ステータス画面

氷砂糖の味

<オープニング>

●レイチェルの執着
 人の営みの消えた街には、独特の冷気が付き纏う。見た目の寒々しさだけではない、実際の冷気だ。人は生きているだけで暖かい。脈打つ鼓動と体温、言葉と共に紡がれる吐息、そして生活の中で使われる火の熾り。無人と化し、それら全てを失った此処はとても冷たく、寒い。
 冷たく痺れる指に精一杯の吐息をかけ、私はもう一度目を凝らす。凍えるほどの寒さが私を苛むが、私はそれを歓迎する。
 もっと寒くなれば良い。もっと冷たくなれば良い。
 そうすれば、貴方の腐敗が止まるから。

 アクスヘイムの崩壊からしばらくして、身を潜めて彼を見守るのは既に習慣となっていた。
 今までは運良く誰にも見つからなかったが、今日は違った。
 彼を目で追うことに夢中になり、別のアンデッドの接近に気付くのが遅れてしまった。一人にバレれば後は簡単に、周りのアンデッド達が私を包囲しようと向かってくる。
 けれど、大丈夫。私には戦う力がある。自分の身を守る程度はできるはずだ。
 私は剣を抜き放ち、氷を紡ぐ。そしてそれらを迫り来るアンデッド達へと向けた。そう、元は隣人だった彼等に。彼等はとっくの昔に死んでいる。アンデッドは所詮アンデッドだ。どれだけ傷をつけても、私の心は痛まない。
 見知らぬ誰かの腕を斬った。雑貨屋のクラウスさんの足を折った。顔見知り程度の人を突き飛ばした。花屋のタニスさんの目を潰した。
 脱出路を切り開き、最後に一度振り向くと、そこで愛しの貴方が両腕を広げていた。抱擁を誘うようなその仕草に私は。
 私は、剣を上げる事すらしなかった。

●心残り
 アンデッドは性質が悪い。人のアンデッドは特にだ。
 死が止まる事だとするならば、それを拒んだ上で周りの心を止めてしまう。

 ……うんざりとした表情で所感を述べた後、斧の狩猟者・ヴィトレル(cn0062)がこちらを振り向く。
「そう、今回はアンデッド絡みの案件を頼みたい」
 アクスヘイムの崩壊による影響は大きい。被災地域の中には多数の死体の中からアンデッドが生まれる場所も多く見られる。これの掃討こそが今回の依頼内容なのだが……。
 そんな中で一件、ある女性にエンディングが訪れる。。。
「死を迎えるのはレイチェルという女だ。どうやらアンデッドが発生している村の出身らしい」
 彼女自身は災害を免れたが、その家族が、隣人が、そして恋人が犠牲になった。それだけでも十分だと思えるが、悲劇はさらに彼女を苛む事になる。犠牲になった内の何人かが、アンデッドとして立ち上がったのだ。
 もっとも、レイチェルがそれを悲劇と認識したかは分からない。もう一度動き出した恋人を、彼女は執拗に追いかけ始めたのだから。
 理性では分かっているのだろう。恋人だったアンデッドとの接触は持たず、数日に一度被災地区を訪れ、『彼』を隠れて見守るに留めている。しかし頻度が多すぎた。些細なミスからアンデッドに囲まれ、彼女の命は終わる。
 自業自得だとヴィトレルは断じた。
「アンデッドは死体に過ぎぬと言いながら、恋人のアンデッドに執着する。分かりやすい自己矛盾だな」
 だが、と彼は続ける。人間は平気で矛盾を抱えられる。そういう面でも、彼女はごく普通の人間だと言えるだろう。

「……ああ、話が逸れたか。標的のアンデッドは数はそこそこ居るが、マスカレイド化はしていない。単体としての脅威は大きくないだろう」
 元が村人という事もあり、武装している気配も無い。獣と同様、爪と歯が主な攻撃手段になるだろう。アンデッドらしい多少のしぶとさに留意すれば特に問題は無いと言える。
 公園だった広場と、少し離れた大通りにアンデッドの集団が一つずつ。そして厄介な事に、その二箇所を繋ぐ細い路地の一角にレイチェルが身を潜めているという。
 周りには廃墟と化した建物が多く、隠れる場所は多い。気付かれずに潜り込むのは難しいにしても、接近する際に工夫の余地はあるだろう。
「言っちゃなんだが、難儀な状況になるかもな」
 戦闘にレイチェルが巻き込まれるのは不可避だろうが……状況次第ではこちらに刃を向けて来る可能性も大いにある。
「それでも君達なら何とか出来ると信じている。任せて良いな?」
 言葉や行動で執着を消すのか、強制的に刈り取るのか。その辺りの選択も一同に委ね、ヴィトレルは物憂げに目を伏せた。


マスター:つじ 紹介ページ
 理性と本能を感情が凌駕する事はままあります。そんな状態の人には一体何が必要なのでしょうか。
 ご参加お待ちしております。


●勝利条件
 この一帯のアンデッドの殲滅。

●レイチェル
 元は衛兵をしていたようですが、現在は休職中。復興を助けるために故郷に戻りましたが、その中で離れて暮らしていた『彼』のアンデッドを見つけ、復興作業を手伝う傍ら良くない習慣に浸る様になりました。
 アイスレイピアを得意としており、冷静であればアンデッドの集団からぎりぎり逃走できる程度の腕前はあります。
 生き残る事を第一に考えて行動しますが、『彼』のアンデッドが絡むとそれも簡単に覆る可能性があります。

●アンデッド
 死因に従って傷んではいますが、腐敗は余り進んでおらず、総じて生前の面影を色濃く残しています。
 レイチェルの『彼』は公園だった広場に居るようです。
参加者
破城鎚・アイネアス(c00387)
猛る烈風・アヤセ(c01136)
翔る疾風・セナ(c02046)
青空に響く歌声・カイジュ(c03908)
ぴよたん刑事・キサラ(c05188)
ラブ・デージー(c07420)
辰星・ルイシュ(c16527)
ヴェルマーテ・パンペリシュカ(c33981)

<リプレイ>

●死を思う
 その町は静寂の中で一同を迎えた。瓦礫は一部撤去され、死体も弔われた後のようだが、どうしようもなく生者の気配に欠けている。復興の兆しに対し、崩壊の爪痕は未だに色濃い。
 そしてその微かな兆しも、ある一点を越えてからは捉える事すら難しくなっていた。復興作業の滞る理由は幾つか挙げられるだろうが、その最たるものが恐らくアンデッドの存在だろう。
 思ったよりも大きく響いた靴音に、ヴェルマーテ・パンペリシュカ(c33981)が足を止める。埃混じりの冷たい風に頬を撫でられ、彼女は顔を上げて視線を巡らせる。荒廃という言葉が似合う光景を物憂げになぞり、その目は後ろを歩いていた辰星・ルイシュ(c16527)を捉えた。
 物思いに耽るような様子の彼は、パンペリシュカの視線に気付き、何でもないというように首を横に振った。
 路地を縫うように続いた音の無い道中は、大通りに面した廃墟で終わる。静寂の中で蠢いていた気配は、壁のすぐ向こうにある。

 契機となったのは別働隊からのアラーム。目的のものを見つけたという合図だった。
 一度視線を合わせた後、防具に消音措置を施していた二人が先頭に立って外へと踏み出す。廃屋の外に広がる大通りには、各所にアンデッドの姿があった。
 これらの排除こそが今回の目的。駆け出したぴよたん刑事・キサラ(c05188)の斧が三日月を描き、手近な一体の胴を深く抉る。直後に高く飛び上がっていたラブ・デージー(c07420)が、鉤爪を下にそのアンデッドに着地した。
 こちらを認識する暇も無かったであろう敵の様子を横目に、デージーは次の獲物目掛けて宙を舞う。
 デージーの再度の襲撃に合わせる様に青空に響く歌声・カイジュ(c03908)が棍を繰り出し、別の一体を打ち据えた。
 そして奇襲を仕掛けた彼等を追い抜くように、破城鎚・アイネアス(c00387)が大きく踏み込む。構えこそ防御のそれだが、地を鳴らし踏みしめられた一歩は途上のアンデッドを難無く撥ね飛ばした。
 重戦車の如き威容を示し、彼は大通りに集るアンデッドの視線を一身に受ける。
「来い」
 眼前の敵達を睥睨し、アイネアスは短くそう告げた。

 大通りでの開戦の一方、アラームを飛ばした猛る烈風・アヤセ(c01136)、翔る疾風・セナ(c02046)の両名は目的の人物、レイチェルと共闘していた。
 アンデッドの点在する大通りと広場を繋ぐ細い路地。ゆっくりと話をするには少々……と言うか、かなり場所が悪いだろう。
 それでもアヤセはレイチェルの状況を聞きだす事に成功し、一つの選択を迫っていた。
「このまま帰れと、そう言うの?」
「この先は危険です……貴女も分かっているでしょう?」
 セナが符で焼いたアンデッドに突きを入れつつ、アヤセがレイチェルを促す。選択の内容は単純だ。この場から仲間の居る大通りに向かうか、『彼』の居る広場に向かうか。
「そんな事は……!」
 分かっている。迫るアンデッドをアイスレイピアで切り払い、レイチェルがそう呻く。
「貴女の気持ちは分かります。私達も一遍に肉親を全部亡くしましたから」
 だからこそ行かせられないとアヤセが言葉を重ねる。
 真摯な言葉に押されたか、レイチェルの足先は大通りを向いた。だがその視線は未だ広場の側へと向けられている。
 そんな様子を見て取り、セナが言葉を付け加えた。
「死にたいと思ってる? もしくは、大切な方を失うぐらいなら棘に身を委ねて、大切な方の仇を討つとか?」
「は?」
 それに対し、レイチェルが眉根を寄せる。少なくともそれが彼女の率直な反応だった。アンデッドと化した『彼』を追いつつも剣を持参して身を隠し、今こうして剣を振るっている理由は明白。生きたいのかと問われれば彼女は即答しただろう。
 しかし。
「……え? そう、なの?」
 返答を続け損ない、自らに問う。そもそも、死にたくなければこんな所に来る必要は無いのだ。
 刺さっていた棘を指摘され、レイチェルは傷口を開いて見つめてしまった。彼女は思わず息を呑み、流れ出る血を注視する。
「レイチェルさん!」
 自らが斬り伏せたアンデッドに目を落とし、足を止めてしまったレイチェルに声をかけ、アヤセが彼女の手を引く。
 大通りでの戦闘音に気付いたのか、広場側のアンデッドが複数こちらに向かってきている。それらに押し出されるように、三人は大通りの側へと路地を抜けた。

●目を背ける
 与えられた愛情と温もり。大切なのは、それらを抱えて生きていく事。
「貴女が絶望して、死ぬとか、闇に堕ちるとかは、本当に彼が望んだこと?」
 死に背を向けるようセナが促し、レイチェルは提示されたものに直面する。ずっと目を背けていたそれらに、彼女は。

 大通りに出た三人の前にオーラの長城が現れる。アイネアスの築いたそれは路地のアンデッドを牽制し、脇から飛び込んだルイシュが先頭の一体をナイフで貫いた。
「無事だな? ……って、何て顔だよ」
 すれ違いざまに声をかけたルイシュが思わずそう口にする。それに返答する余裕も無いのか、俯いたレイチェルの顔色は見るからに良くない。
 それを痛ましげに見たカイジュが即興の曲を奏でる。静寂の町に響く自然現象を伴う力強い歌声は、アンデッドを襲うと共にレイチェルの顔を上げさせる。
 続けてパンペリシュカの魔鍵が楽園の扉を開き、降り注ぐ陽光で彼女の傷を癒した。
 レイチェルを庇うようにして立ち回った彼等は程なく大通りのアンデッドを掃討する。戦場の半分を制圧したこの状況は、つまる帰還経路を確保したに等しい。
「さ、こちらへ」
 最後の一体を頭突きで黙らせたデージーが、冗談めかした調子でレイチェルを戦場の外れへと誘う。

 泣き笑いのような表情を浮かべて礼を言い、レイチェルはそちらへと歩を進める。
 しかし、結論を下せていない彼女は最後の一歩を前に振り返った。そして目を見開く。

●直面する
 エンドブレイカー達は『彼』を知らない。だが、レイチェルの反応を見た一同はすぐに理解した。
 朽ちてなお鮮やかな金髪と、落ち窪んでしまった切れ長の目。路地から現れたあのアンデッドがそうであると。
 真っ先に決断を下したのはルイシュだった。漆黒の刃を閃かせ、レイチェルの執着するアンデッドへと斬りかかる。しかしその切っ先を阻んだのは守りを固めた城壁、アイネアスだった。
 鋭い刃と鎚の柄が絡み、視線がぶつかる。
「邪魔するのか?」
「拙速に過ぎる」
 分からないというようにルイシュが問い、断ずるようにアイネアスが答える。
 だが問答は長くは続かない。アイネアスから一歩遅れて、ルイシュの側へと複数の氷柱が降り注ぐ。飛び退った二人の間に突き立つ氷柱を放ったのは他でもない、レイチェルだった。
「……ごめんなさい」
 苦しげに呟き、手にしたアイスレイピアを払う。鋭い切っ先から透明な雫が散った。周囲の空気が、比喩抜きに冷えていく。
「でも、お願いだから……!」
 放っておいて欲しい。『彼』に手を出さないで欲しいと訴える。
「レイチェルさんは彼のことが大好きだったんだね」
 彼女の願いに、キサラが斧を置いて応える。理解を示し、そして改めて拳を握った。
「でも、アンデッドをそのままにしておくことはできないから……」
「……ッ!」
 混乱状態にあるとは言え、元は衛兵の立場だ。レイチェルもキサラの言う理に反論できず、言葉を飲み込んだ。それでも、それでも彼女は手にしたアイスレイピアを捨てられない。
 拳を構えたキサラに向けて踏み込むレイチェル。だがその前に、デージーが間に割り込んだ。
「抑えて……や、できれば収めてくれないかな?」
「無理よ!」
 努めて軽く発せられた言葉に、レイチェルが即答する。打ち合わされた剣と爪が、辺りに軋んだ音色を響かせた。
「でも、このままだと彼は別の誰かを襲う」
 返答の語気こそ強いものだったが、頭の中の不協和音を表すように彼女の瞳は揺れている。至近距離で相対したデージーは、その目に宿る様々な色を見て取った。
 古傷を突かれたような痛みを堪えつつ、彼は言葉を重ねる。
「君の気持ち一つで、彼を罪人にしたら駄目だ」
「分かってる! 分かってるわよ!」
 軋みを挙げていたレイピアと鉤爪が離れた。数歩よろめくようにレイチェルが下がる。そう、彼女は剣を引く事が「嫌」ではなく「出来ない」と答えている。
「でもあそこで彼は立って、動いてる! 構わず帰れるわけがないでしょう!?」
 言葉にすれば他愛も無い。彼女が望んでいたものはありきたりの、都合の良い奇跡だ。子供のようだと笑われて然るべき儚い夢想。けれど少なくとも、デージーはそれを笑わなかった。
 セナのソードハープがレイチェルの剣を絡め取り、手の内から奪い取る。そして拳を固めたキサラがレイチェルへと迫り――
「引導は渡さない、棘にもとりつかせない!」
 女神の紋章を宿した拳がレイチェルの邪気を打ち貫いた。
 膝から崩れ落ちた彼女だが、その命に別状は無い。
「……僕はたった1人の命でも守りたいよ」

 虚脱状態のレイチェルに迫るアンデッドを、アヤセがサイクロンドライブで蹴散らす。さらにカイジュの即興曲とパンペリシュカの紡ぐ嵐が多くの敵を足止めする。
 アンデッドの持つ爪も歯も、彼女等に届く事はほぼありえない。
 路地を抜けて大通りに来たアンデッド達も、こうして順調にその数を減らしていた。
 そしてその最期の時は、ついに『彼』にも訪れる。
 もっとも手近にいた敵、ルイシュへと手を伸ばし、大口を開けて剥き出しにした歯を露に噛みつきにかかる。その動きは酷く単調で、その分迷いが一切見られない。
 それに気づいたルイシュは黒鵺を手に迎え撃つ構えを取り――。

 虚脱状態の中顔を上げ、やめて、と声を上げたレイチェルの前に、パンペリシュカがそっと手を差し出す。それは視線を遮る、せめてもの施しだった。
 カーテンの向こうで、噛みつきにかかった頭部に反撃の刃を打ち込まれ、そのアンデッドは動きを止めた。
 もがく様に伸ばされた腕が『彼女』の方を向いていたのは、恐らくはただの偶然だろう。

●受け入れる
 再び力の抜けてしまったレイチェルを守りながらも戦闘は続く。
 襲い来たアンデッドの爪に鎚を合わせ、アイネアスが手痛い一撃で迎え撃つ。衝撃に怯んだその個体は、セナのソードハープによって屠られた。
 そして丁寧に目に付いたアンデッドにチェイスをかけていたキサラが、最期の一体を逃がす事無く斧で仕留める。
 静寂の中で蠢く気配はようやく潰え、町は本来の姿を受け入れた。

 虚脱状態を脱したレイチェルの前に、取り上げられていたアイスレイピアが差し出される。
「選べ」
 剣を手渡し、ルイシュが問うた。
「元恋人を害した俺を憎んで死ぬか、思い出を抱いて生きるか」
 そしてそのどちらでもないなら、棘に侵され悪意を撒き散らす存在になる覚悟はあるか。
 煽っているようにも聞こえる言葉に、アイネアスが再度腰を浮かしかける。しかしそれは、レイチェル自身に視線で押し留められる。
 レイチェルはルイシュの方へと力を込めた目を戻す。
「貴方を憎むつもりはないわ」
 そう口にすると、彼女は受け取ったアイスレイピアを鞘へと戻した。
「あれは、もう」
 言葉に連れて、声がしわがれる。力を込めて抑えてきたものが彼女の両目を濡らした。
「……もう、あの人じゃなかった」
 脳裏にあるのは、ルイシュに向けて歯を剥き出しにした彼の姿だろう。静止の言葉も効果は無かった。
 直にあの様子を見てしまった以上、彼女には受け入れるしか無かったようだ。
 その様子を一歩引いて見守っていたカイジュは、傍らに横たわる『彼』へと目を落とした。
「……貴方も、或いはレイチェルさんをこの世に留めるよすがとして在ったのかも知れませんね」
 その小さな呟きを聞く者は、もうここには居ない。そしてカイジュは虚ろに開かれた亡骸の瞼を閉じさせた。
「お休みください……愛する方のためにもどうか」

 静かなる死を受け入れた亡骸達に、パンペリシュカが順に印を刻んでいく。生前の彼等を知るレイチェルの手を借りつつ祈りを捧げ、最後に『彼』の亡骸に印を刻んだ。
 パンペリシュカが『彼』の事を尋ねた時、「皆と一緒に弔ってあげて欲しい」とレイチェルは希望した。
 カイジュの奏でる葬送の曲の中、人々はゆっくりと光の粒子となり、昇っていく。
 セナとアヤセは唯一の肉親である互いと寄り添うようにしてそれを見送った。
 『彼』も徐々に光と化し音も無く空気に溶けていく。ゆっくりと、しかし形も残さず遺体は消え去り、恐らくは彼女の心に虚だけが残った。その虚を古傷と感じる者も、欠落と認識するものも居るだろう。
 止めを刺した相手の行く末を、ルイシュも静かに目で追った。
「ゆっくりで、大丈夫だから」
 一度に呑み込むのはきっと辛いだろうと、パンペリシュカは嗚咽を堪えるレイチェルの手を取り、暖めるように両手で包んだ。
 この痛みはきっとこれから先も彼女に付き纏う。
「それでもお前は、生きるべきである」
 アイネアスのかけた言葉は、力強くも厳しいものだ。
「お互いに、ね」
 けれどそれは、きっと正しいとデージーは願う。失った者を愛していても……それとも、愛しているからこそだろうか。
 レイチェルは、それらの言葉に確かに頷いた。

 アンデッドの掃討には成功した。時間はかかるかもしれないが、いつか復興作業の手はこの場所まで伸びてくるだろう。レイチェルもそれに従事するつもりだとエンドブレイカー達に語った。
「アンデッドがいない、不幸がないアクスヘイムを取り戻したいんだ……」
 決意を新たにしたキサラの視線の先で、昇った光の微かな残滓が、涼やかな風に乗って煌いた。



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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2014/03/13
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  • 怖すぎ1 
  • ハートフル3 
  • せつない6 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
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