ステータス画面

ゆずひよこゆずはじめ。

<オープニング>

●ゆずひよこゆずぷるり。
 白銀の雪に彩られたミルフォリ村は柚子の村。
 眩い黄の色に熟した薫り高い柚子の収穫はもうすべて終わったけれど、ミルフォリ村やその周りの柚子の果樹園、そして辺りに広がる野山には、爽やかで甘酸っぱい、心くすぐるような柚子の香りがほんのりふわふわ漂っている。冬の陽射しを浴びてきらきら光を散らす雪の原を見れば、握りこぶし大のまるくて黄色い柚子の実みたいな何かが幾つも幾つも転がっていて、柚子の香りはその黄色のまんまるからほわほわふわふわ漂ってきているらしい。
 柚子の実そっくりなそのまんまる達は雪の上をころころ転がり、ぽんぽん跳ねて、
『ぴよ?』
『ぴよ、ぴよぴよ!』
 可愛く鳴いた。
 握りこぶしサイズの黄色いまんまるの名前はゆずひよこ。
 眩い黄色の羽毛がほわほわする柚子の実みたいなまんまるボディに黒くてつぶらなちっちゃな瞳、そしてちまっと愛らしいオレンジ色の嘴がキュートな、この辺りにのみ生息する鳥だ。
 愛らしくて人懐っこいゆずひよこはミルフォリ村周辺のひとびとのアイドルで、ゆずひよこたちがその辺を転がったりびよびよ跳ねたり、ぽふっとひとの掌や肩や頭に飛び乗ってきたり、柚子の木の枝ですずなりになって柚子の実のフリをしたりしている姿は皆の心をほっこり和ませてくれる。
 柚子の実のフリをするゆずひよこたちの擬態はそれはそれは見事なもの。
 けれど彼らはほわほわの羽毛に包まれているから、ちゃんと見ればその正体は一目瞭然だ。
 だが――ここで『ハハハお前たちの擬態はお見通しだぜゆずひよこ!』とやってしまうと、すべてが台無しになってしまう。元々人懐っこいゆずひよこたちだが、もしもあなたがより深くゆずひよこと心を通わせたいと願うなら、彼らが擬態した際に次のような対応をとることをおすすめしたい。

「おお、こんなところに柚子の実がなってるぜ! ひとついただき!」
『ぴよっ!』
「うわ、柚子の実じゃなくてゆずひよこだったのか! こいつは騙されたぜ!!」
『ぴよ! ぴよぴよ!!』
 ――と、彼らの擬態に大げさに驚いてみたり。
「おかしいわ。確かにこっちに来たと思ったのに、ゆずひよこじゃなくて柚子の実しかないじゃない」
『ぴよぴよ!』
「まあ! 枝ですずなりになってたのはあなたたちだったのね! 柚子の実だとばかり思ってたわ!」
『ぴよー!!』
 ――と、彼らの擬態に思いきり感心してみたり。

 こんな風にゆずひよこたちの自尊心をくすぐってやったなら、愛らしくて人懐っこいゆずひよこたちは大喜びであなたの頭や肩や掌に飛び乗って、あなたに心を開いてくれることだろう。
 とどめにはこんな一言が効果的だ。
 
●ゆずひよこゆずはじめ。
「きゃー! 氷ゆずひよが一個増えてるー!!」
『ぴよー!!』
 陽に透かした蜂蜜色した瞳を悪戯っぽく煌かせ、雁渡の狩猟者・アンジュ(cn0037)が木の湯桶を覗いてみせれば、歓びいっぱいに一声鳴いたゆずひよこが湯桶の中から彼女に飛びついた。
 東方のお風呂で使われる木製の桶、湯桶に入っていたのは柚子の実そっくりなゆずひよこさん。
 おや、湯桶の中にゆずひよこがもう一羽――と思ったら、それは硝子の器にころんと乗せられた、ゆずひよこそっくりなまぁるい柚子シャーベットだった。
 湯桶である。東方で入浴の際などに使われる木製の桶である。
 氷ゆずひよである。真冬のこの時期にひんやり冷たくて甘酸っぱい柚子シャーベットである。
 そう、勘のよいエンドブレイカー諸氏ならもうお気づきであろう。
「あのねあのね、アンジュと一緒に、ミルフォリ村のゆずひよ温泉に氷ゆずひよを食べに行こうよ!」
『ぴよぴよ、ぴよー!!』
 今回はできたてほやほやの露天風呂へのお誘いであった。

 紫煙群塔ラッドシティの農村地域に位置する柚子の村・ミルフォリ村。
 そこに新しく施されたドローアクアで温泉が湧いたなら、やるべきことはただひとつ。
「そりゃもう当然、柚子湯だよねー!」
『ぴよー!!』
 肩からほっぺに飛びついてきたゆずひよこさんに頬ずりをして、アンジュはうきうきと続きを語る。
 新しく湧いた温泉で露天風呂がつくられたのは、なだらかな斜面に柚子の果樹園が広がる小さな山の山頂付近。見晴らしの良い場所につくられたその岩風呂ふうの露天風呂からは、今の時期だと雪に彩られたミルフォリ村やその周りの柚子の果樹園、そして辺りに広がる野山といった、のどかで綺麗な雪景色を楽しむことができる。
 湧きだす温泉は単純泉だが、そこは柚子の村・ミルフォリ村。
 露天風呂には村特産の柚子の実がたっぷり浮かべられ、飛びきり香りがよくて飛びきりあったかな柚子湯が皆を待っている。もちろん柚子の実のフリをしてお湯にぷかぷか浮いているゆずひよこ達もたくさんいる。
 そうして、雪景色を望める露天風呂で運命のゆずひよこに出逢ったなら。
 あるいは、既にらぶらぶと愛を育んでいるゆずひよこと一緒に来たなら。
「ぽかぽかの柚子湯にゆずひよこさんと一緒に浸かって、一緒にらぶらぶ氷ゆずひよを楽しむの!」
『ぴよぴよ! ぴよー!!』
 柚子湯で心も身体もぽかぽかになったなら、お湯に浮かべた湯桶の中の氷ゆずひよを匙で掬ってぱくりとひとくち。温まった身体にひんやり柚子シャーベットの冷たさと甘酸っぱさが広がったなら、
「も、極上の幸せに違いないんだよ……!」
『ぴ、ぴよ……!』
 熱くアンジュが力説すれば、その幸せを想像したらしいゆずひよこさんが感激にぷるぷるした。
 あったか柚子湯にらぶらぶ浸かって、ひんやり甘酸っぱい氷ゆずひよをらぶらぶ分けっこ。
 ゆずひよこを愛する者にとってこれ以上の温泉の楽しみ方があるだろうか! いや、ない!!
 
「んでね、これは特別なんだけど」
 雪景色を見渡せるほかほかの露天風呂で、ゆずひよこたちと幸せなひとときを過ごして。
 もしもどうしてもゆずひよこと離れがたくなったなら。
「ちゃんとゆずひよこを口説いて同意を取り付けたひとはね、一羽連れて帰っていいよって話」
 ゆずひよこと呼ばれ、愛らしくいたいけな姿をしていても、彼らはちゃんとした大人の鳥。
 勿論言葉が通じるわけではないけれど、きっと気持ちは通じるはずだから、彼らの意思を尊重して、真心こめて話してみたなら――。

 いのちのぬくもりに触れるのって幸せだもんね、とアンジュが柔らかな笑みを燈す。
「あのね、また逢おうね」
 あったか柚子湯の露天風呂で、小さな命との触れあいが胸に歓びを満たしたなら、きっと、また。


マスターからのコメントを見る
参加者
NPC:温泉ゆずひよこ系狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●ゆずひよこゆずはじめ。
 あったか柚子の香たっぷり含み、白い湯煙がほわほわ立ち込める。
 凛と透きとおった寒風が湯煙を浚えば、さあっと開けた視界いっぱいに広がる雪景色と、柚子の実たっぷりぷかぷかさせた柚子湯の露天風呂がお目見えした。
「わぁ、こんな時期なのにゆずがいっぱい!」
『ぴよ!』
『ぴよぴよ!』
 ゆずひよ混じりとわかってはいてもお約束、ポーシアが感激の声をあげたなら、柚子の実のフリしてぷかぷかしていたゆずひよこ達は大はしゃぎ。
「成程、これは和むな」
 柚子湯に肩まで浸かれば巷で噂のゆずひよこがアーサーのすぐ眼の前でぷかぷかぱしゃぱしゃ。眦緩める彼に『ゆずひよしか見てないし!』とポーシアはひっそりお冠。けれど柚子湯でぽかほかの指先で湯桶を引き寄せ、氷ゆずひよに匙を伸ばせば、
「わわっ!? 氷ゆずひよじゃなくてゆずひよこ!?」
『ぴよっ!』
 今度は本気で驚いた彼女と嬉しげに弾むゆずひよこを見遣った彼が、どっちも可愛い、なんて瞳を細めるのに気づかないのもお約束。笑みを洩らせばアーサーの手許に漂ってくる柚子ひとつ、そっと匙でつつけばそれは、くうるり回ってぴよっと鳴いた。勿論わかっちゃいたけれど、
「なにっ……ゆずひよこだっただと……!」
『ぴ……ぴよー!』
 オーバーアクションはゆずひよこの大好物。
 大袈裟に驚いてみせればぷるぷる感激したゆずひよこが、思いきり彼に飛びついてきた。
 たっぷり熱を含んだ柚子の香は、何処か切ないような懐かしいような、柑橘特有の歓びを胸一杯に満たしてくれる。二人並んで足だけそっと柚子湯に浸せば、冷えた足先に心地好い痺れが沁みて、身体の芯までじんわり温もりが昇ってきた。
 気持ち良ぇなーと蕩ける眼差しでマルベリーが見渡せば、湯には幾つも浮かぶ柚子の実達。
「し、シンティア……ゆずひよこ何処にもおれへん! 柚子しかあらへんやんかー!」
「本当だ、柚子しかないようだね」
 明らかにふわふわした柚子に瞳を細めつつシンティアも小首を傾げ、爽やかな香りだね、と手近な柚子を手に取ればそれは勿論ふかふかの、
「おや驚いた。こんな近くに隠れていたんだね、ゆずひよこ」
『ぴよ!』
「うや、ほんまや!」
 気付かへんかったーとマルベリーが嘴を擽ればぴよぴよと恥じらうゆずひよこ、けれどシンティアが一緒に歌ってくれるかなと誘えば、楽しげな二人の唄声に可愛いさえずりが混じって弾む。
「かくれんぼ上手で可愛えゆずひよさん、うちと一緒に毎日楽しく過ごさへん?」
『ぴよぴよ、ぴよー!』
 口説けば勿論、ご機嫌なお返事ひとつ。
 ほかほか柚子湯で足湯を楽しみながら味わう氷ゆずひよは、火照った身体に冷たい甘酸っぱさを心地好く染み渡らせる。両方満喫しながらミナが見つめる湯は柚子色まんまるでいっぱいで、
「……で、どれがひよこだ?」
「ええ見分け方があるやないの」
 思わず呟き落とせば、まったり肩まで湯に浸かったティスカが手にした柚子を甘噛みしてみせた。
 するとまんまるは、
『ぴよっ!』
 一声鳴いて、少女の手からぱしゃんと柚子湯に逃走。
 柚子の実擬態に誇りを持つゆずひよこは二人が『ひよこ』としか呼ばないのにご機嫌斜めな様子。足で転がそうとする少年に懐くゆずひよこもいなかった。足で愛と真心を伝えるのは至難の業だ。
 愛と真心を伝えるのは簡単だけれど難しい。
 身をもって識るブラッドリーは足だけ柚子湯にゆうるり浸して、ゆずひよこがいると聞いたのだけれど柚子ばかりね、と湯の中で辺りを見回すローズメリアと笑み交わす。ひとつ手にとってみようかと其々傍の柚子を掬えば、それはふわふわの羽毛でぷるっと柚子の香の雫を弾いたまんまるの、
「わっ! これゆずじゃなくて、ゆずひよこさんだった!?」
『ぴよ!』
「あら、柚子だと思ったら、可愛いひよこさんだったのね? すっかり思い違いをしてしまったわ」
『ぴよー!』
 結構本気で驚いた二人の掌で嬉しげにゆずひよこが弾めば、ふわんと広がる柚子の香にいっそう目元が和む。君とても可愛いね、と微笑みかけたブラッドリーが口説けば、
「ここの温泉程ではないけれど、いいお風呂が家にあるんだ。入りにこない……?」
『ぴ、ぴよ!!』
「貴方も温泉が好きなの? よかったら私と一緒に来ない? 温泉巡りの連れが欲しいのよ」
『ぴよぴよ!!』
 ふんわりしっとり風呂上がりなゆずひよこの感触に瞳を細めたローズメリアも口説き文句を囁いた。風呂と温泉で見事口説き落とされたゆずひよこ達が一番歓んだのは、こんな二人の言葉。
 ――良かったら、家族になろう?
 たっぷり柚子の実浮かんだ露天風呂は壮観で、ピノの嫁もばっちり柚子に紛れてしまう。けれど、
「必ずキミを見つけ出す、出すけども! 僕が寂しくて困るからっ!!」
 ――そばにいてもらえると嬉しいな。
『ぴー!』
 優しく呼べば、ひときわ眩いゆずひよこがまっすぐ胸に飛びこんできた。
 ティルムシュタットの家にも柚子の樹を植えようか、なんて囁けばぴよぴよ弾む嫁も今や領主夫人、だけど彼女は己が根無し草だった頃にお嫁にきてくれた、いわば糟糠の妻だから。
「――ありがとね」
『ぴよー!』
 さあ、他にはどんな果樹を植えようか。

●ゆずひよこゆずごおり。
 岩に頭を凭せかけ、暖かな湯に手足を伸ばせば、鎧から解放された身体の奥からじんわり疲労も緊張も蕩けてゆく。ふわりと湯を撫でた風が運ぶは風花ならぬ柚子の雫、甘酸っぱい香りにフランがふと傍らの柚子に手を伸ばせば、
「……おや、柚子が浮かんでると思ったらゆずひよこじゃないか」
『ぴよっ!』
 ふわふわまんまるが嬉しげに跳ねた。
 きらきら氷ゆずひよを匙で掬って運んでやれば、いそいそ啄ばむ小さな嘴。ぴよっと弾む小さな羽に促され、一緒に食べれば冷たい幸せが甘酸っぱく染み渡る。
 ――今度またデートしようなぁ。
 雪景色を眺めつつ浸かるゆずひよ温泉は、ランシェに甘美な幸せを齎した。瞳を細めれば眼の前にぷかぷか漂うまぁるい輝き、お日様みたいな輝きについ手を伸ばせば、
「ゆずひよさんでしたか! ますます磨きがかかった柚子っぷり、流石です!」
『ぴよぴよ!』
 しっとり姿も愛らしい彼のゆずひよこが掌でぴよぴよ回る。
 ゆずひよ愛の結晶たる氷ゆずひよの、冷たくて、けれど温かな幸せ分け合ったなら目を合わせ、
 ――今年も共に歩みましょうね。
「わーんわたしのゆずひよこがどこかに行っちゃった!」
『ぴ、ぴよ! ぴよぴよ!』
 涙ぐみながらヴリーズィが柚子湯を見回せば、彼女のゆずひよこが慌てた様子で飛びついてきた。氷ゆずひよをご馳走しちゃうんだからね! と差しだす匙には甘酸っぱい輝きがきらきら跳ねる。
 冷たい幸せ分け合えば、咲くのはあたたかな愛おしさ。
 大好きだよ、と小さな嘴にキスをして、
「あのね、わたしのゆずひよこはね――」
「あはは、だってそれが可愛いもんね!」
 内緒話を耳打ちすれば、温泉ゆずひよこ系狩猟者・アンジュ(cn0037)との間にも笑みが咲いた。
 愛するゆずっことの里帰りを果たしたなら、やるべきことはただひとつ!
 湯桶を覗けばひとつ増えた氷ゆずひよがぷるぷるしてたから、
「あれ? どっちがゆずっこ? むしろゆずっこどこー?」
『ぴよぴよ、ぴよー!』
 全然わからないなぁ、なんてユウがきょろきょろして見せれば大感激で飛びついてくるゆずひよこ。きらきらの氷ゆずひよ分け合えば、ひんやり甘酸っぱい幸せ感じて一緒にぷるぷるしちゃったり。
 ああ、この為に生きてるって感じ!
 氷ゆずひよ擬態でも世界一を目指すシアとピヨルン、そしてミルフォリ村の新名物も制覇せんとするフィーナとゆずぽんは柚子湯をたっぷり満喫。けれど、たまにはお互いのゆずひよこと交流を、なんて思えばちょっと大変なことになった。
 氷ゆずひよを落としたかと思ってさ、とシアがゆずぽんを掬い、
「フィーナの所に戻るか? それともこれを一緒に食べるか?」
『ぴよ……!』
『ぴよっ!? ぴーよー!!』
 ゆずひよ用ちびスプーンで掬った氷ゆずひよで誘惑すれば湯桶の中で擬態したピヨルンが大騒ぎ。いつの間にか増えてるわ、と声を弾ませたフィーナが擬態中のピヨルンを掌に乗せ、
「あれ、温かい!? ってことは、ピヨルンねっ?」
『ぴよ!』
『ぴ、ぴよー! ぴよぴよ!!』
 氷ゆずひよを一緒に食べるわよと誘えば、『だ、だめー!』とばかりにゆずぽんが飛びついてきた。何だかんだでやきもちやきのゆずひよこ達。
 けれどそれも、愛ゆえなのです。
 氷ゆずひよをひと匙含めばたちまち広がる明るい甘酸っぱさ。柑橘はみんなお日様っぽいけれど、柚子は冬のお日様みたいな優しさいっぱい。
 そういえば、このいっぱいの柚子の実の中にどれだけのゆずひよが、と両腕いっぱいにルスランが柚子を掬い寄せれば、
『ぴよっ!』
『ぴよぴよ!』
 腕の中でぴよぴよ弾むゆずひよこ達。
「全然見分けがつきませんでした……!」
『ぴよー!』
 本気で驚けば大いに歓ばれたけど、ハーレムは許されないのがもてる男の辛いところ。
 たっぷりの柚子湯に身を沈め、深呼吸すれば切ないくらいの柑橘の幸せで胸いっぱい。
 このまま氷ゆずひよなんて、とっても贅沢……とゼルディアがうっとり瞳を緩めれば、
「あら? 氷ゆずひよが増えてる? なーんて思ったらお婿さんじゃない!」
『ぴよぴよっ!』
 可愛い婿が飛び込んできたから、ぱくんと食べるようなキスひとつ。
 ちゅっと啄ばみ返してくれる彼の香りは、大好きな柑橘の香りの中でも取っておきだから。
「いつも元気を分けてくれてありがとう」
 ――今年もどうぞよろしくね。
 露天の柚子湯から望むのは雪化粧に彩られた山野。
 あれは以前遊んだ沢かと雪景色を眺めるゼロは、ゆずひよこの威を借る白虎だ。称号の話です。
 湯桶に手を伸ばせば、
「氷ゆずひよが……二つ? って、タイガか」
『ぴよっ!』
 中で元気に跳ねるゆずひよこ。冷たい煌き分け合えば、甘酸っぱさの奥に潜むほろ苦さも火照った身体に爽やかに染み渡っていく。こんな日くらいは戦いのことも忘れ、
「俺様の隣にいてくれて有難う。これからもよろしく頼むな?」
『ぴよー!』
 心に温もり燈る、幸せを。

●ゆずひよこゆずぷるり。
 柚子湯に浮かぶ湯桶には氷ゆずひよと玩具のゆずひよこ。覗けば勿論ぷるぷる増えていて、
「おや、一つ増えてる? 氷ゆずひよかな? それともぷかぷかゆずひよかな?」
「って言ってるうちにもういっこ増えたんだよ!」
『ぴよぴよ!』
『ぴよー!』
 緩む頬を堪えて惚けるハルネスにアンジュが合わせれば、嬉しげに飛びついてくるゆずひよこ達。愛を確かめ合うのは最早おうちでも日課、
「私達、今日もらぶらぶだね!」
「明日はもっとらぶらぶだよ!」
 氷ゆずひよをらぶらぶ分けっこしつつ存分に頬を緩めれば、ゆずひよこさんをかぷっとしていた娘が緩んだ彼の頬もかぷっと齧った。温泉とゆずひよ愛で身体も心もしっとりぽかぽか。
 さあ、帰りは鍋滑りで競争しよっか?
 柚子湯でたっぷり温もればアストライアの白い指も薔薇の色。ぷかぷか漂ってきた柚子を薔薇色の指で撫でれば、くるんと振り返ったゆずひよこがぴよっと鳴いた。
 ほら、と勧められるままカインツも撫でてみれば、指の下でくるくる回るゆずひよこ。こういうことには不器用なんだが、と呟けば、
「カインツ様は撫でるのがとても上手ですからね、それは私が保証しますよっ」
「そこまで言ってもらえるのなら……安心できるな」
 華奢な手でぐっと拳を握って主張され、自ずと零れる穏やかな笑み。
 確かにゆずひよこも心地好さげで、次は私もと寄り添ってきたアストライアを抱き寄せ髪を撫でれば彼女も幸せそうに瞳を細めた。
「愛してます、大好きですよ」
「私も愛している。……幸せ者だ、私は」
 心から愛せる相手に出逢えたこと。
 それは、世界でここだけにしかいないゆずひよこ達にめぐり逢う以上の、飛びきりの奇跡。
 大切なひととはいえ、二人一緒の混浴は中々慣れないもの。
 けれど温泉に浮かんだ柚子の実の間にかくれんぼしてるゆずひよこ達を一緒に眺めれば、自然と緊張も解れてきた。試しにまんまるひとつヴィーネが掬えばそれはしっとりふかふかの、
「ふわ! ゆずひよこさん!? 見間違いそうなくらい静かにしてるんですもの……!!」
「とても大人しいでござ――って、すごく元気でござるよ!?」
『ぴよぴよ、ぴよー!』
 直前までじっとぷるぷるしていたゆずひよこがぴよぴよ跳ねれば思わずエクサの声も跳ね、二人で顔を見合わせ弾けるように笑いあう。
 ゆずひよことも一緒に帰りたくなるけれど、それは口説き文句を思いついた時のお楽しみ。
 柚子湯の香りと温もりに眦緩め、岩に背を預けようとすればそこには柚子色ひとつ。
「ゆずひよこ……?」
 ――願望だけで間違って柚子に話しかけてるとかないよな?
 なんてティベリアの胸をよぎった不安に気づいてか、掬いあげられたゆずひよこはぴよっと鳴いた。たっぷり撫でて甘やかせば、肩や頭で嬉しげに弾むゆずひよこの命の温もりに心が和む。
「……うちに来るか?」
『ぴよ!』
 迷わぬ返事に、自嘲しかけた彼女の心も決まった。
 柚子湯に浸かった途端に姿を消したゆずひよ二羽。
 さて何処いったとヴフマルが見回せば、鎖蔦でくるり巻いた連れの黒髪に挿された枝に柚子二つ。
「こりゃまた風流っすね」
「ん? 風流って何が……って、いつの間にゆずの実が実ったんだか」
『ぴよっ!』
『ぴよぴよ!』
 やっぱりだ。
 ちょいと重いと思ったら、とオニクスが触れれば嬉しげにぷるぷるする柚子の実達。
 優しくもげばゆずひよこは手の中でぴよぴよ回り、嘴を擽って誘えば、
「ほらほら、そんなとこでゆずの真似するよかさ、湯の上でコロコロ混ざる方が楽しいぜ」
『ぴよ! ぴよぴよ!』
 楽しげにオニクスの傍の湯へ転がり落ちた。
 頬にかかる雫に破顔したヴフマルが周りの柚子を寄せ集め、
「あったかいぞーきもちいぞー。おいで、一緒にたっぷりあったまろう」
『ぴよぴよ、ぴよー!』
 なんて招けば彼のゆずひよこも元気にダイブ。
 たっぷり戯れればきっとのぼせてしまうけど、ちゃんと氷ゆずひよの幸せが待っている。
 雪の世界の柚子湯に柚子シャーベット、そして愛する旦那様……と蕩ける瞳で見遣ったら、忽然と消えたフェイランの旦那様。慌てて探せば柚子に紛れてぷかぷかする彼と目が合って、
「もうっ、もうっ、また騙されてしまったのよっ。悔しいからキスの刑ー!」
『ぴよぴよ、ぴよー!』
 ふわふわおでこにいっぱいキスを降らせれば、ほっぺにちっちゃな嘴のキスの雨。
 思いきりらぶらぶしたなら柚子湯で一緒に羽を伸ばし、
「ね、お名前付けるのはもう少し待っててね」
『ぴよ!』
 飛びきり素敵な贈り物の約束ひとつ。
 ――大好きよ。いつも私の傍に居てくれて、ありがとう。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:27人
作成日:2014/02/03
  • 得票数:
  • ハートフル7 
  • ロマンティック1 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。