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夢先案内のスイートピー・フェスタ

   

<オープニング>

●夢先案内のスイートピー・フェスタ
 透きとおる空の青はいまだ淡いけれど、日毎に優しさを帯びていく彩が近づく春を教えてくれる。
 永遠の森成す大樹の間から覗く青空のもとに立つのは、春の夢抱くスイートピーの花や芽吹きの苗を扱うスイートピーの花市、スイートピー・フェスタ。
 花嫁を思わす純白に、優しく愛らしい桃、明るく華やぐ黄に、爽やかに澄んだ空の色。
 冬空のもと春の夢と甘い香りを溢れさせる冬咲きの花々に、瑞々しい翡翠色の小さな葉やくるくる踊る細い蔓が可愛い春咲きスイートピーの苗。春への夢と希望をいっぱいあつめたこのフェスタで、花卉農家に生まれ育ったセアラはついに自分の店を出すことができた。
 おまえにはまだ早い――そう言う両親を根気よく説き伏せて出した、初めての自分のお店。
 柔らかなフリルめいた花びらいっぱい重ね、ふわり羽ばたく蝶のように咲き零れる冬咲きの花々で店を彩るけれど、主力の売り物は店を飾るのと同じ花を咲かせる春咲きスイートピーの苗達だ。
 愛情こめて育てたこの苗達を、スイートピーを愛するひとびとの手に送り出すことができたなら。
 夢と希望に満ちたセアラが胸に描く光景は、スイートピーを愛する素敵なお客様達との楽しい交流。もちろん自分の店だけでなく、他の出店者達のお店もいっぱいいっぱい繁盛して欲しい。
 だって、スイートピーを愛するひとびとの笑顔で賑わう幸せな光景を、肌で感じてみたいから。

 ――けれど、大勢のひとびとが集まるところにアクシデントはつきものだ。

「ふぇ、ふぇ……」
 透明で甘いスイートピーの香りを楽しんでいた客らしき御隠居さんが、
「ぶええぇくっしょい! っとくらぁ!!」
 凄まじいくしゃみを炸裂! そのはずみで眼前のスイートピーの苗をなぎ倒す。
 被害に遭ったのは他所の店だったが、セアラはちょっとイラッとした。
 優雅な白オウムを連れた上品なマダムが優しい表情で花々を眺める様子を見れば心が和んだが、この苗見せていただくわ、とマダムが身を屈めた瞬間、その肩の白オウムがばさぁと翼を広げた。
『オホホホホ! サア、コレデ縛ッテアゲル、イイ声デ泣イテチョウダイ?』
「あ、あら、ピーちゃんたらなんてこと言うの! いやだわもう誰がこんな言葉教えたのかしら!!」
 明らかにマダムがピーちゃん以外の誰かによく言っているらしいとても高貴な言葉を声高に叫び、白オウムのピーちゃんは容赦なくスイートピーの蔓をひっぱりまくってブチブチとちぎりまくる。
 被害に遭ったのは他所の店だったが、セアラはかなりイラッとした。
 それでも自分の店にお客様が来てくれたなら心が弾む。
 いらっしゃいませ、とセアラが笑顔で迎えれば、金髪碧眼の青年客はサラリと前髪をかきあげ、
「やぁ、美しいお嬢さん。ボクとお茶でもどうだい?」
「折角ですが、お店がありますので……」
「!? そんな、ボクの誘いを断る女性がこの世にいるなんて……!!」
 大仰に腕を広げ、芝居がかった仕草で一回転し、スイートピーの苗達の上に倒れ伏した。
 被害に遭ったのは自分の店だったので、セアラはとってもイラッとした。
 愛らしく可憐なスイートピーの花溢れるフェスタの会場に、野太い笑声が響き渡ったのはその時だ。
「ボハ! ボハ!! ボハハハハハ!!!」
 野卑な哄笑とともに荒くれ者の集団が現れた!
「ボハハハハ! 泣く子も黙る荒くれ者集団、ボハーム盗賊団様のお越しだぜェ!!」
「おらおら、客共の財布も店の売上も全部こっちに寄越しやがれ!!」

 セアラのイライラが爆発した。
 
「何でこんなことになっちゃうのよ! どうしてみんな普通にスイートピーを愛でられないのよー!! ええい、可憐なスイートピーを愛せぬ下賤な者どもよ、滅びるが良い……!!」
 プチッと切れてしまったセアラは悪のスイートピー魔王と化し、フェスタに地獄絵図を描きだした。
 悪のスイートピー魔王って、要するにマスカレイドのことです。

●さきぶれ
「春の花を育てたいなと思ってエルフヘイムをうろちょろしてたらこんなエンディング視ちゃったんだよなんてことなの……!!」
 永遠の森エルフヘイムの旅人の酒場で暁蝶の狩猟者・アンジュ(cn0037)がぷるぷるした。
 夢と希望に溢れるスイートピー大好きっ娘・セアラはちょっぴりせっかちなのが玉に瑕。
 せっかちな自分を抑え根気よく両親を説得する間に募ったイライラに棘が忍び寄ってしまったらしく、スイートピー・フェスタ当日にイライラを爆発させてしまうことで、セアラは悪のスイートピー魔王、もといマスカレイドへ変貌するのだ。
「んでもね! まだセアラさんを助けることができるんだよ!」
 どうかお願い、力を貸してと暁色の娘が願う。
「アンジュと一緒に、スイートピー・フェスタを幸せなフェスタにしてこよう?」
 素敵なお客様に恵まれた、幸せなフェスタに。

 咲き零れる花と瑞々しい苗達で、春への夢と希望をいっぱいあつめたスイートピー・フェスタ。
 そこにつどう大多数は、もちろんセアラが夢見たとおりにスイートピーを愛するひとびとだ。
「偶々セアラさんが幾つかアクシデントを目撃して、そこに盗賊団まで来たのがまずかったんだけど」
 それらは不幸な事故とか特殊な例なんだ、と説得するよりは、
「アンジュ達で何とかしちゃうのが手っ取り早くて確実だと思うの!」
 自分達もまたスイートピーを愛する客としてフェスタの買い物を楽しみながら、御隠居や白オウムのピーちゃん、金髪碧眼の青年がアクシデントを起こす前にさり気なく何とかしてしまうのだ。
 盗賊団だけは『さり気ない』対処は無理だが、
「このひと達、一般人には脅威なんだけど、アンジュ達にとってはただの雑魚集団なのね」
 哄笑とともに現れたところを速攻でぶち倒してしまえば、セアラの気持ちも『ああびっくりした』程度で済むだろう。
 朝に始まるスイートピー・フェスタは昼前には終わる。
 素敵なお客様に恵まれた幸せなフェスタとして無事終了したなら、スイートピー好きなひとばかりで幸せな市だったねと畳みかけ、セアラに拒絶された棘が拒絶体マスカレイドとして表面化したところを店の裏にひっぱりこんで倒せばいい。
「まだ棘が少ないから、一般人はともかくアンジュ達にとっては強い敵じゃないのね」
 誰にも気づかれぬうちに戦いは終わるだろう。

 春の夢溢れるように咲き零れ、甘い香りを振りまくスイートピーの花々もきっと素敵。
「んでもね、アンジュは春咲きスイートピーの苗を買いたいんだよね」
 瑞々しい翡翠色に命の息吹をいっぱいに秘めた苗。
 スイートピー・フェスタ共通の、薄く削った木の皮をくるりと巻いたポットで育てられた苗は、ポットごと土に植えることができるという。木の皮は数日で地に還り、日毎に暖かくなる陽射しを浴びて育っていく苗の養分になるのだ。
 少し前から花を育ててみたいと思ってたの、という娘が幸せそうな笑みを燈す。
 春の夢咲く花を買おう。春の夢育む苗を買おう。
 花々を、苗を眺めるだけだっていい。
 セアラの店だけでなく、様々なスイートピーを取り揃えた数多の店で。
 スイートピーを愛するひとびとの笑顔で賑わう幸せな光景――それもセアラに必要なものだから。
「あのね、幸せなスイートピー・フェスタを終えられたら、また逢おうね」
 あなたが出逢った春の夢の話を、きっと聴かせて欲しいと思うから。


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参加者
緋の暴君・ユリウス(c00471)
大梟の樹に住む・レムネス(c00744)
花渫う風・モニカ(c01400)
昏錆の・エアハルト(c01911)
戯咲歌・ハルネス(c02136)
雪のカデンツァ・フェイラン(c03199)
踊る光影・ロゼリア(c05854)

NPC:暁蝶の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●アーリーブルー
 永遠の森成す大樹の間から仰ぎ見る空は淡青に透きとおり、柔らかな陽射しを抱いて流れる朝の風も透きとおる。ふわふわ舞うようにそよぐ幾重もの春色フリルは冬咲きスイートピー、朝の風に甘く透明な花の香りが溶ければ胸いっぱいに吸い込んで、踊る光影・ロゼリア(c05854)は春の夢溢れる朝の花市――スイートピー・フェスタに客として溶けこんだ。
 朝の光を透かす淡桃色に甘酸っぱい幸せ踊るチェリーピンク、心をふんわりと癒す淡いラベンダー、瑞々しい香りと春色湛えた花を少しずつ買い求めたなら、
「ほら、フェイランもアンジュも飾って飾って!」
「まあ、ありがとう♪」
「きゃー擽ったいー!」
 雪のカデンツァ・フェイラン(c03199)や暁蝶の狩猟者・アンジュ(cn0037)のこめかみに飾ってやり、己の胸元にも春の夢。客として純粋に楽しんでみせるのも今日の悲劇を覆すためには大切なこと、二人ときゃあきゃあ笑いあい、これと同じ色の花が咲く苗はある、とロゼリアが訊ねれば、知らぬ間に棘を抱えた娘――セアラが嬉しげに頬を紅潮させ、こちらです、と幾つかのポットを示す。
 初々しい彼女の笑顔を見ればフェイランの胸に湧くのは使命感、折角の幸せ日和をイライラで潰すわけには行きませんのよと辺りを見渡せば、通りの彼方に金髪青年エルフの姿。
 意味もなくさらりと前髪をかきあげるその様は――間違いない。
「ロゼリア、待ち人のお越しですのよ」
「あ、うん! ね、後でまた来るからこの苗とっといて?」
「はい! お待ちしてます!」
 満面笑顔のセアラに見送られ、美女二人はコードネーム・なんぱエルフへと軽やかに歩きだした。
 春風みたいに柔らかに華やかに二人笑み交わし、春色衣装に風を含ませたロゼリアは、淡桃色の蝶がひらひらと花々渡るように通りを渡る。一足毎にこめかみのスイートピーの香りが甘く鼻先を擽る様に満更嘘でもない笑みを零したフェイランは、件の青年と目が合えば楚々と微笑んで、お淑やかなお辞儀をひとつ。やはり微笑んでみせたロゼリアがはにかむように袖で口許を覆えば、
「やぁ、美しいお嬢さん達。ボクとお茶でもどうだい」
 物の見事に墜ちた。
 清楚なお嬢さん風の二人が巧みになんぱエルフをセアラの店から遠ざけていく様を遠目に見つつ、戯咲歌・ハルネス(c02136)は柔らかな翡翠色の葉をつけたスイートピーの苗達に目元を和ませた。花は勿論のこと、苗達も可愛らしくて、大梟の樹に住む・レムネス(c00744)の頬も思わず緩む。
「折角育ってこの日を迎えたんだもんね」
「それも、愛情をたっぷり受けてね」
 無残なことにはしたくないよねと笑うレムネスに笑み返して、ハルネスは店先の空色スイートピーの花に興味を惹かれた様子の御隠居風エルフにさり気なく話しかけた。沢山愛情込めて育てたものが傷つけられると思えば身につまされる。畑は違えど、同業者たる娘さんの旅立ちを祝福するためなら身体を張ることも厭わない。
「ああ、いい香りですね。甘く鼻を擽っていく感じだ」
「そうじゃのうそうじゃのう。思いっきり吸い込んだら鼻がムズムズしそうじゃのう」
 頷きながら花に顔を寄せようとする御隠居は、その高齢にも関わらずオーバーアクションくしゃみの恐ろしさを知らないらしい。周りへの余波もさることながら、何より恐ろしいのは身体への負担だ。
 特に腰……!
 と、経験者ゆえの強い使命感を握りしめ、ハルネスはオーバーアクションくしゃみの恐ろしさを世に知らしめるべく大きく息を吸い込んだ。
「ふ……、ふぁ、ふぁ――っくしょォォォい!!」
「ひょえっ!?」
「……うっ、こ、腰が……!」
 突如炸裂したオーバーアクションくしゃみに度肝を抜かれた御隠居の眼の前で頽れるハルネス!
 あ、あとはレムネス君に任せ……と力尽きた彼の手がぱたりと落ちれば、
「だ、大丈夫ハルネスさん!? くしゃみで腰をやっちゃったんだね! スゥ、彼の腰を……!!」
『きゅぴー!!』
 真に迫りすぎる熱演に本気で案じる声が出てしまったレムネスの肩から星霊スピカが跳んだ。
 上手く店側を避けて通りに倒れた彼の腰をスピカがなでなでする様にほっと息をつき、レムネスはすかさず御隠居に畳みかける。
「もし店の傍でやってたら腰だけじゃなくスイートピーも危なかったよ! ねっ、おじいさん?」
「ほ、ほんにのう……。くしゃみがこんな恐ろしいもんじゃったとは思わなんだわ」
 溌剌としたレムネスの言葉にカクカクと頷く御隠居。
 迫真の演技+星霊スピカの看護とくれば暢気な御老体にもオーバーアクションくしゃみの恐ろしさが身に沁みたことだろう。恐ろしや恐ろしやと首を振り振り去っていく御隠居の背を見送り、レムネスは春空を切り取ったかのような優しい空色のスイートピーに顔を寄せた。
 春の夢咲けばその香りも思いきり感じたくなってしまう、その気持ちは彼も同じ。
 鼻先擽る甘い香りに心をも擽られながら、ゆっくり大きく吸い込めば、胸いっぱいに春の夢。

●イースターパレード
 華麗も清楚も持ち合わせて咲き零れる純白に、眩く甘やかにたなびく朝焼け雲の彩りを咲かせた杏色、淡く霞みながら澄み渡る春空を映して咲く空色スイートピー。どれもこれも心躍らせるけれど、ひときわ花渫う風・モニカ(c01400)の瞳を惹いたのは、バニラ思わす甘い白の花弁の縁がほんのり薔薇色に染まったスイートピー。
 漸く叶ったセアラの夢も、こんな風に彩り鮮やかに染みていくのはこれからのこと。
 だから是非ともこのフェスタを成功させるんだ、と意気込むモニカの手を取り、客として楽しみながら辺りへ目を配っていた昏錆の・エアハルト(c01911)は、輝くように真白なオウムを肩に乗せた優雅な貴婦人を見つけて足をとめた。
 花は玩具じゃねぇと白オウムのピーちゃんに教えるべく、高貴な御趣味のマダムの気を惹くには!
「……ああ、このスイートピーで縛られてみたい……! とか言えばいいのか?」
「エアさん……! それが高貴なる大人の世界なんだね……!!」
「いや違うから! 俺の趣味の発露じゃなくて演技だから!」
 彼のどえむ試演に思わず固唾を呑んだモニカへ突っ込み魂が炸裂している間に、自然にマダムの傍へ歩み寄った緋の暴君・ユリウス(c00471)が声をかける。
「綺麗な羽のオウムさね。勿論マダムの装いも」
「まあ、ありがとう。貴女の緋色もとても素敵でしてよ」
 淑女らしさを保ちながら微笑み返した彼女と打ち解けて、餌を与えて良いか訊ねた上でユリウスが取り出したのは――秘密兵器・ひまわりの種。
 大喜びで身を乗り出したピーちゃんに種を渡しつつ、
「フェスタは楽しいね」
『ピー! 楽シイネ、楽シイネ!』
 繰り返し語りかければ嬉しげに返る口真似。
 このまま春の夢には高貴すぎる口癖を上書きし、オウムの気を苗から逸らし続けることができれば良いのだが、マダムの買い物中に預かったユリウスの肩でもピーちゃんは、風にくるくるふわふわと揺れるスイートピーの蔓を見れば釣られるように頭を揺らす。
 その姿だけ見れば可愛いけれど油断は禁物、と念のためモニカもマダムに声をかけた。
「あの子、スイートピーにそわそわしているみたいだから、気をつけてあげた方が良いかもです」
 うちの子も、と見せられればなお良かったが、いつも一緒の番い鳥はお留守番。
 平和なお出掛けだと信じているマダムはともかく、この後戦いになると識っているモニカ自身が鳥を連れてくるのは気が引けた。自分達にとっては雑魚相手の戦いとはいえ、星霊やスピリットではない普通の鳥が万一巻き込まれれば怪我ではすまない。
 あらほんと、と貴婦人が顔をあげれば、御主人様の用事終わった! とばかりに鳥が飛んできた。早速マダムが買ったばかりの苗に嘴が伸びる――が、そこへ咄嗟に割り込むエアハルトの手。
「おっと、啄ばむなら……是非俺を」
 手を啄ばまれつつ熱っぽい眼差しで訴えれば、まあ、と声を洩らしたマダムの瞳に獲物を見つけた肉食獣の光が宿った。気がした。
「スイートピーはダメよ、この方と遊んでおあげなさいな、ピーちゃん」
『サア、イッパイ楽シンデチョウダイ!』
 上書きまでは行かずともいい感じに改変された台詞を声高に叫び、ピーちゃんが躍りかかる……!
 危ないところだったわ、ありがとう、と優雅にモニカへ礼を述べ、マダムは尊い犠牲となってセアラの視界からピーちゃんを引き離していくエアハルトを追っていく。
「エムハルトさんの大活躍はこれからさね」
「えむはると先生頑張って! 超頑張って……!!」
 ひっそり声援を送ったユリウスとアンジュが対盗賊団のために移動しようとした――その時。
「ボハ! ボハ!! ボハハハハハ!!!」
 非常に特徴的な哄笑がフェスタの会場に響き渡った。

●スイートルージュ
 優しげな頬笑みがひきつりそうになるのを耐えながら、フェイランは肩を抱こうとするなんぱエルフの手を努めてさりげない仕草でふわりひらりとかわす。
 幼馴染という超身近にナンパ師がいたためそのあしらいは慣れたもの、だが流石に堪忍袋の緒が切れかけたその時、大変わかりやすいダミ声が轟いた。
「ボハハハハ! 泣く子も黙る荒くれ者集団、ボハーム盗賊団様のお越しだぜェ!!」
「フェイラン! 次の彼が来たわよ!」
「ええ!」
 瞬時に身を翻したロゼリアに頷き、フェイランは輝くような笑顔をなんぱエルフに向ける。
「ごめんなさいね、貴方よりもっと素敵な人を見つけちゃった♪ バイバイ♪」
「そんな! ボクよりあの『ボハハハハ!』がいいなんて……!!」
 物凄く誤解された気がするが、青年が半日は再起不能な感じで倒れ伏したのでこれで良し!
 全速力で駆け戻れば、
「てゆーか、うぜぇんだよ!」
「ボヘェッ!?」
 鳥の嘴っぽい生傷一杯のエアハルトが八つ当たり気味にオーラの翼で盗賊をぶった切っていた。
 既に盗賊団の半数以上が倒されている様を見て取り、笑みを咲かせたロゼリアが春空に舞う。
「はぁい♪ こっちは行き止まり、よ!」
「わ、ちょうど良かったよおかえりー!」
 一瞬で彼らを飛び越えた彼女が逃走せんとした二人を叩き伏せ、包囲の穴を埋めればレムネスの星霊ヒュプノスが包囲陣の中を跳ねまわって荒くれ者を眠らせる。
 次いでぽぽーいと放り込まれたのは、
「さあ、マジックマッシュちゃんの出番ですよー」
「ボハハ、ボハ……ボヘボヘぼへっ!」
 思いきり煙を噴出したハルネスのマジックマッシュ。咽せまくる彼らに『フェスタを狙うだなんて許せないのよ!』と凛々しく指を突きつけたフェイランが、
「カオスカデンツァ♪ 歌いまーす♪」
「ホゲェー!?」
 楽しげに即興曲を歌いあげれば花々が咲き乱れ、砕けた大地が哀れな盗賊達を呑み込んでいく。
「ボ、ボハ、こんなはずじゃ……」
「ま、素直にお縄をちょうだいするさね」
「そーゆーこと! 次はお客さんとして楽しみに来てね!」
 配下があっという間に倒されてうろたえる盗賊団の頭、ボハームをきっちり捕らえたのはユリウスが放った銀のワッパー、逆さ吊りされたヒゲ面中年エルフへの仕上げとばかりに揮ったモニカの魔鍵が透きとおる空へ七色の虹を描きだせば、居合わせた人々から拍手と歓声が湧きあがった。

 澄んだ青空に七色の虹が溶け、盗賊団も無事引き渡したなら、後はフェスタの終了を待つばかり。
 振り仰げば空に溶けこみそうな色合いのスイートピーの花が風に揺れ、羊の星霊にそっくりな雲が流れれば、レムネスの胸にいつかの親友の言葉が優しく響く。
 大切に抱えたのは、彼が似合うと言ってくれた――空の青と雲の白が夢咲く花の苗。
「あたいね、スイートピーって球根だと思ってたのさよねぇ」
「宿根スイートピーってのもありますものね。その気持ちわかります」
 豆から芽が出るって知ってびっくりさね、とユリウスが言えば楽しげにセアラも笑う。スイートピーの雑貨が売られていないのは残念だったけれど、花が咲いたら精油採って蜜蝋で練り香水作ろうよ、と暁色の娘に囁かれれば、未来の楽しみにユリウスの心も弾んだ。
 頭を撫でられ擽ったそうに笑った娘は、
「アンジュも腰揉み覚える……!」
 と宣言してぎゅっとハルネスの片腕にくっついたまま。
 熱演しすぎたかと思いながらも、通気性と水はけの良い土を作って、水やりはたっぷりと――なんて育て方を一緒に教われば胸にはもう春の幸せが咲く。
「私ね、君が花を育てたいと思っていたことがとても嬉しいんだよ」
「あのね、アンジュはね」
 貴方が嬉しいって教えてくれるのが嬉しい、と囁き返された言葉に眦を緩めて、二人選びとるのは一緒に飛び立った春に互いの心を映した花の苗。擽るように笑み交わし、囁き落とせば、この上なく幸せな笑みが燈った。
 帰ったら一緒に植えようね。
 庭に咲く金蓮花の傍に――私達の、夢のたまごを。
 優しい彩のフリルを重ねたようにも、今にも羽ばたきそうな蝶のようにも見えるスイートピーの花。細工師としてはその造形に興味は尽きず、間近で眺めれば思わぬ芳香に瞬きをする。
 花の意匠はよく細工するけど、そーいや実物は詳しくねぇやとエアハルトが思えば、
「エアさんも苗を買わない?」
 見計らったようにモニカが顔を覗きこんだ。
「苗から育てられっかな……」
「天下のアドバイザーが付いてるから大丈夫!」
 大切に育てた苗が花咲かせればそれはもう飛びきりの愛しさ。思案顔の細工師に弾む鈴みたいに笑って花売り娘が請け合えば、眩しげに瞳を細めた彼が呟きひとつ。
「……お前を思わす空色もいいけど、モニカが『好き』な色の花が咲く苗が欲しい」
「――任せて!」
 極上の笑みを咲かせた娘はセアラと一緒に元気な苗を選びだし、ね、と彼女にも微笑みかけた。
 春にはきっと、咲いた夢の色を報告に来るから。
「貴方が愛情を込めた苗を頂くね」
「ああ、大切に育てるって約束するぜ」
「はい……!」
 朝の光を透かす淡桃色に甘酸っぱい幸せ踊るチェリーピンク、心をふんわりと癒す淡いラベンダー。
 取り置きしてもらった苗は家で育てているスイートピーと同じ花色の苗だけど、これはまた別の処で育てる分。今も自分が育てている最中だから、苗達を抱いたなら、それらが陽の恵みに土の恵み、空気の温度と水の量と、どれだけ心配られ愛情を注がれたか、ロゼリアには手に取るように解る。
「愛し子を譲ってね? 大切に育てるから」
「よろしくお願いします……!」
 心がささくれるようなことなど何ひとつなくて、スイートピーを愛するひとびとの幸せな笑顔に間近で触れて幸せな気持ちでフェスタを終えられたなら、セアラが棘を受け入れる理由も何ひとつない。
 拒絶された棘が表面化したならあっさりそれは終焉を砕く者達に滅ぼされて霧散して、春の夢咲く花の香抱いた風がふうわり吹き抜けたなら、春が萌し始めた青い空へと消えた。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2014/03/05
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