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苺と林檎と雪苺のシュトーレン

<オープニング>

●ティルムシュタットの製菓市
 紫煙群塔ラッドシティの街、ティルムシュタットでは、月に一度特別な市が立つ。
 街道から街中へ入る手前に設けられた大きな広場に立つ市の名は、ティルムシュタットの製菓市。その呼び名のとおり、お菓子作りの材料や製菓の器具を主に扱う市だ。
 甘い香りと華やかな彩りに満ちた製菓市は、お菓子作りに興味を持つ者にとってはまるで、とびきり綺麗なものいっぱいの宝石箱やとびきり楽しいものいっぱいの玩具箱をひっくり返したような場所。
 ――けれど知ってる?
 昼の間も楽しい夢の国だけれど、夜を迎えた製菓市は煌びやかな魔法の世界へ変わるってこと。

 深く透きとおる冬の夜闇が訪れたなら、濃藍の闇に抱かれた製菓市はキャンドルの焔で彩られる。暖かな蜜色に輝く焔を燈すのは美しい木々や鳥のかたちに彫られた蜜蝋キャンドルに、砂糖細工や可愛い苺タルトそっくりな菓子キャンドルたち。ふんわり金の環を描く焔に照らされ、製菓市に溢れる数多の品々は秘密の宝物めいた煌きを纏う。
 硝子の薔薇にティーキャンドルを閉じ込めたあかりから溢れる輝きに照らされたなら、朝摘みの苺も林檎も深く艶めいて、キャンドルの熱で昼間よりも強く甘い香りを振りまいてくれる。銀色のピーラーを持った売り子の手の中でくるくる踊る眩い柚子からは細く綺麗に剥かれた皮が魔法の螺旋みたいに繰り出され、キャンドルの焔に踊って甘酸っぱい香りの花火を何度も散らした。
 ねえ、これで何を作ろうか。
 真紅に艶めく苺をふわふわのメレンゲにぎゅうっと絞って桜色の雪みたいなギモーヴも作りたいし、甘酸っぱい林檎とレーズンにシナモンとバターたっぷりのクラムをめいっぱい乗せて焼いた、熱々のアップルクランブルもこの季節には捨てがたい。ほろ苦くて濃厚な抹茶ショコラや抹茶のシュトレンを作るならオレンジよりも柚子ピールが欲しいところ。
 ねえ、変り種のシュトレンに興味はある?
 帆船キャンドルの焔が示す先には蕩ける黄金のきらめきを詰め込んだような蜂蜜漬けジンジャーの硝子瓶、紅茶リキュールに漬け込まれたドライフルーツ達の煌きも、西日の射す屋根裏部屋で突然見つけた宝物みたいに心を弾ませてくれる。
 たとえば蜂蜜漬けジンジャーをぎっしり詰め込んだ黒糖風味のシュトレン、たとえば薫り高い紅茶の茶葉と紅茶リキュールに漬けたドライフルーツたっぷりの紅茶風味シュトレン。朝霧に極細の金糸を織り込んだようなワックスペーパーでくるりと包んで、薔薇色リボンで結んだなら、きっと食べるのが楽しみで楽しみで仕方なくなると思わない?
 樅の木キャンドルのあかりが導く硝子瓶の森に迷い込んだなら、紅茶みたいな華やかな彩と甘い香りを振りまくラム酒に、時を経たオーク樽の奥深い香りを抱くブランデー、馥郁たる香りと神秘的な琥珀色の煌きが踊る様に吐息を洩らし、薔薇や桜に菫にミント、華やかな宝石めいた煌きがきらきら舞うリキュールの万華鏡に歓声をあげる。
 そうして万華鏡の森の奥で出逢ったのは――苺のリキュールに漬け込まれたドライフルーツの苺。
 甘酸っぱい香りも味わいもぎゅっと凝縮された苺のドライフルーツに、蕩けるように甘く濃厚で香りも深い苺のリキュールを浸透させたそれは、まさに究極の濃縮苺だ。
 風味豊かなホワイトショコラをたっぷり練り込んだ真白な生地にこの究極の苺をいっぱい詰め込み焼き上げて、粉雪みたいなパウダーシュガーをたっぷり降らせて。
 ――ねえ、今年は雪苺のシュトレンも作ろうか。
 
●苺と林檎と雪苺のシュトーレン
「雪苺のシュトレンってななな何それ何それアンジュにも教えてくださいおねえさま……!」
 陽に透かした蜂蜜色の瞳に熱烈な憧憬を湛えて、雁渡の狩猟者・アンジュ(cn0037)は高鳴る胸の鼓動のままにときめきを炸裂させてきた。この製菓市のエンディングが視えたお姉様へ向けて。
 幸いその綺麗なお姉様とは既に面識があり、こちらがエンドブレイカーだと知っている相手でもあるため話は早かった。
 けれど酒場で遭遇した同胞達にもこの話をせずにはいられない。
 だって、あんなに楽しそうなエンディングをみんなで目一杯楽しまないなんてもったいない。
「ね、もしも興味が湧いたなら――アンジュと一緒に、ティルムシュタットの製菓市に行こう?」
「買い物して回るのも面白いが、売り手に回るのも面白いぜ?」
 ラッドシティで領主となり、そろそろ領地も落ち着いてきたという者も多いだろう。
 自領に製菓市向けの品があるなら新たな販路も開拓できるはず。その気があるなら協力するぜと隣のテーブルから沙漠の魔想紋章士・ナルセイン(cn0172)が口を挟んだ。
 つまり――自分が地位を持つ街や村の品を製菓市で売ってみないか、というわけだ。
 
 製菓市で扱われているのはお菓子作りの材料や製菓の器具といった品。
 新鮮なミルクや卵に極上のアカシア蜜、粒揃いの朝摘みブルーベリーといった良質の品があるなら間違いなく売れるし、刃物が自慢の街なら菓子をきれいに切れるケーキナイフ、織物が特産の街ならお菓子のラッピングに使うサテンのリボンといった、食材ではないものだって売り物になる。
 この時期はパーティーも多いから、美麗な食器や機能的な製菓用具なども飛ぶように売れるはず。
 優美な足つきの銀の菓子皿を雪結晶のレースペーパーで彩れば雰囲気も増し、熱伝導性に優れ、金に薔薇色を溶かしたように輝く銅製クレープパンで仕上げたなら、当たり前のクレープシュゼットも極上の逸品に変わる。
 お菓子の家ならぬお菓子の時計塔が作れる精緻なクッキー型などもこの時期の人気商品だ。
 大きな木箱いっぱいの林檎、壺入りの発酵バター、何本もの製菓用ブランデーと重いものを大量に買い込む客も多いが、頼めば品の良い制服に身を包んだ若い運び屋たちが貸し大トカゲ屋まで荷を運んでくれるから、誰もが財布の許す限り心ゆくまで買い物を楽しめる。
「売り手にとってもありがたいね。とは言っても俺が売るのは量も見た目も可愛らしい菫砂糖だが」
「うう。何かやっぱりずるい気がする……!」
 愉しげに笑う冒険商人ナルセインが今回持ち込むものは、白銀に煌くシュガーキューブに菫の花を閉じこめた菫砂糖。度数の高い菫リキュールを染ませ火をつけたなら、冬のティータイムを華やかに彩ってくれるはず。
 
「お願いすればフルーツやお酒に漬けたドライフルーツとかの味見はできるみたいなの。んでも味見目当てに行くってのは遠慮してね。お菓子作りの材料や製菓用の器具を買ったり眺めたりするのを楽しむ市だもの」
 製菓市についてひとしきり語り、アンジュはそう付け加えた。
 たとえば、作りたいお菓子を作る材料や器具を買い揃えたり、好きなように買い物をしながらどんなお菓子を作ろうか考えてみたり。そうやって過ごすのが一番楽しい場所なのだ。
 新鮮で上質な食材も、職人御用達の高品質な器具も、誰かに菓子を贈るためのラッピング用品も、この製菓市ならよりどりみどり。

「あのね、思いきり楽しい買い物ができたなら、また逢おうね」

 何を買ってどんなお菓子を作ったのか、後で聴かせて欲しいと思うから。


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参加者
NPC:雁渡の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●菫砂糖とクグロフとお菓子の時計塔
 零れる吐息も真白に凍る深い濃藍の冬の夜、軽やかに靴音歌わせ飛び込むところは飛びきり甘く煌く宝石箱みたいな製菓市。柊と姫林檎のリースの真ん中に燈されたキャンドルのあかりに導かれ、万華響・ラヴィスローズ(c02647)は砂糖結晶のキューブに菫の花を閉じ込めた菫砂糖に、甘酸っぱく芳醇に香る百花蜜をお買い上げ。
 弾む胸に宝物を抱きしめて、星空仰げば銀の懐中時計と雪結晶のチャームを腰に躍らせ空翔ける少年少女の姿、輝く笑顔で手を振ってくれた彼らにいけずなお兄さんの居場所を訊いたなら、
「いけ……いけめんなエッカルト殿、時計塔のクッキー型をくださいな!」
 金細工や銀細工めいた精緻な菓子型の森へと飛び込んだ。
 来たる大切なひとの誕生日は素敵な塔でお祝いしたいから、ちょっぴり緊張しつつ見上げてみる。
「……今日はいぢわるもかけひきも無し、じゃよね?」
「まさか」
 生地は冷たい処でしっかり寝かせ、型には薄く粉を。
 訊かれたコツを語りつつ、デザイナーは完璧な営業スマイルで少女に挑んだ。
「さて、時計塔と懐中時計の型を合わせてお買い上げなら、おまけに雪結晶の型をつけますけど?」
「やっぱりかけひき……!?」
 相変わらずだなぁと苦笑したティルムシュタットの領主、トランジットパッセンジャー・ピノ(c19099)は何時の間にか袖の下という名の雪結晶の型を握らされ、運び屋業に勤しむ少年達に見つかって、
「あ、領主様だ!」
「こんばんは領主様!」
「しー! 今日はお忍び! お忍び視察だから!!」
『ぴよぴよ、ぴよー!』
 慌てて指を口元にあてた。その肩でぴよぴよ跳ねる領主夫人ゆずひよこ。
「いやあんまり忍んでないと思うぜ領主様」
「今夜は領主とは呼ばないでくれたまえよ、ナルセイン君」
「けど親しまれてて素敵じゃない、ピノ領主♪」
 愉しげに笑った沙漠の魔想紋章士・ナルセイン(cn0172)に胸を張って微行を強調しながらも、既にたっぷりと買い物をして運び屋達にお願いしてくれた様子の踊る光影・ロゼリア(c05854)の弾む声を聴けば頬が緩む。製菓市が賑わう様は領主として嬉しい限りだ。
 暖かな金の環描く焔に翳せば、甘い白銀の煌きに仄かに透ける菫の花。
 柔い熱と溢れ来た花の香にロゼリアと顔を見合わせ破顔して、二人揃って菫砂糖をお買い上げ。
「夫人にも良い品一つ宜しく……って嫁のが可愛くて親近感ない?」
「なら、これをピーさんの嫁さんに」
 悪戯っぽく続ければ、嫁の頭に恭しく砂糖漬けのミントが乗せられた。
「じゃ、次は私の接客お願いね」
「ああ、受けて立つぜ」
 菫砂糖を包むナルセインの顔を見つつロゼリアが相談するのは、現在進行形で彼に家具や調度を頼んでいる別荘の話。最後に残したキッチンを彩るのは暖かな煉瓦か艶やかなタイルか。
 菓子やパンの生地をそのままこねたり伸ばしたりできる大理石の天板を勧められたなら、ひときわ鮮やかに夢のキッチンのイメージが湧いた。
 返す借りの分や御礼にお菓子を届けるわねと軽やかに笑んで、
「何食べたい? なんでも♪ なんてのは許しません」
「もちろん。折角の機会を逃す気はないね」
 覗き込めば返る愉しげな笑み。
 これだけは自分で、と幸せ擁くよう胸に抱えていた袋の香りに気づいてか、その苺でミルフィーユが食べられれば嬉しいね、と男は眦緩め、ロゼリアの胸に菫香る幸せを足した。
 生成りのレースリボンに真珠色がかった白銀のレースペーパー、それらにきゃあきゃあ声を弾ませ合うだけで幸せになれるのは、きっと女の子ならではの特権だ。
 胸に小さな煌きいくつも跳ねるような楽しさ満喫しつつ、大樹の音律・フェイラン(c03199)はひっそり秘密を明かす。寸前までシュトレンを作る予定だったけど、
「皆にプレゼント出来るものって思ったら――クグロフを作りたいって閃いてしまったのっ!」
「いいなあいいなあ、可愛いよねクグロフ!」
 雁渡の狩猟者・アンジュ(cn0037)の歓声が弾けたなら、さあ一緒に材料探し!
 新鮮な卵やめいっぱい陽を浴びたレーズンに、朝摘み苺やメープルシュガー、そして蜜入り林檎を手に取って、
「ね、私がクグロフを作ったら、アンジュも食べてくださるかしら?」
「きゃー! 食べたい食べたい食べますともー!!」
 林檎みたいな娘に笑みを咲かせれば、釣られてフェイランにも満開の笑みが咲いた。
 お菓子作りは素敵な魔法みたい。
 誰かの笑顔で、自分までもが満開の幸せ。

●林檎とゆずりんごと白蝶貝のカトラリー
 硝子の林檎を満たす真紅のリキッドキャンドルに燈る焔が凛と澄みきった夜闇を柔らかに溶かす。
 暖かな焔に照り映えるシルベナ村産の小ぶりな林檎は色も疎らで見目こそ他に譲るけど、輪切りにすれば鮮やかな香りが弾け、眩い蜜のごとき黄金色が瑞々しい輝きをきらきらまいた。
 樹上で甘さと栄養たっぷりたくわえてから収穫されたこの林檎も、斧の城塞騎士・フラン(c00997)自慢の黄金。干し林檎にするのも良しな逸品をじっくり煮込んだジャムにして、夜の製菓市を泳ぐ皆が身も心も温まるようにと、生姜紅茶に落として笑顔で味見をおすすめ。
「蜂蜜色の瞳のお嬢さんもいかが?」
「きゃーくださいくださいー!」
 招けば温かな香りに誘われそわそわしていたアンジュが飛んできて、夏の御礼にと勧めれば一口味わったナルセインがこりゃいいなと破顔した。
 品質相応の値の見極めは難しいけれど、手に取ってくれた客が顔を輝かせる様が歓びだ。
「アタシも味見させてもらっていいかしら?」
「もちろんどうぞ! 喉にもいいと思うんだ」
 数多の林檎が並ぶ中ひときわ賑わう一角を覗き、夕映えの揺籃唄・リーレ(c06410)もシルベナ村産の林檎ジャム入り生姜紅茶を一口賞味。華やかにふわり広がる林檎の香りと味わい、そして体の芯に燈る優しい熱に思わず蕩けるような笑みを燈した。
 干し林檎にしてシュトレンにと勧められれば迷わずお買い上げ。
 一緒にもらった地図を覗けばわかりやすく書かれた店々が楽しくて、知らず足取りも軽やかに。
 さあ、どんなシュトレンにしようかしら?
 生地は遠い日に覚えた定番のもの、スパイスを利かせて大人の味に。宝石めいたドライフルーツや胡桃にアーモンドもたっぷり詰め込んで、朝を迎えるたびに深まる味の夢を見る。
 ――誰かと、なんて。それは我侭だけれども。
 日毎にきっと、明日が来るのが待ち遠しくなるはずだから。
 甘い琥珀色のラム酒で夢を見るドライフルーツ達も色とりどりの輝き孕んできらきらと光を散らして、薔薇色リボンでハニースプーン結わえた蜂蜜も蕩ける煌きでアップルバスカー・マニート(c13989)を誘惑する。甘い宝石達に目移りするまま殻つきヘーゼルナッツもシルベナ村の林檎も買い込んだら、眼が合った途端ナルセインが噴き出した。
「今日のあんた、ペンギンみたいで可愛いな」
「ペンギン……! た、確かにそうかも。どうしようセインさん」
 両手の大荷物でよたよたしながら、あと卵も買わなきゃならないのと真剣な顔つきで告げれば冒険商人は大爆笑。そりゃ楽しいことになるな、なんて笑って、ひょいと荷物を引き受けた男は運び屋達を呼んだ。
 身も心も軽くなったなら、次なる敵は財布の軽さ。
「……菫砂糖って、小分けでも買える?」
「一粒からでもどうぞ」
 良かった、と陽だまりみたいな笑みを咲かせてマニートは、菫プリンの夢をお買い上げ。
 繊細にきらめく葉脈の透かし彫りが綺麗な純銀のケーキサーバーは薔薇の葉を模したもの、同じく純銀のティースプーンには柄の先端に白蝶貝の小さな薔薇の花が咲く。
 冒険商人の見立てに瞳を細めて漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)は、書き出すうち大長編になった買い物メモのトップバッター、菫砂糖に挑んだが、
「贈り物用の瓶に詰めて頂く事は可能だろうか?」
「もちろん。けど、薔薇の姫さんならいの一番に買ってったぜ」
「――!」
 思わず声を失った彼にさり気なくナルセインが勧めたのは、蓋の持ち手に薔薇の蕾があしらわれた純銀のシュガーポット。
「んで、結局どどどどうしたの!?」
「それは――」
 事の顛末を固唾を呑んで聴いていたアンジュにこっそり結果を明かし、顔を見合わせ破顔する。
 笑いながら披露したのは木箱いっぱいの苺達。手作りドライフルーツに挑戦するつもりだと語り、
「良ければお裾分けしたいのだが、生と加工した後とどちらが良いだろう?」
「どっちもー!!」
 なんて続ければ、やっぱり笑みが弾けて楽しく跳ねた。
 暖炉の焔の優しさだけを閉じ込めたように、焔燈る蜜蝋キャンドルそのものにも暖かな彩が燈る。可愛いキャンドルを眺めて回れば知らず顔が綻んで、卵から顔を覗かせた小鳥の雛が小首を傾げる蜜蝋キャンドルと眼が合えば、
「こ、これはずるい! ずるすぎる……!!」
「ねー! ずるいよね!!」
 陽凰姫・ゼルディア(c07051)は暁色の娘と意気投合。
 雪苺のシュトレンを味見してもらう約束をとりつけ、幻想的な硝子瓶の森でオレンジリキュールとの出逢いを果たし、そのまま飛び込む先は飛びきり甘酸っぱい香り満ち溢れるフルーツの園。
 真っ先に目指すはゆずりんごやゆず蜂蜜のための柚子売り場、眩い柚子がたっぷり積まれた山の頂にはひときわ美味しそうな柚子の実が、
「……って思ったらお婿さん!」
『ぴよー!!』
 抜かりなく柚子の山で擬態していたゆずひよこが手許の籠へと飛び込んできたなら、柚子さん達と一緒にぎゅむっと連れ帰っちゃうわよ〜なんて笑ってほわほわほっぺを優しくつつき、もうすぐ迎える大祭と新年の約束を。
 ――素敵な時間を過ごす準備、一緒にしてね。

●林檎とブランデーと星のキャンドル
 深く闇色に澄む夜の湖から掬いあげてきたかのように、ラム酒馨るレーズンも苺リキュールたっぷり滲ませた苺も、深く艶やかな輝きを帯びる。陽の光蕩けるような蜂蜜にしっかり馴染んだジンジャーをあかりに透かせば、飛びきり甘い金色に煌いた。
 たっぷり見繕った煌きはシュトレンに詰め込む宝石達。
 大祭のそのまた先の特別な祝いの日まで楽しむための、空追い・ヴフマル(c00536)の宝石箱。
 煌きさえ濃密な宝石の森を抜けたなら、ぱぁっと明かりが広がると同時に甘酸っぱい果実の香りが鮮やかに爆ぜた。キャンドルのあかりに艶々と輝くのは深紅に薔薇色、木漏れ日色の林檎達。
 俺の独壇場だとばかりにハルピュイアの隻腕・オニクス(c11582)は金の双眸を煌かせ、そっと鼻を寄せては香りを確かめ、掌の上で軽く躍らせては重さを確かめて、甘味も酸味も蜜入り具合も外から的確に見分けていく。
 鮮やかな木漏れ日色のは加熱向き、明るい薔薇色のはそのまま齧ってもきっと美味。
「エルディは林檎買うか? 必要なら選んでおくぜ」
「んじゃ、酸い目のをお願いします」
 鮮やかな木漏れ日色に、小ぶりながらひときわ艶やかで香り高い深紅の林檎、加工用にと選べば彼が作るものは識らずとも、オニクスも甘く煮つめたジャムに思いを馳せる。
 朝摘み苺も買って多めに作り、熱い紅茶に落とせば、二人でたっぷり楽しめる、冬の幸せ。
「ほい、アンタの分の林檎な?」
「うわ、いい香りっすねぇ」
 選り抜かれた林檎で何を作るかはまだ内緒。
 凛と霜を纏った風な氷砂糖に明るい陽が射すようなレモン、大きな硝子瓶に酸味鮮やかな林檎と一緒にぎゅっと詰め込んだなら、注ぐのは幾星霜を越えた氷河の水みたいに透きとおった蒸留酒。
 来たる日まで寝かせたなら、宝石箱のシュトレンに林檎ジャム入り紅茶も添え、君の好きな林檎のお酒で幸せたっぷりに祝おうか。
 迎える大祭と新年のその先の、君が大人になる特別な日を。
 揺らめく炎を透かし、菫や薔薇にミントリキュールの彩と影が踊る硝子瓶の森。甘やかな夢の奥で極上のブランデーに出逢えば、戯咲歌・ハルネス(c02136)は雪降る夜の幻想を語る。
 幻想を生むのは熱い珈琲と、杯の縁を捉え角砂糖を抱くロワイヤルスプーン。
 琥珀色のブランデーを注いで火を燈し、
「青く揺らめく炎と、立ち上るブランデーの香りを楽しむなんてどうかな?」
「やってみたい……!」
 瞳を輝かせた暁色が声を弾ませて、青い炎ってこんな色? と眦に触れてくる。
 柚子の皮で香りづけするのもいいし、菫砂糖を使えば特別感も増す。買いたいものは後から後から増えていくけれど、ここには運び屋のあの子達がいるし、買いすぎても農園の皆がいるから大丈夫。
 ――だから、ね?
「迎えに来たよ、アンジュ」
 君とまた、新しい年を迎えるために。
 囁けば何度も瞬いた娘がほんのり目元を染め、光綻ぶような笑みを燈す。
 攫いに来たよと言われれば嬉しくて、迎えに来たよと言われてみればもっともっと嬉しかった。
 だから、ね、と暁色の娘は暁月夜の瞳を覗き、両手で大切そうにハルネスの頬を包みこむ。
 ――無事に帰ってきたら改めて、誰より早く迎えにきてね。
 深く透きとおる夜闇に燈るキャンドルの焔はふんわり金の環を抱いて、暖かな聖性をも纏うよう。
 蜜色の輝きに照らされて、宝石めいたドライフルーツもふっくら艶めくナッツも、果実の輝きぎゅっと凝らせたシロップ達も、ひときわ深い煌きを抱く。
 まるできらきら輝く星みたいとハニーフィンチ・アレンカレン(c03179)が感嘆の吐息を洩らすから、静穏の祷り・フォシーユ(c23031)も柔い吐息で笑んだ。
 斧都の崩壊から胸奥に蟠ったままの不安は押し込め、今夜は胸に暖かな星を抱く。
 焼き菓子にも甘くきらめく星達をめいっぱい詰め込もう。
「寒い日には熱い飲み物と、どっしりしたお茶請けはどう?」
 たくさんの宝物をぎゅっと閉じ込めた宝石箱のような、シュトレンにクグロフ、カトルカール。
 次々フォシーユの口から紡がれる菓子の名は何やら楽しい魔法の呪文みたいで、切り分けて何が出るかはお楽しみ、なんて言葉が続けばアレンカレンの期待は膨らむばかり。
「お楽しみって素敵な響きね!」
 お屋敷の皆で分け合えたら、もっともっと素敵!
 もちろん皆の前で切り分けるよ、と請合ってくれた彼に笑み返し、弾む足取りで甘い星空渡れば、硝子瓶いっぱいに詰め込まれた星型のキャンドルがアレンカレンの瞳に飛び込んできた。
「ね、お菓子を食べる時にこれをいっぱい灯すのはどうかしら?」
「いいね、きっと皆歓ぶよ」
 世界の激動に翻弄され、誰もが傷ついているこんな時だからこそ、あかりを燈し、光で照らす。
 辛い夜にも長い冬にも、きっと星は灯るから。
 ――私にとって貴方もその中のひとつなのよ。
 アレンカレンの言葉にこそ光を燈され、フォシーユも微笑んだ。
 彼女を照らす数多の中のひとつになれるのなら、それでいい。
 さあ、幾つもの星達を連れて帰ろうか。
 そうして沢山の菓子に、毎日のテーブルに、皆の心に――暖かで優しい、星の光を燈すのだ。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:14人
作成日:2013/12/24
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冒険結果:成功!
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