ステータス画面

ショコラポプラ

<オープニング>

●時の栞フェルトフェルタ
 森の木の深茶色と優しい光の白が入り混じった、愛嬌のある羽の色が森梟たちの自慢です。
 けれど、ある冬の朝のこと。
 丘の上のポプラの木で森梟のクリッタを見つけた灰色リスのプップはびっくり仰天。
 優しい冬の朝の光に照らしだされたクリッタは、全身真っ白なミルク色をしていたのです。
「どうしたのクリッタ! 森梟じゃなくて、白梟みたいだよ!」
「実はね、ついさっき、フェルトフェルタの街でとても恐ろしい目にあったんだ!」
 その恐ろしいできごとを思い出したのか、ミルク色のクリッタはぶるりと羽毛を震わせました。
 森梟の活動時間は主に夜。クリッタも昨夜は時の栞フェルトフェルタの街で楽しく遊んでいたので、朝には大分眠くなっていました。森のねぐらに帰る前にちょっと休憩しようと、あるおうちのキッチンの窓辺にとまったクリッタは、うっかりうとうとしてしまってそのままころんと転げ落ち――。
「そうして、おかみさんがミルクを温めていたミルクパンに落っこちちゃったってわけなのさ」
「わあ、それは大事件だね! ヤケドとかはしなかったの?」
「うん、まだ温めてる途中で、あったかくて気持ちいいなぁってくらいだったからね。けど……」
 けれど今朝は、それがちょっとまずかったのです。
 なぜなら。
「わあ、あったかぁい……ってそのままうっとり夢心地になっちゃって、もう少しでうっかり昇天しちゃうところだったんだよ!!」
 気づいたおかみさんに助けられた時にはもう、やっと大人と同じ色に生えそろったクリッタの羽毛のすみずみにまでミルクが染みてしまっていたのです。
 冬の早朝はとてもとても水が冷たくて、すぐ水浴びすることもできません。
 そこで、丘の上のポプラで陽が高くなるのを待っていたクリッタでしたが、その間にミルクはすっかり乾き、羽毛にしっかり貼りついてしまったのでした。
「だからね、僕は朝日に誓ったんだ」
 ――次にあったかなミルクに出逢ったら、今度は僕がミルクを森梟色に染めてやるってね!

 それは紫煙群塔ラッドシティの農村地域をゆったり通る街道沿い、大きな森に寄り添うよう創られた時の栞フェルトフェルタの街で語られる、森梟クリッタの物語のひとかけら。
 ――ねえ、知ってる?
 冬の早朝、フェルトフェルタの時計塔広場に、クリッタのこの物語にヒントを得たホットミルクを飲めるミルクスタンドが現れることを。外側が赤くて中は真っ白な可愛いほうろう引きのミルクパンで丁寧に温めたホットミルクをぽってりまぁるい木のマグカップにそそいでもらったなら、そこに森梟のかたちのチョコレートを落とすの。チョコレートに付いてるポプラスティックでくるくるかき混ぜればチョコレートが溶けて、たちまちホットショコラになるってわけ。
 ホットミルクに飛び込む森梟クリッタを表したこのチョコレートの名前は、ショコラポプラ。

 透明な、キンという音が響きそうな、冷たい冷たい大気が透きとおる冬の早朝、フェルトフェルタの時計塔広場には秘密のミルクスタンドを知るひとびとがショコラポプラを楽しみにやってくる。
 凍えるような寒さで吐息もホットミルクの湯気も真っ白。けれどショコラポプラを落としてくるくるかき混ぜたホットミルクがほんわりチョコレートの色に染まり、ホットミルクの匂いにあったかなチョコレート匂いが混じり始めたなら、大人も子供もあったかしあわせ笑顔。
 けれど、そんなある日の朝。
 ぶんぶん唸る羽音で相手をとってもイライラさせて暴走させる大きな蜂、暴れ蜂たちと、唸る羽音でとってもイライラされられ我慢できなくなった森梟たちが広場に飛び込んできたからさあ大変。

●さきぶれ
「森梟たちはフェルトフェルタのひと達が好きだから、暴走してもひとを襲うことはないんだけど……」
 雁渡の狩猟者・アンジュ(cn0037)が深刻そうな表情で話を続ける。
 おっとり屋さんだけど悪戯好きで、森からしょっちゅう時の栞の街に遊びにくる森梟たちは人間とも遊ぶのが大好き。つまり人間を『敵』とは認識しないので、暴走しても攻撃することはない。
 だが、小さくとも彼らも猛禽、狩りをする生き物なのだ。
「暴れ蜂を無我夢中で追っかけまわすうちにね、爪やら嘴やらでミルクスタンドの色々をひっかけて壊しちゃったり、大暴れで飛びまわる暴れ蜂や森梟にびっくりした子供たちが転んでケガしちゃったりでね、朝の時計塔広場が滅茶苦茶になっちゃうんだよ!」
 ささやかで、けれどあったかな皆のしあわせが何もかも台無しになってしまうエンディング。
 視ちゃったからにはもう居ても立ってもいられないんだよ、と暁色の娘が同胞達に願う。
「どうかお願い、力を貸して。アンジュと一緒に――暴れ蜂を倒して、森梟の暴走をとめて来よう?」

 森梟たちに悪意はないし、街のひとびとも森梟が大好きだ。
 だから森梟が傷つけられる様を見れば哀しむだろうし、アンジュ自身も森梟大好きっこのひとりだ。
「それに、森梟たちが『敵』って認識してる暴れ蜂たちさえ倒しちゃえば暴走も治まるはずだもの」
 ゆえに自分達の『敵』も暴れ蜂たちのみ。
 暴れ蜂と彼らに暴走させられた森梟たちは、街の大通りから時計塔広場へ飛び込んでくるという。
「元々暴れ蜂は攻撃的だし、森梟は暴走させられちゃってるしで、大暴れしてるうちに戦場が広場に移動しちゃったって感じみたい。急げば大通りと広場の境目のところで止められる」
 暴れ蜂たちは大型の蜂だが、それでも大人の掌くらいの大きさ。
 マスカレイドでもないし、羽音の暴走効果が厄介ではあるが、強力な敵ではない。
 油断せず臨めば広場に侵入させずに倒すことも可能なはず、と暁色の娘は続けた。
「暴れ蜂は5匹で、暴走させられてる森梟も5羽。森梟たちはこっちを攻撃してくることはないけど……もしみんなに暴れ蜂をお願いしてもよければ、アンジュは先に森梟たちの暴走をアスペンウインドで浄化したいな、って思うのね」
 時計塔広場への侵入は防げても、森梟が暴れまわる姿は広場にいるひとびとにも見えるだろう。
「できれば見せたくないんだよね。……んでも」
 それだと暴れ蜂たちに対処する手が足りないだとか、暴走を浄化するよりも速攻で戦闘そのものを終わらせたほうが速いといった考えもあるだろう。
「だからね、アンジュはこうしたほうがいい、ってのがあれば言ってもらえると嬉しいの」
 頼りにさせてね、と暁色の娘は笑みを燈した。

「んでね、無事に終わらせられたらね、折角だもの、アンジュ達もショコラポプラを楽しんでこようよ」
 ポプラスティックの先の森梟チョコレートをホットミルクにくるくるかきまぜ溶かし、あったかしあわせ笑顔をくれるホットショコラで身も心もぽかぽかに。
 暴走さえ治まれば、おっとり屋さんだけど悪戯好きな森梟も遊んでくれるはず。
 彼らはチョコレートにもホットミルクにも興味はないけれど、人間と遊ぶこととポプラスティックを齧ることには興味津々。騒ぎが治まればほかの森梟たちも広場にやってくるだろうから、もしもこの辺りの森梟に知り合いがいるなら再会することだって夢じゃない。
「あのね、あったかな幸せめいっぱい楽しめたら、また逢おうね」
 そうして、この朝のしあわせな物語を語り合おう。

 ――朝には森梟が飛びたって、君の知らない物語を探しにいくよ。


マスターからのコメントを見る
参加者
大梟の樹に住む・レムネス(c00744)
牙靂の・ジェイ(c00883)
漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)
万華響・ラヴィスローズ(c02647)
ハニーフィンチ・アレンカレン(c03179)
ダンシングブレード・エリーシャ(c15180)
静穏の祷り・フォシーユ(c23031)

NPC:雁渡の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●時の栞フェルトフェルタ
 冴ゆる朝の空気を満たせば胸に、暁風へ一斉に鏡の蝶が舞いあがった幻想展覧会の朝が甦る。
 時の栞フェルトフェルタの街並みを染めるは薄群青とも菫ともつかぬあの日と同じ朝まだき、けれど大通りに羽ばたき広場へ向かいくるのは銀色硝子の蝶でなく――猛る森梟と羽音唸らす暴れ蜂だ。
 純白と桃の花眠る冬芽に彩られた街路樹の梢、その彼方から射した曙光に星の落とし子煌かせ、静穏の祷り・フォシーユ(c23031)が氷剣を引き抜いた瞬間、早朝の戦いの幕が上がった。
「森梟と街のひと達のために! まずは斬り込んで通せんぼだね!」
「広場に入られる前に抑え込んじゃいますよー!」
 激しく争い縺れあいながら突っ込んでくる五羽と五匹を視界に収め、迷わず広場の石畳を蹴るのは大梟の樹に住む・レムネス(c00744)。鮮やかな赤の軌跡を描いた爪が暴れ蜂を引き裂いたと同時、己が分身と手を繋いで飛び込んだダンシングブレード・エリーシャ(c15180)が森梟と暴れ蜂を隔てる壁になる。
 ぶんぶん唸る蜂の羽音に負けじと風を切るのは琴抱く白刃、少女の刃と分身が携えた闇色の刃が朝の大気を一気に裂けば、強烈な痛打を浴びた蜂の翅と脚のかけらが風に躍った。
 頼もしい仲間達に、大好きなひと達、辺境の旅や製菓市で縁を結んだ頼れる仲間。そんな皆と肩を並べての戦いに万華響・ラヴィスローズ(c02647)の胸は弾む。そして、
「アンジュ殿は妾が護る!」
「きゃーラヴィスローズちゃんかっこいいー!」
「ならば、ラヴィスローズ殿は俺が護らせていただく」
 気合満点で召喚したのは星霊クリン、ぼふんと大きくもこもこ感を増した白クマの星霊が氷の吐息振りまけば、凍気の煌きに宵闇の裾を翻した漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)が馳せた。
 彼の黒刃が揮われるより一瞬速く、唸る暴れ蜂の羽音がその意識を乱したが、
「行け、リュー! 余計なモンは叩き落としてやらァ!!」
 雄鷲の銃把を握った牙靂の・ジェイ(c00883)が鋭く銃口を閃かせた刹那、紫煙の輝き爆ぜるように溢れだした数多の魔力弾が蜂三匹を蹴散らし、エリーシャから痛撃を受けていた一匹を撃墜する。
 相変わらず頼もしい、と微笑したリューウェンは狙い定めず刃の切っ先が赴くままに斬撃を放った。朝風に映した残像とともに彼が暴れ蜂達を斬り裂けば、氷の刃に更なる凍気を凝らせたフォシーユが手近な蜂を一気に貫く。
 真白な漣のごとく大通りに躍った彼の凍気、幾重にも翻る葡萄紋の長衣。蜂達に敢然と臨むその背に力をもらった心地で、ハニーフィンチ・アレンカレン(c03179)はきゅっと拳を握った。
 大丈夫、ひとりじゃない。
「よし、アンジュ先生! 森梟さん達を助けましょう!!」
「うん、落ち着かせてあげて!」
 猛然と暴れ蜂へ襲いかからんとする森梟へ飛びついた星霊スピカが輝く星でなだめてなでなでし、別の一羽へは雁渡の狩猟者・アンジュ(cn0037)が呼んだ心鎮める涼やかな風が翔ける。
 後ろに下がってて、というアレンカレンの言葉から彼女の想いを感じ取ったらしい森梟達が後方へ飛び去る様子に小さく安堵の息をつけば、たちまちそれも真白に霞んだ。けれどフォシーユが招くは透きとおるように凛冽な朝をそれ以上の真白に染める冬の嵐。
 烈氷陣の中心から凄まじい吹雪が迸り、眩いほどの真白に煌き吹き荒れた氷雪が蜂三匹を穿ってその足を凍結させる。蜂達の羽音が大きく鈍る様に明るく笑って、レムネスは赤き鉤爪を翻した。
「さあ、行くよヒューイ!」
「ポラリス、蜂さんにお仕置きじゃ!」
 真紅の軌跡の先端にぽむっと現れた星霊ヒュプノスが眠りの霧を吹きつけたなら、ラヴィスローズに応えた星霊クリンが巨大化し、唐突な睡魔で高度が落ちた蜂達を巻き込むようにごろごろごろん。
 運良くフォシーユの吹雪の範囲外にいた暴れ蜂が、ぶうんとひときわ耳触りな羽音でエリーシャの心を苛立たせたが、
「ちょっと狙いがアレですけど……このまま幾千の魔剣の舞曲、いきます!」
 ざわめく心のまま少女が奏でた琴剣の音に乗り、虚空から顕現した鮫剣が蜂達の間を乱れ舞う。
 荒ぶる邪剣の切っ先から逃れた蜂が此方の陣をすりぬけんとするが、その瞬間翻ったのは荒野の風と塵孕む戦装束。
「調子に乗ってンなよ――行かせるか!」
 暫く離れていた戦場へ舞い戻ったのは年が明けてからのこと、けれど勘は鈍るどころか冴え渡る。不敵な笑みを覗かせ、振り向きざまにジェイが放つは瞬時に銃声連ねる三連射、陣を突破しかけた無粋な蜂が見事狩られて撃ち落とされたなら、
「アルフ、お願い!!」
 アレンカレンの許から跳ねた星霊スピカがその蜂を追わんとしていた森梟をぎゅむっと抱きとめて、優しい星の力を燈した。
 振り返って彼らの活躍を直接見ることは叶わずとも、気配でそれらを感じ取る。
「流石だ、お二人とも」
 湧きあがる高揚は治まらぬ暴走ゆえか皆の頼もしさゆえか。ひたすら前を見据えるリューウェンが揮う剣閃の狙いは乱されたままだったが、三匹にまで減った蜂達へと放つ技は残像剣。ならば、その切っ先が狙うべき深手の蜂へ届く可能性はかなり高い。
 幾重にも奔った剣閃の一条が、残る蜂達のうち一匹を撃墜した。
 攻撃を担う全員が駆使するプラスワン攻撃が、アレンカレンとアンジュの二人が森梟達の浄化へと回ったことで減った手数を補い、暴れ蜂達を広場の手前で押しとどめる。
 森を狩場とする身としては、同じ森の狩人達のため一肌脱いでやりたいところ。
 このまま一気に退治しちまうぜ、と琥珀の眼差しで暴れ蜂達を見渡したジェイが雨霰と撃ち込んだ紫煙の輝きで弾幕を広げれば、ラヴィスローズの傍でどーんと大きくなって壁になった星霊クリンが弾幕の隙間を凍える吐息で埋める。
 なおもぶんぶん飛びまわる蜂達の間をレムネスの星霊ヒュプノスが跳ねて眠りを誘い、曙光の煌き踊る石畳の上を残像従えたリューウェンが駆けて刃を閃かせれば、その頭上でエリーシャの邪剣が乱舞して、地から空から蜂達を斬り裂いた。
 だが、破れた翅でも耳障りな羽音を唸らす蜂に突っ込まれ、冬の嵐を操っていたフォシーユの背を曰く言い難い衝動が翔け昇る。淡金の眉を顰め、ざらりと心を撫でる苛立ちのまま揮う刃に爆ぜるは凍気の煌き、
「――煩わしい!」
 皓々と輝く月を描いた斬撃が、彼の眼前の蜂を斬り捨てた。
「お待たせ! 森梟さん達はもう大丈夫よ!」
「よかった、お疲れ様!」
 五羽の森梟すべてを安全圏へと送りだしたアレンカレンの手許から跳躍するのは星霊ヒュプノス、ぽむぽむ跳ねる羊に続き、レムネスの星霊羊も眠りの霧を振りまき最後の蜂の夢を喰らう。
「それじゃ、ほんとにおやすみしてもらいますねー!」
 踊るようなエリーシャの音色のままに翔けた黒霊剣に貫かれ、遂にすべての暴れ蜂が力尽きた。
 淡くも眩く透明な、冬の朝の光が世界を満たす。
 大型とはいえ暴れ蜂達の大きさは成人の掌程度、戦いも広場へ入ることなく終えられたこともあり、それらの痕跡はドローブラウニーを使うまでもなくあっさり拭われた。
 振り仰げば広場を囲む建物の三角屋根に避難していた森梟が、キュルル、と首を傾げてみせる。
「もう大丈夫よ。怪我はない?」
『キュイ!』
 笑顔を向ければ嬉しげにアレンカレンの傍へ舞い降りる森梟、その姿に瞳を和らげたフォシーユが、
「もう大丈夫ですよ」
 と皆へ声をかけたなら、広場で様子を窺っていた街のひとびとからも一斉に声が返った。
 ――お疲れ様!

●時の栞のショコラポプラ
 曙光が満ちても冬の朝はなお寒く、ホットミルクの湯気も皆の吐息も真白に霞む。
 けれど真白な吐息も、零れてくるのは皆のあったかしあわせ笑顔から。
 時の栞のおうちの主を見つければ、途端にぱっと顔を輝かせた暁色の娘が彼の手で湯気を立てるホットミルク二つを零さぬように、大好き、とその胸に飛び込んできた。
 ほら、あの子が来てるよ、と振り仰いだなら、時計塔から迷わず舞い降りてくる馴染みの森梟。
 肩に優しい重みと温もりが加われば。
 ――やあ、おはよう。今日はどんな話をしようか。
 赤白縞模様の可愛らしい布張り屋根の下、ミルクスタンドではやはり赤と白のミルクパンで丁寧に温められたホットミルクが、エリーシャの眼の前でぽってりまぁるい木のマグカップに注がれる。
 冷めないうちにねと手渡されたのは、エリーシャが注文したビターのショコラポプラ。
 ミルクパンに森梟の形のチョコレート、ポプラスティック。
「全部物語に則ってるんですよねー」
「そういうのがまたあったかいよね♪」
 マグカップを持つ手と心に感じる温かさに笑ってレムネスが受け取ったのは抹茶のショコラポプラ。
 あの子に逢えるかな、と期待の眼差しで見回せば、見覚えある森梟がすいと飛んできた。
「今回もご一緒してくれる?」
『キュイ!』
 御機嫌な森梟を肩に乗せ、ミルクに沈めたショコラポプラをくるりと回せば、興味深げにくるりと回る森梟の首。見てるのはポプラスティックだとわかっちゃいるけど、思わず言っちゃうこの言葉。
「飛び込んじゃダメだからね」
『クルル?』
 ポプラスティックでくるくる掻き混ぜたなら、フォシーユのホットミルクはほんのり森梟色に染まる。
「何味?」
「私はストロベリーにしたの」
 そっと肩を寄せれば小さく弾むアレンカレンの声。ビターも美味しそうね、と覗き返されれば、彼女の傍の森梟も一緒に覗きこんでキュルキュル鳴いた。
「……そうだ、乾杯してもいい? アンジュや皆にも!」
 二人でマグカップを鳴らし、一緒に着てくれる? と差し出した手に彼が己のそれを預けてくれればアレンカレンは満面に笑みを咲かせた。
 夏のプラムワインと同じように嘴とカップで乾杯しようとした処に、待って待ってとかかる声。
 駆けてきたアレンカレンとフォシーユ、近くにいたエリーシャ、そして森梟と乾杯したなら、レムネスは春めく柔らかな抹茶色に染まったホットショコラをひとくち。
 ほわあっと真白な吐息が零れるとともに、彼にもあったかしあわせ笑顔。
 淡い青に澄み渡り始めた朝の空をそわそわ見上げるリューウェンと一緒に、ラヴィスローズも可愛いあの子を探して辺りに視線を泳がせる。彼の肩越し、ミルクスタンドの屋根へ瞳を向ければ、見覚えある姿が見出せた。
 翼広げた森梟はフクロウ類お得意の無音飛行で、全く気づかぬリューウェンの肩に見事着地。
「……! まさか、これほど近くまで来ても音がしないとは」
「ふふ! どっきり作戦成功なのじゃ、ねっ♪」
『キュイキュイ!』
 肩に感じた軽い衝撃に続き耳元で誇らしげに一声鳴かれれば、瞬きしていたリューウェンの顔にも楽しい笑み。傍らのジェイに森梟ごと向き直った彼に、
「ラヴィスローズ殿と俺の馴染みの森梟なのだ」
「へェ、しっかり覚えてるたァ賢い奴だ。――流石街を守っただけはあるぜ」
 なんて紹介されたなら、ラヴィスローズと眼差し交わしたジェイは周りに聴こえるよう言葉の後半さり気に強調。少女も拳を握り、
「頑張ったのじゃよね?」
『キュル? ……キュイ!』
 アピールしてみたならぱ、ミルクスタンドでショコラポプラをもらっていた子供が、わあ、えらいね、と破顔した。街のひとびとと森梟の関係は問題なさそうだ。
 良い色の羽してンなと首の辺りを擽ってやれば、悪戯っ子なので突かれぬよう――とリューウェンが言い終えるより早く、森梟の嘴がジェイの遮光眼鏡をこつこつこつん。
「オイ止めろ、これは板チョコじゃねェ」
『キュル!』
「あはは、そーゆー小物に悪戯したら構ってもらえるって知ってるんだよ」
 悪戯っぽく笑うアンジュの頭に乗っている森梟も確かに、彼女の傍らのおうちの主の眼鏡のつるを啄ばみ中。相棒には内緒で、と笑いながらリューウェンが肩の森梟を紹介してみたなら、アンジュ達とこの子はもうゆずひよこさん達公認の仲だよと自慢された。何それ羨ましい。
 彼の肩から飛び移ってきた森梟に頬ずりしてみれば、深茶と白混じりの羽毛はすべすべふわふわ。その心地好さにラヴィスローズが笑みを零せば森梟も気持ち良さげにクルクル鳴く。
「そうじゃ、良ければ皆が仲良くなった森梟さんを紹介して欲しいのじゃよ♪」
「勿論! ね、一緒に乾杯しましょう?」
 振り返ればアレンカレン達がやって来たから、あたたかなマグカップを掲げて皆で乾杯!
「またお会いしましょうね」
 軽やかにカップ鳴らせばアレンカレンに声をかけられ、実は俺もとリューウェンが微笑み返す。
「機会あればまたご一緒したい――とお二人にお伝えしたいと思っていた処だったのだ」
「そうだね。また御縁があれば……」
 僕も嬉しい、とフォシーユも穏やかに瞳を細めた。
 何度かともに冒険したリューウェンやラヴィスローズ達のことを頼もしく思っていたのは彼とて同じ。こんな風に続いていく縁をこよなく愛する暁色の娘が、彼らの様子に嬉しげに笑う。
 森梟色に染まったホットショコラは、冬の朝に甘くてあったかな最高のしあわせをくれる。
 幸せ満喫した証のポプラスティック目当てにやって来た森梟に手持ちのそれをあげて、エリーシャは小さな音で竪琴を奏でてみた。
 歌ってくれるか、踊ってくれるか……と思ったら。
「きゃー!? 頭でステップ踏んじゃダメですよー!!」
『キュイ!』
 少女の頭の上でポプラスティックをくわえてぴょこぴょこ跳ねる森梟が皆の更なる笑顔を誘う。
 擽ったそうな笑みを零したラヴィスローズと暁色の娘がカップを覗きあい、
「アンジュ殿は何のお味? 妾はね、ストロベリー♪」
「アンジュはビターだよ! んでも苺もいいなぁ」
「ふふ、妾はおかわりするのじゃよ!」
 なんて交わす声が聴こえたら、リューウェンが神妙な顔で己のカップに視線を落とした。
「……流石に全種制覇は欲張りだろうか?」
「樽になる気か、リュー」
 反射的に突っ込みながら、真白な水面に沈むビターなちび森梟を見送ったジェイも、見よう見まねでポプラスティックをくるり。柔らかに渦巻く波紋にゆるり森梟の色が融け出し、カップを包む掌に暖かな温もり伝われば、表情も柔く緩んだ。
 全種制覇しそうな誰かと彼に自分のホットショコラを差し出してやる妹分の睦まじい姿を見遣れば、胸に燈る温もりは掌のそれに良く似た温かさ。
 甘ェのも悪くねェかなと、あたたかなしあわせ、そっと一口。
「お疲れ様と幸せな一日の始まりに、乾杯!」
「――乾杯」
 最後にもう一回、と二つのマグカップをこつりと鳴らしたなら、アレンカレンが飛びきり幸せな笑みを咲かせた。フォシーユと一緒なら嬉しさも歓びも倍になる。
 彼の顔にも知らず綻ぶ、ひときわ柔らかな笑み。
 燈ったぬくもり広がって、抱えた不安も溶けて消えれば、この時間が続けばいいと望んでしまう。
 あたたかで、甘くて苦い罪の名前は――しあわせ。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2014/02/13
  • 得票数:
  • 怖すぎ1 
  • ハートフル7 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。