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≪Studio【Tick Tuck】≫知られざる死闘

<オープニング>

 重そうな瓶を抱えた若い娘が、上の空で路地裏を歩いている。
 なにか嫌なことでもあったのだろうか、娘の顔はうつむきがちで、道の逆側から来る4人組にまだ気づいていない。
 ――ドンッ!
「きゃっ?!」
 ぶつかってから存在を認識しても、もう遅い。抱えていた瓶は取り落としてしまい、中に入っていた液体が周囲に飛び散ってしまった。
「あっ、ご、ごめんなさ……、ひっ」
 慌てて謝ろうと、娘は4人組に目を向けたが……途端に息を呑む。
 ――そのあまりの凶相ぶりに。
「このアマ、坊っちゃんになにしやがる」
 真っ先に睨めつけてきたのは、禿頭の男。男としては低い背丈だが、服の上からもわかるほどに鍛え上げられた身体は実に剣呑だ。
「……」
「フフフ」
 そして、その後ろには長身の男がふたり立っている。ひとりは長大な太刀を佩き、無表情な顔の中で瞳だけが荒んだ光を放っている。アマツカグラからの流れ者といった風情だ。
 もうひとりは黒い三つ揃いのスーツを、神経質なまでにきっちりと着こなした眼鏡の男。冷笑を浮かべる男の手に得物はないが、懐に何か潜めているのだろう。
 そんな3人組を制して、残るひとりが前に出た。上等な衣装に似合わぬ若さの男は、ひどく捻くれた笑みを浮かべている。
「まあまあ、先生方落ち着いて」
「坊、今日はずいぶんと優しいな。どうした?」
 スーツの男がわざとらしい驚きを浮かべて問う。
「いえなに、こんな娘の無礼を罰するくらい、僕1人で十分ですから。ね?」
 坊と呼ばれた男は、一層邪悪に笑みを深める。
「くくっ、そうかい。坊の好きにするといい。歯ごたえのある奴が来たら任せてくれよ。蜂の巣にしてやるさ」
 肩をすくめるスーツの男に、禿頭の男が鼻白んだ。
「弱いのを嬲るのが大好きな奴が、何を気取ってやがるんだ」
 太刀の男はすでに興味を失っているのか、壁に背を預け、瞼を閉じている。
「さて、どうしてやりましょうか」
「い、いや。近寄らないで……」
 腰を抜かした若い娘は後ずさるが、それでは逃れようがなく。
「そうそう、もっと怯えた表情を見せてくださいよ」
 ――本当の不幸は、ここに始まる。

「大変、大変なんだよ!」
 慌てた様子で酒場に駆け込んできた、うっかりボコる群竜士・リチ(c33420)が告げる。
「女の人がなぶり殺しにされちゃうエンディングを見たんだ」
 リチが言うには、その女性は大した落ち度もないのに因縁をつけられて、殺されてしまうらしい。どうやらこの辺りの路地裏に、快楽で殺人を犯し続けているマスカレイドが現れているようだった。
「このままじゃ、その女の人以外にも、きっと犠牲者が出ちゃう。だから、そうなる前にリチたちでマスカレイドを倒しちゃおうよ!」
 現れるマスカレイドは4人だ。豪商の放蕩息子らしき男と護衛の用心棒3人組で、それぞれ太刀の武芸者、紫煙銃の城塞騎士、バトルガントレットの群竜士である。
 ただ護衛ということになってはいるが、実のところ、放蕩息子を真剣に守る気はないようにみえる。己の欲望に忠実なマスカレイドらしいというべきか。
 用心棒3人組は戦い慣れており、互いに協力して敵と退治する厄介な相手だ。こちら側がどう対応するかが問われることになるだろう。
「このマスカレイドたちは、薄暗くなった頃から4人で路地裏を徘徊してるみたいだよ。姿を隠そうとかしてないから、探せば簡単に見つかるはず!」
 相手も人通りの多い場所で騒ぎを起こそうとは考えていない。場所は自ずと人気のないところとなるだろう。
「そうやって見つけたら、あとはボコるだけだよね! 4人組のマスカレイドを一人残らず倒しちゃおう。そうすれば、もう事件の心配をしなくていいよね」
 そうしてリチは、ギュッと握った小さな拳を突き上げた。
「用心棒の3人組は凄腕みたいだけど、リチたちならきっと勝てるよ。みんなで頑張ろうね!」


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参加者
銀雷閃・ツルギ(c08167)
白虎武者・ゼロ(c08351)
異界の剣客・ウォリア(c17006)
彩風に踊る妖精・シル(c25139)
導きの紅き月・ルア(c28515)
デモン機巧少女・ルミティア(c30986)
黄金戦姫・アンゼリカ(c32742)
うっかりボコる群竜士・リチ(c33420)

<リプレイ>


 朽ちかけたような民家が立ち並ぶ通りを、4人組の男たちが歩いている。
 中心にいるのは放蕩息子らしき青年。残る3人で、その放蕩息子を守るように取り囲んでいた。
 ――守る? いや、その表現は正しくない。彼らの視線は犠牲を求めて周囲を彷徨っているのだから。
 だが幸いにして、ここで4人組と邂逅する相手は只者ではない。

 黒の鎧姿は、前触れなく現れた。
 4人組の前へと唐突に姿を見せて、幼気な少女の声を張り上げる。
「やいやいアンタ達! 誰の許可を得て、ここを通ってるの! ここは我らチクタクマフィアのテリトリーよ!」
「……なんだとぉ? 聞いたこともねぇ名前だな!」
 一瞬面食らった顔をした禿頭の男が、それを隠すように肩を怒らせて息巻いた。
 黒の鎧姿はメイガス乗りである、デモン機巧少女・ルミティア(c30986)だった。さらに彼女が高く吹いた指笛の音にあわせ、仲間たちが次々と姿を現す。
 暗がりから浮かび上がるように、ひっそりと音もなくその長身を晒したのは、異界の剣客・ウォリア(c17006)だ。
「見参……」
 彼は大見得を切ったルミティアの懐刀のように、ゆらりと彼女の傍らに立ち、陰気に告げた。
 対照的に、黄金戦姫・アンゼリカ(c32742)は胸を張って、堂々と現れた。
(「腕利きのマスカレイドたちか。腕が鳴るなっ」)
 恐れなど微塵もなく、ただただ積極的に。
「テリトリーを勝手に通ろうとする仮面は、しーけーい、だぞっ」
 だからアンゼリカの声は、こんなにも明るく響くのだろう。
「そーれっ!」
 うっかりボコる群竜士・リチ(c33420)は姿を見せた直後に、水がたっぷりはいった瓶を放蕩息子めがけて投げつけた。
「おいおい、何のつもりですかーッ?」
 瓶の直撃は交わしたものの、飛び散った飛沫で濡れた放蕩息子が苛立たしげに声を上げている。
「宣戦布告ってことだよ!」
 そんな放蕩息子にリチはビシッと指を突きつけた。
 いずれにせよマイペースな仲間たち。頼りにしていると、さっと視線でひと撫でし、ルミティアはマスカレイドに向き直る。
「通りたきゃ通行料をいただこうかしら! そうね、アンタ達なら」
 言葉を区切った彼女の瞳が細まり、続く言葉は鋼の冷たさを帯びて。
「――その首、置いていけ」
 ――ぎらり。
 ウォリアが合わせて抜き放った大刃が、鈍く剣呑な光を放った。そしてそれ以上に鋭いウォリアの視線がマスカレイドたちを穿つ。
 導きの紅き月・ルア(c28515)もまた、構えた紫煙銃の狙いを定めた。
 4人組のうちの1人、無口な武芸者はそれを見て太刀に手をかけ、ボソリとつぶやく。
「……殺り合うか」
 騒がしい開幕から、一転しての殺意。睨み合う両者間の緊張は、いやが上にも高まりゆく。
 そんな重い空気の中で、白虎武者・ゼロ(c08351)は楽しげに唇の端を持ち上げて、ひとつの金属塊を宙空へと放り投げた。
 金属塊はゆったりと回りながら次第に折りたたまれた身を展開し、腕甲の姿となる。ゼロはそれをサードアームで掴みとり、突き出した右腕に纏う。
 肩をぐるりと回し、腕甲の具合を確かめたゼロは不敵な声音で告げた。
「そういうことだ。何、端から決まりきったことだろう?」


 後方に立つ、彩風に踊る妖精・シル(c25139)は白銀の長杖を握りしめて前方の敵を睨みつけた。
(「しっかりと不幸の芽、摘みにいかないとねっ」)
 決意を胸に、心を交わした妖精へと呼びかける。
 ――狙いは、敵の後方に留まっている、眼鏡をかけた城塞騎士だ。針を手にした妖精たちを殺到させ、まとわりつかせる。
 それを横目にアンゼリカは、自らの身の丈よりなお大きな黄金の槌を振り下ろす。

 ゴオッッッ!

 生まれた衝撃波が地を滑るように広がって……、無口な武芸者に襲いかかった。
 武芸者は正眼に構えた太刀で受け止めたが、相殺しきれてはいない。その側方からさらにリチが絡みついていく。
「ちょっと下がっててもらうんだよ!」
 強く地面を蹴って一挙に距離を詰め、無口な武芸者に取り付いた。
「……邪魔だ」
 武芸者は振り払おうとするが、その前にリチは武芸者の身体を浮かせ、全身で投げ飛ばす。
「アンタも脇にどいてなさいな!」
 リチに呼吸を合わせて、ルミティアもまた禿頭の群竜士の懐に飛び込んでいた。
 腕甲で固められた拳を、腰の回転を乗せてフック気味に放つ。拳は群竜士の脇腹に叩きつけられ、そのまま力任せに弾き飛ばした。

 放り投げられた武芸者が身体を起こした時に目にしたものは、焔が揺蕩う宝剣を掲げた銀雷閃・ツルギ(c08167)の姿だった。
 武芸者が刃を構えるよりも早く、ツルギは先手を取って技を仕掛ける。
「さぁ、強者を望むのだろう……? 望むからにはそれだけの力を持つのだろう?」
 突き出した剣を炎が覆い、
「ならばその力、……魅せ! 示し! 来い!」
 紅蓮の刃が風を裂いて、
「あたしらはその上でなお、あんたを叩き潰してみせよう!」
 武芸者の身を赤々と照らし、なお削る。武芸者は無造作に放った斬撃でツルギを引き離し、強引に距離を取った。
「……よく喋る女だ」
 ツルギに向けられた瞳は、ひどく荒んでいる。その様を少し気にかけながら、ツルギは武芸者に向き直って問う。
「あたしはツルギ・禰宜・ヴィクター。あんたの名も聞いておこうか?」
「……名などに意味はあるまい」
「打倒した強者の名……我が心に刻む為、是非とも教え給え」
「無用なこと」
 だが、武芸者の返答はそっけなく、ツルギは残念に思いながら、敵の太刀筋に専念した。
 武芸者を相手取ろうとしているのは、ツルギだけではない。
「仮面憑き……、我が刃で斬滅する……!」
 長身のウォリアが両腕を広げた構えから、まるで星を叩き落とすように豪快な斬撃を放つ。
「……ふ。面白い。某の太刀も受けよ」
 武芸者は血を流しながら、凄絶な笑みで応えた。その笑みの前では、太刀に帯びる神火すら瘴気めいて見える……。

 武芸者と群竜士が後方に吹き飛ばされたのを見て、眼鏡の城塞騎士は唇をひん曲げた。
「おいおい、格闘戦は好かないのだがね」
「……苦戦だとか言わないでくださいよ、先生?」
「もう少し信用してくれてもいいのではないかな」
 放蕩息子が問いには肩をすくめてみせるが、その間にも城塞騎士のトリガーを引く指は止まらず、次々と弾丸を吐き出し続ける。
(「ずいぶんと余裕ね」)
 城塞騎士と放蕩息子の2人のマスカレイドの会話を耳に挟み、ルアはもやっとした気持ちを抱えた。
 放っておけば、こんな軽さであのエンディングのような痛ましい事件に手を染めるのだろう。
(「そんなの、見ていられないわ」)
 ルアの高まる魔力は、電撃の檻となって放たれた。城塞騎士を中心として網目のように電撃が張り巡らされ、雷光が城塞騎士の身体を打つ。
(「俺様も城塞騎士に回りたいが……、まずは放蕩息子の方だな」)
 ゼロは冷静に判断を下して動きだした。肩までをも覆う腕甲の指先から、続けざまに小さなミサイルを射出する。
「おっと、坊。狙われているぞ」
「貴方、用心棒でしょうッ。少しは守る気を見せろッ」
 苛立たしげな放蕩息子と、どこか冷めている城塞騎士が言葉をかわす中、ミサイルが炸裂し、煙が放蕩息子の姿を覆った。
 ――タン、タン、タンッ。
 直後、軽やかな音が3つ響き、煙の中に小片が撃ち込まれた。それはシルが放った世界樹の弾丸。
 晴れていく煙の中で腕を抑えている放蕩息子に、シルはまっすぐに指を差し向けた姿で告げる。
「いたぶるのが好きなんだってね」
 少女のあどけなさは、酷薄な視線を印象付けるために添えられたスパイスのよう。
「それじゃ、自分でもいたぶられる目にあってみよっか?」
 そしてシルが浮かべた笑みは、まるで氷のそれだった。


「そこのメイガス、中身は乳臭いガキか? 1人でオレを相手にするとはいい度胸だな!」
 群竜士は吠えながら、ルミティアに打ち掛かる。手数を優先しているように見えて、一撃一撃も重く、傷があっという間に深くなっていく。
 それでもなおルミティアは分厚い刃を振るい、一歩も引かずに群竜士と戦い続けていた。
「ふん、アンタたちこそ満足に連携も取れてないじゃない? こっから先も、させやしないわよ!」
 剣の縁を奔る刃が立てる轟音は、向けられた方からすれば、たまったものではないだろう。
 そんなルミティアに、アンゼリカが審判の天秤の力を借りて加護を与え、傷を癒やす。
「ルミティア、私が行くまでとっとくんだぞ!」
 口ではそんな軽口を叩いていたけれど。

 ルアはあくまでクレバーに銃撃を重ねていく。城塞騎士の行動に一手先じて妨害するように、集中させぬよう、時には注意を逸らすように。
 そして出来た隙へと、ゼロが一気に踏み込んだ。右腕の腕甲を前面にかざして盾にしながら拳を固め、城塞騎士に迫る。
「なぁ、お前。確か歯ごたえのある奴は蜂の巣にすると言ったな? やってみろ。俺様はその間に、お前に風穴を開けてやる!」
 対する城塞騎士はゆらりと紫煙銃の砲口をゼロに向けた。黒のスーツは汚れ、もはや見る影もないが、立ち振舞は変わらない。
「その言葉、後悔しないことだ」
 切れ目なく放たれる射撃。前面に持ち上げた腕甲で幾らかは弾き、幾らかの痛みには耐えて、ゼロは間合いを詰めた。
「いくぜ……!」
 背が見えるほどに腰を捻り、溜めた力を一気に解放する。腕甲の表面では、高まりきった力がバチバチと爆ぜている。
「チィ……ッ!」
 ――ドゴン!
 拳は重い音を立てて、城塞騎士の脇腹を突き上げた。マスカレイドの目が苦しそうに見開かれ、膝から崩れ落ちていく。
 放蕩息子は衝撃を受けて、言い捨てる。
「この役立たずが……ッ」
「フ、坊はせいぜい生き足掻くといい……」
 その言葉を最後に、城塞騎士は果てていった。

 武芸者を中心とした争いは、まさに修羅の様相を呈している。
 武芸者が振るう太刀が、紅蓮の炎を巻いて戦場を焼きつくしたと思えば、ウォリアが振るう剛剣がそれをまた爆砕する。
 そして、つかの間の静寂。ツルギは間合いを測りながら、静かに語りかけた。
「あんたの様な奴は、数多く識っている。皆誇り高き猛者であった。あんたもそうだな、認めよう。ならば、あたしもまた武を示し、打ち勝ってみせる」
「然らば言葉など不要。武で示せ」
 武芸者の返事はあくまでそっけないものだ。
 だが、これが最後の一合となりそうな予感がしている。
「同郷の者……、主の命にて斬る……」
 ウォリアもまた結末を感じてか、昂って収まりきらぬ感情のうねりが溢れだし……。
「ウオオオオオォォォォーーーッ!!」
 まさに静からの、動。
 咆哮とともに飛び出し、破壊の力を大剣に乗せて躱しようのない一撃を繰り出した。武芸者は左半身を犠牲に差し出しながら、豪炎を纏わせた右手の太刀を振るい、ウォリアとツルギ、その2人を亡き者にしようと図る。
 そこでツルギは、あえて瞳を閉じた。
 暗く閉ざされる視界。その中に紅蓮の殺意を見出し、薄皮一枚で見切る……!

 ――ザシュッ。

 そして愛剣越しに両手で感じた、確かな手応え。ツルギは敵の姿を確かずとも終わりを確信していた。

「ルミティア、お疲れ! さて、どのくらい鍛えているのかな! 私も鍛えているんだぞー!」
 アンゼリカはようやくお目当ての群竜士と向き合って、楽しそうに笑う。
「このくらいどうってことないわ。……アンタで最後ね」
 ルミティアはあくまで平静に応じ、群竜士に冷めた目線を向けた。逃げるのか、と問うているようにも見える。
「はん、あいつらもヤキが回ったな。そら、まだまだだ!」
 だが用心棒仲間の2人が倒れても、群竜士はそんな素振りすら見せず、フェイントを織りまぜながらの攻撃を仕掛けていく。
 だが、城塞騎士や武芸者に向かっていた分の攻撃も集中されて、長く持つわけもなかった。
 あっという間にボロボロになっていくが、それでもなお拳を振るう。
 アンゼリカは、最初から向き合っていればもう少し張り合えたかなと残念に思う。けれど、それは考えてもしかたのないこと。
 だから、沈みゆく相手を前にして、明るく笑ってこう云うのだ。
「私のボディのほうが強かったなっ♪」
「……ったく」
 そして舌打ち一つ残し、群竜士は息絶えた。

 結局、最後に残されたのは、放蕩息子ただひとり。逃げようとはしたもの、チェイスの印を打ち込まれ、取り囲まれて為す術がない。
「くそっ、何なんだよ、こんなの聞いてませんよッ」
 その姿を前に、シルは冷笑する。
「反省してくれないんだね。向こうでしっかりと反省できるように……ここで、頭冷そっか?」
 シルの手の中で、強い祈りの込められた世界樹の弾丸は神々しく光り輝いている。どこかでもったいないとすら思いつつ弾丸を放ち……。
 何発もの弾丸で撃ちぬかれた放蕩息子は、今や物言わぬ樹木と化していた。


 やがて路地裏は、一時の喧騒も失せて、ただのうらぶれた通りに戻った。
(「終わってしまえば、どうということもない」)
 腕甲を外したゼロがひとりごちる。外した腕甲はハイドウェポンで折りたたみ、懐にしまった。
「どんなに凄腕の用心棒さんでも、リチ達エンドブレイカーの前には敵じゃないんだよ!」
「ああ、そうかもな」
 威勢のいいリチの言葉には、苦笑気味に頷いておく。
 ルアは戦闘を終えた開放感からか、大きく深呼吸をして空を見上げていた。なぜだか、目尻に涙がにじむ。
 それは、戒律に縛られていた過去を、ふとしたはずみで思い出してしまったから。感謝を皆に告げようかと思ったけれど、それはこの場には相応しくない気がして、心の奥に止め置いた。

「せめて墓に名前くらい刻んでやりたいところだが……」
 消えゆく強敵に手を合わせ、ツルギがつぶやいた。
(「あんたの武は、たしかに我が心に刻まれた」)
 ツルギの身体から高揚の熱は嘘のように消え去っていた。今はただ、刃を交えた相手の冥福を静かに祈るのみ。
 デモンリチュアルで4人組の遺体を無に還したルミティアが、皆のほうに向き直って問う。
「なんだかおなかすいちゃった。みんなはどうー?」
「いっぱい動いたら、おなか減ったろー。どっか食べにいこっか♪」
 疲れも見せず、アンゼリカが元気に応じる。その言葉を証明するように、大きな音が響いた。
 ――ぐううぅぅぅ。
「……空腹也」
 出処はウォリアの腹の音。皆の視線を一身に集めながら、彼はまったく悪びれた様子を見せない。
「んー、ひと仕事した後だし、どこかでお茶でもしていこうか?」
 ざっくりとした後始末を終えたシルが、だいぶ上にあるウォリアの顔を見上げて微笑むと、ウォリアはこくり、と首を縦に振った。

 激闘の跡は多少残っていたけれど、雨でも降ればきっとそれも洗い流される。そして、誰も知らぬ間に始まり、終わった物語は、気づかれることすらなく風化していくのだろう――。



マスター:Oh-No 紹介ページ
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いまいち
参加者:8人
作成日:2014/02/21
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