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羽迷宮のフェザー・インクルージョン

<オープニング>

●水迷宮のアデュラレッセンス
 星に願いを、月に願いを。
 世界に溢れるそんな言葉達。もしもそれらがしっくり来ないなら、こんな言葉をきみにあげるよ。
 ――羽に、願いを。

 瑞々しく透きとおる煌きの中に、あるいは、蕩けるように優しく柔らかな彩の中にその羽はある。
 それは時に瑕で、時に水で、時には気泡。
 あるいは、空の雲のように水の光のように揺れる模様のひとかけら。

 ねぇ、羽がふわりと光を抱いたら、もう飛べる?
 世界にたったひとつの、光る羽がここにある。――この羽ひとつ、きみにあげるよ。

 流麗な意匠で編まれた銀の鳥籠は常に開け放たれていて、そこを住処とする春告の鳥はいつでも好きな時に飛び立つことができた。
 鳥籠の縁から飛び立った小鳥が舞うのは明るい光降る空間。透きとおる硝子で作られた天井には澄んだ水が優しく流れ、星霊建築が映す青空から降る光を透かして柔らかな波紋を描き出している。
 光の波紋が水面より明るく木漏れ日より柔らかに揺らめくその空間には、春の花園のように優しく初夏の花園のように彩り豊かな宝石の輝きに満ちていた。
 春空に朝靄のレースを重ねたようなブルーレースアゲートと朝露めいた透明水晶のブレスレットは涼やかで、銀細工がローズマリーの枝葉を模るブローチには桜色にきらめくスピネルの小花が咲く。夜空の星を思わす極小の銀珠が連なるラリエットには朧月を燈したかのようなムーンストーンの雫が揺れて、誰かの髪や胸元を優しく彩る日を待っていた。
 穏やかな光の波紋に満ちたその空間の主役は、柔らかな輝きを抱く半貴石と呼ばれる宝石達。
 煌びやかな貴石でなく、優しくきらめく半貴石達を主にしたカジュアルジュエリーを扱うこの空間は、水神祭都アクエリオで一昨年の春オープンした『春告鳥』という名の宝飾店だ。
 ゆっくりと、けれど着実に名を高めつつある春告鳥では、この冬ある言葉で彩られた宝石達が店を訪れるひとびとの話題を攫っていた。

 フェザー・インクルージョン。
 宝石の中に生まれた瑕や、宝石の中に含まれた気泡や、それらの中に閉じ込められた水。
 厳密な定義はさておいて、光の加減で白銀に輝く羽根にも見える宝石の内包物、あるいは翡翠やラリマーに現れる、空の雲のように水の光のようにふわりと優しい白彩の模様が羽根に見えるもの、それらを春告鳥では『フェザー・インクルージョン』と呼んでいる。
 宝石の瑕や不純物をよしとしない向きもあるだろう。
 けれどもそれらはひとつとして同じものはなく、その宝石が世界にたったひとつのものであることを目に見えるかたちで証してくれる。
 光の羽根、フェザー・インクルージョン。
 そんな羽を持つ宝石をあしらった装飾品、あるいは翼や羽根を意匠した銀細工などにそれらの宝石を嵌めた装飾品が、この冬『春告鳥』では人気の品となっていた。

 ねぇ、羽がふわりと光を抱いたら、もう飛べる?
 世界にたったひとつの、光る羽がここにある。――この羽ひとつ、きみにあげるよ。

●羽迷宮のフェザー・インクルージョン
 瑕ひとつ、不純物ひとつない、完璧な美しさを湛えた宝石や、深く澄み渡り、一切の澱みない、吸い込まれてしまいそうな彩を宿した宝石こそが至上という者も多いだろう。
「んでもね、そのフェザー・インクルージョンの宝石達を見た時、アンジュすごく自然にこう思ったのね」
 ――あ、この羽で飛べばいいんだ。
 それは澄んだ夜闇の虹を凝らせたようなラブラドライトに抱かれた羽の瑕。
 涯てなく澄みきった青空を切り取ったような空色翡翠にふわりと舞った白い羽毛の模様。
 深く静謐な森の緑が滴るようなセラフィナイトに幾重にも煌きながら舞い踊る白銀の羽根模様。
 同じ種類の宝石をいくつ集めたとしたって、それぞれ同じものはひとつとしてない――世界にたったひとつの、光る羽。
 それを纏えたならきっと、夜闇の虹を、涯てなき青空を、深い緑の森をも越えていける。
 すうっと自然にそう思えたの、と夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)は笑みを燈して誘う。
 とても、とても幸せな気持ちになれたから。
「ね、世界にたったひとつ、自分だけの羽を見つけにいかない?」

 薔薇輝石の鮮やかな薔薇色の煌きに覗くのは二対の羽のような瑕、金の翼を模した髪留めに宿る煌きは淡やかに透ける菫色に染みた水晶の羽が羽ばたくエンジェルシリカ。
 銀細工の白頭鷲の羽根がくるり指に巻きつく意匠の指輪は深い森に白銀の羽降るセラフィナイトの滴を抱いて、黒曜石から削りだした矢尻に黄銅細工の留め具を添えたペンダントヘッドには金の羽毛めいたインクルージョンを抱くルチルクォーツの朝露ひとつ。
 明るい水色の水面にふわり水鳥の羽が舞い降りたような彩のラリマーは優しい丸みを帯びた雫の形に磨かれて、世界にたったひとつの羽を探すひととの出逢いを待っている。

「アンジュが見た品は勿論ごく一部だし、新しい品とかも入ってると思うんだよ。実際春告鳥へ行ってみれば、そこではもっと様々な宝石や装飾品がみんなを待ってるはず。――んでもね」
 春告鳥には『絶対にない宝石』があると暁色の娘が語る。
 半貴石が主役の春告鳥では、貴石と呼ばれる宝石は殆ど扱われていない。
「その中でもね、ダイヤモンド・ルビー・サファイア・エメラルドは『絶対にない』の」
 これらを期待していくと物凄くがっかりなことになっちゃうからね、と暁色の娘は念を押し、もう一度幸せそうな笑みを燈した。
「あのね、世界にたったひとつの羽を見つけられたら、また逢おうね」

 ねぇ、羽がふわりと光を抱いたら、もう飛べる?
 世界にたったひとつの、光る羽がここにある。――この羽ひとつ、きみにあげるよ。


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参加者
NPC:夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●羽迷宮のエングレービング
 透きとおる翠に虹を秘めた梢には小鳥がとまり、控えめな飾り文字が店の名を綴る。
 美しいエマーユの看板戴く扉を潜れば水の天蓋透かして踊る柔らかな光の波紋が、優しい煌きに抱かれたフェザー・インクルージョン達をふわりと羽ばたかせるかのよう。
 淡い菫色の蛍石、明るい薔薇色抱いた柘榴石、透ける彩に指先浸せば光の波に煌く羽根が今にも羽化しそうで、リラの心にも光の細波を呼んだ。ふと指先がとまったのは、繊細な銀が編むレースに春空ひとしずく、ブルーレースが羽を抱く、二つ揃いの髪飾り。
 あの日の透明な朝風が心を吹きぬければ、胸の奥が微かに震えた。
 本当は、怖いの。
 繋ぐ指先から伝わるのは迷い子めいた不安、けれど、一人で飛んでいってしまわなくて良かったとあの日抱きしめた背にはもう、本物の翅が、羽があることをエミリアも識っていた。
 胸攫う嵐に呑まれ、迷い先で羽が竦んでしまったとしても――けれど、だからこそ。
「今年最初のわがまま、言ってもいい?」
 ――翼を半分こ、しませんか。
 飛び立つ空への希望も不安も湛えたレヨンベールの瞳の奥に燈る熱。懐かしく愛しむようにリラの頬を撫でれば、エミリアの瞳には優しいあかりが燈る。
 その嵐は貴女だけのもの。比翼となって一緒に行くことはできないけれど。
「迷い先で蹲る貴女へ――肩を貸しに行くくらいは、許されるかしら」
 揃いの翼を受けとり髪へ挿してくれた彼女の頬笑みは、リラにとって嵐の闇に燈るあかり。
 白い頬に伝う雫を掬って、ほら、とエミリアが笑う。涙はまるで春空に光った瑕の羽のよう。
 貴女はもう、飛び立つ勇気をとうにその背へ擁いているから。
 蕩けるように柔らかな光の波紋に優しい煌きが幾つも跳ねる。
 並ぶ宝石達のようにきらきらと胸のなかに光が踊るのはきっと、二人でのデートが久しぶりだから。一緒に過ごしてきた時間は長いけど、少しずつ大人への階段昇って世界を広げ、二人はそれぞれの道を歩きだしている。
 だから今日はうんと甘えちゃおうかな、なんて幼馴染に笑いかけたヒカはふと瞳を瞬いて、
「ヴェーネちゃん、昔より少し服装が女の子っぽくなった?」
「すっごく悩んだんだよー? 今日は何を着ていこう、ヒカはどんな服着ていくかな、って」
 訊かれたヴェルメリーの悪戯な笑みを誘う。
 ねえあのね、私も、よ。と囁き返されれば二人面映く笑み交わし、お互いにまたひとつ階段を昇ったことを識る。
 苺色に銀の星散る中に羽が光る苺水晶の小さな卵、月光の虹蕩けるような表面に柔らかな羽舞う月長石の卵。羽が息づく卵を選びあえば、フィーには綺麗な青の卵を、なんて内緒話に笑みが零れ。
 花咲くような意匠の籠に抱かせた卵達は、思い出閉じ込めた宝物みたい。大切な思い出抱いて、大人になった日にはきっと――この光の羽がそれぞれの背に大きく咲くから。
 今は一緒に、羽ばたこう。
 黎明色の菫青石に煌く羽、闇色に鮮やかな陽色覗くエクリプスに躍る羽。それらから優しい物語や劇的な物語へ想像の翼広げつつ、光の波渡ったオペラがめぐり逢ったのはレッドスピネルの耳飾り。
 華麗な赤を湛えた石には放射状の針状結晶が広げる翼が煌き、かと思えばもう一方の耳飾りには可憐な小結晶たちが列を成す。意欲を掻き立てられた想像の翼を羽ばたかせれば、胸に浮かぶは翼広げた鳥達が並んで空渡る物語。
 唯ひとつのものとの出逢いは恋のよう。
 これじゃ、と心に響いたまま手に取れば、恍惚にも似た高揚が翔け昇った。
 舞う羽の煌き、囀りめく羽ばたきの音。
 優しい光抱く水の波紋が触れあい変わるように、首飾りを望んだ心はいつしか耳飾りを探していた。巧く言葉にできない何かを求め、煌きに惹かれるまま銀細工の片翼手に取れば、ロゼリアの鼓動が眩く閃いた歓喜に跳ねる。
 片翼の耳飾りに揺れるのはフローライトの雫。
 春萌の緑に花咲く紫、そして空の青へ彩揺れて混じりながら昇る雫は、釣鐘草の花のよう。あぁ、と笑みが咲き綻べば心も解きほぐれるよう柔らかに花開く。
 花雫にくっきり舞い踊る白い羽根はきっと己についた瑕の痕。
 翼と羽と花を耳へ飾れば軽やかに揺れて。
 言葉の音にはならない心のさえずりを、幾度も幾度も囁き唄った。
 羽を。護るための手段だと言うひとに贈りたいのは、望むまま飛んで行ける羽。
 ――欲張り、っすかねえ。
 知らず零れた言葉は存外嬉しげな響きとなってヴフマルの胸へと還り、眦を緩ませる。彼女の名と良く似た響きの漆黒、掌でころり転がるキューブや珠、あれこれ矯めつ眇めつするうち見つけた翼は銀の双翼に抱かれたアイリスクォーツの珠。
 翳せばふわり翻るように光る瑕。
 世界にたったひとつのそれが傷だらけの背と重なり、震えるようないとおしさが心に響いた。
 透明な珠には青い黄昏、星月の夜、森も荒野も眩い水面も石畳の街角も、すべてが映る。
 虹の羽と澄んだ羽が光を抱いたら、何処までだって。
 ――はばたいて、とべるよ。

●羽迷宮のラブラドレッセンス
 薔薇色に砂糖結晶めいたインクルージョンが踊る苺水晶が咲かせた薔薇は、ともに紫煙群塔から水神祭都へ渡った春告鳥とラヴィスローズが想いを重ねた証。
「レイチェル殿お久しぶり!」
「いらっしゃい、私の春告鳥さん……!」
「妾も春告鳥……!?」
 薔薇飾る少女が飛び込んできたのを満面の笑みで抱きとめた店主にとって、春へ渡らせてくれた彼女達こそ春告鳥なのだろう――とリューウェンも顔を綻ばせ、感謝も歓びも存分に交わされるのを待ってから、そっと少女に手を伸べる。
 望むものは対の羽。訊ねるのが手っ取り早いのだろうけど、自分達で見つけたいでしょう? なんて店主に見透かされれば少し面映い。そう、自分達で見つければ歓びはもっと膨らむはず。
「それでは、ラヴィスローズ殿」
 二人で手を携え、世界でたったふたつの対の羽を探しにいこう。
 揃いなら耳元よりも胸元に、そんな彼の言葉を胸に光を渡り、少女は銀のペアブローチに辿りつく。主役は光の流れ思わす水晶が紫の片羽を抱くエレスチャル。
 彼の胸元へ飾り、並べれば対の翼になったよう。
 瑕を抱いて生まれたからこそこの石達は存分に翼を広げることができるのじゃよね、と笑み咲かす少女の胸元にリューウェンがもうひとつの片羽飾れば、ラヴィスローズの背にも翼が咲く心地。
「ね、リュー殿。この水晶の翼で一緒に飛ぼう?」
「二人一緒にこの翼で飛ぶのなら――」
 きっと、遥かな世界を何処までも。
 甘い菓子の贈り物に羽を添えたくて、光の世界を訪れれば溢れる色彩に目が眩みそう。
 あのひとの好みはピンクかなと思うけど、桃のミルクキャンディめいたピンクオパールから鮮やかな薔薇輝石まで、ピンクだけでも千紫万紅。
 緊張に跳ねる鼓動を深呼吸で宥めつつ、悩みに悩んでフォシーユは、金縁の両翼を選びとった。
 小鳥とも蝶とも思える髪飾りを彩るのはモザイクの薔薇水晶。
 優しく透ける薄紅には淡く刷毛ではいたような白い筋、光る羽根にも、夜明けの空で曙光に色づく薄雲にも見える紋を抱く薔薇色を、あのひとの髪に留めてもらえたなら。
 見えない壁は厚いけれど、歓んでもらえれば嬉しいと願う心だけ――そっと渡ればそれでいい。
 朝靄けぶるような紫暗の瞳をめぐらせれば、花々めいた宝石と羽の煌き、そして隣の親友の気配に薄紗のごときファルスの心の装いも柔らかに落とされる。
「瑕さえも羽に変わるなんて、まるで人の心のようじゃないかしら」
 世界にたったひとつの羽を選ぶこと、それは何処か心を拾いあげることにも似ている。
「……本当に、そうね」
 瑕さえも羽に変えて飛べるなら、そして掬ってくれるひとがいるのなら、心の救いにもなれるはず。
 呼吸するように自然とシャルロッテが頷き返してくれたから、ファルスも穏やかに微笑んだ。微かな不安が瞳に滲むのを感じつつも、願わずにはいられない。
 瑕を羽に変えて飛ぶのなら……あなたに、選んで欲しい。
「お願いしてもいい、シャル?」
「これは重役、貴女に似合うものを選ばなくっちゃね!」
 ほのかな憂いに気づきながらもあえて明るく応えたシャルロッテが手に取ったのは、アクアマリンとアンバーが左右に揺れる耳飾り。光透かせばそれぞれ羽が煌いて、傍らには銀のディプラデニアが優しく息づくように咲く。
 親友の掌に乗せ、光る瑕ごとそっと手で包みこみ、微笑んで。
 ――瑕が羽に変わるまで、私は貴女の傍に居る。
 指輪には大切な導の石が光る。
 同じ石をとサクラが求める宝石はラブラドライト、月光の紗を思わす金灰色に深い蒼や星と虹の煌き覗かせて、翼模るそれを見出せば、指輪をくれた旅鳥が胸に浮かんだ。
 彼が渡るのもきっと、こんな彩広がる旅の空。
 瑕持つ石が好き、とふと想いが浮かびあがったのは、己の運命が瑕を負うことで廻り始めたから。不器用に心を鎧うのが精一杯だったけれど、気づけば瑕を抱きながらも翼を得たように笑う、『友』と呼べるひとが傍にいて。
 世界にたったひとつの羽のように、ひとりとして同じ者がいないひとに出逢えたことは、きっと奇跡。
 昔は奇跡なんて信じなかったけれど――変わっていくのも、悪くない。
 水と光の波紋に光る羽揺れる迷宮に迷い込み、惑う時間さえ愛しみながらクローディアは、高鳴る鼓動に幸せな吐息を溢す。自然に笑みが咲けば、瞳の片隅で月が煌いた。
 心の奥で、何かの種が震えて芽吹く。
 月光めいた金色琥珀を覗けば、小さく、けれど強く煌く三日月にも似た瑕の羽。
「アンジュさんどうしよう。心が飛んでしまいそう」
「飛んでいいんだよ! 今飛べなくたって、光と風をめいっぱい受けとめていいんだよ!」
 夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)に背を押され、掌に乗せたのは夜の光。
 私の、羽。
 涙を堪えるよう瞼を伏せた。ペンダントにしよう。心の臓に近い処に持っておきたいから。
 ――私の創も、いつか羽にしたいから。

●羽迷宮のアデュラレッセンス
 光溢れる迷宮を渡り、求める羽は互いへ贈る羽。
 幾つもの光を越えた先に見出したのは淡やかに光を透かす空の青、小さな指輪が抱く春空めいた天青石に瑕の羽が煌けば、ニーナの鼓動が柔らかに跳ねた。胸高鳴るまま顔をあげたなら、隣では砂の国の金砂が風に流れるよう煌くシトリンに、同じ色の眼差しそそぐ親友の姿。
 悠久の砂の煌き映して透きとおる金の水晶覗けば、光る瑕が虹の光沢抱いた金の羽根に思えて、知らず咲いた笑みのまま顔をあげたジゼルは、とっておきの秘密めかして親友に囁いた。
「ね、これにしましょう」
「何だかこれ、わたし達を待っていたみたい」
 だって二つの羽は双子のよう。
 絆で結ばれた自分達を映したようなこれが、きっと運命の羽だと思うから。
 胸に光咲く心地でニーナがぎゅっと手を握れば、ジゼルも歓び伝えるように握り返す。
 傷つき苦しんで、それさえも力に変えて飛び立つあなたへ。
 優しく傷を包んで癒してくれたあなたへ、未来への祈りを。
 双子の羽抱くピンキーリングを互いの小指に嵌め、羽の指絡めて約束を交わす。
 ――あなたの希望を導く羽になる。
 ――あなたを未来へ導く羽になる。
 偶にはびっくりさせてみたいからとこっそり囁けば、内緒だねと頷いたアンジュがさり気なくポンチョを広げて壁になった。
 大切な彼から隠れてオニクスが探すのは、彼に贈る世界にたったひとつの羽。
 深い翠に燻し銀の羽舞うセラフィナイトも綺麗だし、昔贈ったラビットヘアールチルを覗けば今日はふわふわした雛鳥の羽が踊る。屈んで棚を覗くうち、蜂蜜色に瞳がとまった。
 遥か昔に舞い降りた羽根をそのまま閉じ込めたような、琥珀の一滴。
 光に翳して回せば羽根もくるくる姿を変えて、まるで表情豊かな彼みたい。
 これからも笑顔でいて欲しいと願えば心も決まる。
 琥珀を贈るのは、幸福を贈ること。
「羽の見立てをお願いしたいのよ。でもペンギンはダメ」
 飛べないもの、と切実にマニートは訴えた。望むのは、いつか螺旋を描いて昇っていける羽。
 成程と笑ってナルセインが選びとったのは、風の流れ思わす金細工が暖かな輝き抱いたブローチ。風の中、眩い朝焼け色づくカーネリアンの卵にふわり眠る羽ひとつ、掌に乗せられれば笑みも想いも咲き綻ぶ。
 ああ、時が満ちたらきっと私も飛べる。
 御礼にと贈るのは鷲のコインと煙水晶繋いだ首飾り。
 ――私ね、セインさんの事、大きな鷲みたいって思ってたのよ。
 男は軽く瞳を瞠り、極上の気分だ、と心底嬉しげに笑った。
 暁色の瑕を識ってしまえば言の葉が種の割り方を忘れたよう。けれど羽根を秘めたヘリオドールを抱く金蓮花の髪飾りを手にすれば、殻を割って芽吹く言の葉ひとつ。
「――私の羽根をひとつ貰ってくれる?」
 微かに震えたのは声音か唇か。己が怖がっていることに気づけば、またひとつ言の葉が芽吹く。
 ごめんね、君もこんな風に怖かったんだね。
 囁けば彼女は何度も瞬いた瞳に涙をためて、迷わずハルネスの首に抱きついた。
「貴方の瑕も羽根も、アンジュにください」
 濡れた声と伝わる熱に、互いの願いは同じなのだと識る。
 初めての羽根の想いは今も胸に燈るから、瑕のついた羽根は幾つも涯てを越え来た証と思えば、どこか愛おしくも誇らしい。
 ――この先も、ふたり一緒に飛び続けていこう。

 春の光が揺れる水面をそのまま切り取ったようなラリマーの珠に、新緑を透かした木漏れ日の煌き凝らせたようなスフェーンの結晶が淡い光を踊らせる。
 これ綺麗ーと振り返ったユリウスは、
「ねえ、ユーリ。俺の片翼になってくれる?」
 微かな緊張が覗く面持ちでアサノアに問いかけられ、きょとり瞳を瞬いた。
 どうしようもなく淋しがりな心に頬笑みで蓋するばかりな彼からは滅多に聴けぬ、希う声。
「僕が断る理由、あると思う?」
 悪戯めいた笑みで応えれば、淋しがり屋が安堵の吐息を零す。
 さあ、片翼の羽を探しにいこう。
 羽を宿すなら足許が良い。憧れるばかりだった鳥へ近づくための羽。
 空の色、風の色、森の色と幾つもの光を辿り、ふとユリウスが足をとめた煌きは。
「――これ」
 目が覚めるような紅緋に煌く紅玉髄のアンクレット。
「嗚呼、そう、此れが良い」
 友情と勇気の言葉を燈す石。光に翳せばふわり浮かぶ羽ひとつ。
 奇跡のような輝きに瞳を細めれば自然とアサノアの口許も綻んで、耳元にはそっと言の葉が燈る。

 もう飛べる?
 ――ああ、もう飛べるよ。

「さあ往こうか、ユーリ」
 掌差し出せば、紅羽の片割れ愛おしく包んだ掌が握り返してくれた。
「僕もキミの羽になるよ」
 アサはいつだッて心に羽をくれるから。
 ――蒼穹をどこまでも往けるよう、キミが、倖せで在れるように。
 祝福の光にも似た彼の言葉に笑み返したなら地面を蹴って。

 果てない蒼穹へ、いざ。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:21人
作成日:2014/02/09
  • 得票数:
  • ハートフル11 
  • ロマンティック7 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
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