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竜を狩る

<オープニング>

●竜を狩る
 戦神海峡アクスヘイムが崩壊した日、蒼穹の竜は遥かな天空へと至った。
 ――もちろん本物の竜の話ではなく、本当に天空へと飛翔したわけでもない。
 蒼穹の竜というのはアクスヘイムのとある山地に存在する名瀑、つまり滝の名前だ。
 高く切り立つ断崖の頂から麓まで一気に落ちる大きな落差が見事な滝で、その姿が天に昇る白龍と見えること、そして、荘厳な姿と落水の激しさから『いつかこの竜は星霊建築の天蓋をも突き抜け、都市国家の外に広がる本当の天空へと昇るのだ』――といった言い伝えが生まれたことから、その滝は『蒼穹の竜』の名を得た。
「けどまさか、こんな意外な形で言い伝えが成就することになるなんてね」
 知らず零れた青年の言葉は山地の朝の凛と冷えた大気に白く霞んで弾む。
 けれど氷を撫でてきたような朝風に混じる水の匂いは、冷たくも透明な華やぎを孕んでいた。
 透きとおる清冽さに心浮き立つ何かをほんのり孕んだ早春の風を楽しみながら向かうのは、幾らか山に分け入ったところに落ちる蒼穹の竜のもと。既に天に昇る白龍と称される滝の姿は見えている。遠目にも荘厳な竜の上を振り仰げば、遥か彼方に透きとおるような淡青広がる本物の空が見えた。
 そう。都市の上層が崩落したことで、その合間から空が見えるようになったのだ。
 悪いことばかりじゃないな、と青年は口許を綻ばせた。
 上層からの瓦礫の撤去やそれによって倒壊した村の家屋の再建に冬の間かかりきりになったが、それもようやく終わりが見えてきた。冬には幾分水量が減る蒼穹の竜も勢いを取り戻しつつある。
 激しい落水、爆ぜる水飛沫と水煙。
 断崖の頂から落ちた水は深い滝壺から溢れだし、断崖の麓一帯に薄い水盤を張る。
 ああ、その水盤に立ち、天に昇る白龍のすぐ傍で空を仰ぎ見れば――どんな心地がするのだろう。
 滝の水音が大きくなるにつれ彼の胸も大きく高鳴っていく。
 だが、滝の音に混じって聴こえてきた声に青年は足をとめた。一人二人ではなく、誰かが大勢いるようだが、こんな場所に朝から用がある人間がそんなにたくさんいるとは思えない。
 岩陰からそっと様子を窺おうとした瞬間、彼の瞳に映ったのは、天に昇る白龍のごとき滝に沿って昇る――鋼の竜だった。
 数多きらめく刃で形作られた鋼鉄竜が咆哮する。
 思わず後ずされば、その足音か、それとも別の何かを察知されてか、吼えるような声が届いた。
『ココハ我ラガ竜トナルタメノ修行場ニサセテモラウ!』
『邪魔ヲスルナ! 人間!!』
 蒼穹の竜のもとに集っていたのは、黒き獣毛で全身を覆った狼のバルバ――ヴォルフルの群れ。

●さきぶれ
 高い断崖の頂から一気に落水する様が天に昇る白龍に見えるという滝、蒼穹の竜。
 荘厳なその姿がヴォルフル達にも竜と見えたのか、或いは何処かで言い伝えを聞きつけたのか。
「前者だったら浪漫だなぁってアンジュは思うんだけどね、どっちにせよ問題は、すっかり蒼穹の竜を気に入った彼らが辺りに近づく人間のことごとくを排除しようとするってとこ」
 青年がヴォルフルの群れに襲われるエンディングを語った七花の狩猟者・アンジュ(cn0037)はそう続け、硝子杯の冷水で軽く喉を潤した。
 元々はヴォルフル達も山地のもっと奥深いところに住んでいたのだが、崩壊の影響で住処を変える羽目になったらしい。ナイフを操るかなりの力量を持った二体をリーダーとする群れの総数は二十。魔獣戦士や群竜士の力を持つ彼らは竜に関連するアビリティを好み、日々『竜となるために』と称して鍛錬に励んでいるのだとか。
 そう聞くと竜になる秘術か何かを持っているかのようだが、
「あ、それはないない。単に『修行してればいつかなれる』って思い込んじゃってるだけみたい」
 暁色の娘はぱたぱた手を振ってきっかりばっちり否定した。
 知性が高いとは言えない存在だ。そういうこともあるのだろう。だが日々鍛錬に励んでいることから判るように、彼らの性根は意外にまっすぐだ。
 思い込みが強い辺りは難だが、マスカレイドでないのは救い。彼らを滝や人里から離れたところへ移動させることができるなら、命まで奪う必要はないだろう。
「んでもね、ただ単に戦って追っ払うだけだとまた戻ってきちゃう気がするんだよ」
 だからね、と暁色の娘は金の瞳を楽しげにきらめかせた。
「この『蒼穹の竜』の力はもうとっくにアンジュ達のもの――って見せつけに行こうよ!」

 蒼穹の竜の力は既に自分達のものだから、ヴォルフル達がいくらここで修行しても意味がない、と知らしめることができれば、彼らも別天地を求めることだろう。ちなみに『そもそも何処で修行したって竜にはなれないんじゃね?』と言っても思い込みの強い彼らは信じない。
 ならばどうするかと言うと!
「これが我らが得た蒼穹の竜の力だ! とか何とか言って、竜とかドラゴンちっくなアビリティで彼らを叩きのめすんだよ!!」
 竜やドラゴンにまつわるアビリティならもちろんそのままで。
 それ以外のアビリティなら、如何にもそれらしいハッタリをかませばいい。
「アンジュはね『天翔ける竜の力!』とか『偉大なる竜の息吹!』とか言うつもり!」
 飛翔演舞とアスペンウインドのことだろう。
「ナイフを操るリーダー達はかなり強いみたいだし、他のヴォルフル達の力量はそれほどじゃないって言っても数が多いのが厄介だけど……皆で全力で挑めば勝てない相手じゃないと思う」
 全力全開の『蒼穹の竜の力』で群れすべてを倒せば、ヴォルフル達も蒼穹の竜は人間のものだと納得し、別天地を求めて去っていくだろう。
 日中は彼らも狩りで山中に散るし、夜間は思い思いの場所で眠るようだとなれば、仕掛けるべきは彼らが蒼穹の竜のもとに揃って鍛錬に励む朝だ。
 幸い、現場に向かえるのはエンディングの前日。青年も他の人間も訪れることはないから、存分にヴォルフル達と戦うことができる。
 決して油断はできない相手だが――。
「んでもね、荘厳な滝のもとで、薄く水盤みたいに水が張った場所で朝に戦うのって、何かねすごくね爽快な気がするんだよ」
 力いっぱい戦ってこようね、と続いたアンジュの声が弾む。
「あのね、思いきり爽快感を味わえたらね、また逢おうね」
 語り合うたびにきっと、胸に早春の朝の清しさが甦ると思うから。


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参加者
牙靂の・ジェイ(c00883)
翠狼・ネモ(c01893)
宵柩の狼・アルデュイノ(c04693)
蜻蛉・セイイチロウ(c08752)
榛洛・イーツァ(c19102)
傀儡女・ニッタ(c19103)
紅蓮の如く・オータム(c34500)

NPC:七花の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●竜を踊る
 明るい萌黄色の新芽に煌く水滴は朝露ばかりではない。
 凛と冷えた朝の山へ分け入って、辿りついたのは高く切り立つ断崖の頂から麓まで一気に落ちる大きな滝のもと。激しい落水、滝壺に爆ぜる水飛沫と水煙。清冽な朝の風が飛沫を吹きあげる様を追って見上げれば、天に昇る白龍の如き滝の偉容が瞳に映った。
 滝壺から溢れ辺り一帯に薄く広がる水盤に、蜻蛉・セイイチロウ(c08752)の雪駄が臆することなく波紋を生む。己が強者だと自惚れたりはしないが、何事もハッタリは大事だねと自信に満ちた笑みで宵柩の狼・アルデュイノ(c04693)が足を踏み入れたなら、とっくに此方の接近を察知していただろう狼の獣人ヴォルフル達も、その堂々たる様子に気圧された。
『ム……』
『ナ、何ダ……?』
 道場破りの体だろうかと彼が呟けば、傀儡女・ニッタ(c19103)は七花の狩猟者・アンジュ(cn0037)と悪戯な眼差し交わし、滝音に負けぬよう声を張る。
「たのもーう!」
『何ダ人間! ココハ我ラノ修行場――』
「いえ、この蒼穹の竜の力は僕等が預りました。あなた方は他所を探されるがよろしいでしょう!」
『何ダト!?』
「もう全部俺達のもんだからな! 竜になろうってんなら、俺達を倒してみやがれ!!」
『――望ムトコロダ!!』
 朗と響いたセイイチロウの声で一気に張りつめた空気が紅蓮の如く・オータム(c34500)の言葉で鮮やかに爆ぜる。切って落とされたのは竜に成らんとする二十の狼達との戦いの幕、蒼穹の竜の銘抱く瀑布の飛沫を浴びて、紅髪の拳士は快哉の如き声を響かせ地を蹴った。
「竜を纏いし拳士、オータム・スカイ……参る!!」
 今まで幾度となく上げてきたこの名乗り。それがこれほど相応しい舞台もそうあるまい。
 だが意気軒昂はあちらも同じ。瀑布が爆ぜるのに負けぬ勢いで襲いかかってくるは拳に竜込めた狼達、その後方からは火竜の息吹が迸り、爆ぜる水飛沫を更に煌かす。天に昇る白龍の如き滝から散るそれは、さながら竜の銀鱗か。
「成程確かに格別な道場じゃねェの、いざ尋常に勝負……ってか!」
 琥珀の双眸を愉しげに細めた牙靂の・ジェイ(c00883)が握るは雄鷲の銃把、普段の狩りなら騙し打ちが常道だが正面切っての喧嘩も嫌いじゃない。勢いなら負けねェぜと放つは輝く魔力弾の雨霰、大きく膨れ上がった弾幕が狼の拳士達を押しとどめたなら、
「突っ切れ、ネモ!!」
「これが此の地で得た天翔る竜の力……竜の翼じゃ!」
 光の翼を現した翠狼・ネモ(c01893)が後方の狼達の許へ一気に斬り込んだ。
 輝ける翠翼が水鏡に映る空を滑ったかと思えば、火竜の息吹を揮うヴォルフルの漆黒の毛並みが四重に斬り裂かれ、鮮やかな紅をしぶかせた獣人が力尽きる。
『面白イ!』
『ヤルナ、人間!!』
 けれど無論彼らも怯まない。派手に散った同胞の鮮血に勢いづいたように吼えた獣の手でナイフが躍った刹那、滝音をも呑む咆哮轟かす鋼鉄の竜が瀑布の勢いで天からネモへ襲いかかり、魔獣の力持つ狼達が迸らせた焔が水鏡の世界を翔ける。
 凄まじい力で身も心も抉る鋼鉄竜、威力はかなり劣るものの数を力と為す火竜の息吹。だが、
「見よ、森羅に宿る竜の生命力!」
 鉄竜の攻撃と焔の熱気で立ち込めた水煙をセイイチロウの扇がふわりと薙げば、まるで扇の星に誘われたかのように朝の世界へ射しこめた月光が花鳥風月の癒しを描きだす。
「まだまだ披露しちゃうよ蒼穹の竜の力! だよね!?」
「勿論! さあ、蒼穹の竜の力――とくとご覧あれ!!」
 旋風となって魔獣の狼の許へと馳せるアンジュの追い風を得て、榛洛・イーツァ(c19102)が揮うはほのかに潮香る棍、潮風吹くように敵陣へ飛び込み蒼穹の竜の息吹の如く薙ぎ払えば、一気に足を払われた魔獣の狼三体が大きく体勢を崩す。水盤から飛沫が跳ねたのと同時にオータムが放つは紅蓮の猛虎、
「竜虎戟砲! 竜は虎の気をも統べるってなあ!!」
『何ト、虎マデ!?』
 吼え猛る虎が魔獣の狼の喉元に喰らいつけば、その口から迸らんとした火焔が一気に萎んだ。
 思いがけぬ竜の力に群れを統べるヴォルフルが目を瞠る様に笑みを深め、アルデュイノが迸らせるのは火砕流をも思わす火竜の息吹。獣を呑んだ灼熱の焔がナイフ持つ腕を制約で縛れば、
「これでまだ納得できぬなら――まだ幾らでも竜の力はあるがね」
「そうですとも、私も修行してドラゴンになるんだからねっ! この力は渡すものですか!!」
 竜閃光波!! と声を響かせたニッタが髪の飾り櫛に被せたヴェールを風に踊らせ、同じ風に頁を舞わせた魔道書から紫の輝きを解き放つ。
『イヤ、竜ニナルノハ我ラダ……!』
『ソウダトモ!』
 自制を奪われた獣が放った気咬弾が喰らいついたのはジェイの肩、だが暴走した長の攻撃に併せ狼の拳士が繰りだす正拳突きが襲いくる。それでも退かず不敵な笑みを覗かせ、けれど脳裏で彼はぐるぐる思考をめぐらせた。
 竜の技、竜の技――こうなりゃ自棄だ!
「竜望む獣を迎えるは、穿ち貫く銀鱗の洗礼! ……だ!!」
 光の雫めいて降る飛沫ごと撃ち込む勢いで連射した無数の弾丸が、狼の拳士二体を打ち倒した。

●竜を狩る
 澄んだ青空映す水鏡に数体が倒れてもなお数では狼達が勝る。
 水鏡の空に朝焼け燈すよう迸った狼の焔をアルデュイノが躱せば、夜の名残の如く翻った漆黒の外套の懐へ狼の拳士が飛び込んできた。意識を研ぎ澄ませて打ち込まれた拳は避けようがない。
 けれど心の臓へ叩き込まれた衝撃とともに伝わって来た、唯ひたすらに竜を目指す狼のまっすぐな向上心に、男は小さく笑みを洩らす。
 この鍛錬への情熱は見習うべきか、と呟き落として吹きだすのは敵陣の奥深くまで届く焔の奔流。
「ドラゴンブレスで息切れなど、年のせいにするには些か早いだろうしな……」
「そうです、まだまだ働き盛り――いやさ、戦い盛りですよ!」
 一瞬遠い目になった男を激励したセイイチロウが彼の火焔に重ねて招くは轟く雷鳴、
「来たれ雷鳴、怒れる竜の咆哮ー!」
『ヌオオ!?』
 水鏡を割らんばかりの勢いで迅雷が撃つのは狼達の長、気咬弾で自浄叶う彼らに絶えず制約や暴走を強いて、竜気の循環と臥竜の覚醒や力の拡がりを阻むのが皆の策だ。
 だが長達を抑えている間に倒すと定めた狼の拳士達を相手取るのがジェイ一人では、拳士数体を倒したとは言え少々手に余る。銀鱗の弾幕を掻い潜ってきた拳士達の拳や肘が打ち込まれたなら、銃撃の手を休めず声を張った。
「援護頼まァ!」
「はーい! 偉大なる竜の息吹が行くよ! 行くよ!」
「任せろ! ――我が体に宿りし『竜』よ、咢となりて噛み砕けっ!!」
 暁色の娘がジェイへ贈った癒しの風と入れ違うように迸った輝きは、それまで主に魔獣の狼達への制約を狙っていたオータムが放つ気咬弾、狼の拳士の両肩を喰い破った竜気が目も眩まんばかりの光と爆ぜれば、遮光眼鏡の奥で琥珀の双眸が標的を見定めた。
「志の高さは認めとくぜ。竜になれた暁にゃ改めて狩りに行かせてもらうから、頑張ってくんな」
 瀑布から爆ぜる水飛沫を押し返す勢いでジェイが放つは鮮烈に輝き拡がる魔力弾、光の驟雨めく弾丸に蜂の巣にされ、三体の狼が水盤に倒れた。
 戦う力を失った狼達を跳び越し、銀髪の狩猟者が駆る金の竜がいまだ戦意漲る獣を踏みつける。
「この身は爪も牙もない只のニンゲン、だが俺の竜が宿るのは――天の彼方を目指す、この魂だ!」
 援け手の男が轟かせた言葉がネモの口許に笑みを生む。
 ならば蒼穹目指す竜が己に宿るのは、この脚だ。
「これこそがわしの真なる竜の力、唯ひとつ誇る翼じゃ!」
 水鏡の空も肌も焦がす炎を蹴り払い、天地の空の間を翔けるは風と地の組紐躍らす空駆けの靴。心凪がせる呼気ひとつ、蹴りの連打で狼を打ち倒し、森色の双眸で狼達を見渡し嘯いてみせる。
「彼方を目指せ――人の脚の届かん秘境に竜は睡ると聞く」
「人里離れた場所ならば、いまだ誰の手も触れぬ竜に会えるかも知れませんよ!」
 思わず緩みかけた表情をもっともらしく引きしめて、朗と続けたセイイチロウが舞わせた扇が招いた雷鳴と破邪の雷電が、水飛沫も水煙も眩く発光させて群れの長を貫いた。
『ダガ、コレホドノ竜ノ力、諦メキレヌ……!』
「でも私達だって譲りませんからね! 出でよ、ドラゴンポイズンブレス!!」
 露草色に蜜を溶かした瞳に挑むような光煌かせ、芝居がかった仕草でニッタが掲げた魔道書から溢れるのは鮮やかすぎるほどの緑に染まった毒煙。
 だが、まともに浴びた一体が頽れるも、その奥から竜気を練り上げた弾丸が飛び込んでくる。
 狙い乱れたそれはあらぬ処で弾けたが、眩い光に目を眩まされた――瞬間。
『我ガ竜ヲ、喰ラエ!!』
 好機を得た狼が生み出した鋼鉄竜が無数の刃の怒涛となってニッタを呑み込んだ。
「姉さん!!」
 それこそ刃の瀑布の如き猛攻、自分より経験の浅い姉が耐えきれる威力でないことはイーツァの眼には明らかだった。
 けれど。
「――これしきで、ドラゴンを諦めたりなんかしないんだからねっ!!」
 満身創痍ながらも夢見る心で凌駕したニッタの声が、何より強く滝の麓に響き渡る。
「わ、我は請わん、慈雨なる竜の蒼き涙――」
「さあ、ドラゴンダンスが幸せ運ぶよ!」
 技のハッタリに苦悩しつつも即座にジェイが撃ち込んだ治癒の弾丸、水鏡に風竜舞うような銀目の踊り子の巫女舞で一気に癒されて、再び水鏡の空に立ったニッタが魔道書でびしりと狼を指す。
「私のドラゴンの力も見せつけてやるのですよ! 竜閃光波……!!」
「やっぱり姉さんの気持ちは本物だね、俺も見せるよ、竜爪旋風!!」
 おっとり屋なくせにドラゴンに関してだけは譲らないあまりの姉らしさに破顔して、イーツァは水面を波立たせて翔ける紫の光に併せて宙に舞う。力ではまだまだ上には上がいると識っているけど、この想いの強さだけは譲れない。
 盛大に炸裂した輝きと回し蹴りに勢いづけられたように笑って、竜を求める想いは負けず劣らずな青年が旋棍で朝風と水煙を薙ぐ。途端に狼達へ襲いかかったのは紅蓮の虎、その咆哮が魔獣の狼全てに制約を刻みつけたなら、オータムは不敵な眼差しでヴォルフル達を見据えた。
「お前らは竜になろうとしてるが、俺は竜を超えようとしてる」
 ならば、負けるはずがない――!

●竜を昇る
 幾多の鮮血が水鏡に流れるが、滝の激しい落水とそこから爆ぜて溢れる水が血の紅もその臭いも清冽に洗い流していく。冷たく爽快な朝風と吹きあがる水飛沫の彼方に覗くは都市崩壊がなければこの地の竜が届くはずもなかった――遥かな蒼穹。
 空と水の息吹を胸に満たせば無限の力が湧くかのよう、解き放たれる思いで翔けたネモの翠翼が光の軌跡を描きだせば、口の端擡げたジェイが己が銃口を輝く軌跡へ重ね合わせた。
「そらよ、蒼穹の竜がお怒りだ、紫炎の吐息に跪け!!」
 遮るものなく透きとおる空へと弾ける水の煌き、朝風の匂い。何より清らな雪解け水で胸洗われる心地で放つは紫輝く光の瀑布、猛る竜の如くうねった魔力の奔流が狼の拳士を残らず叩きのめす。
 ……あァ、なんか悪くねェかも。
 吹っ切れたらしい彼の様子に含み笑いを洩らしつつも、水煙を突き破って襲い来た鋼鉄竜が小竜を生み出せば、アルデュイノは己が脇腹を喰い破られるのにも構わず水鏡を蹴った。
「生憎牙の持ち合わせはないが――竜の鋭き爪を、その身でとくと味わえ!!」
 水面へと叩きつけた獣を、小さな鉄竜を粉砕しながら滅多刺しにするのは漆黒の爪。闇色の軌跡が閃くたびアルデュイノ自身の傷からも血が溢れるが、
「『竜』の息吹よ、俺達に力をくれ!!」
 棍を手にしたオータムが澄んだ空をも思わす光を溢れさせれば、見る間に彼の傷は癒えていく。
 いまだ水盤に立ち続ける魔獣の狼全てに制約を刻み、狼の拳士全てを倒したなら、次に倒すべきは狼達の長二体。
「頼んだよ! 姉さん、みんな!!」
「お任せあれ、なのですよ!!」
 潮の香靡かせ水煙を縦横に薙ぐ棍撃で引き続き魔獣の狼を抑えるイーツァの声に頷き、まっすぐな眼差しで標的を捉えたニッタが再び緑の毒煙を解き放つ。
 瞳を射るような鮮緑の彼方から鋼色煌く竜が躍りかかってくればジェイの銃からは迎え撃つように紫の奔流が迸り、闇雲に疾駆した鋼鉄竜の咆哮がセイイチロウの意識を捕らえんとすれば、
「スカイ――空駆ける竜は、捕まりませんっ!」
 天地の空の狭間に舞った男が狼の胸をしたたかに蹴りつけた。
 誰かと共闘するのは久方振りのこと、けれど揺るがぬ信を抱ける者達と肩を並べれば、空白の時も感じさせぬ呼吸がネモに更なる高揚と笑みを呼ぶ。
 昇る高揚のまま、吹きあがる水飛沫をも足がかりに跳躍し、蒼穹背負って落とすは鮮烈な蹴り。
「往くぞ、鉄をも斬り裂く竜の顎じゃ」
 翠翼でなく黒橡色の靴先で光の軌跡を描きだし、ネモは鋼の竜操る狼を水鏡の空へ叩き伏せた。
 御見事、と血滴色の瞳を細めたアルデュイノが迸らせた火焔が残る狼達を呑めば、群れの長よりも力劣る魔獣の狼達が先に力尽きる。だが、よろけそうになる脚で踏ん張り唯ひとり立ち続ける狼は、それでも退かず己が竜を解き放った。
「やるじゃねえか、そうこなくっちゃよぉ!」
 刃の尾をその身に受けたオータムが反撃とばかりに放つのは紅に輝く猛虎、鋼の竜を突き破った虎が組み伏せた狼めがけ、闘気を収束させたイーツァの棍が繰りだされる。
「見せてあげるよ、蒼穹の――ウォータードラゴンを!!」
 天へ舞う水飛沫、空映す水鏡、数多の水を巻き込むよう螺旋を描く棍の一撃が、最後の狼の戦意を激しい瀑布の如く叩き落とした。
 派手に爆ぜた水飛沫が、やがて柔らかな波紋へと変わっていく。

「良い闘いだった。ここじゃないどこかで、またやろうぜ!」
「いつか竜になったら背中に乗せてくださいねー!」
 水鏡に伸びた狼達へオータムが屈託ない笑みを向け、ヴォルフルさま達の修行法をお聴きしたく! と抜かりなくニッタがメモ帳を取りだせば、狼が目を瞬かせた。
『我ラヲ殺サナイ、ノカ?』
「うん。この蒼穹の竜の力は渡せないけど、命までは奪わない」
 姉の様子に微笑しつつイーツァが頷き、水鏡の空に膝をついたネモがひそりと続ける。
「この竜の力には秘密がある……弱き者の命を奪えば、諸共に喪われるというのがそれでな」
 故にわしらはおぬし達の命までは奪わんのじゃと囁けば、獣の口からオオ、と感嘆が零れた。
「これで此処の看板はアンジュ達のものだよね!」
「……看板、あンのか」
「ええ。そら、これが竜の看板ですよ」
 嬉しげに振り返った娘の言葉にジェイがぽつりと呟けば、ぱちりと閉じた扇でセイイチロウが足許を指し示す。
 戦いの余韻もすっかり消えた水鏡に映るのは――朝の光に乳白の水煙の翼を広げ、水煙に数多生まれる淡い七色纏う、何時か出逢った虹色竜を思わす姿。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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いまいち
参加者:7人
作成日:2014/03/21
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