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橘宵〜親指姫の待つ薫〜

<オープニング>

●春告げの姫
 冷たい風がまだまだ吹く――けれどそろそろ、暦のうえでは春の訪れがあるはず。
 その証拠である小さな白い花々が、この村を包み込む頃。村は冬の寒さと灰色に包まれた世界を忘れたように、光を取り戻すのだ。笑顔と云う光を。
 ――しかし、今年は。
「やっぱり、ダメだよな……」
「樹が折れてしまっては、花も咲かないか」
 いくつもの倒れた大木を見下ろし、男達は唇を結ぶ。
 冬の始まりに起こった災害。その被害をこの村も負っていた。建物は無事な物も残っており、食料も困らない程度の被害、自然は豊か――けれど大切な物を、彼等は失ってしまっていた。
「村長、今年の梅はダメです」
 村長。そう呼ばれた、一際年老いた老人が大木を見下ろす。真っ白な髪ですっかり覆われてしまった瞳を動かすと、ふーむ……と考えるように手を顎に当てた。
「これでは、姫に香りを捧げる事が出来ませんな……」

●お姫様の待つ薫り
 酒場にエンドブレイカーが集ったのを目にして、鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)は手元の珈琲カップを引き寄せ一口飲むと、彼等を眺めた後口を開く。
「崩壊したアクスヘイム……そのせいで、他の地域と交流が途絶えた地域がいくつかある」
 いくつかの案件を既にエンドブレイカー達は解決しているはずだが、まだそれが全て終わった訳では無い。絶望を感じる彼等を元気づける事――それもまた、我々の仕事だから。
「僕等にとっては大した道程じゃ無くても、アクスヘイムの人にとってはそうでも無いからね」
 深い森の中で敵に襲われたら、あっという間にやられてしまうかもしれない。ただでさえ絶望を感じた彼等に、そのような事をする余裕があるのか……と云う問題も出てくる。
「だから、君達にはこれから1つの村に行って来て貰いたいんだ」
 ――そして、元気の無い村人達を勇気づけて欲しい。
 そう、ユリウスは言葉を添えた。

「君達に向かって貰いたいのは、『ランジュ村』っていう比較的のどかなところだよ」
 作物として、いよかんの実を中心としてよく栄えていたようだ。――大半が崩壊してしまい、援助が無ければ生活できない程になってしまってはいるが、村人の大切にしていたいよかんだけはいくつか無事らしい。その辺りは、不幸中の幸いと言えるだろう。
「だからまあ、物資を運べば人々は生活できる……けれど」
 そう、彼が言葉を添えたのは理由がある。
 元気の無い村人。それは何も、作物が収穫出来ない事でも、未だに恐怖が拭えない訳でもない。
「もうすぐ、春のお祭りが行われる筈なんだよね。だけど、今年はそれが出来ない」
 ――その理由が何か。お祭りの合図である梅の花が、災害で全て折れてしまったからのようだ。
「『春の訪れを告げる姫君に、橘の香りと花を捧げよ』って云うのが村の伝承らしいんだ」
 春の訪れを告げる姫君が、梅の花の事。
 つまり、その姫君がいない今。お祭りをやる事は出来ない――そう、彼等は憂いている。
「……けど。梅の花が無くても、実際春の訪れは来ているんだから。やっても良いんじゃないかな」
 ――むしろ今年は、来年こそは白き姫君に会えますように。
 その願いを込めたお祭りを開けば良いのでは。
 そんな意味込めて、ユリウスは淡々と零す。何時もと変わらぬ表情ではあるけれど、彼自身村の事は心配している筈だから。
「だから、君達には村に辿り着き次第村長と話して、お祭り開催の為に元気づけて欲しい」
 村長さえその気になれば、お祭りは行われる。そしてお祭りが行われれば、その準備を経て村人達にも元気が訪れるだろう。――古くからの伝統を、守りつつ。
 道中は大イノシシが数体出てくる程度。エンドブレイカー達ならば問題無く片付ける事は出来るだろう。道程も安定している為、迷う心配はない。
 ――故に、今回のメインは村に着いてからとなる。
 まずは村長と会って、物資を運んで来たこととお祭りの開催を呼びかける。――心から残念に思っている村長だ。来年につなげる為、とか。そんな事を言えば簡単に頷くだろう。
 そしてそのまま、村人と共に祭りの準備を行う事になる。
「1つはいよかんの収穫。もう1つは祭壇に飾るチューリップの収穫だね」
 これが日中に行う事。あとの祭壇に飾り付ける事などは、村人にしか分からないのでお任せする事になるだろう。我々が協力できることは、これだけになる。
 実際にお祭りが行われるのは夜の帳が下りた後なので、しばしの時間が必要になるだろう。
 温かなお茶と自慢のいよかんを頂きつつ、そのひと時を待つ――村長から、村の話を聞きながら。
 そんな時間を過ごすのも、良いのではないか。
「……まあ、こんな話だし。今回は僕も同行しようかな」
 少しでも人手があったほうが良いかな、と言葉を添えて。彼はそうエンドブレイカー達に向けて語ると、カップを手にし残っていた珈琲を一気に飲み干した。

 絶望から立ち上がる手助けが出来るのなら――それはきっと幸せな事だから。


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参加者
陽若竹・ランシェ(c00328)
パタパタ・チマ(c00834)
雪のカデンツァ・フェイラン(c03199)
灰白小鳩・ロシェ(c06958)
ダンシングブレード・エリーシャ(c15180)
キララ・サヤ(c23230)
天つ獣・ジジャ(c25840)

NPC:鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)

<リプレイ>

●森薫る
 緑深い森から、微かに漏れるのはドロースピカから零れる光の筋。
 鳥の奏でる音に耳を澄ませ、灰白小鳩・ロシェ(c06958)の口元に笑みが浮かんだ。
 冷たさの中に、花々の香りが混ざる風に金色の髪を押さえつつ陽若竹・ランシェ(c00328)は森の奥へと視線を向ける。――疲れた時に自然の豊かさに癒された事がある彼は、村人と自然の絆が戦乱で落ち込んだ心も優しく癒してくれると信じている。
「村々の伝承やお祭りって、なんかワクワクしますよねー」
 ダンシングブレード・エリーシャ(c15180)が歩けば、2つの三つ編みも楽しげに揺れる。
 ――進む森の中は、平和に感じる。
 しかしその平和は突然破られ、生き物の気配と音が聞こえた。
 がさがさと音のする方向を見れば、巨大な角を持つイノシシの姿。
「――!!」
 その姿を見て、真っ先に天つ獣・ジジャ(c25840)の口から放たれる魔獣の咆哮。森中に響き渡るその音は、空気を揺らし獣の戦う意思を奪おうとする。
「……お願い。ここは……引いて。私も……できれば、闘いたく……ない」
 踏ん張るように両足を地に付けるイノシシに、キララ・サヤ(c23230)は月色の両瞳を向け言葉を紡ぐ。――野生動物の戦う意思を奪う手段を用いる事は、非殺を方針とした今回は適した手段だっただろう。しかし、それだけではあと一歩足りなかった。
 少し怖気づいた様子を見せた2匹だったが、首を振るとすぐにエンドブレイカー達目掛けて駆けて来た――その姿を見て、パタパタ・チマ(c00834)は荷を守る陣のまま、黄金に輝く蝶を生み出す。
 その合間に駆けるイノシシへ向け、雪のカデンツァ・フェイラン(c03199)が氷結を青い鳥の剣へと纏わせ、ロシェが七色の弦を持つ剣先を向ける。
「弾ける音たちのビート!」
 楽しげにエリーシャが音を奏でれば、鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)の握る鞭が相手の巨体を縛り上げていく。
「大切な荷物なので……申し訳ありませんが、その歯牙に掛けさせる訳にはいきません」
 深緑色の瞳をイノシシへ向けつつ、ランシェは弦を紡ぎ音を奏でる。森の中に広がる音色と攻撃音に、相手は一歩、その足を後ろに退いた。
「……行って」
 その姿を見逃さなかったサヤは、攻撃を続けずにそう零す。続き攻撃をしようと槍を構えていたジジャも、槍を回転させるとそのまま態勢を緩め鋭い眼差しをイノシシへと向ける。
 じり、じり――様子を窺うようにゆっくり後ずさる2匹のイノシシ。続く攻撃がこない事を確認すると、そのまま向きを変え真っ直ぐに森の中へと走り去っていった。

●梅姫に託す
 深い森に終わりを告げると、目の前に広がるのは樹で出来た家々の姿だった。――絶望までは陥っていない。不思議な村の風景。
 フェイランとロシェの柘榴と灰の瞳が交わると、2人は頷き合う。
 しゃん――涼やかな鈴の音が響く。フェイランの身に付けるブレスレットに添えられた鈴が音を奏でれば、その音色に合わせるようにロシェの剣琴の弦からメロディーが奏でられる。
 春を思わせる柔らかな音楽に合わせるように、ロシェのアルトの歌声が小さな村中に響き渡る。
 ――何事か。そう想った村人が集う姿を見て、仲間達が一歩進み出る。
「荷を届けに来たのじゃ」
「村長さんはどなたですか?」
 腰に手を当てジジャが言葉を零せば、チマが小首を傾げながら問い掛ける。
 その問いに答えるようにゆっくりと進み出て来たのは、物語に出てくる村長そのものだった。

「ありがとうございました。これで村も、無事にすみますじゃ」
 深々と礼をする村長。荷を運ぶよう村人へ命令を下す姿を見て、彼等は視線を交わし合う。
「……あなた達は、毎年お祭りをしているんですよね?」
「毎年恒例の由来のあるお祭りがあるとかー」
 真っ直ぐに村長を見ながらユリウスが口火を切れば、すぐにエリーシャがその話を拾った。
 長い白髪の下の瞳に驚きの色を宿し戸惑う村長。しかし頷くと――。
「毎年、この村は美しい梅の花でが咲いておりました。けれど今年は、先日の災害の影響で……」
 全て折れてしまった。
 悲しみの色を宿す声を聞いて、ランシェは大木を見た後優しみを帯びた視線を長老へと向けた。
「親指姫は今はまだ眠りについてらっしゃるだけだと思うんです」
 ――眠り。その言葉に、伏せていた顔を長老は上げる。
「私は……まだ、ダメだとは思わない。だって……この子はまだ、諦めてないもの」
 囁くような――しかし芯のある声でサヤが呟けば、大きな頷きをチマが返した。
「姫君は今、怪我から回復しようと必死に頑張っているはずです」
「折れてしまったのは悲しいけれど、大地に深く根付いた大木であるなら、必ず再生するから」
 小さなチマのその言葉を受け止めつつ、フェイランは優しく笑むと穏やかな声色で語る。
 ――自然にも力がある。ここで終わりでは無い。
 それは2度のショックを受けた村長にとって、予想外の言葉だったのだろう。震える手で折れた大木に触れる長老。その姿を見て、ジジャは言葉を零す。
「このような状況下でこそ、祭りの意義が問われるもの。村人らを元気づけるのも、長の大切な役割じゃろう。折角の祭りごと、しまいこんでは勿体ない」
 ツンとした態度は何時もと同じ。――けれど、紡がれる言葉は嘘偽りない真実。長の役目を説くと、彼女は一歩引き仲間達の後ろへ。それは自身が説得には不向きだと、自覚しているから。
「元気のない時は……誰かが支えてくれたり、するでしょう……? この子達も、同じ」
 ここで諦めたりしないで。命を繋ぐ手段は、まだまだある筈だから――サヤはそう語ると、背中の荷からいくつか書物を取り出した。自然について書かれた書の中に、役立つ事柄があるかもしれない。
「貴方方に姿を見せたくて頑張っている梅に、今年も香りを届けてあげましょう?」
 ――きっと喜んでくれるはず。
 フェイランの口から紡がれる言葉に、村長は不安げな声を漏らした。そんな村長に向けて、ランシェは真剣な瞳を向ける。
「皆さんと共に在った姫が……永い永い月日を皆さんと共にして、皆さんを見守って来た姫が、一度の戦乱や風雨に負けてしまうんでしょうか?」
「自分を大切にしてくれたあなた達が悲しい顔をしていたら、梅姫はもっと悲しくなってしまいます」
 背の低い村長と目線を合わせるようにしゃがむと、ロシェはふわりと笑みを浮かべた。
「あなた方が生きている様に、姫君もまた目を覚ます。僕達はそう確信しています。だから、お祭り、しましょう。僕達、楽しみにやって来たんですよ」
 楽しみに。そのロシェの言葉に大きく頷き、ランシェも語る。――共に歩んだ年月と絆を信じて、今年も祭りを開いて欲しい、と。
「来年を信じてお祭りを開いてあげたら、姫君もきっと喜ぶと思います。来年会えるようにとの願いと応援の気持ちを込めて、今年もお祭りを開きませんか……?」
 小さな身体に見合わぬしっかりとした物言い――にこりと笑うチマを見つめ。そしてエンドブレイカー達を順に見ると、村長はそっと髪に隠れた目頭を押さえた。
「余所の人……しかも、子供達に教えられますとは」
 涙の滲んだ声でそう語ると、彼は立ち上がり村人に向け声を張り上げた。

●爽橘
 村長の一声を聞いて、村人達にもやる気が出てきたようだ。
 ――1年に1度の伝統的な祭り。それが開催される事は、彼等にとっては吉報。村中に伝えて回り、急いで準備を進めようとする彼等に向け、真っ先に手伝うと声を上げたのはエリーシャだった。
 そしてそのまま、訪れたのはいよかん畑。
 樹になる大粒の橙色の実に、ランシェの頬が綻ぶ。
「これなら親指姫も心惹かれいつか必ず花綻ばせてくれると信じます!」
 ――そう。今彼が、祭りの開催される喜びで笑みを浮かべているのと同じよう。
 力仕事なら任せろと胸を叩くジジャに、力仕事は男に任せて果実をもいでくれ、と男が紡げば。
「果実もぎの経験も殆どないがの!」
 それでも良いか。ジジャが問えば、女性が微笑みながらいよかんのもぎかたを教えてくれた。
「橘姫様、良い香りですね……♪」
 果実が顔付近を泳ぐと薫る、爽やかな香り。その香りに、チマは思わず頬を緩めた。
「良かったらおひとつ、味見をどうぞ?」
 小さな女の子のその様子に、妙齢の女性は微笑みながら語る。これなんか美味しいだろうと、手近の実をもぐと皮を剥いて少女に手渡した。
 ――ふわり。薫る柑橘の香りに、チマの頬は更に緩み笑顔が零れる。
 少しだけ……そう言って実を1つ手に取り口に含めば――。
「……わわ、すごく美味しいですっ」
 口に広がる爽やかな香りと味に、思わず頬を抑えてその場でぱたぱたと身体を揺すってしまう。――そしてその香りは、風に運ばれ園中に漂う。
「美味しそうですね」
 チマの手元の果実を見て、フェイランはどんな味かしらと小首を傾げる。――いよかんを食した事が無い彼女にとって、それは未知の味。ひとつどうぞ、と差し出された果実に手を伸ばし口に入れれば、新たなその味に口を手で押さえ綻ぶ。
「……甘くて、果汁がすごいですね」
 少女と微笑み、彼女は籠を持ち直し更なるいよかんを集めに樹の下へと近付いていく。ロシェも籠を抱えると、仲間の下で果実を受け取った。――足元から漂う爽やかな香りに、木の上にいるジジャとランシェも興味津々。微笑み、ロシェは村人に許可を取ると1つの果実を剥き2人に差し出す。
 空腹でお腹が鳴っていたランシェ。お腹をさすりつつ作業をしていたジジャ。この2人にとって、その差し入れはとても嬉しいものだった。ぱくりと嬉しげに食べる2人の姿を見上げつつ、ロシェも果実を口にする。――果実を口にした彼等は、同じように笑みを零す。
 1つを平らげた頃、ジジャはふと。仲間へ問い掛けた。
「おぬしら、休まんで平気か?」
 この作業が意外と体力勝負だったので、年下のメンバーは大丈夫かと。ジジャは気を使う。――視線を交わし合った彼等の答えは、楽しいから大丈夫。

●甘華
 次に彼等が訪れたのは、溢れるチューリップ畑だった。
 ここだけは災害の被害も無かったようで、溢れる花々は綺麗に咲き誇り風に揺れている。
「綺麗……」
 揺れる淡い黄色のチューリップを目にして、サヤの口元が微かに綻ぶ。彼女の肩に乗っている宵は、そんな花を見てちょいっと手を伸ばして物欲しそうにしていた。
 黙々と、手際よく――小さな花束を作っていくサヤの様子を、ユリウスは感心したように眺める。花束を結ぶリボンは、夜空のような深い紺色。そのリボンを結んだところで、少女は問い掛ける。
「……ユリウスは、花は……好き?」
 真白のチューリップを摘んでいたユリウスは、その問い掛けに藍色の瞳を瞬く。――小首を傾げ一瞬考えた後、その口を開き。
「……嫌いでは無い、かな。インテリアになるし」
 その問いを聞き、サヤは嬉しそうにその口元を綻ばせた。
「……また、あなたの事……ひとつ、知る事が……できた」
「サヤはいつも、僕の事を知りたがるよね」
 言葉を交わしつつも作業の手は止めずに――彼等はゆっくりと話を続ける。いくつか質問を受けた記憶を甦らせるユリウスに向け、サヤは相手の事を知る事は嬉しいことだと語る。
「……そう。じゃあ、次の機会にはサヤの事も聞かせてね」
 微かに口元に笑みを浮かべそう語ると、ユリウスは作り終えた花束を運ぶ台車に置きに歩いた。
「春姫様もおはようございます、春ですねっ」
 楽しそうに笑いチューリップへ手を伸ばすチマ。お祭りに備えて可愛らしくコーディネート……と彼女が言うように、用意したのは可愛らしい橙色のリボンだった。
「ブーケ……かぁ」
 手の中で出来上がっていく花束を見つつ、ロシェは物思いに耽る。約束の事を思い出せば、ついつい頬が緩んでしまう。広い花畑でその様子を変に思う者はいないようだけれど――楽しそうだね、と声を掛けてくれた老婆に、彼は理由を説明する。来年2人で来ようと云う、想いも添えて。
 エリーシャは花の束を抱えつつ、村人達に村の風習や祭りの由来を聞いている。直接村人達から聞く話はまた新鮮で、自然と笑みが零れてしまう。
 楽しそうな仲間と村人の様子に微笑み、フェイランは丁寧に花を摘み取って行く。
 ――その口元から零れるのは澄んだ歌声。
 春色の束を作りながら、紡がれる歌声に耳を傾け。村人は幸せそうに微笑んだ。彼女曰く、花を見ているとつい歌いたくなってしまうらしい。良かったら皆さんも――そう声を掛ければ、花畑中に楽しそうな歌声が響いてきた。

●春告げる夜
「お疲れ様でした。どうぞ、ごゆるりとおくつろぎ下さい」
 村長の家に招かれたエンドブレイカー達は、暖炉前に置かれた種類もばらばらな椅子に腰を下ろした。運ばれてきた紅茶は、ロシェの用意した花の香りのするお茶。
 ――ふわり。部屋に甘い花の香りが広がる。
「後は夜のお祭りまで待ちですかー。なんかワクワクしますー」
 きらきらと瞳を輝かせながら、エリーシャはカップを両手で包み込んだ。彼女と同じよう祭りを楽しみにするジジャだが、少し違う。
「祭りと言えば酒は欠かせんじゃろ。地酒でもあれば、呑んでみたいもんじゃが……」
 祭りに相応しいお酒が楽しみなのは、大人の特権。その言葉に梅を使った酒があるので、用意しましょうかと村長が零せば、いや、祭りが始まってから酒飲みの輪を探すとジジャは笑った。
「そうだ、花が見えないのは寂しいので白梅柄の羽織を用意してみました。良ければこれを飾ってみてはいかがでしょう?」
 ――村の皆さんが、また姫君が咲く未来を想像し願って貰えたら。
 そんな想いを込めて、チマは持参した羽織を見せると村長は嬉しそうに頷いてくれた。早速梅花の元へ届けようとぱたぱた駆ける音を耳にしつつ、サヤは大きないよかんの実をそっと両手で包む。
「……良い薫り。……あなたも、そう……思うでしょう?」
 ねぇ、春告げのお姫様。
 囁かれたその言葉を耳にした者はいない。彼女の足元で、転がるいよかんとじゃれている暁には聞こえたかもしれないが――。
 薫る紅茶の花の香り。そして爽やかないよかんの香り。
「目を閉じれば、何だか夜闇に薫る様な気がしますよ。梅姫の寝返り、かな」
 そっと瞳を閉じて微笑むロシェ。彼の言葉を耳にして、フェイランは笑むと村長を見つめる。
「お祭りをずっと見て来られた方。どんな想い出があるのかしら」
 ふわり笑み、問いを零せば彼はゆったりと口ずさむ。――それは昔話を語るように。
 美しき梅姫の成長。祭りがどんどん大きくなってきたこと。そして、変わらぬ村人達。
 長き日を語り終えた時には、きっと夜が訪れているだろう。

 ――ほら、春を告げるまであと少し。



マスター:公塚杏 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2014/03/11
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  • ロマンティック2 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
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