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風雲のシャルムーンデイ:女王の羽音は絶望の調

<オープニング>

●這い寄る絶望
 砂月楼閣シャルムーン。伝説の勇者の名を冠するその都市国家は、あちこちで勇者の帰還を湛える声に溢れていた。
 シャルムーンデイを迎え、その日の広場は一段と大勢の人々で賑わっている。無事にこの日を迎えられたのは、一重に勇者シャルムーンのお陰だと。そう、口々に告げては感謝の祈りを、供物を捧げて勇者の像を祀っている。
 この平和な時が、いつまでも永遠に続くように。だが、そんな彼らの願いは、希望は、次の瞬間に木端微塵に打ち砕かれた。
「……っ! な、なんだ!?」
「像が……勇者様の像が、砕けただと!?」
 突然、広場に置かれたシャルムーンの像が砕け散り、中から無数の殺人蜂が現れたのだ。蜂は近くにいた者達を次々に刺し、瞬く間に絶叫が辺りを包む。
 いったい、これは何事だ。状況も判らずうろたえる街の人々だったが、時間は待ってなどくれなかった。
「ひっ……! ば、化け物だぁぁぁっ!」
 破壊された勇者の像。その中から現れたのは、全身に腫瘍の如き蜂の巣を付けた異形のアンデッド。醜く膨れた身体と『死神の足音』の異名を持つ、ワスプポッドだったのだから。
「ば、馬鹿な! 何故、勇者様の像から化け物が!?」
 残念ながら、その問いに答える者はいなかった。代わりに街の者達を襲ったのは、ワスプポッドから放たれた殺人蜂の群れ。その針に刺された者達は例外なく猛毒に身体を蝕まれ、身体を紫色に変色させて死んで行く。
「そ、そんな……なん……で……」
 薄れ行く意識の中、最後の一人が力無く片手を伸ばして像に縋った。だが、果たしてそうしたところで、誰に救いを乞えばよいのだろう。
 彼らの信じる英雄の像は、既に破壊されて見る影もない。おまけに、その像の中から出て来た者こそが、この惨劇の元凶に他ならなかったのだから。
 やがて、悲鳴が完全に消えたところで、広場は殺人蜂の羽音だけに支配された。
 次なる獲物を求め、広場を去り行くワスプポッド。その身体に白い仮面が貼り付いていたことなど、殺された者達は知る由もなかった。

●信仰の果て
「よく来てくれたな。実は、勇者シャルムーンの次なる動きが判明した」
 淡々とした、しかし確かな口調で魔鍵のソーンイーター・アジェンド(cn0209)はエンドブレイカー達に告げた。
「俺達、エンドブレイカーとの決戦に備えるため、勇者シャルムーンは都市国家の市民達を絶望の底に叩き落とそうと企んでいる。そのために……彼女はシャルムーンデイの祭を利用するつもりだ」
 そう語るアジェンドの声は、どこか張り詰めたものがあった。
 自分の名を冠する祭で、人々の希望を絶望に変える。信仰は時に力となるが、しかし裏切られた時の反動もまた恐ろしい。そのことを、何よりも彼女は承知しているのだと。
「今回、俺が依頼したいのは、街で行われる虐殺の阻止だ。広場に置かれた勇者の像を中から破壊し、アンデッドマスカレイドが現れる。それを撃破してもらいたい」
 自分達の信仰と崇拝の対象が破壊され、代わりに恐ろしい怪物が姿を現す。その上で、抗い難い苦痛を与えられて殺されるとなれば、人々の受ける絶望は計り知れないものとなる。
「像の中から現れるのは、マスカレイド化したワスプポッドだ。全身が殺人蜂の巣になっている、見た目もおぞましい怪物だな」
 だが、真に恐ろしいのは見た目ではない。体内に巣食う殺人蜂こそが、本当の敵であるかもしれないとアジェンドは付け加えた。
 敵の放つ殺人蜂の毒は、屈強なバルバでさえ死に至らしめるだけの威力を持っている。そんな物を、なんの訓練も受けていない一般人が受ければどうなるか。答えは火を見るより明らかだ。
 また、これは棘の魔性が成せる業だろうか。体内の殺人蜂は敵に猛毒を与えるだけでなく、その気力を奪い、本体へと持ち運ぶ力が追加されている。他にも肉体を痺れさせる神経毒の類まで与えられており、一筋縄ではいかない強敵となっているのだとか。
「幸い、現れる敵の数は一体だけだが、それでも油断はしないでくれ。単体での戦闘力は俺達よりも高いだろうし、なにより市民に被害が出てしまっては元も子もない」
 もっとも、反対にこの状況を利用して、エンドブレイカーの支持を高めることも可能である。襲われる市民を敵の攻撃から守り、更には人々から見て尊敬できるような戦いぶりを披露することができれば、彼らに新たな希望を与えることにも繋がるだろう。
「シャルムーンデイを利用して絶望を広めようとする、勇者シャルムーンの計画を成功させるわけにはいかない。だが、街の人達を守り切った後は、皆もシャルムーンデイを楽しんで欲しい。絶望では無く、希望に満ちたシャルムーンデイとすることで、勇者シャルムーンの策を逆手に取ることができるかもしれないからな」
 また、作戦が成功すれば、浮足立った勇者シャルムーンを討ち取ることも可能かもしれない。そうなれば、大魔女へと近づくための新たな布石を手に入れることにも繋がるはずだ。
 反対に、今回の作戦で失敗すれば、今後のシャルムーンでの戦いで不利に働いてしまう可能性もある。もっとも、仮にそうでなかったとしても、こんな暴挙を放っておけるはずもないのだが。
 なぜならば、絶望に抗い悲劇の終焉を打ち砕くことこそが、エンドブレイカーの使命だから。それを果たすためにも、是非とも力を貸して欲しい。
 そう言って、アジェンドは改めてエンドブレイカー達に依頼した。


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参加者
壊し屋・ジョルジュ(c01908)
天華の欠片・キリィ(c01934)
銀狼の暴君・ジョン(c02337)
虚ろな入れ物・ソフィア(c02696)
多色のアスター・クィ(c03420)
導きの紅き月・ルア(c28515)
自堕落系懲罰騎士・ダレン(c34576)
セルフオペ子・コダマ(c35565)

<リプレイ>

●這い寄る死神
 祭りの当日。その日の広場は一段と人で賑わっており、辺りには仲睦まじい男女の姿も多く見受けられた。
 中央に置かれた勇者の像。都市国家の、そして恋人達の大切な日の由来にもなっているシャルムーンの像へと、人々は感謝の意を込めて祈りを捧げている。
 だが、エンドブレイカー達は知っていた。あの像の中に潜む、恐るべき絶望の使者の存在を。勇者の皮を被って人々を欺く、悪意の権化とも呼べる怪物がいることを。
(「できることなら、街の人達を像の近くから遠ざけたいけど……」)
 残念ながら、その方法が導きの紅き月・ルア(c28515)には思い付かなかった。警告をしたい気持ちはあっても、下手に動けば不審に思われ逆効果だ。
 結局、こちらがさりげなく像へと近づき、未然に奇襲を防ぐ他にないのだ。そう思った矢先、何やら像の近くで声がした。
「……っ! な、なんだ!?」
「像が……勇者様の像が、砕けただと!?」
 一瞬にして、辺りは緊張した声に包まれた。いったい、何が起きたのか。街の人々が状況を飲み込めずに立ち尽くす中、虚ろな入れ物・ソフィア(c02696)は躊躇うことなく目の前にいた少女と像の間に立ち。
「大丈夫? ……ここから急いで離れて……」
 そう告げる声が、しかし早くも震えていた。
 背中が熱い。全身に走る痛みに、思わず膝を折りそうになる。人命には代えられないと解ってはいるが、そう何回も人々の盾になれるわけではなさそうだ。
「あれは殺人蜂。危険なので、さぁ、早く建物の中へ」
「落ちついて、慌てずに逃げて」
 これ以上、混乱が広まってはいけないと、多色のアスター・クィ(c03420)と天華の欠片・キリィ(c01934)が人々に逃げるよう促した。その間にも、破壊された像の中からは不気味な羽音を響かせながら、無数の蜂が湧き出でて来る。
「……目標、確認しました。これより、掃討に移ります」
 腐臭と共に現れた者。その姿をメイガスの中から視界に捉え、セルフオペ子・コダマ(c35565)は静かに標的を見定めた。
 灰色に濁った肌と、黒い穴だけになった瞳。全身に腫瘍の如き蜂の巣を付けた、ワスプポッドが姿を現す。
 口元には笑みを湛えながら、しかしその表情は恐ろしい程に冷たかった。周囲を旋回する殺人蜂の不気味な羽音。それはまさしく、『死神の足音』の異名に相応しい。
「自らの像を破壊してくれるとは、面白いことをしてくれる」
「ああ……。まったく、悪趣味な趣向をするもんだ。ま、自らが化物になったことを表現したにしては、満点をやってもいいがな」
 互いに皮肉を込めた口調で、壊し屋・ジョルジュ(c01908)と銀狼の暴君・ジョン(c02337)が敵を見据えた。偽りの英雄の正体が腐った殺人蜂の巣とは、なかなかブラックジョークが効いていると。
「こいつの始末は俺達がやる! なるべく遠くへ逃れてくれ!」
 女と子ども、それに老人を先に逃がすこと。最後に念を押し、自堕落系懲罰騎士・ダレン(c34576)が拳を構えた。
 手前には殺人蜂の羽音、後ろからは人々の叫び。避難を促しはしたが、混乱はそう簡単に収束しそうにない。
 時間を掛けるわけにはいかなかった。そして、ここから先へ通すわけにも。
 這い寄る絶望の羽音を耳に、エンドブレイカー達の顔に緊張が走った。

●絶望の宴
 白昼の街に、死神の足音が響き渡る。恐るべき毒を持った殺人蜂。それらを巧みに操るワスプポッドとの戦いは、思いの外に油断のできないものだった。
 これが、何もない平原や放棄領域での戦いであれば、こうまで厄介ではなかっただろう。敵は一体、こちらは八人。圧倒的な数の差を生かし、一気に殲滅することが可能だった。
 しかし、ここは草原ではなく街の広場。その上、パニックに陥った人々を庇いながら戦うとなれば、こちらの動きはおのずと制限されてしまう。
 敵の攻撃は、その一撃が驚くほどに重たい。人々に攻撃が行かないように盾となれば、それだけこちらが危機に陥る。不利を悟って回復に手を掛ければ、その分だけ攻撃の手数が減ってしまう。
「ったく……悪趣味なオモチャ仕込んでくれたもんだな!」
 拳に断罪の女神の紋章を浮かべ、ダレンは正面からワスプポッドに殴り掛かった。
 こちらが限界を迎える前に、速攻で敵を撃破する。この状況を打破する手段としては、誤りではない。
 もっとも、それは敵も承知の上だったのだろうか。周囲を警戒するようにして飛びまわる殺人蜂の兵隊。それらを巧みに操って、ワスプポッドは攻撃が届く前に痛烈な反撃を繰り出した。
「……っ!?」
 猛毒を振り払うどころか、反対に身体を刺された。痛みに顔を顰めるダレンの様子に、思わず後ろからジョルジュが叫ぶ。
「迂闊に仕掛けるな。ミイラ取りがミイラになるぞ」
 だから、ここは自分に任せておけ。そう言って魔導書を開き、見えない衝撃波を叩きつける。
 振動する空気に、蜂の動きが弱まった。ワスプポッドの周囲を覆っていた兵隊蜂が、パラパラと落ちて動かなくなる。
「ポーラ! できるだけしがみついて動きを止めて!」
 この期を逃すわけにはいかなかった。
 星霊クリンを召喚し、ソフィアはワスプポッドへと向かわせる。狙いは敵の動きを止めること。巨大な白熊のような星霊に抱きつかれた瞬間、腐った身体が殺人蜂の巣諸共に凍り付いた。
「コダマさん、援護を!」
「了解しました。殺虫針装填完了。蜂の飛散を防ぎましょう」
 左右から挟み込みようにして、互いに敵を捉えるルアとコダマ。
 踊るように、舞うように、牽制も兼ねたルアの援護射撃。華麗なる足取りから放たれるそれは、正に魔弾の舞踏の如し。対するコダマのメイガスは、こちらは無数の毒針を発射してワスプポッドの脚を潰した。
 アンデッドは痛みを感じない。だが、今回の針は一味違う。猛毒ではなく、敵の攻撃範囲を狭めるために、特注の調整を施したものだ。
「クィ、背中は任せた。私の攻撃に合わせろ。遅れをとるなよ?」
「はい、キリィお姉ちゃん♪ それに私も、ね……シャルムーンデイ、とっても楽しみなんです……♪」
 なぜなら、年に一度の、女の子のためのお祭りだから。そう紡いで、互いに顔を見合わせ軽く微笑むキリィとクィ。
 駆け出すキリィの背を追いつつ、クィもまた走りながら炎剣を抜いた。
 炸裂する斬鉄蹴。鉄をも斬り裂くキリィの一撃に、ワスプポッドの身体に付いていた蜂の巣が砕けて散る。腐臭と、それから濃厚な蜂蜜の匂い。それらが入り混じった不快な臭気が、否応なしに鼻腔を刺す。
「させませんよ!」
 しかし、それでも勢いは収まらない。キリィの背を飛び越えるようにして、クィが立て続けに敵の懐に飛び込んだ。炎剣の持つ魔力を不死鳥の姿に代えて身に纏い、狙うは敵の中心部。
 周りを飛び回る蜂の羽音は、既に気になどしていなかった。あれは所詮、敵の尖兵。本体を倒さねば悲劇が終わらないことを、クィは十分に承知していたから。
「……ォォォォッ!!」
 その身を焼かれ、ワスプポッドが吠えた。これなら一気に押し切れるか。そう確信し、最後にジョンが渾身の突きで敵の身体を貫いた。
 炸裂する活殺退魔突き。が、それでも次の瞬間、ジョンはメイガスの中で苦い顔をして正面の敵を睨みつけた。
「ちっ……。仕切り直しか」
 見れば、いつの間にか自分の装甲が傷つけられている。おまけにワスプポッドの身体を覆う氷や炎が、果てはコダマの放った毒針までもが振り払われてしまっている。
「なるほど……。あれが女王蜂の力というやつか」
 敵の周囲を旋回する、一際大きな殺人蜂。その姿を見て、ジョルジュもまた納得したように言葉を結んだ。
 ジョンの攻撃を食らった瞬間、ワスプポッドもまた切り札を用いて自らの体勢を立て直していた。女王蜂の鋭い羽でメイガスの装甲さえも斬り裂いて、同時に羽音で自らの身体を活性化させ立ち直ったのだ。
 深淵を思わせる仄暗い穴。光を失った二つの瞳に恐るべき闇を湛えたまま、ワスプポッドがにやりと笑みを浮かべたような感じがした。

●死に至る羽音
 死神の羽音は鳴り止まない。街に訪れた絶望の使途は、等しく悲劇を撒き散らさんと暴れていた。
 幸いだったのは、街の人間の避難を済ませられたことである。何度立ち直られても諦めずに、徹底して敵の動きを止めること。そして、攻撃が市民に及びそうになれば、身を呈してでも庇うこと。
 それぞれが得意な分野の人間を説得しつつ庇ったのも、効果が大きかったのだろう。もっとも、代わりにこちらはボロボロだ。毒針に刺された肌は大きく腫れて、高熱と刺すような痛みが断続的に襲ってくる。
「大丈夫……ですか?」
「まだ……なんとかね……」
 クィの言葉にソフィアが返す。この中で、他人を癒す術を持っているのは彼女達だけだ。おまけに、ややもすると攻撃に特化したような布陣であることを考えれば、二人への負担は必然的に重くなる。
 これ以上は、回復を行うのも限界か。そう思った矢先、ワスプポッドの身体から再び殺人蜂が放たれた。
「……っ!? やべっ!」
 避難する市民に、気を取られていたのが災いしたのだろうか。反応が一瞬だけ遅れ、ダレンの身体が瞬く間に蜂の群れに包まれた。全身に痛みが走り、どこを刺されているかさえも判らないが、それだけではない。
「避けろ、クィ!」
 蜂の群れが新たな標的を捉えたことに気づき、その間に身体を割り込ませるキリィ。揺れる銀色の髪がクィの視界に入ったが、それは直ぐに蜂の群れで隠されて。
「……大……丈夫か?」
 死神の羽音が去った後、そこにあったのはボロボロになったキリィの姿だった。さすがに消耗が激しい。それでも笑顔だけは絶やさずに、そっと後ろに向かって微笑んで。
「安心しろ。私はまだ戦える」
 ふらつく脚に力を込めて、気力だけで立ち上がる。ロングドレスのスリットから覗く美脚は、所々が毒に侵されて腫れていたけれど。それでも何ら動ぜずに、ヒールを鳴らして敵を見据えて。
「絶望は……死に至る病よ。市民を絶望させないためにも、ここががんばり所よ」
「つーコトだ。このツケは安くないぜ!」
 燃える魂、バーニングハート。援護射撃を行うルアの前で、ダレンもまた自身を炎に包み立ち上がる。
 ここで倒れるわけにはいかない。なぜなら、約束した相手がいるからだ。必ず帰る。だから、寂しがらずに待っていろと。その言葉を嘘にしないためにも、情けない姿は見せられない。
「シルヴィア! 回復急いで!」
「キリィお姉ちゃん……今度は、私が助ける番です」 
 自分の限界など、既に構っている場合ではなかった。己の精神力を根こそぎ削り、ソフィアがスピカを召喚する。膝が痛むのも顧みず、クィも流れるようにして神楽舞。
 癒しの力に、再び戦士達が立ち上がる。そこから先は、もはや一方的な展開だった。
 殴られ、蹴られ、それから斬られ。互いに一歩も譲らず衝突するが、しかしエンドブレイカー達は諦めない。
 どれだけしぶとい相手であっても、それはこちらも同じこと。敢えて違いを述べるならば、そこに信念があるか否かだ。大切な人を守りたい。人々を絶望から救いたい。その想いが彼らを強くし、不屈の闘志を与え続けてくれるのだから。
「死神は、大人しく地獄へ帰りな。まあ、嫌と言っても強引に送り返してやるがな」
「バーストモード、スタンバイ。零距離掃射開始。撃てば当たります!」
 左右から挟み込むようにして、ジョンとコダマのメイガスがワスプポッドの蜂の巣を砕く。炸裂するタイガーファング、そして零距離からのクイックドロー。腐肉と、それから蜂蜜と。双方が飛散する度に、敵の動きが心なしか鈍って行く。
「さっさと終わらせるぜ、木偶野郎!」
「悪いが、羽虫如きにやられるわけにはいかないな」
 走る業炎、レイドバスター。ダレンの振り上げた大剣が炎を呼び、ジョルジュの呼び出した棘の檻が、一気に敵を押し潰さんと迫る。
「……ァ、ァァァッ!」
 だが、それでもワスプポッドは両手を広げ、懸命に潰されるのに抗っていた。なんというか、往生際の悪い相手だ。ならば、これは駄目押しだと、キリィは純白のアイスレイピアを引き抜いて。
「耐えるなど……無駄な事を。凍りつけ……芯までも!」
 寸分狂わぬ狙いで敵の身体を貫き、その内部から凍結させる。さすがに、これは効いたのか、滴る蜂蜜が瞬く間に凍り付いて氷柱と化した。
「もう何も恐くない! ……ティロ・フィナーレ!」
 遺恨は後に残さない。仲間達が射線から離れると同時に、間髪入れず、ルアが止めの一撃を。
 紫色の魔力の奔流。それは全てを押し流すように、ワスプポッドの淀んだ肉体を包み込み。
「……目標の消滅を確認。ミッション・コンプリートです」
 最後に、コダマがメイガスのハッチを開けて告げた時には、既に敵の姿は欠片さえも残されてはいなかった。

●束の間の希望
 戦いの終わった広場にて、エンドブレイカー達は改めて市民に事の成り行きを説明していた。
「とりあえず、厄介な化け物は退治したぜ」
「楽しい祭りを、妨害しようとする奴らがいるようだ。しかし、そんな無粋なことはさせないから、安心して楽しんでくれ」
 危険は去った。だから、もう何の心配をする必要もない。そんなダレンとジョンの言葉に続け、クィもまた街の人々を元気づけるように声を掛け。
「壊れても大丈夫。また、皆のシャルムーン様の像を建てましょう」
 だが、そんなクィの言葉にも、市民達はどこか浮かない表情だ。自分達の信じていた勇者の像。その中から恐ろしい怪物が現れたことで、何を信じればよいのか解らなくなっているようだった。
「怪我はない? もう大丈夫だから安心して」
 とにかく今は、街の人々の安否を確認せねば。キリィが優しく子ども達に語りかけ、コダマもメイガスから降りて小さなチョコレートの袋詰めを配り。
「まだ……動ける。……助けに行くよ、シルヴィア……」
 ふら付く足取りのまま、ソフィアは少しでも傷を負った者がいれば癒そうと、無理を承知で歩き出した。
 希望を与えるものは、名声でも言葉でもなく行動だ。自己犠牲も厭わない、献身的な彼らの姿。それは勇者シャルムーンの名に代わり、確かに人々の心に刻まれていた。
「さて……。一段落付いたら、祭りを楽しむとしようか」
「そうね。市民の無事が確認されたら、美味しい紅茶を飲みに行きたいわ」
 いつまでも、沈んだ顔をしてはいられない。ジョルジュもルアも、それぞれに祭りを楽しもうと口にする。
 だが、この平穏な時間が、果たしてこのまま続くだろうか。作戦の失敗を知ったシャルムーンが、遠からず決戦を挑んでくるのは間違い無い。
 束の間の安息。それを楽しむことで、しばし明日への英気を養おうと。死神の足音の去った広場で、誰ともなくそんなことを胸に思うのだった。



マスター:雷紋寺音弥 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2014/02/14
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