが、前衛を入れ替え、回復に努めたお蔭で、誰も脱落することなく陣形を保っている。
 あと、一撃。
 そう察し、ハルバードを肩に担いだまま、フートは人差し指を敵へと向けた。それは指示だ。召喚に応じ背後にそそり立つ懲罰機に、目標を教える指示。
「来たれ、懲罰の雷!」
 懲罰機エレキラーが猛然と征く。
 雷撃を纏った手が、足が、突きが、回し蹴りが、連続で敵の巨躯に叩き込まれる! 
 フートの宣言は、そのまま死の宣告となったのだった。

●久闊
 逃げろ、と言ったのに、気が付けばロメスの姿はすぐ傍にあった。その姿は感動を擬人化したように、熱い想いが全身から立ち上っていた。
「ありがとう、正義の人々よ。エンドブレイカーよ!」
「相変わらずだね、ロメス君は」
 黒の覆面をかざし、ヤナギは笑った。
「アンタみてェなのは、こんなとこで死ぬのはダメだぜ」
 軽い口調でティイが嘯く。ヤナギは頷いた。
「君には『正義の覆面同好会』を孫に語るくらいのことは……してもらわないとね」
 具体的に未来図を示され、ロメスはやや赤面して俯いた。
「申し訳ないが、孫が出来るようなことはしていないのだ……」
 あっ……という呟きは誰のものだったか。一瞬の沈黙は、アンブローズがロメスの背を強く叩いた音で打ち消された。
「気合入れろよ! ……アクスヘイムの街が、村がぼろぼろでも、人が生きてりゃなんとかなる。そうだろ?」
「! 無論だとも!」
「なら、証明してくれ」
 がっしと手を取り合う2人を見て、エキューは内心呟いた。
(「こういうのを、愛すべき人柄って言うのかな?」)
 まだ若年の彼にとっても、ロメスの素直さは微笑ましかった。盛り上がる2人に声を掛ける。
「妹さん達、探してくるね」
「そうね、きっと心配しているわ。早くいってあげないと」
 ヤトは気づいた。この場にいる彼らにはロメスの無事は明らかだが、先に逃げた人々にとってはロメスは死人と同じだ。
「大トカゲだからどこまで行ったか知らないが……妹さんたちのとこまで送っていくか?」
 目の上に手を当て、遮蔽物の少ない草地をフートは見晴るかす。人影も大トカゲ影も全くなかった。
「何があるかわからないから、護衛を兼ねて一緒に行くのがいいかな」
「ああ、それいいッスね!」
 ティイが手を挙げて賛成した。
 思い出したように、ウルルがぽんと手を打った。
「そうだわ、姪御さんにも会わせて下さいな!」
「勿論だ。妹もきっと、勇者である君達との再会を喜ぶだろう」
「あら、勇者は貴方ですのよ?」
 「?」をそのまま顔に出して不思議がるロメスに、ウルルは澄まして言ったものだ。
「お鍋のふたを盾にする人を、勇者と呼ばずに何て呼ぶの?」
「確かに……」
 己の盾と見比べ、重々しく頷くライナス。それが駄目押しだった。
 その場にどっと明るい笑い声が響く。
 その大きさと強さは、「アクスヘイムには、何より笑みが似合うのだ」と証明するかのようだった。



マスター:コブシ 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2013/11/22
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