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風雲のシャルムーンデイ:砂月楼閣の姫君

<オープニング>

●勇者シャルムーンとシャルムーンの惨劇
 砂月楼閣シャルムーンの宮殿には感謝の祈りを捧げる人々が集まっていた。
 宮殿には厳重な警備がしかれ中には入れない。それでも人々は勇者シャルムーンへと祈りを捧げに来る。
 その祈りの先である勇者シャルムーンは宮殿の最奥、一番の荘厳さと豪奢さを誇る場所にいた。
 幾重にも重なる紗の先、カウチソファーに上質のクッションをいくつも置いた中にゆったりと身を沈め彼女は寛いでいる。
 傍にある瑞々しい果実の一房へとその指先を伸ばし、ひとつをもいで口元へ運ぶ。けれどそれを含むより先に唇は言の葉を紡いでいた。
「結界を破られ、エンドブレイカーに都市内部に……」
 それは現状。エンドブレイカーの外部からの干渉や感知を阻む、見えざる結界はピュアリィの女王達を倒され消滅した。なおかつ、ピュアリィの女王達を失い戦力は削られている。この状況はシャルムーンにとっては望ましくない状況であった。
 けれど、シャルムーンは笑みを浮かべる。
「それでも私の優位は揺るぎません」
 まだ策がある。それはシャルムーンデイを利用するというもの。
 今日この日、シャルムーンデイを惨劇に染め上げることで情勢は挽回可能なのだから――そう零しシャルムーンは果実を指先の内で遊ばせながら暫く見つめ、その瞳を伏せた。
「失態などありえません」
 まるで自分に言い聞かせるようなその言葉。シャルムーンの脳裏にあるのはランスブルグでの戦いだ。
 そこに援軍で加わっていたシャルムーンは知っている、慢心はいけないと。エンドブレイカーを侮ってはいけないと。
 あの戦いで負けを認めた若草の乙女の姿を瞼の裏に浮かべ瞳を開く。
「私はアリッサムのような失態は――しません」
 そのためのシャルムーンデイ。彼女のように負けることなどないとシャルムーンは紡ぐ。
 シャルムーンの胸中は穏やかというわけでは決してなかった。感じる焦燥を沈めるように、指先で遊ばせていた果実をその喉元に今やっと、落とした。

●シャルムーンデイに渦巻く悪意
「シャルムーンデイは楽しいお祭ですわ」
 けれど、そうならない絶望があるのだと紫煙銃の城塞騎士・レミィ(cn0151)は仲間達へと告げた。
 シャルムーンデイ。それは人々にとって楽しい祭。
 けれど――勇者シャルムーンはその祭を利用し、都市国家の市民たちを絶望に突き落とそうとしているのだ。その絶望が巻き起こる場所を太刀の魔獣戦士・ミギナ(cn0032)が紡ぐ。
「シャルムーンの花園、ダンスパーティー会場、シャルムーンバザール、勇者シャルムーンの像広場、そして星霊のオアシスで色々起こるんだが」
「代理者のアジェンドさんとかぁ、他の情報屋さん達がその話、知ってるよぉ」
 ミギナの言葉を遮って枯の忍者・コナタ(cn0207)が続ける。それぞれが詳細を話してくれており、ちらりと話を聞いておくのもいいかもしれないと。
「事件がおきればシャルムーンは絶望に染まり、倒さねばならぬ相手である勇者シャルムーンは大きな力を得てしまいますわ」
 多くの悲劇が生まれる。けれどそれを防ぐための力をエンドブレイカーは持っており、そして許すことはない。
「つまり、これを潰すために動いてほしいっつー話なんだけど」
「そうそう。勇者シャルムーンの思惑打砕いてぇ、悔しがらせようってわけなんだ」
 ね、とコナタが視線向ければ、レミィは笑みで応えて、くるりとその場にいるエンドブレイカー達を見回した。
 わたくし達からもひとつ、赴いてほしい場所をお伝えしますと。

●その向かう先は――
「僕らがね、お願いしたいのはぁ」
「先ほどあげた場所ではなくて」
 どこか歯切れの悪いような、本当に伝えていいのか惑うようなその声色は向かう先がとても危険な場所だからだった。
 その行き先をミギナが告げる――勇者シャルムーンの宮殿、と。
「宮殿に向かうってことは……まー、やれんならシャルムーンの仮面割っちまえってことなんだけど」
「簡単にできることではないのはお分かりかと」
 それは今まで勇者達と重ねてきた戦いを思い返してのこと。簡単に倒せる相手ではないこと必至。
 それに相手も強いが、その場所は敵だらけの場所だ。
「勇者シャルムーンがいる宮殿はすごーく警備がキツイから簡単に乗り込むことはできなさげなんだ」
 でも、とコナタは言う。
 このシャルムーンデイの騒動。エンドブレイカーの活躍で勇者シャルムーンの計画を尽く阻止する事ができればシャルムーンも黙っていないはず。
 宮殿の警備を割いて対応にでたり、自ら陣頭に立とうとしたり――宮殿を捨てて逃げ出す準備をするかもしれない。
「シャルムーンがどう動くかはまったくわかりませんが、宮殿に乗り込む隙はできるかもしれません」
 宮殿に乗り込む隙ができるようならば、勇者シャルムーンに肉薄し可能ならば討ち取る。
 それがこの作戦なのだ。
「勿論隙ができなければ襲撃はできません。襲撃が行えたとしても、非常に危険な任務になります」
 襲撃を行うか否かも含めて、この作戦に加わる皆様に一任いたします、とレミィは続けた。
 実行するかしないか、それは皆様次第と。
「相手は勇者、簡単に辿りつける相手ではありませんが、討つ機があるのです」
「うまく討ち取る事ができれば砂月楼閣シャルムーンを解放する事もできるだろうし」
 ミギナの言葉にそうですわねとレミィは頷く。と、その傍らでコナタは小さく笑みを零した。どうしたのか、とミギナが視線を向けるとそれに気付いて。
「なんかね、僕らが勇者に恋してるみたいだって思って」
 シャルムーンデイという日に告白をする為、いつもは手の届かない相手でもチョコレートを渡す為、障害多くともその機を伺う。
 それと、似ていると。
「確かに……こちらは近づく機を伺ってますからね」
「渡すのはチョコレートじゃねーけどな」
「勇者への想いの伝え方はひとつだよねぇ」
 その伝え方は――エンドブレイカーとしての伝え方は勇者シャルムーンをその棘から解放する事。
「過激で野蛮で本気の求愛だよねぇ、これ」
「わたくし達の想いを伝える事は容易い事ではありませんが、それでも」
「それでもやってほしいつって託すしかねーから」
 けれどそれは信じているからこそで。
 思う限りをやってきて欲しいと言って情報屋達は宮殿に向かう者達を見送った。
 無事に帰ってくることを、祈りながら。


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参加者
荒野の山羊使い・セヴェルス(c00064)
血華舞踏・エシラ(c00097)
ピュアリィ生死不明十一回の男・レイジュ(c00135)
獅子星・ウセル(c00535)
砂月楼閣に謳う小鳥・ロリータ(c01347)
阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)
戦神無宿・フェリアル(c02753)
真理の探究者・ルーシー(c03833)
天藍・レンマーツォ(c07929)
暁天の焔・ナナセ(c07962)
赤き静焔・ジゼル(c08357)
焔棘・ケーナ(c10191)
誇り高き勇者の乙女・ミカ(c10764)
稲妻の如き戦慄の・アスール(c13470)
臥した獣・カーリグ(c13476)
白詰の庭・プティパ(c13983)
征服者・ヴィンツェンツ(c15253)
自分に正直な男・マルテル(c16131)
鳥曇・アサノア(c19009)
青の懲罰記者・トウカ(c22431)
混世魔王・ファウナ(c22864)
不定形の飼育者・テケリリ(c26225)
夜陰に咲く六花・ルーシア(c27132)
杖の星霊術士・ミナ(c28404)
朱陽ノ戦姫・レイ(c29148)
インフィニティーアゲート・クレア(c31055)
吉凶天現・ミソハ(c31436)
朱き暴風・オデッド(c31743)
喫茶店ミミに生えてる雑草・ティルキア(c33712)
危険なモブ・イザボー(c33892)

<リプレイ>

●シャルムーンデイのその日に
 シャルムーンデイ、その早朝。宮殿の周囲には人々があふれ、警備も厳重。
「賑やかだねぇ。あのあたりが中央部かね」
 荒野の山羊使い・セヴェルス(c00064)は人目につかぬ少し離れた高所より、その様を見ていた。
「シャルムーンブレイクはさせん」
 獅子星・ウセル(c00535)もまたその宮殿を見つめ強い言葉を落とし、得た情報を持って目立たぬよう仲間達の下に。
 その途中、朱陽ノ戦姫・レイ(c29148)も合流する。周辺に詳しそうな老人を探し、話を聞いてきたのだ。
 その頃、遠くからやってきた迷子のふり、のはずが本当に迷子になりそうになりつつ吉凶天現・ミソハ(c31436)は人に紛れていた。人々の声は今日を祝うもの。
「今日はシャルムーンデイ!」
「シャルムーンさまに感謝を!」
 そんな声が聞こえてくる。人々の祝いの声は宮殿前に溢れかえっていた。
 エンドブレイカー達は5人ずつ、6つの班を作り襲撃の機までそれぞれで行動していた。
「それでも嫉妬戦士としてシャルムーンは我が手で撃ちシャルムーンデイ廃止宣言しよう」
 その待機時間中、隠れた場所で静かに日頃より悪(という恋人達)と戦い正義を示す嫉妬戦士としてこの戦いはと葛藤した末、自分に正直な男・マルテル(c16131)はそう結論付けた。
 物陰から混世魔王・ファウナ(c22864)は見ていた。今いるのは宮殿の見える、大きな通りからひとつ入った路地だ。血華舞踏・エシラ(c00097)が名を呼ぶ。その手には宮殿、そして周囲の死角ポイントを記した地図。それは正確な地図を作るに長けた者達が皆より受けた情報を元に作成したものだ。
 それによると、宮殿に30人で攻め入る事ができるのは正面の、今とざれている門だけ。
 人の間からそっと路地に入った臥した獣・カーリグ(c13476)は宮殿にいる勇者を思う。
 もし、祈りを捧げられるシャルムーンが拒絶体であったなら全力で助けるのだがなと。
 旅人の振りをしていた焔棘・ケーナ(c10191)もまた情報収集を終えてそこへ合流した。
「色んな話が出回り始めたぜ」
 それは仲間達の活躍の報。祈りの声の中に砂月楼閣シャルムーンで発生している事件の噂話が流れる。
 その話を今丁度、赤き静焔・ジゼル(c08357)達は耳にしていた。
「なんか市街で起こってるらしい」
「おめでたい日なのに……ピュアリィがでたらしいわね」
「他には何かお聞きになりました?」
 砂月楼閣に謳う小鳥・ロリータ(c01347)が問えば、口々に人々は聞いた噂を紡ぎ始める。
 巨獣がでた、アンデッドがと。
「千の絶望が世界を覆うのならば、万の希望をもたらせばよろしいかと」
 人々に混じり不定形の飼育者・テケリリ(c26225)は言う。それことがエンドブレイカーたる証。そして今頃各所で果たされているはずだ。
 人々の間に敵の斥候らしきものはと青の懲罰記者・トウカ(c22431)は視線巡らせるが、そんな姿は今の所無い様子。
「うう……シャルムーンに祈っても恋人ができないよう」
 危険なモブ・イザボー(c33892)はその中で傷心の娘を演じ、疑心を植え付けようとしつつ各地の話を聞いていた。
「きっとシャルムーン様がなんとかしてくださるわ!」
「そうだな、シャルムーン様が!」
 人々の期待が募る中、宮殿からの動きは何もない。
 エンドブレイカーは知っている。それらはシャルムーンが引き起こした惨劇であるのだ、彼女が何かするわけがない。
 しかし、また続報が届き始めた。
「巨獣と戦ってる人がいるらしいぜ! なんか名乗ってたらしいんだけど」
「ああ、俺もきいた!」
 その巨獣と戦う者達は、エンドブレイカーと名乗っているらしい。エンドブレイカーが戦っている。
 それが噂として散じるのは早かった。自分達を助けてくれる存在というものは人々の心を打つものがある。
 エンドブレイカーの名前が人々の間に伝わり始める。と同時に宮殿内がざわつき始めた。
「警備がざわついてるわね……」
「何かあったのかしら……」
「姫様を守って下さっているのですね。私は初めて来たのですが、いつもどれ位の方が守ってくれています?」
 人々がざわつく。その中に紛れ真理の探究者・ルーシー(c03833)はそっと集まった人々へと尋ねてみた。だがそんなのはわからないという答えのみ。
 けれど、何かいつもと違うということはわかった。
 それは宮殿の様子を視界に納めていた者達も気付くあわただしさに膨れ上がる。
 やがてその理由は宮殿の周囲に集まっていた者達からの声によって知る所となるが、エンドブレイカー達はその動きが何であるか、予想がついていた。離れた場所にいた仲間達もその慌しさに集まり始める。
 そして人々の中からやがてひとつの声があがった。
「勇者シャルムーン様の兵が、騒動を沈める為にご出馬なされる!」
 その声が瞬く間に人々の間に広まった。シャルムーンが人々の為に動いてくれたのだという彼女を讃える声が増えた。
 だがこれは騒動を静める為の出陣でないと知っているのはエンドブレイカーだけだ。
 シャルムーンの陰謀を阻止すべく各地で戦っているエンドブレイカーを撃破する為の出陣であることは間違いない。
 わあああと歓声があがる中、ひそやかにタイミングをはかる。
「30人一丸で行くなら正面から、ですね……」
 天藍・レンマーツォ(c07929)は呟く。事前の調査で入口となる場所が正面の門しかない事はすでに皆わかっていた。近くにいた誇り高き勇者の乙女・ミカ(c10764)も参りましょうと言う。
「いちかばちかですわ!」
 それに、と夜陰に咲く六花・ルーシア(c27132)はこれから向かう先へ視線向けた。
 そこで順位しているのは各地に出向こうとしている出征間近のマスカレイド達。
「これはマスカレイドの増援です。これを許せば今戦っている皆さんが危機に陥ります」
「今ここで突入するべき、か」
 ピュアリィ生死不明十一回の男・レイジュ(c00135)は行こうと仲間達とともに人垣を掻き分けた。30人が一丸で行動する以上、こっそり忍び込む潜入作戦はとれない。
 人々は出征の為に道を開け始め、敵の姿はすぐに見て取れた。
 待機している仲間もすぐ駆けつけるだろう。門が開き、マスカレイド達が出陣しようとしている今が奇襲をかける好機。
 むしろ今、このタイミングしかなかった。

●宮殿への突入
 最初の一陣目が斬り込んだ。それはレイジュ達、5班。城門の中、宮殿前の広場で待機しているマスカレイド達へと走り込み奇襲をかけた。
 遠征に行くため、ラクダに騎乗しているマスカレイド達、およそ30体。けれど騎乗している今、マスカレイド達の受けるダメージは――二倍だ。
「ボクは、ボクのやれる事をする! それだけ」
 ホントのシャルムーン姫を奪還しに行くと、レンマーツォが斬魔刀 倶梨伽羅に流水の如きオーラを乗せ切り伏せ、レイジュは頭部に瞳を現しその凝視でもって敵の手足を宝石化した。
 イザボーはその車輪で敵をひき潰し、ミカが無数の矢を放ち敵の動きを妨害した。その隙にルーシアが生み出した白銀の鎖が多くの敵を絡めとる。
「エンドブレイカーの奇襲か! みな、ラクダから降りて戦え。このままでは不利だっ!」
 一方的に攻撃を受け、マスカレイド達はラクダより降りて戦おうとし始める。
 だが敵がもたついている間にさらに6班が戦闘に加わった。数の若い班をより前に進めるためにこの場を切り開くべく。
「お待たせしました!」
 参戦を告げながら白詰の庭・プティパ(c13983)の魔獣の腕が騎乗したままの敵を一撃の下に握りつぶす。
「アスールさん!」
 プティパの声の意を受け取って稲妻の如き戦慄の・アスール(c13470)は任せてと複数の光輪を創造し飛ばす。ラクダから降りた敵は今もたついているがすぐ攻撃に移るだろう。
 敵数の多い今、杖の星霊術士・ミナ(c28404)は星霊クリンを召喚し、インフィニティーアゲート・クレア(c31055)は魔道書より呪詛光線を放ち記憶を喪失させる。
 一方的な展開に回復の必要はなく喫茶店ミミに生えてる雑草・ティルキア(c33712)もまた2体の星霊バルカンを召喚し浄化の結界を形成した。
 半数程度のマスカレイドはラクダを降りる前に攻撃を受け、やっとなんとか戦える状況だった。
 しかし、そのときにはもうすでに城門前はエンドブレイカーに制圧されたも同然。
「門を閉じるのを頼む!」
 ゴーグルをセットし鳥曇・アサノア(c19009)も戦場へ加わる。ジゼルがその声に応えるのを耳にしつつ、背にオーラの翼をもって加速し敵を切り裂く。その軌跡に乗って戦神無宿・フェリアル(c02753)、阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)が敵へ斬りかかる。
「簡単には負けてらんないのよ!」
 朱き暴風・オデッド(c31743)は膨張したクラビウスをけしかけ、ルーシーは黒杖より蜘蛛糸を放つ。
「こっちは任せなッ!」
 エシラが白銀の鎖を放ち、その上を滑るかのようにカーリグが敵を薙ぎ払う。その横に並ぶようにケーナが無骨なだけの大鎌振るい道を開く。その隙間を走ったのはファウナが空間斬り裂いて放った月の魔力だ。マルテルはハンマーを地に振り降ろす。
 その戦いの様を見つつ、今は加わることを今は堪え、3班、4班の面々は門を閉めるべく動いていた。
「民衆がなだれ込む前に」
「閉めますよ!」
 ジゼルの声に頷いて、息を合わせる。暁天の焔・ナナセ(c07962)の視線の先には何が起こったのかとぽかんとした人々だ。彼らはこの日を楽しみにしていた者達。そして自分にとっては結婚記念日のこの日、血を流させて台無しにしてはいけない。
「確かにこの人数でシャルムーン様を救え、なんてこられたらたまりませんからね」
 征服者・ヴィンツェンツ(c15253)は今、人々から見たら自分達は襲撃をかけた者達なのだとちらりと門の外に視線を向けた。まだ外の人々は何が起こっているのか理解はできていないのかぽかんと見ているだけだ。
 がしゃんと大きな音をたて門が閉まる。これで宮殿前にいた人々が出征に向かう人を助けようとしてこの場へなだれ込む事はない。
「あとは……この場の敵を倒すだけだ」
「さて、迅速かつ拙速かつ高速に参りましょうか」
 ウセルは屋を番え、トウカは槍をもって走った。仲間と攻撃を繋いでいくことを意識し、セヴェルスは血で猟犬を生みだす。ミソハは倒れる危険性のあるものが出ればすぐに回復をと、近くにいる回復手のナナセ、ロリータと声をかけあっていた。
 ジゼル、テケリリは前を塞ぐ敵を薙ぐ事に尽力してゆく。
 城門を閉じた者達が戦線に加わり終わった時にはすでに半数程度のマスカレイドが倒され勝ちが見えていた。突入時の戦力はほぼ同等であったが出征前であったマスカレイド側の対応が遅れたのだ。もし、敵側が騎乗しておらず、すぐに応戦してきていたならここまで一方的にはならなかったかもしれない。
 数の利により一気に宮殿前広場のマスカレイドは減る。逃げようとするマスカレイドは宮殿に入る前に倒された。
 倒れたマスカレイドを過ぎるようにエンドブレイカー達はその勢いのまま宮殿内へと突入する。

●長き廊下の先に
 進むのは中央の広い廊下。広いと言っても全員が一度に戦える程ではなかった。だが、現れる敵を倒すには十分な広さ。
「来たぞ! 迎え討て!」
 数度の戦闘がすでに重ねられていた。出てくる敵は3人から5人と少なめだ。戦力的にはこちらが優勢、だが全員で一斉に攻撃できるわけではなかった。それに敵は廊下に面する部屋から飛び出してきたり、角に潜んでいたりと人数が少ないのをわかった上で仕掛けてきてくる。
「やらしい戦い方してくるねェ」
 攻撃が集中したエシラは言いながら敵方を睨んだ。誰かひとりを、回復手を狙うといった戦法が続いている。
「先行くぜ」
 ケーナがとっと一歩早く踏み込み敵に大鎌を振り下ろす。今一人逸る事が出来たのは進む仲間達が頼もしいからだ。深い一撃を追うように後方からマルテルが地をうち衝撃波を放つ。
「エシラ、右!」
 敵の攻撃が、までは言わない。死角からの攻撃にそれで反応できると思ったからだ。月の魔力を放ちながらファウナが一人倒し、その声のままにエシラはF-15【solo-winged bird】でもって敵の攻撃をいなした。そしてひゅっと風切る音に身を沈める。
 頭上を奔るのはカーリグの蟷螂の刃。それが敵を打ち払いこの場の最後の敵を倒した。
「入れ替わりましょう、後ろで休んでください」
 前衛は任せて、とプティパは言ってその先にたつ。戦いの旅に班を入れ替えやり過ごすことで消耗は抑えられる。
 すぐまた、進んだ先には敵の気配。飛び出してきたその瞬間、ミナの星霊クリンが巨大化し敵に抱きつき、クレアは魔道書の力で敵を封印する。
 その間にアスールは前に出て、そのナイフを振るった。だが一撃で倒れぬ敵は逆に剣を振り下ろす。さらに、他の敵からも炎弾、剣の一撃と続く。それを見てティルキアはしゃん、と癒しの舞をもってその傷を癒した。
 これ以上攻撃は受けさせないとばかりにプティパが割って入り、魔獣の腕で叩き潰す。
「援護しますわ!」
 後方から声が掛かる。後ろに控える班は直接の攻撃はし難い。けれど遠距離から仕掛けられる攻撃なら別だ。
 ミカが放ち落とす矢の雨に続き、レイジュが敵の動きをとどめるべくバジリスクの瞳を向ける。
「くそっ! やられてたまるか!!」
 自らの力を高めそれらを振り切った敵の元、仲間を飛び越えレンマーツォのコヨーテが噛み付いた。
「ありがとうございます!」
 頼もしい、とちらりと後ろに視線を送りプティパは頭に角を生やし突撃する。吹き飛んだ敵はそのまま倒れ、また道は開かれた。
「負けることはないけれど小回りはききませんね」
「それでも前には……次の敵が来ます!」
 先程援護した班が先頭に回る。ルーシアは一丸となって動く事で誰も倒れはしないけれど、と思う。だが行動が制されているのもまた事実。
 イザボーの元より車輪が走り、その影よりレンマーツォが飛び出し敵と太刀を咬みあわせる。そこへ両脇から槍が勢い良く突き出され身を穿たれた。
 続いてもう一体が攻撃を仕掛けようとするのをミカがその弓で妨害し、レイジュが牙を持って一体を倒す。
 ルーシアは小さな月を現出させ、傷の癒し手に回った。
「おい! 回復手もいるぞ! そっちを先に狙え!!」
 すると敵側は攻撃の先を変えた、レンマーツォからルーシアへと。槍が向けられる。けれどそれが放たれる前に敵は倒れる。
「大丈夫、みんないます!」
 敵を貫いた光はナナセの神鏡から発されたもの。ナナセは左手の薬指の指輪をみて笑う。それはナナセにとって勇気をくれるものだ。
「まだ全然元気ですよ!」
 その通り、というように戦場の敵を丸かじりするクラビウス 。テケリリのフラスコより飛び出したそれが食い荒らす間にレイジュが奥にいた一人へと間を詰めようとした。
 敵はこのままではやられる、と思ったのか背中を向ける。その背を術式籠められた手裏剣でジゼルが射った。傷みで呻いた一瞬の隙を見逃さず、深く牙で食い破る。
 戦闘が終わる度に感じる違和感。敵は少しずつしか出てこず、長い間食い止めようとしてくる。耳を澄ませばまだ何箇所も敵がいるのがわかる。
「大人数の敵を少人数で足止め……」
 どちらかというとエンドブレイカーがとりそうな作戦ねとジゼルは零した。ふと、その手首にある柘榴石の銀の腕輪に触れジゼルは息を吐いた。大切な人が待っているのだ、ここで立ち止まるわけにはいかない。
 根付く悪意の棘を必ず壊し、この都市を取り戻す為の大事な一線。少し不安になるけれど、それを今は押し止め前に進むのみ。
「来たわね」
 向かう先に飛び出してきた敵へ、トウカが向かう。無数の残像を持って繰り出す突きは相手の初手を挫いた。負けじと振り下ろされた斧の刃を受けてもひるまずそこにある。その敵をクラビウスピアをもってテケリリが押し切った。
「とある勇者の大提案『少年の力の拡散を!』それに応える大長老『善き哉!しかしその術我らは持たぬ。その能力持つは敵の赤き少女。――なれば二人を恋仲に!』」
 そして響いたのは歌声だ。星霊の加護を受けた竪琴を鳴らしロリータが紡ぐ歌。目もくらむ輝きで敵を熱狂に巻き込む間に、しゃらりと足の金環鳴らしてナナセが飛び込む。
「派手にいきますよ!」
 −散華− 【詩】を振り上げる。その熱と焔が敵を焼き尽くすべく奔る。本当に頼もしい限りとジゼルも敵に肉薄する。
 頭上で回転させる誓いの焔、華焔が風切り音を響かせる。舞うように旋回するそれは赤を纏って敵を薙ぎ払った。
 その旋槍の軌跡のすぐあと、トウカが畳み掛けてゆく。
 直接的を叩いている皆の力にとミソハは祓桜八重より魔力体を発生させ敵を貫いた。
 放たれた光線に貫かれた敵をテケリリが圧し、この場の敵はすべて倒れる。
 けれど油断はできない。敵が次々と現れてくることには変わりないのだ。
「もどかしいです……数では勝っているのに」
 少しずつしか進めない、と零すミソハの肩を軽くウセルは叩く。
「けど、少人数に分かれて侵攻するより確実で安全ではある」
 行こう、と再び進み始めて暫く敵の姿はない。だが宮殿の内部まで進んでいる感はある。
 そして先に進ませないという敵の士気もまた高くなっていた。
「新手のお出ましだそうだ」
 ヴィンツェンツが描く狂王を討った騎士の紋章が絆を描き斬撃を見舞う。その絆を受けて多くの敵を巻き込むべくレイがToy Box -Leonhardt-に内包した光を真っ直ぐに振り下ろす。それはヴィンツェンツからの力を持ってその場の敵を一層する力。
「まだもう一戦いけそうだな」
「やる前に終わっちゃったからね」
 今は隊列を変える必要がないと判断しこのまま3班が先頭を行く。ウセルとセヴェルスの言葉に次も任せてくれていいのよとレイは軽口向けつつ先へ進む。
 レイが前に出、敵を払う。しかし今回はその傷を癒す者がいた。兵士に混じりシャルムーンの巫女が一人。癒しを齎す月をこの場に呼ぶ。
 癒しを受けた敵はまだ戦えるとばかりにレイへと向けそれを大きく振り払う。
 それなら先にそれを落とすべくウセルが引き絞った矢が巫女を居ぬきながら敵の動きを圧する。
 その隙を見てセヴェルスは血を滴らせ、形成した猟犬が敵の喉元を喰らう。
 何の為に此処にいるのか、それは勇者シャルムーンへのリベンジの為でもある。勇者女子会なぞこの世で無期限休止にしてやろうと、見たものを思い出しセヴェルスはそれももうすぐだと思う。
 ミソハが呼んだ魔力体が向かってくる敵を穿ちエンドブレイカーは進む。
 次第に敵が出てくる距離が短くなってくる。守りが厚くなっているような感覚だ。
「来たぞ! ここは通すな!!」
 高く響く声を上げたものは、今までの兵よりも格上の様に見えた。主格の男は槍を、傍に控える部下と思える兵士は4人、湾曲した刀を手にしていた。
 今まで出会った敵の中で一番統制がとれている様子だ。
「ちょっと手強いのがでてきたかな」
 アサノアがオーラの翼で駆け、部下を斬り裂く。その軌跡の力をうけたルーンは真っ直ぐ主格の男とぶつかった。
「魔獣を狩るは狩猟者の本懐、我が弓弦から逃れられると思うなよ」
 細糸を躍らせる。容赦のない締め付けを男に見舞えば確実にダメージとして募っている。だが男は槍を一度ふり無数の突きを繰り出した。武器を絡め取られていても気に止めぬ一撃がルーンを貫く。
 フェリアルもまた部下と切り結んでいた。アックスソードの、その剣の部分を敵へ突き立てる。その刃から生命力奪えばふらつきながら敵はそれより逃れた。
「みんなが切り開いてくれた道だからね」
 敵の数は多い。オデッドは言ってクラビウスをフラスコから解き放った。肉体が膨張する。腐食の唾液をまき散らし敵の身体をその歯で持っていく。
 攻撃を受けた敵は早い段階でその曲刀の力を借り傷を癒すが、その癒しは主格の男に注がれてばかりだ。
 男が地に槍を突き刺した瞬間、それが襲ってくる。
 仲間の貫かれた身体を癒したのはルーシーだ。
「私の前で誰も倒れさせません」
 智慧の書 -アイン・ソフ・オウル-を掲げ、癒しの魔法円を描いたのだ。
 ルーシーの信条は『全員生きて帰る』という事。たとえ限界を超えても回復して支えてみせるとその胸には矜持があった。
 後方から遠距離攻撃の援護が入る。一人、二人とそれに巻き込まれて倒れる敵がでる。
「ち、こっちに手を貸せ!」
 主格の男は未だ余裕を残したままだ。けれど部下が残り2人となると自分の傍に呼んだ。
 そして目の前の敵を共に討つよう命じたのだ。
 同時に、月の魔力を宿した斬撃がルーンへと向いた。けれどその一方はアサノアが受けて庇う。曲刀を夜色で受け止めそのゴーグルの下より冷ややかな視線を送る。そして眼前でゼロから加速し目の前の敵を斬り裂き駆けた。
 そしてもう一人の方はオデッドがハーベストムーンに怨念を乗せ、振り切った。放たれた怨念は旋回し黒き刃となり敵を裂く。そこをフェリアルが撃ち取る。
 残る一人である男はあっという間の事に舌打ちを落とし、槍を振りまわし男は風を生み出し封じる。
 だがそこまでであった。
 一人だけという戦況は撃たれるのも時間の問題。やがて男は膝をつき倒れた。
 倒した男を横目に進む。そして角を曲がった先、一層荘厳な巨大な扉が見えた。
 けれど、その前にもマスカレイドが布陣していた。
「お守りするのだ!!」
 先に守る対象がいるからこそでる声。その先にいるのは3体、先ほどよりも少ないがそれぞれが手練れの様子だ。
「いよいよお出ましかねェ」
 エシラは声を弾ませる。その声にだといいがとケーナが答えた。
 次に戦う事になるのは戦力を寄せた班の一つ。ここでその力削がれるのを防ぐ為に他の班にこの戦闘を任せることもできたがそうはしなかった。
 目の前の敵を倒し、そのまま扉を蹴破ればいいのだからと。
 挨拶代りというようにマルテルがハンマーを振りおろし初撃を食らわせる。
 中央の敵に走ったのはケーナだ。真ん中ぶち抜けば、まず相手の陣形は崩れる。大鎌が風を切って振り降ろされる。回転する刃は容赦なく敵を斬り裂いた。
 右側の敵は任されたとばかりにエシラが伸ばした白銀の鎖は相手を絡めとる。そこへカーリグが走りカマキリの鎌を振り抜いた。
 敵が大剣を振るう。大きく薙ぐそれにカーリグは吹き飛ばされたが後方の仲間が受け止めすぐに戦線に戻る。
「援護するわ」
 言って、ファウナが閃かせた月の魔力。開かれた空間より撃ちだされた月の魔力は幻惑の輝きと祝福を送る。
 それと共に、後方から遠距離の攻撃が飛び敵の一人を仕留め、残る二人の一人はケーナが抑えている。もう一人にはカーリグが抑えに回る。
「この扉の先には進ません!」
 そう言って曲刀を持った男は魔力を練りあげ月のカーテンを広げた。光幕に包み込まれ攻撃を受けてもなおケーナは口端あげて笑った。
 戦える安心感は、心強い仲間が後ろにいてくれるからだ。傷はすぐに、癒される。
 そして力を貰い、深い一撃を叩き込んだ。そしてすぐさまエシラが白銀の鎖でその敵捕え仮面を打ち砕く。
「あとは君だけ!」
 ファウナが再度放った月の魔力は爆ぜるほどに満ちたものだ。それを真っ向からうけた敵はその場に膝をつく。
「シャルムーン様……!」
 自分は倒される、それをわかっていながらもこれでいいとゆうような様子だ。
 この扉の先に進ませてもらう――その心を乗せて振るわれた一撃に男は倒れた。
 その瞬間に、今まで戦っていた相手から目の先にある扉へと意識は向く。
 この扉を撃ちやればその先にいるのは――という期待と緊張感、それにまた不安。それぞれが抱く感情のままに、その扉は打ち破られた。
 開けた視界の先に居た者は一瞬で視線を奪っていく存在。

●姫君との邂逅
 宮殿の長い廊下の終着点。
 その扉をエンドブレイカー達は勢い良く開いた。足元は豪奢な真紅の絨毯が続く。そこは宮殿の主が人々を見下ろすであろう謁見の間のようだった。
 その部屋の一段高くなった先、薄絹を纏う踊り子のような女、曲刀を持つ兵士といったマスカレイド達。それらを従え、中央に立つのは辿り着くべき相手、勇者である砂月楼閣の姫君。
「シャルムーン!!」
 その名前を幾人かが同時に重ねた。それぞれに伝えたい言葉や思う事がある。それを伝えるのはもはや拳を向けその棘から解放することでのみだった。
 シャルムーンが獅子の尾を揺らせば金環がしゃらりとなる。鳥の羽根にその足元は人のそれではなく獣のものであった。そしてその花の顔の上には金色の仮面を現していた。
 それはもうすでに、隠す必要がないという事の現れなのだろう。
 宮殿に突入した30人、誰一人欠ける事なくこの場へと辿り着いたエンドブレイカー達。だがそれぞれ戦いにおいて消耗はあった。
 しかし、シャルムーンを倒す機会が手の届く場所にある今、引くことはない。
「よう、借りィ返しに来たぜ。顔なんざ覚えてないだろうがな」
 一歩、誰より早く踏み出したのはケーナだ。そのケーナと同じ想いを含む視線をセヴェルスもまたシャルムーンへと抜ける。
 二人はランスブルグを解放する戦いのうちでシャルムーンと対し、叩き伏せられた記憶がちらつく。シャルムーンが覚えていなくとも、やる事は一つだ。
「この燃え盛る大乱痴気な宴、一緒に躍ろうや、勇者さんよッ!」
「ヒャッハー!シャルムーンはブレイクだー」
 エシラ、ファウナが続いて躍り出て、その飛び出しを抜けて後方から攻撃が放たれた。
「愛の勇者が悲哀を振り撒く悪行! アンタのその傲慢さを償いなさい!」
 アスールが放った光輪が先を飛ぶ。
 さらに続けてイザボーが裁きの車輪を放ち、他にも攻撃は重なった。
 だがシャルムーンへと向かった攻撃は彼女に届く前に弾けた。それと同時にシャルムーンへと走った者達は衝撃と打ちあたりその勢いを殺された。
 部屋の中央あたりで何かに衝突したのだ。
「ッ!? 何、すすめな……!?」
「理不尽は希望の力で打ち砕けばいい」
 一瞬の驚く声のすぐ後に進めぬ壁があるのなら、とカーリグはカマキリの刃を向けた。だが壁は攻撃を受けてもやはり、揺るがない。
「これは何?」
 ジゼルが手を伸ばした先、そこには見えぬ壁があった。けれど、それは見えぬものではない。
「なんらかの、障壁でしょーか」
「澄んだ水よりも何倍も透明ですが、よく見れば、何かございます」
 ナナセに次いでテケリリが言う。そこにあるものはシャルムーンとエンドブレイカー達を阻むものだ。
「負けられないんですよ……この拳が砕けようとも、私の正義が砕けるまでは!!」
 けれど、一度でダメならば何度も、とトウカが研ぎ澄まされた一振りの牙、下り飛竜を構えた。
 進めない、攻撃してもそれをものともしない障壁をまず崩さなければならなかった。
「無駄です。その障壁は、構築に時間が掛かる上に、効果時間も長くないけれど、どんな攻撃でも絶対に破れません」
 それを攻撃し、打ち崩そうとするエンドブレイカー達へ向けと相見えてから今初めて、目の前のシャルムーンが言葉を発した。
 その声にマルテルはここぞとばかりに嫉妬戦士として大罵声を向ける。
「どういうことよ、シャルムーン!」
 ピュアリィ王国から始まり、西方調査隊。シャルムーンと続いてきた妙な因縁も今日で決着をと思っていた。だがうまく事が運ばない予感にオデッドは思わず声をあげる。
 勇者シャルムーンほどの者が卑怯な、とフェリアルも零していた。シャルムーンに対し、批難が続く。そしてこの障壁を解けとも。
 目の前にいるのにこの薄い障壁一枚、それがとても厚かった。
 しかしその中で、セヴェルスがひとつ、問いかけた。
 先程シャルムーンは、構築に時間が掛かる上にと言ったのだ。
「シャルムーン、キミはもしかしてこの障壁を作るために、配下に足止めを命じた?」
 その予想は当たっていたのだろう。シャルムーンはええ、と一つ頷いた。何故、と続けて問えばシャルムーンはその口を開いた。
「それはね、あなた達に文句を言うため。シャルムーンの民は、私の庇護を受けて、幸せに暮らしている。あなた達さえいなくなれば、これからも幸せに暮らせていられるのです」
 エンドブレイカーさえ、この都市にこなければ。見えざる結界を破壊されなければ、シャルムーンは平和であったというような口ぶりだ。
 けれどそれは、都市に蔓延する棘があるのだから仮初の幸せだとエンドブレイカーは知っている。
「マスカレイドにされて幸せだッていうのかい? 私にゃその眼には貪婪な毒蛇が這いずっている様に見えるねェ」
 その声にころりと鈴の音転がすように、シャルムーンは小さく笑った。ふふ、と口許を手で隠し、そしてエンドブレイカー達の上をその視線が舐める。
「マスカレイドになれば、強靭な力と、永遠の命を手に入れることができます。これが、幸せでなくてなんだっていうの?」
 そんな、とレンマーツォは息を呑んだ。こんな事を言ったり、自分の名がついたこの日に人を襲わせたりするなんて、マスカレイドになっていなければ絶対にしなかった。そう思っている相手の言葉だ。
「無言のうちの想いをチョコに託して伝えたと聞く、が……」
 もう無言のままに護る想いなどわかりはしないのだなとヴィンツェンツは零す。
「こんなおしゃべりだとは……守るべき王家もない今、戦う姿に疑問はないか」
 ウセルの声には憐憫がこもる。子供の頃に憧れたシャルムーン。だからこそ、今のこの姿は悲しいものでしかない。
 けれどシャルムーンはおかしなことを言う、というように笑む。
「あの頃はね、魔力を高める術式のために、声を出すことを禁じられていただけよ。今は、そんな必要、無いでしょう?」
 それはマスカレイドとなり力を得たのだから、という意味だ。声を禁じ魔力を高める必要などない、と。
 夢にまで見た姫君との邂逅。それはロリータにとっては僥倖であったがそんな言葉を聞きたいわけではなかった。
 マスカレイドであるシャルムーンは悲劇をこれからも引き起こす。
 これ以上悲劇は続かせない、とプティパはシャルムーンへ瞳を向ける。
 この場にはいなくとも、シャルムーンに想いを伝えたい人達は沢山。その分も必ず届けてみせる、と。
 それは声の代わりに、この腕と剣、そして命でだ。
 けれど、シャルムーンに戦う気は今の所見られない。だからこその、障壁なのだろう。
「最後に一つだけ聞かせてくれるかしら。あなたたち、シャルムーンから黙って出ていく気は無い?」
 それはシャルムーンからの提案だった。もちろんその見返りはあるというようにシャルムーンは言葉を続ける。
「もし、シャルムーンから出て行ってくれたのならば、あなた達が欲しがりそうな、勇者の知識を教えてあげましょう。そうね、薔薇の傷痕の真実とか、魔女の一族の伝承とかね」
 これはシャルムーンよりの最後の譲歩だったのだろう。だが提案をエンドブレイカーが受け入れるわけがなかった。
 この砂月楼閣シャルムーンを棘より解放するために、ここへ来たのだから。
「ふざけたことを」
 アサノアは哀情を滲ませた視線を向け零した。ティルキアは言葉発しないものの、その言葉に同調し頷いた。
「その提案は受け入れかねますわ」
 ルーシーの答えに、そうですか、とシャルムーンは声を落とす。その声色は悲しげなものであった。残念ですが、仕方ありませんと。
「シャルムーンは、私の都市ですから、特別に残しておいてあげようと思っていたのに。エンドブレイカーのせいで台無しです。これから起こるシャルムーンの惨劇は、全て、エンドブレイカーの責任となるでしょう」
 シャルムーンはこの場にいるエンドブレイカー達を一瞥した。
 そして発したその声はやけに大きく、部屋に響いた。
「シャルムーンの全てのマスカレイド達、決戦の時は来ました。この戦いに勝利し、私は、シャルムーンの全てを捧げ、強大な力を得るでしょう。さようなら、愚かなエンドブレイカー達……」
 シャルムーンは身を翻す。しゃん、と身に着ける金環が音をたててなった。
 側近のマスカレイド達がこちらにというようにさらに奥へ続く道を示した。それは今まで隠されていた通路だ。
「脱出通路……!」
 その存在をミソハは警戒していた。けれど、それが障壁の先にあり進めぬ今、どうすることもできない。
「あ……この、逃がさないぜ!」
 障壁を打ち砕くべくミナはエネルギー球を放つ。だがそれもやはり障壁に阻まれた。
 この障壁がある限り、目の前にいるシャルムーンに手が届かない。そしてシャルムーンは側近達を連れてこの場を去るつもりだ。
「待て! まだ話したい事がある!」
 レイジュが引き止めるべく話を続かせようとする。それに続いて口々に、シャルムーンへと言葉が投げられた。
「私と同じ思いの人が、きっと沢山居るから……。それをあなたに――よりにもよってあなたに邪魔させるわけには、絶対にいかないの」
 ルーシアはシャルムーンに呼びかけ、矢継ぎ早にレイは問いかける。それは耳に届いているのか、いないのか。
 もはや聞く必要など、という様子だ。
「なぜ絶望に抗い続けない? ラズワルドはまだ戦っているのだぞ」
 カーリグはシャルムーンを引き止めるべく声をあげる。
 だがエンドブレイカー達に見向きもせずシャルムーンはこの場を去った。しゃらんしゃらんとシャルムーンの身に着けている金の装飾が奏でる音がどんどん小さくなってゆく。
 この障壁が無ければ追える状況。諦めず攻撃をかけ続けたが破壊できる気配はない。
 シャルムーンが去る前に透明で剥がせない印をアスールがつけていたが、時間がたち方向はわからなくなる。
 完全にシャルムーンの行方はわからなくなった頃に行く手を阻んでいた障壁が消えた。シャルムーンが言った通り、効果時間は長くはなかったが確かに攻撃はひとつも通らなかった。
 宮殿よりマスカレイドを引き連れ撤退したシャルムーンの行方はすでにわからない。
「シャルムーンを追うのは難しそうですね」
 ガンダッタの時のように都市のシンボルを回収する動きがあるかとルーンは警戒していたが今の所その気配はない。ロリータもその言葉にそうですねと頷き返す。
 シャルムーンが撤退したなら深追いはしないと決めていたのだ。これ以上彼女を追う為の策などもこの場ではなかった。
 30人、誰も倒れることなくこの場に今いることにルーシーはほっとする。それはシャルムーンと刃を交えなかったこともあっただ。
 けれど、次に見える時はきっとこうはいかない。
「──棘は、壊すわ」
 ジゼルは去ったその姿を想う。勇者シャルムーンも、きっと故郷を愛した人のはず。棘を孕んでもこの都市を残そうとしていたのはきっとカケラでもその気持ちがあったからこそなのだと思う。
 必ず、止めてみせる。絶対に諦めないとジゼルはその心に固く誓う。
 シャルムーンが消えた先を見つめ、アサノアも言葉零していた。
「此の街は壊させないよ、姫君――絶望になど呑まれる事など、決して」
 今は戦う事叶わなかったがその次があると、知ったのだから。
「リベンジマッチ、しそこねたねえ」
「次に持ち越し、ってとこだな。セヴェルスの旦那」
 シャルムーンと対するのは二度目のセヴェルスとケーナもまた次に見えるその時こそと思う。
「はっ! 元凶をブレイクし、恋人の日なんぞという呪われた祝祭を永劫中止にするつもりが!」
 シャル充爆発しろ!! とファウナの声が響く。
 宮殿での、砂月楼閣の姫君との戦いは刃交える事なく、シャルムーンの撤退という形で幕が下りたのだった。

 全てのマスカレイドが砂月楼閣シャルムーンより消え、シャルムーンデイの祭りが賑やかに続いている。
 巨獣やアンデッド、ピュアリィの魔の手から人々を守ったエンドブレイカーの名声は、消え去った勇者シャルムーンの名の代わりに人々の間に広まり受け入れられた。
 だが、この平穏な時間がこのまま続かぬ事をエンドブレイカー達は知っていた。

『シャルムーンの全てのマスカレイド達、決戦の時は来ました。この戦いに勝利し、私は、シャルムーンの全てを捧げ、強大な力を得るでしょう。さようなら、愚かなエンドブレイカー達……』

 マスカレイドの軍勢を従えた勇者シャルムーンはそう言い残して姿を消した。遠からず決戦を挑んでくるのは間違いない。
 けれど今は、ひとつ戦いを終えたばかりだ。
 エンドブレイカー達はシャルムーンデイの賑わいの中に混じりその平穏を感じるのだった。



マスター:志羽 紹介ページ
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参加者:30人
作成日:2014/02/14
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