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華麗なる開幕

<オープニング>

●華麗なる開幕
 山斬烈槍ランスブルグは第二階層・鉄壁街。
 ありとあらゆる娯楽が絢爛と花開き、華やぎ満ち溢れるその一角で、今日も舞台の幕が上がる。
 天槍輝く空が雲一つなく晴れ渡るその日、劇団『凱旋クリント号』は輝かしい晴れの日を迎えた。
 ――否、迎えるはずだった。

 第三階層・石壁の街のすみっこの長閑な街で、中古の幌馬車一つから旗揚げした小さな劇団は、長い下積みの時を経て、ついに第二階層・鉄壁街への進出に漕ぎつけたのだ。
 金はなくとも友にも仲間にも恵まれた劇団『凱旋クリント号』の団長兼演出家・テランは熱い感激に打ち震えながらこの日の朝を迎えた。
 鉄壁街での公演に向けて金策に走り回った日々、やっと金が何とかなったと思ったら大きな戦いが起こったり第二階層と第三階層が分断されたりしちゃった衝撃の日々。そんな日々に流した悔し涙は数知れず、けれどそれも、この清々しい朝の光に洗われる。
 今日はやっと迎えた鉄壁街での公演初日。
 豪華な舞台装置なんてないけれど、ボクには自慢の仲間達がいる。誰にも負けないみんなの熱い想いと勢いできっと観客を魅せて沸かせて、鳴りやまぬ万雷の拍手とカーテンコールを浴びることができるはず……!
 ――だったのだが、劇団『凱旋クリント号』の初公演は早々につまづいた。
 開演の時間になっても劇場にやって来ない役者やスタッフが続出したのである。

 劇場との契約の関係で時間を遅らせることもできず、無情にも舞台の幕が上がる。
 団長にして演出家のテランは、舞台袖から仲間の奮闘を見守ることしかできなかった。
 ――ああ!
 魔法使いが主人公を変身させるシーンをヒステリックパレードの光で演出してくれるはずだった竪琴使いがどうして今ここにいないんだ。それから、あの日悩んでいたボクに『嵐の海での決闘シーンは俺の鳴神演舞で演出してみせますよ』って見せてくれた優しい微笑みは嘘だったのか扇使い!
 そして昨日『フッ、僕の薔薇の剣戟で観客をも魅了してみせるサ』とか言って白い歯をキラッ☆ とかさせてたくせに、何でお前まで来てないんだよ魔法剣士A(役名)!!
 相手役のお前がいないせいで見えない敵とエア戦闘な一人芝居をさせられて、その挙句、

『ハハッ! どうだい僕の華麗な薔薇の味は!?』
「こんな軽薄な剣など――って、ぬ、ぬおお! おぬし、なかなかやるな!」
『フフフ、僕も恐ろしいよ……神をも恐れぬ己の美しさがね!!』

 ――みたいな感じでお前の分の台詞まで言わされる羽目になった城塞騎士A(役名。質実剛健で筋骨隆々タイプの五十代)の気持ちも考えろよ!!
 彼は胃をキリキリさせながら、舞台袖の暗幕を握りしめてギリギリと絞りあげた。雑巾みたいに。

 役者も演出要員も足りない中で劇団員達は奮闘した。
 だが結局、劇団『凱旋クリント号』の鉄壁街初公演は惨々たるものに終わる。
 ああ、夢にまで見た鉄壁街初公演が。華々しい拍手喝采で飾られるはずだった舞台が。
「あいつら本当は、こうやって舞台を台無しにするつもりだったんだな!」
 固い絆で結ばれた仲間だと信じていたのに。
「うわああん! 何もかも終わりだ!! みんなみんな死んじゃえばいいんだー!!!」
 
●さきがけ
 正装した観客達が華やかにさざめく大劇場で、豪華絢爛たる歌劇に酔うのもいい。
 だが、舞台に置いた何の変哲もないみかん箱を使い回し、
『ここに荒野の岩がある!』
『おお、これぞ黄金と緋色の天鵞絨に彩られた皇帝の玉座……!』
 と言い張る、もとい、力強い演技力で観客にもそうと思わせるような、貧乏だけど熱い想いと意欲と勢いは誰にも負けないよ的な小劇団の舞台は、
「その熱さと、舞台と客席の近さゆえの役者と観客の一体感がたまらないよな」
 ランスブルグの鉄壁街で起こる悲劇の終焉を語った沙漠の魔想紋章士・ナルセイン(cn0172)は、銀の眼差しを緩めてそう続けた。
 劇団『凱旋クリント号』はもちろん後者のタイプである。
 慣れぬ金策に奔走し、棘の薔薇の開花や大きな戦いなど激動の情勢に翻弄されたストレスフルな日々の間に、団長兼演出家のテランの心に棘が忍び寄ってしまったのだろう。そうして公演の失敗で感情を爆発させたことにより、彼はマスカレイドとなってしまうのだ。
 だが、今ならまだテランを救うことができる――とナルセインは断言した。
「力を貸してくれ。俺達で悲劇のすべてを覆してこようぜ」
 
 開演に間に合わなかった役者もスタッフも、誰も悪意はなかったのだ。
 劇場に向かう途中でひったくりに竪琴を奪われたり、道に迷った様子のお年寄りに親切にしたところ『うちの孫娘のムコになって欲しいんじゃあああ!』とがっちりホールドされてしまったり、二股ならぬ四股交際が発覚して四人の彼女の修羅場に巻き込まれ、
『舞台と私達とどっちが大事なのよ!!』
 と定番の台詞で詰め寄られたりと、不幸な偶然が重なっただけだったのだ。
 だが『これこれこういうわけなんだよ!』とテランに説明したとしても、結局初公演が失敗に終わったなら『そうか! これはボクらの鉄壁街進出を快く思わない大手劇団の妨害工作だったんだ!!』と怒りの矛先が変わるだけのこと。何せテランは棘のせいで著しく情緒不安定なのである。
 だから説明や説得は後回し。まずは舞台を成功させることが肝心だ。
 不幸な災難に遭った役者やスタッフ達を探して連れて来る余裕はない――となれば。
「ここはもう、俺達で舞台を成功させるしかないよな?」

 つまりこうだ!
 開演時間になっても役者やスタッフが揃わない、とテランが青くなっているところへ、
『話は聞かせてもらった!!』
 と皆でばーんと登場するのだ!!
 そして役者や演出要員が足りない分を自分達で補い、熱い想いと意欲と勢いと自慢のアビリティで舞台を盛り上げ観客達をとりこにし、鳴りやまぬ万雷の拍手とカーテンコールを浴びるのだ!
「幸い、この劇団はアドリブが飛び交い公演中にも毎日演出が変わるってのが売りらしい」
 多少好き勝手にしても、舞台が盛り上がるならテランも喜ぶはず。

『俺が魔法使い役になってレインボースラッシュで魔法を演出するぜ!』
『このシーン城壁があるとカッコいいんじゃね? 俺の不動城壁で魅せてやる!』
『嵐の海じゃなくて吹雪の中の決闘にしよう。演出は僕のウインターコールに任せて!』
『魔法剣士Aの代わりに、ランスブルグ市民の憧れ・天誓騎士たる私が戦闘シーンを演じるわ!』
 
 こんな熱い想いと意欲と勢いと自慢のアビリティで舞台を盛り上げ、成功させることができたなら、万雷の拍手とカーテンコールの間に舞台裏で『実はこれこれこういうわけなんだよ!』と彼に説明し、テランに拒絶された棘が拒絶体マスカレイドとして表面化したところでボコボコにすればいい。
「一般人には脅威だが、俺達エンドブレイカー皆でかかれば簡単に倒せる相手だ」
 他の役者達がカーテンコールに応えている間に戦いは終わるだろう。
 戦って拒絶体マスカレイドを倒せば、テランを無傷で取り戻すことができる。
 
 どうにかして手に入れてきたらしい公演の脚本をテーブルに広げ、男は腕も広げてみせた。
「さあ御照覧、劇団『凱旋クリント号』の門出がどうなるかは俺達の肩にかかってる」
 鳴りやまぬ万雷の拍手とカーテンコールを浴びせてやろうぜ――とナルセインは同胞達に愉しげな笑みを向けた。


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参加者
紅き玻璃と舞う・エレノア(c04817)
踊る光影・ロゼリア(c05854)
陽凰姫・ゼルディア(c07051)
勿忘草・ヴリーズィ(c10269)
幸せを運ぶ唄・ヒカタ(c11770)
黒竜・イングリート(c14479)
匂紫・シンティア(c33870)

NPC:沙漠の魔想紋章士・ナルセイン(cn0172)

<リプレイ>

●華麗なる開幕
 眩く煌々と照らされた舞台とは対照的に、舞台袖は闇に包まれていた。
 いや実際は薄暗い程度なのだが、役者やスタッフが揃わないと青ざめている劇団『凱旋クリント号』団長兼演出家・テランの胸中そのままの暗欝たる雰囲気が辺りを支配しているのだ。
「案ずるなテラン殿、舞台は必ず成功する」
 発芽寸前の棘を抱えた男に笑んだのは、『話は聞かせてもらった!!』と現れた救世主達の一人、黒竜・イングリート(c14479)。
 思い起こすのは昔観た舞台の記憶だ。
 舞台奥を薄暗くし、ただ光の加減と役者の迫真の演技で壮大な洞窟の物語世界を創りあげていたそれは、今の状況によく重なりあう。
 自分達の演出に合った大道具どころか小道具を準備する余裕もなく、衣装や道具として使えるのは各々が予め身に着けていたもののみ。
 後は――熱い想いと意欲と勢いと自慢のアビリティが我らの武器だ!
「けど、それが燃えるね!」
 代役でぶっつけ本番、しかもアドリブどんと来いとなればプロのエンターテイナーとしての血が騒ぐ。幸せを運ぶ唄・ヒカタ(c11770)の前髪の間に覗く瞳が挑戦的に煌く様に匂紫・シンティア(c33870)と陽凰姫・ゼルディア(c07051)は笑み交わし、袖から舞台に向けて其々の演出を解き放った。
 黎明の花が奏でる竪琴の音色、陽の鳥が唄う切々とした調べが舞台を冬の世界へ彩っていく。
 なお、誘惑魔曲がみかん箱を誘惑中なのはお約束!
 観客達が美しくも寒々しい樹氷の森を思い描いた舞台で、勿忘草・ヴリーズィ(c10269)が腰掛けた切り株(みかん箱)から颯爽と立ち上がって手を伸べた。
 穏やかさに凛々しさ覗く立ち居振る舞いが、彼女を中性的な雰囲気の青年に見せる。
 春を求める主人公だ。
「さあ行こう! この冬の世界に春を齎す春の女神様を目覚めさせにさ!」
「危険よ――って言ったって聞かないのよね。いいわ、私もついていく!」
 困難な旅への怖れ、ヴリーズィ(役名)への恋情。揺れる心を見事声音に映し、冬の光のごとく儚い雪薔薇(レースのヴェールで急遽作成)を抱いた踊る光影・ロゼリア(c05854)が彼の手を取った。
 ――瞬間。
 謎の青年剣士こと紅き玻璃と舞う・エレノア(c04817)が二人の前に立ち塞がる。
「君達のような力なき者に、そんな使命が務まるのかい? その栄誉は僕が貰うよ」
 こんなこともあろうかと男物の衣装と厚底靴をばっちり身に着けていた彼女の青年剣士っぷりは、実に堂に入ったもの。水晶よりも美しく氷よりも儚い硝子の剣を創りだしたエレノア(役名)が冬森の大地を蹴ると同時、舞台袖のシンティアが勇壮な戦歌で世界を包みこんだ。
 戦歌に乗せてロゼリア(役名)が風に乗って放つのは華麗にスピンを利かせた連続蹴り、冷たく煌く剣で凌いだ青年剣士は凛冽な剣閃で春を求める青年に挑む。
「この剣、美しいだろう? 君が負けを認めたら、もっとよく見せてあげられるのにな」
「僕の剣も美しいよ。故郷の雪を映す剣だからね!」
 透きとおる輝きの軌跡を生む斬撃を受けたヴリーズィ(役名)の剣は粉雪纏うスノウレイピア、氷の楽器奏でるような剣戟を制した彼が氷華を散らせば、剣士の剣からも硝子が散る。
 雪めいた硝子片が降る中で明かされたのは、剣士の本当の心。
「……すまない。僕は嘘をついた。最初から、君達の力を試すつもりだったんだ」
 ――僕の力を君達に貸そう。この先決して、裏切ったりはしないよ。
 美しい剣戟、そして戦いを経て生まれた友情に観客達からほうと溜息が洩れる。
 女性の男役ってコアな層に熱狂的にうけるのよね、的なエレノア姐さんの計算もばっちりです!
 旅の間に絆を深めながら、三人は樹氷の森を越える。
 だが、森を抜けた彼らは北風の洗礼を浴びた!
 雪花(照明に煌く埃)を巻き上げる寒風が荒れ狂った次の瞬間、北風の奥から生まれた鋼の竜が背筋も凍るような咆哮で世界を引き裂かんとする!(みかん箱が暴走! しかし誰も気づかない!)
「これしきで、僕らの希望は揺らいだりしない!」
 ――こんな敵、脚本にあったっけ!?
 敢然と立ち向かいながら胸中で首を傾げるヴリーズィ。
 けれど舞台袖に橄欖石の瞳を悪戯っぽく煌かせる運び屋を見つければ疑問は氷解、見知った姿に胸躍らせたロゼリアも竜へと挑む。
「私ね、風と月が呼べるのよ。さあ踊りましょう?」
 雪薔薇を手に己が風と舞った娘が竜(に呑まれたみかん箱)へ叩き込むのは、蒼き月に照らされた旋風の蹴り。北風の竜が砕け散ると同時、月の光がヴリーズィ(役名)を癒した。(癒しの月の実技は沙漠の魔想紋章士・ナルセイン(cn0172)が担当しました)
「ロゼリア(役名)! いつの間にそんな技を……!?」
「だって、どうしても貴方を助けたくて!!」
 彼女の健気さが観客の心を打つ。
 実は月光は雪薔薇に込められた借り物の術、いずれ尽きると識るのは彼女と観客のみ!
 そうとも知らず希望に胸高鳴らせる青年として前へ進めば、ヴリーズィの胸に光が咲いた。
 ――ああ、やっぱり演じるのって楽しい!

●華麗なる帷幕
 樹氷の森と凍土の荒野を越えた彼らが次に臨んだのは、荒ぶる嵐の海での決闘だ。
 金髪の天誓騎士が操る雷撃が幾重にも分裂して嵐の海を演出する中、舞台袖では。
 舞台の稲妻を背にしたエレノア(決闘を見守るため舞台袖に退きました)に脅さ、もとい要請され、
「……ナルセインさんも出演するのよ。いいわね?」
「へい姐御、合点だ」
「ナルセイン君キャラ変わってるキャラ変わってる」
 冒険商人がさくっと長いものに巻かれていた。
 魔法のスティック片手にボイスパフォーマンスで嵐の雷鳴を演出しながらゼルディアが突っ込めば、傍らのシンティアが微かな笑みを洩らす。近づく出番に緊張を募らせていたらしい。
「ナルセ、ちょっと自信を分けてくれ」
「勿論。好きなだけ持っていけばいいさ」
 キャラが戻ったらしい様子に眦を緩めたイングリートは舞台へ視線を移し、厳めしい哨戒塔を備えた不動城壁を(みかん箱の周りに)築きあげた。
 この城こそは!
「何? 魔王様からお預かりした春の種を奪おうって輩が、この『不敗城塞』に攻めて来たって?」
 輝く城壁を背景に、裾にもヴェールにもたっぷり布を使った舞台衣装をばさぁと派手に翻した魔王の手下その1・ヒカタ(役名)が護る不敗城塞!!
「獣ども! 氷の牙を奴らの喉に突き立てろ!!」
 そうして、春を齎そうなんて戯言を二度と言えなくしてやれ――!!
 フハハハとばっちり悪役じみた哄笑響かせた男が竪琴をかき鳴らせば、たちまち現れた幻獣達が三人(の足元のみかん箱)へ躍りかかった。だが彼らもそう簡単に蹂躙されはしない!
「ハッ! そんな牙を僕の友に触れさせるわけにはいかないね!」
 硝子の剣をキラッ☆ と煌かせたエレノア(役名)が獣を斬り裂き路を拓けば、ヴリーズィ(役名)が雪の刃を手にヒカタ(役名)へ馳せる。
 息もつかせぬ攻防に決着をつけたのは、雪の刃が(みかん箱に)描きだした朱の氷華。
 しかし。
「春の種、もらっていくよ」
「ここまでか……だが、お前らも道連れだ!!」
 膝をついた魔王の手下が持つ春の種(ヒカタが身に着けていた虹入り黒曜石)に春を求める青年が手を伸ばした瞬間、スキャンダラスにセンセーショナルに(みかん箱の周囲で)大爆発が起きた!! つまりゴッドパフォーマンスです。
「だめ……! 絶対死なせない!!」
 悲痛なロゼリア(役名)の叫びと共に降り注いだ月光で青年は一命をとりとめる。
 だが、雪薔薇の花弁が一枚はらりと落ちた(レースがほどけたよ!)。
 ――ああどうか、旅の終わりまで消えないで……!
 壮絶なヒカタ(役名)の爆死とロゼリア(役名)の切なる願いで観客達の胸をきゅうんと締めつけて、物語は終幕へ加速していく。
「ここが、春の女神が眠る魔王の居城……!」
 万感篭もった声音が舞台に響けば、再び顕現する不動城壁。
 二重城壁の金剛門を潜った三人が庭園へ足を踏み入れれば、中央に佇む漆黒の女が振り返る。黒きウィズローブのフードを払えばふわり広がる焔のごとき髪。
「ようこそ愚かで哀れな勇者様。永遠に鎖された冬の国へ」
 蠱惑の笑み湛えた紅唇から唄うような言の葉紡ぎ、魔王の手下その2・シンティア(役名)は両手を広げて彼らを迎え入れた。
 ここは永遠の園。
 全ては氷の下で眠り続け、何ひとつ欠けることも失われることもない。
「それこそが永遠であり幸せ。一体何の不満がありましょう?」
 ……ねぇ、魔王様?
 流し目送れば、舞台袖から底冷えするような声音が朗々と響き渡る。
「――来たか。流石だと言っておこう」
 刹那、天高く跳躍した魔王イングリート(役名)が黒き飛龍のごとく舞い降りた。
 飛龍の力(ワイバーングレイブ)持つ魔王が降臨した、ただそれだけで、庭園の巨石(みかん箱)が砕け散る……!!
「だが、ここまでだ。届かぬ願いを抱いたまま、花を手向けに朽ち果てるがいい!」
 漆黒の全身鎧に身を包む彼女はまさに黒竜王とでも呼ぶべき魔王!
 しかしイングリートの意を汲んだ舞台袖のゼルディアが扇の舞ひとひらで桜花の風を送れば、
「ああ、やっぱり春の女神はここにいるんだね……!」
 気圧されかけた三人が奮い立つ。
 熱狂的な旋律奏でるヒカタが極光めく幻の光で彩る中、決戦の幕が切って落とされた!
 縦横無尽に翔けるロゼリア(役名)の風、美しくも透明な軌跡を描きだすエレノア(役名)の硝子剣、その猛攻を魔王イングリート(役名)の竜の名秘めし斧槍が押し返し、シンティア(役名)の魔道書から溢れる呪いが翻弄する。
「二度と春を望まぬよう……その憐れな魂に永遠の眠りを」
 彼女が紡ぎだすのは無限の闇めく蛇影、強大な呪いがヴリーズィ(役名)(の足元のみかん箱)に絡みつくが、ロゼリア(役名)の祈りそのままの清らな月光が彼を蛇影から解き放つ!
「ああ……!」
 同時に、儚く消えゆく雪薔薇(袖に押し込んだよ!)。
「たとえ花が夢でも、僕らは春を……!」
 希望を響かせた青年が、黒き胸元に白銀の氷華を咲かす。
 ――春など、見たくはないわ。
 舞台袖のヒカタがその台詞に頷いた瞬間、シンティア(役名)の最期も盛大な爆発で飾られた。

●華麗なる終幕
 だが、後は魔王を倒すのみと思えた――その刹那。
 凄まじい雷鳴(ゼルディアが頑張ってます!)と共に巨大な雷竜が顕現する!
「そんな!」
「フッ……我がしもべがシンティア(役名)で終わりだとでも思っていたか!」
 舞台袖の天誓騎士に目礼ひとつ、魔王イングリート(役名)が邪悪な哄笑で世界を染めあげた。
 昏き絶望が青年達を押し潰さんとするが、そこに射した希望の光はエレノア(役名)の不敵な笑み。彼が四つ折で隠し持っていた剣を揮えば一気に紅蓮の炎が燃え上がり、その全身を包み込む。
「あいつは僕が何とかする。後は任せるからな。――大丈夫、君達ならできるさ!」
 友へ残すは晴れやかな笑み、それすら瞬時に炎へ呑み込んで、己自身を炎の鳥へと変えた彼は巨大雷竜へ迷わず飛翔し突撃する!
「いや……!」
「エレノアー(役名)!!」
 二人の絶叫をも呑み込む凄絶な(みかん箱辺りの)爆発が収まれば、庭園に立っているのは二人と魔王のみとなっていた。
「案ずるな、すぐ同じ場所へ送ってやろう」
「ヴリーズィ(役名)までやらせはしないわ!」
 魔王イングリート(役名)の斧槍が唸りをあげた瞬間、涙に濡れた、けれど凛とした声音を響かせ、ロゼリア(役名)が翔ける。
 まっすぐな想いのまま加速する彼女の背に咲いたのは――希望と言う名の輝ける翼。
 つまりウイングスラッシュが光の軌跡を描きだせば、客席の歓声と声援が爆発した。
「エレノア(役名)、ロゼリア(役名)……そしてみんなの心と一緒に、僕もいくよ!!」
 光追えばさり気なく同化した妖精の翅がヴリーズィ(役名)の背にも希望として咲き誇る。
 眩い光と昏き闇が交差した、一瞬とも永遠とも思える刹那の後。
「見事、だ……」
 魔王イングリート(役名)はその名に相応しき、威厳ある最期を迎えた。
 そうして、魔王の城の奥に微かな春の鼓動が響く。
 女神の許へ辿りついた彼らを迎えたのは、花々に彩られた翼持つ花の精霊ナルセイン(役名)。
 ちなみにこの翼の衣装、
「そんなの用意してる暇ないぜ?」
「やだなぁセイン、何の為にドレスアップがあると思ってるのさ」
「……へい兄者、合点だ」
 的な遣り取りの果てに誕生したヒカタの傑作である。同性だからこそ為せた技。
 春を求める青年が掴みとった希望を受けとった精霊が手を伸べれば、ふうわり羽のごとく軽やかに浮かびあがる繊手が重なり――春陽の睫震わせた春の女神ゼルディア(役名)が目覚めを迎える。
 焔、もとい薔薇色の衣装から響く、春のせせらぎめいた衣擦れの音。
「春の女神様……僕らは貴方に逢いに来たんだ」
「眠りの中でも貴方達の声が聞こえていたわ。勇気ある子らよ、ありがとう」
 ――さあ、貴方の種に祝福を。そして、世界に春をよびましょう。
 優艶な笑みを咲かせた女神ゼルディア(役名)の春薔薇色の唇がヴリーズィ(役名)の額に触れた途端、ひそやかに舞わせたゼルディアの扇が爛漫と咲き誇った桜吹雪の渦で世界を満たす。
 女神の唇から流れ出すのは春の歓びを唄う華やかな歌声、舞台袖からはエレノアが創造した春の曙光めく光の蝶達が舞い始める。
 舞台に満ちて客席へと溢れだす、春の幸せ。
 この舞台にも劇団にも、ランスブルグそのものにも春を咲かせんとばかりに壮年の紋章士が掲げた黒曜石の魔鍵が、春の世界に広大な、広大な楽園の光景を溶けあわせた。

 この終幕に、スタンディングオベーションが湧きあがらぬはずがない。

 鳴りやまぬ万雷の拍手に滂沱の涙を流すテラン。終焉を砕く者達は彼を舞台裏に引っ張り込み、あっという間に説得完了、拒絶体マスカレイドと化した彼の棘を打ち砕いた。
 無傷で倒れたテランをイングリートが助け起こす。
「私は城塞騎士の誇りをもって民を護ろう。貴殿らは芸術家の誇りをもって希望を語り紡ぐがいい」
「そうよ、明日からだって成功間違いなしに決まってる!」
 歓喜の笑みを咲かせて彼に抱きついたのはロゼリア。
 皆と自分で咲かせた幸せが嬉しくてならないらしい彼女の様子に目尻をさげ、ヴリーズィは傍らの男に囁いた。
「ね、ルセ? 実はお芝居好きでしょ」
「――バレてたか」
 嬉しげに破顔した彼が、皆が主役を待ってるぜ、と彼女の背を軽く押す。
「さ、団長さんも挨拶の時間よ」
 ゼルディアがテランを促すけれど、繰り返されるカーテンコールは勿論彼女のこともお待ちかね。
 素敵な舞台仲間達と眩い光へ踏み出しながら、光纏った今日の春女神は幸せな夢を胸に描いた。

 それは皆で創りあげたこの舞台を、客席から満喫する――幸せな、幸せな、春の夢。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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参加者:7人
作成日:2014/02/04
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