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鋼の丘

<オープニング>

●曽て堅牢の二つ名をもつ騎士がいたという
 時が流れた。
 アクスヘイム崩壊後、1日、2日と時間がすぎ、燃え上がっていた街は、今は静まり返っている。街に差し込む日差しだけが長い影を残していた。
 そこに、人の気配はない。
 戻る人などいなかったのだ、と男は言う。己に言い聞かせる様に三度、そう呟いて壊れた門を開く。盗みを働くのは初めてだった。それでも、門はくぐりたかったのだ。此処は街であって、瓦礫の山ではないのだから。街を囲う、壁の全てが倒れてしまっていたとしても。
「……急ごう」
 この街には、仕事で立ち寄った事がある。小高い丘の先には、町長の屋敷があった筈だ。
 男は、昼の日差しの中を歩いて行く。商売で来た時は、花と祈りの布で溢れていた街に人の姿は無く、花は皆、散り、地面に落ち、血に濡れていた。
「……っいい、いいさ。屋敷の方がもっと良いものがあるはずだ……」
 金目のものが何か残ってるかもしれない。
 瓦礫を越え、バリケードのように積み上げられた荷箱の横を抜けて行けば白亜の屋敷が見えた。鮮やかな風見鶏が残っている事に少しだけ、安心した男の目に黒い何かが見えた。人の形をした『それ』は、小高い丘にある屋敷の前にあった。
「よろ、い……?」
 黒塗りの鎧だ。胴には穴が空き、頭部も無い。左右に積み上げられたバリケードと同じ様に、鎧は屋敷の前にあった。
「……っあそこ、通らねぇと中、入れないのかよ……」
 ひくり、と喉が震え、反射的に引いた身が瓦礫を蹴った。カン、という音と共に破片が転がり、バリケードの一つぶつかる。同時に、ぎぃ、という音がした。
「へ……」
 何の音か分からず顔を上げた男の目に、ただの置物のようにあった鎧が動き出すのが見えた。
「アンデッド……!」
 ぎぃ、と音をたて黒塗りの鎧のは動き出す。屋敷の前に現れた生者に、男に反応するように身を起こし、鎧のアンデッドは炎の剣を持つ。
「お、おい冗談だろ、何だよ、俺が盗みに入ろうとしたからか? だから、だから……っ」
 だから殺すのかと、問うた男に死者は応えず。逃げ出そうと身を翻した男の足を、バリケードの向こうから飛び出た死者達が掴み――引倒した。

●続きと終わり
「そうして、あの人は殺されてしまったんだ。『盗みに入ろうとしたから』って……相手を、アンデッドじゃなくて、あの鎧さんを街の騎士として見た人は」
 鎧のアンデッドと、街の人達の、アンデッドに殺されてしまった。
 二つ夜のデモニスタ・ニヤはそう言って、エンドブレイカー達を見た。
「シャルムーンの方とか、いろいろ大変なのは分かってる。けど、オレ、一人じゃ無理だからみんなに手伝って欲しいんだ」
 あの人を助けるのと、街のアンデッド達に終わりだと告げるのを。
 場所はアクスヘイムだとニヤは言った。
 アクスヘイムの崩壊後、大きな被害が出た地域では多数のアンデッドが生まれつつある。年を越した今でも、アンデッドの姿は確認されていた。
 アンデッドになる比率は、本来であれば高くは無いが、元の死体が覆い為にアンデッドの数が多くなってしまっているのだ。
「被害が大きな場所は、まだ結構あるんだと思う。まだ街の人達も帰れないってのもあると思うし」
 一度は、崩壊したアクスヘイムを見て来た少年は息を吸い、きゅ、と拳を握った。
「だから、まずはオレに、オレ達に出来る事がしたいって思ったんだ。
 街に、初めて盗みに入った人がアンデッドに殺されてしまう。相手は鎧のアンデッドと、住人のアンデッド達だ」
 アクスヘイム崩壊後、商人としての仕事を失い途方に暮れた男の最初の犯行はアンデッドの手により止められた。
「でも、こんな形は駄目だと思うんだ。あの人にも、街の屋敷を守る様にいた、鎧のアンデッドにとっても」
 だから、終わりにしようとニヤは言った。
「あの日の続きをしている、守護者に終わりだって告げよう」
 アンデッド化は滅多に行われないから、今動いているアンデッドを止める事が出来れば、暫くは大丈夫だ

「街に着くには、今からだと昼前になると思う。街に窃盗に入る人が来るのは昼過ぎだから、オレ達の方が早く着けるんだ」
 窃盗に来た男は、今日が初めてだったらしい。正門を抜けて行く男は、街に人がいる姿を見れば近寄っては来ないだろう。
「商人らしくて、アクスヘイム崩落の関係で仕事も無くなってって感じみたい。もし声をかけるのなら、正門あたりで待っていれば会えると思う」
 ニヤはそう言って、エンドブレイカー達を見た。
「声をかけられて、驚くとは思うけれど……話を聞かずに逃げることはないんじゃないかな」
 後は、とニヤは言う。
「鎧の人と街の人に……、鎧のアンデッドと、住人のアンデッドについて」
 現れる場所は、どちらも屋敷の前だとニヤは言った。
「屋敷の前には、バリケードみたいに荷箱が詰まれてるんだ。鎧のアンデッドはその前にいる」
 まるで屋敷に入ろうとした何ものかから、中の者達を守ろうとしたように。
「……鎧のアンデッドには、頭となる部分が無いんだ。けれど、屋敷に近づけば動きだして、漆黒の剣に炎が灯る」
 そうしてその身に炎を宿して、鎧のアンデッドは立ち上がるという。
「鎧の方が動き出せば、住人のアンデッド達も姿を見せる。こっちは数は少ないよ」
 村人のアンデッドは5人。動きこそ鈍いが、バリケードや荷箱を乗り越えて飛び出し、ナイフ投げや切り裂き攻撃を行う。
「強いのは、鎧のアンデッドの方だよ。見た目、鎧は傷ついてるけど、防御力は高くて攻撃力もある」
 ただ、動きは少し鈍いのだとニヤは言った。
「その分の防御力はすごいあると思う」
 故にかつては、この鎧の騎士は、此の場の守護を任されたのかもしれない。
「でも、打ち倒さないと……あの人は、ずっと続けてしまうから」
 だから、終わりにしようとニヤは言った。
「戦場となるのは、屋敷の前の広場だよ。バリケードや荷箱とか置かれてる分、狭いから気をつけて。荷箱は大きいのが2つとか3つとか積み上げられてるみたい」
 荷箱は壊れやすい分、戦闘中は気をつけた方が良いだろう。
「向こうがぶんぶん剣振り回したら壊れそうだから位置取りとかは気をつけた方が良いと思う」
 あとはもう、ただただ戦うだけだ。
「街の人にも、鎧だけになってしまった騎士さんにも、もう終わりだって言う為に」
 力を貸して欲しい、とニヤは言った。もう一度、しっかりとエンドブレイカー達の目を見て。
「行こう」
 きつくきつく、拳を握りしめてニヤは言った。


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参加者
空追い・ヴフマル(c00536)
ナジュムの棘・レサト(c02802)
火毒・エウリード(c03240)
月渡り・レン(c06967)
スプートニク・ニエ(c08103)
地狂星・メランザ(c26024)
夜が訪れる刻・シキミ(c32374)

NPC:二つ夜のデモニスタ・ニヤ(cn0185)

<リプレイ>

●惑い、迷い、一つ決めて
 乾いた土が、風で巻上る。灰色の町が、そこにはあった。町に、人の気配は無く、柔かな日差しだけが、ただ長い影を作っていた。
「崩れた街の景色になんて……慣れたくはないです、ね」
 ぽつりと呟き、ナジュムの棘・レサト(c02802)は真っ直ぐに町を見据えている二つ夜のデモニスタ・ニヤ(cn0185)に声をかけた。
「大丈夫ですか」
「……ん、大丈夫くは、ない、けど」
 滲む惑いを沈める様に、握りしめた拳が鳴った。
 物には想いが籠ってる。今の商人さんには金目の物としか見えずとも、この街に残る物皆にも想いが残ってる――と空追い・ヴフマル(c00536)は思った。
(「俺はそれを愛おしく思う」)
 日常の残り香。店の看板が揺れ、洗濯物の紐がふわりと舞う。
「な、送り主が、ニヤが信じてくれるなら運び屋は、俺は亡くなった人にだって伝えたい事、届けに行けるんだぜ」
 金色の目を見開く、ニヤの顔を覗き込み、にっとヴフマルは笑った。
「言いに行こう。な?」
「……うん」
 言いに、行こう。ちゃんと言いに。

(「アクスヘイムの崩壊をいい事に、盗みを働くとはなんという不届き者なのでしょうかね」)
 乾いた砂の舞う石畳を見ながら、でも、と夜が訪れる刻・シキミ(c32374)は思う。どんな者であれ、命の危機に見舞われては放ってはおけない。
 微かに聞こえた足音にシキミは視線を上げる。紫の瞳は、町へと向かって来る人影を捕らえた。影は、伺う様に町に近づき、やがてこちらに気がついたのか驚いた様に足を止めた。
「ひ、と……」
 息を飲む男――商人に月渡り・レン(c06967)は口を開く。
「こんな所で如何した?」
「あ……いや、お、俺より、あんた達は?」
 視線を泳がせた男にレンは被害状況の調査・手伝いや救助をしているのだと言った。
「そ、そうなんですか」
 言い淀む、男の手が震えていた。ちら、と肩越しに町を見てはまた、泳ぐ。挙動不審な男に「……成る程」とレンは視線を上げた。
「止めておけ」
「え……」
 何を、と男が聞き返すよりも先にレサトは言った。あなたはご無事だったのです、ねと。
「――どうぞ……悔いのない生を」
「な……、あんた何言って……」
 俺は、別に何も、と乾いた唇が言葉を作る。分かりやすい動揺と、震えた唇。きつく握った所為か、男の手は白かった。
(「生きる為に、考え、決めた人に……何が言えましょう、か。ただ、私が願うのは―」)
 そこまで考え、レサトは吹く風に服を揺らす。乾いた風は、この町にある死の気配を運ぶ。レサトの手には、町で拾った花があった。
「目先の楽に縋っても、その手を汚せば……お主は生涯、汚れた手に怯え、脅され、心を苛まれる」
 レンのその言葉に男――商人は息を飲んだ。
「あ、あんた……達はいったい」
 驚き、戸惑い、見開かれた瞳を見る。
 盗みは良くないことだ、とスプートニク・ニエ(c08103)は思う。
(「……けれど、それでもしなければならない苦しさがあるということ。そして私の眼に映る彼がそれだけを今心に抱えている訳じゃないと思えるから」)
 生きて欲しいから。心から……お願いしますと、云おう。
 彼が盗みを働く事のないよう、これから先も生きて行けるよう。ニエはまず、彼の問いに応える。
「私達は、エンドブレイカーです」
「エンド、ブレイカー……」
 だから、と声を震わせる商人に、火毒・エウリード(c03240)は言った。
「事情は知らねェが、商売でやってきた自分に少しでも未練があるなら、しょうもねェ盗みなんざでアヤつけちまうのはもったいないぜ?」
 驚き、見開いた瞳を正面にエウリードは肩を竦める。
「ま、手前ェの人生をどう使おうがいつ捨てようが知ったこっちゃねェんだがよ」
 あぁ、と震える声をエウリードは聞く。喉を震わせ、俺はと零す商人の声を。
「おれ、は……俺は……!」
 後悔が滲む。数多の感情とない交ぜになった怒りはきつく握りしめた拳と共に彼自身にも向かうようだった。やがて商人は、小さな謝罪とともに言った。ひねり出す様な声で。まだ、捨てられないと。

●堅牢の名
 商人は、正門に背を向けて歩き出した。彼が盗みに手を染める様なことは――きっともう無いだろう。きつく握りしめられた拳を思い出しながら、エンドブレイカー達は町の中を行く。小高い丘を上がって行けば、すぐに白亜の屋敷は見えた。そこには、荷箱は廃材によって創り上げられたバリケードがあった。
 外敵に侵入を防ぐため、曽ての戦場で築かれたバリケードは広場の大半を覆っていた。唯一、広場の中央だけは少しの広さを持っていた。
「あの辺りなら良いかと思って」
「……確かに、広いな」
 事前に、ヴフマルが調べておいた場所だ。頷いた地狂星・メランザ(c26024)は、広場へと目をやる。後ろに下がりすぎれば、今上がって来た道にぶつかってしまうが、高いバリケードは無い。
 後はここまで、相手を誘き寄せることができるか、だ。
 息を吐き、メランザは視線を屋敷の前へと向けた。屋敷の前、積み上げられたバリケードを背に黒塗りの鎧があった。胴には穴が空き、兜は無い。片膝を着くようにしてある鎧が動き出すよう様子は無い。
(「……この屋敷に何かあったのかは知らないが、少なくとも忠義の騎士が一人存在していたのは確かなようだな。滅び行く都市と自らの意思で運命を共にすることなどなかなか出来ることではない。最早、自らの存在意義すらも分からないだろうから生まれ変わった時にでも今一度手合わせを願いたいところだが……」)
 まずは、あの騎士を止めなければならない。
 まずは誘い出しだと、遠距離攻撃を有するメンバーが戦場として選んだ場所にもっとも近い荷箱を狙って、打つ。
 ガシャン、と音をたて荷箱が割れる。舞い上がった破片の向こう、返る沈黙にシキミは唇を引き結んだ。
「……動かないようですわね」
 戻って来た妖精と共に、シキミは騎士を見る。見られているという感覚はある。それが敵意か殺意かは分からない。だが確かにある気配は膨れ上がれども、騎士が動き出す様子は無かった。
「しょうがねェ、予定変更だな」
 息を吐き、エウリードが再び荷箱へとガントレットを嵌めた腕を向ける。
 誘いに乗ってもらえないのであれば、こちらから行くまで。とはいえ、騎士の周囲を掃除しておきたい。バリケードへと放つ為の一撃を込める。狙い定めた一撃を、男が打ち出した――その時だった。
 破砕音と共に、騎士は身を起こす。ギィ、と一つ音をたてだらりと下げられていた腕が持ち上がり、剣に炎が宿る。突き刺す様な敵意が、エウリードに向いた。
「来るぜ!」
「抑え、行きます」
 いち早く、その声に応じたのはヴフマルだった。片足を前に、スタートの態勢を取る彼の足下に陣が描かれる。その間、と零した彼の周りにぶぅん、と風が生まれる。
「バリケードの方はお任せします」
「ん、分かった」
 ニヤの前、スカイランナーはその背にオーラの翼をひらいて――跳んだ。身を弾き、前へと進んだ体は風と共に空を切り裂く。
 次の瞬間、騎士の横を駆け抜けたヴフマルの翼が黒の鎧を切り裂いた。烈音が響く中、それでも騎士の足は前に出る。邪魔をするなとばかりに剣を振るった騎士が、剣を構えればごう、と一際大きく炎が上がった。
「通さぬよ」
 その剣を、振り下ろすより早くレンは太刀を抜き払った。一刀、切っ先を向けると同時に放たれる筈だった炎が、鍔競合いの果てに弾ける。
 ぐっと、押し込む形で刃を弾き上げ、レンは片足を引く。間合いを取れば、騎士が構えを取り直すのが見える。
(「人が剣を取る理由の多くは、何かを守りたいゆえだろう。死して尚それを貫く騎士は……立派だ。大切だったのだろうか……此の屋敷も、己の誇りも」)
 だからこそ、歪んだ存在になって欲しくない。
「終わり」の時まで全うしたのだと……伝えたい。
 息を吸い、眼前の相手を見据える。抑え込むように前に回り、先手を打ったのはレンだ。赤き月の力を宿した剣で斬り上げる。踏込みと同時に、振り上げた刃は――だが防がれる。
 ギン、と重い音と共に火花が散る。手首に痺れが伝わって来た。
 さすがに、堅い。
「だが」
 零したレンの横、駆ける女の姿があった。身を前に、気がついた様に動いた騎士の横に滑らせる刃を避ける様にして、メランザは騎士の鎧に触れる。
 次の瞬間、爆発的な気が叩き込まれた。
 ごぉうん、と堅い音が響く。蹈鞴を踏んだ騎士は、みぞおちを打たれ、鎧を貫かれると僅かにその身を崩していた。じりと足を引き、身を固める為に剣を構えた騎士をメランザは見る。
 動きは、確かに鈍い。だが、攻撃の全てを避けられるかと言えば違うだろう。防御を固めた騎士を前に、た、と間合いを取る。仲間を背に、視界にバリケードは入れておく。
 長時間の抑えは厳しいだろう。
 動きを読む為に距離を開けメランザは戦場の音を聞く。後方でも、バリケードの向こうから飛び出して来たアンデッド達との戦いが始まっていた。

●守り場の担い手
「ルァアア!」
 呻く死者に、レサトは強く鞭を握る。ぶわりと燃え上がった炎は、振り下ろしと同時に散華するように死者を搦く。
「撃つことでしか、おやすみを伝えられないのは……寂しいです……ね」
 頬を擦った一撃が、チリチリとした痛みを伝えている。
 ナイフを手に、バリケードを飛び越えて来る住民達の動きは素早い。無茶な形の着地であっても、飛ぶ様に距離を詰めて来た。
 詰められた分を、レサトは後ろに飛ぶ。同時に腕を勢い良く引いて、撓る鞭で構えられた一撃を払った。蹈鞴を踏む住民を、真っ直ぐに捕らえたのはシキミだ。
「妖精達よ、アンデッド達を退治してあげて下さいませ」
 応えは、燐光と共に現れた。シキミを囲うように、現れた妖精達が真っ直ぐに指差されたその先へと突撃し、死者に終焉を告げた。
 崩れ落ちた住民を見送り、シキミは戦場を見据えた。バリケードから飛び出して来た住民は5人。事前の情報通りだ。ぐ、と一気に距離を詰めた住民のナイフがニヤの腕を切る。飛散った紅に唇を引き結んで、ニヤはデモンの翼を広げた。
 至近距離での一撃。光線が、真っ直ぐに住民を貫いた。
「くらいやがれッ!」
 振り上げと共に山神の祝福を受け、神火を纏ったエウリードの重鉾槍が死者を凪いだ。構える筈だったナイフは地面に落ち、崩れ落ちた住民の後ろ、飛び越す様に襲いかかって来た住民にエウリードは身を横に振って、避ける。毒の所為か、熱くなった体をぐっと上げてエウリードが見た先、ナイフを構えた住民がニエの引き絞った矢に射抜かれ崩れ落ちていた。
 これで、後2体。
 数を数え、すぐに次の矢を構えるニエの目に瓦礫や荷箱を積み上げたバリケードが見えた。
 守ろう、と亡き守護者や住民達の想いが唄ってる。切なくなる。
(「けれど壊そう。破壊者となろう」)
 いつかこの街へ帰ってくる人々の為に、いつかまた花と祈りの布で溢れる日々を夢見て。
 次の矢を構える――その、時だった。
 ゴウ、と言う音と共に騎士との戦場で、炎が弾けた。切っ先から放たれた炎が、レンとメランザを襲ったのだ。
「レン!」
「メランザさん!」
 無事を問う声に、騎士から一度距離を取ることで動けることを2人は見せる。問題ないと一つ、唇に乗せようとしたところでメランザはギシリという音を聞く。
「バリケードか……!」
「なら……!」
 声を上げ、エウリードはガントレットに包まれた腕を奥の戦場へと向ける。
「ブチ撒けろ!」
 撃ち出されたミサイルが、崩れ落ちようとしていたバリケードを砕き切り、破砕を避けるように跳んだレンとメランザに、回復を告げる声が響いた。
 破砕の音が、戦場に響く。
「大丈夫ですの? 今治してあげますわね」
「私は、レンさん達を」
 シキミと、ニエの回復が戦場に満ちる。
 残る住民のアンデッドはレサトの一撃に倒れた。
 これで、残るはもう――あの騎士だけだ。

●鋼の丘
 剣戟と、打撃の応酬が戦場にはあった。振り下ろされる騎士の刃は重く――だが最初程威力は無い。ニエの罠にかかり、マヒを受けた一撃は鈍い。一撃を受け止め、エウリードは、は、と笑った。
「重めェ」
 そのまま、ぐっと刃を重鉾槍で跳ね上げる。蹈鞴を踏んだ騎士を、シキミの妖精達が取り囲んだ。
 ギィイイ、と鎧の軋む音がする。暴走を受け、炎熱の切っ先は間近にあった者を相手として選んだ。振り向き様、狙う様に動いた刃にヴフマルに向かう。
「――っ」
 息を詰め、熱に耐えながらぐ、と顔を上げる。
(「勇者に頼まれた内にはきっと、不死者も、商人さんみたいな人も、ニヤみたいな人も皆入ってる。けど、頼まれたからでなく俺は俺の意志で皆に、其々願い叶う事を届けたい」)
 は、と息を吐き、勢い良くヴフマルは炎熱の刃を跳ね上げた。同時に、地面を蹴る。身を宙で回して、一気に落下すれば――ギン、と何かが壊れる音がした。
「砕けたか……!」
 レンが声を上げる。
 固められていた騎士の防御が、砕けたのだ。
(「崩れてもなお、立ち続ける騎士に敬意を。だからこそ守るべきものに剣を向けて……その名を、穢してしまわないよう、に」)
 レサトはソーンを紡ぎよせる。実体化し、穿つ力となったそれを騎士に向け、
「ここで幕を……引きましょう」
 放たれる一撃と共に、身を前に駆け出す姿がある。
 戦場に吹く風は、ニエの呼び込んだ癒しの風。風よ、と彼女は謳う。癒しを受け、メランザは駆ける。腕に残っていた血は加速と共に消えた。接近に気がつき、振り下ろされる刃より前に、メランザは出る。まるで貫手のようなスピードで突っ込み、触れた。
 瞬間、爆発する気が騎士を打ち――傾いだその身を、レンは切り裂いた。
 ギィイ、と聞こえていた音が止まる。次の瞬間、鎧のアンデッドは崩れ落ち、終わりの時を迎えた。

 マスカレイドの仮面が、砕けて消えた。それを見送るかのように、騎士の剣はその炎を消した。
 道中で花を摘んで来たのだというアレクサンドラと合流し、騎士の埋葬は、屋敷の傍で行われた。剣と、花を供えてレンは目を伏せる。
「お疲れ様……」
 きっと最期まで守った、守ろうとした騎士様へ。
 もう、終わりです、とヴフマルは言った。
「おつかれさまでした。おやすみ」
 目を伏せ、言葉を届け――そうして、エンドブレイカー達は屋敷から歩き出す。
「村の復興にゃ特に興味ねェなァ。村を助けてェって奴がいるなら多少は付き合ってもいいけどよ」
「じゃぁ手伝ってもらってもいい?」
 エウリードの言葉に、ニヤが顔を上げる。
 やがてニエが手によって、バリケードが崩される。その向こう、見つけた人々も一緒に埋葬をする。
 いずれ、町に人が戻るだろう。屋敷と、騎士を知る人々が。
 そうしていつか、町にはまた暖かな光が灯る。それを信じて、エンドブレイカー達は騎士の眠る町を後にした。



マスター:秋月諒 紹介ページ
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いまいち
参加者:7人
作成日:2014/02/08
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