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シャルムーン電撃戦:花色遊戯

<オープニング>

●シャルムーン電撃戦
 西方から来たる風。
 乾いた砂の、墜ちた薔薇の、そして未だ識らぬ何かの匂いを孕んだ風が吹いてくる。
 ――さあ、新たなる地への扉は開かれた。

「さあ御照覧、もう聞いてるヤツらも多いだろうが――西方都市国家調査隊の御帰還だ!」
 調査隊帰還の報せに沸き立つ旅人の酒場の一角で、沙漠の魔想紋章士・ナルセイン(cn0172)が報告書を広げてみせた。
 西方都市国家調査隊が発見した都市国家の名は、『砂月楼閣シャルムーン』。
 一年以上も前に棘の薔薇を咲かせ、今では勇者シャルムーンによる支配が着々と進められている都市国家――それが調査隊によってもたらされた情報だ。
 都市国家の中枢には人間マスカレイドが配され、放棄領域では様々なピュアリィのマスカレイドが女王として群れを従えている。他の地域にも勇者シャルムーンの手が伸びており、刻一刻と彼女の影響力は強く根深くなっているはずだ。
 そして、山斬烈槍ランスブルグでのことを識らぬ彼女ではない。
 辺境を越え、あるいは海から、エンドブレイカーが大挙して攻撃を仕掛けてくることを想定していないはずはなく、都市外に向けては警戒態勢が敷かれているという。
 ――が。
「調査隊がどうやって帰還してきたか聴いてるだろ? 世界の瞳で、だ」
 愉しげにそう告げて、ナルセインは口の端を擡げてみせた。
 魔鍵のソーンイーター・アジェンド――砂月楼閣に棘の薔薇が開花した際に、勇者シャルムーンの策略によって壊滅に追い込まれた、現地のエンドブレイカーの数少ない生き残り。
 勇者シャルムーンに対抗するレジスタンス組織のリーダー的存在である彼が代理者となることで、砂月楼閣へ世界の瞳の扉が開かれたのだ。
 つまり、辺境を渡るまでもなく、直接砂月楼閣シャルムーン内部への転移が叶う。
「で、勇者シャルムーンはまだそれに気づいていない」
 外にのみ警戒の目を向けている彼女の虚を衝き、その勢力に痛打を与えるまたとない好機だ。
 現在、世界の瞳の扉があるのは放棄領域だという。
 ならば、この機に狙うべきは。
「放棄領域に巣食って群れを従えている、ピュアリィの女王――だろ?」
 
●さきぶれ
 世界の瞳の代理者、アジェンドによれば、現在の砂月楼閣シャルムーンには『シャルムーンの民がエンドブレイカーに目覚めず、エンドブレイカーによる外部からの干渉を受けない』といった効果を持つ結界が張られているのだとか。
 随分とまぁ大仰な代物だよな、と苦笑して、ナルセインは話を続けた。
 前に薔薇が咲いた時の万能宝石エリクシルに勇者シャルムーンがそう願ったのだろう、という話もあるが、どうやって結界を張ったかはさて置き。
「この結界のポイントは――それが放棄領域を支配しているピュアリィの女王マスカレイド達によって維持されてるってとこだ」
 西方都市国家調査隊はそのうちの一体を撃破し、世界の瞳の扉を繋いだという。
 様々な女王ピュアリィ達と、女王が其々従えているピュアリィの群れ。それらは勇者シャルムーンの手勢でも最大級の戦力だが、女王以外のピュアリィはほとんど通常のピュアリィであるらしい。
「……ってことはだ、群れを丸ごと殲滅とかじゃなくて、結界を維持してる女王マスカレイドをぶっ倒すだけでも勇者シャルムーンは相当な戦力減になるってわけだ」
 群れと真っ向からぶつかるのではなく、女王マスカレイドの撃破に焦点を絞る。
 今回の作戦は――いわば女王暗殺作戦だ。
 
 世界の瞳の力によってアジェンドが知り得たピュアリィ女王の数は数十にのぼる。
 数十の女王それぞれが大きな群れを従えているわけだから、確かに侮れぬ戦力だ。
「あんた達に任せたいのは、この森に巣食っているピュアリィ――ファルファーレの女王撃破だ」
 報告書を脇に寄せたナルセインがテーブルに広げたのは、砂月楼閣の放棄領域の湖近くにある、世界の瞳の扉から件の森へ向かうための簡素な地図。
 乳白に虹色の煌き帯びた、オパール色の蝶の翅を持つピュアリィ・ファルファーレの女王が『巣』を構えているのは森の奥の小規模な砦の廃墟だ。但し、いかに小規模、いかに廃墟であるとはいえ、数多のファルファーレが群れを成して女王を護る砦となれば、まともに攻めるのは至難の業。

「けど、ちゃんとアジェンドがヤツらの隙を見つけてくれてるぜ。……ここだ」
 地図の森にナルセインの指がくるりと輪を描く。
 冬でも深い緑を湛えた森の中で、ぽっかりと開けたそこは、小さな桜色の花が咲き溢れる花園だ。
 夜明け頃、女王は必ず砦を出て、その花園に遊びにいくのだという。
 勿論配下のファルファーレ達もぞろぞろ大量についてくるのだが――。
「その花園に咲いてる花ってのが妙な花でな、夜明けの光を浴びると一斉に飛びきり甘やかな香りを放つんだが、ファルファーレ達はそれが好きで好きでたまらないらしい」
 恐らく他の土地では咲けぬ、その森特有の花だろう。
 人間にも他の生き物にもただ甘い花の香りとしか感じられないそれが、ファルファーレ達にとっては極上の美酒となる。花の香りは彼女らに快楽の園に遊ぶような恍惚感を与え、まともな思考も行動もできない状態にしてしまう。魅了でKOされた状態に近いだろうか。
「つまり、そこを狙って花園に突入し――女王を急襲してくれって話だ」
 身体能力の違いだろう、マスカレイドである女王ファルファーレと、常に女王の傍につき従っている腹心の配下二体はその香りの中でも通常の状態で応戦できるようだが、他のファルファーレ達は、
『あれ〜? 女王様が襲われてる〜』
『うふふ、んもう女王様ってば、今日もモテモテなんだから〜♪』
 なんて言いつつ花の中でころころ転がるのがせいぜいだ。その間に女王を撃破すればいい。
 但し――この夜明けの花の香りは短時間で消えてしまうもの。
 香りが薄れるに従って、転がるだけのファルファーレ達も通常の状態に戻っていく。
「時間との勝負だ。速攻で頼む」
 
 夢物語に憧れる、恋に恋する少女。
 ――といった風情のファルファーレ達は、書物、つまり魔道書を携えていることが多い。
「この群れもそうだ。女王を始め、腹心の二体も、他の雑魚達も皆魔道書を使うって話だぜ」
 女王と腹心の二体は、魔道書の技以外にも、相手に『大好き!』と抱きつく技も使ってくるという。
 そもそもは繁殖相手を誘惑するためのものだと思われるのだが、
「強力な精神攻撃である上に、自浄や術の強化や、呪いまである厄介な技なんだこれが……」
 何処か遠い目で語るナルセイン。
 確かに『大好き!』と抱きつかれて呪詛されたのではたまらない。ちなみに男女問わず効く。
 そして、花の香りが薄れれば、他の雑魚達も正気を取り戻す。
 個体差があるため大量の雑魚達が一斉に正気に返るわけではないが、正気に返った者は女王を護るため迷わず戦いに身を投じるはずだ。戦闘が長引けば長引くほど、敵の数が増えていく。
「気づけば大量のファルファーレに囲まれてた、って状態にもなりかねない」
 そんな事態を招かないためにも、目指すは短時間での女王撃破だ。
 
『砂月楼閣シャルムーンを救いたい。どうか力を貸してくれ』
 アジェンドの言葉を伝え、ナルセインは改めて同胞達を見回した。
 勇者シャルムーンの手に墜ちんとするこの都市国家を、このまま放っておくことはできない。
 みんな気持ちは同じだろ、と信頼をこめて笑い、彼は地図の上に手をついた。
「さあ御照覧、ここからが砂月楼閣シャルムーン解放の始まりだ」
 決して容易い戦いではないだろう。だが。
 吉報を待ってるぜ、とナルセインは声音に迷わぬ信を乗せた。

 ――さあ、新たなる地への扉は開かれた。


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参加者
花渫う風・モニカ(c01400)
白妃蛾・アレニア(c11117)
アップルバスカー・マニート(c13989)
木を育て歩む者・フォムルス(c16410)
トランジットパッセンジャー・ピノ(c19099)
斜陽の福音・エル(c21366)
緑青の獣・オズヴァルド(c31692)
瞬風駘蕩・キサイ(c31703)

<リプレイ>

●花色御伽
 砂漠の中に聳え立つ都市国家、砂月楼閣シャルムーン。
 真冬にも春のごとき暖かさを抱く国だが、それでも早暁となれば些か冷える。だからこそ夜明けの陽射しに強く反応するのだろう桜色の花々が、放棄領域の緑深い森の中、蕩けるように甘い香りを一斉に解き放った。
 曙光射す花園に遊ぶ蝶乙女達こそが夢物語の住人のよう。
 蝶乙女達の夢物語ではきっと御伽噺に語り継がれる勇者と敵対する私達のほうが悪者ね、なんて白妃蛾・アレニア(c11117)と花渫う風・モニカ(c01400)が悪戯な視線交わす僅かな間にも、蝶の翅持つピュアリィ、ファルファーレ達は花香に酔って次々と桜色に溺れゆく。
 数多の蝶乙女達が甘い恍惚に絡めとられた瞬間、終焉を砕く者達は一斉に花園へ突入した。
「さぁ、オレと楽しいこと、しようぜ!」
「きゃあ!?」
 森羅を渡り一気に花々越えた緑青の獣・オズヴァルド(c31692)の銀の刃に燃え上がるは神の焔、花の中から身を起こした乙女と彼女が侍る女王――胸元に仮面持つファルファーレに神火が制約を刻んだ時にはもう、蝶乙女の首元へ叩きこまれたモニカの蹴撃がその腕をも砕いていた。
 続く木を育て歩む者・フォムルス(c16410)の斜め十字の斬撃が爆ぜたのも、女王でなく腹心たる乙女のほう。真っ先に腹心一人を沈めるため初手で全員一斉攻撃を仕掛けるというのが彼らの策、だが酒場の話通りこの急襲は、花園に『突入する』ことで行われるものだ。
 即ち、移動と同時に攻撃可能な近接技と、そうでない遠距離技では機を併せることができない。
「ごめんねこんなイイ朝に無粋な真似して。逢瀬を急いた男の愚かさってことで許してもらえる?」
「勿論! せっかちさんも素敵だもの!」
 初動と同時の攻撃が無理なことには思い至っていたのにそれを皆と摺り合わせできなかったのが悔やまれる。斜陽の福音・エル(c21366)は物柔らかな笑みとは裏腹の苦い思いを呑み下し、乙女の警戒心を緩める彼の誘惑の調べを耳にしつつ瞬風駘蕩・キサイ(c31703)が撃ち込んだ手裏剣が、乙女を爆発に呑みこんだ。初撃を棍旋風にしていればこの前にも打撃を与えられたのだろうけど。
 花香に陶酔しきっていた処を急襲されては仮面憑きの女王も流石に即座の反撃はできず、全員の先制攻撃は叶ったが、初手を遠距離攻撃と定めていた面々は最初の十秒をロスした。
 一秒一秒が烈風よりも勢いよく飛び去っていく。
 エスコートよろしくね領主さま――なんて白き美女の囁きにも頷くのが精一杯。順風とは言い難い戦場の風に背筋を冷たい汗が伝うのを感じつつ、トランジットパッセンジャー・ピノ(c19099)の手から放たれたマジックマッシュが脱力の煙と幻覚で乙女を呑めば、連携を繋がれたアレニアが腹心一人撃破まで女王と腹心の片割れの牽制を担うべく、四弦震わす狂騒の音色と光で女王と腹心を熱狂の渦のかいなに抱きとめた。
「うふふ、いきなりで驚いたけど、決めたわ。貴方は私だけのもの……!」
「やぁん、女王様ずるい〜!」
 翅に浄化の燐光燈した女王達が『大好き!』と抱きついた相手は手近にいたオズヴァルド、独占欲そのものと思える呪いと無理矢理心を蕩かさんとする熱が彼を襲い、更には魔道書を開いた乙女の儀式魔術が彼を縛る。
 こっちも浄化しなきゃ、と即座にアップルバスカー・マニート(c13989)が癒しの果実を放つが、
「きゃー!? は、弾かれちゃった!!」
「この子達の呪詛侮れないんだよ、癒しは頑張るから呪詛は自力で何とかしてねオズヴァルド!」
「うおっ!? 了解だぜ!!」
 癒しを拒む呪いは必ず発現するわけではないが、発現すれば仲間の一手を完全に無にするもの。一秒をも惜しむこの戦いにおいては一手の無駄でも致命打になりかねない。
 力強く繰り返されるエルの凱歌に鼓舞されながら、オズヴァルドは斧剣の柄を強く握りこんだ。
 暴走時の使用は想定していたが、ここも爆殺斧十字の使い時だ。
 気の爆発に続いて叩きこまれる状態異常攻撃、敵の技を自浄効果のある抱擁に絞らんとする皆の策通り、フォムルスも斬撃で虚無を狙いつつ言葉で撹乱を試みる。
「悪いけど、シャルムーン様が女王の死をお望みなんだねぃ」
「何その妄想。女王様はシャルムーン様の超お気に入りなんだから」
 相手は夢見がちなピュアリィだ、『超お気に入り』という言葉を鵜呑みにするわけにはいかないが、勇者シャルムーンを盲信しているらしい彼女達にこれが撹乱にならなかったのは確か。
 虚無浴びた乙女に『変な思い込みしてるヒトも大好き!』と深く彼が抱擁されれば、
「ちょ、そっちも!?」
 緩さ帯びるエルの声音にも焦燥が滲んだ。
 他の癒し手と声を掛け合いはしても、深手のみを癒す者より皆の体力を高水準で保たんと心がける彼の負担が大きくなるのは自明の理。
 誓いを口にする余裕が常にあるわけでもなく、見る間に彼の消耗は嵩んでいく。
「うふふ、狙い目ね」
「きゃあ、せっかちさんはもうお疲れ?」
 緑煙纏った女王の魔道書から毒が溢れ、嬌声あげた乙女が飛び込む勢いで抱きつかんとしたが、彼の前に柔らかな白髪踊らせたアレニアがすべてを受けとめる。
 心蕩かす蝶の蜜。――けれど、あなたじゃダメ。
「わたしね、恋をしているの」
 陶然と笑んだ女は地獄の炎の如く身を焦がす恋紡ぎ、雪夜に春幻封じる魔道書に指を這わせた。

●花色演舞
 永遠の恋人にするかのような抱擁受けながら、皓々と神の焔燃え盛る刃を獣の牙の如く揮えば、彼を抱きしめていた蝶乙女が花園に沈んだ拍子に桜色の花が吹雪のように舞った。
「――おやすみ。いい夢、見ろよ」
 急襲からオズヴァルドの斬撃で腹心一人が力尽きるまでに六十秒強。これが速いのか遅いのかは判らなかったが、考えるより先に女王へ標的を移す。
 ――調査隊やレジスタンスの皆がくれた好機、必ず次へ繋いでみせるわ!
 砂の国という言葉が心に翳りを落とせど、夜明けの光が支えてくれる。耳元の四葉も大きく揺らして力の限りに叩きつけたマニートのマジックマッシュが派手に噴出した惑わしの煙で女王も腹心も呑み込むと同時、花園に翼のリボン翻したモニカが地を蹴った。
「今だよ、一気に囲んじゃおう!」
「ああ、包囲させてもらうぜ女王さん!」
 前衛として動ける者達で敷く女王の包囲、黒塗りに稲妻閃く棍を鋭く回してキサイも馳せれば、棍撃浴びた女王が彼を抱擁せんとしたが、棍の生み出す障壁がその寵愛を撥ねつける。
「きゃあ、素敵ねドラマティックね〜」
「熱い恋の駆け引きが始まる予感がするわ……!」
 花園のあちこちに転がる数多の乙女は花酔い冷めやらぬ風情で嬌声をあげるのみ。だが彼女らが正気に返るまでに女王を討ち果たせる保証はない。
 この面々の持ち技のうち飛び抜けた最高火力を誇るのはアレニアのヒステリックパレード、それに次ぐのがフォムルスのランバークラッシュだが、彼はそれを力を溜めた時にのみ使う奥の手と定め、女王への集中攻撃ではなく残る腹心の牽制に回っている。
 状態異常を重視した術の選択故か火力が安定しない者も少なくない。状態異常で彼女らの抱擁を誘うのは堅実な戦い方ではあるだろうが、短期決戦向きではないのだろう。
 充分なダメージを積み重ねるより先に、綻びはやってきた。
「貴方を閉じ込めて、私のものにしちゃうんだから!」
 浴びた虚無にも構わず乙女が魔道書開けば、封印の魔力が凄まじい圧力となってオズヴァルドへ襲いかかる。蒼穹の滴を抱く魔鍵でモニカが楽園を招けば芳しき香りとともに陽光が降り注いだが、それでも足りず開かんとした彼自身の心眼が、癒しを生まなかったのだ。
 心底幸せそうな笑み咲かせ、大好き、と女王がオズヴァルドを抱きしめる。
「――おやすみなさい。いい夢、見せてあげる」
 真似すん、な。
 言葉は声にならぬまま、彼の心は甘い光に塗り潰された。
 緊張感が一気に膨れ上がって飽和する。
「あるわよね?」
「勿論!」
「うん、持ってる!」
 短く言葉を交わすのはアレニアとピノにマニート。ティアキッスやティアキッスレモンの準備は万全、けれど戦いの最中に魅了を解いている余裕がないのも誰もが承知だ。
 必殺の構えから繰りだすオーラの斬撃でフォムルスが腹心を牽制した隙に、頽れたオズヴァルドの穴を埋めんとピノが地を蹴った。葡萄の古樹から抜き放たれた太刀が描くは冴ゆる偃月、肩の上から追い越していったマニートのマジックマッシュが起こした爆発に紛れ、一気に肉迫した女王に月光の斬撃浴びせれば、
「やだ、ここにも素敵なヒトが! 大好き……!」
「嬉しくなくもないけど、誰でも良い大好きには応えられないな」
 熱烈な抱擁に迎えられたけど、己だけに飛び込んできてくれる柚子色の嫁を思えば心侵す甘さも耐えきれる。今ここにもより美人で怖い女性がいるしね、とぼそり呟けば、うふふ、と背中に聴こえた笑みの主が奏でる激情の音色が波濤となってピノ越しに女王へ襲いかかった。
 けれど、その間にゆるゆると花の香りが薄れていく。
「これもしかして、やばいんじゃないかなぁ……」
 まだ寝ておいで、と花に埋もれたままくすくす笑う蝶乙女達にエルは優しく囁くけれど、今唄わねばならぬのは子守唄でなく皆の心を鼓舞する戦歌。ここは一気に決着をつけたいところだねぇと糸目を更に細めたフォムルスが、オーラの斬撃で積み重ねた力を解き放った。
 眼前の乙女のみならず女王も巻き込む勢いで、今こそ放たれるランバークラッシュ。
 だが全力全開でこの技を叩きこめば――猛然たる勢いの横薙ぎを浴びた華奢な乙女達が当然の如く吹き飛ばされる。女王の腹心は花園の端まで軽々と吹っ飛んだ。が。
「危なかったっすね!」
「包囲してて良かったぁ……!」
 斧の衝撃波に浚われかけた女王はキサイとモニカが身体で受けとめた。
 もし女王にその気があったなら、花園の端まで吹き飛ばされた途端に森へ逃げ込むだろう。
 真冬でも緑濃い森だ。身のこなしが軽く土地勘のある相手となれば、チェイストマトを当てたとしても追跡は困難を極めるに違いない。
「私を逃がしたくないなんて、可愛いヒト! 大好き……!」
 抱きとめた夢物語の住人に無邪気な笑顔で抱き返されればモニカの心も大きく揺らいだけれど。
「だめだめ! 貴方達の大好きには応えられないよ!!」
 夏空の靴に鉄をも裂く力を込めて、渾身の蹴撃で引き剥がした。

●花色遊戯
 蕩けるように甘い花の香りが、清しい朝森の香りに透きとおるように薄れていく。
 四弦から紡がれるアレニアの音色そのまま扇情的に乱舞する五光がすべてを呑めば、女王よりも先に二人目の腹心が花々の中へ頽れた。――が、更なる旋律奏でんとする彼女の後方から、突如冷たい衝撃が襲い来る。あら、と瞬く間に女の腕が石化した。
 呪いの蛇影を放ったのはそれまで花に埋もれてくすくす笑っていたファルファーレ。
「女王様は私が護るんだから……!」
「もう三分経っちゃったの!? 皆、背中合わせに!!」
 女王にマジックマッシュの脱力の煙を浴びせていたマニートが後衛の仲間に呼びかけたが、数歩の移動でも遠距離攻撃の使い手は術の集中に一手を費やさねばならない。フォムルスが正気に返った蝶乙女の牽制に回るが、その間にもまた一人の新手が魔道書を開く。
「女王様に、力を!」
「させない!!」
 書から迸った不可視の衝撃に貫かれつつ、モニカは女王の許へ繋がった魔力の路を蹴り砕いた。力を得られぬまま女王が放たんとした光は頁を繰る手に力が入らず消えたが、
「――マインドブラストね」
「そっか、いい加減ドレインに頼らなきゃヤバいってことだ」
 閃きを得たアレニアの言葉にピノが笑みを覗かせ、至近距離からマジックマッシュを叩きつけた。
 最早女王は自浄より力の吸収を優先させねばならない状態らしい。けれど流石に女王と呼ばれる存在だけあって、一度決まればその回復量はかなりのもののはず。粘られればそれだけ増援が増えこちらが包囲されてしまう。
 撤退は誰も考えていなかった。ある程度以上の数で包囲されれば恐らく逃れるすべはない。
「その前に女王を倒せるか……?」
「倒すのよ!!」
 女王と腹心以外のファルファーレ達には出来るだけ手を下したくないと考えていたキサイだったが、そもそも女王以外の相手をしている余裕自体がなさそうだ。
 眉を寄せつつ手裏剣を撃ち込むキサイに続き、両腕大回転の勢いでマニートがマジックマッシュを投げ込んでいけば、続け様の爆発の中から紫色の光の奔流が迸った。
「結構、余裕ないけど……何とか」
 女王の強烈な光線に貫かれれば、脳が灼けるような感覚に襲われた。
 意識を粉砕されそうになりながらも、エルは辛うじて戦場に踏みとどまる。
 余裕があれば一度くらいはわざと攻撃を受けてやってもいいか、なんて思っていたが――その機は作るまでもなさそうだ。唇に乗せた凱歌では足らず、他のファルファーレ達から撃ち込まれた攻撃で彼は意識を手放したが、その直前に紡いだ戦歌が癒しを広げ、背中あわせのアレニアを癒す。
「おいたはここまでよ、蝶々さん達」
 石化したままの掌中に創造の輝き燈れば途端に腕には白肌が戻り、花園から突き上げた巨人の拳が女王へ力を与えんとしていたファルファーレを殴り飛ばした。すかさず女王をマジックマッシュの深い幻覚に捉えたピノの耳に、女王の仮面に亀裂が奔る音が届く。
 同時に忙しなく魔道書の頁を繰る音、だが――こちらの連携はまだ途切れていない。
「モニカ!」
「任せて!!」
 女王の手許に魔力が凝るより、夏空の彩が鋭い光の軌跡を描くほうが速かった。
 叩きこまれた蹴撃が決まったのは女王の首元。確かな手応えに僅かに眦震えたけれど、迷わない止まらない。新たなる扉の先で降り立った地から歩みを止めずにまっすぐ進んで。
「砂月楼閣に絡む棘を――必ず、絶つんだ!」
 仮面が砕け散ると同時、夏空の靴でとんと桜色の花園へ降り立てば、蕩けるような甘い香りを淡く優しいそれに変えた花々が、涼やかな森の香りの風にさやさやと揺れた。

 この花持って帰ってみたいねぇ、と香りの薄らいだ花園にフォムルスが屈みこむ。しかし。
 自由農夫たる彼にとって、それは手慣れた作業であったが――余程環境の変化を嫌うのだろう、植木ポットに移植せんと丁寧に掘り出した途端、みるみる花は萎れ根も葉も茎も枯れ果てた。
 仮に種を手に入れたとしても、この森以外では芽吹きもすまい。
 不思議な花には不思議を抱かせたまま、この花園に咲かせておくしかないだろう。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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いまいち
参加者:8人
作成日:2014/01/24
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